2025年05月28日

【おすすめ本】樋口 英明『原発と司法 国の責任を認めない最高裁判決の罪』―元裁判官が司法の危機的状況を問う=松久保 肇 (原子力資料情報室・事 務局長)

 本書は著者である樋口英明元裁判官が、明快に原発の危険性を説く。彼は福井地裁による2014年の関西電力大飯原発3・4号機運転差し止め判決、同じく福井地裁による2015年の関西電力高浜原発3・4号機の運転差し止め仮処分決定を下した当人である。

 まず著者は、@原発が人の継続的な管理を要する、A暴走した場合の被害の大きさは想像を絶する、という2点の原発の本質を理解しているかどうか、それが重要だと指摘する。その上で東京電力福島第1原発事故をめぐって避難者が求めた国家賠償請求を棄却した2022年6月17日の最高裁判決での多数派意見を厳しく批判する。

 多数派意見は津波対策を取っても、事故を防ぐことはできなかったとして、国の賠償責任を否定した。だが著者は多数派意見には全く説得力がないという。その一方で三浦守裁判官が示した、国の責任を認める少数意見を高く評価する。
 他の裁判官の意見を聴いて、自分の意見を修正することは裁判官の重要な資質だが、多数派意見に加わった3人の裁判官には、それが欠けていると厳しく指摘する。

 さらに3人は東京電力などの顧問を務める大手弁護士事務所の出身か、退官後に顧問に就任するなど、公正性が疑われる状態だとも指摘する。
 裁判所は人権擁護の最後の砦だが、原発訴訟は司法の危機的状況を明らかにした。著者は法の支配を機能させるためにも国民は原発の危険性を、指摘し続けるべきだと訴える。(岩波ブックレッ ト630円)
        
「原発と司法」.jpg
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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