昨年6月、NHK経営委員長に就任した冨士フィルムホールディングス社長・古森重隆氏は、就任以来、NHKの経営方針などを巡って強引な運営が目立ち、NHK執行部との間で軋轢が高まっていると伝えられている。加えて、この半年ほどの間に、公共放送の責任者としての識見が問われる不穏当な言動を重ねている。古森氏のこうした姿勢を容認するわけにはいかない。
日本ジャーナリスト会議は、古森氏が一連の不穏当な発言を撤回するとともに、経営委員長を辞任するよう求める。
古森氏は昨年9月の経営委員会の席上、選挙期間中に放送したNHKの歴史番組について、政治的中立性を疑問視するような発言をして問題になり、同年末に改正された放送法では、改めて個々の番組への経営委員会の干渉を禁止する条文が付け加えられたほどである。
ところが、古森氏は今年1月の経営委員会で、NHKの監督責任を持つ経営委員会が番組のチェックに関与できないことには違和感があると、放送法の趣旨に反した発言をくり返した。
さらに今年3月の委員会では、「不偏不党を謳った国内放送はいざ知らず、国際放送では政府の論調にたって、日本の立場、国益を主張すべきだ」と、NHKの自主的判断に基づくべき国際放送を、まるで政府の広告塔にでもするかのような不穏当な発言を繰り返した。
このほか、「NHKを国営放送として位置づける」ことを目指す国会議員の一人、自民党の武藤容治氏を励ます会が今年開かれた際には、発起人として出席し、3月の国会でその不見識が指弾されたにもかかわらず、その後の委員会でも「一民間人としてなら、この種の会に出席することまでは禁止されていない」と、開き直っている。
こうした一連の言動は、単なる偶発的なものではなく、古森氏が安倍前首相の強引な後押しで経営委員になった経緯からも分かるように、NHKを政財界の思う通りの放送機関に作り変えようとする意図に沿った、確信的犯なものと言わざるを得ない。
日本ジャーナリスト会議は、権力から自立すべき言論報道機関の責任者として、見識と矜持に欠ける古森氏の辞任を求めるとともに、こうした古森氏を経営委員に任命した政権党の責任を追及する。
併せて、今後、公共放送NHKの経営委員会のあり方や委員の選任が、真に視聴者・市民の意向を反映したものになるよう、関連する諸制度の抜本的な改革を望むものである。
2008年5月10日
日本ジャーナリスト会議