ノンフィクション・ジャンルからチョイスした本の紹介です(刊行順・販価は税別)
◆小倉紀蔵『日本群島文明史』ちくま新書 6/11刊 1400円
日本は、大陸文明的な実体系思考よりも、海に囲まれた群島文明的な非実体系思考が優勢である。そうした世界観から、日本文明が創り出されてきた。生命は偶発的なものという感覚や共同主観の構造、革新性をもたらす美意識などが展開され、そうした日本の歴史的動態を描きつつ、日本の群島文明を形成する東アジアの哲学を「通底哲学」として世界哲学の中に置き直す。日本の知の歴史を総合的に理解する、ユニークな著者独自の日本思想大全。
著者は1959年生まれ。京都大学名誉教授。専門は東アジア哲学、比較文明学。編著に『比較文明学の50人』など。
◆石井頼子『素顔の棟方志功─仕事と暮らし』淡交社 6/13刊 2200円
棟方志功・歿後50年。志功の孫であり精力的に研究を続ける著者が、志功の名作誕生の背景や「素顔」「本質」を照らし出す。志功が昭和20年の疎開から約6年間も在住し、戦後の活躍の基礎となる精神的充実を得た富山県南砺市福光での日々の様子を活写する。これまで知られなかった棟方志功の人柄や世界観が浮き彫りにされる。
著者は1956年東京都生まれ。棟方と生活を共にし、その制作風景に接しながら育つ。慶應大学を卒業後、棟方板画美術館に学芸員として勤務。2018年より南砺市立福光美術館特別専門員として棟方志功関連事業の後見と資料のアーカイブ化を担当。
◆塩出浩之『琉球処分─「沖縄問題」の原点』中公新書 6/20刊 1000円
琉球処分とは、日中の両属国家だった琉球王国を、日本が強制併合した政治過程をいう。1872年の琉球藩設置から「処分官」派遣、79年の警察・軍隊を動員した沖縄県設置、80年に強く抗議する清国との八重山分島交渉までを指す。国王は東京に送られ、島内では組織的抵抗が日清戦争まで行われる。本書は、併合の過程とその後を精緻に追い、清国や西洋諸国を巻き込み東アジアの新秩序をも形成した琉球処分の全貌を描く。沖縄の日本復帰から50年、「沖縄問題」を深く理解するうえで欠かせない一冊。
著者は1974年広島県生まれ。東京大学卒、2016年琉球大学教授、2021年京都大学教授。
◆今野晴貴『会社は社員を二度殺す─過労死問題の闇に迫る』文春新書 6/20刊 1050円
2014年に過労死防止法が制定されたにも関わらず、減らない日本の過労死。実は「働き方改革」が労働強化と自己責任化を迫り、AI/テクノロジーの伸展が過労うつや自死を加速させている。労災の賠償金が企業内でコスト化され、その減額を争う訴訟では「命の値段」の差別化が進む。まさにディストピア的風潮がはびこっている。
かつ会社のために働き命を落とした故人に対し、豹変した会社が遺族に加える故人への徹底的な侮辱と攻撃。過労死遺族からしばしば「私の夫は二度殺されました」という言葉の意味する非情な実態を暴き、多くの過労死事例とその後の訴訟経過を、長年にわたり追究してきた著者の渾身ルポ。
◆大井朋幸『ボクは日本一かっこいいトイレ清掃員』岩波ジュニア新書 6/20刊 940円
人生終わった! 思いがけずトイレ清掃の仕事を言い渡され、ウンコにまみれてウェウェする日々…。あることをきっかけに一念発起、「日本一かっこいいトイレ清掃員」を目指す。便器を手で磨き、床を這って雑巾がけ…。町中のトイレを綺麗に保つために奮闘する最高にピカピカなトイレ清掃員の感動の物語。年齢問わず必読!
著者は1974年生まれ。小学校5年から高校卒業まで奥多摩町で暮らす。高校卒業後、料理人として働いた後、2017年、奥多摩総合開発に入社し公衆トイレ清掃の責任者に。清掃チームをOPT(オピト)と名付け、日本一きれいなトイレを目指して励む。2025年に株式会社オピトを立ち上げる。
◆赤根智子『戦争犯罪と闘う─国際刑事裁判所は屈しない』文春新書 6/20刊 900円
ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるパレスチナへの非人道的な攻撃─プーチンとネタニヤフに逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)。日本人として初めてトップに就任した著者は、プーチンから逆指名手配を受け、トランプ大統領からは日本への経済制裁の脅しをかけられる。世界規模の戦争犯罪に向き合ってきた国際刑事裁判所は、いま存続の危機にある。
国際刑事裁判所とはいかなる機関か。その歴史を辿りつつ、「力による支配」がむき出しになっている今こそ、「法の支配」による安全保障・国際刑事裁判所の重要さを訴える。
◆井上弘喜『アメリカの新右翼─トランプを生み出した思想家たち』新潮選書 6/26刊 1550円
アメリカを乗っ取った「危険な思想」の正体を明かす!トランプ政権による国家改造の成否に関わらず、リベラル・デモクラシーへの不信感は決定的なものとなっている。左右両極の間で起きた思想戦争の内幕を追いながら、テック右派から宗教保守、ネオナチなどの思想家たちが、なぜリベラルな価値観を批判し、社会をどのように作り変えようとしているのか。それぞれの思考・行動を分析し、米国民の底流水脈を読み解く。
著者は1973年生まれ。神戸大学教授。専門はアメリカ政治思想史。著書『アメリカ保守主義の思想史』(青土社)
2025年06月17日
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