2025年10月14日

【JCJ賞】大賞に安田浩一氏 差別偏見あおる排外主義に警鐘=JCJ賞事務局

 JCJは2025年の第68回JCJ大賞に、関東大震災で朝鮮人や中国人、そして方言などで疑われた日本人を含んだ軍や警察、自警団による虐殺の資料や新たな記録を掘り起こし、なぜ虐殺が起きたのかに独自の地道な取材の積み重ねで迫った安田浩一氏の『地震と虐殺 1923−2024』を選んだ。
 また、JCJ賞には中国新聞社の被爆80年企画「ヒロシマドキュメント」、琉球新報社の沖縄戦80年企画「新しい戦前にしない」キャンペーン、鹿児島テレビ放送のドキュメンタリー「警察官の告白」に代表される鹿児島県警情報漏洩事件をめぐる一連の報道、ネットニュースの世界で活動する調査報道グループ・フロントラインプレスと調査報道サイトのスローニュース社による、選挙運動費用や政治資金を巡る一連の報道と「選挙運動費用データベース」構築の4点を選出した。

 さらにJCJ特別賞として、戦下のガザで国際NGO「国境なき医師団」の緊急対応コーディネーターとして数百人の人道医療援助チームを指揮した萩原健氏の6週間の活動記録『ガザ、戦下の人道医療援助』を選んだ。

 大賞の『地震と虐殺 1923−2024』で、著者・安田氏の取材は虐殺の現場を訪れることを含め徹底的だ。その足跡は首都圏の東京、千葉、埼玉、神奈川のみならず、大阪や福島など広い範囲にわたる。虐殺はデマによる人災で、そのデマは警察が流し、新聞もまた政府、国、軍と共に扇動者の側にいた。日本で跋扈する不都合な歴史の否認と排外主義は、差別と偏見を煽って広がる。私たちは「虐殺の時代」を繰り返さない社会を作る、との思いを共にする。

 中国新聞社は被爆80年企画を、当時13歳の女学生が軍都の日常を綴った未公開日記から始めた。だが記述は8月5日で途絶える。被爆者の5人にひとりと言われる朝鮮半島出身者の原爆被害の実相にも迫った。メディアが米軍のプレスコードで沈黙を強いられる中、懸命に記録を残そうとした画家や作家、歌人・俳人らの存在を報じた。ノーベル賞に結実した原爆被害による人生の破壊に抗う被爆者の格闘を伝えた。被爆地の新聞社の覚悟と取材班の努力に敬意を表する。

 琉球新報社は「新しい戦前にしない」を沖縄戦80年キャンペーンの「表題」として「戦さ世」拒否の信念を示した。第5部に至る長期連載は、1931年の満州事変から顧みて、沖縄の人々が軍国日本の南方進出に組み込まれ、アジア侵略の一翼を担った加害責任にも向きあった。見開き紙面で展開の歴史地理年表は、沖縄を拠点にアジアで何がなされたか、軍による民間人の集団強制死が南洋諸島や満州などでも繰り返されたことを明らかにした。記者が聞く家族の中の沖縄戦は出色の企画。勤労奉仕や地上戦、米軍の接収などを身近に浮かび上がらせた。

 鹿児島県警が組織ぐるみでもみ消そうとしたのは、警察官やその身内のわいせつ行為やストーカー、盗撮事件等々。腐敗を公益通報した警察幹部は逮捕された。鹿児島テレビ放送は、もみ消し発覚後の警察権力監視報道を継続して取り組み、「警察官の告白」など、映像の強みを生かした一連の番組報道で問題の本質を詳らかにした。

 フロントラインプレスとスローニュースは、与野党議員の政治とカネの問題を独自に掘り下げて報じるとともに「選挙運動費用データベース」を構築。選挙費用の収支報告書をネットで閲覧できるようにして公開を開始した。スローニュースは「日本で初めての試み」としており、フロントラインプレスの、国と契約がある企業による自民の国会議員が代表の支部への選挙直前の献金問題や、自分の政治団体に寄付をしたうえで還付申告し、税額控除を受ける手口などの報道成果とあわせ評価した。
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号
 

posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | JCJ賞情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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