8月6日の広島平和記念式典は、アメリカの世界初の原爆投下の犠牲となった幾多の市民を悼む遺族や被爆者の祈りの場であり、被爆都市ヒロシマの核兵器廃絶、戦争反対の平和への願いを世界に発信する場に他ならない。広島市はそれゆえに「国際平和文化都市」をうたい、核兵器廃絶の取り組みを行政の柱にかかげてきたのではなかったのか。
だが昨年、広島市は「参列者の安全確保のため」として、広島平和公園全域を入場規制し、持ち物検査を導入。戒厳令下のような光景が現出した。その結果起きたのは、年老いた遺族の早朝のお参りからの締めだしだった。また、持ち物検査は公園内の多くの原爆供養塔で営まれる慰霊行事への市民参加の制約へと働き、式典会場に入れない人が出る一方、会場内の被爆者・遺族席には500席もの空席ができた。
広島弁護士会は今年1月31日、市が一昨年の8月6日、市職員が市民団体構成員に押し倒された「事件」で逮捕・起訴者が出たとして導入した「公園全域の入場規制」とその結果起きたことは表現、信教の自由(憲法21条)違反だと、会長声明で断じた。入場規制そのものも「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必用」とした最高裁(1995年3月7日、第三小法廷)判例の条件を満たしていないと指摘している。
JCJ広島支部は3月31日、松井一実・広島市長に今年8月6日の平和記念式典に際しては@平和公園の入場規制を絶対に行わないことA被爆80年にあたる8月6日に何をするべきか、市民の意見を聞く場を設けることを文書で申し入れた。それは、市民の先頭に立って世界に核兵器廃絶と戦争反対を訴える責務のある広島市が、表現の自由や信教の自由侵害の旗を振る事態は、「新しい戦前」どころか「戦争前夜」だと感じたからである。
昨年の8月6日当日、私たちは早朝から現地で取材した。新たに規制区域とされた公園北東端の原爆ドーム周辺広場では規制に反対するデモ隊が前夜から座り込み、黙とうが終了する朝8時15分のデモ出発まで市職員や警官隊と対峙したが式典に影響はなかった。一方で40年以上も原爆ドーム前広場で「ダイイン」に取り組んできた市民たちは場所を奪われ、移動を余儀なくされた。
私たちは全国の皆さんとの幅広い連帯で、広島平和公園を市民の手に取り戻す運動を広げたい。問題の拡散に声と力を貸してくださるよう皆さんに呼びかける。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
2025年05月26日
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