2025年08月26日

【25緑陰図書―私のおすすめ】 あるジャーナリストの重い覚悟=中川七海(報道機関Tansa リポーター)

 
中川七海・顔写真.jpg


 私が所属する報道機関Tansaがニューヨークタイムスの取材を受けた際、林典子さんが、カ メ ラマンとして、同道してきた。
 後日、記事に載った写真に引き込まれた。Tansa編集長が、街路樹の下で立っている。報道機関の紹介だからといって、その作業風景に拘泥しない。独立メディアを立ち上げた編集長の眼差しが、一見孤独にも、希 望に溢れているかにも見える一枚だった。
 一記事の添え物ではなく独立した作品だ。「撮 りたいものがある人だ」と感じた。ジャーナリストとしてTansaに触れた結果を、写真に込めていた。

 彼女のルーツが知りたくて、林典子『フォト・ドキュメンタリー 人間の尊厳─今、この世界の片隅で』(岩波新書)を手 に取った。
 2006年、大学3年の林さんはガンビア共和国の新聞社で働く。記者経験ゼロだが、行動力に運が味方し、希望していた独立系新聞社「The Point」に入社。政 府批判で発行停止になった新聞社の記者で立ち上げた報道機関だ。

 意義ある仕事に励む中で、厳しい現実を知る。 政府を批判する新聞社への襲撃や記者殺害が多発していた。ある日、 同僚に匿名メールが。「何を しているのか、全て分かっている。気を付けろ。 調子にのるな」。まさに 脅しだ。それでも同僚は「殺されたってかまわない。ただガンビアから独立メディアがなくなることだけは、絶対に避けたい」と。後日、その同僚 が襲われた。

 命懸けの仕事だと知った上で、林さんは今の職業を選んだ。その理由が 私は同じ職業人として分かる気がする。一つは、 たとえ危険でもジャーナリストという仕事が、社会には必要だから。もう一つは、現実を目撃した者として、取材の手や足を止めることができないから。林さんの「撮りた いもの」 が詰まった本書をぜひ読んでほしい。
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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