2025年03月12日

【映画の鏡】国家に「棄権」を命じられ『TATAMI』スポーツと政治の関係を鋭く問う=伊藤良平

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        2033 Judo production L.L.C. All Rights Reserved  
 柔道の国際大会でイランの選手は優勝を目前に政府からイスラエル選手との対戦を避けるために棄権を命じられる。この映画は実話に基づいた金メダル候補の柔道選手の不屈の戦いを描いた作品で
ある。
 ジョージアで行われている女子世界柔道選手権でイラン代表のレイラは60キロ級のトーナ メント戦に出場して勝ち進んでいく。2回戦に勝利するとイラン政府が、けがを装って棄権しろと柔道チームの監督とレイラ選手に圧力をかけてくる。もしイスラエル選手と対戦して負けることになったらイランのメンツが失われることになるからだ。

 これは2019年8月に日本で行われた世界柔道選手権に出場したイランの男子柔道選手サイード・モラエイに起こった実際の事件を基にしている。この大会でモラエイは敵対するイスラエル選手との試合を棄権するようにと政府に圧力をかけられた。もしこれを拒否すれば国家への反逆となる。勝利をめざして練習を重ねてきた選手にとって試合途中で棄権を余儀なくされることは、いかに国の方針だとはいえどのような心中であろうか、現実にはなかなか切り離されることがないスポーツと政治の問題に焦点をあて問いかける。

 またこの作品はイラン出身監督とイスラエル出身監督による共同演出であることも興味深い。この作品はイランに秘匿で制作されて、参加したイラン出身者は全員亡命したという。モノクロで描かれる迫力ある試合のシーンとその裏側で行われる駆け引きも見どころの一つだ。
 第36回東京国際映画祭で審査委員特別賞と最優秀女優賞を受賞。2月28日より新宿ピカデリーほか全国順次公開
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | 映画の鏡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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