2026年02月14日

【Bookガイド】2月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

ノンフィクション・ジャンルからチョイスした本の紹介です(刊行順・販価は税別)

◆武井彩佳『ホロコースト後の機能不全━ドイツ、イスラエル、犠牲と加害の関係』角川新書 2/10刊 980円
なぜドイツはイスラエルを批判できないのか? イスラエルのガザ攻撃はホロコーストの記憶とも結びつけられる。ドイツによるイスラエル支援は、補償にとどまらず武器供与まで及んだ。イスラエルへの安全保障は「国是」となっていた。ナチズムの克服は、より良い世界をつくるためではなかったのか。ドイツとイスラエルの特殊な関係を明確に分析し、ガザ紛争を防げなかった世界構造のねじれを解く。
 著者は1971年、愛知県生まれ。早稲田大学比較法研究所助手などを経て学習院女子大学教授。専攻はドイツ現代史、ホロコースト研究。著書に『歴史修正主義』(中公新書)など。
           
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◆高橋信雄『裁かれた<偽りの科学>━原爆訴訟判決文から見えた真実』 花伝社 2/10刊–2700円
この国は、被爆者たちとどのように向き合ってきたのか。国の被爆者対策として成立した被爆者援護法。しかし援護申請は一方的に却下されるようになり、また残留放射線による被爆も認められず、被爆者たちは不合理に沈黙を強いられることになる。司法に正義を求め、国との裁判に挑んだ被爆者たち。〈科学〉の名の下に被爆者の訴えを退けようとした国は、いかにして裁かれたのか。救済を求めて闘った、被爆者たちを追うドキュメンタリー。
 著者は1950年生まれ。九州大学経済学部卒。元長崎新聞論説委員長。現在はノンフィクション作家。著書に『鈴木天眼 反戦反骨の大アジア主義』など。
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◆松谷満『「右派市民」と日本政治━愛国・排外・反リベラルの論理』朝日新書2/13刊 870円
突然の<自己チュウ解散>そして総選挙の顛末に現れているように、異形の右派勢力が日本を動かす!? 安倍政権を熱狂的に支持した「岩盤保守層」。安倍氏の死後、かれらがよりどころにしたのは高市氏やトランプ氏。さらには参政党、日本保守党といった新たな右派アイコンの台頭だった――。いま日本政治を左右する、新しい「右派」の実像に迫る。
 著者は1974年、福島県生まれ。名古屋大学文学部を卒業後、大阪大学大学院人間科学研究科で博士課程修了。中京大学教授。共編著に『外国人へのまなざしと政治意識』など。
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◆平田オリザ『寂しさへの処方箋━芸術は社会的孤立を救うか』集英社新書 2/16刊 960円
いま日本は他国とは違う独特の「寂しさ」「いらつき」「不安」に覆われている。終わりの見えない不況、アジア唯一の先進国からの転落と国力の衰退などが、その背景にある。いかにして克服できるか、「日本再生のカギは芸術文化立国をめざすところにある!」と提案し、その試みを現代に合わせてさらに進化させ、モノが飽和しコトの消費が求められる時代に芸術と観光が果たせる役割、社会的孤立を救うための文化による社会包摂の動き、教育や地方が実現可能な少子化対策など、新しい処方箋を再提案する。
 著者は1962年、東京都生まれ。劇作家・演出家。芸術文化観光専門職大学学長、青森県立美術館館長。著書に『新しい広場をつくる 市民芸術概論綱要』など。
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◆上月豊久『プーチンの歴史認識━隠された意図を読み解く』 新潮選書 2/18刊 1650円
権力者にとって歴史は「政治の道具」そのもの! 決して頭の中を覗かせない男の本音は、彼が発表してきた論文やスピーチの中にある。ロシアの成り立ち、正教の役割、統治の基本概念――難解とされる彼の論文の数々に、何が省かれ、歪曲されているのか。プーチンの「洗礼の十字架」とは何か。なぜ「大動乱の時代」を嫌悪するのか。前ロシア大使が独裁者の「内なる思考」を浮き彫りにする。
 著者は1956年、東京都生まれ。外務省欧州局長などを経てロシア連邦駐箚特命全権大使を務める。現在、東海大学平和戦略国際研究所所長・国際学部教授。
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◆大塚真祐子ほか『書店員の怒りと悲しみと少しの愛』knott books 2/20刊 1900円
出版不況といわれて久しい。売り上げがピークの半分になっても、いまだ改善する兆しは見えない。書店員のやる気を削ぐような無駄や理不尽がまかり通っている。いまどれほど書店の現場が疲弊しているか、書店員が何を考えて仕事をしているのか、何に怒っていて、何に不満があるのか、知られざる実態を明かす。さまざまな立場の書店員による、書店の苦境や書店員であることへの思い、出版業界の不満や出版社への不信感、本や読者への思いを一人称で綴った怒りと悲しみと愛の記録である。
 著者・大塚真祐子のほかに、水越麻由子/篠田宏昭/前田隆紀/笈入建志/モーグ女史/小国貴司/嶋田詔太の7人による現場からレポート。
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◆江原由美子『フェミニズム』岩波新書 2/25刊 1060円
いったい「フェミニズム」とは何なのか。どのように生まれ、何を主張してきたのか。「女性である」という「普通」のことに差別や抑圧を見出すという「常識外れ」な主張は、どのように生まれ、いかなる変革を成し遂げてきたのか。共感と反感の嵐にさらされながら、多様な展開を生んでいる思想・運動。そのあゆみを長期的な視点から振り返り、フェミニズムとはいったい何なのか、わかりやすく語りかける。
 著者は1952年、神奈川県生まれ。東京都立大学名誉教授。神奈川人権センター理事長。日本のフェミニズム理論に大きな功績をあげる。著書に『持続するフェミニズムのために』など。
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2026年02月11日

【おすすめ本】雨宮処凛 『25年、フリーランスで食べてます──隙間産業で生きていく』―仕事をこなす秘策・鉄則を大公開!=鈴木 耕(編集者)

 めっちゃ(ちょっと若者風に)面白い「労働問題解説書」である。どう すれば25年間もフリーランスで食べてこられたのか、その仔細な道筋。 その解説が見事に腑に落ちる。
 でもこれは著者の華麗なトリック。第1章「フ リーランスのノウハウ、すべて晒します」。小見 出しを追っていくだけで読者をその気にさせる。

 でもよく読むと、かなりヘヴィな内容だ。確かにこれを実践できれば、あなたもフリーランスとして、1本立ちできるかもしれない。その気にさせる筆力は、さすがに25年の蓄積が生きている。 文章中のゴシック活字を拾い読みしていくだけで、内容がきちんと理解できる仕組み。
 フリーランスの鉄則の数々、そんじょそこらの人間にできる技じゃないよな、秘策の公開だ。
 隙間を狙え、締め切りに遅れるな、好きなことは無償でもやれ、いつでも辞められる態勢を作っておけ、自分しかできないことをしろ、岐路に立ったら危ない方へ、SNSから身を守る方法、絶対にドタキャンしないなどなど。

 これは仕事上のアドバイスだが、極めて真っ当な生き抜く術でもある。つまらぬ「自己啓発本」 など足元にも及ばぬ具体的な道筋が懇切丁寧に示されている。
 働くことの意味、つまり労働問題解説書としても超一流なのだ。そんな生き方をしている人たちへのインタビューや、弁護士に訊くフリーランスの自衛法も。そして圧巻は雨宮処凛の半生を綴った第4章だ。疾風怒濤の25年がまるで映画のよう…。めっちゃ面白かったよ! (河出新書 1,100円)
         
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2026年02月07日

【おすすめ本】荻野 富士夫『治安維持法と「国体」』―いま日本で急速に進む 「新しい戦中」前夜の危機=藤田 廣登(治安 維持法犠牲者国家賠償要求同盟顧問)

 昨年は治安維持法成立100年を迎え、治安維持法暴圧を告発する人々の運動が盛り上がりをみせた。同時に同法の研究も顕著な進展があった。
 その一つが、荻野氏の『検証・治安維持法―なぜ「法の暴力」が蔓延し たのか』(平凡社)であ り、さらに本書である。
 前著の末尾で、荻野氏は「戦前を席巻した『国 体』はまだ出現していないが国際緊張の暴発、排外主義の沸騰は『新しい戦中・新しい国体』を発 現」すると警告していた。
 治安維持法は第一条で「国体を変革するために結社を組織・加入」を犯 罪とした。その「国体」 とは「大日本帝国憲法」 に規定される天皇絶対の専制支配権力である。
 本書の第一部は、どのようにして「国体」が治 安維持法の根幹に据えられ、拡張されて行ったのかを、三つの論考で解明し、社会変革を進める運動を抑え込むだけではなく、思想・学問を統制し 戦争遂行体制構築に結びついた、と結論する。
 第二部では、日本共産党が「君主制」・「天皇 制」をどう捉え、闘かっ たか、に焦点を当てる。
 荻野氏は、「新しい戦 前」という表現を、タモ リ氏発言(2022年) より4年も早く使って,わが国の軍事大国化とそれに並行する現代版治安維持法体制の構築に警鐘を乱打し、本書では「新しい戦中」前夜と表現している。
 いま進む高市極右政権の危険性と参院選で躍進した参政党が、大日本帝国憲法と教育勅語をベースに、「国体」を盛りこ んだ「新日本憲法」(構想案)を掲げているだけに、本書は広く読まれてほしい。(大月書店 2,800円)
 
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2026年02月01日

【25読書回顧―私のいちおし】日本を蝕み続ける「国策」事業=高世 仁(ジャーナリスト)

 石破首相は戦後80年所感で「歴史に正面から向き合う」必要を強調したが、その思索のタネ本≠フ一つが猪瀬直樹『昭和16年夏の敗戦』(中公文庫)である。
 太平洋戦争開戦直前、軍民から若手優秀を集めた内閣直属の「総力戦研究所」が、対米戦は必敗との合理的な予測を東條首相に提出した。しかしそれは握り潰され、日本は立ち止まることなく破滅に突き進んでいった─その経緯を描くノンフィクションだ。高市新政権が独善的な危機扇動に傾くいまこそ読まれるべき一冊である。
 なお、この作品をドラマ化した8月のNスペ「シミュレーション」は史実の歪曲と批判され、NHKの劣化≠ェ世間の話題となった。
 
 引き返せずに奈落へと向かう「慣性」の病理は戦後も日本を蝕み続けている。辺野古しかり、原発しかり、リニア計画もまたその典型だ。
 樫田秀樹『混迷のリニア中央新幹線』(旬報社)が鋭く迫っている。彼はいち早く警鐘を鳴らし、2015年度のJCJ賞を受賞している。リニア計画は、トンネル掘削による環境破壊や住民への工事被害をもたらす上、傾国の大赤字事業となるのは必定。だが国策≠ナあり、JR東海が巨大広告主である事情もあって、マスコミは批判を自粛する。受賞から10年、樫田はすでに表面化した深刻な問題を自分の足で丹念に追い、これでもなお敗戦≠ヨ突き進むのかと我々に問う。
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 25年度の開高健ノンフィクション賞は、小松由佳『シリアの家族』(集英社)が受賞した。シリア難民と結婚し二児をもうけた彼女が、「家族」を軸に、24年12月のアサド政権崩壊を挟む激動のシリア情勢を、まさに自分事≠ニして描き切った圧巻の一冊である。
 私は2017年のNNNドキュメントで彼女の番組を制作して以来のご縁だが、ヘイトが横行する今日、家族の中にもある異文化を理解し尊重する姿から、多くの示唆を与えられている。 高世 仁(ジャーナリスト) (中公新書 980円) 
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年12月25日号 
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2026年01月28日

【25読書回顧―私のいちおし】「近くて近い」日韓関係=鈴木 伸幸(東京新聞編集委員)

 米トランプ大統領は自国中心主義を鮮明にし、日本では「日本人ファースト」を唱える政党が躍進。ウクライナに侵攻したロシアには中国と北朝鮮が急接近─。地政学的な変化が進む中、民主主義や資本主義といった価値観を共有する隣国の韓国は、日本にとって重要な外交パートナーだ。

 「近くて遠い国」とも言われたが、今年、誕生した革新の李在明大統領は「実用外交」を標榜。
日韓は「近くて近い」関係に成熟しようと努める。それを再考するための良書が、前駐日韓国大使の朴母、『誠信交隣』(中日新聞)だ。2012年から21年にかけて書かれたコラムを中心に、最近の講演会議事録なども加えて編集された。
 「温故知新」というほど古くはないが、日米でも研究活動した著者が国交正常化60年を迎えた日韓関係を軸に米国、中国、北朝鮮も交えて東アジアを論考した本書は今こそ読む価値がある。
    
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 「戦後80年」というメモリアルイヤーの今年は、終戦で始まった悲劇にも目を向けてはどうだろうか。城内康伸『奪還』(新潮社)は、朝鮮半島北部で難民化した約25万人の邦人を帰国させんと命懸けで奔走し、後に「引き揚げの神様」と呼ばれた松村義士男の闘いの記録である。家を追われた邦人は何万人もが飢えと疫病に行き倒れた。そんな中、松村は約6万人を救った。本書は12月のBS-NHK「昭和の選択」の原案になった。

 現在進行形の「戦後」もある。昨年末に終わるには終わったシリア内戦。小松由佳『シリアの家族』(集英社)はシリア人と結婚し、2人の子どもがいる著者が内部から見た取材記。独裁制による恐怖政治が敷かれ、政府軍と反政府軍が対峙。
 その反政府軍も一枚岩ではない。市民に複雑な分断が生まれ国内外で一千万人超が難民化。それが欧州で排外的な極右政党の台頭を招く一因に。内戦は終わっていない。(中日新聞 2,200円)
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年12月25日号  
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2026年01月25日

【おすすめ本】友寄 英隆『人間とAI──社会はどう変わるか』―科学的社会主義の立場から AIとの対応を考える=栩木 誠(元日経新聞編集委員)

 レストランに行くとロボットが店内を駆け巡り、インターネットで用語検索をすると生成AIによる解説が登場する。今や私たちの生活の至るところに、AIが浸透している。「AIが透明性、管理、運営などに使えないようにする」とか「その脅威を絶対視する風潮が強い」なか、支配的にAIの発展を身に着け、AIに負けぬようデジタルファシズムに悪用する懸念も深まる。

 私たちが、このAIといかに向き合うか、真剣にいかに、いま極めて重要に考えるべき時代が到来している。理論的AI論や、体験的AI論、社会的AI論という3つの側面から、その糸口をきめ細かに解き明かしている貴重な一冊である。
 生成AIは、私たちの生活、社会をどう変えるのか?「AIは人の心の働きに近づくか?」−こうした多様な疑問や課題について、「マルクスやエンゲルスならばどう答えるか?」と、著者は思いをはせる。そう考えて科学的社会主義の立場から解明を試みている。本書の特徴がある。

 中長期的に、AIの研究と開発は一層進む可能性が高い。それだけにAIには、利便性と危険性の両面があるだけに、その研究は、21世紀に生きる人類にとって、最重要課題でもある。

 現下のような大資本の管理・運営下ではなく、私たちに役立つよう上手に使いこなしていける術を身に着け、AIの発展に負けぬよう、AIと真摯に向き合い、それをいかに社会発展に役立たせていくか、いま極めて重要になっているのである。「広く深い認知能力と知的判断力を備えた人間はAIが進化しても決して負けない、負けてはならない」。この指摘が重く響く。(新日本出版社 2200円) 
         
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2026年01月19日

【Bookガイド】1月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

 ノンフィクション・ジャンルからチョイスした本の紹介です(刊行順・販価は税別)

◆松場登美『とみとふく━76歳、古民家ひとり暮らしの登美さんと、保護犬フレンチブルドッグ福の幸せな日々』 小学館 1/8刊 1700円
数年前に後進に道を譲り、ひとり暮らしの登美さん。娘の由紀子さんがペットとの暮らしを提案。やってきたのは保護犬で、ちょっぴり不細工な女の子のフレンチブルドッグ。「福」と名付けたその子が登美さんの古民家にきたその日から、登美さんの第二の人生が輝きはじめた!
 著者は1949年、三重県生まれ。島根県大田市大森町の古民家を改修し、アパレル店「群言堂」をオープン。デザイナーとしても長年活躍。石見銀山生活文化研究所の所長を務める。
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◆山口二郎『現代ファシズム論━何が民主主義を壊すのか』朝日新書 1/13刊 900円
米国のトランプ再選、欧州での極右政党の勃興、日本人ファースト……いま世界は自国第一主義に回帰し、民主主義が危機に瀕している。「分断」「対立」「排外」の潮流が、なぜ生まれたのか。その原因を世界の戦後政治の政策からひもとき、混迷の時代を乗り越える術を提言。
 著者は1958年生まれ。法政大学教授。行政学・政治学を専攻。著書に『政権交代とは何だったのか』『民主主義は終わるのか――瀬戸際に立つ日本』(以上、岩波新書)、『民主主義へのオデッセイ──私の同時代政治史』(岩波書店)
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◆森永卓郎+古賀茂明+マガジン9編集部『森永卓郎の戦争と平和講座』集英社新書 1/17刊 960円
がん闘病の末、2025年に亡くなった経済アナリストの森永卓郎。「モリタク」の愛称で親しまれた彼が、2023年までの18年にわたって「マガジン9」に寄稿した連載コラムより、時の政権に切り込み、経済理論に裏打ちされた国家と政治のありようや平和で平等な社会の実現について提言した、38のタイトルを選んで新書化。ここ15年ほどの諸問題を森永はリアルタイムでどう考え、いかに対峙したのか。その軌跡には、これからの日本を生きる私たちへのヒントが詰まっている。
 解説は、元経済産業省の改革派官僚で政治経済評論家の古賀茂明が担当。森永が危惧し予言した延長線上にある、日本の現状を分析する。
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◆小宮正安『 モーツァルトが駆け抜けた時代』春秋社 1/20刊 3200円
「モーツアルトが駆け抜けた時代」.jpg 天才作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-91)は、どのような人生行路を歩んだのか。ヨーロッパ社会全体が大きく地殻変動を起こした激動の18世紀後半。変容してゆく政治・社会・文化的な状況のなかで地政学から文化政策まで、歴史の舞台背景を描き出すとともに、〈早逝の神童〉というイメージをはじめ、破天荒な逸話の数々を同時代の目線から読み解く!
 著者は横浜国立大学教授。著書に『コンスタンツェ・モーツァルト』(講談社選書メチエ)、『モーツァルトを「造った」男』(講談社現代新書)など。
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◆白石太一郎『古墳とヤマト政権━古代国家はいかに形成されたか』吉川弘文館 1/26刊 2200円
3世紀後半〜7世紀にかけて、日本列島各地に数多く造られた古墳。これは何を物語るのか。古墳は単なる首長たちの墓ではない。それぞれの首長たちが担った、その時代の政治的性格をも併せ持つ。その特質を考古学の視点から、一つ一つ丁寧に解明する。東アジアでも特異な大きさや分布から、日本独自の古代国家形成の歩みを描く。
 著者は1938年、大阪府生まれ。奈良大学教授、大阪府立飛鳥博物館館長などを歴任。現在、国立歴史民俗博物館・総合研究大学院大学名誉教授。著書に『古墳と古墳群の研究』『古墳からみた倭国の形成と展開』など。
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◆青木 理『百年の挽歌━原発、戦争、美しい村』集英社 1/26刊 2000円
2011年4月11日深夜、東北の小さな村で、百年余を生きたひとりの男が自ら命を絶った。厳しくもゆたかな自然に囲まれ、人と土地が寄り添ってきた村で、何が彼をそこまで追い詰めたのか。その死の背景を追ううちに見えてきたのは「国策」という名の巨大な影と、時代に翻弄される人々の姿、そして戦争の記憶だった。美しい村の記憶と、そこに生きる人々の尊厳を描く渾身のルポルタージュ。
 著者は1966年、長野県生まれ。1990年に共同通信入社。ソウル特派員などを経て、2006年に独立。フリージャーナリストに。著書に『日本の公安警察』、『安倍三代』『日本会議の正体』など。
  
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2026年01月14日

【おすすめ本】増渕あさ子『軍事化される福祉 米軍統治下沖縄をめぐる「救済」の系譜』=謝花直美(琉球大学准教授)

 沖縄施政権返還(復帰)50年の2022年、沖縄県内の報道は占領下の様々な事象を取材した。
 沖縄基地問題の源流となった、復帰闘争や政治分野からのアプローチに加え、人々の暮らしにも焦点をあてた企画が登場した。だがどれも「アメリカ世(ゆー)」を懐か しさという視点から取り上げる傾向は、「復帰」を人々の生活から捉えることの難しさを、つくづく感じさせた。
 占領下の人々の生存は、いかに書くことができるのだろうか。私にとっての長年の問いに応えたのが、立命館大学准教授の著者が刊行した本書である。

 沖縄がからめとられた米軍の軍事占領下で、日本と米国がふるう主権権力の暴力に、さらされていた多くの人々の「生への意志」を描きだした著作である。
 一例として公衆衛生看護婦がある。沖縄戦で多くの医療者が失われた中で、米軍占領とともに登場した専門職は、地域の医療に大きな貢献した。沖縄の人々の生存を支える一方で、米兵の健康管理の公衆衛生策に沿うものでもあった。軍事優先に対する複雑な思いを抱きながら、女性たちは眼前の人々を救うことで、占領が強いる限界を超えようとした。

 米軍は沖縄を反共の砦として「復帰」運動を反米的とし弾圧し、占領施策に協力する沖縄の人々の分断を試みた。その結果、占領下の事態は現在も語りにくさが残る。当時、声を上げられなかった人々がほとんどだ。しかし、著者は指摘する。
 「こうした人々の日常的な『気付き』や『抗い』は、一般的な『抵抗』とはみなされなかったかもしれないし、『革命』の瞬間へと結実することはなかったかもしれない。それでもその言葉と行動は私たちが『あったかもしれない』現在を想像しその地点から未来を構想できるような『裂け目』を示してくれるのである」
 沖縄戦に続く占領、「復帰」後に「軍事化される福祉」のような仕組みが、沖縄で継続し続けているのを気付かせる。(インパクト出版会3200円)
         
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2026年01月05日

【おすすめ本】西方ちひろ『ミャンマー、優しい市民はなぜ武器を手にしたのか』―非暴力から武装闘争へ──痛苦の転換=鈴木 耕(編集者)

 世界はいま、血と殺戮に満ちているとしか言いようがない…。 

 本書はミャンマー軍事政権の下で、市民たちの優しく切ない非暴力抵抗が、ついに武器を手にした闘争へと変貌していく過程を、現地での体験をもとに書き記したもの。軍事独裁政権が持つ悪辣な抑圧と残虐な暴力の凄まじさが際立つ。

 2021年の軍事クーデターは、国民が抱いた民主主義への希望を、卵の殻を踏み潰すようにあっさりと打ち砕いた。民主化のシンボルであったアウンサンスーチー氏は自宅軟禁され、民主選挙の結果は軍靴の下に壊滅した。だがそこから人々の抵抗が始まる。SNSで集まり、鍋を打ち叩いて抵抗の意志を示し、さまざまな手段を使って全国で闘いを繰り広げる。

 著者は国際開発の仕事で大都市ヤンゴンに暮らしていたが、銃口と抵抗を目の当たりにした。それを国際社会に伝えるべく、SNSでイラストなども駆使して状況を発信していく。報じられることの少ないミャンマーの市民たちの闘いが、リアルな臨場感を伴って記録される。追いつめられてついに非暴力抵抗から武器を手にした武装闘争へ転換していく若者たちの痛苦な想いが悲しい。

 著者は日本のミャンマーへの関わりにも目を向ける。政府も企業もミャンマー国民よりも軍事政権を優先している現状を厳しく批判する。
 この12月には選挙が行われるが、民主的とはとうてい言い難い軍事政権下の偽装選挙だ。やむを得ないとはいえ銃を執った若者たちへの著者の眼差しが切ない。(集英社 1800円)
           
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2025年12月28日

【おすすめ本】兵庫県保険医協会/協会西宮・芦屋支部 『阪神・淡路大震災30年、南海トラフ巨大震災に備える』―「災害列島日本」に必要な医療支援のノウハウ満載=杉山 正隆(ジャーナリスト)

 1955年1月17日午前5時46分に発生した大きな揺れ。死者・行方不明6437人、住宅全壊10万棟にもなる阪神・淡路大震災だ。
 散乱するカルテや医療機器を片付け、けが人の診療や検死に追われながら、トラックやバイクを手配して、医院を災害対策の拠点にした医師がいた。西宮市の広川恵一さんだ。

 翌日には自院を支援やボランティア受け入れの窓口にし、地元の兵庫県保険医協会の全面的な協力を得て、全国から医師らを受け入れ、ニーズの把握、水、医薬品の配送をするなど、獅子奮迅の 努力が実り、現在の災害支援の先駆けとなった。
 被災地での医療は時間経過とともに大きく変化する。発災直後は命を助け重症化を防ぐ外傷処置や検死、避難所の頻回訪問、安否確認が主となる。その後、1週間までは慢性疾患への対応や衛生維持、精神的心理的な対応。1カ月をめどに、栄養や環境、避難所での健康・プライバシー管理などに移行していく。

 広川さんは、(1)災害医療は救急医療と異なる、(2)通常でないのだから通常通りにしようというのが異常、(3)混乱しているからこそニーズを積極的に探す、この3つを強調する。スタッフなど皆が被災しており、例えば「保険証を」などと求めるのは無理がある。被災者が「大丈夫です」と言っても、あとで「実は…」「言いにくかった」と分かることも多い。

 東日本大震災・原発震災、熊本地震、能登半島地震や豪雨災害、また口腔ケアにも触れている。「災害列島日本」だが、災害時の対応などは今も確立せず手探りが続く。防災減災を目指し同書から学びたい。 (クリエイツかもがわ 2400円)
          
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2025年12月22日

【おすすめ本】加藤 喜之『福音派―終末論に引き裂かれるアメリカ社会』―トランプ政権の支持基盤、特異な宗教集団の実像=福嶋 亮大(立教大学教授)

 今の米国は内戦の可能性もささやかれるほどに分断を深めているが、その根幹には宗教、特に世界の終末とキリストの再臨を信じる福音派の存在がある。

 日本人にはつかみにくいその教義と歴史を、生き生きとした文体で描いた本書は、タイムリーであるばかりか、宗教をレンズとする米国精神史・政治史にもなっている点で、稀有の一冊である。
 福音派は、プロテスタント系の保守的・道徳的な原理主義であり、聖書を字義通りに受け取る立場からハルマゲドン(最終戦争)の到来を語ったが、1920年代にはその時代錯誤ゆえに日陰に追いやられた。
 だが、南部出身のビリー・グラハムの伝道を経て、76年のカーター大統領当選を機に、政治の表舞台に躍り出る。その後も福音派はレーガン、クリントン、ブッシュ、オ バマらとも交差し、トランプ時代にはキリスト教ナショナリズムの中核として、イスラエル政策にも影響を与えるまでになった。

 この百年の歴史は、何と起伏に富んでいることか!「古き良き」白人中 心の価値観に根ざす福音派は、反リベラルである一方、民主党・共和党双 方の大統領と関係した。
 また、ラジオからウォルマートまで、教えを広める経路も多様多彩であった。福音派はキリスト教を米国化しつつ、米国のキリスト教化をもくろむが、それは今や理性的な公共空間を脅かしている。

 かくして本書は、キリスト教が今後どこに向かうのかという宗教史的な問題をも考えさせる。われわれは宗教改革以来の重大な分岐点を目撃しているのかもしれない。(中公新書1200円)
       
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2025年12月18日

【Bookガイド】12月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

 ノンフィクション・ジャンルからチョイスした本の紹介です(刊行順・販価は税別)
◆豊田直巳/著・写真『消える風景━明日へのねがい』農山漁村文化協会 12/10刊 2500円
原発事故によって無人の町になった大熊町や双葉町。そこでは原発災害の風景が次々と消え、がれきや除染土は中間貯蔵施設へ。そうした中で土地や家族を奪われた人の思いや願い、取り組みを克明に写真で写しとり、そこへの著者の共感を文章にして克明に伝える。
 著者は1956年、静岡県生まれ。フォトジャーナリスト。長年にわたり、イラクやパレスチナなどの紛争地を取材。劣化ウラン弾問題やチェルノブイリの取材経験をもとに、東日本大震災後は福島を中心に取材活動を継続し、映画製作も行なう。著書に『戦争を止めたい』、『フクシマ元年』など。製作映画『奪われた村』がある。
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◆泉秀一『アフリカから来たランナーたち━箱根駅伝のケニア人留学生』文春新書 12/16刊 1100円 
箱根駅伝のエース区間「花の2区」を、誰よりも速く駆け抜けたケニア人留学生たち。お正月のテレビ放映にクギ付けの私たちだが、彼らの実像は,ほとんど知られていない。実は彼らは生きるために走るしかなかった。彼らの家族、兄弟、故郷、友人、そして来日の方法など、ケニア人留学生の真の姿を追って、アフリカの大地を訪ね歩き、現地取材から得た貴重なレポート。
 著者は1990年生まれ。関西大学社会学部卒業後、ダイヤモンド社に入社。週刊ダイヤモンド記者を経て、フリー・ジャンジャーナリストに。
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◆木瀬貴吉『本づくりで世の中を転がす━反ヘイト出版社の闘い方』集英社新書 12/17刊1000円
近年、小規模で個性的な「ひとり出版社」が注目を集めている。2013年創立の出版社「ころから」は、小さくとも、したたかに、世の大勢に抗う本を出し続けてきた。その独自性の源泉はどこにあるのか。創立のきっかけや本を刊行してからの読者の反響、さらにヘイト本が蔓延する書店とそうした社会の現状をいかに動かし、転がしていくか、知恵を絞った者たちの闘いの記録。
 著者は1967年滋賀県生まれ。2013年に二人の仲間とともに出版社「ころから」を設立し代表となる。これまでに約80冊の本を刊行。
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◆森まゆみ『温泉放浪記』新潮社 12/17刊 2150円
帰りたい宿がある、忘れられない人がいる。心ほどける湯けむり紀行。子どもの頃からの温泉好きで、風情ある温泉場、大事な宿や人との一期一会の思い出は数知れず。北海道から九州まで――東の横綱・鳴子温泉郷、西の横綱・大分の温泉はもちろん、じつは書かずにとっておきたかった宿、千人風呂での大失敗も……。おいしいものや文学・歴史方面にも寄り道する気まま旅。どうぞご一緒に。
 著者は1954年生まれ。1984年、地域雑誌『谷中・根津・千駄木』を創刊。聞き書きから、記憶を記録に替えてきた。著書に『鷗外の坂』、『谷根千のイロハ』、『子規の音』など。
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◆渡辺京二『私の幕末維新史』新潮選書 12/17刊 1600円
「色眼鏡」を外すと歴史はこんなに面白い!「幕府は薩長に倒されたのではなく自壊した」「尊王攘夷が盛り上がった理由は日本人の“京都敬い”」「吉田松陰の面白さは馬鹿げていて愚直なところ」「外国人が幕末の人々に感じた頭の良さと狡猾さ」「大久保にない西郷の人間的な魅力」……『逝きし世の面影』の著者が、黒船来航で始まる激動期を独自の視座から捉え直す。
 著者は1930年、京都市生まれ。2022年12月逝去。熊本市在住。日本近代史家。著書に『逝きし世の面影』、『もうひとつのこの世-石牟礼道子の宇宙』など。
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◆和田靜香『中高年シングル女性━ひとりで暮らすわたしたちのこと』岩波新書12/23刊960円
女性がひとりで暮らしていくしんどさ、苦労、精神的孤立感。いま中高年の女性たちは、見えない縛りに苦闘している。あらゆる社会保障や支援の狭間にこぼれ落ちてしまう恐怖。「透明」な存在と化した中高年シングル女性。仕事や住まい、お金の悩みから、老後の不安、人間関係まで━「ひとごとではない」実態を、多くの当事者女性たちの声とリアルな実態通して伝える。
 著者は1965年生まれ。相撲・音楽ライターにして、政治ジャンルでも取材ルポを著す。『選挙活動、ビラ配りからやってみた』が異例のヒット。
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◆酒井信『松本清張の昭和』講談社現代新書 12/26刊 1100円
想像を絶するほどの貧困、高等小学校卒、40歳を過ぎて文壇デビュー、そして国民作家へ。松本清張「初の本格評伝」が登場! 逆境から清張文学の成果を生み出した生涯を描く。文豪が体現した「不屈のバイタリティ」の数々、それを育んだ「昭和という時代の力」が、どのような内容であったか。幼少期の秘話、思春期以降の恋愛、戦争体験などなど……清張の知られざるエピソードが満載。
 著者は1977年、長崎市生まれ。明治大学准教授。専門は文芸批評・メディア文化論。著書に『松本清張はよみがえる』など。
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2025年12月14日

【おすすめ本】松島京太『汚された水道水 「発がん性物質」PFASと米軍基地を追う』━調査報道が現実を動かす貴重な成果=中島岳志(東京科学大学教授)

 近年の東京新聞の調査報道には目をみはるものがある。中でも注目してきたのが、PFAS問題だ。本書は、その中核を 担ってきた著者による成果を纏めたものである。

 PFASはフッ素と炭素が結合した人工の有機化合物で、様々な健康被害をもたらすとされる。近年、米軍基地でのPFASを含む泡消化剤大量使用による地下水汚染が、明らかになってきた。
 東京新聞立川支局勤務になった著者は、地元の問題としてPFASに出会う。市民団体が血液検査を始めるという情報を得て、2022年11月13日に「横田基地周辺 血液検査へ」という見出しで1面に記事化、ネット上で大きな話題となる。

 血液検査の結果が衝撃的だった。国分寺市を中心とする検査参加者の85%が「健康被害のリスクがある」という結果が出て、これを報道したことにより、多摩地の住人の怒りに火が付いた。
 疑惑の先は米軍横田基地。そこには日米地位協定がはだかるが、その壁を著者は地道な取材で少しずつ崩していく。本書の特筆すべき価値は、地道な調査報道が現実を動かしていくプロセスを明示している点だろう。

 この東京新聞の報道が世論を動かし、これ以上隠せないと考えた自治体や防衛省、米軍が動きはじめる。米軍は、報道を きっかっけに泡消化剤の漏出を認める。日本を守るために駐留しているはずの米軍が、日本人の身体を脅かしている現実があらわになっていく。

 風化を狙う権力に対して、報道し続けることの重要性がよくわかった。ジャーナリストを目指す者にとって必読の書だ。(東京新聞1600円)
                
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2025年12月06日

【おすすめ本】西方ちひろ『ミャンマー、優しい市民はなぜ武器を手にしたのか』―非暴力から武装闘争へ 苦痛の転換=鈴木 耕(編集者)

 世界はいま、血と殺戮に満ちているとしか言いようがない…。 
 本書はミャンマー軍事政権の下で、市民たちの優しく切ない非暴力抵抗が、ついに武器を手にした闘争へと変貌していく過程を、現地での体験をもとに書き記したもの。軍事独裁政権が持つ悪辣な抑圧と残虐な暴力の凄まじさが際立つ。

 2021年の軍事クーデターは、国民が抱いた民主主義への希望を、卵の殻を踏み潰すようにあっさりと打ち砕いた。民主化のシンボルであったアウンサンスーチー氏は自宅軟禁され、民主選挙の結果は軍靴の下に壊滅した。だがそこから人々の抵抗が始まる。SNSで集まり、鍋を打ち叩いて抵抗の意志を示し、さまざまな手段を使って全国で闘いを繰り広げる。
 
 著者は国際開発の仕事で大都市ヤンゴンに暮らしていたが、銃口と抵抗を目の当たりにした。それを国際社会に伝えるべく、SNSでイラストなども駆使して状況を発信していく。報じられることの少ないミャンマーの市民たちの闘いが、リアルな臨場感を伴って記録される。追いつめられてついに非暴力抵抗から武器を手にした武装闘争へ転換していく若者たちの痛苦な想いが悲しい。

 著者は日本のミャンマーへの関わりにも目を向ける。政府も企業もミャンマー国民よりも軍事政権を優先している現状を厳しく批判する。
 
 この12月には選挙が行われるが、民主的とはとうてい言い難い軍事政権下の偽装選挙だ。やむを得ないとはいえ銃を執った若者たちへの著者の眼差しが切ない。 (集英社 1,800円)  
    
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2025年11月26日

【おすすめ本】井上 伸』民主主義のためのSNS活用術 連帯と共感のツールとして』―政治や社会を動かす 重要なツールをいかに使うか=矢野 彩子(愛知県医労連書記長) 

 「SNSって炎上が怖いから見ているだけ。投稿しても見てもらえない」と思ってませんか?
著者のSNS投稿は、独自のグラフを用いて説得力があります。筆者の属する愛知県医労連も、を入れるきっかけとなりました。

 選挙の投票に際し何を参考にするか、30代以下ではSNSが65%に上っています(NHK 2025年5月調査)。LIN Eを選挙に使う際も「一方的に情報を送りつける」のでなく、自分の「思い」を添え、相手の感想を一言聞くなど双方向で使うことが大事など、著者の具体的なアドバイスも納得。労働運動や社会活動にSNSを活用し、政治を動かした実例も多数紹介されています。選挙以外でもSNSの重要性がよくわかります。

 SNSをしていると、心ないコメントに心が折れそうになる時もあります。ネット右翼に絡まれて黙っていては相手の思う壺。「相手は私たちを 黙らせたい、発信をやめさせたい一念」と、指摘 する著者の言葉に、これで黙ってしまえば相手の思い通りになると勇気を奮い立たせてくれます。

 主にネット(特にSNS)から情報を得ている若い世代にとって、SNS上にない情報は、存在しないことと一緒なのです。私たちの思いを届けるには、SNSを活用するしかありません。私たちがSNS上で存在感を示さなくては、デマや差別で埋め尽くされてしまいます。
 本書を手に、SNS未経験の方も、ぜひ一歩踏み出してほしいのです。民主的な発信を増やし、SNS上での多数派を目指しましょう。(日本機関紙出版センター 1300円)
          
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2025年11月23日

【おすすめ本】金子 勝『フェイクファシズム 飲み込まれていく日本』―産業の衰退、農業は荒廃etc. <アベノミクス>から脱却を=坂本 充孝(元東京新聞編集委員)

 世界で民主主義と自由主義が揺らいでいる。気鋭の経済学者である著者は、その理由をフェイクファシズムの台頭にあると説く。フェイクファシズムとは何か。独裁的指導者が私利的目的のために使う政治手法で、特徴は3つあるという。
 @山ほど嘘をつくA陰謀論と同情論をまき散らすB「敵友概念」で対立構造をつくる。
 ナチスのファシズムは暴力装置を多用した。だが、最近はSNSを味方にし、フェイクを拡散することで力を得ている。この中心に座るのが、米国トランプ大統領であるというわけだ。

 気を抜けば日本も飲み込まれる。この危機をどう生きればよいのか。ここからが本書の核心といっていいだろう。
 著者が強調するのは、故安倍晋三首相が打ち出した経済政策<アベノミクス>の失敗を認め、脱 却することだ。金融緩和を軸としたこの政策の発動以後、日本の産業はみるみるうちに衰退した。
 特に情報通信技術の分野は世界の水準から取り残されつつある。米国のIT企業群GAFAMの猛攻に圧倒され、太刀打ちすらできない状態になっている。

 こんな愚策が、なぜ続いたのか。理由は安倍政権が構築した「2015年体制」であると、著者 は指摘する。内閣法制局長官、 日銀総裁、NHK会長などを身内で抑え込み、内閣人事局で官僚制を破壊し、電波停止示唆でテレビメディアを萎縮させた。
 批判の声は封じられ、この結果、デフレ脱却は遅れ農村は荒廃。原発は再稼働し国民はマイナ保険証失敗のツケを負う。
 まずは民主主義を立て直さなければ、と著者。そのための知恵が詰まった一冊。(日刊現代 1500円) 
            
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2025年11月18日

【Bookガイド】11月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

 ノンフィクション・ジャンルからチョイスした本の紹介です(刊行順・販価は税別)

◆室井昌也 『沖縄の本屋さんとおすすめ本ガイドブック』11/12刊 論創社 1700円
「知られざる出版王国・沖縄」の本屋さんが面白い!日本最南端にある老舗書店から東京から移住の古本屋まで、店主の生い立ちや店主になるまでの経緯、店の現状や本と沖縄への思いなどを豊富な写真とともに紹介。また沖縄が解るおすすめ本、ジャンル別に全104冊をガイド。
 著者は、1972年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。日本で唯一の韓国プロ野球が専門のジャーナリスト。沖縄とはプロ野球キャンプ取材をきっかけに縁が深まり、現在では東京から沖縄に通い、生放送のラジオ番組『室井昌也 ボクとあなたの好奇心』(FM那覇)に出演。
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◆荻野富士夫『治安維持法と「国体」』大月書店 11/17刊 2800円
治安維持法が威力の源泉とした「国体」は、どのように位置づけられていったのか。施行する側、適用される側、それぞれの解釈の変遷を資料に基づき読み解く。「新しい戦前」のいま、あらたな「国体」を生み出さないために。治安維持法における「国体」の問題、戦時下における大学の思想統制と動員、戦前のもう一つの学問統制・学問動員など、具体的に事例を挙げて論ずる好著。
 著者は1953年、埼玉県生まれ。小樽商科大学名誉教授。著書に『検証 治安維持法』(平凡社新書)など。
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◆小島寛之『ラマヌジャンの数学』ブルーバックス 11/20刊 1100円
インド出身の天才数学者ラマヌジャンの32年の生涯を追う。彼は渡英して数年の活動期間に、膨大な公式や定理を発見した。証明を書かず、独自の「数感覚」ともいうべき直感力で、誰も思いつかない発見を続け、複雑な係数のついた「円周率の近似式」などで知られる。32歳という若さで夭逝した天才数学者。眼力と直感によって、公式を掘り当てる「発見的方法」ともいえるラマヌジャンの数学。「魔術師」と呼ばれる数学者の実像に迫る。
 著者は1958年東京都生まれ。帝京大学特任教授。数学エッセイストとしても活躍。著書に『世界は2乗でできている』(ブルーバックス)など。
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◆篠田航一『コナン・ドイル伝━ホームズよりも事件を呼ぶ男』講談社現代新書 11/20刊 1100円
科学的な推理を身上とする名探偵シャーロック・ホームズを生んだのは、心霊と愛国に没頭するお騒がせ男コナン・ドイルだ。怪しい事象に突き進む、危うい男なのに、なぜ誰もがドイルを愛したか。彼の数奇な人生を、現地で関係者や有識者に取材した最新証言を交え、名作の解題と重ねて生涯を辿る。いまだ謎に包まれているエピソードを検証する。巻末にホームズ全60作品を解説・評価ガイドを添付。
 著者は1973年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。1997年、毎日新聞社入社。ロンドン特派員などを経て現在は外信部長。著書に『ナチスの財宝』(講談社現代新書)など。
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◆鶴見太郎『シオニズム━イスラエルと現代世界』岩波新書 11/23刊 1120円
パレスチナにユダヤ人の民族的拠点を作るという思想「シオニズム」。その起源と変遷を辿り、現代イスラエルの原動力を解明する。なぜイスラエルは国際社会の反対や懸念をよそに、ガザを徹底して攻撃するのか。ホロコースト以前に東欧で生まれたシオニズム思想の多様性と核心に迫る。現代世界を読み解く1冊。
 著者は1982年岐阜県生まれ。東京大学准教授。専門はシオニズム、イスラエル・パレスチナ紛争。著書に『イスラエルの起源』(講談社)、『ユダヤ人の歴史』(中公新書)など
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◆雨宮処凛『25年、フリーランスで食べてます━隙間産業の作り方』 河出新書 11/25刊 1100円
25年間、毎年本を出し、連載は現在17本。長年フリーとして生き延びてきた著者が、手の内を全てさらす! フリーランスとして生きている弁護士、海外出稼ぎ、デザイナー等にも取材し、フリーの生き抜く術や自衛の方法を網羅。自らを「究極の隙間産業としての雨宮処凛業』と謡い、コネもツテも無しでフリーの文筆業になるまでを、気さくな筆致で綴る。
 著者は1975年生まれ。作家・活動家。2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』でデビュー。以降、プレカリアート問題を中心に執筆。著書に『右翼と左翼はどうちがう?』『14歳からの戦争のリアル』など多数。
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◆池田嘉郎『悪党たちのソ連帝国』新潮選書 11/27刊 1750円
皇帝プーチンは一日にして成らず! ソ連から現代ロシアまでを貫く「統治の鉄則」を読み解く。ロシア帝国は、いかにして強大なソ連帝国として再建され、現代ロシアのプーチン体制へと至ったのか――。レーニン、スターリンからアンドロポフ、ゴルバチョフまで、法の上に君臨し、ソヴィエト連邦という「巨大な家族共同体」を率いた領袖たちの姿から、ロシア特有の統治原理を炙り出す。
 著者は1971 年、秋田県生まれ。東京大学教授。専門は近現代ロシア史。著書に『ロシアとは何ものか』、訳書にミヒャエル・シュテュルマー『プーチンと甦るロシア』など。
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2025年11月13日

【おすすめ本】徳田 靖之『菊池事件 ハンセン病差別の壁をこえるために』―著者の国と闘う覚悟が心打つ=黒川 みどり(静岡大学名誉教授)

 菊池事件は、1952年に熊本県で起きた爆破事件と翌年の殺人事件で、ハンセン病患者のFさんが犯人とされ無実を訴えながらも「特別法廷」で死刑を執行された。その背景にはハンセン病への偏見差別と、国家による隔離政策があった。「地域を守る」と称して住民が患者・家族を排除する「無らい県運動」の最中に起きた事件である。

 著者は、「特別法廷」(隔離法廷)の違法性を問う国民的再審請求と、Fさんの無実を明らかにするための遺族による再審請求の二本立ての訴訟事件を担う弁護団共同代表であり、差別と排除に司法までが加担してきた経過を明快に述べる。
 本書の圧巻は、ハンセン病問題をはじめ薬害エイズや飯塚事件などの弁護活動の先頭に立ってきた著者が、弁護士として国を相手に闘ってきたという意識が、自らに潜む差別意識を覆い隠してきたのではないかと自身に問い、いかにハンセン病問題を「自らの問題」とするかを課題としながら「命ある限り、闘い続ける覚悟」を記していることにあろう。

 それゆえに著者の目は部落差別が冤罪を生んだ狭山事件にも及び、ともに「つくられた冤罪事件」としてそれを生みだす構造の共通性を指摘。菊池事件は違憲である「特別法廷」で裁かれ、しかも再審が開かれないまま死刑が執行された。

 狭山事件の冤罪を晴らせないまま石川さんが亡くなった。日本国憲法の真価を問う著者の命がけの闘いを前に、私たちも自らのありようを根底から問わねばならない(かもがわ出版 2,000円) 
        
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2025年11月09日

【おすすめ本】橋本健二『新しい階級社会 最新データが明かす<格差拡大の果て>』━5つの階級に分かれた格差社会の実態を詳細に暴く=栩木 誠(元日経新聞編集委員)

 いまや日本社会の‟代名詞“ともなったのが、1980年代前後から顕在化してきた「格差拡大」である。格差が固定化され「新しい階級社会」が 創出されたのである。
 前著『新・日本の階級社会』で、その実態を描いた著者が、「2020年三大都市圏調査」など、新たな調査データを駆使し、社会的分断が深刻化する「現実」を提示したのが本書である。

 所得や雇用形態などの分析から、現在日本が資本家、新中産、正規労働者など、5つの階級に分かれていることを示す。特に「労働者階級の一部ではあるが、労働者階級としての基本的要件すら欠いているために、極端に貧困で、多くの困難を抱えている人々」を、著者は、「新しい下層階級=アンダークラス」と位置づけ、焦点を当てる。

 日本は米国とともに、相対的貧困率の高い先進国だが、資本主義社会の最下層階級である、「ア ンダークラス」の人数は約890万人、就業人口の13.9%を占める。
 5つの階級構造が形成された要因、固定化しつつある現実、格差を巡る対立構造。男女間格差。 本書は豊富な調査資料・データの丹念な分析を基に、深刻化する日本の現実に切り込んでいるだけに、説得力がある。

 ただ「最大多数である『リベラル』の人々を支持基盤とする野党と『伝統保守』の人々を支持基盤とする自民党を、二大勢力とする政党システムが実現すれば、日本社会は大きく変わるだろう」という、楽観的な結論付けには、やや疑問符が付く。それまでトレースしてきた、格差社会の実相との論理的な落差が、あまりにも大きいからである。(講談社現代新書1200円)
              
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2025年11月07日

【おすすめ本】早川 タダノリ『「日本スゴイ」の時代 カジュアル化するナショナリズム』―事実や真実おし 潰す 情けない国に成り下がる=鈴木 耕(編集者)

 なにしろスゴイ、誰がなんてったってスゴイ、政府が音頭をとって「クールジャパン」を叫べばテレビや雑誌、書籍、時 には新聞までが呼応する官民挙げての「ニッポン万歳」大合唱。
 かくて日本はスゴイ文化、スゴイ技術、スゴイ 風土、スゴイ国民の一億総スゴイ化に向けて驀進中…と思ったら、もはや化けの皮がバレバレで情けない国に成り下がって…と、本書は「日本スゴ イ」の本質をバッサリ斬り捨てる。

 著者の早川さんは、私なら絶対に手にしないような本や資料を集めまくって、「日本スゴイ」の 実態に迫っていく。いやぁ、その姿勢には感服つかまつった。本気で早川さんスゴイ(これは誉め言葉ですよ)。
 でもこれは昔のことじゃない。かつて大流行したテレビでの「日本スゴイ」が底流となって、今 やSNS上に進出し、政治にまで影響を及ぼすようになったから、見過ごすわけにはいかない。

 そう著者に指摘されれば、まさにその通り。真 偽不明のデマ情報が、次々に伝聞形式で、いつの間にか事実(らしきもの)に成り上がる。最近 の選挙戦の様相などを見ていると、ウソとデマとフェイクが入り混じった言説が、事実や真実を押しつぶし、堂々と情報街道のど真ん中を、そこのけそこのけとばかりに、突っ走っているではないですか。

 粗雑な「日本人論」が 結局戦争への道を開いたことを、本書は丁寧に解説する。その上で「日本 スゴイ」論の危うさを教えてくれるのだ。
 今回の自民党総裁選などは、ウソとフェイクとデマの戦争だった。その結果がアレです。ヤバいよ、ほんとうに。私たち は著者の警告を、心して聞かなければならない。(朝日新書 900円)
          
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