2024年06月13日

【おすすめ本】鈴木邦男 白井 聡解説『鈴木邦男の愛国問答』―イデオロギーの壁超える 言葉の力と文章の真骨頂=芳地 隆之(ライター)

 本書の「はじめに」で記されているように、鈴木邦男さんが「保坂展人さんを励ます会」でスピーチをすると聞いて、閉会後にインタビューを申し込んだ。相手はかつて新右翼として名をなしていた人である。面識もない。だが「マガジン9条(ウェブマガジン。現マガジン9)の者です」と伝えれば、引き受けてくれると思った。鈴木さんはどんな思想信条の者であっても、議論のできる相手であれば、いつでも、どこでも出向く。そうした度量の大きさを感じていたからだ。

 はたして二つ返事で承諾いただき、それが「マガジン9条」での本書タイトルの連載へとつながっていくのだが、そこからテーマ別にセレクトされたコラムを読むと、鈴木さんは身体を張って書いていたんだなとつくづく思う。東日本大震災から数カ月後には「自衛隊23万のうち、半分の10万以上は東北に行っている。軍備はぜい弱だ。でも、どこも攻めてくる国はない。『仮想敵国』のロシアも、中国も、北朝鮮ですらも、日本に義援金を送り、『頑張れ!』と励ましている」として憲法前文のリアリティを語る。国を強くするという威勢のいい言説には「『強いリーダー』を待機していったら、国民はますます弱い蟻になる」と釘を刺す。国会議員は出たい人よりも出したい人に、を実現するため「国会議員は全員、国民の中から抽出する」と提案する。「これでこそ本当の『民意』だ」と。

 イデオロギー偏重の向きは色を成すが、ぐうの音も出ない。政治的な立場を超えて人々と繋がった鈴木さんの文章の真骨頂を本書で感じてほしい。(集英社新書1050円)
             
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2024年06月05日

【おすすめ本】丸山美和『ルポ 悲しみと希望のウクライナ 難民の現場から』─戦禍に生きる人々・支援する仲間 ウクライナで育つ「いのちの連帯」=木原育子(「東京新聞」特別報道部記者)

 ロシアによる長引くウクライナ侵攻。両国の情勢や戦況を伝えるメディアが多い中で、著者の視点は戦禍に生きる生活者としてのウクライナ人に据えられている。戦争で日常を奪われ、傷ついた幾人もの生身の「人間」が、いずれも今の姿を包み隠さず、切々と語っている。
 本書の文章を追い続けるうち、まるでウクライナの荒野に、もしくは戦場に立たされているかのような、臨場感に襲われる。間近で見て触れて、感じてきた者でしか描けない渾身のルポルタージュと言ってよい。

 著者はポーランド在住のジャーナリストで、国立ヤギェウォ大学の非常勤講師も務める。侵攻直後からポーランドに逃れてきた人々の支援に奔走し、ウクライナにも19回入り、人々の「声」に耳を傾けてきた。
 放置された無人の焼け焦げたベビーカー、誰かに踏み付けられたように崩れた乳児院…。著者のスマホに撮りためた幾万枚もの写真は、ウクライナの痛みそのものだ。
 ただし本書には支援者たちの懸命な活動も紹介されている。タイトルに「希望」の言葉を込めたのはそのためだ。支援者が肩を寄せ合い奔走する姿は、拱手傍観しているとも思える日本社会に、警鐘を鳴らしているように取れる。

 著者自身、紆余曲折を経て46歳で単身ポーランドへ。「人は支え合わないと絶対に生きられない」と繰り返す。著者が体現してきた思いとともに、本書に描かれた多くの人の人生模様と「いのちの連帯」が、読む者の心を揺さぶる。今、手に取るべき至極の1冊だ。(新日本出版社2000円)
    
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2024年05月31日

【おすすめ本】乗京 真知『中村 哲さん殺害事件実行犯の「遺骨」』深い闇を暴く調査報道の成果=高世仁(ジャーナリスト)

 中村哲医師は5年前、武装集団に襲われ亡くなった。その真相はいまだ深い闇だが、朝日新聞記者の著者は、独自取材で国際謀略ともいうべき事件の構造に迫る。

 実行犯の中心はパキスタンの反政府武装勢力のメンバー。当時はアフガニスタン側に潜伏し、犯罪を請け負って金を稼いでいたが、その彼に中村さん襲撃を依頼したのは、パキスタン治安機関の密命を帯びた人物。背景には水を巡る隣国同士の確執があった。
 中村医師はアフガニスタンを襲った大干ばつによる飢餓を救おうと、大規模灌漑に乗り出し、65万人の暮しを支える沃野を蘇らせた。灌漑の水は パキスタンを源としアフガニスタンを流れて再びパキスタンに下るクナール川から引いている。上流で水を分岐させる事業は、下流のパキスタンには水量減となる。

 パキスタンは近年、地球温暖化による洪水と干ばつの甚大な被害を受けて、水の安定確保は最大の懸案となっていた。クナール川上流の“脅威” の除去を狙って中村医師襲撃は決行された。
 事件の真相は、複雑な両国関係や政治的思惑で覆い隠されようとしていた。著者の調査報道は事件の深い闇を暴く世界的スクープだが、取材の困難さは想像に余りある。「ちまたに銃があふれるアフガニスタンで犯人を捜すことは、自分だけでなく助手やその家族を危険にさらすことでもあった」(本書)。
 近年、マスコミ企業は危険地での取材を避ける傾向にあるが、本書に記された貴重な取材方法はぜひ学んでほしい。
       
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2024年05月27日

【おすすめ本】鈴木 拓也『当事者たちの証言で追う 北朝鮮・拉致問題の深層』―日朝外交の舞台裏 克明に記録 圧巻の「ミスターX」の宿命=有田芳生(ジャーナリスト)

 日朝問題で「朝日新聞」がスクープを報じたのは、2023年9月29日だった。1面トップ記事は白抜きで「日朝、今春2回の秘密接触」と見出しにした。その横には「東南アジアで その後の交渉 停滞」と場所と現状を示した。「高官の平壌派遣 一時検討」ともある。さらに3面では「拉致『解決済み』変わらず」「北朝鮮、正常化交渉に前向きな場面も」「水面下の接触 断続的に続く」と解説が続いた。メディアの日朝問題担当者だけでなく、拉致問題に関心ある者にとっては驚く内容だった。業界言葉でいえば「ぶっちぎりのスクープ」だ。この記事の最後に(鈴木拓也)と筆者名がある。

 この「スクープ記者」がこれまでの日朝問題をまとめた。外交交渉、拉致問題、アメリカ、ロシア、中国、韓国などの国際関係から北朝鮮を分析した著作はこれまでも多い。だが本書の最大の特徴は、筆者の記者歴を反映して、外交官、政治家、北朝鮮元高官、韓国の情報機関関係者、帰国した拉致被害者たちに直接取材していることだ。2002年9月の小泉純一郎首相の訪朝で拉致問題に大きな風穴が開き、停滞の期間を経て2014年5月にストックホルム合意が成立、再び停滞して10年が経った。

 2024年のいま、再び日朝交渉の歯車が動き出したものの、北朝鮮の拒絶によって扉は閉じられてしまった。これからの日本政府と北朝鮮政府の交渉はどのように行われるのか。本書を読めば、外交の現場に立ちあったような臨場感を経験できるだけでなく、打開への方向が重層的に理解できる。北朝鮮側で田中均氏に対応した「ミスターX」の宿命、その後継者が突然に消えてしまった事実を記録したことは圧巻だ。(朝日新聞出版、1700円)
   
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2024年05月21日

【おすすめ本】新崎盛吾ほか『いま沖縄をどう語るか─ジャーナリズムの現場から』─本土との意識差 歴史継承の責務を問う=南 彰(琉球新報編集委員)

  「赴任するどころか、関連の取材や報道に携わった経験もほとんどない。沖縄に関わることを意図的に避け続けてきた」
 プロローグは、そう述懐する在京記者のファミリーストーリー。「観光地」以外の沖縄に向き合うことを無意識で避けている本土の人にも、自分ごととして引き寄せていく構成だ 。
 執筆したのは、沖縄の施政権返還50年目に法政大沖縄文化研究所が開いたシンポジウムに登壇した5人のジャーナリスト。シンポジウムでの発言を掘り下げて書き下ろしている。

 なぜ、「本土復帰」という表現を使わないのか。なぜ、復帰50周年記念式典での天皇の言 葉に「引っかかるもの」を感じるのか。 身近なエピソードを交えながら解きほぐす。
 そして、沖縄戦や日本復帰を生き抜いた先人たちの言葉が詰まっている。その一つが、2 007年の国会での安倍晋三首相と大田昌秀元知事の質疑だ。
 「安倍総理にとって沖縄とは何ですか」
 「沖縄の未来は大変素晴らしいものがあるのではないか」
 「私は大変暗いと認識しております」
 安倍政権は当時、辺野古新基地建設に向けた環境調査に自衛隊掃海母艦を派遣した。そ うしながら「未来は素晴らしい」と言い放った首相に、大田氏は「温度差なんていうもので はなく、人間的情感の問題だ」と語ったという。
 ジャーナリストが継承の当事者としての責務を負うことになった時代を示す一冊だ。(高文研1800円)
   
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2024年05月18日

【おすすめ本】西村 章『スポーツウォッシング なぜ勇気と感動は利用されるのか』―スポーツの政治利用の裏側は 関係者の談話で綴る力作=鈴木耕(編集者)

 何か感じてはいるのだが、その正体がよく分からずモヤモヤすることがある。だがそれに名前が与えられて、ああ、そういうことだったのかと理解できた経験が、誰にでもあるだろう。まさに本書がそれである。

 本書のサブタイトルには「なぜ<勇気と感動>は利用されるのか」とある。権力や経済の黒い部分をスポーツの美や感動によって、うまく洗い落す。つまりウォッシング(洗濯)することで本質を覆い隠す。もっと端的に言えば、政治とスポーツの歪な関係を、著者はスポーツ・イベントの歴史を紐解きながら見直していくのだ。

 ナチス・ヒトラーによる1936年の「ベルリン五輪」、74年ボクシング「世紀の一戦」と呼ばれたモハメド・アリ対ジョージ・フォアマンのキンシャサの闘いの裏の、独裁者モブツ大統領の思惑。東西冷戦の政治に翻弄された80年のモスクワ五輪と84年ロサンゼルス五輪。更にはカタールでの22年のサッカーW杯の移民<奴隷労働>問題。裏金と人事とコロナで揺れた東京五輪は記憶に新しい。巨大なスポーツ・イベントの闇の深さに慄然とする。

 また著者は様々なアスリートやメダリスト、評論家や研究者たちにインタビューを繰り返す。これが実に面白い。元ラグビー日本代表の平尾剛さん(神戸親和大学教授)や女子柔道の山口香さん(筑波大学教授)らの提言には頷くことばかりだし、テレビと巨大イベントに歪んだ関係については本間龍さんの解説が腑に落ちる。ともあれ、本書は口を噤むアスリートたちへの熱いエールに満ちた新書なのである。
(集英社新書1040円)
           
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2024年05月13日

 【おすすめ本】松岡かすみ『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』─表面からは窺い知れない実態と権利擁護の難しさ=坂爪真吾(NPO法人「風テラス」理事長)

 本書は海外で出稼ぎを行う日本人風俗嬢たちの仕事内容、出稼ぎに至る経緯、海外での暮らしぶりなどを詳細に綴ったルポルタージュである。
 「出稼ぎ」という言葉にはカジュアルな響きがあるが、その実態は完全な不法就労である。売春を合法化している国もあるが、不法就労の外国人女性が働くことまで許している国は存在しない。

 本書には、海外で出稼ぎ売春経験のある女性たちが登場する。それぞれの女性の語りの中には、確かに頷ける部分や共感できる部分もある。しかし、少なくとも海外での不法就労による売春行為を、社会的に擁護・正当化できるようなエピソードやロジックは、まったく出てこない。
 女性たちが海外での売春に駆り立てられる理由を、きちんと言語化しないと、「不法就労だから摘発しろ」で終わってしまう。仮に言語化できたとしても、「とはいえ不法就労だから摘発しろ」の声は消えず、同じ結果になる可能性は高い。

 売春が法律で禁止されている国での性労働従者の権利擁護が、難しい理由はこうした点にあるのだろう。当事者を支援すること自体が、不法就労に加担することになり、違法な仕事を黙認・斡旋していると見なされてしまう。
 そう考えると「風俗」という合法的なカテゴリーがある日本は、海外に比べて性産業従事者の権利を、守りやすい国なのではないだろうか。
 日本の「風俗」を嫌って海外に飛び出した女性たちのルポルタージュから見えてくるものが、むしろ日本の「風俗」という枠組みこそが、女性たちを法的・社会的に守ることができるという現実は、なんとも皮肉なことである。(朝日新書870円)
   
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2024年05月08日

【おすすめ本】宮田 律『アメリカのイスラーム観 変わるイスラエル支持路線』―バイデン政権政策に若者が「ノー」 求められる日本の対応は=栩木 誠(元日本経済新聞編集委員)

 半年以上にわたるイスラエルによるガザ侵攻・ジェノサイド(大量虐殺)による、無辜の市民の犠牲者は、3万3千人を超える。蛮行に対する国際的批判が高まる中で、イスラエルの「絶対的支援国」であった米国の社会にも、大きな亀裂が生じている。特に、ミレニアル世代とZ世代の若者の間では、イスラエルの侵略の不当性に対する糾弾・パレスチナ支援の動きが拡大。バイデン政権の政策に「ノー」を突き付ける声が、4分の3にも達するほどだ。

 こうした米国社会の中東問題への意識、イスラム観の歴史的展開、変容しつつある米国人のイスラムに対するイメージなど、世界史的視野から精緻に解明したのが、手練れの中東研究者による本書である。
 「イスラームは何よりもアメリカの差別社会の中で反逆の手段だった」という、ジャズドラマー、アート・ブレーキ―の言葉を引用するなど、ポピュラー音楽や建築など各分野で、多様性に富む米国社会の形成に、イスラム文化やムスリムが果たしてきた役割を、明示しているのが、本書の独自性でもある。こうしたイスラムとの多様な接点がマグマとなり、若者をはじめ市民の対イスラム意識の変容を招来していることも、伺い知ることができる。

 こうした米国の新たな潮流に、日本や日本人は、どのように対応すべきか。「イスラームの歴史や文化を知り、理解しようとする姿勢」、「アメリカに振り回されることなく、独自の視点や考察を持つことだ」。著者の指摘は、簡潔明瞭である。(平凡社新書 1000円)
            
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2024年05月01日

【おすすめ本】見たり聞いたり編さん委員会『見たり聞いたり 東海地方のマスコミ70年の歩み 』─メディアが果たした役割と影響を綿密に辿る=山本邦晴(JCJ東海・元共同通信社)

 東海地方のマスコミを対象とする業界紙「新聞報」が創刊70年を機に、新聞、放送、広告業界の出来事を振り返った。
 太平洋戦争の敗戦を経て恵まれた平和は、この地方でもブロック紙の中日新聞をはじめ、新聞の部数増をもたらし、ラジオ、テレビ放送各社の創設と拡大を促した。

 1951年に民放として、日本で初めてラジオ電波を発信した中部日本放送(CBC・名古屋)は、「中日新聞が中部地区の財界を巻き込んで設立にこぎ着けた」放送局だ。
 放送メディアは財界の輿望を担ってスタートしたといってよい。経済の高度成長と共に増え続け、1983年のテレビ愛知開局で主要なラジオ2波、テレビ5局が出そろった。

 新聞も2000年に中日新聞が270万部を超え、朝日新聞(地方版)は43万部とブロック紙並みの部数を誇り、1975年に中部地方への進出を果たした読売は19万部に伸ばした。新聞と放送が、この地方の社会・文化に大きな影響を与えたことは間違いない。
 しかし、バブル崩壊後の経済低迷とIT技術の進展による情報伝達の多様化は、新聞の部数急減と放送の広告出稿減を招き、マスコミ業界が大きな危機に直面しているのは、東海地方も同様だ。
 部数減の中でも高い信頼性を誇る新聞が「第4の権力を発揮すること」が未来につながるとの見方を示し、放送には「知的好奇心を満たす」ことが大きな役割だとして、IT技術を活用した業務の展開を期待する。
 <ビートルズ日本公演の主催者はCBCと読売新聞><さだまさしを全国区に押し上げた深夜放送の力>といったエピソードも紹介している。(三恵社2000円)
             
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2024年04月15日

【おすすめ本】村山 浩昭 葛野 尋之 編『再審制度ってなんだ? 袴田事件から学ぶ』無実で死ぬ地獄看過できず 胸に響く伝説の裁判官の論考=梓澤和幸(弁護士)

 捜査機関による証拠ねつ造でえん罪が作られる。まさか!袴田事件第二次再審の静岡地裁決定、と差し戻し後の東京高裁決定はそれを指摘した。本書は裁判官出身の2名の弁護士と刑事訴訟法の研究者が具体的な事件をあげてえん罪の原因と再審法の改正をアピールする。必読の基本書だ。証拠開示、検察官抗告の禁止、裁判官の思い込みの解明、自白偏重の是正など。編者葛野尋之による、再審申立人への刑の執行停止(特に死刑)の提言は死刑再審の場合切実だ。本人が誰よりも知る無実のまま、命を奪われる地獄は看過できない。

 読者に問う。刑事裁判の報道論評で、裁判官の過ち批判の筆にためらいはないか。
 大川原化工機という事件(本書96ページ)では、無実を訴え続けた3人の被告が300日以上自由を奪われた。一人は癌を患い、獄中で他界した。検察の起訴取り消しでえん罪は明白となった。人質司法の、これはむごい一例だ。

 誰の責任か。警察、検察の捜査の過ちはメデイアで論評される。しかし勾留決定を繰り返し、医療のために有効な保釈申請を複数回却下したのは裁判官である。そこに踏み込み令状裁判官に取材を試みたジャーナリストは管見の限りいない。袴田事件の一審以来の確定判決の裁判官たち、再審請求を却下してきた裁判官たちに「どうお考えか。」と真摯に問いかけたジャーナリストはおられるか。

 判例時報2566号袴田事件特集号の巻頭に木谷明元裁判官の論考が掲載された。袴田再審の各審級の裁判長や、著名刑事裁判官の実名をあげて、裁判官の内面にまで筆を及ぼしている木谷明元裁判官の文章は、おそらくはご自身への内省もあるのではないか。胸をうつ文章である。
歳月が作り上げた袴田さんの苦渋の表情と突き抜けるような姉上の笑顔が語るお二人の人生の真実に思いを馳せよう。私たちの姿勢も体当たりのものにならざるを得ない。(岩波ブックレット960円)
      
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2024年04月13日

【好書耕読】ハンセン病者の現実と抒情=上丸洋一(ジャーナリスト)

  こんなはずではなかった。記者生活を終えたら、もっとのんびりと、肩のこらないエッセー集でも読んで日を送るつもりだった。
 ところが南京虐殺事件に手を出したために、それどころではなくなった。3年半かかって『南京事件と新聞報道』(朝日新聞出版)にまとめ、一息ついたところへこの欄への寄稿を依頼された。
 手にとったのが阿部正子編『訴歌』(皓星社)。『ハンセン病文学全集』(全10巻、2010年完結)に収録された短歌、俳句、川柳から3300余の作品を選んで出版された。購入したまま本棚に眠っていた本の一つだ。

 家族との別離、療養生活の喜怒哀楽、隔離と差別……。
 【またくると中折帽子をふりし父を待ちつづけきぬこの三十年】松島朝子
 【ひきつりし鏡の中の我がかほは憎しと思ふいとしとおもふ】柚木澄
 【再会を云はず夏帽大きく振る】天野武雄
 【帰りなば疎み嫌はるるは必定のその故郷をただに恋(こ)ほしむ】小山蛙村
 【病む吾とみまもる母の乗りたれば客車の扉に錠下ろされつ】山本吉徳
 すらすらとはとても読めない。一行読んでは本からしばし目を離し、衝撃を噛みしめては、また次の一行に目をおとす。
 【幼な子の己が病苦も知らぬげに遊べるさまのなほあはれなり】浅野日出男
 【追ひ来るを追ひ返し追ひ返し別れたる子が四十年ぶりに会ひに来ぬ】長谷川と志
 苛酷な現実を映す苛烈なる抒情。人はなぜ生き、なぜ<詠う>のか。そうした根源的な問いに向き合うことを、この本は読む者に迫る。
 【あなたはきっと橋を渡って来てくれる】辻村みつ子
 これが巻頭の第一句だ。この本の副題ともなっている。さあ、最初からもう一度じっくり読み返すとしよう。「肩のこらないエッセー集」は、そのあとでいい。
        
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2024年04月08日

【おすすめ本】中川 浩一『ガザ 日本人外交官が見たイスラエルとパレスチナ』―断ち切れぬ負の遺産 和平の困難さ詳細に=川上泰徳(中東ジャーナリスト)

 イスラエル軍のガザ攻撃の最中に刊行された本書のタイトルを見れば、ガザや、ガザのイスラム組織ハマス、またはガザ戦争についての情報を期待するだろうが、それは本書の中心ではない。しかし、悲惨な戦争に到るパレスチナとイスラエルの関係を理解するには有益な本である。
 筆者は外務省でアラビア語の研修後、1998年から駐イスラエル日本大使館のパレスチナ自治政府担当になり、ガザやヨルダン川西岸に頻繁に行き、自治政府関係者や主導したファタハの幹部らと接触し、和平を支える日本外交を現地で担った。しかし、2000年9月に第2次インティファーダ(民衆蜂起)によって和平の枠組みは崩れていった。

 筆者は2000年夏、当時のクリントン大統領の仲介でイスラエルのバラク首相とアラファト議長の首脳会談で、パレスチナ国家樹立を目指した最後の試みの失敗と、その後の和平が破綻する状況に外交官として立ち会った。第2章「中東和平が最も実現に近づいたとき」と第3章「和解の道見途絶えた」は本書の肝であり、若い外交官が見た貴重な歴史の境目を臨場感と共に伝えている。
 この経緯は、イスラエルの譲歩にも関わらず、和平を決断しなかったアラファト議長を責める言説が多い中で、パレスチナ側が呑めなかった背景や理由が記述され、和平の困難さについて読者の理解を助けるものである。

 パレスチナ人の暴力の原因に、彼らの生活を圧迫するイスラエルの入植地拡大があると指摘する。さらにパレスチナ人の暴力に対してイスラエルが戦車やミサイルを使って過剰に報復することがパレスチナ人のさらなる怒りを生み、事態を悪化させるという筆者の指摘は、現在のガザ戦争を考えるうえでも参考になる。(幻冬舎新書960円)
          
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2024年04月04日

【おすすめ本】広野真嗣『奔流 コロナ「専門家」はなぜ消されたのか』─政府に都合よく使われた経緯と苦悩を暴く貴重な記録=杉山正隆(歯科医)

 2019年末、中国・武漢市で肺炎の集団発生で明らかになった新型コロナウイルス感染症。当時、私は香港で民主化活動を取材していた関係で状況を日本に伝え、感染症の専門家たちとも連絡をしあった体験が、昨日のように思い出される。
 本書は尾身茂、押谷仁、西浦博の3人への取材を中心にコロナ「専門家」の苦悩を纏めた貴重なノンフィクションである。

 この20年余、ありふれた風邪ウイルスである「コロナウイルス」が変異した感染症が多く発生した。SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)がそうで、感染症の専門家は新型感染症への国家的取り組みを、幾度となく求めてきた中でのコロナ新規感染症だった。
 想定した新規感染症ではあるが難しい対応を求められた。科学者として中立であるべきか、踏み出して積極的に政策立案やメディアへの出演等をすべきか。当時、総理大臣として君臨していたのが安倍氏である。菅、岸田氏と政権は変われど、コロナ専門家は都合の良いように使われ、国民は大きく混乱させられた。

 感染症の専門家が結集する国際エイズ会議では、米国の第一人者アンソニー・ファウチ氏が毎回のように講演やセミナーなどで発信していたが、私の30年来の取材対象であった尾身氏らは、参加すらしていないことが多かった。
 彼らがたいへん苦労したことは分かるが、他の選択肢もあった。トランプ前大統領に苦言を呈してきたファウチ氏を見るにつけ、コロナ「専門家」を作り上げた政府やメディアにも問題があったのではないかと感じる。(講談社1800円)
                
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2024年03月28日

【好書耕読】防衛大国、韓国から何を学ぶか=五味洋治(ジャーナリスト)

 朝鮮半島の軍事情勢といえば、もっぱら北朝鮮がテーマだった。核実験やミサイル発射、さらには日本人拉致問題もあり、関心が高いからだ。『韓国の国防政策「強軍化」を支える防衛産業と国防外交』(伊藤弘太郎著、勁草書房)は、逆に韓国に焦点を当てている。

 軍備の増強をやめない北朝鮮に対抗するため韓国が独自に開発してきた兵器は、安価で性能が良かった。欧州やオーストラリアなどの海外によく売れ、外貨稼ぎにも役立った。防衛装備品の輸出量が、2008年からわずか10年で倍増していることからも、その人気ぶりが分かる。好調な売れ行きにも支えられ、韓国の防衛費は日本を抜いて世界9位にまで成長している。
 筆者は、防衛産業の発展だけでなく、韓国が展開する「国防外交」にも注目している。ある国に戦闘機や戦車を輸出すると、メンテナンスを通じて韓国と関係が密接になり、友好関係が築ける。

 一方日本は、平和憲法のもとで外国の軍事問題への関与がタブー視されてきた。2014年には防衛装備移転三原則が制定されたが、反対意見も多く、進んでいない。
 著者は、「(日本)国内の防衛産業の活性化を図ろうとするならば、海外への輸出拡大は不可避」と指摘しているが、私は懸念を拭えなかった。

 本書にも紹介されているが、アラブ首長国連邦(UAE)の国防力整備に協力する見返りとして韓国政府は、UAEの緊急時には、韓国軍が自動介入するという秘密条項を交わしていたという。兵器セールスのためとはいえ、他国の戦争に巻き込まれかねない。
 さらに、ウクライナ戦争では、韓国製の砲弾が米国を迂回してウクライナ側に供給された、と報道されている。韓国は「死の商人」になっていないか。韓国の歩みから慎重に教訓を学ぶべきだ。
                
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2024年03月21日

【おすすめ本】後藤 秀典『東京電力の変節 最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』―6・17判決の裏に何があったのか 闇の深淵部に切り込んだ=坂本充孝(ジャーナリスト)

 福島第一原発の事故からまもなく13年。現在も2万6千人を超える人々が故郷に戻れず避難生活を続けている。そんな人々に対して元々事
故の当事者である東京電力の対応は不誠実極まりなかった。尊重すると誓いを立てた原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)の和解案を4年以上も拒絶し続け、仲介打ちと切りとなった。

 さらに2020年ごろから損害賠償を争う法廷で露骨な出し渋りの論理を展開し始める。一企業が弱者に対してこうまで攻撃的になるのはなぜなのか。裏側に迫ったのが本書である。
 興味深いのは第2章だ。22年6月17日。東京電力福島第一原発国賠訴訟で最高裁は異例の判決を言い渡した。東京電力の損害賠償責任は認めたうえで、不可思議にも、高裁の事実認定を覆し、「国の責任はなかった」と断じた。

 この6・17判決は、どのように書かれたのか。判事は菅野博之、岡村和美、草野耕三、三浦守の4氏。このうち検察出身の三浦氏は「国に責任がある」と反対意見書を出したが、受け入れられなかった。

 筆者は残る3判事の経歴を追う。見えてきたのは電力会社、最高裁、国、巨大法律事務所の間に張り巡らされた濃い人脈図だった。裁判長だった菅野博之氏は判決から1か月半後の8月3日に巨大法律事務所の顧問に就いた。過去に東電の代理人を勤めた弁護士が何人もいる事務所だ。さらに岸田文雄首相が原発依存を減らしていくという従来の方針を撤回、原発回帰の方向を明確に打ち出したのは、この直後のことだった。
 司法の頂点の体たらくを知れば、背筋が寒くなる読者も多いのではないか。日本の闇の深淵部に切り込んだ筆者にエールを送りたい。(旬報社1500円)
        
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2024年03月18日

【おすすめ本】広谷 直路『「泣き虫」チャーチル 大英帝国を救った男の物語』―激情家であり手練手管も 英雄の素顔とは =鈴木耕(編集者)

 タイトルがいい。なにしろ「泣き虫」なのだ。チャーチルといえば第2次世界大戦のイギリスの英雄にして重厚な政治家で、更には文筆家としても「ノーベル文学賞」を受けたほどの人物。サブタイトルに「大英帝国を救った男の物語」とあるがこちらの方が従来のチャーチルのイメージだ。ところがそれを逆手にとって、英雄伝説を壊すことなく見事にやんちゃな「もうひとりのチャーチル」を現出させたのが本書である。
 著者には何冊かの翻訳書があるが自身の著書としてはこれが初めてだという。とてもそうは思えない手練れの文章だ。さすがに長年、編集者として磨いた腕の見せどころ、素敵な本を書き上げた。

 貴族の家に生まれたウィンストン君、少年のころから学校嫌いの泣き虫小僧。感極まると所かまわず泣きだしてしまう。その性格は政治家になっても変わらない。大の映画好きで自邸の映写室でヴィヴィアン・リーとローレンス・オリヴィエの『美女ありき』を観ては涙ぐんでいたという。これでもう英雄偉人のイメージが一変する。そんなエピソードを本書の最初に持ってくるところが編集者でもある著者の面目躍如。むろん、そんな激情型の性格だけでは、あの大戦の指導者たりえない。

 ヒトラーを翻弄しスターリンと渡り合いルーズベルトを引きずり込む八面六臂の活躍、その手練手管も著者は余すところなく描く。エピソードの積み重ねで英雄の別の側面をまことに面白い読み物に仕上げてくれた。
(集英社インターナショナル、1800円)
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2024年03月10日

【おすすめ本】川ア秋子『ともぐい』─熊と人間と自然と「命」を巡る応酬の果てに=萩山 拓(ライター)

  本書は昨年11月20日に発売されるや、傑作と絶賛されてきた。その評判どおり、直木賞選考委員全員が授賞を決定した。
 時代は日露戦争前夜、舞台は釧路の白糠町。本書の主人公「熊爪」は、単独で犬と共に山中で生活し、鹿狩りや熊撃ちに専念する猟師である。
「今仕留めたばかりの鹿の腹を裂き始めた。…開かれた腹の中には、剥き出しの鹿の肝臓がつやつやと横たわっている。…血と肉の旨味が噛みしめるごとに口腔に広がる」
 鹿の解体や熊との闘いを巡る描写は、女性の筆致とは思えないほど、凄絶きわまる。だが「命」への愛おしい思いが、読む者にズシンと伝わってくるから不思議だ。

 獣が獲れれば、自らの手で解体し、肉や毛皮を肩にかつぎ町へ下り、 買い受ける店に行く。そこで目の不自由な少女・陽子(はるこ)に出会い見初める。
 ある日、「熊爪」は、山中で瀕死となっていたマタギを救う。冬眠せずに山を歩く熊<穴持たず>に襲われたのだ。この熊も別の巨大な熊「赤毛」に殺される。そして「熊爪」は「赤毛」との凄絶な闘いに挑む。その死闘の果て自らも重傷を負う。

 陽子が「熊爪」の治療に介添えするなか、二人の間で交わされる会話や交際のありようは、本能むき出しで、食らい合うように展開する。半端者の連帯でもあろうか。
 特に本書の「十 片割れの女」から最終章へと続く、「熊爪」と陽子が繰り広げる修羅場には驚く。まさに「命」を巡る二人の闘いといっても良い。
 最後のシーンに辿りつくと、陽子は熊「赤毛」の化身ではないか、そう見立てれば表題『ともぐい』とする意味が、 やっと私には理解できたのだが。こうした深い二重の意味が、本書には込められていると思えてならない。(新潮社1750円)
                    
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2024年03月04日

【おすすめ本】西野智彦『ドキュメント異次元緩和 10年間の全記録』−アベノミクスと金融緩和が辿った軌跡を検証する=栩木 誠(元日本経済新聞編集委員)

 国民生活を苦しめてきた「異次元緩和」は、安倍晋三元首相が「日本銀行は政府の子会社」と公言してはばからず、自ら選任した黒田東彦前日本銀行総裁とタッグを組み、推進したものだった。
 「2%の物価上昇」を旗印に、大幅な金融緩和を行い、経済に好循環をもたらすとの旗印を掲げ、中央銀行の“禁じ手”とされてきた手法を次々と弄してきた。その結果、「好循環」どころか日本を「成長が止まった国」「賃金が目減りする国」に陥らせた。

 ベテラン経済ジャーナリストによる本書は「異次元緩和」策の舞台裏から日銀総裁の交代劇まで、10年余にわたる動きをヴィヴィッドに伝える。それはまた、当事者である安倍・黒田両人をはじめ政府・自民党や日銀などの関係者が、どんな役割を果たしたか、詳細に辿った日本金融史の貴重な記録でもある。
 「これまでとは次元の異なる金融緩和」との黒田発言が由来の「異次元緩和」なる暴走車は、世界にも例を見ない異質さで、迷走し続けた。その結果が、日本経済の長期低落であり、格差拡大、 国民生活の破壊だった。アベノミクス旗振りの張本人が亡くなっても、依然ブレーキはかからないままだ。

 著者は初の学者出身・植田和男総裁について、「『異次元の世界』から早く脱出し、元の正常な姿に戻そうと、もがいているように見える」と評している。
 だが今なによりも重要なことは、依然疾走し続ける“暴走車”を止めることだ。それができなければ、日本経済と国民生活は、奈落の苦しみが続くのは必至である。(岩波新書960円)
                 
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2024年02月27日

【おすすめ本】西谷 文和『万博崩壊 どこが「身を切る改革」か!』―利権と勢力の拡大に利用 維新政治を打ち破る展望示す=桜田 照雄(阪南大学教授)

 科学的な認識や事実,知性への信頼をもたない首長が、自らが率いる政党の利権と勢力を拡大する手段としたのが,巨大イベントの万博である。大阪市の公式記録には夢洲誘致は松井知事の独断と記されている。しかも、博覧会というイベントそれ自体が,もはや「時代遅れ」で開催の意義すら見いだせずにいる。

 それだけではない。会場の夢洲は、高度処理を要する管理型廃棄物処分場として(夢洲1区),大阪湾口の浚渫土砂と建設残土の処分場(二・三・四区)として造成されてきた。数多くの海底活断層が存在し直下型地震と津波の「巣」と言われる大阪湾。工業地・準工業地として活用が目論まれていたので,商業用地として高層ビルを建設することなど,想定しない護岸設計なのである。
 津波がくれば,脆弱な護岸が破壊され,甚大な被害が想定される。計画によれば、災害のリスクは認識されているものの、その対策は皆無である。

 藤永のぶよは、夢洲の現状をつぶさに描き、計画の荒唐無稽さを明らかにする(第一章)。
 ところが、批判に目もくれず、維新府政・市政によって無謀な計画が強行される。維新府政・市政への圧倒的な府民・市民の支持が背景にあるのは事実である。
 では、なぜ維新は支持されるのか、内田樹が批判的に分析を行う(二章)。
 そして、第三章で経済学者の金子勝が、維新政治を打ち破る展望を語る。
 西谷文和の巧みなリードで「崩壊」から復活の展望が示された好著であり、幅広い読者にぜひ、お読みいただきたい。
(せせらぎ出版1300円)
      
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2024年02月19日

【おすすめ本】青木 美希『なぜ日本は原発を止められないのか?』―事故の記憶を呼ぶ覚ます キーパーソンの戦いと挫折の跡も=七沢潔(ジャーナリスト)

 これは急激に「原発回帰」に向かう日本と日本人の横っ面を思い切り引っ叩いて、忘れかけている原発事故の記憶のリマインドを迫る書である。

 本の構成は「復興」から事故プロセス、原発マネー、核兵器、脱原発と読み手の関心を誘うように蛇行するが、「原子力ムラ」「安全神話」「規制の虜」「原発ゼロ」「避難計画」・・・断続的に挿入されるこの12年間の新聞記事は、事故直後には日本の原子力体制の矛盾を暴き、批判する言説が溜まったマグマのように噴出していたことを思い出させる。同時に著者が直撃取材したキーパーソンたちの闘いの跡からは、なりふり構わず窮地を脱しようともがく原子力ムラの分厚い岩盤が目の当たりになる。 

 原子力委員長代理としてムラの排除の論理に当惑し続けた鈴木達治郎、電力会社と官僚の根腐れた癒着を語る元経済産業省官僚の古賀茂明、巨大津波を予測しながら無視され、原子力規制委員として活断層の影響を値切る関西電力により切られた地震学者の島崎邦彦、大飯原発3,4号機の運転差し止めを命じた元福井地裁の裁判長、樋口英明・・・権力の間近で、真っ当な判断を試みた彼らの抵抗は悉く挫折していく。

 その一方で著者は汚染水放出に苦しむ漁業者や、帰る見込みも立たない帰還困難区域からの避難者など生活を壊され、追い込まれたまま忘れ去られようとする人々への眼差しを保ち続ける。
 「忘れてはならない。人々の犠牲のうえに原発は動いている」(「おわりに」から)
 所属する新聞社から記者職を追われながらも現場に通い続けるジャーナリストの入魂に心が熱くなる。文春新書(1091円)
                
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