2019年11月15日

【おすすめ本】斎藤貴男『驕る権力、煽るメディア』─市民の主権者意識がジャーナリズムを育てる基盤=河野慎二

 著者は、2015年4月から4年間のメディアと安倍政権の動きを、報道内容を中心に辿って見すえ、どうすればよいのかを、読者と共に考えようと本書をまとめた。
 この時期、驕り高ぶった安倍政権は安全保障関連法(戦争法)の成立をはじめ、森友・加計問題での文書改ざんや隠蔽など、悪政を恣(ほしいまま)にした。

 著者の疑問は、09年に自民党を下野させた有権者が、なぜ「呆れるほど従順」になったのかという点だ。疑問を解くカギはメディアの劣化にある。新聞に対する消費税軽減税率適用がメディア劣化の一因と指摘。新聞協会は政権への陳情(オネダリ)を重ね、軽減税率の適用を手に入れた。
「借りを返せ」と恫喝された新聞界の対応が無残。「消費税の報道は絶望の極み。オネダリの見返りとしてのプロパガンダを報道とは呼ばない」と、大手紙の報道を痛烈に批判する。
 劣化は新聞だけではない。雑誌ジャーナリズムも、反権力・反拝金の姿勢が攻撃される中で劣化し、このままでは「確実に滅びる。新聞も、単行本も」と警鐘を鳴らす。
 その上で「知性の灯を絶やすな」として「オール出版界による『ノンフィクション再生プロジェクト』の立ち上げ」を提唱する。

 著者は、ジャーナリズムは滅んではならないと強調する。ジャーナリズムが機能しなければ、民主主義は成立しないからだ。「ペンは剣よりも強し」は市民の主権者意識があってこそ成り立つ。
 最終ページに森友文書改ざんをスクープした朝日の写真を掲載している。ジャーナリズムを滅ぼしてはならないという著者の信念と気概が伝わってくる。(新日本出版社1900円)
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2019年10月24日

【おすすめ本】田島泰彦『表現の自由とメディアの現代史 統制される言論とジャーナリズムから遠ざかるメディア』─浮かび上がるメディアの劣化と民主主義の衰退=丸山重威(ジャーナリズム研究者)

 「この国の表現の自由はどこまで来ていて、これから先どこに向かうか。メディアはその任務と役割どう果たし、どこに進もうとするのか」―。
 冒頭にある通り、研究者の立場で、常にメディアの実態に関わりながら発言を続けてきた著者の2007年以来の論考である。その時々、法律雑誌や「週刊金曜日」「世界」などの寄稿原稿を元に、編年的にたどり、問題点を指摘している。

 時代をともにし、メディアのあるべき姿とジャーナリズムを考えてきた立場から言えば、まさに「継続は力」で、新しい状況が展開しているだけに、その都度、問題を落とさず記録することの意味は非常に大きい。
 例えば、私たちも著者も一緒に取り組んだ個人情報保護法の問題は、その後マイナンバー制度が生まれ、最近では企業が就活生の個人情報を材料に、リクナビの閲覧履歴などで人工知能による辞退率が取得される仕組みが生まれ、厚労省が「指導」した。
表題の「表現の自由」は、「表現の不自由展」の中止が大問題になっている。こうした「現在史」は過去の問題ではなく、「今の問題」そのものだ。

 この間、露骨に進んだのが、メディアの「劣化」であり、民主主義の「衰退」。本当に日本は大丈夫なのだろうか。
昔、メディアへの圧力や干渉について取り上げると、「知りたいのは、メディアへの『被害届』ではなく、どうしたら問題が起きないようにするかだ」と、よく言われた。
 しかし、昔も今も、「特効薬」はないだろう。大事なのは、一つ一つの問題をごまかさないで、忘れないで、問題提起していくこと。それが、民主主義社会のジャーナリズムの基礎だろうと思う。
(日本評論社2200円)
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2019年08月23日

【おすすめ本】巣内尚子『奴隷労働 ベトナム人技能実習生の実態』─安い労働力として使い捨てにする現場の生々しい実態をルポ=栩木 誠

 「移民政策はとらない」─この安倍発言を反故にするような、日本の「移民大国化」が進む。
国内に住む外国人の数は約267万人、総人口の2%を超えた。中でも目立つのが、農水産業や製造業などで働く外国人技能実習生と留学生で、合わせて60万人を超える。コンビニや外食、建設、介護、農水産業など、過酷な労働条件下で底辺を支える、彼らの存在なくしては「持続不可能」な産業も数多い。

 今年4月から施行された改正入国管理法の国会審議では、「低賃金の単純労働に従事され、技能が実習できない」実習生の劣悪な環境、人権軽視の問題点が赤裸々にされた。この利害と差別の複雑な結合が生み出す問題点を、急増するベトナム人実習生に焦点を当て、浮き彫りにしたのが本書だ。
 「送り手」のベトナム、そして「受け手」である日本の両国で、技能実習生の実態に迫る。その多角的な取材は労働組合などの支援者や仲介業者など、140人を超える。
低賃金に長時間労働、多額の借金、暴力、パワハラ、セクハラ、劣悪な住環境、除染などの危険業務…その一方で、隆盛を極める“実習生ビジネス”。

 現代日本の様々な社会問題の実態が、実習生などの発言から鮮明にされる。著者の五感で得た迫真のルポは、その実態を生々しく伝える。
 著者は「都合のよい労働力として使い捨てにする─この認識を捨ててこそ、移住労働者を社会が受け入れる必須条件なのだ」と、強調する。しかし、「特定技能」という新たな衣をまとった改正入管法下で、「奴隷労働」は、さらに“再生産”されようとしている。それを許さない「私たち」の取組みが、重要になっている。(花伝社2000円)
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2019年08月16日

【緑陰図書─私のおすすめ】「資本主義」でつながる世界と私たちの現実を問う=工藤律子(ジャーナリスト)

 最近、メキシコや中米の移民、また若者ギャングについて、その背景にある格差や貧困に目を向けた報道が多くなってきた。だが私たちとの関係にまで、筆が及ぶには至ってない。
拙著『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社文庫)や『マフィア国家』(岩波書店)に目を通し、彼らの現実が私たちとどうつながっているか、共に考えていただけるとうれしい。

 さて経済のグローバル化が進むなか、格差や不平等は、一国・一地域での問題ではなく、国際的な「資本主義」のありよう、そのものに関わっている。今やこの事実は自明の理となった。その「資本主義」とは何か。京都大学経済研究所附属先端政策分析研究センター編『資本主義と倫理』(東洋経済)は、その問いを考えるのに、格好の本だ。
 シンポジウムをまとめた本書は、「資本主義」を経済だけでなく、社会や教育など、多様な角度から解く。特に注目したいのは「資本主義の中核には倫理が存在する」という点だ。現代世界の大きな問題は、支配的な資本主義から倫理が失われていることだろう。

 では、私たちはこの先どんな世界を築いていけばいいのか。同じく「資本主義」を軸に考えるには、伊藤誠『入門 資本主義経済』(平凡社新書)が役立つ。その最終章「資本主義はのりこえられるか」では、21世紀型社会主義の可能性が考察されている。
 そこではベーシックインカム、私もスペインで取材している地域通貨、さらには労働者協同組合など、「社会的連帯経済」の取り組みが考察されている。これはメキシコや中米を含む、世界各地で進んでいる動きだ。

「労働力の商品化を廃止」し「働く人々の自由、平等、人権を主体的に実現する社会経済」を模索している。いま私たちは、こうした発想と取り組みが求められている。
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2019年07月13日

【おすすめ本】川本裕司『変容するNHK 「忖度」とモラル崩壊の現場 』─政治に翻弄される公共放送、危ういニュース報道への信頼=河野慎二

 受信料制度を合憲とした最高裁判決を梃子に、NHKの2018年度受信料収入が初の7千億円を超え、5月には改正放送法の成立で番組のネット同時常時配信が認められ、NHKは新たな受信料収入の手段を手に入れた。
 これで上田会長率いるNHKは盤石か?
 問題は官邸にひれ伏すNHKの報道姿勢だ。著者はNHKの政治報道について「政権との一体化」という見方が増えていると指摘する。
 87年から足かけ30年、NHKを取材してきた著者は「その残像は、『政治』に翻弄される公共放送の経営」であり、「とりわけ報道のニュースに、その痕跡が深く刻まれてきた」と振り返る。
 2001年1月、慰安婦問題を取り上げたNHKの番組について、安倍官房副長官が放送総局長らに「公正、公平な番組になるべきだ」と述べ、NHKは番組を改変。
 安倍氏が政権を握ると、官邸に対するNHKの忖度の度合いが強まり、政権に不都合な事実はニュースに載らないようになる。著者は「加計学園問題を取材する社会部に対し、ある幹部は『君たちは倒閣運動をしているのか』と告げた」事実を明らかにする。
 NHKと政治の関係については昨今、NHKの「政府広報機関化」が懸念されるほど、危機は深刻になっている。
 著者は「自壊しかねない不安要素を抱えながら、肥大化していく公共放送の未来が明るい、とはとても言えない」と強調。視聴者の怒りが限度を超えれば「公共放送への信頼は瓦解する」と警鐘を鳴らす。
(花伝社1500円)
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2019年05月22日

【おすすめ本】臺 宏士『アベノメディアに抗う』─「恫喝」と「懐柔」で操るマスコミ支配に抗する人々の奮闘を克明に追う=丸山重威(ジャーナリズム研究者)

 メディアを使って独裁支配を進めようとしている安倍政権に、メディアはどう対峙しているか、それとも迎合したままなのか。
マスメディアに限らず、情報が溢れている時代において、その流れを「岸辺」でなく、流れの中に入ってでも、観察し記録し分析することは、メディア研究者が避けて通れない道である。また、その困難さを、いかに克服するか、それは共通の課題でもある。
 本書は、毎日新聞社でメディアを取材していた著者がフリーになり、安倍首相のメディア戦略を「アベノメディア」と名付けて、2年前に上梓した前著『検証アベノメディア』に続く労作だ。
前著は、2016年ごろまでのデータから問題を検証し、本書は、その後の動きを中心に「闘い」に焦点を当てている。
官邸記者会見の東京新聞・望月衣塑子さん、慰安婦問題の元朝日新聞の植村隆さん、「女たちの戦争と平和資料館」の池田恵里子さん、「メディアで働く女性ネットワーク」の松元千枝さんなどを紹介している。
 官邸記者会見問題では新聞労連の抗議声明を機に、運動はもう一回り広がった。植村問題も控訴審が始まった。問題はいまも続いている。
 インターネットの発達で、新聞、放送、出版など既成メディアが危機にあるいま、メディアが権力の情報に流されず、ジャーナリズム性を発揮して事実や真実を追究するのは、日本の民主主義にとって不可欠な仕事だ。
これからも著者の「アベノメディア・ウオッチ」を期待してやまない。
(緑風出版2000円)
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2019年04月21日

【おすすめ本】沖縄タイムス社編『沖縄県知事 翁長雄志の「言葉」』─翁長さんの言葉の重さを噛みしめる=鈴木耕(編集者)

 ひとこと一言が、直に胸に沁み込んでくる本である。昨年8月、惜しまれながら世を去った前沖縄県知事・翁長雄志さんの、折に触れて発した言葉を集め、沖縄タイムスが編んだもの。
 翁長さんの言葉と、それが発せられた背景を小文で解説する、とてもシンプルな編集なのだが「政治家とは言葉の闘士」であることが、これほど明快に示されている本も珍しい。例えば、国を相手取っての訴訟の際に翁長さんはこう語った。

<その後ろ姿を見せることで、子や孫がその思いを吸収し、彼らなりに沖縄の将来を担っていくことにつながる。私たち責任世代の役割はそこにあるのではないか>
 親が子に向けるまなざし。まさに沖縄の世代のつながりを見る思いだ。だから、そのつながりを守ろうとするとき、翁長さんは闘う顔になる。
<大臣の是正支持は、かけがえのない自然と生態系への破壊指示であり、地方自治の破壊そのものではないでしょうか>
 高江のヘリパッド建設現場での、市民へ向けた機動隊員の“土人発言”には怒りをあらわにした。
<侮辱的な言葉が飛んできた。そういう言葉は人と人の絆を壊す>
 言葉の怖さを真から知る政治家だったのだ。だから、怒りは言葉を失った司法にも向けられる。
<あぜんとした。裁判所は政府の追認機関であることが明らかになった>

 そして、この叫び!
<ウチナーンチュ、ウシェーティナイビランドー(沖縄の人をないがしろにしてはいけない)>
 巻末に付記された記者たちの文章が切ない。
(沖縄タイムス社1000円)
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2019年03月21日

【おすすめ本】植村裁判取材チーム編『慰安婦報道「捏造」の真実 検証・植村裁判』─明かされた右派の杜撰・欺瞞ロジック=安田浩一(ジャーナリスト)

「捏造」したのは誰か─元朝日新聞記者・植村隆さんは、訴え続けている。「捏造記者」のレッテルを張られ、誹謗中傷を受けてきた。「植村裁判」は、植村さんの尊厳をかけた闘いだ。
 裁判の傍聴に通う中で私もまた問われているのだと感じた。不正義を前に沈黙は許されるのか、植村さんの叫びは、メディアに携わるすべての者に向けられる。

 27年前、元慰安婦だった女性が韓国で名乗り出た。植村さんは必要な裏どりを重ね、記事にした結果のスクープ。人権を蹂躙された女性の悲痛な叫びが初めて報じられた。
 だが、これを「捏造」だとしたのが、櫻井よしこ氏や西岡力氏をはじめとする右派系の文化人・メディアだった。様々な悪罵がぶつけられた。それらが原因となって、植村さんは職場を追われ、本人も、さらには家族も殺害予告などの脅迫を受けてきた。
 
 本書は、これら一連の経緯と、櫻井・西岡両氏、出版社を相手取って起こした名誉棄損訴訟を、ジャーナリストたちからなる「取材チーム」が徹底検証したものだ。一方的に植村さんの「捏造」を叫んでいた者たちの杜撰なロジックが暴かれる。
「取材チーム」のひとり、長谷川綾さんは「資料をつまみ食いし、細部の齟齬で全体を否定する。その手法は<ガス室はなかった>と主張するホロコースト否定派を思わせる」と喝破する。そう、「植村裁判」は、日本社会を覆いつつあるヘイトな空気感との闘いでもあるのだ。
 詳細な検証記録によって、ようやく「真実」が浮かび上がってきた。
(花伝社1000円)
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2018年12月01日

【おすすめ本】尾林芳匡・渡辺卓也編著『水道の民営化・広域化を考える いのちの水をどう守るか』─あらためて水の大切さを考えよう! 問われる水道法改正の狙い=栩木 誠

 安倍政権が「働き方改革関連法案」や「カジノ法案」など、W悪法“を成立させた前期国会で、「重要法案」と位置付けながらも、継続審議になった法案がある。「水道法改正案」である。

 「押し寄せる老朽化」「水道クライシス」「水道料金値上げ続々。背景に老朽化、人口減」…近年、水道を巡る見出しが、メディアで踊る。
「1990年代は水道民営化の10年」ともいわれるように、世界各地で、グローバル水道企業による民営化が進められた。しかし、欧州や中南米など世界各地で、水質悪化・料金高騰などの問題が表面化し、失敗が明白になった。今や「再公営化」の流れが強まっているのである。
 しかし、日本では世界的な教訓を学ぶことなく、未だ民営化推進の動きが続く。「水道法改正案」でも、地方公共団体が水道事業者ではあるものの、運営を民間事業者に任せる「官民連携」と、事業の「広域化」が2つの柱になっている。すなわち「庇を貸して母屋を取られる」ように、実質、民営化への道につながりかねないのである。

 本書は、「市民が止めた水道民営化」や「水源を守る運動」など、水道の民営化・広域化を巡る問題で、着実に成果をあげる、全国各地の住民などの実践例を追い、成果の分析をしている。
 そうした積み重ねの上に論点を明確に整理し、「民営化・広域化を前提としない、各地の水道事業への国の財政支援の拡大強化」の必要性を提言する。「21世紀は水の世紀」といわれる。「いのちの水」を守るためにも、まず改正案の成立を阻止し、国民的な議論を深めることが緊要になっている。
(自治体研究社1700円)
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2018年09月08日

≪おすすめ本≫ 斎藤貴男『戦争経済大国』─米国の戦争で築いた日本の繁栄 戦後平和の虚妄を鋭く問う=杉本恒如(「しんぶん赤旗」経済部記者)

 日本経済は1955年から73年まで、飛躍的な成長を遂げ、「奇跡」の高度成長と言われた。
 この奇跡は米国の戦争によるものだった。朝鮮戦争特需を足掛かりに、ベトナム戦争特需を跳躍台とし、日本企業は「他国の人々の不幸に乗じて儲けた」のだ。戦争経済の実態を明かし、虚構の戦後論を覆すため、著者は本書を世に問うた。

 歴史の再考を促す熱意は、足を使った取材の分厚さに表れている。ベトナム戦争と日本経済の関係を掘り下げた研究は少ない。著者は企業や官庁の当事者を訪ね歩き、資料を丹念に掘り起こす。
 総合商社の元社員はベトナム戦争に感謝した同僚の発言を回想する。「おかげさまで合成ゴムの全体が儲かる」。米兵の履く熱帯仕様のブーツが日本製だったためだ。貿易政策の中心にいた通商産業省(現経済産業省)の元キャリア官僚も証言する。戦争で「突然マーケットが開いた」と。
 当時「死の商人」を非難した市民団体、労働組合も取材対象にしている。権力による弾圧や謀略もあった。挫折や堕落、過激派の行動にも大きな紙幅を割き、また過ちや後退からも教訓を汲みあげようと努めている。

 著者は「憲法9条を本物にしなければならない」と語る。自身を含む護憲派の思想と行動を、もう一段高める決意が、底流にあるからだ。
「もう戦争する時代じゃない」。米国の戦争で財を成した沖縄企業の元会長が、あっけらかんと発する言葉に、新しい経済への転換に向けたヒントが垣間見える。
(河出書房新社1800円)
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2018年07月05日

≪おすすめ本≫ 白井 聰『国体論 菊と星条旗 』菊と星条旗の結合を通して戦後の対米隷属・日本の「国体」が誕生=鈴木 耕(編集者)

 正直に言って、私は「国体」など考えたことがなかった。敗戦と同時に消え失せたものとばかり思っていた。天皇が「統帥権」を喪失した段階で、国体は「国民体育大会」の略称に萎んだはずだった。ところが本書を読んで考え込んでしまった。
 現代日本の対米隷属のあまりの惨状を読み解くには、ピッタリな言葉がこれだったのだ。なぜ日本がかくまで星条旗に跪くのか。それを誰も不思議に思わぬばかりか、沖縄の米軍基地強化にみられるように、なぜ次々に貢物を差し出すのか。「天皇」の代替に「米国」を数式に代入してみれば、その疑問は解けていく。だが事は単純じゃない。

 天皇自身が、現在の政権(安倍と言い換えても可)への闘争宣言ともいえる「お言葉」を、なぜ発しなければならなかったか、解読が鮮やかだ。
 明治という近代国家の形成期を過ぎ、天皇と臣民という疑似家族がつくられ、やがてそれは「国体」として絶対服従のシステムの構築に至る。統治機能の絶対化である。
 ところが敗戦により、もろくも崩れ去る。「第四章 菊と星条旗の結合」で、「戦後の国体の起源」という新しい視座が示される。この辺りから、私は目が離せなくなった。

 つまり「アメリカの日本」としての「戦後の国体」という選択こそが、この異様なほどの対米隷属日本の在り様に、そしてついに「発狂した奴隷たち」と、為政側にある人達への痛烈な批判に辿り着く。いま憲法9条と日米安保体制の狭間の矛盾が火を吹きだしている。
(集英社新書940円)
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2018年05月17日

≪おすすめ本≫ 酒井啓子『9.11後の現代史』─混乱を極める中東から不寛容な世界の今を解き明かす=栩木 誠

 「21世紀の中東しか知らない若者には、『今見ている世界と中東がこんなに怖いことになってしまったのは、そんな昔からじゃないんだよ』と伝え、20世紀の中東を見てきた少し年嵩の人たちには、なぜ世界と中東がこんなことになってしまったのかを考える糸口を示すために書かれたものである。そしてその目的は、『世界と中東がこんなことになってしまったのにはちゃんと理由がある』ことを示すことにある」

 イラクをはじめ中東研究の権威である著者が本書に込めた思いが、この一文に凝縮されている。
 第一次世界大戦時に締結された「サイクス・ピコ協定」、パレスチナを巡る英国などの「二枚舌問題」など、20世紀を通じて中東で起きた諸事態は欧米諸国が行ってきた所業のツケでもあった。
 そのツケは2001年に起きた「9.11世界同時多発テロ事件」を契機に、さらに大きくなっている。混乱を極める中東から世界の今を読み取り、次代にどうつなげていくのか、根源から問う。

 9.11からイラク戦争、アラブの春、IS問題、難民問題など、日常のニュースに登場する諸問題の内容と系統的な連関、世界に及ぼす影響を分かりやすく解説している。9.11以降の中東、それを通した世界の現代史が丁寧に整理されており、「中東問題は複雑でわかりにくい」と思っていた人にも理解しやすい。
「中東がこのような混とんとした状況に陥った要因を徹底的に解明してこそ、その解決の道が見出せる」
 著者の熱い思いが行間から強くにじみ出ている。
(講談社現代新書800円)
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2018年05月10日

≪おすすめ本≫ 樋田 毅『記者襲撃  赤報隊事件30年目の真実』─犯人を追った取材過程を明かす、「反日」攻撃にひるまぬ記者の矜持=藤森 研(元朝日新聞記者)

 1987年、朝日新聞阪神支局を目出し帽の男が襲い、銃で記者1人を殺し、1人に重傷を負わせた。その犯人を、30年間追った朝日新聞記者による書き下ろし。

 「反日朝日は五十年前にかえれ」。そんな犯行声明から、取材対象は主に右翼団体や、朝日と対立していた宗教団体の関係者に絞られた。取材は、さまざまな情報から疑いのある人物を一人ひとり「潰していく」作業だ。
 居場所を割り出し、訪れて対面し、事件との関係の有無を問う。数十人に囲まれ罵声を浴びもするが、正面から取材意図を告げる樋田記者の姿勢に心を開く右翼もいた。
 口の重いある人物とは数十回にわたり取材を重ねる。緊迫した一問一答を含め、ここまで取材過程を明かすのかと驚くほど内容は生々しい。多くの人に、事件とその意味を共有してほしいと願う著者の思いゆえだ。

 本書にも書かれた宗教絡みの「霊感商法」を、朝日ジャーナルで追及していた私にも、事件は衝撃で、阪神支局に駆け付けた。その後、朝日新聞の戦争協力を自己検証する取材を共にし、樋田記者の人柄を知った。
 正義感は強いが、力まず事実だけを追うタイプだ。30年間も特命でこの事件の取材を粘り強く続けられたのは、彼だからだと思う。いまだに犯人は不明。樋田氏は朝日を定年退職した後も、犯人を追い続けると、その覚悟を淡々と記している。

 かつては「反日」という言葉は、テロ犯にしか用いられなかった。今はネットや雑誌などに氾濫する時代となった。排外的で攻撃的な空気に、今こそジャーナリストも市民も怯んではならない。そう考えさせられる書だ。
(岩波書店1900円)
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2018年04月05日

≪おすすめ本≫小川幸造・藤井 匡・前田 朗 編『語られる佐藤忠良 彫刻・デザイン・美術教育』─JCJ賞大賞のブロンズ像、その制作者の足跡をたどる=奥田史郎

 生涯職人≠自認した彫刻家=佐藤忠良さんの多彩な業績を各方面から探ろうと、企画実施された講座の記録である。

 第1部では、佐藤忠良の生涯をたどり、彼の彫刻の作品群を日本近代彫刻や西洋美術の造形史にどう位置づけるか試みられる。政策の姿勢は変わらぬと自称する忠良さんの作品も、時期により三つに分けられる。が、ロダンや朝倉文夫から連なる近代日本の新しいリアリズム潮流の中枢としての評価が提起される。
 日本ジャーナリスト会議(JCJ )が主宰するJCJ 賞の発足以来、大賞受賞者には、忠良さん制作のブロンズ像<柏>が贈られてきた。
 忠良さんは、また実に多くの絵本、表紙画、新聞小説の挿画美術の教科書などを残した。古くは戦中(1942年)に詩人の吉田一穂が編集者で、農村や港や船をテーマとした絵本を数冊描いている。戦後も「全農文化」「全蚕文化」など、働く人の雑誌の表紙絵を描き、船山馨の小説にはよく付き合っている。船山は札幌二中の後輩で、同じ絵画クラブのメンバーだった。
 70〜80年代にも、児童文学や絵本・装幀などの仕事は多い。そのうち最も有名なのが、『おおきなかぶ』で、50年以上も読まれているロングセラーだ。構図とデッサン力がしっかりしているからだろう。

 第2部は、忠良さんの弟子や東京造形大学で学んだ彫刻家たちによる、忠良さんの教え方・忠良語録がまとめられている。「普通の生活を大切にする」「自然をよく観察する」「制作活動は自分の歩速で休まず歩き続ける」など、一見、造形や美術と無関係に見えるが、教え子や後輩たちは「それを守ってきたから、今日の私がある」と述懐する。何より忠良さん自身が実践者だから、教育者として効果を発揮したのだ。
(桑沢学園3000円)

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2018年02月07日

≪おすすめ本≫ 太田昌克『偽装の被爆国 核を捨てられない日本』─「核の傘」という「幻想」にすがり、<唯一の被爆国>がかぶる仮面=倉澤治雄(科学ジャーナリスト)

 「『唯一の被爆国』をアピールして被害者面するな」
 そんな声がいずれ世界から沸き起こるだろうと、本書を読んで確信した。日本はまさに「偽装の被爆国」である。「唯一の被爆国」という仮面の下で、安倍政権が核不拡散に逆行する行動を取っている実態を、綿密な取材をもとに論証する。

 米国の「核先制不使用」に対する反対表明、核兵器禁止条約交渉への不参加、安易な原発の再稼働、47トンというプルトニウムの蓄積量、インドとの原子力協定、これらは一体何を意味するのか。世界が日本の核武装を警戒するのも当然である。
 すべては「核の傘」や「核抑止」という日本政府が固執する幻想から始まる。「核を持てば強くなる」「核を持てば侵略の意図を抑止できる」という幻想である。
 「核戦略」は、「相手も自分と同じように考える」─その前提をもとに成立する。「相互確証破壊」が良い例だ。しかし「同じように考えない」主体が核を持てば成立しなくなる。失うものがない勢力に「核の傘」や「核抑止」は通用しない。「核の傘」は「破れ傘」という「幻想」となる。

 私の父は広島で原爆投下の惨状を、高射砲部隊の一員として目の当たりにした。しかし自分の見たことを一言も語らず、6年前に他界した。「非人道的」な核の惨状に、言葉を失ったからであろう。
 「核戦力を背景にした恫喝と威嚇を続けるトランプに同調し、下手をすると、その強硬路線に加勢しているように映る」
 著書の懸念に、私は完全に同調する。核の緊張が高まる今こそ、日本は仮面を脱ぎ捨てる時が来た。
(岩波書店1700円)
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2017年12月23日

≪おすすめ本≫ 望月衣塑子『新聞記者』─記者は「傍観者でいいのか」この自問が事実に迫る原動力=斉加尚代(毎日放送報道局ディレクター)

 この時代に生きる新聞記者として「自分にできることは何か」を考え現場に向かう。菅義偉官房長官の会見で「東京新聞、望月です」と切り出し、舌鋒鋭く質問を畳みかけた女性の声を覚えている方は多いだろう。官邸記者の横並び主義に殴り込みをかけた社会部記者。

 その原動力を生い立ちから綴る著者は、ジャーナリスト志望の理由や仕事への思いを率直に記す。
 たとえば滑舌のよい凛とした声は、子ども時代に熱中した演劇で磨いた。徹底的に粘り強く聞く姿勢は東京地検特捜部を担当してスクープを放ち、特捜部から事情聴取を受けても書き続けたスタイルと繋がる。
 彼女にしてみれば積み上げてきた取材スキルを、「総理のご意向」と記された文科省文書に揺れる加計問題で発揮したにすぎないのだが、他の記者たちは彼女を批判、個人攻撃といえる中傷記事を放つ者すらいる現状に、読者は何を思うだろうか。大きな声援と渦巻くバッシング、そのストレスから体調を崩したことも。

 それでも彼女は権力の不正を告発する人々に向き合い、「自分の中で燃え盛ってくる。こうなってくるともう私のペース」と自身を突き動かす。多忙を極める取材と各地での講演、そして2児の子育てを担う姿は、ペンを手にしたアスリートを思い出す場面も多い。
 彼女が追い求めてやまないのは、権力が隠そうとする真実と国民が知るべき事実。傍観者でいいのか?と自らに問いかけ、個の記者の力を信じて現場に立つ望月記者。その思いを全国の記者が共有できたなら、暴走気味のこの国が少しはマシになるのではないかと思えてくる。(角川新書800円)
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2017年12月02日

≪おすすめ本≫松宮孝明『「共謀罪」を問う 法の解釈・運用をめぐる問題点』─市民生活の自由と安全を脅かす「戦後最悪の治安立法」の欠陥を暴く=菅原正伯

 「共謀罪」法案は今年6月に自民・公明などによって強行採決されたが、国民の内心を処罰し、監視社会をもたらす違憲立法への抗議は収まらない。本書もその一翼を担って出版された。

 全体の構成は大きく2つに分かれる。前半(T〜X)は、新設された「テロ等準備罪」と過去に廃案になった「共謀罪」とは本質的に同じであり、国連国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を批准するには「テロ対策」の国内法(共謀罪)が必要だという政府の言い分を逐条的に論破している。
 もともとTOC条約の目的自体、テロ対策ではなく、マフィアなどの国際的経済組織犯罪の対策であること、「2人以上の計画(合意)」という罰則要件では、一匹狼(ローンウルフ)型のテロには役に立たないことなども指摘、政府答弁の欺瞞ぶりが浮き彫りにされる。

 後半のハイライトは「共謀罪の解釈」(Y)である。共謀罪の規定である組織犯罪処罰法「6条の2」が徹底的に検証される。「組織的犯罪集団」のあいまいな定義、「共謀罪」の対象犯罪の恣意的な選定、「遂行を2人以上で計画した」時の組織の構成員との関係(構成員でない者も犯罪の主体になる)、正犯と共犯をめぐる予想される解釈上の混乱などである。
 逐条どころか逐語的に、条文の規定のあいまいさ、不備、齟齬を指摘。捜査や裁判の実務においても様々な混乱を生じる「欠陥法」であることを解明している。
 「市民生活の自由と安全が危機にさらされる戦後最悪の治安立法」に、敢然と対峙した入魂の書。
(法律文化社926円)
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2017年11月23日

≪おすすめ本≫木下ちがや『ポピュリズムと民意の政治学 3・11以後の民主主義』公共空間で実現してきた民主主義の危険性と可能性を省察する=吉原功(明治学院大学名誉教授)

 タイトルから感じられる予測に反し、本書は重厚な政治学・社会学書であり、腰をすえて読まないと理解に苦しむ。
 しかし社会運動の視点から現代日本の実像に鋭く迫り、私達の社会が抱える危険性と可能性を深く理解するための格好の書となっている。

 著者によれば「ポピュリズム」という言葉には民主主義の「危機」と「機会」の両義が含意される。それは「同じ社会的・経済的・文化的条件から生ずる」からである。
 より具体的には「第二次世界大戦後に作り上げられた社会経済的秩序の収縮、労働のフレキシブル化、生産のアウトソーシングを基軸とした、新たな階級分化とアンダークラスの形成」や「市場原理の席巻による個人主義の台頭」「安定的雇用・家族・コミュニティの崩壞」など、新自由主義が生み出した諸状況が、一方でトランプ米大統領やフランスのマリー・ルペンのような民主主義を危機に陥れるポピュリズムを生みだした。

 その他方で民主主義の「機会」を生むポピュリズムを育み、「抵抗の年」といわれる2011年以降の世界各地で展開された「大規模かつ民衆的な民主主義的政治運動」―エジプト・ムバラク打倒運動、米国のオキュパイ運動やサンダース支持運動などである。

 日本では3・11後の反原発運動、反秘密保護法運動、反安保法制運動など、従来とは異なった運動である。
「これらの運動がみな公共空間における大規模集会を志向し、実現してきたのは、多種多様な人々を『人民の集合体』に結実させ、かつて左翼・リベラル勢力が領有していた公共空間における陣地を奪還するため」と指摘されている。
(大月書店2400円)
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2017年11月09日

≪おすすめ本≫阿部 岳『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』 米軍ヘリパッド建設─反対する住民を暴力で排除する現場で闘う記者魂=鈴木耕(編集者)

 10月11日、沖縄県東村高江区の人家から、わずか300メートル離れた私有地に米軍の大型ヘリが墜落した。この事故を沖縄の記者たちは、どんな思いで受け止めたか? 本書の著者である「沖縄タイムス」の阿部岳記者の心の中は、あの高江だからこそ、煮えくり返らんばかりだったろう。

 那覇からは車で高速道路を使っても、2時間以上かかる沖縄本島北部の静かな村。その中心部から、さらに離れた高江という、わずか150人ほどが住む集落を取り囲むように、6カ所の米軍ヘリパッドが造られた。
 静かな住民の暮らしを根底から破壊するもの以外の何物でもない。しかも、あの危険な欠陥機オスプレイの訓練に使用されることすら、住民には事前に説明されなかった。当然、長い反対運動が始まる。

 沖縄県民でさえ聞いたこともないような僻地での孤独な闘いに、沖縄の記者たちは通いつめる。そしてそこで見たもの、体験したことこそ、初めて目にするほどの異様な「国家の暴力」だった。
 日本全国から投入された機動隊の荒々しさ。記者を拘束し、住民に「土人!」と罵声を浴びせ、抵抗者は逮捕。微罪で5カ月も長期勾留された山城博治さんの事例など、本書は「国家の暴力」そのものを抉りだす。

 私は阿部記者とは少し面識がある。冷静沈着で温和なジャーナリストだ。その著者がこれほど檄した文章を紙面に叩きつけざるを得なかったところに、沖縄の怒りと悲しみが見える。圧政とデマと偏見に抗して闘う記者魂に胸が熱くなる。
(朝日新聞出版1400円)
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2017年10月12日

≪おすすめ本≫平 和博『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』既存メディアへの不信が嘘ニュースや情報をはびこらせる=河野慎二

 虚実をないまぜにしたフェイク(嘘)ニュースが世界を席巻している。昨年の米大統領選では「ローマ法王がトランプ支持」などのフェイクニュースが、ニューヨークタイムズやCNNなど、既存メディアと同程度の拡散規模となり、トランプ氏を大統領に押し上げた。
 フェイクニュースの影響力は深刻だ。「児童性愛にヒラリー・クリントン氏が関与している」という嘘ニュースを信じた男による発砲事件(「ピザゲート事件」)が、ホワイトハウスに近いレストランで発生した。
 トランプ支持のフェイクニュースについては、ロシアからの発信疑惑が米FBIの捜査対象になり、トランプがFBI長官を解任するなど、国際謀略戦の渦中にある。

 今年春のフランス大統領選でも、フェイクニュースがマクロン候補を攻撃した。攻撃を仕掛けた一人は「ピザゲート事件」を引き起こすフェイクニュースを拡散したトランプ支持の人物だ。
 だが、右派勢力の野望は、フランスメディアの連携した報道によって打ち砕かれた。ルモンドやリベラシオンなど、34の組織が作ったファクトチェック機関の「クロスチェック」が、フェイクニュースがマクロン追い落としの決め手とした文書が偽造であることを突き止め、ネットで速報。極右のルペン候補当選を阻止した。

 日本でも今後、フェイクニュースの跋扈が懸念される。著者はフェイクニュースが氾濫する背景に既存メディアへの不信があると指摘する。
 ジャーナリストはその指摘を真摯に受け止め、チェック体制を整える必要がある。
(朝日新書760円)
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