元タレント中居正広の性加害問題を巡って、東京発行の新聞各紙はフジテレビ批判に終始している。確かにフジの対応は人権意識を欠いていた。だが新聞各紙に思い当たる節はないのか。
1月17日の閉鎖的な記者会見の直後から、企業のCM見送りの動きが加速。フジは23日になって、第三者委員会の設置と会見のやり直しを表明した。27日の再会見は、日付をまたいで10時間超に及んだ。
最初の会見を在京紙各紙は、1面ではなく社会面や総合面で控え目に扱った。社説も「疑問に答える徹底調査を」(毎日)など、比較的穏当なトーンが目立った。
フジが方針転換を明らかにした23日は、中居の芸能界引退表明もあった。二つの動きが重なり、各紙はフジ批判のトーンを強める。
27日はフジの取締役会で会長と社長の退任が決定。やり直し会見を経て翌28日付紙面は、朝日、毎日、読売、産経、東京の5紙はそろって1面トップに据えた。社説では「メディア不信招いた責任重い」(読売)、「解体的出直しが必要だ」(東京)など、言葉を極めたフジ批判が並んだ。マスメディアとして教訓を共有する姿勢は、朝日が「自らを省みる機会にもしたい」と書いた程度だ。
フジ幹部が自らの人権意識の欠如を認めたように、性加害は人権の問題だ。ただし、そのことは「マスメディアの沈黙」が問われた旧ジャニーズ事務所元社長の性加害問題で指摘されていた。
フジが「沈黙」を巡る自己検証番組を放送したのは2023年10月。中居問題に対応していた時期と重なる。反省は口先だけだったと思われても仕方がない。
新聞も他人事ではない。ジャニーズ問題では同じように「沈黙」が問われた。しかし、編集幹部らの責任で内部調査を行い、外部識者も交えて教訓を導き、それらを紙面や自社サイトで公表したのは、わずかに朝日新聞社だけだ。
通信社も含めて他社は「沈黙」をどう総括し、どんな教訓を得たのか。教訓を組織にどう浸透させているのか。それらが何も見えないままだ。今からでも「沈黙」にさかのぼって自らの人権意識を検証し、結果を公表すべきだ。そうでなければ信頼は得られない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
2025年03月05日
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