2020年09月27日

【今週の風考計】9.27─今こそ必要なコロナに立ち向かう世界の連帯

◆新型コロナウイルスの感染者が、中国・武漢で最初に見つかってから9カ月が経過した。武漢で何が起きていたのか。1月20日に都市封鎖令が出されて以降の状況を伝えるドキュメントが刊行された。
◆方方『武漢日記─封鎖下60日の魂の記録』(河出書房新社)である。一気に読んだ。
 武漢に住む65歳の高名な女性作家が、自身のブログで武漢の実情を、当局の手で削除されたり、中国の極左分子「ネトサヨ」から攻撃されたり、様々な圧力や妨害にもめげず、日記の形で綴った感動にあふれる書だ。
 ⾝近な⼈が次々と死んでいく悲惨な状況、医療現場の疲弊と焦燥、とりわけ殉職医師・李文亮への思い、事実を隠ぺいした当局者への怒り、メディアの怠慢など、著者の目線の厳しさが、ひしひしと伝わってくる。
 武漢だけで感染者5万人、死者3800人という深刻な結果となったが、それに立ち向かった庶民の苦労や悲哀へ注ぐ目線は極めて温かい。

◆いま武漢はコロナ感染が収束し、10月1日から8日までの「国慶節」の連休には、武漢の名所「黄鶴楼」への旅行が人気トップだという。中国内を6億人も移動するが、コロナ感染拡大の懸念はないのか。いま中国全体で感染者9万人・死者4700人に上るというのに。
◆さらに深刻なのは世界全体で感染者3257万人、死者98万人を超えたことだ。感染者が最も多いのは、先進国ナンバーワンの米国で703万人、2位インド590万人、3位ブラジル468万人となる。上位3カ国に世界の感染者の54%が集中する。
 しかも米国は死者が20万人を超え、今もなお1日に新規感染者が5万人もふえ、かつ1日に960人近くが死亡するという、世界各国の中でも最悪の事態が続いている。

◆だがトランプ大統領は、国連総会の演説で「武漢肺炎によるパンデミックを引き起こした原因は中国にあり、責任を取らせねばならない」と激しい言葉で各国に同調を促した。
 その背景には、トランプ大統領が11月の選挙で再選を狙うため、感染防止対策を軽視した責任を中国に転嫁し、自らの「コロナの影響は大きくない、8月にも沈静化する」との発言を取り繕うためといわれている。
◆75周年となる国連のグテーレス事務総長は「コロナの感染拡大は医療危機、経済不況と大量失業、さらに人権侵害という脅威を同時にもたらしている」と述べ、危機打開に向け各国に結束と連帯の必要性を訴えた。
 自国第一主義による他国非難や経済制裁をやめるよう促し、さらにはコロナ・ワクチンの自国向け独占取引・ウラ取引など、いわゆるワクチン国家主義へ警鐘を鳴らした。

◆いま欧州ではコロナ感染がフランスやスペインで1日に3万人の規模で増え、集会や外出の禁止など、再規制に躍起となっている。
 ところが菅政権は「Go Toキャンペーン」を拡大し、さらに全世界から外国人の入国受け入れを決めた。当面は3カ月以上滞在する医療従事者、スポーツ選手、留学生などに限るとはいえ、解禁で感染拡大の危険が強まるのは火を見るより明らかだ。止めたほうがいい。(2020/9/27)
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2020年09月20日

【今週の風考計】9.20─コロナ禍で進む「ふるさと納税」の歪み

コロナ禍での「ふるさと納税」が、菅義偉首相の誕生により再び注目を集めている。この制度は、菅氏が総務相時代の2007年に制度創設を表明し、翌年からスタートさせた。2012年には官房長官に就任、その3年後には税額控除を倍増させた。

「ふるさと納税」は、自治体に寄付すると、額に応じた魅力あふれる返礼品がもらえる。かつ自己負担の2000円を除いた寄付金は、そのまま住民税から控除される。寄付をすればするほど寄付者が“もうかる”仕組みだ。
 現に高額所得者が、自分の住んでいる自治体には税金を払わず、地方から贈られる高級和牛やカニなどを堪能している。こんな不合理がまかり通るようになった。居住する地域の医療や図書館など、公共施設の運営に要する税を負担しないとは。
 日本に在住している外国人が、子供を日本の学校に通わせながら、「税金は母国に払う」と言ったらどうするか。
 まさに「ふるさと納税」は税制度の根幹を揺るがしている。

今や寄付額は08年度81億円から18年度は395万人が5127億円まで急増し、税金の控除額は3265億円に達した。こうなると各自治体は、何が何でも寄付額を増やそうと、自治体間での返礼品競争が激しくなる。
 地方の特産品どころか、アマゾンのギフト券を返礼品として配る大坂・泉佐野市も出てきた。事実上の現金還元だ。
 最近では長野県御代田町が、町内の遺跡から出土した縄文土器の実物大レプリカを、「ふるさと納税」の返礼品にした。5万円以上の寄付が前提にもかかわらず即完売。神奈川県南足柄市への寄付額が2019年は27億円、前年の約8倍に激増した。これも丹沢山系の水を利用したビールを返礼品に加えたためである。

財政が逼迫している地方の自治体には、「ふるさと納税」は降ってわいた財源、よだれが出るほど欲しい。地方自治体間で「ふるさと納税」の取り合いである。「地方創生・産業振興」への取り組みなど、すっ飛んでしまう。
その一方、「ふるさと納税」に流れて税収が減った、首都圏を中心にした自治体の悲鳴は深刻になるばかり。東京・渋谷区は26億円もの住民税が流出する、いわば“ふるさと納税貧乏”状態だ。同じ杉並区では2019年度25億円近くの財源が流出した。
 コロナ感染拡大に対応しての緊急な財政支出がかさみ、そのうえ税収が減れば、道路や公園など公共空間や施設の維持・管理は滞る。街灯の電球が交換されなくなり、廃棄物の収集回数は減るなど、深刻な事態が進む。

コロナ禍で巣ごもり需要による「ふるさと納税」の伸びが目立つ背後で、所得の高いものほど税額控除が大きくなる矛盾、そして自治体間の無用な競争をあおり、<税の応益負担>へ不信が募る、ここに目を向けなければダメ。(2020/9/20)
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2020年09月13日

【今週の風考計】9.13─憲法の「非戦・平和主義」を骨抜きにしてきた7年8カ月

<最後っ屁>とはいうが、安倍首相が放ったのはイタチよりひどい。あと7日もない首相の座から「敵基地攻撃能力」の保有を促す談話を発表した。自民党内の討議も経ず、閣議決定もなし。自民党内ですら「辞めていく首相が方針を決めるのはおかしい」と、反発の声が出ている。
これまで政府は、「敵基地攻撃能力」について、憲法上は保有を認められるが、専守防衛の観点から政策判断として持たないとの立場を維持してきた。
 こうした方針を大転換させる談話で、よしみを通じるとはいえ、次期の「菅政権」に年内という期限付きで政策決定を求めるのは言語道断だ。
 「ミサイル反撃」と言うが、他国の領域を標的にする兵器の使用は、専守防衛を逸脱するのは明白なうえ、先制攻撃にもなりかねない。まさに憲法9条が死滅する。

「ミサイル反撃」への対応にしても、まず他国から発射されるミサイルを正確に予測し把握せねばならず、宇宙空間での監視が不可欠。そのため早期警戒衛星の打ち上げが必要になる。日本が独自に持つと年間850億円かかる。さらなる地対空誘導弾パトリオットの拡充も迫られる。
いま防衛省が準備している「敵基地攻撃」の一つには、北朝鮮や中国、ロシア沿岸部に到達する射程500キロの弾道ミサイル「スタンド・オフ・ミサイル」(ノルウェー製)がある。それを2022年3月までに購入し、航空自衛隊のF-35Aステルス戦闘機に搭載して運用する計画だ。
 これも専守防衛との整合性について議論を尽くさずに導入を決定した。
さらに敵基地のレーダーや通信などの防空網をかいくぐって攻撃するには、電子戦機やステルス戦闘機が必要になる。電子戦機もステルス戦闘機も1機100億円。その維持費や要員の訓練なども含む経費を考えれば、年5兆円の防衛予算が、さらに拡大の悪循環に陥る。

安倍政権の7年8カ月、日本の安全保障を脅かす暴挙が、どれだけ繰り返されてきたか。
 2014年4月には「積極的平和主義」の名の下、武器輸出の禁止を解除。7月には憲法解釈の変更で、集団的自衛権の行使容認を、国会での議論を経ずに、閣議決定で一方的に決定した。翌年9月には学者や国民の反対にもかかわらず、安保関連法を強行採決で成立させた。
 自衛隊が地理的な制限もなく海外に派遣される攻撃部隊と化し、米軍との一体化が加速、憲法の「平和主義」が骨抜きにされた。
その間、トランプ大統領のご機嫌を伺い、兵器の爆買いに奔った。核兵器禁止条約には背を向け、「東アジア平和共同体」構想など視野にもない。
 安倍政権の一強支配による権力行使の7年8カ月は、日本を「戦争する国」へと歩ませる道程だったといっても過言ではない。(2020/9/13)
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2020年09月06日

【今週の風考計】9.6─またも「大阪都構想」を住民投票に付す愚の行き着く先

◆人口270万の大阪市をつぶし、4つの特別区に分割する「大阪都構想」が、5年前に住民投票で否決されたにも関わらず、再び是非を問う住民投票が、18歳以上の大阪市民を対象に11月1日に行われる。公明党は都構想に反対してきたが、大阪府内で得た4議席に、維新が対抗馬をぶつけると脅し、無残にも賛成に転じたためだ。
 コロナ禍が拡大する中、なぜ今再び? の疑問や批判の声は大きく広がる。

◆北区、中央区、天王寺区、淀川区に分割される特別区といえども、その業務遂行には、膨大なコスト・経費がかかる。そのうえ大阪市という大きな財源を背景に実施してきた独自の住民サービスが、維持できなくなる危険は大きい。
 これまで大阪市は、18歳までの医療費助成、地下鉄・市バスの敬老パス、ひとり親家庭への医療費助成、新婚・子育て世帯向けに分譲住宅の購入には利子補助など、数多くの住民サービスを実施してきた。それが脅かされるのだ。
◆「水道」「消防」「都市計画」にかかわる権限も全て府に奪われ、特別区の住民の生活環境の保全が危うくなり、経済政策と連動した税収確保にも大きな影響が出てくる。
 「介護保険」についても、その事務作業は「府」と「特別区」に分けられないので、年間予算6400億円、400人の職員を抱える「一部事務組合」を新設して、そこで一括して担うというのだ。こんなムダはいらない。
◆国からの地方交付税も、4つの「特別区」それぞれが必要経費を算出して交付を受けるのではなく、今後も「大阪市」が存続しているとみなして計算し、大阪府が交付を受けるという。これでは「特別区」が実際に必要とする額には、200億円も不足するといわれる。

◆特別区の区役所はどこになるのか。はじめは4つの特別区に新庁舎を設置するとしていたが、600億円も必要となり、公明党の要望を受け、いまの大阪市役所・中之島庁舎を北区とともに合同で使う案が浮上した。淀川区の職員は8割、天王寺区の職員は5割が、中之島庁舎へ通い、間借りして仕事をこなすことになる。
 行政サービスは、「ニア・イズ・ベター」が鉄則だが、災害時の復旧・復興の拠点ともなる市役所が、そばにないとなれば、住民の不安は増すばかりだ。住民の住む自治体の区域外に本庁舎がある例は、鹿児島と沖縄の離島だけ。

◆「大阪都構想」の問題を深く掘り下げるオンライン講演会が開催されます。ぜひ参加を!
JCJオンライン講演会:大阪都構想 七つの大罪
日時:9月13日(日)午後2時〜3時30分
講演@「大阪都構想、七つの大罪」ジャーナリスト・幸田 泉さん
講演A「維新の歴史と大阪のたたかい」大阪市をよくする会・中山直和さん

参加費:500円

【参加ご希望の方は https://peatix.com/event/1606843をパソコンなどで開きpeatixを通じてお支払い手続きをしてください。講演前日の9月12日にZoomのURLをメールでお送りします】
(JCJ会員とメディアを考える会・大阪の会員は無料。onlinejcj20@gmail.comに別途メールで申し込んでください)
主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)関西支部、メディアを考える会・大阪
お問い合わせ:03・6272・9781(JCJ事務所) または090・6673・7377(清水)へ

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2020年08月30日

【今週の風考計】8.30─黒人銃撃と「自警団」そして関東大震災・亀戸事件

米国のウィスコンシン州ケノーシャで、23日、黒人男性が警官に背後から至近距離で7発もの銃撃を受け、半身不随の重傷となった事件は、またまた大きな波紋を広げている。
 28日には、キング牧師が「私には夢がある」と演説したワシントン大行進から57年を迎え、一連の黒人銃撃に抗議し「人間の権利と平等と融和」を訴える数千人規模の大集会が、ワシントンで開かれている。
プロテニスの大坂なおみ選手は、ツイッターで「私はアスリートである前にひとりの黒人女性です。(中略)警察の手により黒人が虐殺され続けるのを目にすることは、正直言って吐き気がします」と、内外に訴えている。
 彼女は、5月25日の警官によるフロイドさん殺害事件への抗議デモにも参加し、これまで熱心に黒人差別に対するプロテストと思いを発信している。

ところが25日の夜、米国ケノーシャでの抗議デモに参加した市民が、なんと17歳の白人の少年にライフル銃で撃たれ、2人が死亡、1人が重傷を負った。
 少年は、警官にシンパシーを寄せるだけでなく、地元の白人中心の武装組織「自警団」と一緒に行動していたという。1月にはアイオワ州でのトランプ大統領の集会に出かけ、最前列に座ってエールを送るなど、熱烈なトランプ支持者だという。
 17歳の少年までも銃口を人に向ける現状に、米国社会の病巣の深刻さが際立つ。
しかし、トランプ大統領は、現地に州兵の派遣を表明、大統領選に向けて支持拡大の「法と秩序」の維持を掲げ、黒人差別への抗議デモと警官・「自警団」との対立をあおり、市民を分断し「憎悪の連鎖」に巻き込む危険を、ますます拡大させている。

日本はどうか。「自警団」といえば、いま日本の各地に「コロナ自警団」がはびこっている。コロナへの恐怖心に付け入り市民を相互監視、自粛に従わない人や休業しない店舗、さらには感染者を「コロナをうつす加害者」扱いして責める。この「コロナ自警団」が、正義の鉄槌を下すとばかりに攻撃衝動を発散している。
 政府・自治体にとって「コロナ自警団」は、行政の怠慢は棚上げし、かつ上からの行動規制は推進してくれる、まさに一石二鳥の存在だ。

思い出してほしい。今から97年前の9月1日、関東大地震が発生、その直後から「朝鮮人が暴動を起こした!」「井戸に毒を入れた」などの恐怖をあおる流言が意識的に拡散され、多くの朝鮮人が虐殺された事態である。
 政府や警察みずからデマを広げ、<不逞鮮人の襲来>に備えて、在郷軍人・青年団・消防団を中心に「自警団」を組織するよう促した。その数は関東一円で3000とされる。
 国の「お墨付き」による「自警団」は、棍棒・竹槍・日本刀・鳶口・猟銃などで武装し、通行人を検問、朝鮮人とみるや迫害・虐殺した。2日夜から3日にかけての蛮行はすさまじい。犠牲者は数千人に及ぶ。
9月3日になると、さらに「不逞鮮人を煽っているのは主義者だ」のデマが流される。市民の同調圧力にも助けられ、警察と軍は大手を振って、社会主義者を一挙に根絶やしにする作戦に出る。
 東京・南葛飾地域の労働組合青年幹部ら10人を、相次ぎ亀戸署に留置、軍に引き渡してのち、5日未明、近衛師団の騎兵第13連隊の兵士によって刺殺された。「亀戸事件」である。

米国であれ日本であれ、昔も今も「自警団」が組織されるとき、それを権力者や警察が利用する恐ろしさは、十二分に認識・警戒しておかなければならぬ。(2020/8/30)
posted by JCJ at 08:11 | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年08月23日

【今週の風考計】8.23─国債乱発! コロナ後にくる財政破綻の危機

コロナ感染拡大による経済の停滞・混乱は深刻さを増し、倒産や失業は増える一方だ。今年4〜6月期の国内総生産(GDP)は、年率換算で−27.8%、戦後最悪のマイナス幅となった。世界を見ても今年の経済成長率は−5%、落ち込みは「大恐慌以来最悪」になるという。

一方で、株価は上昇を続け「コロナ長者」まで生まれている。実体経済とかけ離れた“危うい株高”を支えているのは何か。安倍政権の国債乱発と日本銀行・黒田東彦総裁による国債「買い支え」策にある。市場には「経済が悪化しても日銀が支えてくれる」との期待があるからだ。
 もともと日銀は、国債の買い付けが禁止されている。ただし特別の事由がある場合、国会の議決を経たときは許されている。この「禁じ手」を使って、日銀は国債を無制限に買い続けている。
証券会社が利子もつかない国債を買うのは、金利が上がった際には、「日銀トレード」という日銀への転売で、利ざやが稼げるからという。
 加えて日銀は上場会社の投資信託(ETF)を年間12兆円も購入し、社債の買い入れ枠も3倍に増やし、株価の下落を食い止めている。
 この安倍・黒田二人三脚の「財政ファイナンス」が、株価の下支えをしているのだ。

いまや日銀は「通貨の番人」として「政府からの自立」という矜持や使命まで投げ捨て、せっせと市場を通じて国債を大量に購入し、政府の借金を肩代わりする組織となり下がった。
 2020年度に発行する新規国債だけ見ても、過去最大の90兆円になる。国の歳出額の半分以上が国債で賄われている。世界各国も国債を発行しているが、国内総生産(GDP)の40%前後にとどまる。だが日本は突出、なんとGDPを大きく上回る120%も発行する異常な事態だ。
その国債を日銀が買ってくれるのだから鬼に金棒、国債が「打ち出の小槌」となっている。加えてコロナ感染「第2波」のまっただ中にいる現在、人々の生活を支える給付金や休業補償などへの再対応が急がれ、政府の国債発行や日銀の国債「買い支え」の弊害を指摘する声は、ほとんどない。

国債は、歳入不足の穴埋めに発行する国の借金証書。現在、借金額は1千兆円、驚異的な水準に達している。赤ちゃんから老人まで、国民一人あたり900万円の借金をしている勘定だ。いつ借金を返すのか、何ら明らかにされていない。
しかも日銀が、国債1千兆円の半分500兆円を所有している。日銀こけたら、国債もパー、国家財政の破綻へと行き着く。2009年ギリシャ危機の悲劇を、将来世代へおっかぶせる無責任は許されない。
 政府のコロナ対策の補正予算58兆円にも“厳しい目”が必要になる。1兆7000億円もの支援事業「Go Toキャンペーン」のズサンさ、不必要・不透明な事業への中止など、野放図な国債発行による財政出動はストップ!(2020/8/23)
posted by JCJ at 07:49 | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年08月16日

【今週の風考計】8.16─リムパックから馬毛島へ─「積極的平和主義」の欺瞞

◆戦後75年、「終戦の日」戦没者追悼式での安倍首相の式辞には、戦争への「深い反省」はない。さらに、これまで盛り込まれていた「歴史と向き合う」趣旨の文言まで削除してしまった。加えたのが「積極的平和主義」なる文字。この正体がクセモノダ。

◆15日が明けるや否や自衛隊と米軍の合同軍事演習が始まる。「リムパック2020」だ。17日から31日まで、米国ハワイ沖で行われる。世界的なコロナ感染拡大を踏まえ、中止に傾いていたのが、米海軍への安倍政権の強力な働きかけで開催されることとなった。
◆日本からは、海上自衛隊のヘリコプター空母「いせ」とイージス駆逐艦「あしがら」に加え、搭載航空機2機、隊員約550人が参加し、対空戦、対水上戦、対潜戦訓練などを行う。しかしコロナの影響は甚大で、実施期間も3分の1の2週間に短縮され、参加国も10か国を下回り3分の1となる。
 自衛隊員のコロナ感染不安も募る。さらに肝心の米海軍にしても、演習の中心となる航空母艦が参加しない。それでも「積極的平和主義」の実践に、自衛隊を参加させたい狙いが透けて見える。

◆「リムパック」参加だけではない。防衛省は鹿児島県・種子島から西12キロほど離れた東シナ海上の馬毛島に新基地を作ると公表した。米軍空母に艦載する戦闘機の離着陸訓練を行うため、馬毛島に滑走路2本を新設し、かつ自衛隊基地の施設配置案も提示した。
 自衛隊員150〜200人の常駐を前提に、F35B戦闘機や輸送機オスプレイの訓練を想定している。
 8月中にも地元説明会を開く予定で、秋にはアクセス評価の手続きに入り、早期着工を目指す。工期は4年程度を見込み、早ければ6年後には米軍と自衛隊との共同訓練が始まる。
 この米軍空母艦載機の離着陸訓練(FCLP)とは、地上の滑走路を甲板に見立てて、空母からの離着陸をスムーズに行う訓練である。今から9年前、太平洋の硫黄島で実施している米軍のFCLPを、馬毛島に移す共同文書が交わされたことに始まる。

◆昨年11月、トランプ大統領にせかされたのか、安倍政権は馬毛島の大部分を所有し、かつ島内での違法な開発・森林伐採が指摘されている会社と、急きょ評価額45億円の3倍を超える160億円で買収合意した。
 これまた「森友学園への国有地払い下げ」の逆バージョンばりに、なぜ3倍も高い買収額、すなわち国民の税金を支払ったのか、その算定根拠や経過は闇のまま。

◆国会も開かずダンマリ、安倍政権の無責任体質は底なしだ。コロナだけではない。辺野古新基地の海底にある軟弱基盤へのズサンな対応といい、秋田と山口での「イージス・アショア」の配備撤回、敵基地攻撃能力の保有を検討するなど、説明責任を果たさず、地方自治をないがしろにするのは許されない。
 しかも「積極的平和主義」なるフレーズで、憲法にも関わる国の安全保障政策を決めるなど、思い上がりも甚だしい。(2020/8/16)
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2020年08月09日

【今週の風考計】8.9─見上げてごらん、コロナ禍の夏の夜の天空を。

この5日、明るい星のように光る球体が、19時45分ごろ西の低空から浮かびあがり、3分後の49分には南西45度の天空で最高点に達し、19時51分ごろ南の低空へ移動し消えた。わずか6分のドラマを、東京郊外の自宅の2階ベランダから、孫と一緒に見つめた。
 地上から約400kmの上空に建設された実験施設・国際宇宙ステーション(ISS)が、地球を周回する光跡である。ISSはサッカー場くらいの大きさを持ち、約90分で地球を一周している。残念ながら我がカメラでは、その光る球体を撮ることができなかった。

天空に関心が及ぶこの1週間、6日の広島・9日の長崎に投下された原爆を思い、「キノコ雲」と「黒い雨」の怖ろしさを噛みしめる。
 75年前の8月6日午前8時15分、米軍が広島市にウラン235原子爆弾を投下。上空 580mで爆発、市街3分の2を破壊し56万人が被爆、年末までに14万人が死亡した。
 そして3日後の8月9日午前11時2分、米軍は長崎市にプルトニウム239原子爆弾を投下。上空 500mで爆発、市域は半分が破壊され、年末までに7万人が死亡した。
 唯一の戦争被爆国である日本政府は、核兵器禁止条約の批准すらしない。核保有国では核軍拡が進む中、「橋渡し」などの詭弁で逃げるとは何事か。

35年前の8月12日午後6時56分、日本航空123便が御巣鷹山に墜落、乗客乗員520人が死亡、生存者4人。事故は、ボーイング社による後部圧力隔壁の修理が不完全なため損壊し、操縦ができなくなり墜落したといわれる。だが今もなお事故原因や墜落への疑問・謎は尽きない。
 今年の8月12日は深夜から13日の未明にかけて、北東の空にペルセウス座流星群が放射状に流れ星を光らせる。哀悼の光だろう。
また16年前の8月13日、宜野湾市の沖縄国際大学構内に、米軍普天間飛行場に所属するCH53D大型輸送ヘリが墜落・炎上した。飛散したヘリの破片は多くの民家や車両などに被害を与えたが、死者が出なかったのは奇跡というほかない。
 いまだに米軍ヘリや戦闘機の不時着・炎上・部品落下などの事故が、後を絶たない。重大な問題は、事故現場が日本の民間地にもかかわらず、日本の捜査権が及ばない、まさに「治外法権」がのさばっている実態にある。

コロナ禍の暑い夏、天空を見上げながら、「キノコ雲」や山のかなたに消えた機影、そして落ちてくる米軍機や部品に思いを広げる。そうだ! これらは自然災害じゃない、まさに人災だ! その現実のむごさに、鳥肌が立つ。(2020/8/9)
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2020年08月02日

【今週の風考計】8.2─米国が求める<ジャガイモ協定>は拒否せよ!

コロナ禍の中、家での飲食が多くなった昨今、ご飯のおかずは肉ジャガ、酒のつまみにポテサラ、TVを見ながらポテチと、ジャガイモをお供にすることが増えた。それにしても長梅雨・日照不足により野菜が高騰、ジャガイモ1個で100円とは恐れ入る。
 そんなところに「生食用バレイショ 米国が輸入解禁要求」という見出しに目がいった。「赤旗」(8/1付)の4面最下段である。紙智子参院議員と農水省とのやり取りを読んで、にわかに興味を覚え、少し調べてみた。

まずは「生食用バレイショ」が気になる。「バレイショ」は「馬鈴薯」だと気づく。ジャガイモの形が馬につける鈴に似ていることから名づけられたという。だが「生食用」が分からない。
 ジャガイモには生食用と加工用があるのだ。料理や自家製コロッケに使うジャガイモが生食用で「男爵」や「メークイン」、筆者の好きな「インカのめざめ」などがある。加工用ジャガイモは主にポテトチップスに使い、「トヨシロ」や「スノーデン」などの種類があるそうだ。
これら日本のジャガイモ総生産量は240万トン、消費量は1人1年あたり25s、世界平均で32.4s、ベラルーシは171.2kgだから意外に少ない。

ジャガイモは連作ができない。生育が悪くなるうえに病害や寄生虫が発生しやすくなる。とくにジャガイモシロシストセンチュウにかかると、広く伝染し深刻な被害に遭う。このセンチュウは地中で増殖し、10年以上も生存し続け根絶が難しい。
そのため日本では、植物防疫法の指定種苗とされ、検疫を受けていないジャガイモの直接持ち込みは禁止とし、1950年以降、ジャガイモがかかるシロシストセンチュウが米国で発生していることを理由に、米国産の生食用ジャガイモの輸入を禁止してきた。この間にも米国産ジャガイモの輸入をめぐる攻防は続き、押し込まれる事態が進んできた。
ついに2017年9月、安倍政権は米国トランプ大統領の圧力に負け、アイダホ州産の加工用ジャガイモの輸入を、シロシストセンチュウ侵入リスクの低下を理由に解禁した。

さらに米国はこの3月末、生食用のジャガイモまで輸入解禁を求める要請を日本政府にしてきたのだ。もし輸入を認めれば、ジャガイモの国内生産への影響やシロシストセンチュウの流入リスクなど、計り知れない被害が出るのは明らかだ。
 ジャガイモ生産者だけでなく消費者・国民に知らせず、トランプ大統領の再選目当ての支持者向け<ジャガイモ協定>に屈服するのは断じて許されない。(2020/8/2)
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2020年07月26日

【今週の風考計】7.26─「陸・海・空」から宇宙へ拡大するミサイル防衛の怖さ

★政府は、4500億円もの巨費を投ずる迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を断念した。設置予定の秋田県からの強い反対に加え、検討すらしていなかったブースター落下の危険、さらにこれを統御する追加改良への疑問が募り、すでに米国企業に支払った200億円は戻らないのを承知で決断した。
 しかし自民党と安倍政権は転んでも只では起きない。ミサイル防衛を巡り「敵基地攻撃能力」の保有や「陸・海・空」のみならず宇宙にまで広げる軍事計画へと、議論を加速させている。9月にも国家安全保障会議(NSC)で方針をまとめるという。
★計画断念に至る経緯も検証せず、いきなり「敵基地攻撃能力」の保有に奔るとは呆れる。自民党内からは「自衛反撃能力」と言い換え、「専守防衛」の範囲内と強弁し、本質を隠ぺいする姑息な動きも強まっている。

★とりわけ北朝鮮の軍事動向に対応する議論は、危険きわまりない。北朝鮮の弾頭ミサイルは日本全域を射程に収め、発射台つき車両に搭載のうえ地下施設に収容されている。
 すでに数百発は保有し、短時間で発射できるよう実践配備している。さらにミサイルの種別や運用方法も多様化し、同時発射能力や奇襲能力などを高めているという。
 日本による「敵基地攻撃能力」の保有が、北朝鮮のミサイル発射を抑止する保障など一つもない。かえって日朝間の緊張を高め戦争誘発へと導きかねない。
★来年3月には海上自衛隊イージス艦8隻の態勢が整う。防衛省は、さらに2隻増やす検討に入った。日本海に2隻配置し展開すれば、日本のほぼ全域に飛来する北朝鮮からの弾道ミサイルを迎撃できるという。本当かいな。
 しかも2隻で計4千億円の建造費と600人の乗組員が必要となる。コロナ第2波の襲来で未曾有の規模の財政支出が必至、かつ景気低迷が続く中で、さらなる予算計上が許されるのか。訓練も含め600人の乗組員の確保だって、ただでさえ自衛隊員の募集がままならない中で、本当に可能か。

★防衛省は、さらに中国海軍の尖閣諸島への接近など、中国の軍事攻勢に神経をとがらせている。中国は日本を射程に収める弾道ミサイルの増強や宇宙空間での軍拡、マッハ5を超える極超音速ミサイル兵器の開発に傾注している。
 そこで防衛省は、コロナで緊急事態宣言が出されている5月18日、航空自衛隊に部隊員20人の「宇宙作戦隊」を創設した。東京・府中基地を拠点に、将来100人態勢を目指し、昨年末に発足した米国の「宇宙軍」と連携を強めている。
★背景には宇宙空間に広がる中国・ロシアの軍事的脅威がある。航空自衛隊「宇宙作戦隊」が取り組む、人工衛星の防衛や衛星キラーおよび発射ミサイルの早期探知などは、宇宙空間で展開される米・ロ・中の軍事作戦に巻き込まれる危険は大きい。
 いや防衛省は積極的に、電磁波を使って他国の衛星通信を妨げる装備の開発や日本独自の宇宙監視衛星の打ち上げすら計画している。安全保障の基本方針である「専守防衛」を踏み外すことに、つながりかねない。
★安倍首相に問う、コロナ禍の中、1か月以上も記者会見すら開かず、国民の前から雲隠れしている陰で、憲法「九条」をぶち壊す策動をしているとは、どういう神経か。(2020/7/26)
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2020年07月19日

【今週の風考計】7.19─コロナ第2波のなか「Go Toトラベル」強行の愚

「東京外し」でコロナが収まるの? 経済が活性化するの? 「Go Toトラベル」が「Go Toトラル」に陥るのが関の山。政府はコロナ第2波が急拡大しているさなか、1か月も前倒しのうえ22日から始める。あるネット調査では「今はどの地域でも実施すべきではない」が81%を占める。

東京を除外したからといって、コロナ禍が解消されるわけじゃない。東京のコロナ新規感染者数は、この17日には1日当たり過去最多の293人。この数字に注目が集まるが、日本全国に目を向ければ、直近の1日当たり新規感染者数は662人、4月10日の600人を超えている。
今もなお首都圏や地方の都市部を中心に感染が広がっている。夜の街でのクラスター(感染集団)発生に加え、エピセンター(感染集積地)まで形成されている。かつ感染者の半分近くが感染経路不明とくるから恐ろしい。
 コロナ感染の不安を抱え、行く側も受け入れる側も疑心暗鬼での観光旅行なんて、消費喚起どころか、名所を楽しく歩くこともままならない。

4月7日に閣議決定した「Go Toキャンペーン」は、「感染症の拡大が収束し、国民の不安が払拭された後」に実施するとされていた。感染が収まってもいない状況で、1兆3500億円もの税金を投入して「Go Toトラベル」を始めること自体が大間違い、即刻中止すべきだ。
 もともと「Go Toキャンペーン」は、官邸の<アベトモ補佐官>が発想し、経産省や財務省の<安倍ライン>で練り上げられたシロモノ。まさに安倍政権の側近官僚の手で、1兆7000億円もの巨額予算が、費用対効果の点検もなく計上されたのである。
感染を防ぎながら、経済を回す状況をつくり出すには、まずPCR検査を大規模に実施し、感染者の把握、隔離・療養に全力を挙げ、職場や学校・家庭での感染リスクを低くするのが先決だ。
 コロナ第2波が来て、東京の医療現場は逼迫の状況を加速させている。軽症者の宿泊施設の確保もままならない。まずそこへの集中した支援、資金援助も含めた対策が緊急ではないか。

いま世界はコロナ感染が、米国・ブラジル・インドなどで急拡大し、感染者は1400万人、死者は59万人を突破。1日の新規感染者は23万7千人に上る。「パンデミック」は深刻化の一途をたどっている。
 日本は「間違った方向に」舵を切っている。世界から「マスク2枚と10万円の国」と揶揄されるうえに、さらに「Go Toトラベル」などで騒いでいる時ではない。日本も全世界の英知に参加・協力して、コロナ感染症の対策に全力を挙げるときだ。(2020/7/19)
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2020年07月12日

【今週の風考計】7.12─大雨が続く中、一輪のバラとダンディと宮沢賢治

この1週間、降り続いた雨が小止みとなり、家の周りの花々を見てきてほしいと妻にせっつかれ、重い腰をあげた。
 まずはベランダの手すりにかけたプランターを眺めると、アイビーゼラニウムが赤や白の房状の花を元気に広げている。枯れた花殻を摘み取る。レトリスに絡む朝顔は紫の大輪を、誇らしく5つも葉の陰から浮かびあがらせている。

庭に下りてバラに目を凝らせば、バラの若い葉裏に黒い1センチほどのシャクトリムシが付いている。コンチクショウとつぶやきながら、ワリバシで摘まんではサンダルの足で踏みつぶす。
 これは「ヨトウガ」の幼虫で、新芽は食いつぶし、蕾だって中を通り抜けながら食べるので、花が咲くと穴が等間隔に開いて、無残な姿になっている。頭にくる。
3年前に河津町のバガテル・バラ園で購入した「伊豆の踊り子」が、輝くような黄色の花弁を開く。ピンクの大輪「プリンセス・ドゥ・モナコ」や名前は忘れたが白いバラも開花している。ベゴニアやマリーゴールドも色鮮やかだ。
 小さな鉢に植えた赤いミニバラの中から、一輪の花が咲く一枝をハサミで切り、部屋に戻って備前焼の小さな一輪挿しの花瓶に投げ入れる。テレビ台の前の床には、これまた紫色のちっこい花をつけたセントポーリアの鉢がある。やっと腰を下ろし、テーブルの上に広げた朝刊のまわりが、いやに明るく見える。

さて紙面に目を通しながら聴く今日のCDは、ヴァンサン・ダンディ「フランスの山人の歌による交響曲」OP 25、デュトワ指揮・モントリオール交響楽団(DECCA430 278-2)である。コロナ禍の中、毎朝、適当に選んでクラシックを聴く。
 ダンディが毎年夏を過ごした、フランス中部山岳地方セヴェンヌの山々を望む土地ペリエで耳にした牧歌が、主題に充てられている交響曲。35歳の時に作った独奏ピアノが入る珍しい曲だ。ホルンやフルートなど管楽器が多彩に使われ、さわやかなメロディが心地よい。
どこかで聞き覚えのあるメロディ、気になって調べてみると、4年前に亡くなった富田勲の「イーハトーヴ交響曲」(DENON COGO62)、まさに宮沢賢治へのオマージュの中で、多く使われているのが分かった。
 筆者には「フランスの山人の歌による交響曲」の第3楽章が、とりわけ印象に残っているので、「イーハトーヴ交響曲」にある、宮沢賢治作詞・作曲の<剣舞/星めぐりの歌>を聞くと、オオそっくりだと声が出てしまう。

それにしても宮沢賢治という作家は多才である。自ら楽曲づくりも手掛け、作詞は25曲以上、うち8つは作曲もしているとは驚きだ。ダンディの交響曲だって聞いていたに違いない。富田勲の「イーハトーヴ交響曲」には、宮沢賢治の作詞・作曲が3つ入っている。聴いてほしい。
 さらに付け加えれば、賢治は旅好きだった。梯久美子『サガレン』(KADOKAWA) は、宮沢賢治が亡き妹トシの魂を探して、サハリン(樺太)を旅する姿を丁寧に追っている。(2020/7/12)
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2020年07月05日

【今週の風考計】7.5─香港の人権を抑圧する「国家安全法」は撤回せよ!

◆「デジャヴ」(既視感)に襲われた。1カ月前に米国の黒人男性が警官に首を膝で抑えつけられ、「I can't breathe」と叫んでいる写真と、まさにそっくりのショットが、香港返還記念日にあたる7月1日に、香港市街で撮影されていた。
 警官がヘルメットをかぶりゴーグルをつけ、スネ宛てなどの重装備で、街頭デモに参加していた男性の首根っこを締め上げ、催涙弾ピストルをデモ参加者に向けている衝撃的な写真だ。
 これは先月30日に中国が強行した「香港国家安全維持法」に抗議する、市民デモへの弾圧現場をとらえた写真である。

◆香港の繁華街や銅鑼湾地区で300人が、即座に「国家安全法」違反の容疑で逮捕されている。荷物検査まで行い「香港独立」と書かれた旗を隠し持っていたとの理由で検挙している。
 こうした深刻な現実を招来させたのは、ほかでもない中国・習近平政権だ。これまで香港の「高度な自治」を認めてきた方針を投げ捨て、香港の人々の人権を抑圧するだけでなく、中国自らが国際的に公約した、「一国二制度」をブチ壊す暴挙である。
 香港議会での審議も抜きにして、中国政府が一方的に押し付けるなど、民主的手続きを無視しての強行は断じて許されない。
◆しかも香港政府内に、中国政府の出先機関「国家安全維持公署」を新設し、香港における市民的・政治的行動を取り締まるため、中国当局が直接介入し、弾圧ができるようにするとは、中国自らが署名・支持してきた国際人権規約にも反する。
 66条からなる「香港国家安全維持法」は、国家分裂や政権転覆、テロ活動、外国勢力と結託して国の安全に危害を与えたり、威嚇したりする行為を取り締まる。最高刑は終身刑だ。外国人も含め、香港にいる全ての者が処罰の対象だ。裁判の管轄権は中国政府が握る。

◆香港は英国から中国に返還される際、当時のケ小平国家主席は、2047年までの50年間、香港を社会主義化しない「一国二制度」を守ると約束をし、「高度な自治」が保障されてきた。
 香港市民は自らを「香港人」と捉え、とりわけ若者たちの間では自治と司法の独立を誇りに、「雨傘運動」「人間の鎖」など、強圧的な中国への抵抗を繰り広げてきた。
◆しかし、今や一部の活動家グループは「国家安全法」の対象となることを恐れ、香港離脱や活動停止表明をしている。街中でも商店主らが反政府デモを支持するポスターを撤去する動きがみられる。このまま中国に屈服してしまうのか。
 9月6日には香港立法会の議員選挙がある。7月18日から立候補の受け付けが始まる。民主派団体や組織は11日〜12日に候補者を決める予備選を行う。だが選挙管理委員会は、施行された「国家安全法」に反対する候補者は受け付けないのではとの懸念が高まっている。
 それにしても中国政府は、30カ国近くの国際的な批判に対し、「内政干渉」だと一蹴するが、基本的人権を踏みにじっての暴挙には、内政も外政もない。謙虚に耳を傾け香港への「国家安全法」は撤回すべきだ。(2020/7/5)
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2020年06月28日

【今週の風考計】6.28─「BLACK LIVES MATTER」を深く考えるための2冊の本

米国の黒人男性ジョージ・フロイドさんが、20ドルのニセ紙幣を使ったとの疑いで、白人警官に暴行され、死亡した事件から25日で1カ月。
 事件を機に、「黒人の命は20ドルの価値しかないのか?」と起ちあがった抗議デモは、全米50州1700を越える都市に拡大した。差別撤廃や警察の組織改革を訴え、奴隷制など歴史認識の再考も迫る広範な反差別運動に発展している。
 黒人差別解消を求める公民権運動が広がった1950〜60年代以来の規模に膨れあがり、いまや「BLACK LIVES MATTER」を掲げるデモは、欧州やアジアなどにも波及し、国際的なうねりとなった。

米国における黒人差別は、米国社会が宿す根深い腫瘍。南北戦争後の1865年、黒人は奴隷の軛から解放されたとはいえ、「KKK」などの「白人至上主義」組織による<黒人リンチ>が1950年代まで公然と行われてきた。
 木に吊るされて焼き殺されたり、遺体をバラバラに切断されたり、しかも暴徒たちはその遺体の破片を「戦利品」として、持ち帰ったというから恐ろしい。1877年から1950年代の間に、米国南部12州で4084人がリンチで殺害されたことが判明している。
おぞましい<黒人リンチ>の歴史を経て、やっと1964年に差別禁止の公民権法が成立し、黒人は政治制度としては平等の権利を獲得した。しかし実態は安い賃金奴隷という、新たな搾取の罠に陥る犠牲に追い込まれただけである。今もなお白人との格差は歴然とし、深刻さは増している。

警察の暴力を記録する団体の調査によると、2019年に警官に殺された市民は1098人。そのうち白人が406人で37%、黒人が259人で24%という。米国の人口に占める白人の割合は60%、黒人は13%という人口比を考えれば、警官の黒人に対する殺害率は極めて高い。
 刑務所に収容されている囚人の数にしても、人口10万人あたりでは、黒人1501人、ヒスパニック797人、白人268人。これも黒人が白人の5.6倍と異常なほど突出している。マリフアナ所持で逮捕される率は、白人1人に対し黒人4人というデータもある。 警察の捜査や取り締まりは、確実に肌の色に基づいていると言ってよい。

なぜそうなっているのか。矢部武『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)と渡辺靖『白人ナショナリズム』(中公新書)が、きわめて明快に述べている。
前書は、2045年を境に米国全土で白人の占める割合が50%を切り、白人が少数者になるという怯えのあるところに、黒人初のオバマ大統領が誕生し、米国に根深くはびこる「白人至上主義」が「炎上」し、「白人の米国第一主義」を掲げるトランプ大統領を誕生させた、と分析する。
後書は、さらに「白人至上主義」を唱える「オルトライト」(新極右)というキーワードを軸に、米国社会の潮流を解明する。<ハイル・トランプ!>などとナチス流の敬礼でトランプ大統領を祝福するリチャード・B・スペンサーが、12年前に立ちあげた運動である。
 今や米国の白人の6%近く、約1100万人が「オルトライト」に共鳴している。共和党を排外的な国粋主義政党に変え、スティーブ・バノンやスティーブン・ミラーを送り込み、トランプ政権への影響を強めている。怖いほどに草の根のリアルな動きが迫る。

だが、コロナ禍への対応や黒人暴行死事件への抗議の高まりを受け、トランプ大統領への支持は急降下している。11月の大統領選で勝敗の鍵を握る6州すべてで、民主党のバイデン前副大統領への支持が、6〜11ポイントも上回っている。<哀れ! トランプ>。(2020/6/28)
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2020年06月21日

【今週の風考計】6.21─朝鮮半島の緊迫に乗じ「敵基地攻撃能力」保有を言う愚

6月25日は、朝鮮戦争が勃発して、ちょうど70年目を迎える。北朝鮮と韓国の間で始まった朝鮮戦争は、米国を始め世界20カ国以上が参戦し、韓国・朝鮮人は軍・民合わせて300万、米軍4万、中国軍約100万の犠牲者を出した。
 この悲劇を生みだした朝鮮戦争は、いまだに終結宣言すらなければ平和協定も締結されていない。これが現実なのだ。

そこへきて北朝鮮は、韓国へ軍事的挑発も含む強硬姿勢を、連続して打ち出している。自国内にある開城の南北共同連絡事務所を爆破したうえに、2018年の9月19日に交わされた南北軍事合意による「非武装化された地帯」にまで歩哨所を再設置、黄海上の南北境界地域にも軍の部隊を増強、軍事訓練の再開など、強硬な措置を積みあげている。
なぜ北朝鮮はこのような強硬な措置に出たのか。韓国の脱北者を中心とした市民団体が、北朝鮮の金正恩委員長とその体制を批判するビラを気球に乗せて散布した。
 そこには金委員長の私生活に関する内容が、真偽も不確かなまま記されていた。金与正氏の従来にない厳しい談話に加え、爆破という措置で行動を示したのではないか。

もう一つの背景は、国際的な経済制裁を受ける北朝鮮は、国内の厳しい経済環境を、自力更生・自給自足で正面から突破していくうえで、いまの文在寅政権の経済政策や対米外交は、役に立っていないという強い不満がある。
 2018年以降に行われた3回の南北首脳会談で、さまざまな合意事項が生まれた。しかし北朝鮮からすれば、開城工業団地の再稼働や金剛山観光事業の再開、南北道路・鉄道の連結などの事業合意が、遅々として進まない。
北朝鮮の対韓国政策は「朝鮮半島のことは朝鮮半島の当事者だけで決める」のが原則で、文在寅政権も理解していたはずなのに、アメリカの顔色ばかり覗っている。これでは埒が明かないとみての強硬措置ではないか。
 とはいえ、2010年の天安艦撃沈や延坪島砲撃に見られるような、韓国への局地的な軍事攻撃は許されない。

改めて2018年4月25日に、金正恩委員長と文在寅大統領が署名した南北共同宣言に立ち返ってほしい。
 「核のない朝鮮半島の実現という共同目標」に向け、朝鮮戦争の終戦と平和協定の締結を目指して恒久的な平和構築に向けた会談の開催を積極的に推進し、さらに非武装地帯(DMZ)を実質的な「平和地帯」とする、こうした事項が盛り込まれている。

いっぽう安倍首相は「朝鮮半島では今、緊迫の度が高まっている」とし、「敵基地攻撃能力保有」に対する議論を「この夏、国家安全保障会議で徹底的に行い、新しい方向性をしっかりと打ち出し、速やかに実行に移していきたい」というのだ。
 「イージス・アショア」の導入計画が吹っ飛んだとたん、平和構築でなく戦争につながる「敵基地攻撃能力」の保有に先走る。憲法9条2項に背くだけでなく、日本が守ってきた専守防衛の原則からも外れる暴挙に血道を挙げるとは、もう点ける薬もない。(2020/6/21)
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2020年06月14日

【今週の風考計】6.14─自民党の河井夫妻・立件へ、検察と官邸の攻防

▼疑惑まみれでも会見すらせず、イケしゃあしゃあと国会に現れる議員がいる。そう自民党の河井克行・前法相と妻の案里・参議院議員である。このご夫妻、広島選挙区の有権者に現金を配った公選法違反(買収)容疑で窮地に立たされている。検察は国会が17日に閉会するのを視野に、立件を目指しての捜査が大詰めの段階に入っている。
▼最大の疑惑は、河井夫妻側が自民党本部から提供された1億5千万円の使いみちである。案里氏の党支部が選挙運動費用として計上したのは2405万円。提供資金のうち、残る1億2千万円余りはどこにいったのか、まったく不明なのだ。
 しかも党本部が改選数2の広島選挙区で、党公認の現職である溝手顕正氏側に出した資金は、選挙対策費と公認料名目で計1500万円。ところが案里氏側に提供したのは、その10倍という、あまりにも公平さを欠く金額である。

▼検察は、河井夫妻が県内の地方議員や首長、後援会幹部や元陣営スタッフなど約100人に、1人当たり数万円〜百万円の幅で、2千数百万円もの現金を配ったのではないかとして、その裏付けを急ぎ疑惑の解明に全力を挙げている。
 1億5千万円の使い道として、他に挙げられているのが、選挙の公示前に大量に作った宣伝物だ。案里氏と菅義偉官房長官との対談を紹介するチラシ、案里氏の経歴を記したカードなどが作られている。
▼党本部が提供した資金の多くは、河井夫妻の党支部による政治活動の費用として、地盤固めや支援拡大に投じられたことになる。党本部から資金提供された分も含め、19年度の政治資金報告は、今年11月下旬に公開される見通しだが、どれだけ明朗・詳細に明かされるか疑わしい。
 そもそも政党の資金には、党費だけでなく税金による政党交付金が含まれている。今回、提供された1億5千万円の多くは政党交付金で占められたとされる。
▼夫の克行前法相は、妻の案里氏を参議院議員に当選させるため、ウグイス嬢への法定枠を倍する報酬を始め、影の参謀として全面的に指揮をとってきた。その安倍首相の補佐官まで務め法務大臣に就いた、お気に入り政治家が、もしも逮捕されるようなことがあれば、<安倍マネー>の捜査にまで波及するのではないか、それを恐れる官邸と検察の争いはし烈を極める。

▼安倍政権の検察官定年延長に絡む、まさに当人の黒川弘務検事長が賭けマージャンで辞職したものの、処罰の軽さに国民からの批判が高まるなか、河井夫妻への立件や逮捕状請求をめぐって、検察も弱腰での対応は許されない。稲田伸夫検事総長は7月末とされる退職を前に、毅然とした検察の権威を示さざるを得なくなっている。(2020/6/14)
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2020年06月07日

【今週の風考計】6.7─コロナ禍での税金「ゴートー」を許すな!

第2次補正予算案32兆円の審議が国会で始まる。とりわけ異常な予備費10兆円のうち、依然として5兆円の使いみちは不透明なまま。
 第1次補正と合わせれば、今年の総歳出は160兆3千億円にふくらむ。発行する新規国債は過去最大90兆円、世界の中でも突出している。
さらに深刻なのは、コロナ禍のどさくさに紛れて、ズサンな予算執行が「税金の浪費」、いや「コロナ禍での焼け太り」を、横行させている事態だ。
 一例が「持続化給付金制度」の運営である。コロナ禍にあえぐ中小企業の経営を助けるため、最大200万円の資金を給付する制度が、食い物にされているのだ。
 経産省は給付手続き業務を、一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」へ769億円で丸投げした。この法人、電話にも出なければ、3年にわたって決算公告すらしていない。役員には広告大手の電通や人材派遣業では大手のパソナから、出向した社員の名が並ぶ。

この法人、経産省の公募に応じて給付事業を落札した。ところが、この法人、20億円を懐にしまい込み、残りの749億円で電通に丸投げ。しかも電通は即座に子会社5社へ645億円で外注している。少なくとも電通本社だけで計104億円の利益を得る見通しだ。
なかでも電通本社から約550億円で、給付金の受付やコールセンター業務などを請け負った電通ライブ社は、本社に倣って、ちゃっかり旨い汁をすする。
 手際はお見事! この業務をまたも500億円で、竹中平蔵氏が関与するパソナやIT企業の大手トランスコスモス社などに外注したのだ。かくして電通ライブ社は50億円を手にする勘定だ。
 まさに外部へ業務を移すたびに、ピンハネ金が懐に入りこむ仕掛け。税金を使った「コロナ肥り」のあくどさ。

政府は、今回の2次補正予算案で、給付対象を広げ1兆9400億円の援助金を積み増し、その業務委託費として850億円を計上している。またもこの公金が「サービスデザイン推進協議会」から電通へ、そこから子会社を経て、お仲間企業へ流れ、そのたびに税金が中抜きされるかと思えばゾッとする。
これだけではない。2年前に経産省が認可した一般社団法人「キャッシュレス推進協議会」も、電通が絡む別のトンネル法人と指摘されている。この5%ポイント還元事業(補助金339億円)の事務局を担う上記法人から、電通は307億円の業務を受託している。

「GoToキャンペーン」にも、不透明な運営に批判が噴出している。観光・飲食業者を支援する事業総額1兆6794億円のうち、2割を占める3095億円が事務委託費に充てられている。
 この金額の大きさや委託先公募への疑問から見直しが決まった。しかし、キャンペーン「GoTo」、これまた税金の「ゴートー」と読み替えたくなるほど、怪しい雰囲気が漂う。
「アベノマスク」ではないが、安倍首相の最側近である経産省出身の補佐官の意向などで、税金が恣意的に使われてはたまらない。
 ちなみに電通は安倍首相が政権に復帰した2012年〜18年に、自民党の政治資金団体へ計3600万円、それ以前には地元の山口県選挙区支部に3回・各10万円の計30万円、献金していた。なお昭恵夫人は、かつて電通の社員でした。(2020/6/7)
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2020年05月31日

【今週の風考計】5.31─パステルナークとヴィソツキーへの想い

ソ連の作家ボリス・パステルナークといえば、筆者が1981年5月、ソ連を旅した時に随伴の通訳女性が、本当にうれしそうな顔をしたのが忘れられない。「ベリョースカ」にまつわる出来事だ。
 当時のソ連で合法的に外貨が使えるのは「ベリョースカ」しかない。ここには外貨を落とす観光客向けの高価なマトリョーシカ、琥珀などの宝石、キャビア、高級ブランデー「アララット」などが売られている。通常ではソ連の一般市民は入れない。
だがブレジネフ政権も1970年代後半になると、「ベリョースカ」には多様な消費財や文化財が陳列され、ある手を使えば買えるようになった。公式には刊行・販売禁止のパステルナークやソルジェニツィンなどの本も密かに並んだ。

通訳の彼女は、ある時「ベリョースカにはパステルナークの本があるはず、あれば買ってほしいの…」と、「Борис Пастернак Boris Pasternak」のメモをくれた。意識的に「ベリョースカ」に入り探してみた。
 ついにペーパーバック版の本を見つけた。著者名は合っている。パラパラめくると、どうも詩集みたいだ。ともかく購入して、彼女にプレゼントした。その時の顔が忘れられないのだ。ニコッとして、すぐにバッグの中にしまった。

今から思えば、もう少し、パステルナークの詩について聞いておくべきだった。後で調べてみると、渡した本は、パステルナークが1922年、32歳のときに完成させた『わが妹人生―1917年夏』(Сестра моя − жизнь)と思われてならない。わが妹とは、パステルナークが5年前に激しい恋をした少女で、その恋愛の一年を連詩にして物語にしたものという。
1940年代以降、パステルナークが詩の発表をやめ、また過去の詩集が絶版にされても、人々はパステルナークの詩を愛し、KGBの目を恐れながらも、手書きの写本やガリ版刷りの詩集を作り、手から手へと渡されて読まれたという。いわゆる地下出版(サミズダード)である。

おそらく1980年代に入っても、ソ連の人々は容易に購入できなかったに違いない。禁書扱いの『ドクトル・ジバゴ』が、正式にソ連で刊行されるのは1988年、ゴルバチョフのペレストロイカ路線が敷かれてからだった。
 晴れて翌年の1989年、パステルナークの息子がソ連政府に父のノーベル文学賞授賞を申し出て承認された。なんと受賞発表から30年後のことだ。今は日本でもパステルナークの詩集・小説は、どれも翻訳され手にできる。
しかし今でも入手しがたいのが、前に触れたヴイソーツキイの歌。死の3年前、1977年に録音の「ウラジーミル・ヴイソーツキイ/大地の歌」(OMAGATOKI SC-4101〜2)とあるレコードが唯一。
 いま奥から探しだし針を落として聴いている。ギターの音に合わせて、地の底から這いあがってくるような、しゃがれた声、ドクトル・ジバゴのうめき声にも重なってくる。昨日30日は、パステルナークの死後60年に当たる。(2020/5/31)
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2020年05月24日

【今週の風考計】5.24─『ドクトル・ジバゴ』に絡むミステリー

★緊急事態宣言が緩和されつつあるとはいえ、“巣ごもり”の続く我が身にあれば、もう読書しかない。ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』(東京創元社)を、一気に読んだ。
★昔のソ連では、ボリス・パステルナークの小説『ドクトル・ジバゴ』が、「十月革命を冒涜している」との理由で、発禁となっていた。だがその原稿を、ある出版社が入手し、1957年、イタリアで刊行した。英米仏でも翻訳されベストセラーとなった。
 そこで米ソ冷戦下にある米国では、CIAが有能な女性タイピストを工作員として使い、その本を密かにソ連の人たちにバラ撒く作戦に打って出る。言論統制や検閲で「出版・表現の自由」を奪っているソ連の現状を、知らしめるのが目的というストーリー。

★メロディー<ラーラのテーマ>が耳によみがえる。デイビッド・リーン監督「ドクトル・ジバゴ」に感動した頃を思い出す。まさか小説『ドクトル・ジバゴ』の本に、CIAが絡んでいたとは思わなかった。
映画「ドクトルジバゴ」LD.JPG 調べてみると、CIAはソ連製の紙とソ連製の活字を使って、ロシア語「ドクトル・ジバゴ」本を作り、スウェーデン・アカデミーに持ち込んで、1958年にノーベル文学賞を授賞させたという。
 これに対しソ連政府は、本書への贈賞は断じて認めるわけにはいかないと、強烈な圧力や脅迫をパステルナークに加え、ついに受賞を辞退させる。その後、彼はモスクワ郊外に蟄居し、2年後の1960年5月30日、肺がんで死去。今月30日は死後60年となる。

★さて今から40年ほど前、正確には1981年、ゴールデンウイークを挟んで3週間ほど、モスクワ、レニングラード、キエフなど、仕事と観光を兼ねて回った旅を思い出す。ブレジネフ政権が末期を迎える時期だ。
 モスクワ五輪が前年の1980年7月19日から、米国・日本などの不参加もあったが開催された。その期間中の7月25日、ソ連の反体制歌手ウラジーミル・ヴイソーツキイが42歳の若さで逝った。12月9日にはビートルズのジョン・レノンが米国で凶弾により40歳で死去する。
★とりわけヴイソーツキイは、あまりにも激しい体制批判を重ねるゆえに、生前には1冊の詩集も1枚のレコードも刊行・発売できなかった。
 だが、「彼の歌うカセットテープはコピーされ、人づてに回されて聴いたわ。私も持っているの…」と、筆者のソ連の旅に通訳で随伴の若いロシア女性は言い、さらに彼女は悲しみが癒えない口ぶりで、9カ月前を思い出すのか、葬儀の行われたタガンカ劇場には10万を超える人びとが訪れたと語ってくれた。

★このヴイソーツキイは俳優でもあり、パステルナークがロシア語に翻訳したシェークスピアの「ハムレット」を演じている。ともにソ連政権の圧政に苦しんだ者の共感からだろう。(2020/5/24) 次週に続く
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2020年05月17日

【今週の風考計】5.17─検察定年延長─「天ぷら屋」議員の罪と罰

先週8日に審議入りした検察官定年延長法案は、今週が大きな山場を迎える。これもツイッターでの抗議の声の高まりが、ここまで追い込んだのだ。
そもそも法案提出の根源は、<安倍政権の守護神>黒川東京高検検事長を検事総長に就かせたく、彼が2月8日の63歳の誕生日をもって検察官の定年を迎え、検察庁を去るにも関わらず、わざわざ彼のために定年を6か月間、延長する暴挙を閣議決定したことに始まる。
 しかも、これまで40年近く、政府は「検察官に国家公務員法の定年延長は適用されない」としてきたにも関わらず、国家公務員法の定年延長を適用するという牽強付会な「つじつま合わせ」に加え、検察官の人事権まで内閣が握ろうとする企ての悪ドさである。

「検察庁法改正案」は、検察官の定年を63歳から65歳に引き上げるほか、63歳の段階で役職定年制が適用されるが、内閣あるいは法務大臣が必要と判断した場合は、最長3年の延長ができるという内容だ。
 つまり三権分立と司法権の独立が脅かされ、内閣が検察人事に介入できる重大な問題なのだ。しかも国家公務員法改正案などを含む10本の法案を一括した「束ね法案」にして、本丸の「検察人事への介入」の狙いを隠す巧みな戦術で、法務委員会ではなく内閣委員会で審議させている巧妙な仕掛けがある。

弁護士ら1500人が法案への反対声明を出したのに続き、ついに元検事総長を含む検察OBが法案に反対の意見書を提出する異例中の異例の行動に出た。その内容の高邁な趣旨を熟読玩味しておきたい。安倍首相の2月13日衆院本会議での発言に対し、
<本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更したという宣言であって、フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる「朕は国家である」との中世の亡霊のような言葉を彷彿とさせるような姿勢であり、近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない危険性を含んでいる>
と表明し、<黒川検事長の定年延長閣議決定、今回の検察庁法改正案提出と続く一連の動きは、検察の組織を弱体化して時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動き>と指摘している。

ところが自民党議員からは、「数で押し切れ、時間がたてばホトボリも冷める」の声に加え、「官邸から出されたモノは早くあげるのが仕事」と、「天ぷら屋」の「揚げる」にひっかけて法案処理に急ぐ議員までいる。
 呆れるのは内閣委員会で審議中に、タブレット端末で動画を見たり小説を読んだりしている自民党議員までいる始末。
 果ては「強行採決は自殺行為」と述べる同僚議員を内閣委員から外し、政権に追従する議員に変えるなど、内閣をチェックする国会の責務など、どこ吹く風だ。
公明党も同じ穴のムジナ。山口那津男代表のツイッター<法案の趣旨につき政府として説明責任を>には、批判の声が殺到している。「政権与党の一員として、自ら説明されたら」、さらに「10万円給付の時のように、安倍首相に直談判しないのはなぜ」など、同感だ。
 衆議院内閣委員会に出席している公明党の3議員は、「三権分立」の責務、果たされていますか。どこまで安倍政権に、下駄の雪のようについていくのですか。(2020/5/17)
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