「日本の降伏と原爆投下、ソ連参戦の関係では決定版」―米国の著名な研究者からこう聞いたのが長谷川毅著『暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏』[新版](2023年5月みすず書房)を手にしたきっかけだ。原著は英語。ハーバード大学出版。ロシア語、フランス語、韓国語にも翻訳されている。大戦後80年の今年読むのにふさわしい。
日本占領に向けた米ソ間の駆け引き、米政府内の天皇制容認派と「無条件降伏」強要派の対立、日本の終戦派と本土決戦派の角遂。六百頁を超える大著だが、読み耽った。
原爆が日本降伏の最大の要因とする通説を否定した。原爆投下を正当化する米歴史家から批判されたが、8月6、9日の原爆投下と8日のソ連軍侵攻への天皇・政府首脳の反応を比べれば、日ソ中立条約破棄の衝撃が極めて大きく「国体護持」「皇統維持」のため、共産主義のソ連に占領されるより、ポツダム宣言を受諾して米国の占領に賭けるしかないと決断するに至った過程が無理なく理解できる。
天皇は米軍に打撃を与え有利な終戦条件を得る「一撃和平論」の信奉者だったという。国民を道ずれにした沖縄戦を支えた論理だ。だが本土決戦の前提はソ連の中立。それが突如、崩れ去った。
情報不足で見通しの甘い日本は、対米交渉の仲介をソ連に期待し、日ソ軍協力といった「夢物語」を提案した。ソ連は日本を欺いて時間稼ぎをし、対日開戦準備を急いだ。42
スターリンは原爆で日本がソ連参戦前に降伏するのを心配した。ヤルタ密約の範囲を超え、北海道や東北、東京の分割占領も狙っていた。北方領土の占領完了は9月6日だ。ソ連の野望はトルーマンに阻まれた。原爆投下は米の対日単独占領を確実にするのが主目的だった。52
神がかった国体論やソ連仲介の幻想に惑わされず、早期に終戦していたら数十万人が死なずにすんだろう。
冷酷に国益を追求するプーチン露大統領や異様に対露宥和的なトランプ米大統領を思い浮かべる箇所もあった。
2025年04月14日
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