2025年06月23日

【焦点】朝日批判記事なぜ消えた? 「国が大事」と「個が大事」対話可能 右派雑誌の内幕 梶原麻衣子氏オンライン講演=橋詰 雅博

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13年余の体験

 昨年11月刊行の『右翼℃G誌の舞台裏』(星海社新書)は、「中公新書大賞2024」で第9位にランクされ、昨年末の朝日新聞夕刊回顧2024論壇コーナーで「興味深い本」として取り上げられた。話題を呼んで4刷と部数を伸ばしたこの本は、梶原麻衣子氏が月刊『WiLL』(ワック)と『Hanada』(飛鳥新社)での13年余の編集体験をまとめたものだ。4月12日JCJオンライン講演に出演した梶原氏は右派思考へのきっかけや雑誌の内幕、右派と左派の対話の可能性などを語った。

蟹工船なみ勤務

 梶原氏が右寄り思考になったのは、自衛官だった父親の職業に由来にする。小学生のころ「『父の仕事は公務員です』と言った方がいいよ」と担任教師から言われ、中学ではリベラル系公立高校に向いていないと教員から指示された。中央大学文学部に入学後、小中学時代の経験は「右と左の問題から生じたもの」と気付き、憲法9条問題や台湾と中国の関係などを学んだ。大学時代から保守系雑誌『諸君!』(文藝春秋)、『正論』(産経新聞)の愛読者に。これを引き金に梶原氏は右派思考を深めた。

 梶原氏はシステムエンジニアから2005年11月『WiLL』(04年創刊)編集部員に転職。文藝春秋出身の花田紀凱(かずよし)編集長は週刊誌の作法で保守系月刊誌をつくった。その特徴は@朝日新聞など権威に対する庶民目線からのカウンター、A記事の差し替えや特集の組み換えは日常茶飯事、B編集部員が学者などから聞き書きした平易な記事が中心―。
 このため作業量はふくれあがり、1週間から10日前後の終電帰りと校了最終日の徹夜を繰り返した。過酷な労働状況を「蟹工船」になぞらえた。発行元社長と花田編集長との編集方針の違いが原因で16年4月雑誌は分裂。花田編集長と一緒に飛鳥新社に移籍し『Hanada』創刊に携わる。一定の論調への作業に限界を感じ、病気もあって19年6月退職した。

 ここ数年、売り物の朝日新聞批判記事が両誌に載らなくなった。梶原氏は理由を2つ挙げた。「朝日新聞の論調が変わってきています。かつては中国脅威論に対して過去の反省を考えたら日本はそれを言うべきではないと主張したが、今は軍事大国・中国を前提として論調を展開しています。朝日と保守系雑誌は中国に対する認識が一致したわけで、朝日にカウンターを仕掛ける要素がなくなった」
 「軍拡や改憲を進める安倍晋三政権を朝日は強く批判しました。これに対して安倍政権を評価する保守系雑誌は朝日に反撃。しかし7年8カ月に及ぶ安倍長期政権は終わり、そして安倍元首相が亡くなった。朝日による安倍批判はおさまり、雑誌も朝日への反撃をやめました」

「精緻な議論」

 右派雑誌の先行きについて梶原氏は「保守派論客内での内輪モメとか陰謀論を取り上げています。数字(部数が増える)がとれているのでやめる動きはない。内ゲバや陰謀論はそのうちに飽きらしまう。これからは精緻な専門的な議論をわかりやすく読者におろす、これをやり続けてもらいたい」と語った。

 右派と左派の対話は可能か。「右派は『国家が大事』、これに対し『個人が大事』が左派、ここでぶつかる。私は国を構成する国民を守るため国がやるべきことがあると考えます。対立しないから話はできます。何が違い、何が一緒なのか、お互い分かり合えればいい」と梶原氏は自説を述べた。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年5月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 焦点 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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