10月21日正式に発足した高市内閣は、日米会談、日中会談などと続いた外交日程をこなし、期待感もあって、65〜70%近い支持率を示した。だが、衆院予算委員会が始まると「台湾有事」をめぐって7日、「集団的自衛権」発動と自衛隊の「参戦」につながる「存立危機事態」に言及。大騒ぎになった。この発言について、新聞各紙の多くは「中国との戦争も辞さないとの表明」「あまりにも軽率で不用意」(東京)、「ことの重大さへの自覚を欠いた答弁」(毎日)などと批判的に報じたが、逆に「国民守る抑止力を高めた」(産経)などと、擁護する社もあり、評価は別れた。JCJは、最初は軍部に批判的だった戦前の新聞が、次第に取り込まれ、戦争に協力して行った過去の歴史に学びつつ活動し、発言してきたが、「二度と戦争のためにペンを、カメラをとらない」を出発点にした70年間の運動も今、正念場を迎えている。メディアに求められている「戦争反対」の世論作りにどう積極的に取り組むかという課題が示されている。
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発言で危機招く
問題の高市発言は、11月7日の衆院予算委員会で飛び出した。
質問したのは立憲の岡田克也氏で、高市氏が「台湾が封鎖されれば、存立危機事態になるかもしれない」との趣旨を、かつての総裁選で主張していたことに関連して、その見解を質した。
高市氏は、これに対し、「中国が台湾を完全に支配下に置くために、どういう手段を使うか」「戦艦を使って、武力行使を伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得る」などと明言し、具体的に踏み込んだ説明を展開した。
「存立危機事態」とは日本への攻撃はないが、密接な他国(つまり米国だろう)への攻撃で、明白に国の存立が危機に直面するという場合、集団的自衛権の行使として自衛隊も参戦できるとする、憲法9条に明らかに違反する問題を孕んだ建付けの規定だ。政府は、それもあってか、これまで、その具体例を明らかにしないで来た。
岡田氏は「台湾海峡の封鎖があっても、それが国の存立を揺るがせ、国民の権利を根底から覆すことがなければ必ずしも存立危機事態とは言えない、くらいの答弁を期待していた」(19日「アエラ」配信)とのことで質問した本人も驚いたらしい。
高市氏の答弁は、「封鎖」→「米軍の参戦」→「中国軍の米軍攻撃」が前提で、まさに「台湾有事」の展開そのものだ。
米国も「台湾は中国の一部」であることを認めており、中―台紛争に介入するには、当然いくつかのハードルがあるため米国も発言は慎重だ。
有事宣伝し軍拡
「台湾危機」はもともと、21年にインド太平洋軍のデービッドソン司令官が議会で、「2027年頃には中国の台湾侵攻の可能性がある」と述べたことに始まる。だが、実際は危機を煽って軍備増強を求めただけで、根拠などないのだという。
まして現在では米中、日中、中台とも深い経済関係で結びついていて、壊すわけには行かない。
台湾世論も「中国復帰」、「中国からの独立」は、ともに10数%程度。「現状維持」が圧倒的だ、という。いくら2年後でも、「中国軍が海峡を渡って台湾に侵攻する」という事態は考えにくいのが実態だ。
つまり、「台湾有事」は単なる「妄想」にすぎない。高市発言は「危機を自ら作る」発言なのである。
国民の台湾認識
しかし問題は、高市発言に対する世論の動向だ。
高市首相への支持は若い層を中心に65〜70%と高い。「有事発言」についても11月15,16日実施の共同通信の調査によると、「台湾有事で集団的自衛権行使に賛成か、反対か」との問いに、「どちらかと言えば」を加えた「賛成」は48・8%、「反対」は44・2%だったし、テレビ朝日系調査では「日本が集団的自衛権で武力行使に踏み切ることも必要だと思うか」の問いへの回答は、「必要ない」48%「必要」33%、だったという。
かつて日本の戦争は日本と米国の戦争を中心に論じられてきた。だが、実は真珠湾攻撃以前に中国に侵攻したことから始まっている。
台湾はもっと前に日本が植民地化し、中国が解放した。
現在の日中関係は、戦後「日中正常化」が進められ、「一つの中国」「台湾は中国の一部」「内政不干渉」などの原則が確認されて成り立っている。
ところが、一般にはこの「原則」が必ずしも理解されておらず、中国、台湾を「並列」視する間違った議論もある。
発言撤回と不戦
いま、メディアが発言しなければならないのは戦後日本の国是は「どんな場合でも戦争をしてはいけない」ということであり、そのことを国民に浸透させることだ。
高市首相は、個人的見解を述べて、日本政府の立場に混乱を与えた。「間違った」と率直に言って、発言を撤回すべきだろう。それが、彼女自身の信頼回復の道である。
JCJは国交正常化以前からジャーナリストの交流を通じ、「日中不再戦」を誓ってきた。
もともと、「言論」と「武力」は相容れない。この際、メディアは改めて「反戦」を主張すべきではないだろうか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年11月25日号
2025年12月29日
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