2025年07月02日

【月刊マスコミ評・出版】絶滅か、それとも、社会を動かすのか?=荒屋敷 宏

 雑誌『プレジデント』7月4日号に経済学者の成田悠輔氏インタビュー「もうすぐ絶滅するという紙の雑誌について」が掲載されている。1997年に1兆5644億円あった雑誌市場の販売額は2022年に5000億円を割り、雑誌業界は「末期の炭鉱」「緩慢な自殺」だという。
成田氏は、「今世紀はすべての人間が発信者であり、あらゆる人間から受信する聴衆でもある、水平化し相互化した世界」であり、「偉い肩書のついたスーツの有識者がテレビや新聞で仰々しく語る見解より、SNSの匿名アカウントの暴論や陰謀論のほうが影響力」があり、「新聞や雑誌は化石おじさん的」と語る。

「情報の受信者を対等な知能を持った相手として扱ってコミュニケーションすることが必要です。受け手を恐れることが大事です」という成田氏は今でも毎年数十万円くらいを雑誌に使うという。「大好き」だからこそ「無策に沈んで海の藻屑と消えようとしている雑誌界の現状が大嫌い」なのだそうだ。成田氏にも雑誌復活のアイデアがなく、雑誌を石や金属に刻み、遺跡になれという極論を主張している。

一方、『地平』7月号のジャーナリスト・思想家の会田弘継氏「雑誌と政変 論壇誌が社会を動かす」が対照的な論陣を張っている。『地平』創刊1年を祝う論考だが、米国で今年1月、オンライン版の論壇誌「コモンプレイス」がスタートしたことに触れつつ、「政治再編プロセス」の中の日本でも新雑誌(論壇誌)がもっと現れてもいいはずだという。米国の論壇誌が政変に絡んできた歴史をひもときながら、オンライン版の論壇誌が米国で次々に出現している現状に日本も学べという。

 興味深いのは『アステイオン』102号(6月2日発行)の武田徹氏「SNS時代のジャーナリズム」である。鶴見俊輔氏から「ジャーナリズムの思想」を、玉木明氏から「ジャーナリズムの科学」を学ぶ温故知新の論文である。SNSと動画配信サービス上でマスメディアを激しく敵視する言説が拡散されている状況の打開を図りたいという。詳しく紹介できないのが残念だが、武田氏は、マスコミは嘘ばかりと決めつけるネットユーザーに対して「マスコミは間違うこともあるが、間違いを正そうとするものでもある」ことを態度で示し続けてこそ、ジャーナリズムは信頼性を回復できるのではないか」という。
 雑誌本来の役割に立ち返ることが求められているようだ。
           JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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