2025年05月31日

【おすすめ本】伊藤和子『ビジネスと人権』─「不処罰の文化」に埋没した日本企業の人権意識=栩木 誠(元日経新聞編集委員)

 フジテレビ問題をめぐる第三者委員会報告が、マスコミ業界だけでなく日本のビジネス世界に大きな波紋を広げている。
 報告で鋭く指摘されている諸点が、各界に蔓延している現状と、その要因を鮮明に描き出し、病巣を鋭く突いているからである。こうした最中に国連人権NGOヒューマンライツの副理事長も務める著者が「ビジネス」と「人権」をキーワードにした本書は、正に時宜にかなった1冊である。

 国連ビジネスと人権作業部会は、ジャニーズ問題に関する2024年の最終報告書で、「日本のメディア企業は数十年にわたり、この不祥事の隠ぺいに加担してきた」と厳しく指弾、警鐘を鳴らした。
 だが、こうした国際的批判を受けながらも、日本では政府も企業も、人権問題への意識が低く、「不処罰の文化」を維持し続けてきた。そうした中で浮上したフジテレビ問題は、「人権後進国」日本のビジネス社会が内包する、深刻な人権問題の正に“氷山の一角”だ。

 真摯な自省も十分でないまま、「対岸の火事」かのような対応をとる、他のマスコミ、スポンサー企業には、いつでも「わが事」になりかねないのである。
 こうした状況を直視する本書は、国際水準から後れを取る日本企業が、どのように責任を果たすべきか、明確に示す。
 「私たち一人ひとりが『ビジネスと人権』の発想を知って、これを企業風土や社会を変えるための有効なツールとして効果的に活用すれば、勇気を出して声を上げた人の思いを大きな変化につなげられるのではないか」
 この正鵠を射た指摘は私たちへの厳しい問いかけでもある。(岩波新書 1000円)
           
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posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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