2025年03月06日

【おすすめ本】藤原 聡『姉と弟 捏造の闇「袴田事件」の58年』─真に裁かれるべきは警察官・検事・裁判官・記者だ=藤森 研(ジャーナリスト)

 「ゆがんだ全能感」─郷原信郎元検事は、相次ぐ検察不祥事の原因を、そう表現した。日本の刑事司法には、そうした人物が、あちこちにいる。
 共同通信の記者である著者は、冤罪「袴田事件」を作り上げた人たちの所業を実名入りで書いた。
 猛暑の中、19日間も否認を続けた末、意識もうろうとなった袴田さんに「自白調書」の指印を強引に押させたのは、松本久次郎警部だ。
 吉村英三検事は、「認めないなら認めるまで2年でも、3年でも勾留」すると迫った。典型的な「人質司法」である。
 判決で捏造と認定された「5点の衣類」については、さすがに実行行為者の名はない。今も誰かが隠している。

 最初の一審判決は、捜査を強く批判しながらも結論は有罪だった。覆るかと思われた二審は、意外にも、またしても有罪判決。裁判長はリベラル派で著名な横川敏雄判事だった。
 逮捕より1か月余りも前に「従業員『H』浮かぶ」と、特ダネ風に報じ たのは、毎日新聞だ。
 「殺人犯の家族」とされた一家は、息を潜めて生きた。末っ子の巌さんを可愛がっていた母が逝った後、姉ひで子さんが「母親の無念を晴らすため」、弟の支援にその後 の半生を捧げる。

 評者は、大学教員であったとき、学生と一緒にひで子さんに会った。笑顔を絶やさぬ温かみに、多くの学生が彼女を慕った。人柄は支援を広げる核だった。
 再審無罪判決は、みそ漬けの衣類など三つの事柄を「捏造」としたが、 不可解な点は、その三つに止まらない。本書を読んで知るのは、くり小刀を始めバスの遺失物、 焼けた紙幣……、いまだ捏造の闇は深い。(岩波書 店2000円)
              
ane.jpg
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック