2017年12月02日

≪おすすめ本≫松宮孝明『「共謀罪」を問う 法の解釈・運用をめぐる問題点』─市民生活の自由と安全を脅かす「戦後最悪の治安立法」の欠陥を暴く=菅原正伯

 「共謀罪」法案は今年6月に自民・公明などによって強行採決されたが、国民の内心を処罰し、監視社会をもたらす違憲立法への抗議は収まらない。本書もその一翼を担って出版された。

 全体の構成は大きく2つに分かれる。前半(T〜X)は、新設された「テロ等準備罪」と過去に廃案になった「共謀罪」とは本質的に同じであり、国連国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を批准するには「テロ対策」の国内法(共謀罪)が必要だという政府の言い分を逐条的に論破している。
 もともとTOC条約の目的自体、テロ対策ではなく、マフィアなどの国際的経済組織犯罪の対策であること、「2人以上の計画(合意)」という罰則要件では、一匹狼(ローンウルフ)型のテロには役に立たないことなども指摘、政府答弁の欺瞞ぶりが浮き彫りにされる。

 後半のハイライトは「共謀罪の解釈」(Y)である。共謀罪の規定である組織犯罪処罰法「6条の2」が徹底的に検証される。「組織的犯罪集団」のあいまいな定義、「共謀罪」の対象犯罪の恣意的な選定、「遂行を2人以上で計画した」時の組織の構成員との関係(構成員でない者も犯罪の主体になる)、正犯と共犯をめぐる予想される解釈上の混乱などである。
 逐条どころか逐語的に、条文の規定のあいまいさ、不備、齟齬を指摘。捜査や裁判の実務においても様々な混乱を生じる「欠陥法」であることを解明している。
 「市民生活の自由と安全が危機にさらされる戦後最悪の治安立法」に、敢然と対峙した入魂の書。
(法律文化社926円)
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2017年11月23日

≪おすすめ本≫木下ちがや『ポピュリズムと民意の政治学 3・11以後の民主主義』公共空間で実現してきた民主主義の危険性と可能性を省察する=吉原功(明治学院大学名誉教授)

 タイトルから感じられる予測に反し、本書は重厚な政治学・社会学書であり、腰をすえて読まないと理解に苦しむ。
 しかし社会運動の視点から現代日本の実像に鋭く迫り、私達の社会が抱える危険性と可能性を深く理解するための格好の書となっている。

 著者によれば「ポピュリズム」という言葉には民主主義の「危機」と「機会」の両義が含意される。それは「同じ社会的・経済的・文化的条件から生ずる」からである。
 より具体的には「第二次世界大戦後に作り上げられた社会経済的秩序の収縮、労働のフレキシブル化、生産のアウトソーシングを基軸とした、新たな階級分化とアンダークラスの形成」や「市場原理の席巻による個人主義の台頭」「安定的雇用・家族・コミュニティの崩壞」など、新自由主義が生み出した諸状況が、一方でトランプ米大統領やフランスのマリー・ルペンのような民主主義を危機に陥れるポピュリズムを生みだした。

 その他方で民主主義の「機会」を生むポピュリズムを育み、「抵抗の年」といわれる2011年以降の世界各地で展開された「大規模かつ民衆的な民主主義的政治運動」―エジプト・ムバラク打倒運動、米国のオキュパイ運動やサンダース支持運動などである。

 日本では3・11後の反原発運動、反秘密保護法運動、反安保法制運動など、従来とは異なった運動である。
「これらの運動がみな公共空間における大規模集会を志向し、実現してきたのは、多種多様な人々を『人民の集合体』に結実させ、かつて左翼・リベラル勢力が領有していた公共空間における陣地を奪還するため」と指摘されている。
(大月書店2400円)
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2017年11月09日

≪おすすめ本≫阿部 岳『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』 米軍ヘリパッド建設─反対する住民を暴力で排除する現場で闘う記者魂=鈴木耕(編集者)

 10月11日、沖縄県東村高江区の人家から、わずか300メートル離れた私有地に米軍の大型ヘリが墜落した。この事故を沖縄の記者たちは、どんな思いで受け止めたか? 本書の著者である「沖縄タイムス」の阿部岳記者の心の中は、あの高江だからこそ、煮えくり返らんばかりだったろう。

 那覇からは車で高速道路を使っても、2時間以上かかる沖縄本島北部の静かな村。その中心部から、さらに離れた高江という、わずか150人ほどが住む集落を取り囲むように、6カ所の米軍ヘリパッドが造られた。
 静かな住民の暮らしを根底から破壊するもの以外の何物でもない。しかも、あの危険な欠陥機オスプレイの訓練に使用されることすら、住民には事前に説明されなかった。当然、長い反対運動が始まる。

 沖縄県民でさえ聞いたこともないような僻地での孤独な闘いに、沖縄の記者たちは通いつめる。そしてそこで見たもの、体験したことこそ、初めて目にするほどの異様な「国家の暴力」だった。
 日本全国から投入された機動隊の荒々しさ。記者を拘束し、住民に「土人!」と罵声を浴びせ、抵抗者は逮捕。微罪で5カ月も長期勾留された山城博治さんの事例など、本書は「国家の暴力」そのものを抉りだす。

 私は阿部記者とは少し面識がある。冷静沈着で温和なジャーナリストだ。その著者がこれほど檄した文章を紙面に叩きつけざるを得なかったところに、沖縄の怒りと悲しみが見える。圧政とデマと偏見に抗して闘う記者魂に胸が熱くなる。
(朝日新聞出版1400円)
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2017年10月12日

≪おすすめ本≫平 和博『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』既存メディアへの不信が嘘ニュースや情報をはびこらせる=河野慎二

 虚実をないまぜにしたフェイク(嘘)ニュースが世界を席巻している。昨年の米大統領選では「ローマ法王がトランプ支持」などのフェイクニュースが、ニューヨークタイムズやCNNなど、既存メディアと同程度の拡散規模となり、トランプ氏を大統領に押し上げた。
 フェイクニュースの影響力は深刻だ。「児童性愛にヒラリー・クリントン氏が関与している」という嘘ニュースを信じた男による発砲事件(「ピザゲート事件」)が、ホワイトハウスに近いレストランで発生した。
 トランプ支持のフェイクニュースについては、ロシアからの発信疑惑が米FBIの捜査対象になり、トランプがFBI長官を解任するなど、国際謀略戦の渦中にある。

 今年春のフランス大統領選でも、フェイクニュースがマクロン候補を攻撃した。攻撃を仕掛けた一人は「ピザゲート事件」を引き起こすフェイクニュースを拡散したトランプ支持の人物だ。
 だが、右派勢力の野望は、フランスメディアの連携した報道によって打ち砕かれた。ルモンドやリベラシオンなど、34の組織が作ったファクトチェック機関の「クロスチェック」が、フェイクニュースがマクロン追い落としの決め手とした文書が偽造であることを突き止め、ネットで速報。極右のルペン候補当選を阻止した。

 日本でも今後、フェイクニュースの跋扈が懸念される。著者はフェイクニュースが氾濫する背景に既存メディアへの不信があると指摘する。
 ジャーナリストはその指摘を真摯に受け止め、チェック体制を整える必要がある。
(朝日新書760円)
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2017年10月04日

≪おすすめ本≫「負けるな北星!の会」記録編集委員会『北星学園大学バッシング 市民は かく闘った 』マスコミと大学人というリベラル派の限界を突破した闘う市民の記録=徃住嘉文(JCJ北海道支部)

 2014年、日本軍「慰安婦」を歴史から削除したい勢力が、三つの大学に、気にくわない教員をクビにするよう要求した。爆破、殺人予告もあった。神戸松蔭女子学院大と帝塚山学院大は、結果として要求を呑んだ。最後に残った札幌の北星学園大も陥落寸前だった。本書は、これを覆した市民運動の記録だ。
 教員は、元朝日新聞記者植村隆氏。1991年、元慰安婦・金学順さんの存在を報じた。これを「捏造」とする勢力の攻撃で、北星大の非常勤講師職を奪われそうになる。阻止のため市民が急遽作ったのが「負けるな北星!の会」だ。

 本書の第一の特徴は、運動の成果を誇るというより、頼りにしたマスコミと大学人というリベラル派が、いかに「弱虫」だったかを突いた点にある。原正衛北星大経済学部長は、学内リベラル派の実態を率直に報告している。@植村氏を守るため警察が学内に入るAすると自分の研究が国家権力の監視下に入るBだから植村氏に辞めてもらうしかない、といった論法がまかり通っていた。
 取材に当たった現場の記者たちも「あの手この手で書き直しても原稿はボツだった」と、自らの恥と罪を語っている。

 第二の特徴は、「本当の敵を見失うな」とするノーマ・フィールド米シカゴ大名誉教授ら60人を超す執筆陣。「札幌だから闘えた」(中野晃一上智大教授)などシンポジウムの記録もある。
(A4判247頁・頒価500円。注文はFAX011−351−5310かメール:makerunakai@gmail.comで。送料は着払い。本代はゆうちょ銀行振替口座02720−4 番号70218 マケルナ会に振り込む )
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