◆出版社倒産1.8倍
2024年度に発生した出版社の倒産は31件、前年度(17件)の約1.8倍となった。15年度以来9年ぶりに30件を上回り、20年度以降20件を下回る低水準が続いていたが、ここにきて増加し始めている。
ペーパレス化や電子書籍の普及、ネット専業メディアの台頭の影響を受け、雑誌の休刊・廃刊が相次ぐなど出版業界の事業環境は悪化の一途を辿っており、小規模事業者を中心に破綻が相次いだ。
紙やインクの価格が高騰し、製造コストが上昇。需要減のなか、わずかな利益で事業を続けている出版社が増えている。実際に出版社23年度の業績をみると、36.2%が「赤字」となり、減益を含めた「業績悪化」は6割を超えた。
◆休刊雑誌は89点
出版科学研究所が発表した24年の休刊雑誌は、ウェブに移行した「GINGER」(幻冬舎)などのファッション誌、さらに「月刊コミックバンチ」(新潮社)などのコミック誌に加え、「OHM」(オーム社)などの老舗専門誌が目立った。総計89点。今年に入っても「鉄道ジャーナル」が4/21発売の6月号で休刊、「じゃらん」(リクルート)が3月号で休刊と続く。
24年の創刊・復刊雑誌は27点。そのうち17点がアシェット・コレクションズ・ジャパンとデアゴスティーニ・ジャパンが刊行する週刊・隔週刊分冊百科が中心。昨年の雑誌総銘柄数は、前年比48点減の2341点。
◆メディアドゥ増収増益
メディアドゥは、25年2月期の連結決算を発表。売上高1019億1400万円(前年比8.4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益13億6300万円(前年は3億1900万円の損失)で増収増益。
新5カ年中期経営計画では、事業概念を「MORE CONTENT FOR MORE PEOPLE!(ひとつでも多くのコンテンツをひとりでも多くの人へ)」と英語化、海外へのコンテンツ提供を強化。
◆「magma books」開業
虎ノ門ヒルズ グラスロック(東京・港区)内に丸善ジュンク堂書店が「magma books」を開業。グラスロックは、地上4階、地下3階立ての施設で計7店舗から成る。
「magma books」は2階85坪、3階185坪で営業。書籍在庫数8万冊。「知的興奮と創造性を提供する」というコンセプトでの新業態書店。2階は「知の森」と称し「本と出会う」ための空間。過去・現在・未来のエリアに分かれ、各テーマに沿った本が並ぶ。
3階は一般書、雑誌、コミック、児童書などオールジャンルをそろえる書籍売り場。「ビジネスとコンピュータ」ジャンルに力を入れる。
そして、書籍売り場に隣接する「magma lounge」は有料コワーキングスペース。ニューロミュージックやOLED照明を採用した空間で、読書や作業に没入できるよう設計。集中できる空間で、新たな知や創造性に結びつけてもらうという。
◆本屋大賞・阿部暁子『カフネ』
一次投票には全国の488書店より書店員652人、二次投票では336書店・書店員441人もが投票。二次投票ではノミネート10作品をすべて読んだ上で、ベスト3を推薦理由とともに投票。その結果、阿部暁子『カフネ』(講談社)が受賞。
本書は一回り年の離れた二人の女性が「家事代行」を通して人々の心を救い、やがて互いにかけがえのない存在になっていく過程を描いた物語。タイトルにもある「カフネ」とは、ポルトガル語で「愛しい人の髪を撫でる仕草。頭を撫でて眠りにつかせる穏やかな動作」のこと。
なお同賞2位は早見和真『アルプス席の母』(小学館)、3位は野アまど『小説』(講談社)。
翻訳小説部門1位にはR・ヤロス『フォ−ス・ウィング 第四騎竜団の戦姫』(早川書房)、発掘部門「超発掘本!」にはクラフト・エヴィング商會『ないもの、あります』(筑摩書房)が選ばれた。
◆神田裕子 新刊巡る問題
一般社団法人・日本自閉症協会は、4月18日、市川宏伸・会長名で神田裕子の『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(三笠書房)について、下記のような見解を表明した。全文を紹介しておきたい。
<4月22日発売の新刊「職場の『困った人』をうまく動かす心理術」(三笠書房)は障害に対する誤解を生み、差別や偏見、分断を助長するものと判断します。このような本を、90年を超える歴史がある三笠書房が発刊されることは誠に残念です。
現在、この本は表紙と帯、および目次をネット上で見ることができますが、それでも差別や偏見を助長すると判断する理由は以下の通りです。
1. ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)の発達障害を一方的に「困った人」として扱っていることは誤解を生みます。
2. 障害名を人のタイプに結び付けているために障害に対する誤解を生むとともに、表現されている特徴を有する人を障害者とする偏見をも生みます。
3. ASDの特徴として「異臭を放ってもおかまいなし」やADHDを「同僚の手柄を平気で横取り」など特異な事例をことさら強調しているため偏見につながります。
4. 結果としてASDやADHDの特性を有する人の尊厳を傷つけます。
大事なことは作者の差別意識の有無ではなく、本が当事者や職場、社会にどう影響するかです。
作者や出版社はそのことをよく考えていただきたい。
精神疾患などデリケートなテーマを扱う際に出版社は監修をいれたり、対象の人たちの受け止めを確かめるなど慎重な姿勢が求められます。
かかる書籍が、自閉スペクトラム症を含む障害のある人たちの人権を侵害するおそれがあることを懸念し、出版社が適切な対応をされることを期待します。
私たちは職場において、ASDやADHDの特性を有する人もそうではない人も分け隔てなく良好な関係ができるよう引き続き努力するものです。
以上>
※なお本書の装画を担当した芦野公平氏が16日、自身のnoteで謝罪した。理由はイラストで人物を「ナマケモノ」「サル」といった動物にたとえて表現したことが、「表象が示す危うさ」を感じつつも制作を進め、結果として「差別を助長する」などの点につき謝罪。
2025年04月22日
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