―メディアの無自覚な伴走もそれを許していないか―
安倍改造内閣の顔ぶれが夕刻にはそろうはずの8月27日の朝ともなると、新聞各紙は、自民幹事長に麻生氏決定、舛添氏初入閣など、
確度の高い、いわゆるマスコミ辞令を、競って大きく報じるにいたっていた。それどころではない。「麻生幹事長」の予想人事は、
すでに産経が8月8日に報じていた。そうなるとあとは他紙もこれ以降、いっせいに主要な党役員・
閣僚の人事をめぐる予想報道に熱を入れだした。
またテレビはテレビで、馴染みの政治家を招き入れた情報番組で、安倍政権の出直し人事に関する話題を、
面白おかしく振り撒きつづけてきた。
8月27日夜7時のNHKニュースが、安倍改造内閣の人事発表を、40分も報じつづけたのには驚いた。この日の民放情報番組は朝から、
官邸からの連絡、呼び込みを待つ、これまでの新聞・テレビの予想で名の挙がった政治家たちに一日中張り付き、喜んで官邸に出かけるもの、
当てが外れて心外な表情をみせるもの、彼ら・彼女ら悲喜交々の姿を伝えていた。
また、早く決まった党役員や主要閣僚の人事は、各紙夕刊にも出ている。いまさらNHKがそんなニュースを、
特番仕立てで報じるまでもあるまい。翌日朝刊には、新陣容フルメンバーのリストも、全員の経歴も、出るに決まっている。だったら、
できたばかりの安倍改造内閣が、実はどんな問題に直面するか、などに的を絞ったニュースをこそ、このときNHKは伝えるべきではなかったか。
冒頭延々と、額賀福志郎(財務相)、町村信孝(外相)、舛添要一(厚生労働相)3氏の官邸呼び込みまでの姿を追った映像をみながら、
これがニュースか、報道かと、ほとほと呆れた。
それにしても、日本のこの手の政局報道は、いったいなんなのだろう。なんのためになされるものなのだろうか。全マスコミが、
8月8日の産経の「麻生幹事長」予想報道以後、8月27日まで繰り広げてきた、安倍政権下の党・政府の新人事の動きをめぐる報道は、
報道各社による各種情報源に対する取材競争の「成果」であることは、間違いない。
そして、その全過程を振り返ってみれば、最後の最後は、それまで予想されたことが、ほとんど狂いなく、そのとおりに収まるという点で、
驚嘆すべきものでもある。だが、これほどの人手と時間とを消費し、断片的な情報を緻密に結び付け、予想を結果へと導く苦労をして、
いったいそれがなんの役に立つといえるのだろうか。
情報源となる老獪な政治屋たちが、情報を餌にこうしたメディアの取材競争を操れば、
彼らの思惑どおりの状況がつくり出されていくだけではないか。面白おかしい人事の話は、人間臭いゴシップをつぎからつぎへと提供、読者・
視聴者の関心をくすぐる。
しかし、それによって政治の動きに興味を掻き立てられた国民は、
そこに生まれる政治家の確執や政党の争いが政治であると思い込むことになりはしないか。本当ならメディアは、
奸智に長けた政治家や迷妄に陥りやすい国民に対して、毅然とした姿勢を維持し、政治とはそういうものではない―
国民主権者自身による幸福追求こそ政治であり、政府・政治家がそれに応えているかどうかが政治問題なのだ、
というものの見方を示していくべきであろう。
7月30日、自分の政権が大敗を喫したにも関わらず、安倍首相が政権続行の意向表明を行って以後の1か月間、
政治は空白のままに放置されてきた。だが、ジャーナリズムは、この空白を政権、政治家の責任に帰する批判を幾分かは試みてきたが、
消極的ではあれ、みずからもまたこの空白の醸成に、加担してきたのではないか。
いやになるほどそのことを感じさせたのが、これでもかといわんばかりの横綱・朝青龍問題の連日の報道だった。
大事なニュースはほかにはないのか、といいたくなる気分だった。現実には、この空白の時期にも、重要なニュースが発生していた。しかし、
それらを読者・視聴者にしっかり示し、問題の重大さについて理解を促す報道はきわめて少なかった。
それどころか、近い将来の自民・民主「大連立」を提唱する読売の社説「大連立民主党も『政権責任』を分担せよ」(8月16日)、
朝日が載せた、カート・キャンベル元米国防次官補代理とマイケル・グリーン前米国家安全保障会議上級アジア部長連名の寄稿、
「テロ特措法 日本は長期的影響を考えよ」(コラム「私の視点」・8月27日朝刊。事実上、
民主党と同党の小沢一郎代表にテロ特措法延長への賛成を慫慂する文章)などを読むと、大新聞は、改造内閣の下でも安倍政権が陥るであろう、
つぎの混乱と空白のあとにくる政界大再編まですでに予想、そこでの新たな政局展開をリードしようとする動きさえみせるようになっているのか、
という疑惑を抱かせる。
それは、かつて新聞が「戦前」をつくり出す協力をしたのと同じ過ちを繰り返すことになりはしないか、という危惧を抱かせる。
JCJふらっしゅ2007/08/29号より転載
◇「戦前回帰」へ危機感薄く<北海道新聞8月25日夕刊>桂 敬一「ニュースへの視点」から=は、下記で読めます。
http://blog.mag2.com/m/log/0000102032/108900833.html

