建築家の山本理顕氏が大阪市内で3月29日、開幕を目前に控えた大阪・関西万博について講演し、行政が万博と同じ会場にIR(カジノを中心とする統合型リゾート施設)を誘致することの危うさ、海外パビリオン建設に対する支援不足、意思決定過程や責任の所在のあいまいさ、過剰な個人情報収集といったさまざまな問題点を指摘し、「これほど準備の整わない博覧会は世界レベルで初めてだと思う」と開幕の1年延期を主張した。日本ジャーナリスト会議関西支部が主催した。
IRでダメージ
山本氏は「万博とIRはセット」として、万博に先行してIRの誘致が同じ夢洲を会場に進んでいた経緯、IRの収益の大半がカジノによるものであることを解説。行政がIRを誘致する危険性について「ギャンブルであがるお金を当てにすること自体が問題。ギャンブル場として大成功してくれないと税金が入ってこないので、ギャンブル場がうまく稼働するような行政になっていく。他のカジノをみていると周辺の経済は大きな被害を受ける。大阪の健全な経済が大きなダメージを受けていくのは必定」と予測した。
海外パビリオンの工事の遅れについては、確認申請や工事業者探し、軟弱地盤対策など参加国が対応しているとし、「博覧会協会は参加国に手当てすべきだった。未完成の状態で開催することは、前売り券を購入した人たちに対して信義則違反。参加国でなく協会の責任」と断じた。
責任者不在
万博の目玉とされる一方で巨額のコストが批判される大屋根リングは、2017年にBIE(国際博覧会協会)に提出した立候補申請文書(ビッド・ドシエ)にはなかった上、180億円だったコストが設計変更によって350億円に増額し、現在は344億円となっている。山本氏は「ビッド・ドシエの会場案は破棄され、リングが登場する。理由は説明されず、誰が許可したか分からない。あらゆるところが責任者不在のまま進んでしまっている」と嘆く。
個人情報の取り扱い関しても、万博のチケット購入の際のID登録や一部のパビリオンの催しへの参加の際に求められる個人情報の管理態勢に懸念を示した。
万博の意義については「国際博覧会条約にある『公衆の教育』。みんなで未来を考えるのが博覧会」とし、「海外から来た人たちは大阪市の人たちを信頼して来ている。大阪市の人たちはおもてなしの側。国際的な約束でやめるわけにはいかない」と大阪市民の責任についても言及。
昨年1月の能登半島地震からの復興が遅れている現状を憂慮し、「能登との連携」を図るため、1年延期して被災地域の支援に貢献する万博となることも求めた。
山本氏は埼玉県立大学、公立はこだて未来大学、横須賀美術館、名古屋造形大学などを手掛けており、2001年に日本芸術院賞、24年にプリツカー賞を受賞している世界的建築家。東京大学生産技術研究所の研究員として世界の伝統的な村を調査した経験も持つ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
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