2008年05月28日

後期高齢者医療制度 朝日新聞24日付社説はなぜ説明する側にまわったのか

 79歳の後期高齢者である浜田幸一元衆院議員を起用した自民党お叱りCMは、6月8日投開票の沖縄県議選に合わせて、30日から同県で放映されるという。制度に対する国民的なブーイングの高まりを踏まえて、「困ったことは直せばいい。頼むよ、自民党」とやる内容というから、世も末である。(JCJふらっしゅ:Y記者の「ニュースの検証」)

 そんな無駄に使う金があるのだったら、政党助成金は返上すべきなのではないだろうか。まったく茶番もいいところである。世襲議員ばかりが大半を占める自民党は、もはや政党という名の企業集団にすぎなくなっており、国民の負託には到底耐えられなくなっていると断じるべきだろう。

 27日、自公両党は後期高齢者医療制度を見直すためのプロジェクトチーム会合を開いて、特に国民的反発を招いている年金からの保険料天引きについて、改善策を検討したようだ。その際、高齢者本人からの天引きをやめる代わりに、保険料を世帯主である子どもらの給与などから自動的に徴収する案が有力になったと報じられている(→共同通信)。まったく何をかいわんやである。

 また同日、民主党の厚生労働部門会議で、厚生労働省が同制度の導入に伴い、扶養者の所得税や住民税が負担増となることも明らかにしている(→朝日新聞)。記事によると、これは扶養者の保険料支払いから、被保険者保険料の支払いが切り離されたことが原因で引き起こされるもので、説明を聞いた民主党は「隠れ増税だ」との批判を強めているという。

 野党4党が、後期高齢者医療制度廃止法案を参院に提出したのは23日のことだ。
 毎日新聞が24日の「野党が廃止法案 対案なく攻め手欠き 与党もジレンマ」の記事で、<制度の是非を巡って与野党が国会で論戦する環境は整った>としつつ、<制度の維持にこだわる政府・与党は、世論の批判に配慮しつつ、運用の見直しで押し切る構え>と報じていたが、自民党が沖縄県議選に合わせて流す「ハマコーCM」は、まさにその路線に沿った苦肉の策ということなのだろう。

 ずいぶん国民も甘く見られたものである。

 被保険者保険料の支払いが切り離されたことが原因で、扶養者の所得税や住民税が負担増となる方式なのである。

 そして出ている出直しの案そのものが、高齢者本人からの天引きをやめる代わりに、保険料を世帯主である子どもらの給与などから自動的に徴収する、というのである。

 どうこねくりまわそうと、後期高齢者医療制度は実質増税であり、家族に負担を押し付けようとする内容であることに変わりはないのである。

 この制度については、都内23区26市への意見や苦情が3〜4月だけで20万件を超えたという(共産党都議団調査、毎日新聞)。同都議団は26日、制度の廃止を政府に要請するよう都に申し入れたという。意見や苦情の内容は「年寄りは早く死ねという制度だ」「保険料が高くなった」「保険証はいつ届くのか」「断りもなく保険料を天引きするのはおかしい」(毎日新聞)などだという。

 与党は、政権をつかさどる責任をまっとうしなければならないなどと語って、この悪制度を正当化しているが、それでは日本の社会保障制度そのものを立ち腐らせてきた自公政権の責任はどう取るのか。その責任さえまともに認めもしないで、何が責任政党であろうか。強引に責任を高齢者や家族に押し付け、自らの責任にはほおかむりをするような政党を、与党にすえておくべきと考える人がどの程度いるだろうか。

 責任政党を自認するのであれば、責任逃れを謀る前に、自ら責任を取るべくまず退陣するのが筋ではないか。そうした民主主義の筋目を問わず、自公両党の「案」と、「廃案」を求める野党陣営とどちらがいいか、どちらが国を守る上で適切かなどと、天秤にかけてみせるメディアの報道姿勢にはうんざりだ。

 23日の野党4党の参院への同制度廃止法案提出をうけて、朝日新聞は翌24日、社説<高齢者医療―「廃止」の怒りも分かるが>を掲げ、<制度を「元に戻せ」と言うだけでは、問題は解決しない>とする姿勢を打ち出した。

1)たしかに新制度に対する反発は多くの国民の間に広がっている。
2)だが、(野党が参院に提出した)廃止法案は、野党が多数を占める参院で可決されても、与党が多数の衆院では通る見込みがない。
3)それでもあえて出したのは、この制度への不信や憤りを追い風に、福田政権を揺さぶることができると考えたからに違いない。
4)しかし、制度を「元に戻せ」と言うだけでは、問題は解決しない。
5)新制度はだれがどう負担するのかあいまいな点をはっきりさせておこうとするものだ。
6)老人保健制度は、お年寄りの保険料も現役世代の保険料もまぜこぜだった。現役世代の負担が際限なく膨らみかねないという不満もあった。
7)後期高齢者医療制度も老人保健制度も、お年寄りの医療費を会社員の健康保険組合や国保の保険料と税金で支えることに変わりはない。
8)税金の投入は後期高齢者医療費の半分と決められているが、必要に応じて増やすことを明確に打ち出すべきだ。
9)財源問題から逃げていては、「うば捨て山」という批判がいつまでもつきまとい、制度が定着しない。


 ブーイングが国民的に高まり、世論が過熱してくるとそれを冷まそうとする論陣を張る体質は、依然「健在」のようだ。朝日新聞の論評としての使命感は、必ずしも国民の側に立つものではなく、「国」の側に立って「国」のバランスを維持し、「国」を存続させることに重点が置きなおされるときがときどきある。

 国民の不満や不信をあおるのではなく、国の将来を冷静に見つめる必要があるのだという「確信」に基づくものなのであろう。だが、それならなぜ与党による社会保障制度崩壊を厳しく追及し、退陣を求めないのか。それを追及しつつ、これからの日本の社会保障制度のつくりかえを提言しようとしないのか。

 「新制度はだれがどう負担するのかあいまいな点をはっきりさせておこうとするものだ」などと、みずから解説に乗り出し、新聞としての独自の提言から逃走するのか。なぜ自ら大局観に立っているように装う必要があるのか。なぜ読者・市民よりも「国」を優先するのか。

 メディアは本源的に、市民とともに市民社会づくりへの道を歩むべき宿命を負っている。読者、視聴者なしにメディアは産業として成立しないからだ。情報源として公権力にすがり、収益源として広告に依存することで、メディア企業は成長し成熟を果たしてきたが、その所帯を維持し、生き残りをはかることを優先するとき、メディアはそのときの国という機構と、そのときの資本の論理に引きずり込まれる。

 読者、視聴者は、いかにインターネットが普及した社会にあっても、社会状況に関する第一次情報の多くをマスメディアに依存している。入手した情報をどう「読むか」、どう「判断するか」、どのような「行動」に結びつけるかは、マスメディアよりも個々の属するさまざまな社会的集団や人間関係に大きく依存して決断される。

 そのことを知っていれば、メディア自らが熱した世論を「冷まさねば」ならないとの使命感をいだかねばならないという指令そのものが、言葉とは裏腹に、自らの保身を目指すものでしかないことに気付くはずである。

 第二次世界大戦後、「国民とともに立つ」ことを宣言して再起した朝日新聞が、ときとしてマッチポンプを演じてみせるわけだが、そこには世論を喚起するのは自分たちであるという自負が、世論を誘導しコントロールするのは自分たちであるという思い上がりに歪み、転じてしまう習癖として受け継がれていないだろうか。

 私はこの24日付の社説だけをみて槍玉にあげたいのではない。
 22日付の<宇宙基本法―軍事には明確な原則を>に引き続いて、23日付でも<宇宙開発―無駄を省いて透明に>と可決された宇宙基本法を取り上げた際の、論評の「揺れ」が気になった。

 22日付では若干「揺れ」ながらも、
1)衆参両院合わせて、国会での実質的な審議はたった4時間。日本が宇宙を軍事利用することに堂々と道を開く宇宙基本法が成立した。宇宙利用については、平和目的に限るとした69年の国会決議に基づき、「非軍事」が原則だった。だが、基本法は「我が国の安全保障に資する」と付け加えることで、軍事目的にも使っていく方向へ転換させた。
 と書き出し、
2)中国やロシアを想定した将来のミサイル防衛構想に日本の衛星が組み込まれるとなれば、話は違う。東アジアや世界の緊張を高め、軍拡競争の引き金になりかねない。こうした役割を日本が担っていいはずがない。
 と指摘した。

 23日付でも続いて宇宙基本法を取り上げたわけだが、その目的は、前日の社説をさらに掘り下げるというより、前日の内容を巧妙に修正することに最大限神経が配されたものになっているように思えた。

 なぜなら、23日付では、
3)インドや中国をはじめ、韓国なども宇宙開発に力を入れ始め、世界の宇宙地図は様変わりしようとしている。日本はこの10年ほど、ロケットの打ち上げ失敗や衛星の故障が続き、相対的な地盤沈下は否めない。日本の宇宙技術を鍛え直し、国民生活に役立てるだけでなく、国際的にも貢献したい。
 と、前日の社説を否定はせずに軸足をずらしつつ、
4)日本独自の技術をどこまで持つべきか、政府は費用対効果を冷静に見極めなければならない。
 として、読売とは一味違ったかたちを模索して政府の「指南役」をつとめようとし、
5)もっと気がかりなのは、軍事の分野が広がることで、透明性がますます失われるのではないかということだ。現在の情報収集衛星は多目的とうたわれているのに、利用の実態は一切明らかにされていない。納税者に対する説明責任が果たされていないのだ。無駄をなくし、身の丈にあった計画を立て、柔軟に見直し、情報はそのつど可能な限り公開していく。 巨費を要する宇宙開発だからこそ、そうした厳しい姿勢が政府にいっそう求められる。
 として、まるで日本経済新聞が16日付で出した「宇宙基本法、具体化への課題」が示した方向と見まがうような内容へと収斂されている。

 明らかに、宇宙基本法の成立に警鐘を鳴らし監視の必要性を促す立場(それでも22日付でもだいぶトーンは弱められている気がするが)から、宇宙産業を育てることは必要だが、産業界の都合に引きずられて、道路やダムのような無駄の多い公共事業にしてはいけない、と、産業と財政の側面に軸足を移してしまったのである。

 私は、どのような事情や経緯があって、このように二日連続で同じテーマを取り上げ、軸足を修正してみせるようなプロセスにいたったのか、知りたいところだ、と思っていたわけである。

 そして24日には、<高齢者医療―「廃止」の怒りも分かるが>として高齢者医療制度の説明役に回り、もう一本の社説も<アジア演説―福田さん、その言や良し>を掲げて、アジア太平洋地域の政治家や有識者を前にしての福田首相の演説について、
1)首相は、日本の目指す将来像として「困った時に頼ってもらえる国、一緒に協力しようと思ってもらえる国でありたい」と語った。世界やアジアの平和のために、労苦を惜しまず汗をかく「平和協力国家」として自らを鍛えていくとも述べた。
 として、「福田さん、その言や良し」ともちあげてみせた。
2)演説では、北朝鮮の核や中国、ミャンマーの人権問題に対しては静かな語り口に終始した。抑制的すぎるとの批判もあるかもしれないが、強い言葉が必ずしも外交上の効果を生まないことも、首相が学んだ教訓なのだろう。
 という、産経新聞もびっくりのちょうちん解説つきである。

 25日は<アフリカ開発会議―食糧と気候という難題>。福田政権が力を入れ始めた「アフリカ」だが、福田のふの字も書かなかった。
 26日は<「低炭素」への挑戦―あらゆる処方を動員して>で、北海道洞爺湖サミットを7月に控え、福田首相が目標を打ち出そうとしている二酸化炭素(CO2)の排出量について取りあげた。
 この社説の締めは、「世界一の省エネ大国を日本は実現した。低炭素に向け、自信をもって多くの人材と資金を集中させていこう」である。

 民主党を巻き込んで宇宙基本法を成立させた国会の情勢をふまえ、自・民大連立の流れを先取りしようとする動きか、はたまた宇宙基本法案に反対した社民・共産と一線を画するためのアリバイ作りが目的の恣意的な路線修正か、あるいは宇宙産業や洞爺湖サミットを控える環境産業への広告集稿上などの気遣いか。

 それとも部数頭打ちにあえぐなか、自民・社会による55年体制の再現を期待し、読売VS朝日2強だけの生き残りを目指す仕掛けや思惑でも背後にあるのか。

 洞爺湖サミットにむけてメディアがどのような報道姿勢をとるのかは、前にも指摘したとおり、大事なチェックポイントとなるのは間違いない。巨大部数を売り物に、日本の世論はわが手中にありなどと世界のあちこちを公言してまわるのは、何も読売新聞の某会長だけではなさそうだ。大手紙内部における資本の論理への追従の論理とジャーナリズムとの緊張関係が、そのまま紙面にあらわに表出される時期を迎えつつあるとみておくべきだろう。

 市民とジャーナリストの連携によるメディアチェックが、いよいよ大事になっている。


子からの天引き案有力に 高齢者医療の保険料(共同通信)27日(火)19:53
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/politics/CO2008052701000639.html
<後期高齢者医療制度>野党が廃止法案 対案なく攻め手欠き 与党もジレンマ(毎日新聞)
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20080524ddm002010095000c.html?C=S
<後期高齢者医療制度>3〜4月の意見や苦情、20万件超−−共産調査 (毎日新聞)
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/politics/20080527ddlk13010348000c.html
高齢者医療―「廃止」の怒りも分かるが(朝日新聞24日付社説)
http://www.asahi.com/paper/editorial20080524.html
宇宙基本法―軍事には明確な原則を(朝日新聞22日付社説)
http://www.asahi.com/paper/editorial20080522.html
宇宙開発―無駄を省いて透明に(朝日新聞23日付社説)
http://www.asahi.com/paper/editorial20080523.html
アジア演説―福田さん、その言や良し(朝日新聞24日付社説)
http://www.asahi.com/paper/editorial20080524.html

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JCJふらっしゅ
Y記者の「ニュースの検証」=小鷲順造
http://archive.mag2.com/0000102032/index.html
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想像しよう。日本国憲法を遵守する日本を。少しだけよくなった世界を。国民の生存権を守り、海外戦地に自衛隊を派遣せず、後期高齢者医療制度が廃止された日本を。想像できればそれは必ず実現できる。みんなが想像しているのだから、実現できない理由をみつけるほうが困難なのは当然のことではないか。

posted by JCJ at 02:46 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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