2025年09月14日

【米関税】日本は「ノー」と言えるのか 放置できぬ認識のズレ=志田義寧

 日米関税交渉が決着したが、なお火種はくすぶっている。合意をめぐる両国の発信には大きなズレがあり、日本の解釈を貫けば振り出しに戻る可能性も否定できない。焦点になりそうなのが5500億j(約80兆円)にのぼる対米投資枠の設定だ。外交交渉では共に「勝利」を宣言できる余地を残すために、玉虫色の決着になることも珍しくないが、今回は合意文書を交わさなかったことが裏目に出る可能性がある。

 トランプ米大統領は7月22日、自身のSNSに「われわれは日本との大規模なディールを完了した」「日本は私の指示に従い、米国に5500億jを投資し、その利益の90%を米国が受け取る」と投稿、ディールの成果に胸を張った。
 その後、ホワイトハウスはファクトシートを公表。「日本は米国の中核産業の再建と拡大のため、米国の指示により5500億jを投資する」「米国はこの投資による利益の90%を保持し、米国労働者、納税者、地域社会が利益の圧倒的な部分を享受する」と詳細を明らかにした。

 ここで気になるのが利益の源泉となる「投資」の中身だ。普通に見ればホワイトハウスのファクトシートは「日本が拠出する5500億jは全額が投資で、そこから得られる利益の90%を米国が受け取る」と読める。しかし、日本政府の説明はこれとは異なる。内閣官房が公表した合意概要には「政府系金融機関が最大5500億j規模の出資・融資・融資保証を提供することを可能にする」という一文がある。つまり投資の中身は出資だけでなく、融資や融資保証も含まれる。さらに合意概要には「出資の際における日米の利益の配分の割合は、双方が負担する貢献やリスクの度合いを踏まえ、1対9とする」とも明記されている。つまり、1対9で利益配分されるのは出資分のみということだ。
 
 交渉に当たった赤澤亮正経済再生担当相は7月27日のNHK番組で「出資にあたるのは(全体の)2%かそこらではないか」との見通しを示した。80兆円の2%は1・6兆円程度であり、これから得られる利益配分が1対9になるわけだ。赤澤担当相は「いま何か勘違いしている人たちが(言っている)5500億j、80兆円の真水の金が日本からキャッシュでアメリカに飛んで行って、その9割がアメリカにとられて奴隷国家か国を売ったのかみたいな話はちょっと的外れ、とんちんかんの極みだ」と批判をバッサリ切り捨てた。

 仮に赤澤担当相の主張が正しければ、今回の合意は日本にとって悪いディールではない。
 ただ、それはあくまで日本政府の解釈であって、米国の解釈とは異なる。トランプ大統領は8月5日、米CNBCとのインタビューで、5500億jについて「野球選手が受け取る契約金のようなものだ」と説明。「それは我々の資金で、我々の好きなように投資できる」と強調した。日本の認識と大きなズレがあるのは明白だ。トランプ大統領の発言を裏付けるように、ファクトシートには、日本の投資は「米国の指示」により実行されると明記されている。しかし、投融資はあくまで経済合理性で判断するものであり、妙味がなければ資金の拠出は難しい。その際、日本政府は「ノー」と言えるのか。

 ベッセント米財務長官は7月23日のFOXニュースのインタビューで「日本の対応にトランプ大統領が不満を持つようなら、関税率は自動車もそれ以外も25%に戻る」とクギを刺した。解釈の食い違いが鮮明になる中で、トランプ大統領が近い将来、日本に対して不満を漏らすことは想像に難くない。認識のズレをこのまま放置すれば、その代償は高くつくだろう。
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年8月25日号

posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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