2025年12月05日

【北海道支部「コメ騒動」講演会】農家に価格保証と所得補償を 食糧安保こそ最大の国防=高田正基

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         久保田 徳二さん(北海道大学客員教授・ジャーナリスト)
 JCJ北海道支部は「コメ騒動と食料安保の行方〜米国産米輸入、備蓄と増産、所得補償は…」と題した講演会を9月6日、札幌市内で開催した。北海道大学客員教授で元北海道新聞編集委員の久田徳二氏が、昨年来のコメ不足と価格高騰の原因や、ぜい弱な食料安全保障の問題点などについてさまざまなデータを示しながら解説した。久田氏は「北海道食といのちの会」会長、JCJ北海道支部運営委員なども務める。講演の要旨を報告する。

需給操作の限界

 「令和のコメ騒動」と言われるコメ不足、価格高騰の原因には@減反のやりすぎA需給操作の限界B農家の疲弊(農家経営の赤字放置)C猛暑による高温障害―がある。
 昨年夏に小売店からコメが消えてからも政府は「不足ではなく不足感だ」「新米が出れば価格は落ち着く」などと言うばかりだった。それでも止まらぬ価格高騰に「随意契約」という強引な手法で備蓄米を放出した。

 政府がようやくコメ不足を認めたのは今年8月。その理由について、外国人訪日客の増加や南海トラフ地震臨時情報による買いだめ、高温障害などを挙げた。2023年産は40万〜50万d、24年産は20万〜30万d不足していたと分析。24年産作況指数は101だったが、実際の収穫は94だったことも認めた。
 だが、こうした政府の説明はコメ不足の真因ではない。根底には減反を長く続け、作付面積が減ったことがある。1968年に1445万dだったコメ生産量は、23年には791万dへと45%も減った。政府は価格形成を市場に任せる一方で、供給過多による価格低下を理由に、農家に生産抑制を求めてきた。しかも供給量予測に不可欠の「作況」の信頼性が薄れた。結局、生産調整の目的だった「価格安定」は成功せず、官僚主導型需給操作の限界を露呈した。

時給わずか97円

 もう一つ、コメ不足の大きな原因が農家の疲弊だ。肥料や農薬、燃料など生産資材価格が高騰する一方で農産物価格が低迷し、作るほど農家の赤字は増加する。22年の農業統計調査によると、稲作農家の時給はたった10円だ。最近の調査でも時給は97円にすぎない。
価格・所得支持政策不備の中で、長期的経営不安が拡大し、稲作農家戸数は1965年の488万戸が2020年には69万戸へと85%減少、水稲耕作面積も280万fから103万fへと63%減少した。農家平均年齢は70歳と、高齢化も著しい。

 ようやく危機感を抱いた政府はコメの増産方針を打ち出したが、疲弊した農家は耕作面積を急には増やせない。転作で畑にしていたり、耕作していなかったりした土地を水田に戻すのも難しい。
 政府は輸出用米には10e当たり4万円の補助金を出している。60`で5千円相当の額だが、これは国内主食用米向けにこそ回すべきだ。
バイオテクノロジーの危うさも指摘しておく。政府は発がん性などが指摘されているゲノム編集(GE)食品5種(トマト、マダイ、トラフグ、トウモロコシ、ヒラメ)の流通届を受理している。GE生物が流通しているのは日本くらいだ。

 重イオンビーム照射米も登場した。DNAを切断・破壊して、突然変異を起こさせるのだが、GE同様に遺伝子を修復不能に破壊する恐れがある。元のコメとの区別ができる表示もないまま、政府や自治体は照射米を拡大普及しようとしている。

増やせ農業予算

 ではコメの増産には何が必要か。それは@減反廃止と生産支援A備蓄の抜本的拡充B価格保証と所得補償C種子生産・供給体制―の四つだ。
減反政策は見直されるようだが、小規模家族農を含む「多様な担い手」の経営が上向くよう、きめ細かい施策が必要だ。
 政府の一般会計総予算に占める農林水産予算の割合は1970年度に11・5%だったが、23年度は1・8%に減っている。26年度の概算要求額は2兆6000億円。これに対し、防衛費は8兆8000億円に上る。

 各国は食料安全保障のためにおカネをかけている。農家の農業所得に占める補助金の割合は、日本が30・2%と、英仏の3分の1。農業生産額に対する農業予算比率も、日本は38・2%で米国の半分に過ぎない。
 緊急時を想定した日本の政府米備蓄量は04年からずっと百万d以下で、普段の全国民の消費20日分程度しかない。これに対し、中国は14億人の胃袋のためコメだけで半年分を備蓄、家畜飼料を含む穀類の買いだめを進め、主要穀物在庫量は、世界の半分を超えたと言われる。日本のコメ備蓄量は国民消費のせめて2カ月分程度(300万d)を目標にすべきだ。

 コメ増産には価格保証が必須だ。農家が安心して生産できる価格を実現する仕組みで、欧米でも手厚く実施されている。
水田の洪水防止機能や水質・土壌浄化機能など、国土や環境を守る役割を評価して所得を補う所得補償も必要だ。補償額が例えば10e当たり2万円なら価格保証と合わせても6000億円前後の予算で済む。食料安保は最重要で最大の国防だ。
 農村現場では「種モミがない」との声がある。昔は農家が自家採種していたが、品質をそろえ、産地形成を進める中で、種子生産を都道府県などに委ねてきた。その公的種子事業を支える種子法が廃止され、事業が縮小されている。種子法を復活させ、主要穀物種子を早急に増産する必要がある。

                「自産自消」で対抗

 コメ価格の上昇に「安い米国産米輸入を増やせばいい」という声もあるが、輸入は国内生産に大打撃を与える。トランプ政権との交渉で「米国産米輸入を75%増やす」と約束したが、そうすれば米国からの輸入量は約60万dになり、国産米を圧迫するのは不可避だ。
ミニマムアクセス(MA、最低輸入量)米は現在年77万dで、日本の生産量の11%に相当し、国内生産基盤を弱体化させてきた。しかし、MAは「輸入の機会を与える枠」(農水相答弁)であり、輸入義務ではない。国内生産を増やしつつMAはなくしたほうがいい。
海外の巨大企業に対抗する食料自給体制を確立しなければならない。世界の食の市場は、種子が3社で50%、農薬が4社で75%、穀物は4社で90%を占める。これに対抗する最強の力は自給であり、最も安心できるのは「自産自消」だ。
私たちにできることがある。農薬と化学肥料を極力避け、植物を植えること、タネをまくこと。畑でもプランターでもいい。1人からでも始めよう。

                危機的な自給率

 世界ではすでに食料危機が始まっている。ウクライナ戦争により農業大国のウクライナからの輸出が止まった。世界の小麦やトウモロコシの価格は、ロシアのウクライナ侵攻から1カ月の間に約20%急騰した。肥料価格も上昇している。価格高騰の背景には巨大な人口を抱える中国の穀物爆買いもある。
 世界各地では土壌の劣化も進んでいる。過度な森林伐採や牧場開発、農薬と化学肥料漬けの工業的農業による砂漠化、塩害、土壌流出などが原因だ。国連環境計画(UNEP)によると、世界の農地土壌面積の38%が劣化。特にアフリカ、南米、東南アジアが激しく、2050年には地球上の土の90%が土壌細菌や土中生物の減少で耕作地としての機能を失うという。
 
 にもかかわらず、日本の食料安保政策は問題だらけだ。食料自給率はカロリーベースでも38%しかない。肉体形成と生命維持に必要なたんぱく質自給率は27%で世界155位。自給率80%の野菜も種子の自給率はわずか10%で種の輸入が絶たれればおしまいだ。
 東大の鈴木宣弘特任教授の試算では、もし肥料や飼料などの輸入が途絶えれば、実質自給率はコメが5%、野菜は3・8%、畜産物やイモ類を合わせても実質自給率は9・2%に落ち込んでしまう。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年10月25日号 

posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 北海道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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