現代の日本社会が抱える大きな課題の一つが「孤独」・「孤立」だ。近年、日本社会では、新自由主義的価値観のもと、人々が〈自己決定/自己責任〉の論理の中に組み込まれてしまっている。その結果、他者との間の結び付きも分断され、経済的・精神的に「ひとり」となった多くの人々が貧困やストレスによって疲弊しているように思われる。
こうした社会の姿を映し出しているのが刑務所であると言える。現在、刑務所では、社会において居場所を失い「ひとり」となった多くの高齢者や障がいのある人達が「結果的に」収容されてしまっている状況が見られる。
本書において、著者は、女性刑務所に焦点を当てて、「塀の中」に大きく映された「塀の外」の真の姿を克明に描写している。女性刑務所の現状は、日本社会において女性を取り巻く構造的な格差が存在していることをも示唆している。男女間でケア責任・雇用形態・賃金などの不均衡が依然としてあり、著者の専門である社会保障の見地からも問題点が指摘される。こうした構造的な問題が、女性の、とりわけ「おばあさん」の「孤独」・「孤立」の背景にも見られることを丹念な取材から浮き彫りにしている。
著者は、女性刑務所の様々な受刑者や刑務所職員へのインタビューを通じて、受刑に至った事情などを明らかにしている。刑務所内で当事者の声を直接聞くという大変貴重な取材の結果が示されている。
我々がこうした「生きづらさ」を抱えた日本社会を変えていくためにも、是非、本書を読んでいただきたい。(角川新書940円)
2023年06月18日
【おすすめ本】大山眞人『瞽女(ごぜ)の世界を旅する』─<盲目の女旅芸人>に寄り添い訪ね歩いた四季折々の旅=渡辺裕子(瞽女ミュージアム高田)
テレビを付けると「今日は盲導犬の日」(4/26)だと、その意義を伝える映像が流れてきた。1900年代初頭のヨーロッパで盲導犬の育成が始まり、それを記念して定められたという。
さて1900年代といえば日本は明治時代。その時代に、瞽女(ごぜ)という盲目の女性旅芸人がいた事実を知る人は、どの位いるだろうか。瞽女とは三味線を携え音曲を奏で喜捨の旅で生計をたてていた、盲人女性の職業名である。瞽女の起源は古く室町時代まで遡れる経緯まで知る人となれば、極めて少ないであろう。
本書で詳述される上越高田の地に生きた高田瞽女の歴史は、江戸時代に始まり昭和まで続く。筆者が縁あって高田瞽女を紹介する仕事に就いたとき、手にした本が本書の著者が刊行した「高田瞽女三部作」だった。光を 失った瞽女の世界が輝いて見えた。
瞽女を特別視しない著者の視線が、人間瞽女をくっきりと浮び上がらせていた。13年もかけて高田瞽女の元に通い、ありのままの姿に向き合い結ばれた絆。あれから時は流れたものの、瞽女と過ごした体験や感懐を、新たに一冊の本にした。三部作では語り尽くせなかった思いが、本書にはあふれている。
高田瞽女は、男を組織に入れない強靭な掟を守り、生き抜いてきた。その終焉の時を迎え、高田瞽女・最後の親方である杉本キクエが、男たる著者に託した熱い願い。著者との気の置けない時の中、瞽女がゆっくりと肩の荷を下して行く姿に、心が揺さぶられた。
もう高田瞽女の姿に会うことはできないが、その心の豊かさは、本書が確実に伝えてくれる。座右に置くべき高田瞽女のバイブルである。(平凡社新書960円)
さて1900年代といえば日本は明治時代。その時代に、瞽女(ごぜ)という盲目の女性旅芸人がいた事実を知る人は、どの位いるだろうか。瞽女とは三味線を携え音曲を奏で喜捨の旅で生計をたてていた、盲人女性の職業名である。瞽女の起源は古く室町時代まで遡れる経緯まで知る人となれば、極めて少ないであろう。
本書で詳述される上越高田の地に生きた高田瞽女の歴史は、江戸時代に始まり昭和まで続く。筆者が縁あって高田瞽女を紹介する仕事に就いたとき、手にした本が本書の著者が刊行した「高田瞽女三部作」だった。光を 失った瞽女の世界が輝いて見えた。
瞽女を特別視しない著者の視線が、人間瞽女をくっきりと浮び上がらせていた。13年もかけて高田瞽女の元に通い、ありのままの姿に向き合い結ばれた絆。あれから時は流れたものの、瞽女と過ごした体験や感懐を、新たに一冊の本にした。三部作では語り尽くせなかった思いが、本書にはあふれている。
高田瞽女は、男を組織に入れない強靭な掟を守り、生き抜いてきた。その終焉の時を迎え、高田瞽女・最後の親方である杉本キクエが、男たる著者に託した熱い願い。著者との気の置けない時の中、瞽女がゆっくりと肩の荷を下して行く姿に、心が揺さぶられた。
もう高田瞽女の姿に会うことはできないが、その心の豊かさは、本書が確実に伝えてくれる。座右に置くべき高田瞽女のバイブルである。(平凡社新書960円)
2023年06月12日
【おすすめ本】櫻井義秀『 統一教会 性・カネ・恨(ハン)から実像に迫る』―異形の教団の全体像 信者の思い、組織の行方 =藤森研(代表委員)
統一教会(現名称は世界平和統一家庭連合)を30年以上注視してきた宗教社会学者(北大大学院教授)の渾身の著だ。
統一教会は、教祖がメシヤを自称するキリスト教系新宗教の一つだが、韓国の民衆宗教の影響も強い。初期には性的な「血分け」も行われたという。
創始者の文鮮明は、初期信者によると「人心収攬の術に天賦の才」を持つ人物だったようだ。
日本の統一教会員が霊感商法を行い、信者に高額献金を迫る契機は、文鮮明の世界巡回や勝共活動に多額の資金を必要としたことだと見る。
「地上天国実現のため、財を神の世界に戻す」という教えが信者の良心を麻痺させた。韓国植民地化への教祖らの恨(ハン)と日本人の贖罪意識も、韓国本部のための苛烈な金集めを正当化した。
「統一教会による霊感商法は、日本宗教史における最大規模の詐欺事件となってもおかしくはなかった」と書く。だが、「販社の販売員がしたことで、宗教法人は関与していない」と教団は主張した。幹部人事など実際は一体だが、捜査の壁になったと著者は見る。
政治との密着は、選挙の電話がけ、ポスター貼り、演説会などに人を派遣してくれる教団が、政治家には有難い存在だからだ。
国際合同結婚で渡韓した日本人女性信者は約7000人。著者は韓国でインタビューしている。教団に疑問を持つ人は少なくないが、「子供は韓国人として育ったから」と、韓国で生き続けるしかないと覚悟している人もいた。
社会的批判を受け、世代交代も進む統一教会は、今後どうなるのか。著者は3つのシナリオを挙げるが、あとはぜひ本書を。
(中公新書960円)
統一教会は、教祖がメシヤを自称するキリスト教系新宗教の一つだが、韓国の民衆宗教の影響も強い。初期には性的な「血分け」も行われたという。
創始者の文鮮明は、初期信者によると「人心収攬の術に天賦の才」を持つ人物だったようだ。
日本の統一教会員が霊感商法を行い、信者に高額献金を迫る契機は、文鮮明の世界巡回や勝共活動に多額の資金を必要としたことだと見る。
「地上天国実現のため、財を神の世界に戻す」という教えが信者の良心を麻痺させた。韓国植民地化への教祖らの恨(ハン)と日本人の贖罪意識も、韓国本部のための苛烈な金集めを正当化した。
「統一教会による霊感商法は、日本宗教史における最大規模の詐欺事件となってもおかしくはなかった」と書く。だが、「販社の販売員がしたことで、宗教法人は関与していない」と教団は主張した。幹部人事など実際は一体だが、捜査の壁になったと著者は見る。
政治との密着は、選挙の電話がけ、ポスター貼り、演説会などに人を派遣してくれる教団が、政治家には有難い存在だからだ。
国際合同結婚で渡韓した日本人女性信者は約7000人。著者は韓国でインタビューしている。教団に疑問を持つ人は少なくないが、「子供は韓国人として育ったから」と、韓国で生き続けるしかないと覚悟している人もいた。
社会的批判を受け、世代交代も進む統一教会は、今後どうなるのか。著者は3つのシナリオを挙げるが、あとはぜひ本書を。
(中公新書960円)
2023年06月05日
【おすすめ本】河村小百合『日本銀行 我が国に迫る危機』─恐ろしい財政破綻への警鐘=志田義寧(北陸大学教授)
世界主要国の中央銀行が物価高に対応するため、金融引き締めに舵を切るなか、日銀だけは“異次元 緩和”と呼ばれる長短金利操作付き量的・質的金融緩和を続けている。
本書はこの頑なな姿勢の背景に、利上げをすれば日銀は数十年単位で債務超過に陥り、かつ日本の国債頼みの財政運営が破綻する可能性があるからだと指摘する。
豊富なデータをベースに議論を展開しており、内容には説得力がある。表現がきついと感じる部分もあったが、それだけ現状に対して強い危機感を抱いているのだろう。
日銀の2022年4―9月期決算では保有国債に8749億円の含み損が発生した。日銀の保有国債は満期保有が前提のため、売却しない限り問題は発生しないが、いずれ来る正常化の過程では日銀は当座預金の付利水準を引き上げざるを得ない。その時の金利負担で債務超過に陥る可能性は十分にある。本書も警鐘を鳴らしている。
その先にあるのは、通貨の信認が損なわれることによる円安と、新規国債の発行ができないことを受けた財政破綻と大幅な歳出カットだ。
本書は「異次元緩和が放漫財政を助長する道具と化した」と厳しく批判している。「我が国は国債のほとんどを国内で消化しているから、財政破綻することはない」という、よくある主張も戦後日本を引き合いにバッサリと斬り捨てている。
こうした状況を許した背景には、私たちの甘えと無理解、無責任があると指摘する。本書は現実を直視し、無理解を断ち切る一冊となろう。(講談社現代新書1000円)
本書はこの頑なな姿勢の背景に、利上げをすれば日銀は数十年単位で債務超過に陥り、かつ日本の国債頼みの財政運営が破綻する可能性があるからだと指摘する。
豊富なデータをベースに議論を展開しており、内容には説得力がある。表現がきついと感じる部分もあったが、それだけ現状に対して強い危機感を抱いているのだろう。
日銀の2022年4―9月期決算では保有国債に8749億円の含み損が発生した。日銀の保有国債は満期保有が前提のため、売却しない限り問題は発生しないが、いずれ来る正常化の過程では日銀は当座預金の付利水準を引き上げざるを得ない。その時の金利負担で債務超過に陥る可能性は十分にある。本書も警鐘を鳴らしている。
その先にあるのは、通貨の信認が損なわれることによる円安と、新規国債の発行ができないことを受けた財政破綻と大幅な歳出カットだ。
本書は「異次元緩和が放漫財政を助長する道具と化した」と厳しく批判している。「我が国は国債のほとんどを国内で消化しているから、財政破綻することはない」という、よくある主張も戦後日本を引き合いにバッサリと斬り捨てている。
こうした状況を許した背景には、私たちの甘えと無理解、無責任があると指摘する。本書は現実を直視し、無理解を断ち切る一冊となろう。(講談社現代新書1000円)
2023年06月01日
【おすすめ本】平野啓一郎『死刑について』―残置派から廃止派へ 著者がたどった思考の旅=鈴木耕(編集者)
死刑囚だった袴田巌さんの再審開始が確定、無実の公算が強まった。嬉しいことだが、一方で袴田さんの長き残酷な時間を考えると暗澹たる気持ちになる。命は救われたとはいえ、壊された心を取り戻す術はない。死刑という制度そのものに大きな疑問が湧くのだ。季節が巡るのが自然の理ならば受け入れるしかない。だが人間が作った制度であれば変えられる。いや、制度が理不尽であれば人間が変えなければならない。それを率直に語ったのが本書である。
本書は昨年6月の発行だから直接袴田さんの再審確定には触れていないが、作家の直感は鋭い。むろん袴田事件にも触れている。
著者はかつて「死刑存置派」であった。それがなぜ「廃止派」に変わったのか。本書は死刑を巡る思考の旅。他人の死をどう感受できるか。親しい人や肉親を失う感覚と赤の他人の死とでは受け止めが違って当然だが、被害者側の応報感情を単にヒューマニズムで否定できるか。著者の思考は「死をもって罪を償う」という日本文化の底層に潜む価値観や、絶対神の存在しない宗教的背景にまで及ぶ。その思考過程から日本社会の状況が浮かび上がる。きわめて率直に「社会の側の怠慢を問わなくてよいのか」と自らに問う。「冤罪」にも触れる。「廃止論」が見えてくる。
個人的に言えば、私は『日蝕』以来の著者の熱心な読者で、カズオ・イシグロとの同時代性を感じている。村上春樹世代の次のノーベル文学賞候補ではないかとも思う。その著者の死刑廃止論、これは心に響いた。(岩波書店1200円)
本書は昨年6月の発行だから直接袴田さんの再審確定には触れていないが、作家の直感は鋭い。むろん袴田事件にも触れている。
著者はかつて「死刑存置派」であった。それがなぜ「廃止派」に変わったのか。本書は死刑を巡る思考の旅。他人の死をどう感受できるか。親しい人や肉親を失う感覚と赤の他人の死とでは受け止めが違って当然だが、被害者側の応報感情を単にヒューマニズムで否定できるか。著者の思考は「死をもって罪を償う」という日本文化の底層に潜む価値観や、絶対神の存在しない宗教的背景にまで及ぶ。その思考過程から日本社会の状況が浮かび上がる。きわめて率直に「社会の側の怠慢を問わなくてよいのか」と自らに問う。「冤罪」にも触れる。「廃止論」が見えてくる。
個人的に言えば、私は『日蝕』以来の著者の熱心な読者で、カズオ・イシグロとの同時代性を感じている。村上春樹世代の次のノーベル文学賞候補ではないかとも思う。その著者の死刑廃止論、これは心に響いた。(岩波書店1200円)
2023年05月27日
【おすすめ本】水島宏明「メディアは『貧困』をどう伝えたか」―「自己責任論の壁」の弊害 報道陣の葛藤にも触れる=中村真暁(東京新聞記者)
メディアは貧困問題を、どのように社会に問い掛けてきたのか。本書では、テレビ制作者として貧困問題を取材してきた著者が、リーマン・ショック期とコロナ期の貧困報道を検証。テレビ放送に関するデータベースを駆使し、自身の取材経験なども振り返ることで、その系譜を縦覧する。
注目するテーマは「ワーキングプア」や「ネットカフェ難民」、「生活保護バッシング」、「生理の貧困」などさまざまだ。メディアによる議題設定がどのような社会背景から行われたかを整理し、あるべき報道の姿を問うていく。
特に考えさせられたのは、貧困者をどう描くかという問題だ。実際の貧困者は家族や障害、教育などに起因する生きづらさを背景に、頑張ることすらできないことが少なくない。貧困問題の難しさは、そういった複雑さにこそあるとも言える。
しかし、そういった実像は分かりにくく、共感されにくい。結果的に「本人がいくら頑張っても報われない。かわいそうだ」といったステレオタイプな報じ方に集約され、「頑張らないように見える人は落ちても仕方がない」という自己責任論につながってしまうのだ。本書はこうした「自己責任論の壁」の弊害を指摘しつつ、報道人の葛藤にも触れる。記者の端くれとして貧困報道に力を入れてきた私には、身につまされる思いがした。
何度も通った民間団体の食品配布会場には、コロナ不況からの回復が兆しを見せても、長蛇の列ができている。問題の解決が待ったなしの今こそ、本質を突く報道が必要なのだと思いを強めている。(同時代社1800円)
注目するテーマは「ワーキングプア」や「ネットカフェ難民」、「生活保護バッシング」、「生理の貧困」などさまざまだ。メディアによる議題設定がどのような社会背景から行われたかを整理し、あるべき報道の姿を問うていく。
特に考えさせられたのは、貧困者をどう描くかという問題だ。実際の貧困者は家族や障害、教育などに起因する生きづらさを背景に、頑張ることすらできないことが少なくない。貧困問題の難しさは、そういった複雑さにこそあるとも言える。
しかし、そういった実像は分かりにくく、共感されにくい。結果的に「本人がいくら頑張っても報われない。かわいそうだ」といったステレオタイプな報じ方に集約され、「頑張らないように見える人は落ちても仕方がない」という自己責任論につながってしまうのだ。本書はこうした「自己責任論の壁」の弊害を指摘しつつ、報道人の葛藤にも触れる。記者の端くれとして貧困報道に力を入れてきた私には、身につまされる思いがした。
何度も通った民間団体の食品配布会場には、コロナ不況からの回復が兆しを見せても、長蛇の列ができている。問題の解決が待ったなしの今こそ、本質を突く報道が必要なのだと思いを強めている。(同時代社1800円)
2023年05月20日
【おすすめ本】矢部太郎 原案 長谷川嘉哉―ホノボノと「ぼけ」の日常生活を描く=萩山拓(ライター)
町で友人に出会い、顔は覚えているが、名前が思い出せず、名抜きで近況につき話を交わしたことがある。 その夕方、 風呂に入って顔を洗ったとたん、フッと名前が出てきたのだ。「ぼけ」は始 まっている。
本書は人気漫画家・矢部太郎が、その「ぼけ」 を巡って描く全編描き下ろしのマンガ。認知症専門医・長谷川嘉哉氏の実話をもとに、3つの家族の視点を通じて認知症患者の日常を描く。
四季折々に遭遇するドラマに、笑って泣けて、 そして不安が和らぎ、心ホノボノとする貴重な一冊。まさに「ぼけ日和」 バンザイ!
一口に「認知症」とい うが、世の中には多くの誤解と対応が蔓延している。軽度の認知障害(M CI)であるにもかかわらず、認識不足のため、 対応がまずくて深刻な家庭内騒動や親子断絶・高齢離婚にまで発展してしまう悲劇が多い。
今や日本には65歳以上の7人に1人は軽度の認知障害にかかり、その数は400万人になる。
「幻覚」「モノ盗られ 妄想」や「夕暮れ徘徊」 「嫉妬妄想」などなども「認知症」の周辺症状ととらえ、薬で抑えることができる。そうすれば1〜2年で落ち着く。
対応のコツは、「認知 症」そのものを「ありの まま」に受け入れ、「モ ノ盗られ妄想」で疑われるのは「介護の勲章」で あるなど、逆転の発想が大切という。
矢部さんは介護の仕事をしてきた母を持つ。今度は親の「介護」を視野 に入れて描く、そのホッコリとした鉛筆風タッチが、効果を上げている。(かんき出版1000円)
本書は人気漫画家・矢部太郎が、その「ぼけ」 を巡って描く全編描き下ろしのマンガ。認知症専門医・長谷川嘉哉氏の実話をもとに、3つの家族の視点を通じて認知症患者の日常を描く。
四季折々に遭遇するドラマに、笑って泣けて、 そして不安が和らぎ、心ホノボノとする貴重な一冊。まさに「ぼけ日和」 バンザイ!
一口に「認知症」とい うが、世の中には多くの誤解と対応が蔓延している。軽度の認知障害(M CI)であるにもかかわらず、認識不足のため、 対応がまずくて深刻な家庭内騒動や親子断絶・高齢離婚にまで発展してしまう悲劇が多い。
今や日本には65歳以上の7人に1人は軽度の認知障害にかかり、その数は400万人になる。
「幻覚」「モノ盗られ 妄想」や「夕暮れ徘徊」 「嫉妬妄想」などなども「認知症」の周辺症状ととらえ、薬で抑えることができる。そうすれば1〜2年で落ち着く。
対応のコツは、「認知 症」そのものを「ありの まま」に受け入れ、「モ ノ盗られ妄想」で疑われるのは「介護の勲章」で あるなど、逆転の発想が大切という。
矢部さんは介護の仕事をしてきた母を持つ。今度は親の「介護」を視野 に入れて描く、そのホッコリとした鉛筆風タッチが、効果を上げている。(かんき出版1000円)
2023年05月11日
【おすすめ本】五味洋治『英語と中国語 10年後の勝者は』―中国語ブーム欧米で加熱 英・中国語が語学の基礎に=上乃久子(NYタイムズ東京支局記者)
世界の最強の公用語として揺るぎない地位を保っていた英語と「中国」の台頭により覇権言語としての中国語の将来性を見据え、東アジア情勢に精通したジャーナリストで、国際結婚し子息の英語教育に熱心な父親でもある著者が、綿密な取材と実体験を踏まえ、外国語を学ぶ必要性を説いた書。
欧米各国の政治家、大手企業家、セレブやその子息の中国語ブームの加熱ぶりは顕著だ。
トランプ元米大統領の中国公式訪問で、英才教育を受けた孫娘が、流暢に中国語の歌を熱唱する動画を習近平主席夫妻に披露したことは記憶に新しい。一方で、中国の「ソフトパワー」の普及機関として全米に次々に開設された「孔子学院」が、悪化する米中関係の煽りで、「シャープパワー」と敵視され、閉鎖に追いこまれる逆風も吹いた。中国の投資が旺盛なアフリカでは、中国語が50年以内に公用語の一つになる可能性も示唆している。
かたや、アメリカの人口を超える4億人が、英語を学ぶ中国の章では、子供向けオンライン英会話教室が急成長、国際バカロレアを提供する学校も増加し、英語の実力で人生の一発逆転が可能になる「懸命さ」の差が日中間の英語学習熱にはあると指摘。
翻って、ガラパゴス化している日本語の地位は、英語、中国語、韓流ブームに沸く韓国語に比べ、低下したと警鐘を鳴らす。
米中の対立は間違いなく長期化するとの予測に基づき、王道の英語よりもライバルの少ない中国語が選択肢となりうると説いている。英語と中国語の二兎を追うことが、外国語学習のスタンダードになるかもしれない。
欧米各国の政治家、大手企業家、セレブやその子息の中国語ブームの加熱ぶりは顕著だ。
トランプ元米大統領の中国公式訪問で、英才教育を受けた孫娘が、流暢に中国語の歌を熱唱する動画を習近平主席夫妻に披露したことは記憶に新しい。一方で、中国の「ソフトパワー」の普及機関として全米に次々に開設された「孔子学院」が、悪化する米中関係の煽りで、「シャープパワー」と敵視され、閉鎖に追いこまれる逆風も吹いた。中国の投資が旺盛なアフリカでは、中国語が50年以内に公用語の一つになる可能性も示唆している。
かたや、アメリカの人口を超える4億人が、英語を学ぶ中国の章では、子供向けオンライン英会話教室が急成長、国際バカロレアを提供する学校も増加し、英語の実力で人生の一発逆転が可能になる「懸命さ」の差が日中間の英語学習熱にはあると指摘。
翻って、ガラパゴス化している日本語の地位は、英語、中国語、韓流ブームに沸く韓国語に比べ、低下したと警鐘を鳴らす。
米中の対立は間違いなく長期化するとの予測に基づき、王道の英語よりもライバルの少ない中国語が選択肢となりうると説いている。英語と中国語の二兎を追うことが、外国語学習のスタンダードになるかもしれない。
2023年05月04日
【おすすめ本】前泊博盛・猿田佐世監修+新外交イニシアティブ編『世界のなかの日米地位協定』─主権を放棄し対米従属する歪みが日本全土へ拡大=中野晃一(上智大学教授)
岸田政権が昨年末安保3文書を閣議決定するのに先んじ「政策提言 戦争を回避せよ」を公表したシンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」の編集による最新刊。
「世界のなかの日米地位協定」の書名が示す通り、本書は国際比較の視点から、日本の対米従属という異常な歪みを日米地位協定に焦点を置いて明らかにしている。
日米安保条約が1960年に改定された際に表裏一体となって締結されて以来、一度も改定されずに今日に至る地位協定の全文を含め、さまざまなデータや資料、問題事例がわかりやすくまとめられている。
対米従属の歪みが沖縄をはじめ日本国内の深刻な課題として、PFASによる重大な環境汚染被害など、今もなお経験されつづけているが、その根源が地位協定にあることが、否応なく読者に突きつけられる。これは私たちが日本の主権者として知らなくてはいけないことなのだ。
監修者である前泊博盛と猿田佐世の巻頭言やまとめの対談が私たちに問うのは、憲法も国内法も民主的統制も利かない、主権放棄の対米従属の実態を「沖縄問題」として、見て見ぬふりをしてきた本土メディアや日本国民の欺瞞と怠慢である。
米軍の駐留する他国で認められている国内法の原則適用や地位協定の改定が一度もできないのは日本の民主主義の不在と法治国家の空疎が原因だからである。
「沖縄のことだから」と看過してきた日本の民主国家、法治国家としての自己決定権の喪失が、安保法制に続く安保3文書の改定で、今や日本全土で実感される事態に入った。遅くに失したとは言え、まずは本書で学び知ることである。(田畑書店1800円)
「世界のなかの日米地位協定」の書名が示す通り、本書は国際比較の視点から、日本の対米従属という異常な歪みを日米地位協定に焦点を置いて明らかにしている。
日米安保条約が1960年に改定された際に表裏一体となって締結されて以来、一度も改定されずに今日に至る地位協定の全文を含め、さまざまなデータや資料、問題事例がわかりやすくまとめられている。
対米従属の歪みが沖縄をはじめ日本国内の深刻な課題として、PFASによる重大な環境汚染被害など、今もなお経験されつづけているが、その根源が地位協定にあることが、否応なく読者に突きつけられる。これは私たちが日本の主権者として知らなくてはいけないことなのだ。
監修者である前泊博盛と猿田佐世の巻頭言やまとめの対談が私たちに問うのは、憲法も国内法も民主的統制も利かない、主権放棄の対米従属の実態を「沖縄問題」として、見て見ぬふりをしてきた本土メディアや日本国民の欺瞞と怠慢である。
米軍の駐留する他国で認められている国内法の原則適用や地位協定の改定が一度もできないのは日本の民主主義の不在と法治国家の空疎が原因だからである。
「沖縄のことだから」と看過してきた日本の民主国家、法治国家としての自己決定権の喪失が、安保法制に続く安保3文書の改定で、今や日本全土で実感される事態に入った。遅くに失したとは言え、まずは本書で学び知ることである。(田畑書店1800円)
2023年04月27日
【好書耕読】エラ・フランシス・サンダース『翻訳できない世界のことば』―「ヒラエス」を噛みしめて=吉田千亜(ノンフィクション作家)
3月初旬、福島の友人に連れていってもらった福島市の小さな書店「Book&Caféコトウ」で、一冊の本と出会った。コーヒーの香りと穏やかな音楽。陳列本は、「これも読みたい」「これも」と次々に思う、大切な本ばかりだった。五感が優しく解放されるような不思議な店だ。
その頃、「震災から12年」の文字がテレビや新聞で飛び交っていた。「3月ジャーナリズム」という言葉が、もう、あって良いだろうとも思う。
原発事故の被害を受けた人たちから「3月頃になると体調が悪くなる」「そわそわする」といった思いを聞く。報道してほしい思いと、なぜ今だけなの、というもどかしさ。その報道を見たい、見たくない、の狭間で悶々とする、と。「希望」のみ強調する物語に、静かに傷つく人もいる。被害を覆い隠す報道には、自分の存在が否定されるように思う人もいる。特に、政府が被害を認めない地域の人たちにとっては。
エラ・フランシス・サンダース『翻訳できない世界のことば』(前田まゆみ訳、創元社)を手に取ったのも、その、彼ら、彼女たちのもやもやした気持ちを考えていたからだ。
スペイン語で「ヴァシランド」とは「どこへ行くかよりも、どんな経験をするかということを重視した旅をすること」を指す。あるいはドイツ語で「ヴァルトアインザームカイト」とは「森の中で一人、自然と交流するときのゆったりとした孤独感」を指す。
こんな風に、心の「あわい」を、言葉にしていく作業が、世界中で営まれている。言葉の解説と共に描かれた絵にも、彩や形にふと笑みが溢れる。
ウェールズ語の「ヒラエス」は「帰ることができない場所への郷愁と哀切の気持ち。過去に失った場所や、永遠に存在しない場所に対しても」と書かれていた。この「ヒラエス」を、避難者の集う団体が団体名に使っている。そういう意味だったのか、と改めて噛み締める。
この「ヒラエス」を抱えて、3月をやり過ごす人たちがたくさんいるのだろう。言葉を紡ぐ作業を、諦めないために、いま、この本を机に飾っている。
その頃、「震災から12年」の文字がテレビや新聞で飛び交っていた。「3月ジャーナリズム」という言葉が、もう、あって良いだろうとも思う。
原発事故の被害を受けた人たちから「3月頃になると体調が悪くなる」「そわそわする」といった思いを聞く。報道してほしい思いと、なぜ今だけなの、というもどかしさ。その報道を見たい、見たくない、の狭間で悶々とする、と。「希望」のみ強調する物語に、静かに傷つく人もいる。被害を覆い隠す報道には、自分の存在が否定されるように思う人もいる。特に、政府が被害を認めない地域の人たちにとっては。
エラ・フランシス・サンダース『翻訳できない世界のことば』(前田まゆみ訳、創元社)を手に取ったのも、その、彼ら、彼女たちのもやもやした気持ちを考えていたからだ。
スペイン語で「ヴァシランド」とは「どこへ行くかよりも、どんな経験をするかということを重視した旅をすること」を指す。あるいはドイツ語で「ヴァルトアインザームカイト」とは「森の中で一人、自然と交流するときのゆったりとした孤独感」を指す。
こんな風に、心の「あわい」を、言葉にしていく作業が、世界中で営まれている。言葉の解説と共に描かれた絵にも、彩や形にふと笑みが溢れる。
ウェールズ語の「ヒラエス」は「帰ることができない場所への郷愁と哀切の気持ち。過去に失った場所や、永遠に存在しない場所に対しても」と書かれていた。この「ヒラエス」を、避難者の集う団体が団体名に使っている。そういう意味だったのか、と改めて噛み締める。
この「ヒラエス」を抱えて、3月をやり過ごす人たちがたくさんいるのだろう。言葉を紡ぐ作業を、諦めないために、いま、この本を机に飾っている。
2023年04月25日
【おすすめ本】伊藤詩織『裸で泳ぐ』―「生き延びる」から「生きる」へ 新たな一歩の決意の書=鈴木耕(編集者)
著者の2冊目の本。前著『Black Box』は性被害を告発するという意図があったためか、文章はやや硬く、真実を訴えようという気持ちが前面に出て痛々しかった。だが本書には、そこから「別の世界」へ踏み出した雰囲気が伝わる。日記体で日常を淡々と綴るやわらかな文章が主体で、読むものを温かな気分にさせてくれる。
とはいえ、そう一筋縄ではいかない。時折、ようやく固まった瘡蓋が剥げかけて、血が滲むこともある。ことに山口敬之氏と対峙しなければならない裁判の後の記述などは、唇を嚙んで耐えなければならない記憶の甦りが切ない。それでも著者はサバイブからライヴへ、「生き延びる」ことから「生きる」ことへと歩を進める。新たな模索が始まっていく過程を、本書は極めて丁寧に書き綴っていくのだ。
むろん、あんな事件に遭遇したことを記憶から消し去りたい。しかし、一方で、もしあの事件がなければ、いま自分を支えてくれている素晴らしい人たちとの邂逅もあり得なかった。そう思えば起きたことをを丸ごと引き受けようとも考えるのだ。
人間のつらさは、分かりあうことが難しいということでもある。著者は恋をする。そして一緒に住むことを決めた男性と、同居寸前に別れることになる。なぜ別れなければならなかったのかについても、著者は隠さずに記す。明るいだけの日記風エッセイに終わらせない決意と、知らなかった世界へ踏み出す意欲がそこから見えてくる。
本書は、ジャーナリストとして歩み始めた女性の、不退転の決意の書であるともいえる。(岩波書店1600円)
とはいえ、そう一筋縄ではいかない。時折、ようやく固まった瘡蓋が剥げかけて、血が滲むこともある。ことに山口敬之氏と対峙しなければならない裁判の後の記述などは、唇を嚙んで耐えなければならない記憶の甦りが切ない。それでも著者はサバイブからライヴへ、「生き延びる」ことから「生きる」ことへと歩を進める。新たな模索が始まっていく過程を、本書は極めて丁寧に書き綴っていくのだ。
むろん、あんな事件に遭遇したことを記憶から消し去りたい。しかし、一方で、もしあの事件がなければ、いま自分を支えてくれている素晴らしい人たちとの邂逅もあり得なかった。そう思えば起きたことをを丸ごと引き受けようとも考えるのだ。
人間のつらさは、分かりあうことが難しいということでもある。著者は恋をする。そして一緒に住むことを決めた男性と、同居寸前に別れることになる。なぜ別れなければならなかったのかについても、著者は隠さずに記す。明るいだけの日記風エッセイに終わらせない決意と、知らなかった世界へ踏み出す意欲がそこから見えてくる。
本書は、ジャーナリストとして歩み始めた女性の、不退転の決意の書であるともいえる。(岩波書店1600円)
2023年04月17日
【好書耕読】高杉晋吾『袴田事件・冤罪の構造』―暗闇に進む道を示す灯火=秦 融(ジャーナリスト)
1933年生まれの高杉晋吾さんは、秋田県生まれのジャーナリスト。袴田秀子さん(90)に「ご存知ですか」と問いかけると「もちろんです」と即答し た。
「他人様で巌のことを『無実ではないか』と言ってくれた初めての人ですから」
66年、静岡県清水市 (現静岡市清水区)で起きたみそ会社専務夫婦と子供二人の一家四人が惨殺された放火殺人事件。高杉さんは「冤罪」として報じた最初のジャーナリストだった。拘置所で袴田さんと面会し、文通を重ね、現場を歩き、捜査のいかがわしさを雑誌「現代の眼」(廃刊)に告発。袴田さんに死刑判決が出た翌年の1918に『地獄のゴングが 鳴った―無実のボクサー 袴田巌』(三一書房)として 書籍化し、世に問うた。
拷問まがいの取り調べ、 突然みそタンクから出現した「五点の衣類」など、新聞やテレビなどの大手メデ ィアが正面から取り上げようとしなかった問題点を検証し、冤罪の可能性を浮き彫りにした。迫真の作品は、支援活動をする人たちにとって、暗闇に進む道を示す灯火の役割を果たす。
80年ごろから支援活動を続けている清水市の学習塾経営山崎俊樹さん (袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会事務局長)は「当時は頼るべき情報が一切ない。高杉さんの本だけが頼りだった」と話す。2014年、静岡地裁が再審開始を決定すると、高杉さんの著書は『袴田事件・冤罪の構造: 死 刑囚に再審無罪へのゴン グが鳴った』(合同出版)として復刻版が刊行された。
自白ありきの捜査、警察捜査情報を垂れ流す新聞報道が冤罪づくりの共犯≠ニなる構図を描く。冤罪事件に挑むジャーナリス ト必読の書である。
13日、東京高裁は再審開始を認めると決定した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号
「他人様で巌のことを『無実ではないか』と言ってくれた初めての人ですから」
66年、静岡県清水市 (現静岡市清水区)で起きたみそ会社専務夫婦と子供二人の一家四人が惨殺された放火殺人事件。高杉さんは「冤罪」として報じた最初のジャーナリストだった。拘置所で袴田さんと面会し、文通を重ね、現場を歩き、捜査のいかがわしさを雑誌「現代の眼」(廃刊)に告発。袴田さんに死刑判決が出た翌年の1918に『地獄のゴングが 鳴った―無実のボクサー 袴田巌』(三一書房)として 書籍化し、世に問うた。
拷問まがいの取り調べ、 突然みそタンクから出現した「五点の衣類」など、新聞やテレビなどの大手メデ ィアが正面から取り上げようとしなかった問題点を検証し、冤罪の可能性を浮き彫りにした。迫真の作品は、支援活動をする人たちにとって、暗闇に進む道を示す灯火の役割を果たす。
80年ごろから支援活動を続けている清水市の学習塾経営山崎俊樹さん (袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会事務局長)は「当時は頼るべき情報が一切ない。高杉さんの本だけが頼りだった」と話す。2014年、静岡地裁が再審開始を決定すると、高杉さんの著書は『袴田事件・冤罪の構造: 死 刑囚に再審無罪へのゴン グが鳴った』(合同出版)として復刻版が刊行された。
自白ありきの捜査、警察捜査情報を垂れ流す新聞報道が冤罪づくりの共犯≠ニなる構図を描く。冤罪事件に挑むジャーナリス ト必読の書である。
13日、東京高裁は再審開始を認めると決定した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号
2023年04月06日
【おすすめ本】山岡淳一郎『ルポ副反応疑い死 ワクチン政策と薬害を問い直す』―機能せぬ接種被害救済制度の闇を追う=永田浩三(武蔵大学教授)
コロナ禍が始まって3年。ワクチン接種の副反応による死者の報告は1900件に迫る。最近はこの副反応への関心が高まっているが、本書はその嚆矢だ。『世界』などでの連載をもとに、ワクチンに関わる日本社会の課題に迫った。
社会防衛という名の下、ワクチンの効用がリスクを上回るとして、なかば強要されてきた。だが、免疫にはいまだ未知の領域があり、重篤な副反応や死を引き起こしてきた。
接種3日後の息子の死を追う夫妻、プロ野球救援投手の心臓突然死。著者はその謎を追う中で、日本の医療制度の闇に突き当たる。
日本には被害の救済制度があり、独立行政法人が評価を行う。だが、死亡報告事例の99%以上は評価不能と判定されているのが現実だ。
死亡一時金の申請419件のうち、支払われたのは10件。後遺症は、申請4595件のうち5分の1に手当てが支給されただけだ。長く待たされるケースも多く、救済制度が機能していない。
目を開かれたのは、被害を受けた人々が国に挑んだ闘いの歴史の章だ。
戦後、天然痘のワクチン接種で、多くの乳幼児が亡くなり重い障害を抱えた。1947年と48年の犠牲者は天然痘の死者をはるかに上回ったが、「特異体質」として無視された。半世紀にわたり家族・遺族が国を相手に闘った結果、救済の道が開かれた。
この本は反ワクチンの奨めではない。ワクチンの安全、被害者救済を迅速に行う制度の構築なくして、社会など守れないことを訴える。ぜひ多くの人に読んでほしい。(ちくま新書840円)
社会防衛という名の下、ワクチンの効用がリスクを上回るとして、なかば強要されてきた。だが、免疫にはいまだ未知の領域があり、重篤な副反応や死を引き起こしてきた。
接種3日後の息子の死を追う夫妻、プロ野球救援投手の心臓突然死。著者はその謎を追う中で、日本の医療制度の闇に突き当たる。
日本には被害の救済制度があり、独立行政法人が評価を行う。だが、死亡報告事例の99%以上は評価不能と判定されているのが現実だ。
死亡一時金の申請419件のうち、支払われたのは10件。後遺症は、申請4595件のうち5分の1に手当てが支給されただけだ。長く待たされるケースも多く、救済制度が機能していない。
目を開かれたのは、被害を受けた人々が国に挑んだ闘いの歴史の章だ。
戦後、天然痘のワクチン接種で、多くの乳幼児が亡くなり重い障害を抱えた。1947年と48年の犠牲者は天然痘の死者をはるかに上回ったが、「特異体質」として無視された。半世紀にわたり家族・遺族が国を相手に闘った結果、救済の道が開かれた。
この本は反ワクチンの奨めではない。ワクチンの安全、被害者救済を迅速に行う制度の構築なくして、社会など守れないことを訴える。ぜひ多くの人に読んでほしい。(ちくま新書840円)
2023年04月03日
【おすすめ本】佐藤和孝『ウクライナの現場から』―ロシアの侵略に抗う市民の姿 戦場ジャーナリストが伝える=中村梧郎(フオトジャーナリスト)
ロシアの電撃的侵略から一年が経った。
ジャパンプレスの佐藤和孝記者は、3月にリビウに入り、キーウなど戦場を40日間取材。その生々しいルポと写真を収載したのが本書である。
ロシアがこれでもかと撃つミサイルは、ウクライナ市民の生命と住居、インフラを破壊し、厭戦に追い込むのが狙いだ。
でも市民は、深さ100メートル余あるキーウの地下鉄へ逃れ、抵抗を続ける。子供たちへのオンライン授業も続く。
ブチャでは410人が惨殺された。拷問、強姦 のあげくだ。ジャーナリストへの狙撃は18人に及ぶ。著者は「ロシアが 意図的に狙ったのは明白だ」と言う。難民は14 00人以上となった。
リビウで市民に「前線に行くのは怖くない?」と聞くと、「それは怖いけど、でも自分の死への恐怖より、この国がなくなる方がもっと怖い」と。
ウクライナは1991年に独立した。再びロシアに支配されるのは死ぬより怖い≠フだ。ゼレンスキーが抗戦を訴えると「41%の支持率が91%に激増」する。侵略との 戦いは国民を一つにする。侵略は許せない、抵抗は正義なのだ。
「ウクライナは米欧の代理戦争」とする論は、ロ シアの主張である。ベトナム戦争でも「中ソの代理」説が出た。「つまら ん抵抗をやめたら」と。
プーチンはネオナチと戦うと叫ぶ。だが本音はクリミアと東部四州の簒奪にある。
この侵略に終わりは見えない。でもこれが通るなら「世界の独裁者らがお墨付きをもらう」こととなる。空論でなく「生 の情報から学んで頂きたい」と、著者は命がけの 取材で訴える。(有隣堂 1000円)
ジャパンプレスの佐藤和孝記者は、3月にリビウに入り、キーウなど戦場を40日間取材。その生々しいルポと写真を収載したのが本書である。
ロシアがこれでもかと撃つミサイルは、ウクライナ市民の生命と住居、インフラを破壊し、厭戦に追い込むのが狙いだ。
でも市民は、深さ100メートル余あるキーウの地下鉄へ逃れ、抵抗を続ける。子供たちへのオンライン授業も続く。
ブチャでは410人が惨殺された。拷問、強姦 のあげくだ。ジャーナリストへの狙撃は18人に及ぶ。著者は「ロシアが 意図的に狙ったのは明白だ」と言う。難民は14 00人以上となった。
リビウで市民に「前線に行くのは怖くない?」と聞くと、「それは怖いけど、でも自分の死への恐怖より、この国がなくなる方がもっと怖い」と。
ウクライナは1991年に独立した。再びロシアに支配されるのは死ぬより怖い≠フだ。ゼレンスキーが抗戦を訴えると「41%の支持率が91%に激増」する。侵略との 戦いは国民を一つにする。侵略は許せない、抵抗は正義なのだ。
「ウクライナは米欧の代理戦争」とする論は、ロ シアの主張である。ベトナム戦争でも「中ソの代理」説が出た。「つまら ん抵抗をやめたら」と。
プーチンはネオナチと戦うと叫ぶ。だが本音はクリミアと東部四州の簒奪にある。
この侵略に終わりは見えない。でもこれが通るなら「世界の独裁者らがお墨付きをもらう」こととなる。空論でなく「生 の情報から学んで頂きたい」と、著者は命がけの 取材で訴える。(有隣堂 1000円)
2023年03月31日
【おすすめ本】伊澤理江『黒い海 船は突然、深海へ消えた』─闇に沈む海難事故の真相を綿密な取材と証言で明かす=大治朋子(毎日新聞編集委員)
15年前の初夏、千葉県の房総半島沖で一隻の漁船が深海に消えた。乗組員4人が死亡し13人が行方不明のままだ。
当時、国が出した事故調査の結論は「波が原因」。だが関係者の間には釈然としない思いがくすぶり続けていた。
2019年秋、一人のジャーナリストが偶然耳にしたこの事故に疑問を抱き、取材を始める。
海難審判庁など役所の幹部、遺族、海に放り出されながらも生き残った乗組員――。インタビューに応じても、必ずしも取材に前向きとは限らない。生き残った乗組員らの口は重い。だが地道で実直なジャーナリストの姿勢が彼らの心を解きほぐし、一つ一つ重要な証言を取り出していく。
沈没前、乗組員らは強い衝撃を感じている。ドスーン、バキッ。そんな奇怪な音も聞いている。
「あれは波の音なんかじゃない」
さまざまな証言が浮かび上がらせるのは、当時の不可思議な状況だ。
事故直後、周辺の海は黒く染まっていた。積載していた燃料油が船底の破損で漏れ出したのか。だとすると、船は何かにぶつかったのか。だが付近は深海で、海底まで5キロはある。何らかの「動くもの」が衝突したのではないか――。
著者はやがて「潜水艦の男」から証言を得る。
海難事故の真相を追いかける謎解きと、緻密な構成、巧みな筆致にぐいぐいと引き込まれる。
だが本書の魅力はそこにとどまらない。取材先に何度も足を運び、手紙を書き、公的文書を得るために情報公開請求を試みていく、そのひたむきな姿に心奪われるのだ。
ジャーナリズムを志す、あるいは実践するすべての人に必読の書ではないだろうか。(講談社1800円)
当時、国が出した事故調査の結論は「波が原因」。だが関係者の間には釈然としない思いがくすぶり続けていた。
2019年秋、一人のジャーナリストが偶然耳にしたこの事故に疑問を抱き、取材を始める。
海難審判庁など役所の幹部、遺族、海に放り出されながらも生き残った乗組員――。インタビューに応じても、必ずしも取材に前向きとは限らない。生き残った乗組員らの口は重い。だが地道で実直なジャーナリストの姿勢が彼らの心を解きほぐし、一つ一つ重要な証言を取り出していく。
沈没前、乗組員らは強い衝撃を感じている。ドスーン、バキッ。そんな奇怪な音も聞いている。
「あれは波の音なんかじゃない」
さまざまな証言が浮かび上がらせるのは、当時の不可思議な状況だ。
事故直後、周辺の海は黒く染まっていた。積載していた燃料油が船底の破損で漏れ出したのか。だとすると、船は何かにぶつかったのか。だが付近は深海で、海底まで5キロはある。何らかの「動くもの」が衝突したのではないか――。
著者はやがて「潜水艦の男」から証言を得る。
海難事故の真相を追いかける謎解きと、緻密な構成、巧みな筆致にぐいぐいと引き込まれる。
だが本書の魅力はそこにとどまらない。取材先に何度も足を運び、手紙を書き、公的文書を得るために情報公開請求を試みていく、そのひたむきな姿に心奪われるのだ。
ジャーナリズムを志す、あるいは実践するすべての人に必読の書ではないだろうか。(講談社1800円)
2023年03月27日
【おすすめ本】岸本聡子『地域主権という希望─欧州から杉並へ、恐れぬ地方自治体の挑戦』─世界に広がるミニシュパリズム 岸本・杉並区政の大いなる挑戦=村田安弘(もと講談社・杉並区在住)
「杉並は希望だ」と全 国から注目されている。昨年6月、市民と野党の共闘が実り現職の区長を破り、岸本聡子氏が当選した。東京都・杉並区では初めてのリベラル系・女性区長の誕生である。
新区長、岸本聡子氏はどういう人なのか。岸本氏はベルギーに在住し、NGOの調査研究スタッフとして仕事をし、今、 世界で同時多発的に起きている地域自治主義(ミニシュパリズム)を日本語で発信してきた。その体験を生かして日本に戻り地域に貢献することを考えていたという。
本書は、ドイツ、スペインからアルゼンチンまで世界で起きている住民運動を紹介している。ベルリンの住宅革命は必読。この動きは「杉並区で始まった変革」につながっていると、岸本氏は語っている。
新自由主義は世界中で国や自治体が持っていた公共的な役割を縮小、民営化していった。それを住民が連帯して取り戻していこうという動きが広がっているのだ。
同じ状況だった杉並区も、わずか半年だが大きな変化をしている。区民説明会が開かれるようになり、区長も出席し、区 民の参加も増え、出席者が生き生きと発言している。区のすべての施設は57万人区民の共有財産であるとして、住民無視の道路計画、施設の再編の見直し、学校給食の値下げ、補聴器、 家賃の助成など、矢継ぎ早に区政の転換が進む。
「日本一透明性の高い自治体を目指す!」とい う。岸本区政の理解と支持は急速に拡がる。本書は「杉並再生」の旗印で あり、自治体から日本を変える壮大な展望に満ちている。(大月書店16 00円)
新区長、岸本聡子氏はどういう人なのか。岸本氏はベルギーに在住し、NGOの調査研究スタッフとして仕事をし、今、 世界で同時多発的に起きている地域自治主義(ミニシュパリズム)を日本語で発信してきた。その体験を生かして日本に戻り地域に貢献することを考えていたという。
本書は、ドイツ、スペインからアルゼンチンまで世界で起きている住民運動を紹介している。ベルリンの住宅革命は必読。この動きは「杉並区で始まった変革」につながっていると、岸本氏は語っている。
新自由主義は世界中で国や自治体が持っていた公共的な役割を縮小、民営化していった。それを住民が連帯して取り戻していこうという動きが広がっているのだ。
同じ状況だった杉並区も、わずか半年だが大きな変化をしている。区民説明会が開かれるようになり、区長も出席し、区 民の参加も増え、出席者が生き生きと発言している。区のすべての施設は57万人区民の共有財産であるとして、住民無視の道路計画、施設の再編の見直し、学校給食の値下げ、補聴器、 家賃の助成など、矢継ぎ早に区政の転換が進む。
「日本一透明性の高い自治体を目指す!」とい う。岸本区政の理解と支持は急速に拡がる。本書は「杉並再生」の旗印で あり、自治体から日本を変える壮大な展望に満ちている。(大月書店16 00円)
2023年03月21日
【おすすめ本】西山 太吉 佐高 信『西山太吉 最後の告白』―沖縄密約スクープ事件の真相 対談の名手が解きほぐす=鈴木耕(編集者)
佐高信は対談の名手である。軽妙な語り口で相手の気持ちを解きほぐし、いつの間にか本質に迫っていく。しかし本書はいつもの佐高節ではない。のっけから正攻法の質問を繰り出す。あの「沖縄密約スクープ」の西山太吉ががっしりと受け止め真剣な言葉が飛び交う中身の濃い対談となった。
西山は1956年、毎日新聞入社、やがて政治記者となり自民党「宏池会」を担当、宏池会の懐の深さに惚れ込む。今の岸田首相が所属する派閥である。派閥の力学と闘争の凄まじさを西山は淡々と語る。池田勇人元首相や、とくに大平正芳元首相としきりに酒席を共にして胸襟を開き、さまざまなスクープをものにしていく過程は、いわゆる旧い政治記者そのものだが、そこに平和への希求という裏付けが仄見えるので、納得させられてしまう。
この辺りはまさに、戦後政治史、それも自民党派閥史だ。しかしスクープ記者としての西山が最後の光を放ったのは、「沖縄密約」問題スクープであった。本書の「第六章・沖縄密約、その構図を多面的に分析する」で政治に翻弄されるジャーナリストの厳しい闘いに触れる。1972年の沖縄返還に伴う裏金400万ドルを日本側が負担するという密約を暴き、佐藤栄作内閣を震撼させる。だがそれは一転、西山が女性事務官と情を通じ#髢ァ文書を持ち出させたというスキャンダルに転じる。政治と司法が組んだ図式にメディアはまんまと乗せられていく。佐高は「国家のウソを暴いた記者は残念ながら西山だけである」と嘆くのだ。
まさに「西山太吉の最後の告白」とのタイトルに相応しい新書である。
西山は1956年、毎日新聞入社、やがて政治記者となり自民党「宏池会」を担当、宏池会の懐の深さに惚れ込む。今の岸田首相が所属する派閥である。派閥の力学と闘争の凄まじさを西山は淡々と語る。池田勇人元首相や、とくに大平正芳元首相としきりに酒席を共にして胸襟を開き、さまざまなスクープをものにしていく過程は、いわゆる旧い政治記者そのものだが、そこに平和への希求という裏付けが仄見えるので、納得させられてしまう。
この辺りはまさに、戦後政治史、それも自民党派閥史だ。しかしスクープ記者としての西山が最後の光を放ったのは、「沖縄密約」問題スクープであった。本書の「第六章・沖縄密約、その構図を多面的に分析する」で政治に翻弄されるジャーナリストの厳しい闘いに触れる。1972年の沖縄返還に伴う裏金400万ドルを日本側が負担するという密約を暴き、佐藤栄作内閣を震撼させる。だがそれは一転、西山が女性事務官と情を通じ#髢ァ文書を持ち出させたというスキャンダルに転じる。政治と司法が組んだ図式にメディアはまんまと乗せられていく。佐高は「国家のウソを暴いた記者は残念ながら西山だけである」と嘆くのだ。
まさに「西山太吉の最後の告白」とのタイトルに相応しい新書である。
2023年03月14日
【おすすめ本】北海道放送報道部 道警ヤジ排除問題取材班『ヤジと民主主義』―事件の全容、マスメディアの自覚問う=高田正基(北海道支部)
あのとき現場で何が起きていたのか、北海道警察の対応にどんな問題があったのか、裁判所は道警の何を裁いたのか―。「言論の自由」「表現の自由」が脅かされた事件は、だれもが手にできる記録として残さなければならないものだった。その全容が一冊の本にまとめられた意義はそこにある。
2019年7月15日、札幌で参院選の街頭演説をしていた安倍晋三首相に「安倍やめろ」「増税反対」などとヤジを飛ばしたりプラカードを掲げたりした市民が、警察に強制的に排除された。
この事件を最初に大きく報じ、問題を指摘したのは朝日新聞だった。現場には多くの記者たちがいたが反応しなかった。「首相の警護ならこれくらい当然」と受け止める記者もいた。
記者をしていれば、抜かれることはある。大切なのは抜かれた後だ。北海道放送(HBC)の記者たちはその大切なことを貫いた。現場の映像を集め、関係者の声を聞き、言論弾圧の歴史をひもとき、道外で起きた同種の事件も取材した(本書のベースとなったドキュメンタリ―番組はJCJ賞を受賞している)。
本書は価値ある事件記録であると同時に、優れたジャーナリズム論の書でもある。ヤジ排除はメディアの目の前で行われた。HBCの取材を受けた元道警幹部の原田宏二さん(21年死去)が「あなたたち(警察に)無視されたんですよ」と語った言葉を忘れてはいけない。
一連の取材の責任者であるHBC報道部の山ア裕侍氏はこう書く。「一人ひとりの記者は民主主義の最前線にいる」。その自覚があるメディアを信じたいと思う。
一審で完全敗訴した道警側は控訴した。事件はまだ終わっていないのだ。
(ころから1800円)
2019年7月15日、札幌で参院選の街頭演説をしていた安倍晋三首相に「安倍やめろ」「増税反対」などとヤジを飛ばしたりプラカードを掲げたりした市民が、警察に強制的に排除された。
この事件を最初に大きく報じ、問題を指摘したのは朝日新聞だった。現場には多くの記者たちがいたが反応しなかった。「首相の警護ならこれくらい当然」と受け止める記者もいた。
記者をしていれば、抜かれることはある。大切なのは抜かれた後だ。北海道放送(HBC)の記者たちはその大切なことを貫いた。現場の映像を集め、関係者の声を聞き、言論弾圧の歴史をひもとき、道外で起きた同種の事件も取材した(本書のベースとなったドキュメンタリ―番組はJCJ賞を受賞している)。
本書は価値ある事件記録であると同時に、優れたジャーナリズム論の書でもある。ヤジ排除はメディアの目の前で行われた。HBCの取材を受けた元道警幹部の原田宏二さん(21年死去)が「あなたたち(警察に)無視されたんですよ」と語った言葉を忘れてはいけない。
一連の取材の責任者であるHBC報道部の山ア裕侍氏はこう書く。「一人ひとりの記者は民主主義の最前線にいる」。その自覚があるメディアを信じたいと思う。
一審で完全敗訴した道警側は控訴した。事件はまだ終わっていないのだ。
(ころから1800円)
2023年03月09日
【おすすめ本】森永康平『国の借金は問題ないって本当ですか?』―レベルが「高い」経済書 中央銀行の役割を的確に示す=藤井 聡(京大大学院教授)
本書は新進気鋭の経済アナリスト、森永康平氏による、一般の国民に向けて書かれた経済書だ。
この本が特に着目しているのは「国の借金は問題ないのか」という点なのだが、実を言うとこの一点こそ、今、政府が何をなすべきなのかを占う上で最も¥d要な論点なのだ。そして本書はそんな重大な問題について、一般のサラリーマンは言うに及ばず、中高生でも苦も無く最後まで読み通す事ができる極めて秀逸な一冊だ。
しかしだからといって、論じられている内容のレベルが低いというわけではない。
世間には経済書が山ほど出回っているが、それらよりも本書の方が圧倒的に内容のレベルが「高い」。だから経済学部の学生は言うに及ばず、学者や評論家、そして何より経済政策に関わる政治家・官僚こそが、精読すべき一書でもある。なぜなら、多くの『専門家』達が信じて疑わない一般的な経済政策論は、銀行≠ニりわけ中央銀行≠ェどの様な役割を担っているのかを(驚くべき事に)『完全に無視』した上で作られたものである一方で、その点を明らかにした上で的確に論ずるものこそ、本書だからだ。
ちなみに本書は、現代貨幣理論(MMT)を様々に活用しながら、最新かつ豊富なデータと実例を紹介しつつ論じたものである。その意味において本書はMMT入門書としても極めて秀逸なものとなっている。
ついては是非、立場や思想信条の別を超え、あらゆる国民に読んでもらいたい。本書がベストセラーになれば日本人の経済政策についての認識が一変し、日本の歴史は確実に変わる――そう確信できる一書なのだ。(技術評論社1600円)
この本が特に着目しているのは「国の借金は問題ないのか」という点なのだが、実を言うとこの一点こそ、今、政府が何をなすべきなのかを占う上で最も¥d要な論点なのだ。そして本書はそんな重大な問題について、一般のサラリーマンは言うに及ばず、中高生でも苦も無く最後まで読み通す事ができる極めて秀逸な一冊だ。
しかしだからといって、論じられている内容のレベルが低いというわけではない。
世間には経済書が山ほど出回っているが、それらよりも本書の方が圧倒的に内容のレベルが「高い」。だから経済学部の学生は言うに及ばず、学者や評論家、そして何より経済政策に関わる政治家・官僚こそが、精読すべき一書でもある。なぜなら、多くの『専門家』達が信じて疑わない一般的な経済政策論は、銀行≠ニりわけ中央銀行≠ェどの様な役割を担っているのかを(驚くべき事に)『完全に無視』した上で作られたものである一方で、その点を明らかにした上で的確に論ずるものこそ、本書だからだ。
ちなみに本書は、現代貨幣理論(MMT)を様々に活用しながら、最新かつ豊富なデータと実例を紹介しつつ論じたものである。その意味において本書はMMT入門書としても極めて秀逸なものとなっている。
ついては是非、立場や思想信条の別を超え、あらゆる国民に読んでもらいたい。本書がベストセラーになれば日本人の経済政策についての認識が一変し、日本の歴史は確実に変わる――そう確信できる一書なのだ。(技術評論社1600円)
2023年03月01日
【おすすめ本】吉原 康和『歴史を拓いた明治のドレス』―日本近代化の陰の力 皇后洋装化に映る明治=新堀浩朗(共同通信編集委員)
本書は、日本で初めてドレスを着た皇族である明治天皇の后「昭憲皇太后」が、女性の洋装を通じて日本近代化の陰の推進力となったことを、華やかなドレスの写真と共に浮かび上がらせる。
東京新聞で宮内庁を長く担当している筆者が、同紙で連載した特集に大幅に加筆した。
初の洋服着用は1886(明治19)年7月。2日後には洋装で外出している。背景には、維新の元勲伊藤博文の宮中方針があった。日本が西洋諸国と対等であると示すため「衣装問題は日本では政治問題」と語ったという伊藤が、皇后の洋装化を周到に進めた様子が解き明かされる。
殖産興業の観点を持っていた皇太后は洋装と併せて国産服地の使用を奨励する一方、活動的な洋服で文化、福祉施設を訪問。その姿が国民に伝わり、近代の皇后像が確立された経緯もわかる。
皇太后着用の「マント・ド・クール(大礼服)をはじめ、皇族、華族が着用した数々のドレスを鮮やかなカラー写真で掲載しているのも魅力。
各ドレスについて関係者への丹念なインタビューを重ね、史料や文献を渉猟、新たにわかった事実も盛り込んでいる。当時の国内事情や国際情勢との関係も考察され、逸話を読み進めると、華麗なドレスが宮中で精細を放った明治という時代の空気が伝わってくる。
皇太后の大礼服の修復・研究プロジェクトと上皇后美智子さまとの関係も紹介され興味深い。
明治のお雇い外国人は女性の和装を好む傾向があったという。日本のこれからの装いはどうなるのだろうと、考えさせられもする。(GB1980円)
東京新聞で宮内庁を長く担当している筆者が、同紙で連載した特集に大幅に加筆した。
初の洋服着用は1886(明治19)年7月。2日後には洋装で外出している。背景には、維新の元勲伊藤博文の宮中方針があった。日本が西洋諸国と対等であると示すため「衣装問題は日本では政治問題」と語ったという伊藤が、皇后の洋装化を周到に進めた様子が解き明かされる。
殖産興業の観点を持っていた皇太后は洋装と併せて国産服地の使用を奨励する一方、活動的な洋服で文化、福祉施設を訪問。その姿が国民に伝わり、近代の皇后像が確立された経緯もわかる。
皇太后着用の「マント・ド・クール(大礼服)をはじめ、皇族、華族が着用した数々のドレスを鮮やかなカラー写真で掲載しているのも魅力。
各ドレスについて関係者への丹念なインタビューを重ね、史料や文献を渉猟、新たにわかった事実も盛り込んでいる。当時の国内事情や国際情勢との関係も考察され、逸話を読み進めると、華麗なドレスが宮中で精細を放った明治という時代の空気が伝わってくる。
皇太后の大礼服の修復・研究プロジェクトと上皇后美智子さまとの関係も紹介され興味深い。
明治のお雇い外国人は女性の和装を好む傾向があったという。日本のこれからの装いはどうなるのだろうと、考えさせられもする。(GB1980円)

