【おすすめ本】日向咲嗣『「黒塗り公文書」の闇を暴く』─公共事業の民間委託に絡む「黒塗りの闇」を剥がす=関口威人(ジャーナリスト)
大いにうなずき、共感しながら読んだ。
起こっているのは、日本のどの自治体でも大なり小なり同じようなことだろう。しかし、それを明るみに出すのに、どれだけの時間と労力がかかるものかと、心寒くなる。
著者が主に取り上げるのは、和歌山市民図書館を運営するため、民間委託を受けた蔦屋書店を巡る不透明な手続きや契約である。
情報公開を求めて出された計画策定時の会議資料一式、コンペの提案書や選定委員会の議事録、開館後の図書館併設カフェの賃料が、募集要項の10分の1に引き下げられた根拠を示す文書などが、当初は9割以上も「黒塗り」だったり、「不存在」とされたりした。
評者の私も愛知県の新体育館建設の不透明な入札に情報公開を駆使して迫ったが、何度も黒塗りに泣かされた。「PFI」「官民連携」の名の下、役所が企業の利益確保や秘密保持を優先し、市民への説明責任をないがしろにする場面に何度も出くわした。
しかも和歌山の「ツタヤ図書館」は、事業自体が民間の駅前再開発(市は駅ビルの一部に図書館を移転する計画)に隠れてしまう。 そのうえ著者は市外在住なので、情報公開のハードルは何重にも高かったはず。それを一つ一つ乗り越え、まさに「黒塗りの闇」をはがしていった執念には、脱帽せざるを得ない。
特筆すべきは、著者がこうした公共事業について「学ぶ会」や「よくする会」といった市民団体と協働したことだ。問題が明るみになっても地元のマスコミは動きが鈍く、当局情報を無批判に記事化する新聞社もあったという。民意が読めなくなったといわれる既存メディアの人間こそ、心して読むべき一冊だ。(朝日新書990円)
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