「トランプ大恐慌」と激震が走る。『週刊文春』4月17日号は「総力取材 GDP5兆円が吹っ飛ぶ」と9ページの特集、『週刊新潮』4月17日号も「大特集11ページ 狂気のトランプ関税で日本はどうなる」の見出しが躍る。
その後、トランプ米大統領が貿易相手国ごとに設定した関税上乗せ分を中国以外、90日間停止すると発表(4月9日)し、肩透かし気味となった。文春によると、米国産に頼る小麦を原材料とするパスタ、うどん、パンに加えて、和牛や豚、鶏なども値上げの可能性があるという。
『週刊新潮』で米国現地の様子を伝えているのは、NY在住ジャーナリストの津山恵子氏だ。「ありとあらゆる商品が買いだめの対象」で、オンラインショップでも洋服を買い占める人が出始めているという。4月1日に実施された米ウィスコンシン州の最高裁判事の選挙ではイーロン・マスク氏がカネをばらまいたにもかかわらず、共和党候補が敗れたそうだ。
米国内の事情を日本のマスメディアは、ほとんど伝えない。文芸誌『群像』(講談社)に掲載された出口真紀子氏(文化心理学)の「マジョリティの脆弱性――マジョリティはなぜマイノリティの差別体験の声を封じるのか」が興味深い。
黒人の少年の学校生活を描いたジェリー・クラフト氏の半自伝的なベストセラー『New Kid』が2023年から24年にかけて米国の3州各1学区の公立学校の図書館で閲覧禁止もしくは閲覧禁止要求を受ける調査対象となった。人種やジェンダー、LGBTQに関する本をめぐり、白人が閲覧禁止を要求し、全米の学校で1万冊以上の書籍に閲覧禁止もしくは禁止要求が出て調査中であるという。
出口氏によると、米国のマジョリティは構造的な差別に無自覚で、自分たちを被害者と感じる心の脆弱性があるという。トランプ政権で今年2月、米軍制服組トップのブラウン統合参謀本部議長が任期半ばで解任されたのも、ジョージ・フロイド氏殺害事件について黒人としてビデオメッセージを流したことが原因だと噂されているという。ほとんど被害妄想というほかない。
「アメリカを反面教師にして、日本人が差別に対して脆弱である現状を変えるべくこれまでと異なる視点の教育に取り組んでいかなくてはならない」と出口氏は警鐘を鳴らす。心が脆弱な権力者の被害者意識が頂点に達するトランプ関税の米国は、やはり落日が近いのである。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
2025年05月05日
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