2007年09月16日

奈良地検 異例の強制捜査につづき編集者を事情聴取

 奈良地検は9月14日、奈良県田原本町の医師宅放火殺人事件にかかわる「秘密漏示容疑」で長男を鑑定した京都市左京区内の精神科医宅、フリージャーナリスト草薙厚子氏宅などの強制捜査に踏み切った。また15日、単行本『僕はパパを殺すことに決めた』の発行元・講談社の担当編集者を参考人として任意で事情聴取したという(→毎日新聞)。(JCJふらっしゅ:Y記者「ニュースの検証」速報版)

 担当編集者を参考人として任意で事情聴取した件を、毎日新聞が報じている。

・奈良放火殺人]講談社の担当編集者を参考人聴取 秘密漏示(毎日新聞)
http://news.livedoor.com/article/detail/3308794/

 記事は、講談社が発表したコメント「今回の強制捜査については甚だ遺憾に思います」とともに、識者等からあがっているとして「少年事件の公開や公表を検討すべきなのに逆行する」という声を紹介している。

 なお、法務省人権擁護局は今年7月12日に、東京法務局長名の勧告「奈良放火殺人事件に関する書籍の出版について」を講談社と草薙氏に出していた。これについては、日本ペンクラブが、<同書の著述と刊行を、一方的に「プライバシーの侵害」や「人権侵害行為」であると断定し、さらに「報道・出版の自由として許容される限度を超えている」と決めつけ、「謝罪」せよと迫るなど、表現の自由にあからさまに介入する内容になっている>と指摘、「表現活動や出版等において人権侵害があったのであれば、それはまず当事者間の話し合いによる解決や、事後的な訴訟による判断を待つべきである。それを、公権力が一方的に書籍の内容にまで踏み込んで判断し、要請や勧告等を行って、その流通・販売を阻害するなどということは、民主主義の基本原理である表現の自由を踏みにじるものである」とする声明を、8月30日付で出した。

・出版社及び著述家に対する法務省勧告に抗議する声明(日本ペンクラブ)
http://www.japanpen.or.jp/seimei/070830.html
・少年の調書漏洩の疑い、鑑定医を捜査へ 奈良・放火殺人(朝日新聞)09月14日06時07分
http://www.asahi.com/national/update/0914/OSK200709130109.html?ref=goo

 著者への事情聴取については、草薙氏が「奈良県警が残した供述調書を含む捜査資料およそ3000枚」を入手したと記述している件が焦点となろう。
 草薙氏は自身のブログで<これまでの著作で当局の内部資料を参考にする場合は、今回のようにそのまま引用することはなかった。そうすれば抗議や勧告を受けることもなく、穏便に出版することができる。実際、法務省からは「なぜ地の文に溶け込ませて書けなかったのか」との質問があった。もちろん、調書の内容を地の文で書くこともできた。しかし、そうすることによって「これはどこまでが真実なのか」と疑う人が出てくる。この事件の真相を知るためには、少年がいかに追い詰められていたか、その心情を伝えることが不可欠である。そのためには、生の声を聞いてもらうのが最も良い方法だと判断した>としている。
 また奈良地検や同警察の動きなどについては、<出版後、様々な批判にさらされることは覚悟していた。そして実際に、奈良家裁からの抗議と東京法務局からの勧告を受けた。だが、「引用するのはダメで、地の文に溶け込ませればお咎めなし」という見解は、本質を見失った判断ではないか>と指摘している。

 地検は、昨秋奈良家裁であった非公開の少年審判で長男の精神鑑定を担当した医師が、家裁から渡された供述調書を筆者の草薙氏に何らかの方法を持って渡したものと疑いで捜査しているが、草薙氏への事情聴取ではその情報源を証言するよう求めるものと思われる。

 また、この勧告について読売新聞が、7月30日に「少年調書引用本 販売中止を 奈良の放火殺人 東京法務局が勧告」の記事を出していたが、そこでは(1)出版直後、少年の父親から人権侵害の被害の申告があり東京法務局で調査していたこと、(2)この法務省勧告にある「被害の拡大防止」という表現(更なる被害を防止するための適切な措置?)で「販売中止」を求めたほか云々という記述をしていた。読売新聞の記事の指摘するように「販売中止を求めた勧告」であったのかどうか、気になっていたが、再度検証する必要が出てきたように思う。

 読売新聞は15日社説で「調書本出版 漏えいは少年法の精神にもとる」を掲載した。そこでも<当時の長勢法相が「司法秩序への挑戦だ」と、調査を指示し、東京法務局は草薙氏と講談社に被害防止を勧告、事実上の出版中止を求めた>と書いている。ペンクラブの指摘するように「当事者間の話し合いによる解決や、事後的な訴訟による判断を待」たずに行われた「勧告」であるにもかかわらず、同紙はその段階での「出版中止」勧告を容認する姿勢をとり、さらに検察当局の極めて異例の強制捜査 についても、「表現の自由といえども無制限なものではない」「少年の保護育成を旨とする少年法の精神にももとる」「興味本位の『表現の自由』は、情報開示の流れを歪(ゆが)めかねない」という理由で、容認する姿勢を打ち出している。
 読売新聞の挙げる理由をもって、販売中止勧告、強制捜査、担当編集者への事情聴取という一連の行為が正当化されうるものであろうか。これについて、読売新聞の報道ありようとともに厳しく検証しなおす必要が出てきたものといえよう。

・調書本出版 漏えいは少年法の精神にもとる(読売新聞9月15日付社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070914ig91.htm

 

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JCJふらっしゅ Y記者の「ニュースの検証」
小鷲順造
http://blog.mag2.com/m/log/0000102032/
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posted by JCJ at 23:14 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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