2022年01月20日

【おすすめ本】山田健太『ジャーナリズムの倫理』─いまのメディア状況を踏まえた現場と市民への教科書=福元大輔(沖縄タイムス編集委員)

 著者の研究仲間から冗談で取材を頼まれたことがある。
「山田先生は化け物だ。大学の仕事だけでも忙しいのに、新聞やテレビにコメントを出し続け、その上、本まで出版する。いつ、何をしているのか調べてほしい」
 専修大学のジャーナリズム学科で教える著者がコメントを求められる、あるいは書かなければならない事項が多岐にわたるということは、言論表現の自由やジャーナリズムが危機に瀕している証左であるといえよう。

 同時期に出版した『法とジャーナリズム』第4版(勁草書房)は言論表現の自由に関する法や制度の解説書で、それと対をなす本書を「ジャーナリズムの現場で直面するであろう数々の問題への処方箋」と位置づける。
 本書の見開き・左ページには「自主規制の意義と歴史」「編集の独立」「メディアアクセス権」「取材源の秘匿」など、基本的な事項を解説している。右ページでは具体的な事例、実態などの「資料」を掲載しており、理解を助けてくれる。
 たとえば左のページで「誤報、虚報、ねつ造」を解説。右のページでは沖縄の米軍基地に抗議する人たちが、救急車の走行を妨害したなどと報じた「ニュース女子事件」を取り上げ、番組独自の検証、放送倫理検証委員会の審査内容、テレビ局の検証と対応などの経緯を明らかにしている。
 メディアの多様化で発信する手段が増え、為政者(統治機構)がメディアを選別、排除する時代に、権力を監視し、民主主義を守るには何が必要か。ジャーナリズムの役割を認識するとともに、市民の信頼を得るための教科書のような一冊だ。(勁草書房2500円)
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2022年01月13日

【おすすめ本】合田 寛『パンデミックと財政の大転換   GAFA支配と租税国家の危機をこえて』─4つの危機に立ち向かう財政大転換への処方箋を提示=竹信三恵子(和光大学名誉教授)

コロナ禍は、働き手や医療への公的支えの手薄さを、改めて照らし出した。一方で企業の内部留保は膨らみ、資産という「溜め」がある人々との格差は拡大の一途だ。
 本書は、このような貧困と極端な不平等という危機、その修復のためにあわてて出動された財政と金融の危機、パンデミックによる公衆衛生と医療の危機、気候変動と地球温暖化の危機という4つの危機を挙げ、これに立ち向かう財政大転換の必要性を、事実に即して丹念に説き明かす。

 背景にあるのは、すべての事物を企業利益の手段として食い尽くしていく新自由主義の拡大だ。そんな中で、人々の生活を支える財政は、節約すべき無駄として「緊縮」 の対象になってきた。
 こうして企業や富裕層に蓄積された富は、大規模な税逃れの「タックスヘイブン」へ流入し、生活者へは還元されない。
 本書はこうした構造に触れつつも、怒り嘆くだけではない。すでに始まっている国際的な反転の取り組みを紹介し、具体的な処方箋を提示しているからだ。

 たとえば、気候変動を引き起こす野放図な経済活動に対し、政府が規制力を取りもどす「グリーン・ニューディール」政策は、そのひとつだ。
 また「デジタル革命」 による企業の新しい寡占化と徴税難に対し、国際的なデジタル課税の動きも進んでいる。
 巨大企業や富裕層の応分の負担を回復するための税制改革の様々な手法も提案されている。
 無力感に陥る前に、私たちがすべきことはたくさんある。そしてそれはすでに始まっている。本書は、そんな展望と自信を与えてくれる「格差時代の必読書」である。(新日本出版社2000円)
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2021年12月30日

【‛21読書回顧】女性の政治リーダーが活躍した理由=清宮美稚子(「世界」前編輯長)

 今年8月、女性政治家に関する本が2冊、ほぼ同時に刊行された。マリオン・ヴァン・ランテルゲム『アンゲラ・メルケル─東ドイツの物理学者がヨーロッパの母になるまで』(東京書籍)と、岩本美砂子『百合子とたか子―女性政治リーダーの運命』(岩波書店)である。
 前者は、今年惜しまれつつ引退した「ヨーロッパの盟主」の評伝。ベルリンの壁崩壊後、政界入りしたメルケルは、すぐに頭角を表わし、時には「策略家かプロの殺し屋かと思われる才能で」政敵を葬り、「カリスマ性のないシンプルな権力」を築き上げた。
 その特異な出自から自由と民主主義の大切さを重んじる彼女は、アメリカでトランプが大統領に当選を機に、4期目も続ける決心をしたという。
 長年にわたる観察と周辺への丁寧なインタビュー取材にフランス人女性という書き手の視点も加わり、困難な時代に16年間、なぜ権力を維持できたのか、その理由の一端を垣間見ることができた。
 もちろん単なる礼賛本ではなく、金融危機の際のギリシャへの頑なな姿勢、(首相になる前だが)イラク戦争に賛成したことにも、批判的に言及している。

 後者は「日本政治史上女性首相に最も近づいた」2人の軌跡を追った上で、日本で女性政治リーダーが、なぜ育たないのか、育てるにはどうしたらいいのかを論じている。メルケル伝と合わせて読むと、近いうちに日本で女性首相が誕生することがあるだろうかと暗澹たる気持ちになる。

 もう一冊、女性に関わるテーマの意義ある出版として、メアリー・ホーランド他『子宮頸がんワクチン問題―社会・法・科学』(みすず書房)を挙げたい。
 「反ワクチン」本ではないが、副反応の問題、臨床試験の信頼性や製薬会社の宣伝戦略の実態など、多岐にわたる論点が網羅されている。2013年6月以来中止されていたHPVワクチンの「積極的勧奨」再開が、正式に承認された今、沈黙している日本のジャーナリズムでも、活発な議論を展開してほしい。
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2021年12月09日

【おすすめ本】加藤登紀子『哲さんの声が聞こえる 中村哲医師が見たアフガンの光』─「優しくて強靭な意志」への鎮魂歌=鈴木 耕(編集者)

これはラブレターなのです。去って行ったステキな人へのちょっと淋しい手紙なのです。
 著者が「哲さん」と呼ぶ中村哲さんへの愛を込めて、二人の交友を淡々と綴ったのが本書です。
 小さな断片の重なりが不世出の医師の生涯を写し出します。アフガニスタンに注いだ哲さんの思いは、あの「用水建設」や「診療所」に象徴され ます。それなのに、哲さんの無念の死。
 第一部は哲さんの生き方の「軌跡」です。そして哲さんが起こした「奇跡」、ふたつのキセキ。
 私が好きなのは第二部の「哲さんへの手紙」にある「哲さんともう会えない」と題された哀切な文章には、涙腺の弱くない人でも、瞼が熱くなるはずです。ここで著者と哲さんの出会いから交流が語られます。
 そこに、著者の亡き夫(藤本敏夫さん)との想い出が重なります。学生運動のリーダーであり、後に生協運動、自然農法に尽力した藤本さんは、2002年、58歳という若さで世を去りました。
 藤本さんと哲さんは、たった2歳違いでしたが哲さんもまた2019年、アフガンで凶弾に倒れました。73歳でした。
 著者は、藤本さんと哲さんに、共通の「優しいけれど強靭な意志」を感じ取っていたのでしょ う。だから本書は実は哲さんと藤本さんの生き方への、真剣な愛に満ちたラブレターなのです。
 二人のかけがえのない人を失った著者は、それでも前を向いてひとりの旅を重ねます。第三部の「哲さんの残した言葉」を携えながら…。心に沁みる一冊です。(合同出版1700円)
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2021年11月30日

【おすすめ本】北川成史『ミャンマー政変 クーデターの深層を探る』─少数民族への丹念な取材が光るルポ=藤川大樹(「東京新聞」外報部)

今から10年前、ミャンマーは半世紀に及ぶ軍事政権に終わりを告げ、民主化への道を歩き始め た。2015年の総選挙では「建国の英雄」の娘・アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が大勝した。民主 化は必然の流れだと思われた。
 だが、今年2月の国軍クーデターにより、ミャンマーは再び暗い時代に引き戻され、人々がようやく手に入れた自由は奪い去られた。本書では、クーデターの背景や国軍の利権構造、市民らの抵抗運動の軌跡を描く。

 政情は「国軍」対「民主派」という単純な構図では語れない。ミャンマーには、中央政府が認定するだけで135に上る少数民族がいる。独自の歴史と生活を持ち、利害も複雑に絡む。国民的な人気を誇るアウンサンスーチー氏に対する温度差もある。
 著者は社会部畑が長い記者だけに、現場を丹念に歩き、市井の声に耳を傾ける。少数民族地域や難民キャンプにも足繁く通い、人々の本音を引き出している。特に中央政府や国軍も自由に立ち入れない事実上の独立国、ワ自治管区の実情を知らせる報告は見事だ。

 クーデターから8カ月が過ぎた。民主派は少数民族との連携を模索しながら、抵抗運動を続けるものの、国軍の力任せの支配は固まりつつあるように見える。
 人々は再び自由と民主主義を取り戻すことができるのだろうか。著者は「自由の価値を知った以上、理不尽な束縛など到底受け入れられない」と前置きした上で、抵抗運動は「必ず実を結ぶ」と 断言する。(ちくま新書 840円)
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2021年11月18日

【おすすめ本】岡 大介『カンカラ鳴らして、政治を「演歌」する』─「演歌は庶民の叫び」 カンカラ演歌師の全国行脚=大原智也(北海道新聞)

 演歌といえば、こぶしを回す歌謡曲を思い浮かべるが、本来の演歌は明治・大正期に、自由民権運動から生まれた社会風刺の歌のことである。
 本書は43歳の著者が絶滅危惧種の演歌を歌う「演歌師」になった半生と、多くの人々との交流を綴った記録である。
 著者のストレートな歌声と少年のような愛嬌ある風貌に合わせ、その飾らない人柄が、多くの人を引きつけてきた。沖縄の三線(さんしん)の代用品であるカンカラ三線を手にして約20年。演芸会や酒場、集会で歌い続け、安倍晋三元首相など、不可解な答弁で迷走する政治家を、「ああわからない」「オッペケペー節」などの歌詞をつけ、軽やかに風刺してきた。

 プロサッカー選手の夢を諦めた20歳頃、実家の押し入れにあった吉田拓郎のレコードに衝撃を受け、歌手になろうと決意。当初はギターを手に自作曲を歌っていたものの芽が出ない。そんなときフォーク歌手の高田渡から本来の演歌や演歌師の代表格である添田啞蟬坊について教わり、のめり込んだ。
 カンカラ三線と出合った話など、読み進めるにつれ、偶然が重ならなければ唯一無二の「カンカラ演歌師」は誕生しなかったことが実感できる。
 今は亡き小沢昭一や永六輔らとのエピソードも読みどころの一つ。だがそれ以上に興味深いのが、北海道から沖縄まで全国各地で出会った人々との交流だ。いかに彼が人との縁を大事にしてきたか、よく分かる。
 「演歌は庶民の叫び」と語る著者。現在の政局を笑いに変え、さらなる鋭い風刺を生み出すよう期待して止まない。(dZERO1800円)
                          
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2021年10月28日

【おすすめ本】中島京子『やさしい猫』─スリランカ出身の新しい父親のために母子2人が闘う奮戦記=鈴木 耕(編集者)

 これは、マヤという活発で感受性の豊かな少女が「ある人」に向けて語る物語です。「ある人」とは誰なのか、それは物語の最後に明かされますが、そこへ辿り着くまでが波乱万丈なのです。マヤのお母さんはミユキさん。ミユキさんとマヤはお父さんが亡くなってから、ふたり肩を寄せ合って小さなアパートに暮らす母子家庭。
 そんなミユキさんも恋をします。恋の相手がクマさんです。でも、その 恋が一筋縄ではいかないんです。なぜって、クマさんがスリランカ人だったからです。
 しかも、ある事情でクマさんは「不法滞在」という境遇になってしまいます。必死になって、ミユキさんとマヤを守ろうとするあまり、陥ったクマさんの苦境。恋の行く手に立ちはだかるのは、あの「入管」。

 ここからは、もう恋物語ではなく、母と子が新しい父親を救おうとして闘う奮戦記です。
 徒手空拳の母娘に、それでも救いの手を差し伸べる人たちがいます。マヤの親友のナオキくんはゲイの少年ですが、そのたぐいまれなる才能で、何度もマヤの心を温めます。
 マヤが憧れる美少年ハヤトはクルド人で難民申請中。そしてマヤ母娘と一緒に闘ってくれるハムスター弁護士(恵浩一郎)が登場して、物語はついに法廷ミステリの様相を呈します。
 もう、読んでいてドキドキハラハラ。さすがに結末は書けません。とにかく読んでください。こんな面白い小説は久しぶり。あ、「やさしい猫」ってタイトルはクマさんの故郷スリランカの話。それにしても「入管」って、いったい何なんだあ!と叫びたくなります。(中央公論新社1900円)
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2021年10月21日

【おすすめ本】謝花直美『戦後沖縄と復興の「異音」 ─米軍占領下 復興を求めた人々の生存と希望 』─復興と生活の軋みから漏れ出る「異音」を掬い出す=栗原佳子(新聞「うずみ火」記者)

 「沖縄タイムス」記者 として沖縄戦、沖縄戦後史を長年取材してきた著者は2010年、1年間休職し、大阪大学大学院の門を叩いた。本書は18年に博士号を取得した論文を再構成した労作だ。
 沖縄戦から米軍占領下で生き延びた命をつなぎ「復興」を目指した市井の人々を主人公として描く。 例えば「ミシン業」の女性たち。戦争で夫を失ったり、米軍基地に土地を奪われたりした人々が生活の糧とした。手内職の「既製品」を立ち売りする商売は「新天地市場」へと結実した。
 故郷を那覇軍港に接収された那覇市「垣花」の人々の軌跡も辿る。軍労働に伴う移動を繰り返した結果、離散。
 一方、那覇の「復興」の陰で旧真和志村(1957年那覇市編入)の農村復興の希望は潰えた。米軍の占領施策が、全てに優先される時代とはいえ、「抗うべき相手は占 領下で同様に苦しむ沖縄の人々だった」のだ。

 しかし56年、人々の怒りは「島ぐるみ闘争」として爆発した。著者は米軍住宅で働いた女性たちの「気持ちまでは取られない」という言葉に象徴される、人々の気持ちが島ぐるみ闘争へつながったのだと述べる。
 沖縄戦、沖縄戦後史の体験者や不条理に泣く人々の声に耳を傾けてきた著者だからこそ、女性のつぶやきを聞き留め、主流の歴史には表出してこない無数の「異音」を 聞きわけたのだろう。
 来年は復帰50年という節目。復帰とは何だったのか。いまを考えるには沖縄戦後史を知ることの大事さを、改めて教えられた。沖縄からの「異音」は聞こえるか。私たちが問われている。(有志舎2600円)

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2021年10月14日

【おすすめ本】原 武史『歴史のダイヤグラム 鉄道に見る日本近現代史』─鉄路にまつわる大事件から列車での小さな出来事まで=萩山 拓(ライター)

 歴史は鉄路で作られる─といっても過言ではない。本書の内容は副題が的確に表している。
 今年は満州事変から、ちょうど90年。1931年9月18日の夜、中国東北部・奉天(現在の瀋陽)近郊の柳条湖で、南満州鉄道の線路が爆破された。当初、中国兵による 不法な襲撃とされたが、実は日本の関東軍が仕組んだ謀略だった。
 本書は、まさに鉄路が絡む大きな事件から、鉄道を介して展開される小さな出来事まで、まったく知られなかった近現代史の実相が、著者の豊富な鉄道知識を通して、浮かび上がってくる。

 「第一章 移動する天皇」では、「神を載せる車両」「御召列車の政治的効果」に触れて、次のような記述がある。
 「御召列車とすれ違う列車の便所は使用禁止になったばかりでなく、名古屋や京都などの停車駅は構内の便所などが幕でおおわれた。聖なる天皇の視界に便所が入ってしまうこと自体が、おそれ多いと見なされたのだ」
 以下、「郊外の発見」「文学者の時刻表」「事件は沿線で起こる」「記憶の車窓から」と章題をつけ、荷風が見た井の頭線の田園風景、ダイヤ改正と「点と線」の4分間トリック、丸山眞男が聞いてメモした車中の政治談義、 最後はポーランドを訪れた際のワルシャワのトラムと食堂車での体験が綴られている。

 私事で恐縮だが、筆者も5年前、ポーランドを旅して体験した記憶が、著者の記述で甦る。クラクフからワルシャワヘ行く特急列車ペンドリーノに乗り、連結されたビュッフェで、ビール「ジヴィエツ」を瓶から飲み、サラダとケバブを挟んだ丸いパンにかぶりついた。その味が忘れられない。
 本書は朝日新聞の土曜別刷り「be」に連載のコラムを新書化。各テーマ3ページ・写真付きで、どこから読んでも面白い。(朝日新書850円)

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2021年10月05日

【おすすめ本】金田茉莉『かくされてきた戦争孤児』─戦争孤児の過酷な真実に迫る =笠原十九司(都留文科大学名誉教授)

 私の子どもの頃、信州の高原の戦争孤児施設「鐘のなる丘」を舞台にしたNHKラジオドラマ(菊田一夫原作)が4年間も放送され、主題歌の「とんがり帽子」(古関裕而 作曲)が愛唱されて人気を博した。番組は戦争孤児の非行防止を目的にGHQのCIE(民間情報局)が制作を指導したものだった。
 しかし、このドラマは悲惨な戦争孤児の実態と真相を世間の目から「隠す」役割を果たしたともいえる。

 『かくされてきた戦争孤児』(講談社)の著者・金田茉莉さんは東京の浅草で生まれ、国民学校の学童疎開先の宮城県から東京に帰る列車に乗っていた時、昭和20年3月10日の東京大空襲で母と姉と妹を失った。父は亡くなっていたので、茉莉さんは10歳で戦争孤児となった。母は大阪に家族で疎開することを決めていたが、担任から熱心に説得されて「学童集団疎開」に応じた結果の悲劇だった。

 茉莉さんは姫路の伯父の家に預けられたが、子ども7人もいる貧しい家、伯母の「親と一緒に死んでくれたらよかったのに」というひそひそ話が胸に突き刺さった。高校を卒業して無一文で上京、孤児に対する社会の差別のなかであらゆる辛酸を経験した。結婚して子どもにも恵まれた茉莉さんは戦後40年を経て50歳になってから、「20万人を超える戦争孤児たちの真実が永久に判明しなくなる」と自分史を自費出版し、これを契機に戦争孤児アンケート調査開始した。
 学童疎開を研究する会に入り、戦争孤児の会代表も務めた。戦争孤児が辿った過酷な人生の記録を後世に語り継いでいく語り部活動を続けながら、20数年の歳月をかけて本書を書き上げ、85歳になって出版に漕ぎ着けた。
 「2020年を『戦争孤児問題』研究元年に」と銘打つ『戦争孤児たちの戦後史』(全3巻、吉川弘文館)も刊行された。本書はその嚆矢に位置づけられる。(講談社1600円)
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2021年09月24日

【おすすめ本】横井久美子『横井久美子 歌手グランドフィナーレ 歌にありがとう』─人々を励まし歌い続けた生涯を偲ぶ=隅井孝雄(JCJ代表委員)

私が横井さんを知ったのは1969年、労組の平和・反戦集会で彼女に歌ってもらったことがきっかけで、ほぼ半世紀の交友が始まった。
 本書では歌を通して知りあった、活力ある人々との交友の中で成長を遂げた、歌手・横井久美子の足跡が、完ぺきに再現されている。
 歌手としての活動の合間、折々に綴った歌にかける思い、活動の記録、先輩、友人、知人、家族などとのふれあいについて、これまで書いてきた様々な文章を、横井さんが闘病の日々の中で、一冊にまとめた労作だ。

 歌手活動は日本国内のみならず、1973年アメリカと闘うベトナムの兵士らと、ハノイで「戦 車は動けない」を歌ったのをはじめ、アジア、ヨーロッパ、南米など世界を駆け巡っている。
 また音楽の教えを受けたアイルランドには何度も訪れ、晩年にはネパールの山村に通い、子供たちの音楽ホールを建設するなど、その足跡は世界各地にわたっている。
 1978年の「ノーモアスモンの歌」にみられるように、人々を励まし続け、人生の賛歌を歌い続けてきた横井さんは、2019年8月アイルランドの旅から帰国後、腎臓がんと診断され、闘病生活に入った。そして再起の願いも込めて、本書の出版を企画、夫の友寄英隆さんに支えられ執筆、編集したものの、ガンは容赦なく、今年1月14日彼女の命を奪った。
 本書の最後に自身のブログに書いた1年3カ月に及ぶ闘病記録も収録されている。帰らぬ人となった横井さんの人生に、哀惜を込め拍手を送りたい。(一葉社2200円 )
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2021年09月16日

【おすすめ本】古賀茂明『官邸の暴走』―経産官僚に牛耳られた「官邸主導」の経済プロジェクト=南彰(朝日新聞)

 菅政権の内実に迫るドキュメンタリー映画「パンケーキを毒見する」とタイアップし、「政治主導」の名の下に進められた安倍・菅政権の異常な官邸主導政治の内実を明らかにする一冊だ。
 著者は、安倍晋三氏を「能力の低いペテン師兼パフォーマー」、菅義偉氏を「頑固で攻撃的、かつ『改革する自分』に酔う裏方番頭」と評している。しかし「官邸主導」 の政治を実際に動かしているのは「官邸官僚」だと指摘する。

 その中心は、安倍首相の政務秘書官として君臨した今井尚哉氏ら経済産業省出身の官僚だ。高度成長時代に「日本株式会社」の参謀本部といわれた旧通商産業省。その仕事がないにもかかわらず「日の丸プロジェクト」で失敗を重ねてきた。
 しかし、「意味はないが大したカネをかけずに立派に見せる政策を作るプロばかり」がそろっているという「経産省的な性格」が「国民への人気取りの政策、話題に上る政策を常に必要とした」安倍政権とまさに合致して、「暴走」を重ねていった状況を描く。

 そうした結果が、労働者の平均賃金は下がり、「成長戦略」も不発で産業競争力が劣化した日本の姿だ。世界に取り残される状況を指摘できない、視野の狭い日本メディアの共犯性も厳しく指摘している。
 後半には、「7年8カ 月の安倍政権で日本経済は復活した」という言説を覆す「斜陽日本」を示すデータが次々と示される。
 筆者が再建を期待するのは河野太郎氏。その是非には議論があるが、日本社会の危機を共有し、乗り越えるための処方箋になっている。(角川新書1000円)
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2021年09月09日

【おすすめ本】雨宮処凛『コロナ禍、貧困の記録 2020年、この国の底が抜けた 』─凄まじい実態・非道な対応への告発=鈴木 耕(編集者)

コロナ感染が止まらない。だが「東京五輪」の開催強行。まるでコロナという大火へ、ガソリンを注ぎ込むような菅政権のやり口。人命を賭ける蛮行の陰で、いったい何が進行していたか。
 サブタイトルにあるように、本書は昨年来の安倍〜菅政権が求める「自助」が引き起こした貧困の凄まじいばかりの記録である。

 2020年の「春・夏・秋・冬」と4章にわたってコロナ禍で追い詰められていく人々を追い、彼らに寄り添いながら、必死に活動する著者の悲しみが横溢している。
 その様相は、まるで戦時中だ。所持金13円の男性、コロナ不況がもたらすホームレスの増加。冬に向かうにしたがい、過酷さは増す。寒風の中で身を縮める切なさ。バス停で殴り殺された女性の事件。そして、従来にはなかった女性の貧困が目立つようになる。
 コロナの蔓延は、飲食業や風俗店の女性従業員たちを直撃する。中でも子どもを抱えた女性たちは、行き場を失い食をも絶たれる。だが役所の対応は冷酷だ。援けを求める人たちに缶詰めを渡して追い返す。

 生活保護申請に対して「親族への照会」という無慈悲さで扉を閉ざす。街頭に追われた人から、生きる支えのペットさえも取り上げようとする。
 著者たちは、必死に抗う。少しずつではあるが拒否の扉をこじ開ける。その意味で、これは政権の貧困者切り捨てに立ち向かった著者たちの闘いの記録でもある。
 なお本書はウェブ上の週刊誌「マガジン9」の 連載を編集したものである。(かもがわ出版16 00円)
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2021年08月28日

【おすすめ本】角南圭祐『ヘイトスピーチと対抗報道』―差別を断罪しないメディアの弱さ 自省を込め現場から問う=石橋 学(神奈川新聞)

 報道に携わる者にとって必読の書である。ジャーナリズムはなぜ差別と闘わなければならないのか、そのために何をなすべきであるかが、ここに記されている。
 著者は共同通信の記者で、へイトの現場で顔を合わせてきた私にとっては、共に闘ってきた同志である。
 差別を見過ごし、偏見や差別を口にしてきた過去がある。「だからこそ 『上から目線』ではなく記者として何をして、何ができなかったかを自省しながら、現状と課題をまとめたい」という率直な筆は、私が知る真っすぐ疑問に挑戦していく角南記者の姿そのもの。だからこそ説得力がある。
 マジョリティーが差別の問題に取り組むには、ある種の「恐れ」がつき まとう。自らの特権性に無自覚であるがゆえ、言葉の使い方一つにも思いの至らなさ、傲慢さが投影してしまう。
 マイノリティーの被害の深さやヘイトデモの現場で抗議の声を上げる市民に触れ、中立を装うメディアの欺瞞に気付き、変化していった筆者の足取りは、私が経験した変化でもあり、メディアは変わり得るという希望を表している。
 差別を断罪しないメディアの弱さは、侵略の過去とその根源にある差別の歴史を顧みない日本社会にあって顕著だ。「差 別を禁止する法律をつくり、ヘイト包囲網を完成させたい。その日のために今ある差別に反対する声を共に上げていこう」との結びは、日韓の戦後補償問題を追い続けてきた著者ゆえに辿り着いた地平であるに違いない。
 戦争のお先棒を担いだ反省に立つジャーナリズムは傍観者たり得ず、差別をなくす主体として、その先陣を切らねばならないと、覚悟の筆が教えてくれる。(集英社新書880円)
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2021年08月26日

【緑陰図書―私のおすすめ】ミャンマー少数民族の生活を探る=岸田浩和(記録映画監督)

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 民主化の象徴=アウン・サン・スー・チー氏が表舞台に登場したのは1988年。32年かけ少しずつ進んできた民主化の道が、今年2月に勃発した軍事クーデターにより、一夜にして瓦解。
 その後、ミャンマー全土で民主化を望む市民が大規模な抗議活動を展開したが、クーデター政権の容赦ない弾圧により、表面的には沈静化した。
 現在、民主派は国家統一政府(NUG)を樹立し、国民防衛部隊(PDF)を発足させた。山岳地帯に拠点を持つ、カレン族やカチン族の民兵組織が受け皿となり、参加を希望する市民に軍事訓練を行っている。
 ミャンマーには、135の少数民族が山間部を中心に暮らしている。総数は人口の3割。彼らは長年にわたり迫害を受け政府と対立してきた。だがクーデター後から、民主派の市民が少数民族の武装組織と連携し、今の軍事政権と対立する構図が浮かび上がってきた。
 ミャンマーの複雑な国情と将来を考える上で、少数民族と武装組織の関係、および彼らの資金源となる麻薬生産の長い歴史は、重要なテーマとなっている。
  高野秀行『アヘン王国潜入記』(集英社文庫)は、ゴールデントライアングルと呼ばれる、メコン川流域のアヘン生産地帯に潜入し、ワ族と呼ばれる少数民族の村で、ケシ栽培の種まきから収穫までを体験した貴重なルポだ。
 辺境に追いやられた少数民族が、生活のために麻薬生産に従事し、その資金で武装組織を作って政府と対立してきた構図がよくわかる。
 人情味溢れる村人の暮らしや、不注意で著者自身がアヘン中毒に陥る様子など、潜入ルポならではの驚きや展開で、一気に読み進んでしまう。精製されたアヘンが流通する過程で、中国マフィアが暗躍し、さらにミャンマー軍事政権の組織的な関与が浮かび上がる展開は圧巻だ。
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2021年08月24日

【緑陰図書ー私のおすすめ】<東京五輪>と「言論の自由」=後藤逸郎(フリー記者)

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 日本政府は無観客のカードを切って、東京五輪・パラリンピックの強行開催へと突き進んだ。
 政府を問い糺すべきメディア、特に大会スポンサーとなった新聞大手紙は、開催自体の是非について、ついに国民的議論を呼び起こさずに来た。
 信濃毎日新聞が開催中止の論説を張るまで、大手紙は海外の批判記事を引用するなど、自らの言説で東京五輪への旗幟を鮮明にすることから逃げ続けた。報道機関の根幹である「経営と編集の分離」は崩壊していることは明白だ。
 本多勝一『職業としてのジャーナリスト』(朝 日文庫)は、ベトナム戦 争反対を唱えた北海道新聞の社説の「正論」を評 価するが、しかし地元の漁業問題には沈黙する姿勢を批判している。また信濃毎日が当時、林道建設の推進報道をしていた事実も紹介し、政治権力や経済界と新聞社の距離が、報道機関の「言論の 自由」を規定する構図を指摘した。
 北海道新聞の東京五輪を巡る社説も、ベトナム戦争時の鋭さがない。信濃毎日は長野冬季五輪でも同じことを主張したのか。同書が示した問題は現在に続いている。

 西村肇・岡本達明『水俣病の科学』(日本評論社)は、チッソが垂れ流した有機水銀による中毒メカニズムを解明した好著。
 共著者の西村肇・東大名誉教授は助教授時代、公害研究を咎められ他大学転出の危機に会い、研究を中断。退官後に再開した研究を同書に纏めた。西村氏も「言論・学問の 自由」に直面した。
 取材で面談した西村氏から「自由な活動は財政的に自立してから」と諭されたのを覚えている。
 その助言に抗し新聞社を辞めて出したのが拙著『オリンピック・マネー』(文春新書)。国際オリ ンピック委員会が神聖な組織でなく、興行主に過ぎないと指摘する内容 で、今や共感する人は多いと思うが、在職中には出版できなかった。「言 論の自由」を守るのは誰か他人ではなく、自分自身の問題と実感した。
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2021年08月14日

【緑陰図書─私のおすすめ】─LGBTを正しく理解するために=東 優子 (大阪府立大学教授)

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 LGBTとは性的マイノリティのうち「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー」の4つの頭文字をとった総称である。
 一見すると日本社会はLGBTに対してフレンドリ―であるかのような印象が持たれている。
 2015年ごろ東京都渋谷区や世田谷区が「パートナーシップ制度」の導入を発表してから、同制度を導入した自治体の数も三桁を超えている。
 また「性同一性障害者特例法」により、戸籍上の性別を変更した成人は一万人を超え、戸籍上とは異なる性別での入学・通学を希望する児童生徒への対応も進んでいる。
 こうした社会的変化に伴い、「正しい知識・正しい理解」の普及を目的とした講演・研修も、全国各地で開催されるようになった。

 LGBTを理解するうえで、何を読めばいいか迷ったときには、原ミナ汰・土肥いつき編著『にじの本棚 LGBTブックガイド』(三一書房)が良い。さまざまなジャンルの関連本について46人の執筆者が解説を加えたガイドブック。
 LGBT人口について「意外と多い」ことが強調されることも珍しくないが、マイノリティの人権を議論する際に、数の多少は本質的問題ではない。
 石田仁『はじめて学ぶLGBT 基礎からトレンドまで』(ナツメ社)は、多様にして複雑な問題をわかりやすく解説している。豊富なデータを駆使するだけでなく、数字のひとり歩きに警鐘を鳴らすことも忘れないなど、一般的な啓発本より深く考察している。
 森山至貴『LGBTを読み解く クィア・スタディーズ入門』(ちくま新書)は、LGBTを入り口に、性の多様性をより深く、理論的に学べる良書だ。
 偏見・差別を解消するためには「良心(だけ)ではなく知識が必要」であるという著者が、丁寧に紐解く歴史を通じて、「正しい知識・正しい理解」が流動的なもので、個人や社会の都合で「事実」さえも変色することがあることに、気づかされる。
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2021年07月31日

【おすすめ本】上西充子『政治と報道 報道不信の根源』─政治家の不誠実答弁に抗する「論点」を軸にした報道へ=菅原正伯

安倍・菅政権になって、記者会見や国会答弁で、首相や大臣が質問に正面から答えない不誠実な答弁が横行している。言質を与えない、報じる材料を与えないという政府に対し、政治報道はどうあるべきか、問題点を検証している。

 たとえば、どのように聞かれても、あらかじめ用意した同じ答弁書を棒読みする。日本学術会議6人の任命拒否問題では「総合的、俯瞰的活動」の観点で任命したと繰り返すだけで、拒否の理由は説明しないというのはその一例だ。
 あるいは記者会見やインタビューで、メディア側が「国民の間には首相の説明が分かりにくいとの声があるのですが…」と問いかける。
 これでは理解しない国民の側に問題があるかのようになり、「丁寧な説明を心がけたい」というお決まりの答弁でお仕舞となってしまう。論点を明示した質問が重要だ、と著者は指摘する。

 意図的な論点ずらしの答弁を、著者は「ご飯論法」と名づけたが、あえて論点を外して答えるカラクリを見ぬいて、メディアは問い詰めないと、報道する価値もなくなってしまう。
 メディアは「与野党攻防」といった「政局」報道に偏るため、「初陣」「防護に徹した」「決定打に欠けた」「逃げ切り」など、ゲームの実況中継みたいな言葉が飛び交い、肝心の「論点」が後景に 退いてしまう。
 著者は、こうした「政局」報道を止め、問題の「論点」を軸にした報道に重点を移せば、野党議員の役割も、より正当に伝えられ、報道もより権力監視の役割が果たせるのでないかと、繰り返し強調している。(扶桑社新書960円)
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2021年07月22日

【おすすめ本】半田 滋『変貌する日本の安全保障』─「引き裂かれた安全保障問題」の根源を読み解く絶好の書=前田哲男(ジャーナリスト)

 本書は、学生に向けたオンライン授業を基にしているが、それにとどまらず若い世代(とりわけ記者)に「自衛隊の今」を伝える一冊となった。
 「安倍安保」ともいうべき長期政権のもと進行した「9条と同盟」の矛盾、また「専守防衛か敵基地攻撃か」をめぐる葛藤。その相克は、菅政権下においても「台湾海峡防衛」に継承され、亀裂は極限に達した観がある。若者ならずとも「法と現実」のもたらす落差に目くるめく思いだ。

 12講に区切られた各章には、著者の強みである編集委員としての現場主義と、論説委員の本領の両面、いわば“腰の軽さ”と“論の重厚さ”がほどよく溶けあい、自衛隊海外活動の現状と、そこに至った時代の流れを織りまぜ、自衛隊の歩んだ道が記述される。話し言葉による文体も説得的だ。
 読者には、自分の関心にそって読むことをお勧めする。沖縄のことなら「第3回 沖縄の米軍基地」から。最新ニュースなら「第10回 ミサイル防衛とイージス・アショア」、また「安倍安保」の本質を知るには「第12回 安全保障関連法」といったように。興味のおもむくまま読めばいい。

 そうすると、なぜ「護衛艦いずもの空母化」が必要なのか? なぜ「非核3原則が国是であるのに核兵器禁止条約を批准しないのか?」などの疑問が解けてくる。PKO派遣という “戦闘への接近” も、著者の現地取材によって容赦なく実態が暴かれる。
 コロナとオリンピック問題のあおりで、最近あまり大見出しにならない「引き裂かれた安全保障問題」の根源を読む良書である。(弓立社2500円)
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2021年07月15日

【おすすめ本】白取千夏雄『「ガロ」に人生を捧げた男 全身編集者の告白』─長井勝一氏との出会いから休刊までの壮絶な編集者魂=鈴木 耕(編集者)

雑誌「ガロ」といえば 1970〜80年代に、知らぬ者なしと言われた伝説の漫画誌である。実は私も「ガロ」には個人的 な思い出がある。
 77年、当時「ガロ」編集長であった南伸坊さんに依頼され、小説を掲載してしまったのである。まったく若気の至り青春というのは恥知らずだ。今も手許に1冊(6月号)だけ残っているが、恥ずかしいからタイトルは記さない。
 そんな因縁のある雑誌に、生涯を捧げた男の自伝というのだから、読まずにはいられない。そしてこれがまた、期待にたがわぬ波乱万丈、壮絶な自伝なのだ。

 私がつき合っていた南さんなどの時代(70年代)は終わり、著者・白取千夏雄が活躍したのは、80年代に入ってからだった。だから私は直接には著者を知らない。
 しかし、本書からはサブカルチャーの旗手「ガロ」の雰囲気は、溢れん ばかりに伝わってくる。「ガロ」と言えば長井勝一さんである。創刊者にして伝説の編集長、むろん社長でもあった。その長井さんとの出会いからどっぷりと編集の道に浸り込んでいく著者の軌跡は、「ガロ」後期の歴史そのものだ。
 伝説の漫画誌とはいいながら、内情は貧乏所帯。編集部の雑駁な面白さや貧乏話も活写される。だが後半に至って筆致は不穏な様相を示す。本人の慢性白血病との闘い、それ以上に切ない妻(やまだ紫=漫画家)の病い。
 さらに追い撃ちをかけるのが「ガロ」休刊の裏事情。今やネット右翼化した版元の分裂騒動。えっ、そうなの? と首を傾げる部分もあるが、著者が夭逝してしまった今となっては、真偽を確かめる術もない。それにしても凄絶な自伝だ。(興陽館1300円)
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