「トランプ関税」に世論の注目が集まっている陰で、日本の3自衛隊を束ねる「統合作戦司令官」発足を受け、日米同盟の下での日米軍事一体化がまた一段進んだ。在日米軍の構想は横田に統合軍司令部を置き、六本木に戦闘司令部の拠点を置く。日本を米国の世界覇権戦略に組み込んだ危険な戦争路線がいよいよ現実化しつつある。そこで懸念されるのは、過去の「統帥権の独立」を思い起こさせる「軍令」の独走だ。沖縄では台湾有事の際、先島諸島から住民らを九州などに避難させる計画まで浮上した。公然たる「戦争準備」が罷り通っている。
「共に戦う」と米長官
自衛隊統合作戦司令部の新設が決定したのは昨年5月、防衛省設置法の改正だった。
3月24日の「統合作戦司令部」発足式典で中谷元・防衛相は「日本を取り巻く安全保障環境も複雑となり、日本に期待される役割も重くなっている。統合作戦司令部の新設は、日本の安全保障上、極めて大きな意義を持つ」と強調した。統合作戦司令部が果たす役割について、中谷防衛相は@各部隊を一元的に指揮し、あらゆる事態に24時間365日即応する、A同盟国、同志国の司令部との運用面での連携と情報共有などがあげられるとしている。
米軍側も日本と連動し、ヘグセス米国防長官が3月29日来日して、中谷防衛相と会談した。31日には在日米軍を「統合軍」に格上げし、港区六本木の赤坂プレスセンターに拠点を置くことが公表された。司令部は横田基地に置かれるとみられ、日米軍事一体化の一層の緊密化がさらに押し進められた。
ヘグセス長官は「在日米軍を戦闘司令部として再編、新司令官に新しい任務と権限を与える」と明言。「自衛隊と米軍が戦闘能力、殺傷力、即応性を向上させながら、緊密に協力していくのが楽しみ。日本は西太平洋でいかなる不測の事態に直面しても、最前線に立ち、互いに支え合いながら共に戦う」とも表明した。こうした日米双方の指揮体制の強化について、柳澤協二元内閣官房副長官補は「圧倒的な情報量を持つ米軍に攻撃対象を割り振られ、政治が熟慮する暇なく武力衝突に巻き込まれる恐れは強まる」(3月24日付東京新聞)と指摘している。
「作戦統制権」と「軍令」
一方、2月5日の衆院予算委省庁別審査で「現職自衛官(制服組)の国会出席桃源を」と求めた橋本幹彦委員(国民民主)発言は波紋を広げた。安住淳委員長は「文民統制」の観点からこれを認めなかったが、同様の主張は三井康有元防衛庁官房長によって「時代に即した文民統制だ」(3月28日付朝日新聞「私の視点」=『自衛官も国会答弁すべきだ』)として展開された。
三井氏は戦前の「軍令」と「軍政」を引き合いに、「旧軍時代はともに天皇直属で内閣も議会も関与が許されなかったがいまは違う」と強調したが、「作戦統制権」(軍令)が「指揮権」(軍政)=を越えて一人歩きして満州事変を引き起こし、その後の戦争も拡大していったことは歴史の事実だ。作戦統制権者が国会で、独自の判断や主張を報告するようになれば、どうなるのか…。問題は決して、小さくない。これも気になる動きだ。
「台湾」想定、避難計画
政府は3月27日、有事の際、沖縄の先島諸島から、住民11万人と観光客1万人の計12万人を避難させ、九州7県と山口の計8県32市町が受け入れ先とする計画をホームページで公表した。
「避難」自体は22年12月の「防衛3文書」の「国家安全保障戦略」で政府がすでに「住民の迅速な避難」を明記しており、その具体化だ。軽計画は「台湾有事」を想定し、船舶や航空機を利用して1日約2万人を輸送、6日間で完了させるという。住民らは民間フェリーや航空機で福岡や鹿児島に移動、それぞれの避難先に向かうこととし、福岡市が2万7千人、北九州市に1万2300人、熊本県は5市町で1万2800人を避難させるとし、期間の中長期かを見据えた就学、就労支援計画も作るという。
避難させられる先島の住民たちも、受け入れる各県自治体も戸惑う状況だが、九州までは500`から1000`。かつての戦争で、学童避難船「対馬丸」が撃沈され、1万5000人もの子供らが犠牲になった記憶もある。
住民を避難させて戦争を遂行する….そんな計画を作ることこそ問題ではないだろうか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
2025年05月16日
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