2025年10月08日
【映画の鏡】「逮捕報道中心主義」を覆す『揺さぶられる正義』無罪判決の続出に問われるメディア= 鈴木 賀津彦
c2025カンテレ
監督の上田大輔さん(46)は関西テレビの報道記者。上田記者が息子を自転車に乗せて登園する姿からドキュメンタリーは始まる。取材記者である自身にもカメラを向け、自社を含め過去の「逮捕報道」の呪縛に苦悩する自らの取材姿勢を問うていく。
すごい記者がいるもんだ!「無実の人を救う弁護士を志すも、有罪率99・8%の刑事司法の現実に絶望し、企業内弁護士として関テレに入社。しかし一度は背を向けた刑事司法の問題に向き合おう」と37歳で報道記者になった。その後取材を始めた「揺さぶられっ子症候群(Shaken Baby Syndrome=SBS)」の検証報道は8年に及ぶ。
2010年代、赤ちゃんを激しく揺さぶって虐待したと疑われ、母親や父親、祖母らが逮捕、起訴された事件をメディアは「虐待」と報じた。虐待をなくす正義と冤罪をなくす正義が激しく衝突し合った。そのSBS裁判で近年、無罪判決が相次いでいる。
「冤罪事件」の捜査は批判はしても、逮捕時に容疑者の顔を晒し「悪者ぶり」を強調し報道したことを反省するなど稀な業界の現実。「無罪判決をしっかり報じることで十分ではないのか。そんな誘惑に駆られる。でも、それだと一旦起訴したら引き返さない検察と何が違うのか。これは自分には避けては通れない宿命のようにも思える」と上田監督は語る。
「上田さん、思いませんか?一回こいつ黒やなって思われたら白に塗り替えるのは無理や」。無罪判決を勝ち取った人からの問いに悶々とする。9月20日から公開中。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号
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