2021年09月24日

【おすすめ本】横井久美子『横井久美子 歌手グランドフィナーレ 歌にありがとう』─人々を励まし歌い続けた生涯を偲ぶ=隅井孝雄(JCJ代表委員)

私が横井さんを知ったのは1969年、労組の平和・反戦集会で彼女に歌ってもらったことがきっかけで、ほぼ半世紀の交友が始まった。
 本書では歌を通して知りあった、活力ある人々との交友の中で成長を遂げた、歌手・横井久美子の足跡が、完ぺきに再現されている。
 歌手としての活動の合間、折々に綴った歌にかける思い、活動の記録、先輩、友人、知人、家族などとのふれあいについて、これまで書いてきた様々な文章を、横井さんが闘病の日々の中で、一冊にまとめた労作だ。

 歌手活動は日本国内のみならず、1973年アメリカと闘うベトナムの兵士らと、ハノイで「戦 車は動けない」を歌ったのをはじめ、アジア、ヨーロッパ、南米など世界を駆け巡っている。
 また音楽の教えを受けたアイルランドには何度も訪れ、晩年にはネパールの山村に通い、子供たちの音楽ホールを建設するなど、その足跡は世界各地にわたっている。
 1978年の「ノーモアスモンの歌」にみられるように、人々を励まし続け、人生の賛歌を歌い続けてきた横井さんは、2019年8月アイルランドの旅から帰国後、腎臓がんと診断され、闘病生活に入った。そして再起の願いも込めて、本書の出版を企画、夫の友寄英隆さんに支えられ執筆、編集したものの、ガンは容赦なく、今年1月14日彼女の命を奪った。
 本書の最後に自身のブログに書いた1年3カ月に及ぶ闘病記録も収録されている。帰らぬ人となった横井さんの人生に、哀惜を込め拍手を送りたい。(一葉社2200円 )
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2021年09月16日

【おすすめ本】古賀茂明『官邸の暴走』―経産官僚に牛耳られた「官邸主導」の経済プロジェクト=南彰(朝日新聞)

 菅政権の内実に迫るドキュメンタリー映画「パンケーキを毒見する」とタイアップし、「政治主導」の名の下に進められた安倍・菅政権の異常な官邸主導政治の内実を明らかにする一冊だ。
 著者は、安倍晋三氏を「能力の低いペテン師兼パフォーマー」、菅義偉氏を「頑固で攻撃的、かつ『改革する自分』に酔う裏方番頭」と評している。しかし「官邸主導」 の政治を実際に動かしているのは「官邸官僚」だと指摘する。

 その中心は、安倍首相の政務秘書官として君臨した今井尚哉氏ら経済産業省出身の官僚だ。高度成長時代に「日本株式会社」の参謀本部といわれた旧通商産業省。その仕事がないにもかかわらず「日の丸プロジェクト」で失敗を重ねてきた。
 しかし、「意味はないが大したカネをかけずに立派に見せる政策を作るプロばかり」がそろっているという「経産省的な性格」が「国民への人気取りの政策、話題に上る政策を常に必要とした」安倍政権とまさに合致して、「暴走」を重ねていった状況を描く。

 そうした結果が、労働者の平均賃金は下がり、「成長戦略」も不発で産業競争力が劣化した日本の姿だ。世界に取り残される状況を指摘できない、視野の狭い日本メディアの共犯性も厳しく指摘している。
 後半には、「7年8カ 月の安倍政権で日本経済は復活した」という言説を覆す「斜陽日本」を示すデータが次々と示される。
 筆者が再建を期待するのは河野太郎氏。その是非には議論があるが、日本社会の危機を共有し、乗り越えるための処方箋になっている。(角川新書1000円)
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2021年09月09日

【おすすめ本】雨宮処凛『コロナ禍、貧困の記録 2020年、この国の底が抜けた 』─凄まじい実態・非道な対応への告発=鈴木 耕(編集者)

コロナ感染が止まらない。だが「東京五輪」の開催強行。まるでコロナという大火へ、ガソリンを注ぎ込むような菅政権のやり口。人命を賭ける蛮行の陰で、いったい何が進行していたか。
 サブタイトルにあるように、本書は昨年来の安倍〜菅政権が求める「自助」が引き起こした貧困の凄まじいばかりの記録である。

 2020年の「春・夏・秋・冬」と4章にわたってコロナ禍で追い詰められていく人々を追い、彼らに寄り添いながら、必死に活動する著者の悲しみが横溢している。
 その様相は、まるで戦時中だ。所持金13円の男性、コロナ不況がもたらすホームレスの増加。冬に向かうにしたがい、過酷さは増す。寒風の中で身を縮める切なさ。バス停で殴り殺された女性の事件。そして、従来にはなかった女性の貧困が目立つようになる。
 コロナの蔓延は、飲食業や風俗店の女性従業員たちを直撃する。中でも子どもを抱えた女性たちは、行き場を失い食をも絶たれる。だが役所の対応は冷酷だ。援けを求める人たちに缶詰めを渡して追い返す。

 生活保護申請に対して「親族への照会」という無慈悲さで扉を閉ざす。街頭に追われた人から、生きる支えのペットさえも取り上げようとする。
 著者たちは、必死に抗う。少しずつではあるが拒否の扉をこじ開ける。その意味で、これは政権の貧困者切り捨てに立ち向かった著者たちの闘いの記録でもある。
 なお本書はウェブ上の週刊誌「マガジン9」の 連載を編集したものである。(かもがわ出版16 00円)
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2021年08月28日

【おすすめ本】角南圭祐『ヘイトスピーチと対抗報道』―差別を断罪しないメディアの弱さ 自省を込め現場から問う=石橋 学(神奈川新聞)

 報道に携わる者にとって必読の書である。ジャーナリズムはなぜ差別と闘わなければならないのか、そのために何をなすべきであるかが、ここに記されている。
 著者は共同通信の記者で、へイトの現場で顔を合わせてきた私にとっては、共に闘ってきた同志である。
 差別を見過ごし、偏見や差別を口にしてきた過去がある。「だからこそ 『上から目線』ではなく記者として何をして、何ができなかったかを自省しながら、現状と課題をまとめたい」という率直な筆は、私が知る真っすぐ疑問に挑戦していく角南記者の姿そのもの。だからこそ説得力がある。
 マジョリティーが差別の問題に取り組むには、ある種の「恐れ」がつき まとう。自らの特権性に無自覚であるがゆえ、言葉の使い方一つにも思いの至らなさ、傲慢さが投影してしまう。
 マイノリティーの被害の深さやヘイトデモの現場で抗議の声を上げる市民に触れ、中立を装うメディアの欺瞞に気付き、変化していった筆者の足取りは、私が経験した変化でもあり、メディアは変わり得るという希望を表している。
 差別を断罪しないメディアの弱さは、侵略の過去とその根源にある差別の歴史を顧みない日本社会にあって顕著だ。「差 別を禁止する法律をつくり、ヘイト包囲網を完成させたい。その日のために今ある差別に反対する声を共に上げていこう」との結びは、日韓の戦後補償問題を追い続けてきた著者ゆえに辿り着いた地平であるに違いない。
 戦争のお先棒を担いだ反省に立つジャーナリズムは傍観者たり得ず、差別をなくす主体として、その先陣を切らねばならないと、覚悟の筆が教えてくれる。(集英社新書880円)
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2021年08月26日

【緑陰図書―私のおすすめ】ミャンマー少数民族の生活を探る=岸田浩和(記録映画監督)

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 民主化の象徴=アウン・サン・スー・チー氏が表舞台に登場したのは1988年。32年かけ少しずつ進んできた民主化の道が、今年2月に勃発した軍事クーデターにより、一夜にして瓦解。
 その後、ミャンマー全土で民主化を望む市民が大規模な抗議活動を展開したが、クーデター政権の容赦ない弾圧により、表面的には沈静化した。
 現在、民主派は国家統一政府(NUG)を樹立し、国民防衛部隊(PDF)を発足させた。山岳地帯に拠点を持つ、カレン族やカチン族の民兵組織が受け皿となり、参加を希望する市民に軍事訓練を行っている。
 ミャンマーには、135の少数民族が山間部を中心に暮らしている。総数は人口の3割。彼らは長年にわたり迫害を受け政府と対立してきた。だがクーデター後から、民主派の市民が少数民族の武装組織と連携し、今の軍事政権と対立する構図が浮かび上がってきた。
 ミャンマーの複雑な国情と将来を考える上で、少数民族と武装組織の関係、および彼らの資金源となる麻薬生産の長い歴史は、重要なテーマとなっている。
  高野秀行『アヘン王国潜入記』(集英社文庫)は、ゴールデントライアングルと呼ばれる、メコン川流域のアヘン生産地帯に潜入し、ワ族と呼ばれる少数民族の村で、ケシ栽培の種まきから収穫までを体験した貴重なルポだ。
 辺境に追いやられた少数民族が、生活のために麻薬生産に従事し、その資金で武装組織を作って政府と対立してきた構図がよくわかる。
 人情味溢れる村人の暮らしや、不注意で著者自身がアヘン中毒に陥る様子など、潜入ルポならではの驚きや展開で、一気に読み進んでしまう。精製されたアヘンが流通する過程で、中国マフィアが暗躍し、さらにミャンマー軍事政権の組織的な関与が浮かび上がる展開は圧巻だ。
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2021年08月24日

【緑陰図書ー私のおすすめ】<東京五輪>と「言論の自由」=後藤逸郎(フリー記者)

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 日本政府は無観客のカードを切って、東京五輪・パラリンピックの強行開催へと突き進んだ。
 政府を問い糺すべきメディア、特に大会スポンサーとなった新聞大手紙は、開催自体の是非について、ついに国民的議論を呼び起こさずに来た。
 信濃毎日新聞が開催中止の論説を張るまで、大手紙は海外の批判記事を引用するなど、自らの言説で東京五輪への旗幟を鮮明にすることから逃げ続けた。報道機関の根幹である「経営と編集の分離」は崩壊していることは明白だ。
 本多勝一『職業としてのジャーナリスト』(朝 日文庫)は、ベトナム戦 争反対を唱えた北海道新聞の社説の「正論」を評 価するが、しかし地元の漁業問題には沈黙する姿勢を批判している。また信濃毎日が当時、林道建設の推進報道をしていた事実も紹介し、政治権力や経済界と新聞社の距離が、報道機関の「言論の 自由」を規定する構図を指摘した。
 北海道新聞の東京五輪を巡る社説も、ベトナム戦争時の鋭さがない。信濃毎日は長野冬季五輪でも同じことを主張したのか。同書が示した問題は現在に続いている。

 西村肇・岡本達明『水俣病の科学』(日本評論社)は、チッソが垂れ流した有機水銀による中毒メカニズムを解明した好著。
 共著者の西村肇・東大名誉教授は助教授時代、公害研究を咎められ他大学転出の危機に会い、研究を中断。退官後に再開した研究を同書に纏めた。西村氏も「言論・学問の 自由」に直面した。
 取材で面談した西村氏から「自由な活動は財政的に自立してから」と諭されたのを覚えている。
 その助言に抗し新聞社を辞めて出したのが拙著『オリンピック・マネー』(文春新書)。国際オリ ンピック委員会が神聖な組織でなく、興行主に過ぎないと指摘する内容 で、今や共感する人は多いと思うが、在職中には出版できなかった。「言 論の自由」を守るのは誰か他人ではなく、自分自身の問題と実感した。
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2021年08月14日

【緑陰図書─私のおすすめ】─LGBTを正しく理解するために=東 優子 (大阪府立大学教授)

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 LGBTとは性的マイノリティのうち「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー」の4つの頭文字をとった総称である。
 一見すると日本社会はLGBTに対してフレンドリ―であるかのような印象が持たれている。
 2015年ごろ東京都渋谷区や世田谷区が「パートナーシップ制度」の導入を発表してから、同制度を導入した自治体の数も三桁を超えている。
 また「性同一性障害者特例法」により、戸籍上の性別を変更した成人は一万人を超え、戸籍上とは異なる性別での入学・通学を希望する児童生徒への対応も進んでいる。
 こうした社会的変化に伴い、「正しい知識・正しい理解」の普及を目的とした講演・研修も、全国各地で開催されるようになった。

 LGBTを理解するうえで、何を読めばいいか迷ったときには、原ミナ汰・土肥いつき編著『にじの本棚 LGBTブックガイド』(三一書房)が良い。さまざまなジャンルの関連本について46人の執筆者が解説を加えたガイドブック。
 LGBT人口について「意外と多い」ことが強調されることも珍しくないが、マイノリティの人権を議論する際に、数の多少は本質的問題ではない。
 石田仁『はじめて学ぶLGBT 基礎からトレンドまで』(ナツメ社)は、多様にして複雑な問題をわかりやすく解説している。豊富なデータを駆使するだけでなく、数字のひとり歩きに警鐘を鳴らすことも忘れないなど、一般的な啓発本より深く考察している。
 森山至貴『LGBTを読み解く クィア・スタディーズ入門』(ちくま新書)は、LGBTを入り口に、性の多様性をより深く、理論的に学べる良書だ。
 偏見・差別を解消するためには「良心(だけ)ではなく知識が必要」であるという著者が、丁寧に紐解く歴史を通じて、「正しい知識・正しい理解」が流動的なもので、個人や社会の都合で「事実」さえも変色することがあることに、気づかされる。
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2021年07月31日

【おすすめ本】上西充子『政治と報道 報道不信の根源』─政治家の不誠実答弁に抗する「論点」を軸にした報道へ=菅原正伯

安倍・菅政権になって、記者会見や国会答弁で、首相や大臣が質問に正面から答えない不誠実な答弁が横行している。言質を与えない、報じる材料を与えないという政府に対し、政治報道はどうあるべきか、問題点を検証している。

 たとえば、どのように聞かれても、あらかじめ用意した同じ答弁書を棒読みする。日本学術会議6人の任命拒否問題では「総合的、俯瞰的活動」の観点で任命したと繰り返すだけで、拒否の理由は説明しないというのはその一例だ。
 あるいは記者会見やインタビューで、メディア側が「国民の間には首相の説明が分かりにくいとの声があるのですが…」と問いかける。
 これでは理解しない国民の側に問題があるかのようになり、「丁寧な説明を心がけたい」というお決まりの答弁でお仕舞となってしまう。論点を明示した質問が重要だ、と著者は指摘する。

 意図的な論点ずらしの答弁を、著者は「ご飯論法」と名づけたが、あえて論点を外して答えるカラクリを見ぬいて、メディアは問い詰めないと、報道する価値もなくなってしまう。
 メディアは「与野党攻防」といった「政局」報道に偏るため、「初陣」「防護に徹した」「決定打に欠けた」「逃げ切り」など、ゲームの実況中継みたいな言葉が飛び交い、肝心の「論点」が後景に 退いてしまう。
 著者は、こうした「政局」報道を止め、問題の「論点」を軸にした報道に重点を移せば、野党議員の役割も、より正当に伝えられ、報道もより権力監視の役割が果たせるのでないかと、繰り返し強調している。(扶桑社新書960円)
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2021年07月22日

【おすすめ本】半田 滋『変貌する日本の安全保障』─「引き裂かれた安全保障問題」の根源を読み解く絶好の書=前田哲男(ジャーナリスト)

 本書は、学生に向けたオンライン授業を基にしているが、それにとどまらず若い世代(とりわけ記者)に「自衛隊の今」を伝える一冊となった。
 「安倍安保」ともいうべき長期政権のもと進行した「9条と同盟」の矛盾、また「専守防衛か敵基地攻撃か」をめぐる葛藤。その相克は、菅政権下においても「台湾海峡防衛」に継承され、亀裂は極限に達した観がある。若者ならずとも「法と現実」のもたらす落差に目くるめく思いだ。

 12講に区切られた各章には、著者の強みである編集委員としての現場主義と、論説委員の本領の両面、いわば“腰の軽さ”と“論の重厚さ”がほどよく溶けあい、自衛隊海外活動の現状と、そこに至った時代の流れを織りまぜ、自衛隊の歩んだ道が記述される。話し言葉による文体も説得的だ。
 読者には、自分の関心にそって読むことをお勧めする。沖縄のことなら「第3回 沖縄の米軍基地」から。最新ニュースなら「第10回 ミサイル防衛とイージス・アショア」、また「安倍安保」の本質を知るには「第12回 安全保障関連法」といったように。興味のおもむくまま読めばいい。

 そうすると、なぜ「護衛艦いずもの空母化」が必要なのか? なぜ「非核3原則が国是であるのに核兵器禁止条約を批准しないのか?」などの疑問が解けてくる。PKO派遣という “戦闘への接近” も、著者の現地取材によって容赦なく実態が暴かれる。
 コロナとオリンピック問題のあおりで、最近あまり大見出しにならない「引き裂かれた安全保障問題」の根源を読む良書である。(弓立社2500円)
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2021年07月15日

【おすすめ本】白取千夏雄『「ガロ」に人生を捧げた男 全身編集者の告白』─長井勝一氏との出会いから休刊までの壮絶な編集者魂=鈴木 耕(編集者)

雑誌「ガロ」といえば 1970〜80年代に、知らぬ者なしと言われた伝説の漫画誌である。実は私も「ガロ」には個人的 な思い出がある。
 77年、当時「ガロ」編集長であった南伸坊さんに依頼され、小説を掲載してしまったのである。まったく若気の至り青春というのは恥知らずだ。今も手許に1冊(6月号)だけ残っているが、恥ずかしいからタイトルは記さない。
 そんな因縁のある雑誌に、生涯を捧げた男の自伝というのだから、読まずにはいられない。そしてこれがまた、期待にたがわぬ波乱万丈、壮絶な自伝なのだ。

 私がつき合っていた南さんなどの時代(70年代)は終わり、著者・白取千夏雄が活躍したのは、80年代に入ってからだった。だから私は直接には著者を知らない。
 しかし、本書からはサブカルチャーの旗手「ガロ」の雰囲気は、溢れん ばかりに伝わってくる。「ガロ」と言えば長井勝一さんである。創刊者にして伝説の編集長、むろん社長でもあった。その長井さんとの出会いからどっぷりと編集の道に浸り込んでいく著者の軌跡は、「ガロ」後期の歴史そのものだ。
 伝説の漫画誌とはいいながら、内情は貧乏所帯。編集部の雑駁な面白さや貧乏話も活写される。だが後半に至って筆致は不穏な様相を示す。本人の慢性白血病との闘い、それ以上に切ない妻(やまだ紫=漫画家)の病い。
 さらに追い撃ちをかけるのが「ガロ」休刊の裏事情。今やネット右翼化した版元の分裂騒動。えっ、そうなの? と首を傾げる部分もあるが、著者が夭逝してしまった今となっては、真偽を確かめる術もない。それにしても凄絶な自伝だ。(興陽館1300円)
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2021年07月09日

【おすすめ本】魚住 昭『出版と権力  講談社と野間家の一一〇年』─講談社の秘蔵資料から軍部との関係に光を当てる=萩山 拓(ライター)

講談社に眠っていた約150冊の秘蔵資料を読み解き、講談社の歩みのみならず、出版史の欠落を補った浩瀚な力作だ。
 創業者の野間清治は、講談をベースにした雑誌「雄弁」を創刊。その成 功を跳躍台とし、<日本の雑誌王>へと飛躍。だが雑誌王国・講談社の蹉跌は、初代・清治が病死した1938(昭和13)年10月以後に訪れる。
 つまりアジア・太平洋戦争下において、講談社が軍部へ協力・迎合していく歩みである。「第七章 紙の戦争」の扉写真にも出てくるが、出版統制を指揮した内閣情報部の鈴木庫三陸軍中佐との関係である。

 社史『講談社の歩んだ五十年』には<書かれざる部分>として秘されてきた顧問団への謝礼金額が典型である。1941(昭和16)年2月、鈴木庫三中佐から陸軍御用達″の知識人14人を講談社の顧問団として、受け入れるよう迫られた。
 やむを得ず顧問団は社外の事務所に置くことを条件に受け入れる。かつ顧問団への「謝礼の総額は月に五千三百円〜四千二百円、年額では五万円前後に達する。今でいえば数千万円から一億円前後に相当するとみていいだろう」と、著者は初めて本書で解明する。
 「第八章 戦時利得と戦争責任と」では、第4代・省一社長が誕生した1941(昭和16)年7月以降も、鈴木庫三の提案で皇国文化協会が創設され作家の動員に協力。
 軍部が強行する出版の事業統制・用紙の重点配給に際しては、軍部からの優遇を受け、戦意発揚の新雑誌を次ぎ次ぎと創刊して国策にこたえる迎合ぶりだ。
 この1941年から敗戦までの4年間の講談社の歩みを辿った叙述こそ本書の白眉である。(講談社3500円)
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2021年06月18日

【おすすめ本】松田 浩『メディア支配 その歴史と構造 』─「深刻な現実」への危機意識 闘うジャーナリズムの構築を=栩木 誠(日経支部)

日本でテレビ放送が始まった1953年、日本経済新聞に入社した著者は、組合やJCJ活動などで活躍しながら、「ラテ(ラジオ・テレビ)欄」などを担当する電波報道部に配転となった。
 しかし、このことが半世紀以上にわたり、最前線の放送ジャーナリスト・研究者として活躍、 多大な実績を記す出発点となった。本書はメディアの現場で闘い、研究を続けてきた歩みの集大成であり、遺著である。
 いま政府・官邸によるニュース・情報番組への介入、NHKや一部民放幹部などによる忖度が、一段と激しさを増す。
 吉田内閣による電波監理委員会の廃止を一里塚に、1960年代後半から70年代前半にかけての5大全国紙とテレビ・キー局の資本系列一本化、テレビの多局化と再編成、さらには「権力の番犬」であるべき新聞テレビの「情報産業」化と ジャーナリズムの変質。
 さらに政府によるメディア統制の野望と波状攻撃の中で、「政権に同調的なマスネディアが作られてきた」ことを、本書は解き明かす。戦後マスメディア史の優れた概説書でもある。
 本書に流れる基調は、「言論・表現の自由の危機」に対して、「権力の番犬」としての役目を十分に果たしてこなかった「マスメディアの深刻な現実」への危機意識と怒りである。
 「いま何より急務なのは、この日本の現実を国民一人一人が見極めること、そしてなぜこういう事態になったかを歴史に学ぶこと、この二点ではないだろうか」
 視力の衰えに抗しつつ1文字1文字に全思いを傾注した著者の後輩として、行間から溢れる「闘うジャーナリズム」の心を継承したいと思う。(新日本出版社1900円)

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2021年06月04日

【おすすめ本】柳広司『アンブレイカブル』─弾圧に抗す4人の「敗れざる者たち」=藤田廣登(治安維持法国培同盟)

 本書は、治安維持法犠牲者に焦点があてられた稀有なミステリー仕立ての小説である。
 「稀有な」というのは 小説が苦手の私にも、松本清張以来だという思いがよぎる上に、主人公の四人すべてが著名な実在者だという点にある。全編に弾圧する「内務省のクロサキ」が登場する。

 第一話の主人公は小林多喜二。「蟹工船」取材の対象にクロサキに操られるスパイを絡ませるミステリーだが、私は職場の人たちに愛される多喜二の切り取り方、人物像の精確な筆致に、多喜二関連の一次資料をよく読み込んでいる著者の執筆姿勢に感銘する。
 第二話は川柳人の鶴彬。ずばり17文字で権力と軍隊組織に立ち向かった反戦川柳の旗手だ。
 第三話は中央公論社の編集者・吉田喜太郎。言論統制の戦時色強まる時代、カナトクこと神奈川県特高が動き出し、捕らえられ拷問により絶命。横浜事件に材を取り戦争末期、動物園の猛獣や象の虐殺にダブらせる。
 第四話は哲学者の三木清。共産党員を一晩かくまった罪で豊多摩刑務所に。看守の悪意で疥癬毛布を着せられ、敗戦直後の九月下旬獄死した。

 本書の全編を通して、民主主義と思想・信条を根こそぎ葬った「者」たちの邪悪な意図が、炙りだされる。著者は、ひとたび悪法通れば必ず暴走すると、警鐘を鳴らす。
 戦後生まれの著者に、絶対的権力をもった天皇制にまで、視点を伸ばせと求めるのは過重かもしれぬが、「敗れざる者たち」の続編を希うのは私だけではないだろう。(KADOKAWA1800円)
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2021年05月28日

【おすすめ本】金智英『隣の国のことばですもの 茨木のり子と韓国』─日韓の真の対話へ詩を通して架ける橋=菅原正伯

 茨木のり子(1926〜2006年)は、戦後 日本を代表する女性詩人の1人だが、50歳になってから翻然としてハングルを学び始め、韓国現代詩の「編訳」をてがけ、日本への紹介に力を尽くすようになる。
 本書は、日本文学を専攻する気鋭の韓国人女性研究者が、未開拓だった茨木の分野に新しい光をあてた意欲作だ。
 著者は、詩を通じて日韓の橋渡しを積極的に果たすに至る茨木の道程を初期の作品にも遡りながら解き明かす。茨木は軍国少女だった反省から、何にも「倚りかからず」、本当の自分を生きようと決めたが、著者は茨木の詩の特徴である「対話的要素」が、自己との対話の深化とともに、読者への強いメッセージとなる過程を丁寧にたどる。

 戦争に起因する社会問題や民族問題を批判的に取り入れた作品が、黒人兵、在日朝鮮高校生、田中正造などに触れて登場する。「他者」との出会いと「対話」が韓国への 関心を熟成させていく。
 本書の眼目は、茨木が翻訳・編集した『韓国現代詩選』の分析である。 12人の韓国現代詩人の作品62編を、茨木がどんな基準で選定したかが明かされ、茨木の翻訳が大胆な省略や原詩の内容の改変も含め「思想性確かな詩が、日本語の語感で、分かりやすく描かれること」を何よりも優先したことを解明している。
 これは日韓両語に精通した著者にして初めてなしえたことだが、茨木は翻訳作業を通して「国家や民族を超えた真の対話を目指した」との著者の結論を、泉下の詩人にぜひ伝えたいと思った。(筑摩書房2200円)
                           
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2021年05月21日

【おすすめ本】戸崎賢二『魂に蒔かれた種子は NHKディレクター・仕事・人生 』─文章の隅々から滲みでる仕事や人びとに向き合う誠実さ=小滝一志(放送を語る会)

 本書発行の三日後、戸崎さんは1月11日81歳で亡くなった。当初は今秋の発行予定だったが、昨秋から急に作業を急ぎ始め、同時に友人・知人への献本も依頼していたという。すでに遺言の書と覚悟していたのではないか、身の引き締まる思いで頁を開いた。
 本書は、著者がNHK ディレクターを定年退職後、同人誌に書いた仕事や生い立ちに触れた文章を、4章に分けて収録・構成している。
 最初の「ディレクターの仕事」の章には、冒頭に作家大岡昇平を迎えた「NHK教養セミナー」 終戦記念日特集の制作体験が置かれている。それも、著名な作家との出会いと交流が強い印象に残った体験である以上、きわめて自然な配置だ。
 ところが著者自身のご子息の死と深く関わった企画だったことが、文末にさりげなく語られているのも切ない。

 「教育を問い直す」の章では、NHK定年退職 後に就いた大学教授の体験が「研究者としての訓練も教員の経験もない実務者あがりの教員」と謙遜しつつ語られている。林竹二など著名な教育学者と一緒に制作した番組を通して、身に着けた教育論をベースに、学生たちの「人間的成長」を願って、正面から向き合い格闘する誠実さが潔い。
 「記憶の淵より」の章は「生い立ちの記憶」だが、著者の人生を決めた原点が小林多喜二の作品や社会科学にあるとの記述は、ますます亡き著者に親近感を抱いた。
 最後の「いのちにふれる日々」は、著者の闘病記。ここにも家族への細やかな気づかいが満ち溢れ、私たちが気づかなかった優しい人がいた。(あけび書房1800円)
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2021年05月15日

【おすすめ本】アリシア・ガーザ『世界を動かす変革の力 ブラック・ライブズ・マター』─人種と性に基づく「二重差別」に立ち向かうBLM運動=矢部 武(ジャーナリスト)

 2020年5月以降、全米に広がった抗議運動「ブラック・ライブズ・ マター(BLM=黒人の命は大切だ)」。本書は この組織の共同代表がBLMの誕生と目的、未来の可能性などについて綴った物語だが、同時に社会に変革をもたらす運動を始めるには、どうすべきかを教えてくれる指南書でもある。
 1981年生まれの著者は20代初めから、差別や貧困、抑圧などと闘う団体で社会運動を組織化するオーガナイザーになるための経験を積む。そこで、「力がなければ自 分たちに損害を与えている地域社会を変えることはできない。そのためには人種・民族、性別など を超えた人々の連帯を築く必要がある」との教訓を学ぶ。黒人だけの組織には限界があり、何よりも過半数になり得ないからだ。

 著者はキング牧師やマルコムXなど過去の公民権運動指導者の功績を認めつつ、その問題点も指摘する。それは黒人男性を中心とした組織のなかで、女性が脇に追いやられていたことだという。
 自ら黒人女性として人種と性にもとづく「二重差別」を経験することにより、多角的な視点から物事を考えるようになったという著者は、2013年、他の黒人女性2人とBLMを創設した。
 BLM運動は、「米国だけでなく、欧州やアジアなど世界各地に広がり、人種的不公平に対し、人々の意識を高めた」という理由で、今年のノーベル平和賞候補にノミネートされている。これは分断と対立が進む世界に変革をもたらす、新しい21世紀型の運動モデルとなるかもしれない。 (人権学習コレクティブ監訳 明石書店2200円)
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2021年05月01日

【おすすめ本】佐藤学/上野千鶴子/内田樹 編『学問の自由が危ない 日本学術会議問題の深層』─政治権力が学問の自由を侵害、そこに孕む日本社会の危機=広渡清吾(東京大学名誉教授)

 菅首相は、第25期日本学術会議の新会員として推薦された105名の候補者のうち、6名の任命を拒否した。前代未聞のことである。
 評者は、青年時代から先輩の科学者たちが、学術会議の活動に献身してきたことを、ずっとみてきた。また、自らも長く会員として活動し、部長、副会長そして会長(第21期)を務めた。
 第二次安倍政権以来、首相の人事権が権力支配の手段と化しており、日本学術会議の会員任命に及ぶことを、ひそかに危惧していた。それはまた絶対にあってはならないことであった。
 本書は、この「事態」を13人の執筆者(おそらくこれ以上のラインナップは望めない)が渾身の怒りをもって解析する。

 任命を拒否された6氏もメッセージを寄せた。私たちが直面しているのは、政治権力による学問の自由の侵害であり、日本社会が孕む危機である。深刻なことに、政治権力はその危機を見ることができない。
 上野千鶴子、佐藤学、 長谷部恭男、杉田敦、高山佳奈子、木村草太、後藤弘子、池内了、内田樹、三島憲一、永田和宏、鷲谷いづみが、任命拒否の違憲・違法性、学問の自由、科学の意義、政治と科学、そして日本学術会議の貢献と役割を縦横に論じ、津田大介が学問の自由のために立ち上がった科学者コミュニティの運動を伝える。
 科学者だけで政治権力に抗し切ることはできない。科学は市民社会の知的活動であり、政治権力に対して科学を擁護する市民の力が、いま必要である。多くの皆さんに本書を読んでいただきたいと心から切に願う。(晶文社1700円)

                              
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2021年04月23日

【おすすめ本】フリート横田『横丁の戦後史 東京五輪で消えゆく路地裏の記憶』─土地の古老からじっくり横丁が紡いだ物語を聞きだす=南陀楼綾繁(ライター)

 東京は成立以来、つねにスクラップ&ビルドを繰り返してきた。この数年は、二度目のオリンピックを前に古い横丁や小路が姿を消しつつある。
 著者は毎夜のごとく、狭い通りにひしめくスナックや小料理屋で飲みながら、ママや常連客に昔話を聞く。
 そうした「夜の取材」 だけでなく、土地の古老に会って話を聞き、特殊な資料を読み込んで、この場所がなぜ生まれたかを探っていく。
 その横丁の探偵ぶりに唸るのは、第二章「在日 コリアンの横丁」だ。浅 草の国際通りに面した「焼肉横丁」のあった場所は、かつて十二階下と呼ばれた売春街(石川啄木も通った)だったが、 関東大震災で消滅。その空白地帯に終戦直後、戦災者の救済目的で木造長屋が建てられる。

 著者は、この長屋をつくった二人を歴史の闇から引っ張り出し、彼らが夢見たものを描く。同時に、同じ場所が在日コリアンの楽園になっていった事情を明らかにする。
 きれいだが面白みのない街に飽きたレトロ趣味の若者は、これらの横丁にずかずか入り込み、写真をネットに載せる。取材にもそういう暴力性があることを、著者は自覚している。それでも知りたいという業のようなものが、彼を突き動かしているのだろう。
 著者の視点は過去だけでなく、現在にも向けられる。池袋のチャイナタウンには、多くの中国人がSNSで情報を得てやって来る。そして、物理 的にも人間関係的にも「密」である飲み屋は、 コロナ禍を経てどうなっていくのか。過去を通して、横丁の未来を見据える一冊になった。(中央公論新社1500円 )
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2021年04月15日

【おすすめ本】榊原崇仁『福島が沈黙した日 原発事故と甲状腺被ばく』─「100ミリシーベルトの少女」 を通して被ばくの歪曲に迫る=鈴木 耕(編集者)

 調査報道のお手本のような作品である。著者は東京新聞記者。福島原発事故が起きたとき、石川県の北陸本社勤務。すぐに石川県の志賀原発は果たして大丈夫なのかと疑問を持つ。
 やがて東京本社特別報道部に移り、福島に通い始めて原発事故が抱える別の恐ろしさに突き当たる。それが子ども被ばく調査の闇だった。
 著者は情報公開制度を利用し、被ばく関連のあらゆる資料を請求し始める。そこで目にしたのは「100ミリシーベルトの少女」の存在だった。
 「甲状腺等価線量100ミリシーベルト」は政府も福島県も「甲状腺がんの発症リスクが増加する数値」と認めていた。その数値に達する被ばく少女がいたとすれば大問題だと著者は思ったが、なぜか埋もれたまま。その理由は何か。記者魂がうずく。

 著者は数万枚に及ぶ資料を、情報公開制度で入手し、根気よく丹念に読み込んでいく。資料から関係者を洗い出し、インタビューを申し込む。応じてくれる人もいれば、けんもほろろに拒否する人もいる。
 著者は挫けない。まるでミステリ小説のように、謎の薄皮を1枚1枚剥ぎ取っていく。そこから見えてきたのは歪曲と工作だった、と記す。
 スリリングな展開で謎は少しずつ晴れていくものの、立ちはだかるのは、やはり<巨大な組織>だった…。
 ミステリ小説には解決の結末が待っているが、残念ながら本書にはそんなカタルシスはない。隠蔽の謎はまだ手の届かないところにあるからだ。
 だから著者には、手を緩めずに、2発目3発目の弾丸を撃ち込んでほしい。(集英社新書900円)
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2021年04月08日

【好書耕読】「うちなーぐち」に耳を傾けて=石川 旺(JCJ賞選考委員)

 「島口説」(しまくどぅち)は、東京の池袋にあるパモス青芸館の開館にあたって、企画された北島角子主演の一人芝居。1981年に文化庁芸術祭賞優秀賞を受賞した。
 舞台は沖縄市の繁華街にある民謡酒場。そこの女主人の語りと歌と踊りで構成されてゆく。第一部では戦争から戦後にかけて一人の女性が直面した激動。第二部では基地に重くのしかかられた戦後沖縄の抵抗と闘いの歴史が描かれている。
 劇中では沖縄の古謡、民謡など多数が歌われ、また語りにも沖縄言葉(うちなーぐち)が豊富に取り入れられている。ささやかな個人の幸せが大きなうねりの中で翻弄される過程。続いて訪れた巨大で理不尽な力に対する人々の抵抗などが、柔らかな語り口や歌の中から次第に鮮明さを増して浮かび上がってくる。

 『謝名元慶福戯曲集 島口説』(ゆい出版)には代表作「島口説」をはじめ「美ら島」、「命口説」など六本の戯曲を収載。著者は「島口説」を二晩で書き上げたという。沖縄で生まれ育った著者の情念が噴出し、突き動かされた時間であったに違いない。
 セリフを書くとき、声を出す癖がある著者は「島口説」執筆中に自分の声が北島さんの声になり驚いたと述べている。また彼は劇作家としてだけでなく、映像作家としても優れた報道活動をしている。
 2018年3月、土木技術者の北上田毅氏が沖縄防衛局による大浦湾のボーリング調査の結果を情報公開で入手。湾内に豆腐のような軟弱地盤があることを発見した。

 謝名元氏は6月にドキュメンタリー・シリーズ「美ら海辺野古」で北上田氏を取材し、軟弱地盤の存在を広く訴えた。しかし中央の大手メディアは動かず、9月の県知事選挙に傾注し、12月には土砂投入による不可逆的な環境破壊が開始されてしまった。大手メディアは翌19年になって、ようやく軟弱地盤を報じ始めたのだ。
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