北海道の放送局の報道制作現場に新しい風が吹き始めた。
去年秋から北海道の民放5局とN HK合同で、ドキュメンタリーの存在意義を見直し制作力を磨く勉強会が開かれている。名付けて「北海道ドキュメンタリーワークショップ」。放送文化基金の助成250万円を得て動き出したプロジェクトだが、運営は各局の有志で構成される実行委員会が自主的に行なっている。各局が回り持ちで当番となり、9月から今年3月までの間にすでに計4回開催された。週末に各局の面々が当番局に集まり、丸一日、注目の作品を視聴したりゲストの話を聞いたりしながら、制作の勘所を議論する。
参加資格は道内の放送局で働くすべての人たち。社員だけでなくプロダクション所属の人やフリーランスも含む。参加者は、1回70人から90人。記者やディレクターのみならず、編集マンやカメラマン、アナウンサー、非現場系の人たちもいる。関心の高さは実行委員たちの予想以上だという。
ドキュメンタリーをめぐる状況はいまちょっと複雑だ。映画の世界ではここ数年ドキュメンタリー作品への関心が高まってる。
札幌の映画館でも国内外のドキュメンタリー作品を上映する機会が増え、地元放送局制作の作品も話題を呼んだ。その一方で放送局のドキュメンタリー制作の環境は厳しい。視聴率や収益に結びつきにくいため隅に追いやられがち。取材を継続して「長もの」にまとめあげるには相当
に強い意思と孤独に耐える力が必要だ。このままでは放送局のドキュメンタリー文化が先細りになる…そうした危機感を共有する各局のキーパーソンが結集して放送文化基金の助成制度に応募し、採択されたのがこのプロジェクトだ。
過去4回の「ワークショップ」では、斉加尚代さん、森達也さん、山崎エマさんらがゲストとして招かれた。しかし、単なる有名人の講演ではない。そのつど趣向が違うのだが、当番局のドキュメンタリー制作の裏側を披露したり、若手ディレクターが取材・制作したものを上映して合評するといったことも行われ、厳しい作品批評や制作の苦労話が飛び交う。
連帯と切磋琢磨。この新しい体験がどんな果実を産むのか。ワークショップはあと2回開かれ、秋にはJ C J北海道支部の主催で市民向けの報告会を開くことも予定している。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
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