2020年11月13日

【おすすめ本】 南彰『政治不信 権力とメディアの関係を問い直す』―変質する権力に抗う取材の再構築を=藤森 研(JCJ代表委員)

本書の内容は、首相会見、メディアとジェンダー、テレビの現在など多岐にわたるが、貫く問題意識は明確だ。権力の変質に古い取材慣行が対抗し得ていない現状を、どう建て直すか、である。
 権力の変質とは、行政改革の末、安倍政権で完成した官邸一極集中だ。ネット化が進み既存メディアは特権を失って力をそがれている。この機をとらえ、為政者は分断・攻勢に出ている。
 たとえば内閣広報官の権限強化だ。菅官房長官会見で果敢な質問をする東京新聞・望月衣塑子記者に対し、当局は質問妨害も辞さなかった。ネット等のメディアを選別する首相の単独インタビューは、読売紙上での改憲表明の事態まで生んだ。
 これに対し報道側は旧態依然。望月記者の頑張りに「官邸側が機嫌を損ね、取材に応じる機会が減っている」と困惑する官邸クラブ員さえいる。
「夜回りなどのオフレコ取材で特定の記者を排 除するよう言われた」記者も少なくない。権力から情報をいただくことに慣れたメディアは、 政権の攻勢に受け身一方だ。
 どうすべきか。「馴れ合い」とも映る夜回りや懇談で、情報をねだる旧来の取材慣行を見直し、公的な記者会見で情報をきちんと出させる。質問制限には団結して闘う。そうしたジャーナリズムの姿勢を再構築することが今、大切だ。
 著者自身、かつては官房長官会見で望月記者の同志として、その後は新聞労連委員長として、それを実践してきた。朝日新聞政治部に戻り、前線復帰の著者の活躍も期待させる書だ。
(朝日新書790円)
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2020年11月05日

【おすすめ本】 早川真『ドキュメント武漢 新型コロナウイルス封鎖都市で何が起きていたか』―封鎖直前の武漢に入り、コロナ猛威の実像を追う=杉山正隆(歯科医師・ジャーナリスト) 

 世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。最初に流行が確認された中国・武漢市に、都市封鎖がなされる直前、著者は共同通信の記者として取材に入った。
 情報が錯綜するなか、住民の心の変化やパニックにつながっていく動きが描かれ、コロナ禍の市場や町を行き交う人たちの、悲痛な叫び声までが聞えてくる。現地にいたからこその日常の光景を交えた内容は、まさに迫真のドキュメントだ。
 当初はすぐに収束するだろうと軽視されていたが、病院に大行列ができ大勢の命が治療も受けられず亡くなる事態は、あっという間だった。初期の隠蔽がウイルスの猛威を生むことになった。
私も著者同様、年末から年始にかけ、民主化運動を取材するため、香港そして台湾を訪れていた。正月明けには「武漢で感染爆発が起きているらしい」「香港も危ないかも」との声を耳にした。感染症に30年近く携わってきた私の経験から「もしかしたら」と、非常態勢を採ったものだ。
 本書では中国での初動の遅れ、混乱ぶりが明らかにされているが、日本政府の動きもまた、あまりにも鈍かったことを示唆している。
 著者は7月に再度、武漢を訪問している。ほぼ平時に戻ったとされてはいるが、「陰性証明」をめぐって振り回される人々の姿は、コロナ禍も以前とは異なり、「ニューノーマル」の時代に入ったのだと思い知らされる。
 武漢の初動の遅れを、反省を含めて学び、感染対策や情報開示など、我々が冷静に考え向き合う上でも糧となる本だ。
(平凡社新書820円)
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2020年10月24日

【おすすめ本】 山田朗『帝銀事件と日本の秘密戦』―事件捜査の裏で軍の「秘密戦」を隠蔽=菅原正伯 

 冤罪事件として知られる帝銀事件だが、では、12人もの銀行員たちを青酸化合物で毒殺した真犯人は誰だったのか。犯人の手際のよい毒薬の取り扱いや慣れた殺害のやり口から、捜査本部は旧軍関係者の関与を疑った。
  本書は、その捜査本部の全報告を克明に記録した警視庁捜査第一課・甲斐係長の膨大なメモ(甲斐手記)を整理・分析し、捜査過程を検証した。
 その結果、旧軍には陸軍を中心に毒物を扱う20以上の秘密戦を行う軍機関・部隊が存在し、戦時中、中国大陸で生きた人間(捕虜や住民)を細菌や毒物の実験材料にしていたこと等が、地を這う捜査で明らかとなる。
 だが警察の捜査は大きな壁に直面する。捜査と同時進行で、GHQと旧軍関係者の間で、秘密戦部隊の元隊員を戦犯にしないとの交換条件で、秘密戦の詳細データを米軍に提供する隠蔽工作が進められたからだった。
 隊員たちの口止め工作を先導したのは、秘密戦の総元締め・参謀本部の有末精三中将と七三一部隊の石井四郎部隊長。著者は捜査の焦点をそらす彼らの証言を歴史学者の目で冷静に指摘する。
 捜査が難航したもう一つの壁は、意外にも捜査陣の通常捜査の「盲点」だった。物証が少ないなか「年齢五〇歳前後」「白毛まじりの短髪」という目撃情報が、一人歩きし た。秘密戦の隊員にとって、「変装」は必須の技 術であり、年配者に化けるのは容易だった。これは著者独自の指摘。
 戦後史の深い闇を垣間見せる検証結果の内容だが、事件後、ほどなく日本は再軍備への逆コースに向かう。(新日本出版社2000円)
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2020年10月06日

【おすすめ本】 左右社編集部編『仕事本  私たちの緊急事態日記』─コロナ禍のなか77人が綴るテンヤワンヤの貴重な記録に乾杯!=南陀楼綾繁(ライター) 

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京都などに緊急事態宣言が発令されたのが4月7日。
 その日に原稿依頼を始め、さまざまな仕事に就く77人に月末までの日記を書いてもらったのが本書だ。刊行は6月末。
 編集者によると、寄稿を断る人も締め切りに遅れる人もいなかったという。それだけ切実に伝えたいことがあったのだ。
 いつまで休館すればいいのか悩む映画館支配 人。従来の葬儀ができないことに戸惑う葬儀社スタッフ。練習できないことに焦りを感じるピアニスト。ベルリンで自粛生活を過ごすイラストレーターなどなど。
 水族館では休館中でも動物が運動不足になるのを防ぐため調教を行うなど、その仕事固有の事情が判って興味深い。
 図書館が全面休館したことにより、資料を参照できなくなる校正者の記述には、自分もそうだったと共感する。
 同じ日の出来事にどう反応したかを知るのも、複数の日記を読む面白さだ。星野源に便乗した安倍首相の動画を見て、怒りを表明している人が何人かいた。
 じつはこの本は、出た直後に読むよりは、少し時間が経ったいま、読む方が面白いと思う。あれだけの非常事態だったのにもかかわらず、過ぎてしまうと、だんだん印象がぼやけていっている。巻末の年表とあわせて日記を読むと、そのときそのときの出来事がくっきりと蘇るのだ。
 ところで、この77人に1年後の同じ期間の日記を書いてもらって刊行したらどうだろう? その間の仕事や感情の変化をとても知りたい。私は絶対に買います。
(左右社2000円)
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2020年09月28日

【おすすめ本】 木内みどり『またね。 木内みどりの「発熱中!」 』─あっという間に逝った著者のステキな文章に「さよなら」=鈴木耕 

 表紙を見ただけで胸がつまり、普通の書評のように平静な気分では書けません。これは昨年急逝した木内みどりさんの「遺稿集」のような本。 私は木内さんとはほんの少しの友人でした。だから書評が「さよなら」の 文章になってしまうのは悲しすぎるのです。
 私たちが運営しているウェブサイト「マガジン9」は今年、創刊15年になる小さなネット週刊誌です。その「マガ9」連 載の木内さんのコラムを編集したのが本書です。帯に「世の中を本気で変えようとした女優がつづったひとりの人間としての『生』の記録」とある 通り、まさに木内さんの本気が溢れています。
 反原発集会で司会を務め、改憲反対のデモを歩き、自分がいいと思った候補者の選挙運動に参加する。なぜその人を推薦するのかを、じっくりと勉強した上で、コラムに書く。
 芸能界では政治に関わったら損だよ、などと言われても、そんなことを言う人とは疎遠になってもかまわないわ、フフフ…と笑顔を浮かべて先頭に立ち続けたのです。
 私は、そんな木内さんが大好きでした。だから「マガ9」への連載をお願いしたのです。「私は 中卒だし、知識なんかまったくないのだけど、それでいいのかしら」。い いんですよ、もちろん。 だってこんなステキな文章を書ける人、そんじょそこらにはいませんよ。
 ここに収められた文章は多岐にわたります。原発、政治、憲法、環境、そして旅や親しい人たち。自由奔放にして優しさに満ちた文章。文は人を表します。その通りの生き方をした木内さんでし た。あっという間に去っていった大切な友人に、私が書けるのは、やっぱり「さよなら」と淋しさ だけでした。(岩波書店1800円)
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2020年09月18日

【おすすめ本】水島久光『戦争をいかに語り継ぐか 「映像」と「証言」から考える戦後史』─もどかしい戦争報道の歩み、語り部と対話し問答する大切さ=菅原正伯

 戦争体験を語るさい、「あの戦争」とよぶ人が少なくないのはなぜか。本書はそんな疑問を手がかりに、NHKやTBSのドキュメンタリー番組を主な素材にして、戦争体験を語り継ぐことのもどかしさや難しさの要因を考察している。
 戦後60年(二〇〇五年)、戦後70年(二〇一五年)に、テレビ各局は競って百を超える戦争番組を作った。だが語り部は自分の言葉が聞き手に届かない悩みを、抱えていた。
それは戦後、知識人と大衆、語り手と聞き手に加え、「知る者と知らざ る者」の分断によって、戦争に関わる語り(テレビ報道)が「一方向性」に傾斜したからだと、著者は言う。
 第二章は「戦争を知らない子供たち」と戦争体験者とのコミュニケーションの「断絶」を、フォークソングや戦争マンガの考察から文化的に明らかにし、示唆に富む内容がいっぱいである。
断絶があるがゆえに「問答」や「対話」による克服が大切になるが、原爆など「なぜこんな悲惨なことが…」という聞き手の問いかけは、話し手との圧倒的な情報量の差を前にして、「だから 戦争はいけない」という結論に短絡しがちだったと、著者は指摘する。厳しい批判だが、その底には戦後第一世代の努力にたいし、大いなるエールが込められている。
 語り部が高齢化し「語り手なき時代」の到来が迫っている。それだけに著者はテレビ各局が製作した膨大なドキュメンタリーのアーカイブ化を図って活用することや、この間、戦前のニュース映画や映像の新たな発掘が続いていることに期待を寄せている。(NHK出版1500円)
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2020年08月29日

【おすすめ本】野田正彰『社会と精神のゆらぎから』─権威や偏見に抗い、苦しむ人々に寄り添う精神医学を築く=山田寿彦(元毎日新聞記者)

社会と人間の精神を物理的にゆらぎ合う共振の関係としてとらえた本書は、精神病理学的分析手法による、社会の歪みを徹底的に批判する精神医学を切り開いた、その到達点を示唆している。著者の出身地高知県の地元紙に寄稿した連載をまとめた回想記である。
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著者は社会と人間への洞察を欠いた既成の精神医学・医療を根底から否定し、その作り直しをライフワークとしてきた。
 15年間の臨床現場における医療改革の闘い、それに続く評論・執筆活動から生まれた、ノンフィクション文学の形態を取った社会批評は権力を痛打するだけではなく、市民の側の思考停止にも厳しい批判を向けてきた。
「野田精神医学」(勝手に呼ばせてもらう)は、文献の渉猟と徹底した取材、時にはニューギニア現地人の精神分析にまで足を運ぶ知力と行動力を基礎として確立された。
 人間の精神とは何か。答えを求める思索の旅路を縦糸に、社会問題との格闘、悲哀を抱える人々への寄り添いを横糸に回想が織りあげられる。
 1944年生まれ。 北大医学部で医学連・青医連の活動家として批判力のインフラを鍛えながら、苦しむ人々に寄り添う精神医学の在り方を考え始める。野田精神医学が、支配層の育成を目的とした旧帝大の中にあって、「自由・平等・博愛」のクラーク精神を持つ稀有な学府から始まったのは偶然ではないだろう。
 一人の精神科医が「自分はこう生きてきた」と振り返る書物が、さて、あなたはどう生きてきた(いる)のか、どう社会のことを考えてきたのかと問いかけているように思えるのは、本書が哲学の書となりえていることが大きな理由だろう。(講談社1600円)


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2020年08月24日

【‘20緑陰図書─私のおすすめ】 大地の上に立つ民衆の一人として生きる=渡辺一枝(作家)

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1990年代から「グローバル化」がしきりに言われ、一方でナショナリズムに喚起された国民国家論が声高に叫ばれるようになってきている。その危険性がコロナ禍で一層鮮明になった時に読んだ3冊を通し私は「国家」は虚構であり日本政府発行の旅券を私が持つのは、便宜上のことでしかないと改めて思う。
 奥野克巳『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』(亜紀書房)は、ボルネオ島サラワク州をフィールドにした著者のエッセイだ。マレーシアは小学校が義務教育だが、プナン人は学校の存在意義を感じず学校教育は定着しない。それは我々の社会での「不登校」とは次元の違う話だ。剥き出しの自然に向き合う中で、困難を乗り越え知恵を紡ぎ、物の見方ややり方を築いてきた森の民は、私たちに異なる生の可能性を示唆しているのではないか。
 熱帯の森で狩猟を生業にするプナン人と長期にわたり継続的に交流してきた著者は、プナン人は私たちには「あって当たり前」の反省や感謝の念が無いが、それは単に彼らの生き方が私たちと異なるからということでしかないという。
 原発事故後の福島を伝える本は数多いが、自分史を交えての飯館村の歴史、事故で破壊された暮らし、国や行政、東電との闘い、避難生活と生活再建の道を、地に足がついた著者の言葉で克明に丁寧に記録した菅野晢『全村避難を生きる』(言叢社)は「農の本質」は種を蒔き、収穫して喜びを分かちあうことで、そのためには土地がなければならないと、国家の論理ではなく民衆の論理として強く説く。
 もう一冊、本橋成一『世界はたくさん、人類はみな他人』(かもがわ出版)は、5歳の時に東京大空襲を体験し、長じて筑豊や賭場など日本の市井の人々を、またチェルノブイリやイラクなど世界を写し撮ってきた写真家による、笹川良一が喧伝した「世界は一家、人類はみな兄弟」に対する強烈なアンチテーゼだ。
 私は、大地の上に立つ民衆の一人として生きていきたい。
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2020年08月20日

【おすすめ本】 籠池泰典+赤澤竜也『国策不捜査 「森友事件」の全貌』─国家によるカゴイケ切り捨て、裏で公文書改ざんの暴挙=河野慎二

 森友事件の被告席に立たされた籠池氏が事件の全貌をまとめた。その中で彼は「本物の首謀者が国家の中枢で未だに権勢を振るっている」と、安倍首相に最大級の非難の言葉を浴びせる。
 その原因は安倍首相の「手のひら返し」にある。首相は園児に教育勅語を暗唱させる籠池氏の特異な幼稚園教育に共鳴し、国有地買収計画「神風」を吹かせたが、国会で追及されると一転「国家によるカゴイケ切り捨て」の挙に出た。
 籠池氏は「手のひら返しと決裁文書改ざんは一体のもの」と喝破。「安倍官邸は公文書を改ざんさせ、官僚に国会でウソをつかせ、議会を毀損した」と首相の罪状≠告発する。
 彼は「国家は言葉で成り立つ」との考えのもとで「憲法、法令、統計、決済文書など、公的な言葉に信頼を置くがゆえ、議員に権限を付託する」と指摘。「言葉をないがしろにする人間に、国家にとって最も崇高な言葉である『憲法』を語る資格があるのか」と、安倍改憲をこき下ろす。
 また,検察にも厳しい批判の目を向ける。検察内部には、立件すべき理由があるのに、政治的思惑に基づき、「不起訴ありき」という前提で立件を見送る「国策不捜査」方針がまかり通っていると指摘する。
 実際、森友事件は籠池氏の詐欺事件に矮小化され、国の背任容疑や公文書改ざん問題は闇に葬られた。彼は「公訴権を濫用し、政治権力の犬に成り下がった特捜部は即刻廃止すべきだ」とも、主張している。
 さらに「この国の報道機関のあり方が、いまほど問われている時はない」と指摘しつつ、「希望は捨てていない」と述べ、メディアへの批判と期待に力を込める。(文藝春秋1700円)
                           
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2020年08月07日

【‘20緑陰図書─私のおすすめ】 いま取材過程の実際を開示する大切さ=澤 康臣(専修大学教授)

澤康臣.jpg 捜査・司法当局幹部たちとの間に記者が築いた人脈、深夜早朝の訪問や電話、グラス片手の会話、リークされる情報─賭け麻雀問題で論じられた取材手法のことではない。ニクソン米大統領を辞任に追い込んだ調査報道、ウォーターゲート事件取材でワシントン・ポストの記者たちが取り組んだことだ。
 ボブ・ウッドワード&カール・バーンスタイン『[新版]大統領の陰謀』(ハヤカワノンフィクション文庫)は、取材過程を詳細に書き、今も版を重ねる。
 権力の不正に迫る彼らは、悪を一喝するヒーローとは異なり、情報が集まる当の権力の圏内に無作法な侵入をする。本書には「ここまで手の内を書くのか」の思いを禁じ得ない。だがここまで公開するからジャーナリズムが信頼される。
 今、いくつもの米メディアが倫理規定を公表する。ニューヨーク・タイムズの規定は取材源との私的しつらえでの人間関係づくりを肯定しつつ、その危険にも釘を刺し、規定全文もネット公開している。
 取材過程の秘密が神秘性めいて尊重された時代は終わっている。オープンに語ってこそ市民の支持を得る、という40年前の米報道界の実践を本書は示している。

 日本の取材現場の息づかいと息苦しさを感じさせるのは、神奈川新聞取材班『やまゆり園事件』(幻冬舎)だ。重度障害者19人を殺した植松聖の実像に、37回の接見で迫る。犠牲になった人たちの姿と家族の思い、障害者の権利を求める闘い、障害ある家族と今を生きる人々の肉声、植松の命もまた奪おうとしている死刑制度、いささか目まぐるしいほどに多くの焦点を提供する。
 「ジャーナリズムは歴史の第一稿」(ワシントン・ポスト元社主フィリップ・グレアム)のはずなのに、名前が語られない「19人」。取材で名前を把握しながら書けない、書かないでいる矛盾に、痛苦の表情で向きあう報道人の姿もまた、静かに浮かびあがる。
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2020年07月24日

【おすすめ本】後藤逸郎『オリンピック・マネー 誰も知らない東京五輪の裏側』─巨大ビジネスに翻弄される実態を暴き意義を問う=薗田碩哉(スポーツジャーナリスト)

 平和の祭典「オリンピック」という錦の御旗はすでにボロボロに劣化し、金と醜聞にまみれた巨大ビジネスになり果てている。本書はその実態を、丹念な取材とデータ分析から詳述している。
 クーベルタンが理想を掲げて再興した近代オリンピックだが、1980年のモスクワやそれに次ぐ84年のロサンゼルス大会でのボイコット騒ぎに見るように、オリンピックは常に政治に翻弄され続けてきた。
 オリンピックを主宰するIOCは年間1500億円もの収入を挙げる。その73%はテレビ放送権料、次いでトップ・スポンサー料が18%を占める。IOCはテレビとの癒着、グローバル企業の抱え込みに邁進する。

 その結果、オリンピックは世界のスポーツ興行界の歯車に組み込まれ、身動きが取れなくなっている。開催費用は増す一方で、いまや開催都市に名乗り出るのも二の足を踏む状況だ。トップ・スポンサーのマクドナルドの撤退も大きな話題となっている。
 日本は「アンダーコントロール」との嘘までついて開催を勝ち取った。だが開催の決定以前から競技場の拡張を画策し、隣接の都営アパートを追い出す計画まで進められていた。その狙いは、オリンピックにかこつけて神宮外苑地区の再開発をもくろむ衝撃の事実も、本書で明かされる。
 コロナ禍による延期は天の配剤と言うべきだろう。これを機にオリンピックそのものを根底から見直す必要がある。本書は歯切れのよい文章で、その理由を明示してくれる。(文春新書800円)
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2020年07月21日

【おすすめ本】伊東順子『韓国 現地からの報告 セウォル号事件から文在寅政権まで』─いっさいの偏見を捨てて、韓国社会のリアルな姿に深く迫る=洪 相鉉(ソウル在住ジャーナリスト)

 本書の著者は、韓国語だけでなく、韓国の政治ㆍ経済ㆍ社会ㆍ文化に対する幅広い知識を兼ね備え、かつ長年にわたって韓国各地にあるネットワークまでも活用し、充実したルポルタージュを完成させた。
 本書の始まりが2014年4月のセウォル号事件であることは意味深い。リーマンㆍショック以後、急速なグローバル化の渦に巻き込まれた韓国社会は、非正規の船員を雇用し、船の安全点検すら外部委託し、コスト削減への暴走を続けてきた。
 ところが春のある日、324人の高校生を乗せて済州に向かっていたセウォル号が珍島郡の海上で沈没したこの事故は、結局、韓国社会の暴走に歯止めをかけた事件であると同時に、光化門のロウソク集会と朴槿恵政権の退陣、そして文在寅政権の成立まで続く「1987年以降最大の激変期」の始まりだった。

 さらに「異邦人」の著者が、韓国で生まれ育ち、教育を受け、今の社会の主流となっている40代50代の韓国人以上に、韓国社会に対する認識の深さと思考の地平を示していることだ。
 いま韓国の現状は、産業化世代と民主化世代に象徴される保守ㆍ革新の対立を超えて、新しい時代を切り開くための陣痛期にある。
 最も自信に満ちていながらも、最も不安定に見える今日の韓国ㆍ韓国人を理解することは重要である。 こうした目的に本書ほど、有用な本が他にあるだろうか。
 韓国と日本が共生する未来を築く上で、現実を認識することから始めるためにも、本書は日韓双方の必読書にならなければならない。(ちくま新書880円)
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2020年06月25日

【おすすめ本】上西充子『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』─デタラメが横行する政府答弁、「安倍話法」の本質を加視化する=鈴木耕(編集者)

 国会を国民の手に取り戻そうという画期的な試みが2つあった。ひとつは小原美由紀さんが始めた「コッカイオンドク(国会音読)」。国会審議をそのまま書き起こし、みんなで音読する。言葉にして読み上げ、それを実際に聞いてみると、漫才にもならないほどのバカラしさ(ことに政府答弁)が実感できると、ちょっとしたブームになった。
 そして、もうひとつが「国会パブリックビューイング」という運動である。音読は耳で確かめるということだが、こちらは国会審議そのものの映像を街角に設置したスクリーンに投射して、みんなで実際に国会の在り方を確認する取り組み。政府答弁のひどさに失笑が漏れることもしばしばだという。もっと言えば、NHKニュースなどで編集された安倍首相らの“すっきり答弁”が、いかに実際の答弁の切り取り編集であるかが確認できる。

 この試みを始めたのが法政大学の上西教授。あの名高い「ご飯論法」の名付け親だ。「ご飯は食べたか?」と問われ「ご飯は食べていない(パンは食ったが)」とごまかす「安倍話法」の本質を突いて、流行語大賞のトップ10にも選ばれた。デタラメが横行する答弁のありさまを、誰でもが気軽に見られる方法はないかと考え、夕方の暗くなったころから街角にスクリーンを設置、路上を政治空間に変えたのだ。その顛末がとても素敵だ。
 コロナ禍で在宅勤務の人たちが多くなり、国会審議を自宅で生で見る人が増え、国会が身近になった。その嚆矢となった本である。(集英社クリエイティブ1600円)
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2020年05月22日

【おすすめ本】毎日新聞「桜を見る会」取材班『汚れた桜 「桜を見る会」疑惑に迫った49日』─人びとの怒りの声を背に数々の疑惑を追い続けた記録=藤沢忠明(しんぶん赤旗記者)

 本書は日本共産党の田村智子参院議員の質問に端を発した「桜を見る会」疑惑を、記者自身が怒りや危機感を持って追い続けた生々しい記録です。
 安倍政権の政治モラル崩壊が凝縮された「桜を見る会」は毎年、開かれ、多くのメディアが取材してきました。それが、なぜ問題にされてこなかったのか―。
 本書も紹介しているように、この安倍首相の私物化疑惑をスクープしたのは、赤旗日曜版の昨年10月13日号です。『世界』1月号の「メディア批評」は、「赤旗にあって大手メディアにないものは『追及する意思』ではないか」と書いています。実際、田村質問の扱いは、「毎日」を含め、目立つものではありませんでした。

 毎日新聞・統合デジタル取材センターの記者らが、ことの重大性に気づいたのは、ツイッターにあふれる「モリカケと同じ、税金の私物化だ!」などの怒りの声です。
 一方で、「これほどの問題をなぜ報道しない」とのメディア批判もあり、結成された取材班が「桜を見る会」で何が起きたのか、何が問題なのか―と報道機関への叱咤激励の熱量の大きさも感じながら模索する姿が率直に記述されています。
 その結果、「いつまでやっているのか」というSNS上の批判について、「その批判は違う。桜を見る会には日本という国の根幹に関わる問題が凝縮されていることが、本書を読めばわかっていただけると取材班は信じている」と述べています。
 注目したのは、疑惑追及のさなかに首相側が呼びかけた会食を「毎日」は欠席したことです。メディアはどちらを向いて仕事をするのか、いうまでもないことです。(毎日新聞出版1200円)
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2020年04月22日

【好書耕読】「食なき国」への危機が迫る!=伊藤洋子(JCJ賞選考委員)

 近い将来、食糧危機の時代が必ずくる。先進国中最低の食料自給率はいまや37%、大半の食料を他国に依存する異常さが常態化している。
 1月、安倍首相の施政方針演説でガクンときた。自給どころか農産物輸出を声高に叫ぶばかり。軍事に前のめりになるものの、命を支える食の安全保障への配慮は、この宰相には関心外であるらしい。
 農地の大規模化で競争に強い農業を目指すとするが、本当に強い農業とは補助金に頼らず生業として営々と続けてきた家族農業=小規模農業だと、農民作家の山下惣一は自著『日本人は「食なき国」を望むのか―誤解だらけの農業問題』(家の光協会)で吼える。しかも誤解を拡散してきたのはメディアであり、これに洗脳された消費者だとも言う。

 輸出型農産物に精を出すのは大規模な企業型農業である。安倍が重視するのは世界市場を相手にする農業。行きつく先は農業はあれど「食なき国」への道だと山下は言う。
 安倍の演説文を読めば読むほど総花的で中身=具体策がなく、不都合な事実には蓋をしたままなど、指摘すべきことは満載だけど、メディアも野党もスルーの感の食と農の問題が気になって、本書の読み返しとなった。
 超高額兵器で重武装したその陰で、餓死者続出、医療崩壊なんて悪夢はまっぴらだ。
 新型コロナウイルス禍で世界が大騒動する中、アフリカで異常発生したバッタが間もなく中国に達するという。世界食糧危機は現実なのだ。

 本書が発行された2014年を、国連は「国際家族農業年」と定めた。以来、家族農業=小規模農業は持続可能な農業と飢餓及び環境問題への軸とされてきた。切り捨てられ続けてきた日本の伝統的農業こそ、その見本である。
 「強い農業が生き残るのではない、生き残った農業が強いのだ。」その農業は自給自足を原理とし、あまたの食を支えてきた。山下の持論が突き刺さる。
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2020年04月15日

【おすすめ本】中川一徳『二重らせん 欲望と喧噪のメディア』─フジテレビとテレビ朝日を巡るマネーゲームの裏面史=河野慎二

 著者は、公共の電波をメディア一族が私し、政官財報で分け合い、マネーゲームの具と化していった姿を、フジテレビとテレビ朝日の裏面史を通じて克明に追う。
 1959年の両局開局時、出資した旺文社の赤尾好夫の一族が90年代、マネーゲームに奔った。
 著者は、フジを巡るマネーゲームと最高権力者日枝久・フジサンケイグループ代表の経営姿勢に多くのページを割く。
 日枝は92年、創業者一族の鹿内宏明を追放し、以後30年近く経営のトップに君臨する。だが2005年、ライブドアの堀江貴文がニッポン放送株を50%確保して、フジ支配を謀るという危機の瀬戸際に、日枝は立たせられる。彼は堀江との和解で危機をしのぐが、翌年1月の堀江逮捕でライブドア株は暴落、フジの経営は深傷を負う。

 著者は、一連のメディア買収戦が「日枝だけでなく、キー局の経営者や放送行政当局の発想を内向きのベクトルに導いた」と分析する。総務省は認定放送持株会社制度を新設し「放送業界を守ることに価値を置く新秩序が定まった」。
 18年7月のカジノ法成立は「日枝にとって最大の障壁だった法整備が決着した」と、著者は指摘した上で「収益向上を歪んだ形で表出」しようとする日枝の計略を厳しく批判する。
 テレビ朝日は、赤尾一族のマネーゲームによる被害の最大化は阻止したものの、安倍首相と親密な会長の早河洋のもとで「権力監視機能は弱体化する方向へ向かうだろう」と、著者は強い懸念を示す。(講談社2400円)
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2020年03月14日

【おすすめ本】古川隆久『建国神話の社会史  史実と虚偽の境界』国民教化の手段として使われた歴史=上丸洋一(ジャーナリスト)

 「2千年にわたって同じ民族が、同じ言語で、一つの王朝を保ち続けている国など世界に日本しかない」─閣僚の一人がそう発言して<おわび>に追いこまれたことは記憶に新しい。
 もちろん「日本」という国号をもつ統一国家も天皇も、2千年前には存在しなかった。だが建国神話をそのまま歴史に接続させて「世界に冠たる日本」を誇る思考は、保守派の間で今なお生き続けている。
 本書は、8世紀初め、権力の正統性を語るために書かれた古事記、日本書紀の建国神話が、江戸時代の国学者によって再発見されたのち、帝国憲法下の日本で国民教化の手段として使われた歴史を平明な文章でたどる。

 興味深いのは、天皇の神格性が強調された戦時中の学校で、子どもたちが建国神話を半信半疑で受け止めていたという事実である。
 太平洋戦争下の茨城県の国民学校で、「国史」の時間に「天孫降臨」の掛け図を見せられた児童の一人が言った。
「先生そんなのウソだっぺ」
 教員は教員で、想像上の神話を歴史事実として語る矛盾に苦心したという。著者はこう述べる。
「建国神話を事実とみなす考え方は……人々を戦争に駆り立てる方向に作用しました」「(戦後になって)建国神話が日本という国家の正当化の根拠や教育から排除されたのは当然すぎるほど当然なことでした」
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2020年01月17日

【`19読書回顧─私のいちおし】組織に抗う個人の姿が日常の風景になれ=尾崎孝史(写真家)

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 組織と個人のあり方について考えさせられた年だった。鮮明に記憶しているのは、れいわ新選組の街頭演説会で耳にした言葉だ。「世の中の構造と同じことが創価学会の中でも起こってるよ」。
 参院選の3日前、新橋駅SL広場で声をあげたのは創価学会婦人部の女性。公明党の山口代表に「ガチンコ勝負」を挑んだ学会員、野原善正氏に寄せた応援演説だった。この日の野原氏の演説は、山本太郎『#あなたを幸せにしたいんだ』(集英社)に掲載されている。
 「池田先生が作った公明党さえ守っていれば安全だと教えられているみんな。違うよ!」。応援演説の女性は、濃密な人間関係で構築された組織に身を置きながら、内部告発を続けた。
 駅のホームで雑居ビルの前で、思わず振り返る金曜日の夜のサラリーマン。少なからぬ人が、選挙や個別団体の問題にとどまらぬ何かを感じたようだ。こんな化学反応が起きたのは、「空気を読まない、流されない。這いずり回ってでも体を張ってでも抵抗を続ける」という、山本氏の野良犬魂あってのことだろう。

 米誌タイムが選んだ今年の人は、スウェーデンの16歳だった。『グレタ たったひとりのストライキ』(海と月社)の主人公、グレタ・トゥーンベリ。本はオペラ歌手の母、マレーナが家族の物語から書きはじめる。「歌に対する私の愛は無限大で、ひとつのジャンルや組織に縛られたくなかった。常に主流に反していて、いつも独りだった」
 グレタの父、スヴァンテは舞台俳優だったが、妻の妊娠を機に主夫になる。家族はマレーナの公演にあわせて、欧州の都市を点々とする。「ほかの家族とは違う、あまりにも素晴らしい」日常が、若き環境活動家を生んだのだと納得させられる。
 「誰もかれもがグレタ、グレタ、グレタ」という状況に、「どうにかしているよ」と苦笑する妹のベアタ。来年こそ、組織に抗う個人の姿が、どこにでもある日常の風景になればよいのに、と思う。
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2019年12月19日

【おすすめ本】安田純平+危険地報道を考えるジャーナリストの会『自己検証・危険地報道』─「危険な取材」が担う役割と教訓=鵜塚健(毎日新聞)

 2014年4月、シリアで拘束されていた4人のフランス人ジャーナリストを空港で出迎えたのは、当時のオランド大統領だった。だが日本では必ず「自己責任論」が出て、政府がジャーナリストに旅券返納を命じるなど介入の動きが目立つ。
「危険を冒さないと得られないような情報はいらない」「外国メディアの情報で十分」との声も少なくないのが現実だ。

フリージャーナリスト・安田純平さんが3年4カ月、シリアで武装勢力に拘束後、解放されて1年が経過。本書で安田さんが自身の取材の歩みを詳細に報告。また中東や北朝鮮、アフリカなどの現場で取材するフリーや元新聞記者で作る「危険地報道を考えるジャーナリストの会」のメンバーが、今回の拘束事案での課題と今後の教訓を徹底的に討議。

 熱量の高い議論の裏には、遠い国の現実を伝える重要性、ジャーナリストの役割が軽視される危機感と苦悩がある。
 2015年にシリアでフリーの後藤健二さんと知人の湯川遙菜さんが殺害された直後、世論調査の内閣支持率は上昇した。2004年にイラクで旅行者の香田証生さんが拘束、殺害された際にも、政府の姿勢を巡っての議論は起きなかった。
 会のメンバー、綿井健陽氏は「彼らを処刑した実行犯は過激派組織だが、それを容認したのは誰だったか」と命題を投げかける。危険地報道というテーマを通じて問うているのは、政府やメディアのあり方だけでなく、社会を構成する私たち一人一人の意識だ。(集英社新書860円)
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2019年11月15日

【おすすめ本】斎藤貴男『驕る権力、煽るメディア』─市民の主権者意識がジャーナリズムを育てる基盤=河野慎二

 著者は、2015年4月から4年間のメディアと安倍政権の動きを、報道内容を中心に辿って見すえ、どうすればよいのかを、読者と共に考えようと本書をまとめた。
 この時期、驕り高ぶった安倍政権は安全保障関連法(戦争法)の成立をはじめ、森友・加計問題での文書改ざんや隠蔽など、悪政を恣(ほしいまま)にした。

 著者の疑問は、09年に自民党を下野させた有権者が、なぜ「呆れるほど従順」になったのかという点だ。疑問を解くカギはメディアの劣化にある。新聞に対する消費税軽減税率適用がメディア劣化の一因と指摘。新聞協会は政権への陳情(オネダリ)を重ね、軽減税率の適用を手に入れた。
「借りを返せ」と恫喝された新聞界の対応が無残。「消費税の報道は絶望の極み。オネダリの見返りとしてのプロパガンダを報道とは呼ばない」と、大手紙の報道を痛烈に批判する。
 劣化は新聞だけではない。雑誌ジャーナリズムも、反権力・反拝金の姿勢が攻撃される中で劣化し、このままでは「確実に滅びる。新聞も、単行本も」と警鐘を鳴らす。
 その上で「知性の灯を絶やすな」として「オール出版界による『ノンフィクション再生プロジェクト』の立ち上げ」を提唱する。

 著者は、ジャーナリズムは滅んではならないと強調する。ジャーナリズムが機能しなければ、民主主義は成立しないからだ。「ペンは剣よりも強し」は市民の主権者意識があってこそ成り立つ。
 最終ページに森友文書改ざんをスクープした朝日の写真を掲載している。ジャーナリズムを滅ぼしてはならないという著者の信念と気概が伝わってくる。(新日本出版社1900円)
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posted by JCJ at 09:28 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする