2025年04月19日

【オピニオン】立ち位置問われるメディア 「政局」より「政策」国民の指針を 報道の使命と役割とは=丸山 重威

「政局報道より政策報道を」―と言われたのはいつごろからだっただろう? 日本の政治報道が、とかく政治家の動きを追うことに終始して、肝心の「政策」を報じないで、結局、問題を永田町・霞ヶ関・国会‥‥の人間模様に落とし込んでしまっている。マスコミの政治報道へのそんな批判だった。
 トランプ大統領が再登場して、改めて「米国第一」を掲げ、自国の覇権のために世界中に無理難題を押しつけている中で、問われているのは「日本国民の生活をどう守るか」に他ならない。深刻に考えている国民に、政治もメディアも国と国民の「指針」を示さなければならない。そんな状況なのに、また「政局」の雲行きだ。私たちはいまメディアに「これでいいのか」と改めて立ち位置を問いかけなければならない。

石破さん、あなたも?
新人8議員に商品券
  
 3月13日、米国がロシアに30日間の停戦を持ちかけ、ウクライナ停戦が実現するかどうかが問われている時期に、朝日、毎日などが「石破首相が今月3日新人議員に対し10万円の商品券を配っていた」と電子版で一斉に報じ大騒ぎになった。ネットによると、朝日は20時24分、毎日は21時03分で、石破首相も23時22分には各社とのインタビューに応じ事実を認めたうえで「違法ではない」と述べたが、一挙に「石破降ろし」がスタートした。
 「政治とカネ」は自民党・安倍派の政治資金パーティ裏金問題に始まり、まだ事件も火種も収束していない中で、首相自身が新たな火種を作った形で、メディアに材料を提供した。
 昨年秋の総選挙で、過半数割れの敗北を喫した自民党政権は、野党第一党の立憲民主党などとのまともな政策論議を避け、維新や国民民主党が主張する所得税課税の「カベ」や高額医療費問題などで政策修正に応じながら両党を取り込み、通常国会を乗り切るはずだった。ところがこの騒ぎだ。もちろんそれは大問題だが、主食のコメまでも含めた物価高が続き、産業界はトランプ関税への対処で、それどころではない。夏の東京都議選や参院選を控え、不安定な情勢が続いている。

交戦国と共同演習
中国へは「挑発」?
    
 7日の参院予算委で共産党の山添拓議員は、海上自衛隊が紛争当事国のウクライナとの「多国間軍事演習」に参加していた事実と、これを防衛省が公表しなかった問題を追及した。
 海上自衛隊は昨年9月、黒海で行われた米国とウクライナが共催した多国間演習「シーブリーズ」に参加。ウクライナ軍などと機雷の水中処分などの訓練をした。自衛隊が紛争当事国ウクライナとの軍事演習に加わること自体、他国から「参戦」と疑われかねない憲法違反行為だが、防衛省はこれを公表せず、中谷防衛相は「艦艇を派遣せず、派遣も少人数にどまったから」と答弁した。
米国が日本に対して、対中国の包囲網へのコミットを求めていることは間違いはないが、3月1日には海自の自衛艦「あきづき」が、2月上旬、単独で台湾海峡を通過していたことも明らかになった。昨年9月、豪州とニュージーランド海軍の艦艇と一緒に通過したのに続く台湾海峡通過で、中国外務省は「日中関係や台湾海峡の平和と安定を乱さないように」と釘を刺した。
 日本は「中国への牽制」のつもりだろうが、中国側から見ればこれは「挑発」ということになる。

国会論戦は「軍拡抜き」
高額医療費は基本抜き

今国会の提出の予算案では、防衛費は8兆7000億円。GDPの1・3%余に達している。岸田内閣が「27年度にはGDP2%」を目指し、に、47兆円の防衛費確保を米国に「約束」した路線のもとでの予算編成だが、国会審議ではほとんどこうした論議は行われていなかった。
 そんな中で、問題になったのが高額医療費問題だ。この制度は、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が決まった上限額を超えた場合、超えた分の差額を支給する制度 だが、年齢などで制限されている。この上限を切り上げ、支給せずに済まそうとする計画が問題になった。しかし、必要な治療を必要な期間受けて、「健康で文化的な生活」を維持するのは国民の権利だし、これを保障していくのが国の責任であり、それが憲法に定める基本的人権のはずだ。
 患者団体の行動などを受けて、石破首相は「見直し」をやめることにしたが、「特殊な一部の人の問題」と思われたのか、大きな論議とはならなかった。だが「生きる権利」は誰でも享受されるべきものだ。必要なのは「制度」を「人権」の面から見直していくことである。

主体性持ち真の国益を
トランプ対応は冷静に

米国大統領に就任したドナルド・トランプの帝国主義的旋風が吹き荒れている。領土・勢力圏拡張、数世紀前の「帝国主義」「植民地主義」を露骨に見せながら、国政を運営、関税を武器に、世界にさまざまな要求を突きつけている。
 2月初め訪米した石破首相は、日本企業の巨額な米国投資を首脳会談で表明した。だが「同盟関係」の進展などを約束した日本にも3月12日から、アルミ、鉄鋼などの追加関税が例外なく適用された。
 日本は武藤容治経産相が3月10日、ラトニック商務長官らと会談したが、日本を適用外とさせることはできなかった。すでに追加関税では、中国、カナダなどが問題をWTO(世界貿易機関)に提訴したが、4月には自動車についても追加関税を予定しており、「関税を使った国際覇権追求」がどうなっていくかはまだ未知数だが、日本は間違いなく対応を迫られる。
 関税を取引のカードとして使いながら、国際世論をも巻き込んでいくトランプの手法に対してやはり重要なのは、日本はあくまで冷静に、そして日本なりに主体的に取り組んでいくことだろう。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年3月25日号
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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