2026年01月24日

【経済】サナエノミクスに市場が警告! 国債頼み 薄氷の財政 黒字化命綱℃阨すな 怖い日本版トラスショック=志田義寧

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 高市早苗首相が掲げる経済政策「サナエノミクス」に対して、市場が警告を発している。ドル/円は一時157円台と10カ月ぶりの円安水準をつけたほか、ユーロ/円は1999年のユーロ発足以来初の181円台に乗せた。いずれも円売りに起因しており、その背景にあるのが財政悪化懸念だ。高市首相は「責任ある積極財政」を掲げているが、経済成長と財政の持続可能性という「2つの責任」のうち、財政の持続可能性に関して市場は疑念を拭えずにいる。

●バラマキ補正
 政府は11月28日、25年度補正予算案を閣議決定した。一般会計総額は18兆3034億円にのぼり、このうち11兆6960億円は国債発行で賄う。高市首相は同日、X(旧ツイッター)で「財政の持続性にも十分配慮した」と強調したが、これまでの政権同様、国債頼みの構図に変わりはない。需給ギャップがほぼ均衡する中で、なぜ東日本大震災時を上回る18兆円規模の補正予算が必要なのか。子ども1人あたり2万円の給付など、バラマキ色も目立つ。
 今回の対策には「危機管理投資・成長投資」が6・4兆円計上されているが、そもそもこれは補正予算で対応すべきものなのか。財政法第29条は「予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となった経費の支出」に関して補正予算の作成を認めている。成長投資に果たして緊要性があるのか。補正予算を本予算よりも楽に成立させることができる「第二の財布」にしてはならない。

●PB目標変更
 高市首相は「責任ある積極財政を進めるため」として、基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の単年度黒字化目標を取り下げ、数年単位で確認していく意向を示した。しかし、黒字化目標は、日本が財政規律を維持する意思があることを世界に示す「命綱」である。複数年で示すとはいえ、安易に変更すれば、市場に対して「日本はもう財政健全化を諦めた」という誤ったメッセージを送ることになる。

●信認維持こそ
 懸念されていた12月2日の10年国債入札は順調な結果となった。だからといって、国債消化の不安が消えたわけではない。高市首相は自民党政調会長時代、「自国通貨建てだからデフォルト(債務不履行)は起こらない」と主張している。確かに、現時点でデフォルト懸念が高まっているわけではなく、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)市場も平穏だ。しかし、デフォルトしないからいくら借金をしても良いという理屈は、あまりに乱暴だ。財政への信認は一度崩れれば、修復に多大な時間と痛みを伴う。今の安定は、これまでの財政規律へのコミットメントという薄氷の上に成り立っていることを忘れてはならない。

●英国の教訓は
 筆者は24年12月25日号の紙面で、英国で起きたトラスショックを取り上げた。当時のトラス政権は、財源の裏付けのない大規模減税と財政出動を打ち出し、その結果、市場は「英国の財政は持続不可能」と判断し、英国債、ポンド、株価の「トリプル安」を引き起こした。先進国であっても、市場の信認を失えば瞬く間に経済危機に陥る。もちろん、英国の事例は年金基金の運用失敗など特殊事情もあった。ただ、日本は英国以上に公的債務残高の対GDP比が大きい。サナエノミクスが日本版トラスショックの引き金とならない保証はどこにもない。日本は英国の教訓を忘れるべきではない。

●「日本売り」?
 経済学の標準的な理論である「マンデルフレミング・モデル」によれば、変動相場制下での財政拡大は金利上昇を招き、自国通貨高(円高)をもたらす。リフレ派の一部はこの理論を盾に「財政出動は円安是正にもなる」と主張する。
 しかし、この理論が成立するのは、国家財政への信頼が盤石である場合に限られる。日本の財政が悪化の一途をたどり、「返済能力に疑義あり」と見なされれば、金利上昇による通貨高圧力よりも、財政リスクを嫌気した資本逃避(キャピタルフライト)による「日本売り」圧力が勝る可能性が否定できない。

●物価高さらに
 今求められているのは、無尽蔵の財政出動ではなく、対象を絞った賢い支出と構造改革、規制緩和による潜在成長率の引き上げだ。財政規律を軽視した政策は、通貨の信認低下を招き、結果として輸入物価の高騰という形で国民生活に跳ね返ってくる。高市首相は市場の警告に耳を傾けるべきだ。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年12月25日号 
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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