2025年05月10日
【焦点】対米従属見直す好機 瓦解パクスアメリカーナ トランプ関税で豊田祐基子氏講演=橋詰雅博
米国の同盟国や友好国に関係なく高関税を発動し各国をパニックに陥らせるトランプ米大統領。米国第一主義による自由貿易を放棄し、貿易戦争を拡大させている。ロイター通信日本支局長の豊田祐基子氏は3月8日のJCJオンライン講演でトランプの思考、願望、米国の行く末や日本の課題などを語った。
高関税狙いは3つ
豊田氏は根拠不明の税率で不当なトランプ関税の狙いを3つ挙げた。@米国に赤字をもたらす国に投資及びモノを買わせて貿易収支を改善、Aトランプ1・0のときビジネス界が非常に喜んだ所得税恒久減税の財源にする、B米国に有利でない取り決めを関税で圧力をかけて是正させるすなわちディール(取引)の道具に使う―。
高関税はトランプの考えが色濃く出ている。「オレが勝つか、オマエが勝つか、オレは負けない、勝つことだけを重視しています。関税政策で世界は混乱しているが、相手が悲鳴をあげれば勝ちというゼロサム(物事の白黒をはっきりさせる)思考が根底にある」「米国は例外が通用する特別な国と思っている」。豊田氏はこう指摘した。
「目標は経済をよくすること。自分の支持層の労働者が安くモノを買えるようにする」(豊田氏)のが最優先事項とトランプ大統領は連邦議会で演説した。
だがゼロサム思考などに基づく強気な関税政策実行は裏目に出た。物価上昇、株価の乱高下、景気後退、ドル安、報復関税やGDP(国内総生産)の大幅押し下げ。
そんなことはおり込み済み、根を上げた相手が譲歩案を提示してきたら軌道修正すれば事態は好転し、やがて国民はハッピーになれる。トランプはそんな風に考えているのかもしれない。
ノーベル賞を願望
ウクライナ戦争は停戦・和平向けて進んでいるように見えるが、トランプは実現できるのか。豊田氏はいう。
「和平にはそんなに関心がないが、オレが出張ってきたのだから言うことをきけという姿勢です。ロシアとウクライナのトップをテーブルにつかせ協議させたい。ただし、そのあと和平に導くことができるのか、それを誰が保つかはあまり関心がない。和平への道を開いたという功績によりノーベル平和賞をもらいたいと本気で思っています。民主党のオバマ元大統領が受け取った同じものを欲しがっている」
トランプ2・0では、連邦職員の大量解雇、不法移民の大量送還と拘束、DEI(多様性、公平性、包摂性)制度の撤廃、石油・ガス生産の拡大規制撤廃など内政はガラリと変わった。外交も高関税発動を始めパリ協定とWTO(世界貿易機構)から離脱、対外援助の凍結などを実施した。
豊田氏は米国の行方をこう予測した。
・広がるゼロサム・ゲームの世界
・同盟国や友好国に圧力、ロシアなど専制主義国家に親近感
・保護貿易主義と不確実性の高まりで経済減速
・軍事産業を潤す軍拡の加速
この結果「自ら主導してきたパクスアメリカーナ(米国の覇権による平和の形成)は破壊に向かう」(豊田氏)という。それを見越してかEU(欧州連合)は米国に頼らないNATO(北大西洋条約機構)再編に積極的に取り組み、敵国ロシアと対峙しようとしている。
豊田氏は日本の課題を挙げた。
・見返りを期待し機嫌をとる朝貢外交はどこまで有効か
・台湾統一に踏み込んでも中国とは戦争しないトランプ政権にどう向き合う
・北朝鮮を「核保有国」と認定した場合の対応は
・米国の「核の傘」が破れ依存できなくなったら
日本は対米従属体制を見直す転換点に立っている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
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