ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)
◆黒田基樹『羽柴秀吉とその一族─秀吉の出自から秀長の家族まで』角川選書 5/7刊 1840円
「羽柴秀吉とその一族」.jpg 羽柴(豊臣)秀吉といえば歴史上の著名な人物。しかし父母や兄弟、親類の実態は、いまだ謎に包まれたまま。秀吉の父親はどのような職に就いていたのか。弟・秀長の妻子はどのような人物なのか。「秀吉政権」を把握するうえで不可欠な一族・親族の情報を徹底検証。通説が大きく書き改められるいま、秀吉の親族研究の到達点を示す。
著者は駿河台大学教授。著書に『戦国大名 政策・統治・戦争』(平凡社新書)、『百姓から見た戦国大名』(ちくま新書)など。
◆後藤秀典『ルポ 司法崩壊』地平社 5/12刊 1800円
国策に従順な「法の番人」最高裁の<罪と罰>を検証する。国も東京電力も原発事故の責任は問わず。政府に忖度する最高裁を始め、司法全体の劣化が進む。司法の独立が内側から崩れていく現状を報告。
著者は1964年生まれ、ジャーナリスト。著書に『東京電力の変節――最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』(旬報社刊、貧困ジャーナリズム大賞、JCJ賞受賞)。
◆福間莞爾『貶められた司令塔 ─危機に立つ巨大組織農協(JA) 求められる新基軸』社会評論社 5/13刊 2300円
日本の農業は米の高騰・備蓄米の放出など、極めて脆弱な生産体制が露呈している。農協が組織発展に都合のよい信用・共済事業の拡大に重きを置き、生産を軽視してきたツケが回ってきた結果だ。今こそ農協本来の農業振興に全力を挙げるべきである。とくに生産段階にまで踏み込んだ農業経営への取り組みが迫られている。
著者は農業・農協問題評論家。全国農協中央会常務理事や「新世紀JA研究会」常任幹事を歴任。
◆渡邉大輔『ジブリの戦後−国民的スタジオの軌跡と想像力』中央公論新社 5/22刊 2100円
ジブリスタジオが6月に40周年を迎える。宮崎駿・高畑勲両監督、鈴木敏夫や宮崎吾朗などのキーパーソンの活動を追いながら、1980年代に誕生した「ジブリ」運動体のリアルな姿を生き生きと描く。ジブリは「戦後日本」における「大きな物語の完成と解体」を体現してきた。
著者は1982年生まれ。跡見学園女子大学准教授。専門は日本映画史・映像文化論・メディア論。著書に『新映画論』(ゲンロン)、『謎解きはどこにある』(南雲堂)がある。
◆安田菜津紀『遺骨と祈り』産業編集センター 5/22刊 1600円
パレスチナ訪問の2018年2月以来、この6年間に福島、沖縄をはじめ、不条理を強いられながら生きる人々の姿を追ってきた。生の人間と接し自らの行動と思考の変遷を記録しつつ、遺骨収集に取り組む2人の男性の言動を通して、歪んだ現代日本の社会構造を浮き彫りにする。「未来の人の明日をつくる」ためには何が必要なのかを提示。現地に赴き、自らの実体験から言葉を紡ぎ出した気鋭のジャーナリストの問題提起の書。
著者は上智大学卒、フォトジャーナリスト。著書に『国籍と遺書』(ヘウレーカ)。現在、TBSテレビ「サンデーモーニング」にコメンテーターとして出演。
◆伊古田俊夫『認知症とはどのような病気か─脳の構造としくみから全体像を理解する』講談社ブルーバックス 5/22刊 1100円
なぜ「脳の機能低下」は起こるのか。それがどう病気につながるのか。記憶力が衰え、自分が誰かがわからなくなる「アルツハイマー型」。存在しない人や動物が、ありありと見える「レビー小体型」。歩行障害や言語障害が突然生じる「血管性」や、「記憶障害が目立たない」認知症も存在する。経験豊富な認知症サポート医が多様で複雑な病状を詳しく解説し、正確に理解するための必読書。
著者は1949年生まれ、認知症サポート医。現在、札幌市認知症医療推進協議会会長。著書に『脳からみた認知症』(講談社ブルーバックス)がある。
◆芝崎祐典『ベルリン・フィル─栄光と苦闘の150年史』中公新書 5/22刊 1050円
巨匠フルトヴェングラーや帝王カラヤンが歴代指揮者に名を連ね、世界最高峰のオーケストラと称されるベルリン・フィルハーモニー。1882年に創設され、ナチ政権下で地位を確立。敗戦後はソ連・アメリカに「利用」されつつも、幅広い柔軟な音楽性を築き、数々の名演を生んできた。なぜ世界中の人々を魅了し、権力中枢をも惹きつけたのか。150年の「裏面」ドイツ史に耳をすまし、社会にとって音楽とは何かを問う。
著者は1970年生まれ、東京大学文学部卒業。筑波大学准教授などを歴任。単著に『権力と音楽』(吉田書店)、共著に『政治と音楽』(晃洋書房)など。
◆茶畑保夫『独立警察監視機関』新日本出版社 5/29刊 2300円
市民を守るはずの警察が、なんと市民の人権を侵害し違法捜査を続ける。責任はとらず、被害者が深刻なダメージを負っても知らんぷり。本書は、警察による人権侵害の実例や冤罪を生みだす構造、海外の監視機関の実例をまじえ、独立警察監視機関を設ける必要性を訴えた貴重な一冊。
著者は元京都府参与。「福崎事件」を契機に、「独立警察監視機関」の研究に携わる。日本科学者会議会員。著書に『独立警察監視機関と公職選挙法』(2020年)。
2025年05月17日
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