2025年10月19日

【寄稿】=反知性主義、米国教育を翻弄 留学・観光減り人材流失 米離れ広がり経済に打撃=堀江 学(国際教育交流フォーラム代 表)

4面_反知性主義につく、堀江学さん顔写真■最終校正済.jpeg

 
 ドナルド・トランプが2017年1月に米国大統領に就任し、「外敵」は決して入れない、との姿勢をより明確に示し、メキシコ国境の「壁」の防御強化を始めて以降、「不法移民排除」の路線は継続強化されてきた。そして、2025年1月からのトランプ政権の第2期では、きわめて早急な移民抑制と排除が続けられているように見える。
 もちろん、不法就労者や違法薬物問題は米国社会にとり、きわめて深刻な問題で、それを防ぐという名目は、米国民の同意を得やすいことだ。

“TACO”と
世界から揶揄

 トランプ本来の趣旨も、不法移民の摘発と排除で、必ずしも外国人留学生の排除が当初の目的ではなかったと思われる。しかし、彼がビジネス界出身のためか、性格上の特性か、その発言や行動にはブラフが多用され、事象やものごとを極端に単純化して示す癖があり、彼のそうした発言に世界が翻弄されている。

 米国への学生ビザ申請者は、そのSNSの中身を審査されるとの情報も流れ、留学希望者たちは、慌てて自分のアカウントを削除することともなっている。だが、審査の際、年数十万人分と考えられる膨大なデータ確認作業などが実際にできるだろうか。

 一方では、”TACO”(Trump Always Chickens Out)「トランプは、いつもビビッてやめる」と揶揄されるように、当初言ったことから大幅に「値引き」または「妥協」を最終的に実行することもしばしばである。
 典型的な例は、各国との関税交渉であろう。寅さんのたたき売りではなく、世界に冠たる経済・軍事大国の大統領なのだから、もっと落ち着いた交渉を相手は期待しがちなのだが、ご当人は、そんなことは意に介していないように思われる。

 そして、トランプが、ハーバード大学等への留学生の入学規制を強めたことは、「反知性主義」とも批判される。ことに外国人留学生は、学生ビザと入国審査の関門があり、たとえ大学から入学許可が出ても、入国できないことも十分にありうる。そのため、より高い質の教育を求める若者が多い国・地域では、留学の成否の如何(いかん)が極めて深刻な個人的かつ社会的問題となる。

 例えば、2023〜24年度の米国への留学生112万人超のうち、最多はインドの約33万人だが、トランプ政策のあおりを受けてインドからの留学生の入国者数は最終的に前年より5割前後減るのではないかと米メディアは伝えている。また、長いこと米国への留学生数が首位だった中国は、2019年の37万人が、直近では、27万人超に減少した。

雇用失われて
GDPは減少

 もちろん、ほとんどすべての米大学は、この政策に反発し抗議したが、トランプはそれに対して政府からの助成金凍結で迫った。ところが、この8月末に、トランプは、「60万人の中国人留学生を受け入れる」と言いだし、MAGAからも反発を買うこととなった。だが、「他の国と仲良くするのはよいこと」で中国人学生の米国留学を許可するのは「正しいこと」だと主張した。例によって、小学生にも分かりやすい説明なのだが、ここに来て、「また、TACOか」と思われたのも事実である。

 その真相は、「米国の経済的損失を責められたくない」あたりかと想像できる。そして、9月3日、マサチューセッツ州連邦地裁はトランプによるハーバード大学への助成金凍結を「大学への報復で違法だ」と撤回を命じた。だが、まだ先行きは不透明である。
 このように、トランプの政策動向は、矛盾した方針が錯綜し、明日、どう変わるのかも予想もつかない。だが、彼がSNSで何かを流し、口走るたびに米国だけでなく世界中が振り回される。「反知性主義」と言われようと、それが、トランプなのであり、当分それに翻弄されることとなるだろう。こうして米国は、このままでは経済を損失し、優秀な外国人や自国民の流失を招き、次第に従来の世界での地位から落ちていく恐れが大きい。 
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号







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