最高裁が「保釈運用議論」を始める。
10月初め、マスコミが一斉に報じた。私は、「やっと最高裁が動き出すのか、遅きに失する」と思った。それでも、最高裁にしては「人権重視」の姿勢が少しでも前進したのかとも考えた。
最高裁が「保釈運用論議」のきっかけとなったのは、「大川原化工機えん罪事件」の一連の経緯を考えてのことだとは容易に推測が付く。
拘留中だった大川原化工機の元顧問・相嶋静夫さんに、がんが見つかったにもかかわらず保釈が認められず、病院での有効な治療が受けられないままに亡くなった。弁護側は8回も保釈申請をしたが裁判所が認めなかった。検察側が「保釈すると証拠隠滅の恐れがある」と主張したのを裁判所は「是」としたためだろう。相島さんは有効な治療をうけられないままに、がんを悪化させた。人権より捜査を優先させた検察とそれを認めた裁判所の犠牲になったとも言える。多くの国民は「人権を認めないこの国の司法はひどい」と痛感したのではないか。相島さんへの深い同情とともに裁判所への憤りの念を強く抱いただろう。
結局、この「事件」は、大川原化工機の社長らが逮捕・拘留され、検察官による公訴提起が行われ、約11カ月もの間、身体拘束された後、公訴提起から約1年4カ月後、初公判直前の2021年7月30日に検察側が控訴を取り消した。異例の経過をたどった。完全な「えん罪事件」だった。控訴取り消し時には、相島さんは既に亡くなっていた。遺族は、無念というより、大きな憤りを覚えたことは、その後の民事訴訟時の記者会見で訴え、明らかになった。
もう1つ、私が「裁判所の不当決定」と感じた事例は、福岡市に本部があるニュースサイト「ハンター」に対する鹿児島県警の家宅捜索だ。昨年4月、鹿児島県警は、「ハンター」(中願寺純則代表)の事務所兼自宅を捜索した。数人の警察官が突然やってきて、捜索令状をひらひらさせ、応対に出た中願寺代表に満足に提示もせず、いきなり上がり込んできて強制捜索した。
メディアに対する捜索は、「取材源の秘匿を脅かす」として、日本ペンクラブや新聞労連が抗議非難する声明を出している。
この強制捜索も、鹿児島県警が裁判所に「強制捜索令状」を請求したものを裁判所が何の抵抗もなく認めたために鹿児島県警は、その令状を手に、福岡市にやってきたものだ。鹿児島県警は、大手メディアだったら捜索令状を裁判所に請求しただろうか。ここにも、裁判所が、世間の常識よりも警察の請求を認めたことが、「ハンターへの強制捜索」につながった。
その後の鹿児島県警の一連の対応は、身内に甘く外部に厳しい経過をたどって、今なお「晴れ間」にはほど遠い状態が続いている。「ハンター」に強制捜索令状を認めた裁判所は、どう考えているのだろうか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年10月25日号
2025年11月04日
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