核兵器廃絶を目指す科学者たちの国際組織「パグウォッシュ会議」の世界大会が11月1〜5日、広島市内であった。39カ国・地域の科学者や医師、人文・社会科学の研究者と元政府高官ら約190人が被爆地に集い、「対立の激化、外交の弱体化、核兵器使用を抑制してきた規範の崩壊」に警鐘を鳴らすとともに「対立を超えた対話」を求める「広島宣言」を最終日に採択した。
パグウォッシュ会議は、米ソに核軍縮交渉などへの貢献が評価され1995年にノーベル平和賞を受けた。今大会では日本被団協、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)、の受賞計4団体の代表がそろい、核兵器廃絶への緊急的な取り組みを訴えた。
中東からの参加が目立ち、特にパレスチナ自治区ガザの惨状への怒りが色濃く表れた。イラク・フセイン政権下で核開発協力に反対し、アブグレイブ刑務所で10年余の投獄に耐えた核化学者アルシャハリスタニ氏が会長に就任したこともあるのだろう。
5日間の公式、非公式討論を経ての広島宣言は、核抑止依存で真の平和を築くことはできないと強調。「広島と長崎への原爆投下は…未来に続く人類の良心と道徳の破壊を象徴する」と訴えた。憲法9条を「良心の不滅の灯台」としたのは、パグウォッシュ会議の鈴木達治郎執行委員長ら日本側関係者の一致した思いである。
一方、議論の的となった非人道状況の明記や加害国の名指しはなかった。原爆資料館の見学や被爆者との出会いを通じて参加者が何を得たのかも記してほしかった。
とはいえ、「対立を超えた対話」への努力は正当に評価すべきだ。イスラエルのオルメルト元首相とパレスチナ自治政府のアルキドワ元外相、ウクライナ元外相とロシアからの研究者がそれぞれ壇上で席を並べた。パレスチナ人参加者がオルメルト氏を糾弾する場面でも、発言が遮られることはなかった。開幕前日、中国新聞の取材にアルシャハリスタニ会長は、イスラエルによるジェノサイドとオルメルト氏の大会参加に抗議する市民団体からの質問状に自ら言及し「真摯に受け止めている」と語っていた。
パグウォッシュ会議設立の精神は、55年のラッセル・アインシュタイン宣言にある「人間性を心にとどめよ、そして他のすべてを忘れよ」だ。被爆地で非戦・非核を誓った参加者の行動を願うだけでなく、私たちもあらゆる非人道的な状況について人間性を心にとどめているかを自問する機会としたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年12月25日号
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