2025年01月12日
【焦点】最高裁と巨大法律事務所 癒着の構図 原発事故であらわに 司法の信頼、地に落ちる 後藤秀典氏オンライン講演=橋詰雅博
2024年度JCJ賞受賞『東京電力の変節』(旬報社)は、国、最高裁裁判官、東京電力、巨大法律事務所が深くつながっていることを浮かび上がらせた。持ちつ持たれつの構図から2年前の6月17日、福島原発事故で国を免責する異様≠ネ最高裁判決となって表面化したというのだ。原発事故裁判を始めさまざまな住民訴訟を通じて司法不信の声は増えている。司法の独立の危機と訴える法律家も少なくない。本書の著者のジャーナリスト・後藤秀典氏は11月30日、癒着構造の詳細などをJCJオンライン講演で語った。
国とも太いパイプ
国、東京電力、巨大法律事務所の癒着の一例を挙げよう。環境省の外局、原子力規制庁職員時代の前田后穂弁護士は、複数の福島原発事故関連訴訟の国側の代理人を務めた。2021年6月に退庁した後、弁護士572人抱えるTMI総合法律事務所に所属。事務所は控訴審から東電側の主たる代理人として加わった。前田弁護士は福島県浪江町の津島原発控訴審で東電代理人に転じていた。「原発の審査や検査などを行う『監視する側』の原子力規制庁を退職したとたん、『監視される側』の東電の代理人になるのは問題でないか」とした後藤氏は、前田弁護士に23年1月に質問書を出した。前田弁護士に聴取したという事務所からの書面回答は「原子力規制庁及び東京電力の双方から承諾を得ているとのことです。貴殿からのご指摘いただいた問題は生じないと考えられます」。これはむしろ原子力規制庁と東電の結びつきの深さを示していると後藤氏は指摘する。
3人が巨大事務所
最高裁裁判官もTMIと関係が深い。今回罷免率10・5%の第一小法廷の宮川美津子裁判官は同事務所出身。岐阜、愛知の原発自主避難者の人権侵害訴訟を審理する。弁護団は宮川裁判官の回避(裁判官自ら担当を外れる)を求めたが、返事はない。第一、第二、第三小法廷を経た深山卓也裁判官は6月退官後に事務所顧問に就任した。
ほかの裁判官もTMI以外の東電と関係する法律事務所とつながる。第二法廷の草野耕一裁判官の出身は弁護士650人を擁する日本最大規模の西村あさひ法律事務所。判事就任前は事務所の共同経営者で、事務所顧問の元最高裁判事は東電の依頼で最高裁に意見書を提出。しかも事務所弁護士は東電の社外取締役だ。
同じく第二の岡村和美裁判官の出身は、東電株主代表訴訟の東電側代理人の長嶋・大野・常松法律事務所(弁護士532人所属)。第二の裁判長を退官した菅野博之弁護士は顧問を務める。第三法廷の渡邉惠理子裁判官も長嶋・大野・常松法律事務所の共同経営者だった。
人権や正義無関心
最高裁裁判官弁護士枠4人のうち3人も巨大法律事務所出身が占める。
巨大事務所のベテラン弁護士は「3人とも何が正義かということに、あまり見解を持っていない。人権や正義のことに全然関心がない。私も関心持たずにやってきた」と後藤氏に答えた。
後藤氏の調査に対して澤藤統一郎弁護士はこう評価した。
「特定の巨大法律事務所が最高裁裁判官の供給源となり、同時に最高裁裁判官の天下り先ともなっている。こうして形成された最高裁と巨大法律事務所とのパイプを中心に、巨大法律事務所が、裁判所、国、企業の密接な癒着構造を形作っている。司法の独立の危機は、新たな段階にある」
深まる癒着構造は、司法の信頼が地に落ちることになる。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
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