2025年10月15日

【月刊マスコミ評・放送】終戦80年 戦争扱った印象的番組=諸川 麻衣

 終戦80年、しかも排外主義の政治勢力が伸長というこの夏、戦争を扱った番組から特に印象的なものを振り返る。
 広島テレビ『テニアン 玉砕と原爆の島』は、広島・長崎への発進基地となったテニアン島で、米軍の攻撃下で日本人移民が集団自決した悲劇や、かつての滑走路が訓練場として再整備されている実態を伝えた。NHK『BSスペシャル 原爆裁判〜被爆者と弁護士たちの闘い〜』は、1963年の東京地裁の「原爆投下は国際法違反」という判決を、提起した岡本尚一弁護士や原告の被爆者5人の側から見つめ、後の国際司法裁判所の勧告的意見や核兵器禁止条約への影響も伝えた。

 同『ETV特集 ヒロシマからの手紙 “原爆”を綴ったアメリカ人たち』は、トルーマン大統領が、日本への追加攻撃を求める議員への手紙に多くの命を奪った後悔を綴り、原爆開発に従事した物理学者アルヴァレズも息子への手紙に罪悪感を綴ったことなど、核兵器を生み出した側の後悔や葛藤を紹介、それが「核兵器は二度と使用してはならない」とする“核のタブー”を形成していったのではないかと指摘した。
 同『ETV特集 昭和天皇 終戦への道〜外相手帳が語る国際情報戦〜』は、最近全文開示された、終戦時の外相・東郷茂徳の手帳から、1945年6月から終戦への歩みをたどった。スイスを舞台とした米情報機関と日本と間の和平工作は近年注目されているが、それが天皇の終戦への決断を促したことが一級の史料で裏付けられた。同『BSスペシャル 軍神と記者 特攻 封じられた本心』は、敷島隊の隊長として出撃し、死後「軍神」と崇められた関行男大尉が、出撃直前に海軍報道班員・小野田政に「死にたくはない。死ななければならないなら…それは最愛の妻のためだ」と語っていた事実を明らかにした。検閲によって関の本心を伝えられなかった小野田の後悔から、報道が戦意高揚に果たした役割を批判的に見つめた。

 BS−TBS『報道1930スペシャル 日本人と“軍隊”〜いま見つめる戦後80年の自画像』は、日独の戦後の「再軍備」の差に着目した。ドイツでは、軍は民主主義国家を守るもの、軍人は制服を着た市民とされるが、自衛隊は教本に軍人勅諭を載せ、靖国神社での慰霊にこだわる幹部もいる。民主主義国家での軍事力のあり方を、元統合幕僚長を含む論者たちが論じた。個々の意見には賛否があろうが、意欲的な問題提起であった。
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | 放送 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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