2021年04月23日

【おすすめ本】フリート横田『横丁の戦後史 東京五輪で消えゆく路地裏の記憶』─土地の古老からじっくり横丁が紡いだ物語を聞きだす=南陀楼綾繁(ライター)

 東京は成立以来、つねにスクラップ&ビルドを繰り返してきた。この数年は、二度目のオリンピックを前に古い横丁や小路が姿を消しつつある。
 著者は毎夜のごとく、狭い通りにひしめくスナックや小料理屋で飲みながら、ママや常連客に昔話を聞く。
 そうした「夜の取材」 だけでなく、土地の古老に会って話を聞き、特殊な資料を読み込んで、この場所がなぜ生まれたかを探っていく。
 その横丁の探偵ぶりに唸るのは、第二章「在日 コリアンの横丁」だ。浅 草の国際通りに面した「焼肉横丁」のあった場所は、かつて十二階下と呼ばれた売春街(石川啄木も通った)だったが、 関東大震災で消滅。その空白地帯に終戦直後、戦災者の救済目的で木造長屋が建てられる。

 著者は、この長屋をつくった二人を歴史の闇から引っ張り出し、彼らが夢見たものを描く。同時に、同じ場所が在日コリアンの楽園になっていった事情を明らかにする。
 きれいだが面白みのない街に飽きたレトロ趣味の若者は、これらの横丁にずかずか入り込み、写真をネットに載せる。取材にもそういう暴力性があることを、著者は自覚している。それでも知りたいという業のようなものが、彼を突き動かしているのだろう。
 著者の視点は過去だけでなく、現在にも向けられる。池袋のチャイナタウンには、多くの中国人がSNSで情報を得てやって来る。そして、物理 的にも人間関係的にも「密」である飲み屋は、 コロナ禍を経てどうなっていくのか。過去を通して、横丁の未来を見据える一冊になった。(中央公論新社1500円 )
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2021年04月15日

【おすすめ本】榊原崇仁『福島が沈黙した日 原発事故と甲状腺被ばく』─「100ミリシーベルトの少女」 を通して被ばくの歪曲に迫る=鈴木 耕(編集者)

 調査報道のお手本のような作品である。著者は東京新聞記者。福島原発事故が起きたとき、石川県の北陸本社勤務。すぐに石川県の志賀原発は果たして大丈夫なのかと疑問を持つ。
 やがて東京本社特別報道部に移り、福島に通い始めて原発事故が抱える別の恐ろしさに突き当たる。それが子ども被ばく調査の闇だった。
 著者は情報公開制度を利用し、被ばく関連のあらゆる資料を請求し始める。そこで目にしたのは「100ミリシーベルトの少女」の存在だった。
 「甲状腺等価線量100ミリシーベルト」は政府も福島県も「甲状腺がんの発症リスクが増加する数値」と認めていた。その数値に達する被ばく少女がいたとすれば大問題だと著者は思ったが、なぜか埋もれたまま。その理由は何か。記者魂がうずく。

 著者は数万枚に及ぶ資料を、情報公開制度で入手し、根気よく丹念に読み込んでいく。資料から関係者を洗い出し、インタビューを申し込む。応じてくれる人もいれば、けんもほろろに拒否する人もいる。
 著者は挫けない。まるでミステリ小説のように、謎の薄皮を1枚1枚剥ぎ取っていく。そこから見えてきたのは歪曲と工作だった、と記す。
 スリリングな展開で謎は少しずつ晴れていくものの、立ちはだかるのは、やはり<巨大な組織>だった…。
 ミステリ小説には解決の結末が待っているが、残念ながら本書にはそんなカタルシスはない。隠蔽の謎はまだ手の届かないところにあるからだ。
 だから著者には、手を緩めずに、2発目3発目の弾丸を撃ち込んでほしい。(集英社新書900円)
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2021年04月08日

【好書耕読】「うちなーぐち」に耳を傾けて=石川 旺(JCJ賞選考委員)

 「島口説」(しまくどぅち)は、東京の池袋にあるパモス青芸館の開館にあたって、企画された北島角子主演の一人芝居。1981年に文化庁芸術祭賞優秀賞を受賞した。
 舞台は沖縄市の繁華街にある民謡酒場。そこの女主人の語りと歌と踊りで構成されてゆく。第一部では戦争から戦後にかけて一人の女性が直面した激動。第二部では基地に重くのしかかられた戦後沖縄の抵抗と闘いの歴史が描かれている。
 劇中では沖縄の古謡、民謡など多数が歌われ、また語りにも沖縄言葉(うちなーぐち)が豊富に取り入れられている。ささやかな個人の幸せが大きなうねりの中で翻弄される過程。続いて訪れた巨大で理不尽な力に対する人々の抵抗などが、柔らかな語り口や歌の中から次第に鮮明さを増して浮かび上がってくる。

 『謝名元慶福戯曲集 島口説』(ゆい出版)には代表作「島口説」をはじめ「美ら島」、「命口説」など六本の戯曲を収載。著者は「島口説」を二晩で書き上げたという。沖縄で生まれ育った著者の情念が噴出し、突き動かされた時間であったに違いない。
 セリフを書くとき、声を出す癖がある著者は「島口説」執筆中に自分の声が北島さんの声になり驚いたと述べている。また彼は劇作家としてだけでなく、映像作家としても優れた報道活動をしている。
 2018年3月、土木技術者の北上田毅氏が沖縄防衛局による大浦湾のボーリング調査の結果を情報公開で入手。湾内に豆腐のような軟弱地盤があることを発見した。

 謝名元氏は6月にドキュメンタリー・シリーズ「美ら海辺野古」で北上田氏を取材し、軟弱地盤の存在を広く訴えた。しかし中央の大手メディアは動かず、9月の県知事選挙に傾注し、12月には土砂投入による不可逆的な環境破壊が開始されてしまった。大手メディアは翌19年になって、ようやく軟弱地盤を報じ始めたのだ。
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2021年03月20日

【おすすめ本】秋山信一『菅義偉とメディア』─菅の<番記者>が赤裸々に暴く政治取材現場の実態=藤森 研(JCJ代表委員)

 「権力は快感」―菅義偉が口にした言葉を副題並みに扱うオビはどぎついが、内容は客観性を重 視した冷静な報告だ。菅の官房長官最後の一年を「番記者」として見てきた毎日新聞記者の著。
 政治取材の現場ルポの面白さが満杯だ。会見前 の当局による記者への「問取り」(もんとり)、曖昧な回答に記者が質問を重ねる「更問い」(さらとい)、会議室の「壁耳」、長官番のみが許される「ぶら下がり」。こうした“番記者文化”は 癒着に映るものの、著者 は「『オフレコ懇談』だから本音が何でも聞けるというような甘い世界ではない」とも書く。
 もちろん、「少しでも菅と関係を築きたい」と、更問いを控える記者が多いことも遠慮なく書く。 政治家と継続的な関係をつくらなければならない政治部記者が、批判的な姿勢を失っていく危険性を強く警告するのは、著者の“本籍”が外信部で政治部記者を観察する立場に立てたからだろう。

 さて菅とはどんな人物か。著者が挙げる第一の 特徴は「説明能力不足」だ。本心を明かさない面もあるが「そもそも性格がシャイだ」と著者は見ている。メディアとの関係では、安倍前首相とは違って、懇意なメディアを 優遇したり批判的な記者に怒って当たったりするようなことはないという。
 では首相にふさわしいか?「そうは思わない」というのが著者の結論。 リーダー性や語りかける力、未来社会を描く力はいずれも「感じなかった」という。菅は「権力は快感」という言葉を漏らした。著者は「重圧の中で政策を進める快感」だと解釈したが、その当否は、読んでみた上でのそれぞれの判断であろう。(毎日新聞出版1200円)
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2021年03月15日

【おすすめ本】俵 義文『戦後教科書運動史』─憲法改悪と教科書攻撃は一体となって襲ってくる!=鈴木敏夫(子どもと教科書全国ネット21代表委員・事務局長)

 昨年の中学校教科書採択で、育鵬社など「新しい歴史教科書をつくる会」系の社会科教科書が激減したのは、著者が名づけた「第三次教科書『偏向』攻撃」での、市民・教職員などの運動の歴史的な勝利であり、今後の教育と 教科書を巡る現代の「教科書運動史」に新しいページを開いた。
 本書は、長年この運動 の最先端で活動してきた教科書全国ネット21の前事務局長・俵義文氏が、大学の教職課程での講義を軸に、これまでの著作も生かして、戦後の教科 書運動史として執筆・構成したものである。
 なお書名が「戦後教科書運動史」となっているが、戦後の運動の理解のため、戦前までの教科書制度と教科書の歴史について、全15章の最初の第1章を宛てている。

 著者は「教育や教科書 の改善とそれに対する反動=教科書攻撃と国家統制の強まりが繰り返されてきた」なかで、杉本判決を引き出した家永教科書裁判の運動は、教科書改 善にとどまらず、教育を子どもの学習権にそって改善させる大きな成果だと指摘している。
 特に教科書出版関係の労働者や組合の活動が大きな役割を果たし、労働組合運動を「鍛えた」との記述があるのも、出版出身である著者ならではの叙述だ。
 「教科書攻撃は日本の 再軍備問題と憲法改悪の動きが強まったときであり、軍国主義路線、憲法改悪と教科書攻撃はいつも一体のものとして出てくる」と著者は述べる。 昨今の状況をみると運動を担い、リードしてきた著者のこの言葉は重い。
 子どもの教育や教科書問題に関心のある人々だけでなく、国が教育統制に奔る危機を感ずる多くの人々が読んでほしい。(平凡社新書1600円)
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2021年03月08日

【おすすめ本】平野雄吾『ルポ入管 絶望の外国人収容施設』─人権の「無法地帯」の不条理を暴く=菅原正伯

 成田空港など送迎客でにぎわう国の玄関口に、こんな深い闇が潜んでいようとは思いもよらなかった。
「絶望の外国人収容施設」という副題は、誇張 でも何でもない。まさにその通りである。
 2014年、カメルーン人男性が医師の診察を受けられず、東日本入管センター内で死亡。2018年、同センターでインド人男性が自殺。翌年には、大村入管でハンスト中のナイジェリア男性が餓死した。背筋の凍る事件が続発している。

 本書は、在留資格のない外国人(非正規滞在者)を収容する入国管理施設の非人道的な実態を報道してきた共同通信記者による渾身のルポ。
 長年、日本政府は、非正規滞在者を治安対策として扱い、入管施設は強制送還を促進するための密室となっている。
 指示に従わない収容者を数人の職員が組み伏せ手錠をかけ暴行する「制圧」や、3平方メートル の狭い部屋に閉じ込める「隔離措置」など、暴力 が日常的に施設を支配。体調が悪化しても「容体観察」と見守るだけの医療放棄により病死した例もある。

 こうした非人道的な対応が放置されている背景に、著者は「外国人の受 け入れは国家が自由に決められる」「外国人の基 本的人権は在留制度の枠内で与えられる」とした40年以上前の最高裁判決があると指摘。
 日本の入管体制の原型が植民地支配と冷戦の産物であり、在留の資格・ 期間での厳格な外国人管理、行政庁の自由裁量による強制退去、無期限の入管収容など、50年間変わらぬ入管の「無法」を告発している。(ちくま新書940円)
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2021年02月27日

【おすすめ本】田中優子『苦海・浄土・日本 石牟礼道子もだえ神の精神』─声なき声を聴きとって書く、苦界にある命の代弁者=米本浩二(作家・石牟礼道子資料保存会研究員)

 1952年生まれの著者は、大学一年のとき、 石牟礼道子『苦海浄土』(講談社)と出会い、「この世にこういう文学があったのか」と震撼したという。
 以来、半世紀にも及ぶ道子への旅≠言語化したのが本書である。
 他人の辛苦を、わがものとする「もだえ神」たる道子の人物論、作品論を中心に展開している。
 狂気の祖母おもかさまとの日々や、「もうひとつのこの世」を求めた水俣病闘争などをたどりつつ、経済原理優先の社会と対峙した道子の生涯を浮き彫りにする。

 島原・天草一揆を描く『春の城』で、道子は天 草四郎を切支丹の先頭に立って闘った英雄としてではなく、虐げられた人々の哀しみ、憤りに寄り添う「もだえ神」とし て書いた、という。
 <四郎が、キリストのやつしなら、『苦海浄土』 における石牟礼道子は、四郎のやつしともいえる>
 道子や四郎が標榜する「もうひとつのこの世」は、現世では実現しないものだ。では絶望しかないのか。そうではあるまい。『春の城』の闘いや水俣病闘争は語っているはずだ。
 <理不尽に自分たちの生活を搾取するものに対して、否を突きつけ続ける抵抗の中にこそ、刹那の解放と希望がある>と。

 石牟礼道子とは何か。後半、著者は<その正体が最近少し見えてきた>という。<声なき声を聴き取って書く。いわば苦界にあるいのちの代弁者である>という認識だ。
 <道子さんがたたずんだいくつもの渚の風景をもっとお聞きしたかった>という、著者の道子への旅は、これからもつづくのだろう。
(集英社新書880円)
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2021年02月24日

【おすすめ本】宇野重規『民主主義とは何か』─改めて確認すべき大事な「参加と責任のシステム」=常世田 智(編集者)

本書の刊行は昨年10月、まさに日本学術会議会員の任命拒否問題が騒ぎになった時期である。
 著者が渦中の会員候補6人のひとりと知って、本書を手に取った方も多いのではなかろうか。出版のタイミングは偶然とはいえ、本書の内容は、はからずも安倍・菅両政権への批判となっている。
 現代は民主主義がさまざまな危機に直面している時代、と著者はいう。ポピュリズムの台頭、独裁的指導者の増加、第四次産業革命とも呼ばれる技術革新、そしてコロナ危機などだ。
 「民主主義の国」アメ リカにおける大統領の暴走と深刻な国民分断は、だれしも思い当たるところだろう。

 しかし本書によれば、民主主義は2500年以上の歴史の中で何度も試練や批判にさらされ、それを克服しきたという。古代ギリシアで「誕生」し、近代ヨーロッパへと「継承」され、自由主義 と「結合」、そして20世紀における「実現」へという流れを、プラトンからルソー、トクヴィル、 丸山眞男に至るさまざまな論考の紹介とともに解説してゆく。
 その語り口は穏やかで過不足なく、「民主主義の教科書」としての魅力を際立たせている。
 だが本書の真骨頂は、そうした歴史を貫くキーワードとして、「参加と責任のシステム」としての民主主義を強調している点だろう。
 自分たちの社会の問題解決に参加すること、それを通じて政治権力の責任を厳しく問い直すことが民主主義にとって不可欠の要素、と著者は訴える。
 そこにこそ、いまの政権が著者を忌避した真の理由があるのだと思う。
(講談社現代新書940円)
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2021年02月18日

【おすすめ本】春名幹男『ロッキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス』─米国の軍産複合体が仕掛けた恐るべき細工の全貌を明かす=萩山 拓(ライター)

今から45年前、明るみに出たロッキード疑獄。全日空の新型旅客機トライスター購入を巡り、米国ロッキード社が、巨額のカネを日本の政治家や商社役員、「政商」小佐野 賢治らにバラまいた贈収賄事件である。
 これまで米国側の秘密文書が公開されず、日米の根幹に絡む「巨悪」の 闇は放置されてきた。その結果、数多くの陰謀説が流されてきた。
 その経緯を巡り、国際ジャーナリストである著者が、米国立公文書館などの記録や資料を精読、15年に及ぶ調査と取材によって、真の「巨悪」の 正体をあぶりだし、その訴追が阻まれてきた理由に迫る。

 なぜ田中角栄は逮捕され葬られたのか?「日中国交正常化」など独自の「角栄外交」を嫌った米国は、田中角栄とキッシンジャー国務長官との対立が激化するにつれ、角栄の訴追へ導く「ある細工」が準備される。
 それはロッキード事件の捜査文書5万2千頁のうち、「Tanaka」と記された証拠文書2860頁分のみ、日本の東京地検特捜部に渡し、角栄を逮捕させ、真の「巨悪」を隠 す細工であった。
 しかも、この「巨悪」 は、ロッキード社が主眼としていた対潜哨戒機P3−Cの売り込みにも暗躍し、さらには2年後に発覚する軍用機導入を巡る、ダグラス・グラマン 疑惑にも絡むのだが、訴追を逃れてきた。
 著者は<第3部:巨悪の正体>で詳述しているが、元A級戦犯・戦後右 翼のフィクサーとして政財界に隠然たる影響力を行使した人物と指摘。
 本書は、600頁に及ぶ書下ろし。戦後一貫して日本を覆う米国の「安保利権」の裏側と謎の解明が鮮やかで、一気読みできる力作。(KADOKAWA2400円)

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2021年01月28日

【おすすめ本】奥村皓一『米中「新冷戦」と経済覇権』─「経済2大国」の対立と抗争、その要因・実態を深く分析する=栩木誠

新型コロナ禍の世界規模の感染拡大で深刻さを増す世界経済。さらに大きな不安定要素になっているのが「経済2大国」 米国と中国の対立の深刻化だ。再選に失敗したトランプ米大統領によって演出された、米中「新冷 戦」の深層を解明することが本書の眼目である。
 第二次世界大戦後、長期に続いてきた米国主導のパクス・アメリカーナの構造は、いま音を立てて崩れつつある。その対立軸として急速に台頭してきたのが、経済や科学技術など各分野で急成長を遂げてきた中国。
 2030年代には、GDP(国内総生産)でも中国が世界一になると推測されるほどである。一方で、「新旧2大経済大国」は、競争的依存関係を深めてきた。
 ハイテク産業はじめ各分野で「呉越同舟」の関 係から脱却が極めて困難な中でも、「軍事力さえちらつかせつつ、醜い国際政治対決劇を演じる」両国の事態を掘り下げる。

 複雑骨折する状況が生み出される背景や要因について、本書は「米中覇 権競争と多国籍企業」や「勢いづく軍産複合体」など、5つの側面から詳細に分析している。バイデンに政権移行しても、現下の状況が急展開する可能性は小さい。 
 「EUはじめ世界から米中は醜い経済覇権抗争を超えて、新型コロナウイルス、気候変動、再生 エネルギー、宇宙開発の人類・地球救済の課題に挑戦し、ハイレベルの協力関係に戻れとの圧力が強まっている」と、本書は指摘する。
 私たちの日常生活にも大きな影響を及ぼしている米中両国の暴走を食い止める力は、「核兵器禁止条約」の発効を実現させたような、平和と民主主義を希求する世界の人々の声であり、行動である。
(新日本出版社2800円)
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2021年01月14日

【‘20読書回顧】 今こそ「公助」で人の命を守るとき! =吉田千亜(`20JCJ賞受賞者)

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政治家の会見で飛び出る言葉や造語は戦時中のスローガンのようだ。裏づける思想や哲学のない言葉の薄っぺらさは、市井の人の命や尊厳を軽んじることに起因する。コロナ禍だけではなく、原発事故後も感じたことだ。精神論と個人の努力のみで命は守れない。
 松沢裕作『生きづらい明治社会―不安と競争の時代』(岩波ジュニア新書)は、そんな時に出会い読んだ。とても読みやすいが重要な点を指摘している。明治社会というよりも、「自助・共助・ 公助」と言いながら、徹 底的に「公助」に欠ける現代を詳らかにしている。
 原発事故でも、コロナでも、真っ先にその影響を受け、命を脅かされ生活困窮に陥ったのは、弱い立場にいた人々だ。しかし、生活困窮は本人の努力が足りないせいで、「自己責任」にしてしまう風潮がはびこる。そしてまっとうな公助もないなか、民間支援団体が奔走し、疲弊している。

 本書で書かれている「通俗道徳」は、「頑張れば必ず成功する」という信念だ。悪い考えと思う人は少ないのかもしれない。しかし、それは貧困 に陥った弱い立場の人々に、冷たい視線を投げるのを正当化する「ワナ」 でもある。そして、それ は現代に受け継がれてしまっている。
 権利としての「生活保護」を受ける人々を非難し、「大変なのはお前だ けじゃない」と思うこと。そして、自らも「生活保護」は受けたら恥ずかしいと捉えること。これは原発事故の賠償の際にも見られた現象だ。
 努力で困難を乗り越えろというのは、人を殺すのだと言い続けたい。原発事故でもコロナ禍でも、その理屈を政治が一部の人に率先して押しつけている。

 どんな人にも生きる権利がある。頑張る・頑張らないに関わらず、公助が必要な場面があり、公助で守られるべき命がある。「通俗道徳」を消し去るには、思想と哲学に裏付けられた温かい言葉の力しかないと、改めて感じている。
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2021年01月11日

【‘20読書回顧】 凄まじい情報戦とフエイクとの闘い=香山リカ(精神科医)

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2020年は世界を新型感染症が襲い、当初は「世界 はひとつになって立ち向かうだろう」などと希望的な観測もあったが、そうはならなかった。それどころか日本国内を見ても、未だにこのウイルスの威力だけでなく存在すら否定する識者がいる。
 アメリカでは大統領選挙が行われたが、トランプ大統領自身が敗北を認めず、民主党の不正選挙を訴えるなど、そこでも混乱が深まっている。
 ネットが普及し情報が手に入れやすくなっているのに、逆に誰もがフェイクニュースに惑わされ何を信じていいのかわからなくなっているのだ。

 しかしこの状況は今にして始まったわけではない。私にとっての今年の一冊は、キエフ出身のジャーナリスト、ピーター・ポメランツェフ『嘘と拡散の世紀』(築地誠子ら訳、原書房)によると、ネットでのデマや作り話を駆使した情報戦は、すでに20年も前から画策されており、そこから生まれたのがプーチンでありトランプであるという。
 著者はもはや、「なぜ事実は無意味になってしまったのか?と問うのではなく、そもそもなぜ事実に意味があったのか?と問うべき」段階に来ているという。「(事実の)重みを放り投げて、辛気臭い現実にざまあみろと言ってやることには、ある種の子供じみたよろこび」があり、プーチンやトランプこそ「現実が突きつける束縛からの解放」のよろこびを与えてくれる存在、と言うのである。
 もちろん、著者はそれをよしとしているわけではないが、本書で著者が世界の現場で取材した情報戦のすさまじさを知ると、コロナも民主主義も最も重要なのはフェイクニュースとの闘いだということがわかる。

 今年、もう一冊、感銘を受けたのは、元ミュージシャンの作家ゲイリー・ラックマン『トランプ時代の魔術とオカルトパワー』(安田隆監訳、ヒカルランド)だ。タイトルからして怪しい本のように思われそうだが、信仰がベースになったポジティブシンキングや保守思想がトランプ大統領を生んだ経緯がよくわかる。こちらも必読だ。
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2021年01月02日

【おすすめ本】 ちゃんへん.著 木村元彦構成 『ぼくは挑戦人(ちょうせんじん)』―「切ない凄い面白い」3拍子そろう世界的パフォーマーの行動力=鈴木耕(編集者)

 読後感は3つ。最初は「この話、切ない」、二番目は「この男、凄い」、そして最後は「この本、面白い!」である。ほぼこれに尽きるが、それじゃ書評にならない。3つの中身に触れてみよう。
@この話、切ない。
 著者「ちゃんへん.(金昌幸」の生まれは京都府宇治市ウトロ地区。戦前に朝鮮から渡来した人たちが集まり暮らし始めた場所。つまり著者は在日朝鮮人で、小学校では「岡 本」と名乗る。しかしなぜそうしなければならないのか、幼い彼には理解できない。理解できないまま壮絶なイジメにあう。
 だが著者は祖母と母の庇護の下、真剣に自分の生き方を掴み取る。それがヨーヨーとの出会い。母と祖母の鮮烈な魅力が生き生きと描かれ、切ないが胸を打つ。
Aこの男、凄い。
 ヨーヨーにはまった著者は、次にジャグリングに挑戦。めきめき上達し中学3年で単身アメリカへ渡り、パフォーマンスコンテストに出場し、金メダルに輝く。
 だが渡米に当たって国籍問題が家族に大きな亀裂をもたらす。中学生に国籍選択という非情を押し付ける国家。それを克服する少年の強靭な魂。そこから世界的パフォーマーへの道を切り拓いていく過程は「挑戦人」というタイトルそのまんま。
Bこの本、面白い。
 著者の行動力は凄い。ブラジルや南アのスラム街で公演。マイケル・ジャクソンや金正恩など超有名人たちと出会うエピソード。中東問題すら身体で理解しようとする姿勢。自らのルーツを訪ねて南北朝鮮を旅し、さらに中国からサハリンに脚を伸ばす。
 まさに圧倒的な行動力、息もつかせぬ展開。面白い!としか言いようがないじゃないか。
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2020年12月28日

【おすすめ本】 北野隆一 『朝日新聞の慰安婦報道と裁判』―右派が起こした裁判の経過と慰安婦問題の本質を徹底検証する=上丸洋一(ジャーナリスト)

  日本軍「慰安婦」とす るため、韓国・済州島か ら女性を、強制連行したという吉田清治氏(故人) の証言は「虚偽」だった─という問題を、朝日新聞が2日連続の特集紙面で検証したのは、2014年8月のことだ。
 特集の取材、執筆にあたった記者の一人である著者は、慰安婦問題の経緯だけでなく、特集紙面掲載後に右派グループなどが起こした裁判の経過を辿り、問題の所在を明らかにする。
 慰安婦問題を語る本は多いが、本書の特徴は裁判での右派の主張を記録するのに加え、集会や街頭演説などでの右派の言葉を、現場に出向いて丹念に集めていることだ。朝日新聞を「敵視」する 人たちに著者は粘り強く密着する。

 なかでも驚いたのは、右派グループの弁護団の一人が、集会でこう語っていたことだ。
 「あの当時、(朝鮮) 半島は日本帝国の一部だったんじゃないですか。そうすると帝国憲法が施行されていたはずなんです」
 だから朝鮮の人々も、同じ「日本臣民だったはず」だと続くのだが、い やいや、植民地朝鮮に帝国憲法は施行されていない。これは議論の余地のない、近代史の常識である。
 弁護士がそんなことも知らないのかとびっくりしたが、見方をかえれば歴史を学んでいないからこそ、歴史歪曲に加担することに、つながるのだろう。
 朝日新聞の特集紙面について、他の全国紙が激しく攻撃したことも記憶に新しい。当時の各紙論調がどうであったか、いずれか、その検証も読んでみたい。(朝日選書1900円)
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2020年12月17日

【おすすめ本】方方著 飯塚容+渡辺新一訳『武漢日記 封鎖下60日の魂の記録』─地元の女性作家が圧力にめげず、弱者に寄り添い告発する真実=永田浩三(武蔵大学教授)

 中国で真実を語るのは困難だとよく語られる。しかし本当にそうか。本書は、ひとりの女性作家が、封鎖された都市で2ヶ月にわたって熱い思いをブログに綴り、世界に発信した籠城記だ。
 方方は2歳から今日まで62年間武漢で暮らす生粋の武漢人。長江に面し東洋のシカゴと呼ばれる人口1100万の巨大都市で、ウイルスは猛威を振るった。一家全滅もあり、団地の階段から遺体を担いで下ろす警察官は涙をこぼした。市民の多くは心に傷を負った。
 著者の批判の矛先は、感染爆発を隠蔽する党幹部やメディアに向かう。「職務怠慢の連中に対して、私たちは追及の手を緩めてはいけない」。
 ヒト―ヒト感染を最初に内部告発した医師は死んだ。市民は「遺された 家族や子どもは我々が面倒を見るぞ!」と叫び、 亡くなった時間に灯りを消し、夜空に向かって懐中電灯やスマホの光の束を送り追悼した。心の深くに沁みる光景だ。
 ブログは、何度も削除され閉鎖されたが、読者たちは消される前にコピーし拡散した。検閲をしのぐネットワークが生まれた。「私たちはネット空間に場所を作り、一緒に大泣きしよう!」
 黙ってはいられない。発信をやめるものか。「沈黙は虚言に等しい」とのヴィクトル・ユーゴーの箴言が著者を励ました。
 小説家とはどんな存在なのか。方方はこう定義する。落伍者、孤独者、 寂しがり屋に、いつも寄り添うもの。溺れかかった時に縋る小枝。決して強者、勝者のものではない。これはジャーナリズムとも重なる言葉だ。
 第3波に翻弄される日本において、孤立や排除ではなく、弱い人を守り共に生きのびるための必読の書だ。(河出書房新社1600円)
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2020年12月07日

【おすすめ本】 辻元清美『国対委員長』―「民主主義を守る歯車」としての自覚=星浩(『NEWS23』キャスター) 

 国会対策委員長は交渉事のまとめ役だ。与野党が全面対決した時の折衝から部屋割り、公用車の配分まで。本書は、「一 強」を誇った安倍政権下で野党・立憲民主党の国対委員長を2年間務めた辻元清美氏の奮戦記だ。
 自民、公明両党が圧倒的多数を握る中で、野党が政権与党に対抗するのは容易ではない。辻元氏は、野党を束ねたうえで「調査力と論戦力」で政権側を追い詰めるしかないと思い定めた。労働法制の規制緩和問題では、野党側が地道な調査を重ねて政府の法案に矛盾があることを指摘。法案の一部を撤回させた。
 森友問題の公文書改ざんをめぐる攻防の舞台裏も生々しい。国会が改ざん前の「ウソの文書」に 基づいて審議を続けていたことには、自民党議員からも憤慨の声が寄せられた。一方でネット上では辻元氏を誹謗中傷する書き込みが続出する。
 それでも辻元氏が戦い続けたのは「国対委員長は立法府を支える柱、民主主義の歯車だ」という自負からだという。国会は憲法で「国権の最高機関」と位置付けられているが、安倍政権下では野党が憲法に基づき臨時国会の召集を求めても無視し、安倍首相が野党の質問にヤジを飛ばすなど、国会軽視が繰り返された。菅義偉政権でも、日本学術会議の会員任命拒否問題では国会への説明責任を果たしていない。
 「行政府と立法府との緊張関係を保ち、与党野党がお互いの立場を尊重し、オープンで公平な議論が展開できる、そんな国会を実現する」という理想に向けて辻元氏の奮闘は今後も続く。(集英社新書900円)
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2020年12月04日

【おすすめ本】 宇田有三『ロヒンギャ差別の深層』「ムスリムとして生きる」権利を蝕む差別への深い考察=藤井満(元朝日新聞記者) 』  

 国際政治や民族・宗教・差別の問題を現実から学べる教科書のような本に仕上がっている。
 ミャンマーからバングラデシュに流出したロヒンギャ難民は、「民族紛争」「宗教迫害」と報じられたが、そうした見方こそが問題を深刻化させたと著者は批判する。
 ロヒンギャの人々は、「ロヒンギャ民族」ではなく「ムスリムとしてのロヒンギャ」と自らを位置づける。だが国際社会が「民族浄化」などと批判することで、ロヒンギャの一部が民族性を主張し、同じ地域に住む仏教徒との対立が生じた。
 ロヒンギャ問題の原因は、軍事政権が「仏教徒としてのミャンマー人」への同化政策を進め、ムスリム差別を刺激したことと、ロヒンギャを「バングラからの不法移民」と規定したことにあるという。その結果、ロヒンギャへの差別は、民主化運動で軍政と対峙した人びとにも浸透した。
 アウンサンスーチー氏は、ロヒンギャ問題で人権団体から強く批判された。著者はスーチー氏を「人権活動家ではなく政治家」と評する。彼女は現実を改善するためには軍とも妥協するが、いま「ロヒンギャの人権」を叫んでも事態が改善しないのは目に見えている。
 軍政以来の差別を見すえ、正しい情報を広め、少しずつ解きほぐすしかない。それができるのは、人気と政治手腕を兼ね備えるスーチー氏しかないと著者は見ている。
 日本では、「インパール作戦」「泰緬鉄道」は有名でも、現地人の犠牲には言及されない。日本軍が仏教徒を、英軍がムスリムを自軍に引き入れることで、ムスリム差別の一因を作ったことも報じられない。ロヒンギャ問題は日本の報道の歪みも露わにしている。(高文研2500円)
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2020年11月13日

【おすすめ本】 南彰『政治不信 権力とメディアの関係を問い直す』―変質する権力に抗う取材の再構築を=藤森 研(JCJ代表委員)

本書の内容は、首相会見、メディアとジェンダー、テレビの現在など多岐にわたるが、貫く問題意識は明確だ。権力の変質に古い取材慣行が対抗し得ていない現状を、どう建て直すか、である。
 権力の変質とは、行政改革の末、安倍政権で完成した官邸一極集中だ。ネット化が進み既存メディアは特権を失って力をそがれている。この機をとらえ、為政者は分断・攻勢に出ている。
 たとえば内閣広報官の権限強化だ。菅官房長官会見で果敢な質問をする東京新聞・望月衣塑子記者に対し、当局は質問妨害も辞さなかった。ネット等のメディアを選別する首相の単独インタビューは、読売紙上での改憲表明の事態まで生んだ。
 これに対し報道側は旧態依然。望月記者の頑張りに「官邸側が機嫌を損ね、取材に応じる機会が減っている」と困惑する官邸クラブ員さえいる。
「夜回りなどのオフレコ取材で特定の記者を排 除するよう言われた」記者も少なくない。権力から情報をいただくことに慣れたメディアは、 政権の攻勢に受け身一方だ。
 どうすべきか。「馴れ合い」とも映る夜回りや懇談で、情報をねだる旧来の取材慣行を見直し、公的な記者会見で情報をきちんと出させる。質問制限には団結して闘う。そうしたジャーナリズムの姿勢を再構築することが今、大切だ。
 著者自身、かつては官房長官会見で望月記者の同志として、その後は新聞労連委員長として、それを実践してきた。朝日新聞政治部に戻り、前線復帰の著者の活躍も期待させる書だ。
(朝日新書790円)
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2020年11月05日

【おすすめ本】 早川真『ドキュメント武漢 新型コロナウイルス封鎖都市で何が起きていたか』―封鎖直前の武漢に入り、コロナ猛威の実像を追う=杉山正隆(歯科医師・ジャーナリスト) 

 世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。最初に流行が確認された中国・武漢市に、都市封鎖がなされる直前、著者は共同通信の記者として取材に入った。
 情報が錯綜するなか、住民の心の変化やパニックにつながっていく動きが描かれ、コロナ禍の市場や町を行き交う人たちの、悲痛な叫び声までが聞えてくる。現地にいたからこその日常の光景を交えた内容は、まさに迫真のドキュメントだ。
 当初はすぐに収束するだろうと軽視されていたが、病院に大行列ができ大勢の命が治療も受けられず亡くなる事態は、あっという間だった。初期の隠蔽がウイルスの猛威を生むことになった。
私も著者同様、年末から年始にかけ、民主化運動を取材するため、香港そして台湾を訪れていた。正月明けには「武漢で感染爆発が起きているらしい」「香港も危ないかも」との声を耳にした。感染症に30年近く携わってきた私の経験から「もしかしたら」と、非常態勢を採ったものだ。
 本書では中国での初動の遅れ、混乱ぶりが明らかにされているが、日本政府の動きもまた、あまりにも鈍かったことを示唆している。
 著者は7月に再度、武漢を訪問している。ほぼ平時に戻ったとされてはいるが、「陰性証明」をめぐって振り回される人々の姿は、コロナ禍も以前とは異なり、「ニューノーマル」の時代に入ったのだと思い知らされる。
 武漢の初動の遅れを、反省を含めて学び、感染対策や情報開示など、我々が冷静に考え向き合う上でも糧となる本だ。
(平凡社新書820円)
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2020年10月24日

【おすすめ本】 山田朗『帝銀事件と日本の秘密戦』―事件捜査の裏で軍の「秘密戦」を隠蔽=菅原正伯 

 冤罪事件として知られる帝銀事件だが、では、12人もの銀行員たちを青酸化合物で毒殺した真犯人は誰だったのか。犯人の手際のよい毒薬の取り扱いや慣れた殺害のやり口から、捜査本部は旧軍関係者の関与を疑った。
  本書は、その捜査本部の全報告を克明に記録した警視庁捜査第一課・甲斐係長の膨大なメモ(甲斐手記)を整理・分析し、捜査過程を検証した。
 その結果、旧軍には陸軍を中心に毒物を扱う20以上の秘密戦を行う軍機関・部隊が存在し、戦時中、中国大陸で生きた人間(捕虜や住民)を細菌や毒物の実験材料にしていたこと等が、地を這う捜査で明らかとなる。
 だが警察の捜査は大きな壁に直面する。捜査と同時進行で、GHQと旧軍関係者の間で、秘密戦部隊の元隊員を戦犯にしないとの交換条件で、秘密戦の詳細データを米軍に提供する隠蔽工作が進められたからだった。
 隊員たちの口止め工作を先導したのは、秘密戦の総元締め・参謀本部の有末精三中将と七三一部隊の石井四郎部隊長。著者は捜査の焦点をそらす彼らの証言を歴史学者の目で冷静に指摘する。
 捜査が難航したもう一つの壁は、意外にも捜査陣の通常捜査の「盲点」だった。物証が少ないなか「年齢五〇歳前後」「白毛まじりの短髪」という目撃情報が、一人歩きし た。秘密戦の隊員にとって、「変装」は必須の技 術であり、年配者に化けるのは容易だった。これは著者独自の指摘。
 戦後史の深い闇を垣間見せる検証結果の内容だが、事件後、ほどなく日本は再軍備への逆コースに向かう。(新日本出版社2000円)
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