2026年02月01日

【25読書回顧―私のいちおし】日本を蝕み続ける「国策」事業=高世 仁(ジャーナリスト)

 石破首相は戦後80年所感で「歴史に正面から向き合う」必要を強調したが、その思索のタネ本≠フ一つが猪瀬直樹『昭和16年夏の敗戦』(中公文庫)である。
 太平洋戦争開戦直前、軍民から若手優秀を集めた内閣直属の「総力戦研究所」が、対米戦は必敗との合理的な予測を東條首相に提出した。しかしそれは握り潰され、日本は立ち止まることなく破滅に突き進んでいった─その経緯を描くノンフィクションだ。高市新政権が独善的な危機扇動に傾くいまこそ読まれるべき一冊である。
 なお、この作品をドラマ化した8月のNスペ「シミュレーション」は史実の歪曲と批判され、NHKの劣化≠ェ世間の話題となった。
 
 引き返せずに奈落へと向かう「慣性」の病理は戦後も日本を蝕み続けている。辺野古しかり、原発しかり、リニア計画もまたその典型だ。
 樫田秀樹『混迷のリニア中央新幹線』(旬報社)が鋭く迫っている。彼はいち早く警鐘を鳴らし、2015年度のJCJ賞を受賞している。リニア計画は、トンネル掘削による環境破壊や住民への工事被害をもたらす上、傾国の大赤字事業となるのは必定。だが国策≠ナあり、JR東海が巨大広告主である事情もあって、マスコミは批判を自粛する。受賞から10年、樫田はすでに表面化した深刻な問題を自分の足で丹念に追い、これでもなお敗戦≠ヨ突き進むのかと我々に問う。
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 25年度の開高健ノンフィクション賞は、小松由佳『シリアの家族』(集英社)が受賞した。シリア難民と結婚し二児をもうけた彼女が、「家族」を軸に、24年12月のアサド政権崩壊を挟む激動のシリア情勢を、まさに自分事≠ニして描き切った圧巻の一冊である。
 私は2017年のNNNドキュメントで彼女の番組を制作して以来のご縁だが、ヘイトが横行する今日、家族の中にもある異文化を理解し尊重する姿から、多くの示唆を与えられている。 高世 仁(ジャーナリスト) (中公新書 980円) 
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年12月25日号 
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