2020年06月28日

【今週の風考計】6.28─「BLACK LIVES MATTER」を深く考えるための2冊の本

米国の黒人男性ジョージ・フロイドさんが、20ドルのニセ紙幣を使ったとの疑いで、白人警官に暴行され、死亡した事件から25日で1カ月。
 事件を機に、「黒人の命は20ドルの価値しかないのか?」と起ちあがった抗議デモは、全米50州1700を越える都市に拡大した。差別撤廃や警察の組織改革を訴え、奴隷制など歴史認識の再考も迫る広範な反差別運動に発展している。
 黒人差別解消を求める公民権運動が広がった1950〜60年代以来の規模に膨れあがり、いまや「BLACK LIVES MATTER」を掲げるデモは、欧州やアジアなどにも波及し、国際的なうねりとなった。

米国における黒人差別は、米国社会が宿す根深い腫瘍。南北戦争後の1865年、黒人は奴隷の軛から解放されたとはいえ、「KKK」などの「白人至上主義」組織による<黒人リンチ>が1950年代まで公然と行われてきた。
 木に吊るされて焼き殺されたり、遺体をバラバラに切断されたり、しかも暴徒たちはその遺体の破片を「戦利品」として、持ち帰ったというから恐ろしい。1877年から1950年代の間に、米国南部12州で4084人がリンチで殺害されたことが判明している。
おぞましい<黒人リンチ>の歴史を経て、やっと1964年に差別禁止の公民権法が成立し、黒人は政治制度としては平等の権利を獲得した。しかし実態は安い賃金奴隷という、新たな搾取の罠に陥る犠牲に追い込まれただけである。今もなお白人との格差は歴然とし、深刻さは増している。

警察の暴力を記録する団体の調査によると、2019年に警官に殺された市民は1098人。そのうち白人が406人で37%、黒人が259人で24%という。米国の人口に占める白人の割合は60%、黒人は13%という人口比を考えれば、警官の黒人に対する殺害率は極めて高い。
 刑務所に収容されている囚人の数にしても、人口10万人あたりでは、黒人1501人、ヒスパニック797人、白人268人。これも黒人が白人の5.6倍と異常なほど突出している。マリフアナ所持で逮捕される率は、白人1人に対し黒人4人というデータもある。 警察の捜査や取り締まりは、確実に肌の色に基づいていると言ってよい。

なぜそうなっているのか。矢部武『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)と渡辺靖『白人ナショナリズム』(中公新書)が、きわめて明快に述べている。
前書は、2045年を境に米国全土で白人の占める割合が50%を切り、白人が少数者になるという怯えのあるところに、黒人初のオバマ大統領が誕生し、米国に根深くはびこる「白人至上主義」が「炎上」し、「白人の米国第一主義」を掲げるトランプ大統領を誕生させた、と分析する。
後書は、さらに「白人至上主義」を唱える「オルトライト」(新極右)というキーワードを軸に、米国社会の潮流を解明する。<ハイル・トランプ!>などとナチス流の敬礼でトランプ大統領を祝福するリチャード・B・スペンサーが、12年前に立ちあげた運動である。
 今や米国の白人の6%近く、約1100万人が「オルトライト」に共鳴している。共和党を排外的な国粋主義政党に変え、スティーブ・バノンやスティーブン・ミラーを送り込み、トランプ政権への影響を強めている。怖いほどに草の根のリアルな動きが迫る。

だが、コロナ禍への対応や黒人暴行死事件への抗議の高まりを受け、トランプ大統領への支持は急降下している。11月の大統領選で勝敗の鍵を握る6州すべてで、民主党のバイデン前副大統領への支持が、6〜11ポイントも上回っている。<哀れ! トランプ>。(2020/6/28)
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2020年06月21日

【今週の風考計】6.21─朝鮮半島の緊迫に乗じ「敵基地攻撃能力」保有を言う愚

6月25日は、朝鮮戦争が勃発して、ちょうど70年目を迎える。北朝鮮と韓国の間で始まった朝鮮戦争は、米国を始め世界20カ国以上が参戦し、韓国・朝鮮人は軍・民合わせて300万、米軍4万、中国軍約100万の犠牲者を出した。
 この悲劇を生みだした朝鮮戦争は、いまだに終結宣言すらなければ平和協定も締結されていない。これが現実なのだ。

そこへきて北朝鮮は、韓国へ軍事的挑発も含む強硬姿勢を、連続して打ち出している。自国内にある開城の南北共同連絡事務所を爆破したうえに、2018年の9月19日に交わされた南北軍事合意による「非武装化された地帯」にまで歩哨所を再設置、黄海上の南北境界地域にも軍の部隊を増強、軍事訓練の再開など、強硬な措置を積みあげている。
なぜ北朝鮮はこのような強硬な措置に出たのか。韓国の脱北者を中心とした市民団体が、北朝鮮の金正恩委員長とその体制を批判するビラを気球に乗せて散布した。
 そこには金委員長の私生活に関する内容が、真偽も不確かなまま記されていた。金与正氏の従来にない厳しい談話に加え、爆破という措置で行動を示したのではないか。

もう一つの背景は、国際的な経済制裁を受ける北朝鮮は、国内の厳しい経済環境を、自力更生・自給自足で正面から突破していくうえで、いまの文在寅政権の経済政策や対米外交は、役に立っていないという強い不満がある。
 2018年以降に行われた3回の南北首脳会談で、さまざまな合意事項が生まれた。しかし北朝鮮からすれば、開城工業団地の再稼働や金剛山観光事業の再開、南北道路・鉄道の連結などの事業合意が、遅々として進まない。
北朝鮮の対韓国政策は「朝鮮半島のことは朝鮮半島の当事者だけで決める」のが原則で、文在寅政権も理解していたはずなのに、アメリカの顔色ばかり覗っている。これでは埒が明かないとみての強硬措置ではないか。
 とはいえ、2010年の天安艦撃沈や延坪島砲撃に見られるような、韓国への局地的な軍事攻撃は許されない。

改めて2018年4月25日に、金正恩委員長と文在寅大統領が署名した南北共同宣言に立ち返ってほしい。
 「核のない朝鮮半島の実現という共同目標」に向け、朝鮮戦争の終戦と平和協定の締結を目指して恒久的な平和構築に向けた会談の開催を積極的に推進し、さらに非武装地帯(DMZ)を実質的な「平和地帯」とする、こうした事項が盛り込まれている。

いっぽう安倍首相は「朝鮮半島では今、緊迫の度が高まっている」とし、「敵基地攻撃能力保有」に対する議論を「この夏、国家安全保障会議で徹底的に行い、新しい方向性をしっかりと打ち出し、速やかに実行に移していきたい」というのだ。
 「イージス・アショア」の導入計画が吹っ飛んだとたん、平和構築でなく戦争につながる「敵基地攻撃能力」の保有に先走る。憲法9条2項に背くだけでなく、日本が守ってきた専守防衛の原則からも外れる暴挙に血道を挙げるとは、もう点ける薬もない。(2020/6/21)
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2020年06月14日

【今週の風考計】6.14─自民党の河井夫妻・立件へ、検察と官邸の攻防

▼疑惑まみれでも会見すらせず、イケしゃあしゃあと国会に現れる議員がいる。そう自民党の河井克行・前法相と妻の案里・参議院議員である。このご夫妻、広島選挙区の有権者に現金を配った公選法違反(買収)容疑で窮地に立たされている。検察は国会が17日に閉会するのを視野に、立件を目指しての捜査が大詰めの段階に入っている。
▼最大の疑惑は、河井夫妻側が自民党本部から提供された1億5千万円の使いみちである。案里氏の党支部が選挙運動費用として計上したのは2405万円。提供資金のうち、残る1億2千万円余りはどこにいったのか、まったく不明なのだ。
 しかも党本部が改選数2の広島選挙区で、党公認の現職である溝手顕正氏側に出した資金は、選挙対策費と公認料名目で計1500万円。ところが案里氏側に提供したのは、その10倍という、あまりにも公平さを欠く金額である。

▼検察は、河井夫妻が県内の地方議員や首長、後援会幹部や元陣営スタッフなど約100人に、1人当たり数万円〜百万円の幅で、2千数百万円もの現金を配ったのではないかとして、その裏付けを急ぎ疑惑の解明に全力を挙げている。
 1億5千万円の使い道として、他に挙げられているのが、選挙の公示前に大量に作った宣伝物だ。案里氏と菅義偉官房長官との対談を紹介するチラシ、案里氏の経歴を記したカードなどが作られている。
▼党本部が提供した資金の多くは、河井夫妻の党支部による政治活動の費用として、地盤固めや支援拡大に投じられたことになる。党本部から資金提供された分も含め、19年度の政治資金報告は、今年11月下旬に公開される見通しだが、どれだけ明朗・詳細に明かされるか疑わしい。
 そもそも政党の資金には、党費だけでなく税金による政党交付金が含まれている。今回、提供された1億5千万円の多くは政党交付金で占められたとされる。
▼夫の克行前法相は、妻の案里氏を参議院議員に当選させるため、ウグイス嬢への法定枠を倍する報酬を始め、影の参謀として全面的に指揮をとってきた。その安倍首相の補佐官まで務め法務大臣に就いた、お気に入り政治家が、もしも逮捕されるようなことがあれば、<安倍マネー>の捜査にまで波及するのではないか、それを恐れる官邸と検察の争いはし烈を極める。

▼安倍政権の検察官定年延長に絡む、まさに当人の黒川弘務検事長が賭けマージャンで辞職したものの、処罰の軽さに国民からの批判が高まるなか、河井夫妻への立件や逮捕状請求をめぐって、検察も弱腰での対応は許されない。稲田伸夫検事総長は7月末とされる退職を前に、毅然とした検察の権威を示さざるを得なくなっている。(2020/6/14)
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2020年06月07日

【今週の風考計】6.7─コロナ禍での税金「ゴートー」を許すな!

第2次補正予算案32兆円の審議が国会で始まる。とりわけ異常な予備費10兆円のうち、依然として5兆円の使いみちは不透明なまま。
 第1次補正と合わせれば、今年の総歳出は160兆3千億円にふくらむ。発行する新規国債は過去最大90兆円、世界の中でも突出している。
さらに深刻なのは、コロナ禍のどさくさに紛れて、ズサンな予算執行が「税金の浪費」、いや「コロナ禍での焼け太り」を、横行させている事態だ。
 一例が「持続化給付金制度」の運営である。コロナ禍にあえぐ中小企業の経営を助けるため、最大200万円の資金を給付する制度が、食い物にされているのだ。
 経産省は給付手続き業務を、一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」へ769億円で丸投げした。この法人、電話にも出なければ、3年にわたって決算公告すらしていない。役員には広告大手の電通や人材派遣業では大手のパソナから、出向した社員の名が並ぶ。

この法人、経産省の公募に応じて給付事業を落札した。ところが、この法人、20億円を懐にしまい込み、残りの749億円で電通に丸投げ。しかも電通は即座に子会社5社へ645億円で外注している。少なくとも電通本社だけで計104億円の利益を得る見通しだ。
なかでも電通本社から約550億円で、給付金の受付やコールセンター業務などを請け負った電通ライブ社は、本社に倣って、ちゃっかり旨い汁をすする。
 手際はお見事! この業務をまたも500億円で、竹中平蔵氏が関与するパソナやIT企業の大手トランスコスモス社などに外注したのだ。かくして電通ライブ社は50億円を手にする勘定だ。
 まさに外部へ業務を移すたびに、ピンハネ金が懐に入りこむ仕掛け。税金を使った「コロナ肥り」のあくどさ。

政府は、今回の2次補正予算案で、給付対象を広げ1兆9400億円の援助金を積み増し、その業務委託費として850億円を計上している。またもこの公金が「サービスデザイン推進協議会」から電通へ、そこから子会社を経て、お仲間企業へ流れ、そのたびに税金が中抜きされるかと思えばゾッとする。
これだけではない。2年前に経産省が認可した一般社団法人「キャッシュレス推進協議会」も、電通が絡む別のトンネル法人と指摘されている。この5%ポイント還元事業(補助金339億円)の事務局を担う上記法人から、電通は307億円の業務を受託している。

「GoToキャンペーン」にも、不透明な運営に批判が噴出している。観光・飲食業者を支援する事業総額1兆6794億円のうち、2割を占める3095億円が事務委託費に充てられている。
 この金額の大きさや委託先公募への疑問から見直しが決まった。しかし、キャンペーン「GoTo」、これまた税金の「ゴートー」と読み替えたくなるほど、怪しい雰囲気が漂う。
「アベノマスク」ではないが、安倍首相の最側近である経産省出身の補佐官の意向などで、税金が恣意的に使われてはたまらない。
 ちなみに電通は安倍首相が政権に復帰した2012年〜18年に、自民党の政治資金団体へ計3600万円、それ以前には地元の山口県選挙区支部に3回・各10万円の計30万円、献金していた。なお昭恵夫人は、かつて電通の社員でした。(2020/6/7)
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2020年05月31日

【今週の風考計】5.31─パステルナークとヴィソツキーへの想い

ソ連の作家ボリス・パステルナークといえば、筆者が1981年5月、ソ連を旅した時に随伴の通訳女性が、本当にうれしそうな顔をしたのが忘れられない。「ベリョースカ」にまつわる出来事だ。
 当時のソ連で合法的に外貨が使えるのは「ベリョースカ」しかない。ここには外貨を落とす観光客向けの高価なマトリョーシカ、琥珀などの宝石、キャビア、高級ブランデー「アララット」などが売られている。通常ではソ連の一般市民は入れない。
だがブレジネフ政権も1970年代後半になると、「ベリョースカ」には多様な消費財や文化財が陳列され、ある手を使えば買えるようになった。公式には刊行・販売禁止のパステルナークやソルジェニツィンなどの本も密かに並んだ。

通訳の彼女は、ある時「ベリョースカにはパステルナークの本があるはず、あれば買ってほしいの…」と、「Борис Пастернак Boris Pasternak」のメモをくれた。意識的に「ベリョースカ」に入り探してみた。
 ついにペーパーバック版の本を見つけた。著者名は合っている。パラパラめくると、どうも詩集みたいだ。ともかく購入して、彼女にプレゼントした。その時の顔が忘れられないのだ。ニコッとして、すぐにバッグの中にしまった。

今から思えば、もう少し、パステルナークの詩について聞いておくべきだった。後で調べてみると、渡した本は、パステルナークが1922年、32歳のときに完成させた『わが妹人生―1917年夏』(Сестра моя − жизнь)と思われてならない。わが妹とは、パステルナークが5年前に激しい恋をした少女で、その恋愛の一年を連詩にして物語にしたものという。
1940年代以降、パステルナークが詩の発表をやめ、また過去の詩集が絶版にされても、人々はパステルナークの詩を愛し、KGBの目を恐れながらも、手書きの写本やガリ版刷りの詩集を作り、手から手へと渡されて読まれたという。いわゆる地下出版(サミズダード)である。

おそらく1980年代に入っても、ソ連の人々は容易に購入できなかったに違いない。禁書扱いの『ドクトル・ジバゴ』が、正式にソ連で刊行されるのは1988年、ゴルバチョフのペレストロイカ路線が敷かれてからだった。
 晴れて翌年の1989年、パステルナークの息子がソ連政府に父のノーベル文学賞授賞を申し出て承認された。なんと受賞発表から30年後のことだ。今は日本でもパステルナークの詩集・小説は、どれも翻訳され手にできる。
しかし今でも入手しがたいのが、前に触れたヴイソーツキイの歌。死の3年前、1977年に録音の「ウラジーミル・ヴイソーツキイ/大地の歌」(OMAGATOKI SC-4101〜2)とあるレコードが唯一。
 いま奥から探しだし針を落として聴いている。ギターの音に合わせて、地の底から這いあがってくるような、しゃがれた声、ドクトル・ジバゴのうめき声にも重なってくる。昨日30日は、パステルナークの死後60年に当たる。(2020/5/31)
ヴィソツキー.JPG
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2020年05月24日

【今週の風考計】5.24─『ドクトル・ジバゴ』に絡むミステリー

★緊急事態宣言が緩和されつつあるとはいえ、“巣ごもり”の続く我が身にあれば、もう読書しかない。ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』(東京創元社)を、一気に読んだ。
★昔のソ連では、ボリス・パステルナークの小説『ドクトル・ジバゴ』が、「十月革命を冒涜している」との理由で、発禁となっていた。だがその原稿を、ある出版社が入手し、1957年、イタリアで刊行した。英米仏でも翻訳されベストセラーとなった。
 そこで米ソ冷戦下にある米国では、CIAが有能な女性タイピストを工作員として使い、その本を密かにソ連の人たちにバラ撒く作戦に打って出る。言論統制や検閲で「出版・表現の自由」を奪っているソ連の現状を、知らしめるのが目的というストーリー。

★メロディー<ラーラのテーマ>が耳によみがえる。デイビッド・リーン監督「ドクトル・ジバゴ」に感動した頃を思い出す。まさか小説『ドクトル・ジバゴ』の本に、CIAが絡んでいたとは思わなかった。
映画「ドクトルジバゴ」LD.JPG 調べてみると、CIAはソ連製の紙とソ連製の活字を使って、ロシア語「ドクトル・ジバゴ」本を作り、スウェーデン・アカデミーに持ち込んで、1958年にノーベル文学賞を授賞させたという。
 これに対しソ連政府は、本書への贈賞は断じて認めるわけにはいかないと、強烈な圧力や脅迫をパステルナークに加え、ついに受賞を辞退させる。その後、彼はモスクワ郊外に蟄居し、2年後の1960年5月30日、肺がんで死去。今月30日は死後60年となる。

★さて今から40年ほど前、正確には1981年、ゴールデンウイークを挟んで3週間ほど、モスクワ、レニングラード、キエフなど、仕事と観光を兼ねて回った旅を思い出す。ブレジネフ政権が末期を迎える時期だ。
 モスクワ五輪が前年の1980年7月19日から、米国・日本などの不参加もあったが開催された。その期間中の7月25日、ソ連の反体制歌手ウラジーミル・ヴイソーツキイが42歳の若さで逝った。12月9日にはビートルズのジョン・レノンが米国で凶弾により40歳で死去する。
★とりわけヴイソーツキイは、あまりにも激しい体制批判を重ねるゆえに、生前には1冊の詩集も1枚のレコードも刊行・発売できなかった。
 だが、「彼の歌うカセットテープはコピーされ、人づてに回されて聴いたわ。私も持っているの…」と、筆者のソ連の旅に通訳で随伴の若いロシア女性は言い、さらに彼女は悲しみが癒えない口ぶりで、9カ月前を思い出すのか、葬儀の行われたタガンカ劇場には10万を超える人びとが訪れたと語ってくれた。

★このヴイソーツキイは俳優でもあり、パステルナークがロシア語に翻訳したシェークスピアの「ハムレット」を演じている。ともにソ連政権の圧政に苦しんだ者の共感からだろう。(2020/5/24) 次週に続く
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2020年05月17日

【今週の風考計】5.17─検察定年延長─「天ぷら屋」議員の罪と罰

先週8日に審議入りした検察官定年延長法案は、今週が大きな山場を迎える。これもツイッターでの抗議の声の高まりが、ここまで追い込んだのだ。
そもそも法案提出の根源は、<安倍政権の守護神>黒川東京高検検事長を検事総長に就かせたく、彼が2月8日の63歳の誕生日をもって検察官の定年を迎え、検察庁を去るにも関わらず、わざわざ彼のために定年を6か月間、延長する暴挙を閣議決定したことに始まる。
 しかも、これまで40年近く、政府は「検察官に国家公務員法の定年延長は適用されない」としてきたにも関わらず、国家公務員法の定年延長を適用するという牽強付会な「つじつま合わせ」に加え、検察官の人事権まで内閣が握ろうとする企ての悪ドさである。

「検察庁法改正案」は、検察官の定年を63歳から65歳に引き上げるほか、63歳の段階で役職定年制が適用されるが、内閣あるいは法務大臣が必要と判断した場合は、最長3年の延長ができるという内容だ。
 つまり三権分立と司法権の独立が脅かされ、内閣が検察人事に介入できる重大な問題なのだ。しかも国家公務員法改正案などを含む10本の法案を一括した「束ね法案」にして、本丸の「検察人事への介入」の狙いを隠す巧みな戦術で、法務委員会ではなく内閣委員会で審議させている巧妙な仕掛けがある。

弁護士ら1500人が法案への反対声明を出したのに続き、ついに元検事総長を含む検察OBが法案に反対の意見書を提出する異例中の異例の行動に出た。その内容の高邁な趣旨を熟読玩味しておきたい。安倍首相の2月13日衆院本会議での発言に対し、
<本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更したという宣言であって、フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる「朕は国家である」との中世の亡霊のような言葉を彷彿とさせるような姿勢であり、近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない危険性を含んでいる>
と表明し、<黒川検事長の定年延長閣議決定、今回の検察庁法改正案提出と続く一連の動きは、検察の組織を弱体化して時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動き>と指摘している。

ところが自民党議員からは、「数で押し切れ、時間がたてばホトボリも冷める」の声に加え、「官邸から出されたモノは早くあげるのが仕事」と、「天ぷら屋」の「揚げる」にひっかけて法案処理に急ぐ議員までいる。
 呆れるのは内閣委員会で審議中に、タブレット端末で動画を見たり小説を読んだりしている自民党議員までいる始末。
 果ては「強行採決は自殺行為」と述べる同僚議員を内閣委員から外し、政権に追従する議員に変えるなど、内閣をチェックする国会の責務など、どこ吹く風だ。
公明党も同じ穴のムジナ。山口那津男代表のツイッター<法案の趣旨につき政府として説明責任を>には、批判の声が殺到している。「政権与党の一員として、自ら説明されたら」、さらに「10万円給付の時のように、安倍首相に直談判しないのはなぜ」など、同感だ。
 衆議院内閣委員会に出席している公明党の3議員は、「三権分立」の責務、果たされていますか。どこまで安倍政権に、下駄の雪のようについていくのですか。(2020/5/17)
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2020年05月10日

【今週の風考計】5.10─沖縄の主権と自治は回復されたのか?

沖縄は15日、1972年の本土復帰から48年を迎える。1945年の敗戦後、沖縄の人びとは戦争放棄を謳う9条など日本国憲法のある本土への復帰をめざし、「基地抜き、即時・無条件・全面返還」を掲げ、ねばり強い闘いを繰り広げてきた。

1967年頃になると、沖縄にある米軍基地はベトナム戦争への軍事支援に向けフル稼働に入った。核兵器すら迅速に輸送・使用できる態勢が敷かれたと言われる。沖縄の人びとは危険や恐怖と隣り合わせの生活を強いられていたのだ。
にもかかわらず日本政府は米国との交渉や駆け引きから、沖縄に米軍基地を残したままの返還でケリをつけてしまった。しかも沖縄の自己決定権は無視され、米軍基地の存続を担保にした復興計画が押し付けられた。沖縄の人びとの落胆は、如何ばかりであったろうか、想像に余りある。

それ以降、いまだに米軍基地は温存され、なんと在日米軍専用施設の7割が沖縄に集中し、県面積の8%超を占める。加えて政府は、米軍普天間飛行場の辺野古への移設を強行し、沖縄県民の7割・43万人の「反対」を無視して、辺野古沿岸部の埋め立てを続けている。
 裁判所までが、国の言い分を丸のみして辺野古移設を容認する。これほどまでに、地方自治の精神を踏みにじっていいのか。欧米では地方自治は基本的人権だとされるほど、重要な権利だという。
 沖縄は国によって地方自治が奪われているのが現実だ。いや沖縄の主権そのものが、回復されたのだろうか。

10日ほど前の4月28日、この日は「主権回復の日」だという。今から7年前に安倍晋三内閣が定めた。1952年4月28日に米国との単独講和なる「サンフランシスコ講和条約」と「日米安保条約」が発効し、日本の主権が回復した日だからという。
 トンデモナイ。沖縄や奄美、小笠原は日本から切り離され米国の支配下に置かれたのだ。とりわけ沖縄は、その翌年の1953年4月、「土地収用令」が発令され、伊佐浜や伊江島などで、銃剣とブルドーザーによる無法な土地拡張が行われた。これは沖縄の人びとの心の深い傷となり、この日を「屈辱の日」と名付けるのは当然ではないか。
 沖縄には主権が回復されるどころか、踏みにじられ続けてきた、まさに<屈辱の戦後75年>がある。

コロナ感染拡大で緊急事態宣言が出されている最中の4月28日、自民党・稲田朋美幹事長代行らは、靖国神社に参拝した。稲田議員は、ツイッターで言う。
 「主権回復記念日。平成18年から毎年<伝統と創造の会>で靖国参拝を続けてきました。今年はコロナの影響で<会>として参拝は中止しました。…その代わりコロナ収束を祈願」
 コロナ収束を神頼みするのも驚くが、それ以上に沖縄の人びとの心など、眼中にない神経には呆れる。(2020/5/10)
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2020年05月03日

【今週の風考計】5.3─やっと気づく「名もなき家事」の大変さ

★73回目の憲法記念日、コロナ禍を奇貨として、安倍首相は憲法に「緊急事態条項」を新設せんと躍起になっている。トンデモナイ。まず憲法第25条に謳われている「生存権、国の社会的使命」に従い、しっかり国民の命と生活を守る政策の推進に全力を挙げるときだ。
 国民に外出自粛や休業要請など忍耐ばかりを押しつけ、補償や医療の拡充には躊躇する。何やってるんだ!と、怒りをテレビにぶつける機会が多くなった。

★まず朝は8時からテレビ朝日の<羽鳥慎一モーニングショー>に釘付け。岡田春恵先生の悲痛な訴えに頷き、コメンテイター・青木理さんの深い政治的・社会的な背景への言及、さらに玉川徹さんの「PCR検査を徹底実施せよ」との呼びかけ、一つ一つに納得する。
★国会中継があれば、NHK 1チャンに回す。そして昼は家食しながら、7チャン・テレビ東京の<昼めし旅>へ。日本各地を歩いて突然に「あなたのごはん見せてください」と声をかける。その時の戸惑う顔、そして断る人に対しての失望感、それらが交錯しながらも、OKしてくれた家庭や仕事場の日常のごはんが並ぶシーン、見入ってしまう。
 コロナが収まったら、あの地に旅してみよう。そして土地の魚介や野菜を用いた料理を食べてみよう、夢が膨らむ。

★昼のワイドショーは各チャンネル、どこも似たり寄ったり。見る気が起きない。代わりにパソコンを開いてテレワーク、あるいは読書、あるいは遊歩道を使っての散歩。
 そして晩酌前の時間は、BS朝日・5チャンの<新必殺仕事人>に胸おどらす。ついに5月1日、全55話の最終回「主水仕事仕舞いする」で終わりとなった。
 毎回、江戸に生きる庶民が、お役人や家老・豪商らの邪まな欲と金の犠牲になり、理不尽にも殺される。そこへ藤田まこと演じる中村主水を始め、鮎川いずみ演じる加代など、必殺の武具や聞き込みを駆使する個性豊かな仕事人5人が、闇の黒幕をせいばいする。気持ちがスカーッとする。
★NHK・BSテレビ1チャン<駅ピアノ・空港ピアノ>もいい。世界の空港や駅に、誰もが“自由に弾けるピアノ”が置かれている。人々が立ち寄り、自分の好きな曲を弾き、行き交う人が耳を傾ける。一台のピアノから生まれる“一期一会”の感動が、人種や国境の隔てなくジワーッと伝わってくる。

★ここまでくると、テレビ漬け三昧、もうグータラ男の典型じゃないか。妻に「ゴミ捨て当番」は任せたといわれて、分別作業の煩わしさを思い出し、ムカーッとくる場合じゃない。妻のイライラの火種は「名もなき家事」の多さにある、それに気づかない自分の愚かさを知る。
★食べた食器は台所へ、そして洗う。脱いだ服は片づけ、「○○シッパナシ」を止めよう。テレビ見すぎ男の反省しきり。(2020/5/3)
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2020年04月26日

【今週の風考計】4.26─今こそ辺野古・工事中止とジブチ撤退を!

韓国・文在寅政権はトランプ大統領の要請を退け、国防費を削減してコロナ禍対策に充てるという。安倍首相も、マスク2枚の配布に466億円使うよりも、「不要不急」の防衛費を削って、休業補償と医療整備に回したらどうか。
 まずはトランプ大統領の一声で爆買いしたF35戦闘機147機の費用1兆7千億円、さらには維持費約4兆5千億円、その一部でもいいから今の緊急事態に使うのだ。
 戦闘で「命」を奪うよりも、コロナから「命」を守るために、コロナ禍対策に充てたら国民は喜び、支持率アップにつながるのは間違いない。

だが防衛省は、米軍の“殴り込み部隊”の海兵隊を拡充する前線基地・辺野古基地建設のため、重ねて沖縄県民の民意を踏みにじり、設計変更を沖縄県に申請した。
 その目的は、辺野古<美ら海>の大浦湾側にある、マヨネーズ並みの軟弱地盤66.2ヘクタールの改良工事である。最深90メートルの海底などに、約4年1カ月をかけ、砂杭など約7万1千本を打ち込む。総経費9300億円、そのうち約1千億円が地盤改良費。当初の見積もり額の2.7倍だ。完成は予定より大幅に遅れ、2030年代前半という。
 戦争で「命」を奪う米軍基地の建設に、日本国民から搾り取った1兆円近くの巨額の血税を投じる。まさに「不要不急」の極みではないか。しかもコロナ感染拡大を防ぐため、沖縄の人々が懸命になっている時期を狙ったとすれば、悪質極まりない。

つい最近、24年前に全面返還が決まった普天間飛行場の格納庫から、またも発がん性が指摘されるPFOS(ピーフオス)を含む泡消火剤22万7千リットルが漏れ、14万リットルが基地外に流出。
 付近を流れる河川の水質サンプル調査では、汚染を判断する米国の暫定指標値の6倍に当たる量が検出された。他の地点からも多量のPFOSが確認されている。
 沖縄県は基地内の土壌をサンプル調査できるよう申請していたが米軍は拒否。防衛省の要請も効果なし。その後、米軍は格納庫そばの土壌を掘り起こし、除去した土を県外に搬出。米軍基地内は治外法権の好例、県民の「命」など眼中にない。

防衛省・自衛隊は国民の「命」を守るのが仕事。大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号での、コロナ感染防止・水際作戦での活躍は承知の通り。だがジブチを拠点に海賊対処や航行の安全確保に派遣されている、P3C哨戒機部隊60人の「命」は例外なのか。交代要員の派遣が調整できず、3カ月での帰国ができない事態となっている。
さらに2月末から中東海域で情報収集を始めた護衛艦「たかなみ」乗組員180人は大丈夫か。寄港地でもコロナ感染を防ぐため下船ができず、3段ベッドでの生活は「3密」そのもの。もし感染者が出たらクラスターは確実、ストレスは極限にまで達している。
 バーレーンの多国籍部隊司令部に派遣されている自衛隊員10人のうちの1人が、コロナに感染しているとのことだ。防衛省・自衛隊よ、いまこそ辺野古建設の中止、ジブチ派遣から撤退の勇気を持て。(2020/4/26)
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2020年04月19日

【今週の風考計】4.19─トランプ大統領! WHOを危機に陥れるな

WHO(世界保健機関)が危機にさらされている。1948年4月7日に設立されたWHOは、2年後、その日を記念して「世界保健デー」とし、今年は70年を迎える。
 しかも新型コロナウイルスが世界中を暴れまわり、感染者220万人・死者15万人となる今、こともあろうに米国のトランプ大統領は、WHOへの資金拠出を一時停止すると表明した。
トランプ大統領は自らのコロナ対応への失敗を糊塗するため、「中国寄りのWHOが多くの過ちを犯し、多くの人が死亡した」などと、責任転嫁の言動を繰り返している。
 WHOへの協力では、民間からの任意拠出金の額が最大のビル・ゲイツ氏が、「世界的な医療危機のさなか、WHOへの資金拠出を停止するのは危険だ」と批判し、「新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めをかける上で、ますますWHOを必要としている」と、WHOの重要性を指摘している。

WHOの財政は2年期制で分担金と任意拠出金で構成する。全体で約4900億円。分担金は各国の富裕度や人口によって算出され拠出する。分担金の割合は2020年会計で、1位の米国22%、次いで中国12%、3位が日本8.5%となっている。とりわけ中国はWHO分担金の伸び率が断トツで二桁を更新し、日本を抜いて2位の座を固めている。
トランプ大統領は、米中の経済衝突から、報復関税へとエスカレートし、いまだに中国といがみ合う。もちろん最初にコロナの集団感染が確認された中国の初動の遅れ、またWHOへの圧力など、改めて責任が問われてしかるべきだと思う。
 だが自国のコロナ猛威への対処に失敗し、11月の大統領選を視野に支持率低下に悩むあげく、責任をWHOへなすりつけ、「資金拠出の停止」という脅しを仕掛けるのは筋違いも甚だしい。

いまWHOは懸命だ。アフリカ諸国や難民キャンプ、貧困地域など、保健衛生が不十分で医療施設・従事者が貧弱な地域へのコロナ感染拡大は、想像以上の悲劇を招く。新型コロナウイルスの感染を阻止するかたわら、はしかや風疹、肺炎、ポリオ、ジフテリア、破傷風などの蔓延も防がねばならない。
これらの病気はワクチン接種で防ぐことができる。だが実情は、2千万に及ぶ1歳未満の子どもたちが、ワクチン接種を受けていない。WHO は24日から30日の一週間を「世界予防接種週間」とし、ワクチン接種キャンペーンを展開する。
 また25日は特別に「世界マラリアデー」に設定し、年間42万人以上が命を落とすマラリア撲滅に力を注ぐ。まだワクチンは開発されていないが、抗マラリア薬としてメフロキンが内服薬として用いられている。新型コロナウイルスにも適用できないか、その研究が進む。
ともあれワクチンで防げる病気は、コロナ猛威の時期でも、しっかり予防接種を受けて防ぐことが必要だ。外出自粛でいう「不要不急の外出」に、予防接種は含まれないのだから。(2020/4/19)
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2020年04月12日

【今週の風考計】4.12─進む「#コロナ差別」と国家統制の怖さ

◆新型コロナウイルス感染が拡大する中、「#コロナ差別」が、ハッシュタグがつくほど世界中で広がっている。インターネット上の差別発言やヘイトを含むデマ、暴行などの「ヘイトクライム」が、頻発している。
 インドではヒンドゥー至上主義のモディ政権下、イスラム教徒がウイルスを拡散しているとのデマが、SNS上の「#コロナジハード」で拡散され、政権の意を受けた警察がモスクに踏み込む事態まで起きている。

◆日本国内でも、コロナをめぐるデマや誹謗中傷が拡大している。「医療関係者の子供は登園するな。卒園式もお断り」など、感染者の出た病院の職員が罵倒される事件まで起きている。愛媛県では、親がトラック運転手の児童に小学校の始業式や入学式を欠席させ、自宅待機を要請していた。親が感染拡大地域へ行き来するという理由からだ。「職業差別につながる」と指摘され撤回した。
 SNSなどから得るコロナ情報も、SNS自体がフェイクニュースの発生源となっているのをわきまえておく必要がある。情報が人為的・ボッド回路を通じてSNS上で拡散し、トイレットペーパーの買い占め騒動や納豆がコロナウイルスに効果があると聞くや納豆が品薄になるまで発展するのだ。
 WHOは新型コロナウイルスの感染拡大「パンデミック」を防ぐとともに、誤情報・偽情報の世界的な拡散「インフォデミック」に強い警鐘を鳴らしている。

◆厄介なのはSNS上での罵詈雑言の投げ合いである。首都圏からは一部の人が“コロナ疎開”で離島や避暑地に避難する動きが出てきて、医療設備の手薄なそれらの地域に感染者が一人でも足を踏み入れれば、途端に医療崩壊が起きかねない。
 そこから「東京の人=コロナ」と決めつけ、やむをえない帰省者にも<トンキン土人>などのレッテルを張り、まるでバイキン扱いの応酬が始まる。コロナへの「不安・恐れ」が「偏見・差別」を増長させ、人々に「負の連鎖」を拡大する。
 何もコロナウイルスは、人種・地域・性別・貧富などを嗅ぎ分けて感染しようと思っているわけではない。誰にでも感染するし、感染したからと言って感染者を非難するのも、感染者が謝罪するのも間違いだ。
 自分も当事者になるかもしれないと意識し、さらに全ての人が感染しているかもしれないという想定で、自分の行動を律することではないか。

◆もっと恐ろしいのは、緊急事態宣言の陰で進む事態だ。イスラエルでは携帯情報が個人隔離の判定材料にされ、台湾でも隔離が必要と思われた人が移動すると政府から警告メッセージが届く。国民の個人行動が全て監視可能になっている怖さである。
 ハンガリーのオルバン首相は、政権に批判的なメディアを抑圧するため、緊急事態宣言を無期限延長し、フェイクニュース対策と称して、政府の承認した事柄を「歪めて」伝えた者を 5 年間投獄することまで可能にした。
 「隠ぺい・改ざん」の安倍政権、大丈夫だろうか。<信なくば立たず>と頻繁に口にする首相だが、動静欄にあるコロナ対策会議の議事録は、いつ公開されるのか。政治的決定のプロセスは明らかにせず、ただ「命を守るため」と称して、基本的人権を制限し、放送を始めメディアへの介入を狙う。緊急事態を理由に報道機関を権力の支配下に置く動きは、まさに戦前の言論・報道統制そのものにつながる。(2020/4/12)
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2020年04月05日

【今週の風考計】4.5─春を満喫したい! わが独り散策の収穫

外出自粛の要請が続く。とはいえ自宅に籠りっきりもシャクだ。東京郊外の遊歩道を散策することまで、自粛の必要はないと見切って、陽光が注ぐ先日、狭山丘陵に向かい4キロほど歩いた。
 道わきのタチツボスミレやオオイヌノフグリが、周囲を青くちりばめて目を引く。上を向くとカンヒザクラは終り、ソメイヨシノも葉桜だ。それでもメジロやシジュウカラが蜜を吸いにくる。

歩きながら子供のころ覚えた鳥の鳴き声を呟いてみる。<鳩とトンビとカリガネと雉と山鳥と鶯とが一緒に鳴けば、ググピー、ググピー、ピンカラ、ショーラ、ケンケン、ケンカラチャット、チンチロリンのホーホケキョ>
 小さな川を渡る。すぐ前をハクセキレイが2羽、ツツツツーと走る。キジバトまでが、ゆっくり首を振り振り、歩調を合わせて3歩前を行く。遊歩道の中央に植えられたツツジが、ところどころ赤い花をつけている。
やっと多摩湖の堤防にたどり着いた。強い風を受けながら堤防の上を北に向かって歩く。振り返ると南西の方向に富士山が雪をかぶって薄靄の中に浮かびあがる。中ほどまでくると、東のずっと奥のほうにスカイツリーが見えるとある。だが春霞のせいか見通すことができない。西武遊園地の観覧車も動いていない。入園中止だ。

下に広がる狭山公園の広場からは、子供たちの遊ぶ声が響いてくる。ここにはまだ桜も咲いている。サクラ案内のチラシを見ると、オオヤマザクラやバイゴジジュズカケザクラ(梅護寺数珠掛桜)とある。後者はまだ蕾だが、親鸞聖人が数珠を掛けた桜から数珠のような花が咲いたという逸話からきている。
 広場を下ると花弁の大きい桜が目に入る。ミクルマガエシの名札がある。後水尾天皇があまりにも美しい花なので、御車を返してじっくり愛でたとの逸話からだという。赤褐色の若葉が先に出るヤマザクラは、今だとばかり薄いピンクの花を広げる。

さらに北山公園へ足を延ばす。6月には菖蒲の花が一面に咲く田んぼを見ると、切り取られた菖蒲の根株から、もう新芽が出ている。あぜ道にはヒョロっと長い茎の先に、白い小さな4弁の花をつけたミチタネツケバナやタンポポがいっぱいだ。
陽も傾き、夕まずめではないが、北山公園の池に餌を漁りに来るダイサギと出会う。細くて折れそうな長い脚を池の水につけ、これもまた細いくちばしを伸ばし、じっと水面を見つめている。
 その白い姿は夕日を浴びてキラキラ輝く。時々、抜き足差し足、忍び足で動きながら、左右に首を振る。するとピョイと嘴を突っ込んだと思ったら、ドジョウをくわえている。その見事なこと。伸ばした細い首をドジョウが伝って下りていく。飲み下すと、すぐにダイサギは次の餌狙いに移る。まさに圧巻。
すがすがしいほどの光景を間のあたりにした。家に帰ると、万歩計は1万8千歩を示していた。(2020/4/5)
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2020年03月29日

【今週の風考計】3.29─猫も感染した新型コロナウイルスの脅威

新型コロナウイルスの猛威は、ついにWHOが「何百万人の死亡もある事態に」と警告を発した。これまで新型肺炎を引き起こしているウイルスは、コウモリの体内で培養され、ヘビやハクビシン、ヒトコブラクダなどの中間宿主を経て、ヒトに感染するようになったといわれている。
 しかし最新の研究によれば、新型コロナウイルスの中間宿主はセンザンコウではないかとの研究も発表されている。
センザンコウは哺乳類で南アジアから中国、台湾、アフリカなどに分布し、中でもマレーセンザンコウは中国南部で食用にされ、そのウロコはリウマチに効く漢方薬として珍重されている。
 中国市場の需要によって密猟され、個体数が激減して絶滅危惧種に指定されている生物だ。センザンコウの体内ウイルスを調べ、その分子構造から治療対策に生かすといい。

さらにペットの猫にも新型コロナが感染するという事実が判明した。これまで飼い犬への感染は報告されていたが、世界で初めてベルギーで飼い猫への感染が確認された。まさに飼い主である人間から猫へ、コロナウイルスを感染させた珍しい事例だ。
 となれば<人間からペットへ、ペットから人間へ>の悪循環だって起きうる。「特に自分自身が感染している可能性がある場合は、ペットとの濃厚接触を避け、自分の顔をなめさせるような行為も控えるべきだ」としている。いや、もし知らずに感染したペットを抱いて、顔でもなめられたら、自分も感染する脅威が待ち受ける。まさに犬・猫・人類が共有するパンデミックとなりかねない。

対策はないのか。新型コロナウイルスを殺す薬はないのか。いま注目されている治療薬は「アビガン」だ。新型のインフルエンザが流行した場合に備えて、国内に200万人分が備蓄されている。
 さらに抗エイズウイルス薬の「カレトラ」、エボラ出血熱の治療薬「レムデシビル」なども、ウイルスの増殖を抑える効果が期待されている。
4月には各国で有効性が確認され、その投与が進めば、一定の抑制効果を発揮することができる。だがこれらの既存薬は検証例が少なく、副作用の問題もある。どうしても新型コロナウイルス感染症の克服には、ワクチンや新薬の開発が求められている。
 EUや 英米などの製薬企業や研究所が連携してワクチンの臨床試験に踏み出し、ワクチンの生産を目指している。日本でもワクチンの開発を急ぎ、「順調に進めば、ヒトでの臨床試験を今年8月までに開始するため、当局と協議したい」(田辺三菱)という。待ち遠しい。(2020/3/29)
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2020年03月22日

【今週の風考計】3.22─<3・11フクシマ>と東京オリンピック

◆新型コロナウイルスが世界各国に拡大し、4か月後に迫る東京オリンピックにも暗雲が広がっている。日本国民の7割が期日に「開催できない」と、世論調査に答えている。
 今から6年半前の2013年9月7日、安倍首相がIOC総会で行った、「フクシマについてはアンダーコントロールされている。東京オリンピックは安心安全」とのトンデモ演説を思い出してほしい。あらためて、そのフェイクの重大さを忘れてはならない。

◆2011年3月11日に起きた東日本大震災・福島原発爆発事故─「3・11フクシマ」からの復旧もままならないなか、嘘と金をばらまいて、無理筋で招致した東京オリンピック。先日、麻生財務相が発言した「呪われたオリンピック」も、コロナは去っても放射能は残る「3・11フクシマの逆襲」と捉えたら正解かもしれない。
◆実際に、破損した福島原発の原子炉は、今もって「アンダーコントロール」などされていない。かつ漏れ出る放射性廃水は巨大なタンクに貯蔵されたまま。満杯で収容しきれず、2022年からは福島の海から太平洋へ放出する計画だ。放射性残土を詰めた20万袋に及ぶ<フレコンバッグ>も、いまだに野ざらしになっている。

◆かつ汚染廃棄物の処理費や貯蔵費が想定以上にかさみ、2014年から年間350億円、2017年からは470億円、2020年からは700億円、それ以降も、ますます膨らむという。
 政府はその財源ねん出のため、再生可能エネルギーの普及などに使い道が限られている税金を、流用できるよう法改正に躍起だ。本来の自然エネルギー開発費を、まさに原発政策の失敗の穴埋めに充てるとは、言語道断である。
◆さらにテロ対策の新基準が導入されて以降、各地の原発は再稼働に向けた安全対策費や施設の維持費、廃炉費用がかさむ。その総額は電力11社で約13兆5千億円という。もはや原発に依存せず、再生可能エネルギーを拡大するのは、世界の流れだ。
 関西電力の汚職まみれの<原発マネー>3億6千万円の還流といい、電気料金の値上げの裏で役員報酬カット2億6千万円の補填など、信じられない退廃の源となっている「原発」、元から立たなきゃダメ。

◆それにしても福島で、7月22日、東京オリンピックのソフトボール試合が、東京での開会式に先駆けて2日も早く開かれる意味は、どこにあるのか。またも「復興神話」を広げたい安倍首相のパフォーマンス? ゴメンこうむりたい。(2020/3/22)
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2020年03月15日

【今週の風考計】3.15─休校の孫2人を預かって痛切に感じる事

安倍首相が突然「小中高の一律休校」を指令してから、1週間たった8日、都心に住む息子から小学校に通う2人の子供を預かってほしいと、泣き言が入った。
 共働きの中やりくりしてきたが、どうしても昼間の面倒が見られない事態になったという。郊外の拙宅で預かるのを承諾し、この1週間、老夫婦で面倒を見てきたが、3度3度の食事だけでなく、宿題をやらせゲーム時間を抑えるなど、その大変さが実感できた。
 預ける場所や親類のいない親は、どれほど苦しんでいるか、察して余りある。

まず朝、2人の孫の体温を測り、宿題の進捗を報告せねばならない。小学3年の孫には、国語の漢字書き取り、童話の感想文。算数はドリル、理科はキッドで「おもちゃ作り」、社会はタブレットを使った新聞づくりなどが並ぶ。
これを2週間ほどで、こなさねばならないのだから、老爺心ながら子供のシンドサは思いやられる。さらに宿題一覧表の最後には、「あまった時間は読書やスタディアプリなどを使って学習しましょう。おうちですごせる工夫をしましょう。みんなで協力してこのくなんをのりこえましょう!」の一文まで書かれている。

小学3年の孫に宿題をやらせるうえで最も苦しんだのが、貸与されたB5版タブレットの小さい画面を使っての新聞づくりだった。文字入力の仕方から、割り付け、写真の取り込み、見出しづけの工夫、どれも中途半端な理解をしている孫だけに、時間のかかること甚だしい。
 四苦八苦、キーッとなる孫をなだめながら、やっと仕上がった新聞は、タブレットから担任の先生に直接送信する。いまやパソコン教育がここまで進んでいることに驚かされた。
と同時に3年生すべてが、ここまでタブレットを使いこなせるのか、疑問に思った。授業についていけず、親も手助けできなければ、落ちこぼれが進むのは必然だ。子供をパソコンン教室に通わせている親もいるという。その費用が払らえる親ならいい。貧しき者はどうなる。
 誰もが等しく教育を受け、能力が身につくよう、学校もカリキュラムへの配慮や落ちこぼれをなくす補習教室の開催など、検討してしかるべきだ。

おっと学校から「読書」の宿題もあった。図書館は閉鎖されているので、小生の書架から探し、2冊の本を引っ張り出した。かしわ哲『茅ケ崎のてっちゃん』(講談社)と中沢啓治『はだしのゲン』(全8巻 汐文社)。小学3年の孫は手に取って、字の多い本より、後者のマンガを選んだ。1週間で4巻まで読み終えた。きっと何か心に残るものがあるだろう。(2020/3/15)
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2020年03月08日

【今週の風考計】3.8─ジェンダー平等へ「#手を取り合おう」

3月8日は国際女性デー。国連開発計画が、世界人口の8割を占める75か国で、女性たち自身も含めてジェンダー調査を行ったところ、10人中9人が女性に対する偏見や先入観を持っているとの報告を発表した。
 とりわけ性差別的な偏見の割合が多かったのは、ワースト1位のパキスタンで99.81%、続くカタールとナイジェリアが99.73%だった。ジンバブエでは96%の人が、女性への暴力を容認できると答えている。

日本はどうか。女性に何らかの偏見を持つ人が、男性では73%、女性では65%いるという。先進7か国では、日本が男女ともに最高の割合でワースト1位となっている。
 驚くのは、日本の女性は女性に偏見を持つ割合が高いという現実である。そこには、これまでの古い社会通念や家族観が反映しているのは間違いない。「女は家にいるもの」「女性は男性の3歩後ろを歩く」とか、「社会のことには口を挟まない」などと説き、また積極的に立ち上がる女性に対し、女性の中から「足を引っ張る」言動も起きている。
 いまだに目に見えない枷が女性の間で浸透し作用しているのだ。もちろん男性たちが、こうした風潮を助成している責任の重大さは計り知れない。

昨年12月、世界経済フォーラムが発表した「ジェンダー・ギャップ指数」では、なんと日本は対象国153カ国中121位、過去最低ランクを記録した。106位の中国、108位の韓国よりも劣る。
 分野別にみると、男女間の年収格差108位、管理職の男女比の差131位。最も深刻なのは政治参画の順位で、国会議員の男女比では135位、閣僚の男女比では139位、安倍政権下では19人の閣僚中、女性はわずか3人、世界のワースト10に入ってしまった。
 昨年11月、フィンランドで世界最年少・34歳の女性首相が誕生している。2年半前にはニュージーランドで、当時38歳の女性が首相に就いている。日本は世界の流れから遠く引き離されている。
いま大事なのは、女性に靴のヒール6センチとか4センチのパンプスなどと義務づけるより、スニーカー全てOKを求める「#KuToo」の取り組みが象徴するように、身近なところから職場内のジェンダー平等を求める運動を、着実に広げていくことだろう。

3月に入って、新聞やテレビ、ウエブメディアなど10社が会社の枠を超えて連携するプロジェクトを始めた。「#手を取り合おう」「#メディアもつながる」のハッシュタグをつけて、女性の地位向上を目指し、だれもが尊重され、自由に生きられる社会に向けて、企画や情報を発信している。ここからシスターフッドが広がるよう応援したい。(2020/3/8)
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2020年03月01日

【今週の風考計】3.1─NO! 安倍政権の思いつき・ゴリ押し手法

★「なぜ、なぜ、やらないの? なんでだろー」の声が満ち溢れている。厚労省の新型コロナウイルスのPCR検査は1日平均約900件。1日約3800件の目標に遠く及ばない。韓国では延べ4万件以上も実施。さらに中国から無償提供された1万2500人分のPCR検査キットも棚ざらし。
 政府は「感染者の数字」を抑えるに躍起で、民間の知見者の意見も仰がず、国民を不安と混迷に陥らせたままだ。

★保険適用も遅々として進まず、いまだ休業補償もあいまいだ。韓国では14日以上に及ぶ入院隔離者に対し、4人世帯で月123万ウォン(11万4千円)の生活費を支援する。またシンガポールは新型コロナ対策に約5000億円、台湾は約2200億円を計上している。日本は153億円で事足りるとし、新規予算すら組もうとしない。
 その上、突如として小中高の全国「一律休校」の号令だ。学校は混乱し、生徒や保護者らの不安は募る。休校ショックは親ばかりでなく、労働の現場にまで広がる。

★さらには検察官の定年延長を決める政府や法務省の手法もゴリ押し極まりない。「法の番人」を自認する法務省が、「検察庁法」を口頭採決で改変する暴挙に手を貸すとは、「なんでだろー」。
 2月7日に定年退官する東京高検検事長をめぐって、官邸の意向を受けた法務省や人事院は、急遽、1月の半ばになって6か月間の定年延長を画策していた。その狙いは現在の東京高検検事長は<官邸の守護神>とも呼ばれ、7月には彼を次期の検察トップ・検事総長に据えたいからだといわれる。
 また自らの政治資金規正法に抵触する「桜疑惑」や「カジノ汚職」に連なる側近政治家たちに、特捜検察の刃が向かわないようにするためと見られている。
★1981年当時の政府見解では、「檢察官の任免については、一般の国家公務員とは異にすべきであり、国家公務員法は適用されない」とされ、それが踏襲されてきた。にも関わらず急遽1月末になって、安倍首相は「一般法である国家公務員法が適用される」と変更し、強引に定年延長を閣議決定したのだ。

★その後の法務大臣や人事院の答弁は、「つじつま合わせ」の発言訂正や「口頭採決」なる荒唐無稽な言いわけなど、噴飯ものだ。
 検察官の中からも「今回の定年延長で、国民から政権と検察の関係に疑いの目が向けられている。検察は不偏不党、公平でなければならない。この人事について国民に丁寧な説明をすべき」との声が挙がっている。
 霞が関からの反乱や起こるべし。いや永田町の自民党の先生方、国を亡ぼすまで安倍さんにつき従うのですか。(2020/3/1)
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2020年02月23日

【今週の風考計】2.23─千利休と古田織部が辿った数奇な運命

4年に一度の閏日の前日28日は「利休忌」でもあり、また「織部の日」でもある。まず「利休忌」で偲ばれる千利休は、武野紹鴎らに茶の湯を学び、信長、秀吉に仕えながら茶道の基となる「わび茶」を完成させ、<茶聖>とも称された。
 秀吉に理不尽な切腹を命じられ、天正19(1591)年2月28日自刃、享年70。今でも切腹は歴史的事実として流布している。

だが、1年前に読んだ中村修也『千利休─切腹と晩年の真実』(朝日新書)では、利休は切腹していないとの新説を打ち出している。というのも利休没後とされる1592年の秀吉の書状に、肥前・名護屋城(現在の佐賀県唐津市)で利休の茶を飲んだと書いてあるのを根拠に、利休は九州にかくまわれたのではないかという。
 秀吉が「朝鮮征伐」のために築いた名護屋城跡から、茶室の遺構が発見されている。しかも見つかった茶室は素朴でつつましく、利休が好んだ茶室にそっくりだったと推測されている。
2年前だったか、この名護屋城跡を見学したとき、高台から見晴らす玄界灘の沖には、青い海のかなたに対馬から釜山まで見通すことができた。こうした展望のある居室に座す秀吉は、思わしくない朝鮮の戦況に心鎮めるため、利休の点てる「わび茶」を喫したとの想像は、否が応でも真実味を帯びて広がってくる。
思えば千利休に魅せられて、唐木順三『千利休』(筑摩叢書)、野上弥生子『秀吉と利休』(新潮文庫)、井上靖『本覚坊遺文』(講談社文庫)、さらには山本兼一『利休にたずねよ』(PHP文芸文庫)など渉猟してきたが、中村修也さんの新説には驚かされた。

さて「織部の日」だが、千利休亡き後、秀吉の茶頭となった古田織部が、慶長4(1599)年、自分で焼いた茶器を用いて京都・伏見で茶会を開いた日に当たる。今から33年前に岐阜県土岐市が「織部の日」と制定した。
 ともあれ安土桃山時代に活躍した「へうげもの(瓢軽者)」戦国武将が、後に茶の湯の“天下一の宗匠”となるのだから驚く。だが織部は<大阪冬の陣>頃から徳川方の軍議秘密を豊臣側に漏らしたとして捕らえられ、慶長20(1615)年に切腹、享年72。流布されている千利休の運命と、くしくも同じ道を辿った。
興味津々、最新刊の伊東潤『茶聖』(幻冬舎)は、千利休をどう描いているのだろうか。利休と秀吉、二畳の茶室でどんな会話や駆け引きが展開されたのだろうか、さっそく読んでみよう。(2020/2/23)
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2020年02月09日

【今週の風考計】2.9─いまも思いだす石牟礼道子さんのオーラ

◆『苦海浄土─わが水俣病』(講談社)の出版から50年、著者の石牟礼道子さんが90歳で亡くなって、この10日で丸2年になる。石牟礼さんは、チッソという会社が熊本不知火の海″を有機水銀で汚し、人間と自然を破壊した水俣病のおぞましさを告発し続けてきた。かつ苦しむ人々に寄り添い、一緒に悶えながら、見捨てられた魂の救済に生涯をささげてきた。
◆8日に開かれた講演会<石牟礼道子の世界>に参加し、語る米本浩二さんの話に聴き入りながら、あらためて「人間の尊厳とは、命の回復とは、…」考えこまざるを得なかった。
 水俣病の発生が公式に確認されたのが1956年5月、いまから64年前だ。『苦海浄土』の第三章<ゆき女きき書き>の「もう一ぺん人間に」と題された掌作の中に、次のような「ゆき」がつぶやく叙述がある。

◆<人間な死ねばまた人間に生まれてくっとじゃろうか。うちゃやっぱり、ほかのもんに生まれ替わらず、人間に生まれ替わってきたがよか。うちゃもういっぺん、じいちゃんと舟で海にゆこうたる。うちがワキ櫓ば漕いで、じいちゃんがトモ櫓ば漕いで二丁櫓で。漁師の嫁御になって天草から渡ってきたんじゃもん。>

◆「ゆき」が語る、この「じいちゃん」茂平も、そして不知火の海″沿岸の住民も、長い間なにも知らされずに、サワラやコノシロなどの魚を朝昼晩とわず食べてきた。それが猫の狂い死にから漁民の手足の痺れへと広がり、ついには足腰が立たず、目も弱くなり、言葉ももつれるようになった。まさに神経系疾患を発症し「水俣死民」を誕生させたのだ。
◆他人の苦しみに深く感応し、見過ごせない石牟礼さんは「悶え神」として患者に寄り添い、漆黒ののぼり旗に白抜きで「怨」の文字を刻み、水俣病闘争に「加勢」する。
<水俣病事件の全様相は、…公害問題あるいは環境問題という概念ではくくりきれない様相をもって、この国の近代の肉質がそこでは根底的に問われている>
との認識に立ち、3年にわたって水俣―東京間を往復し、座り込みや「死民」のゼッケンをつけての街頭行進に投入する。しかし金銭的解決に矮小化されていく道筋に、満たされぬ石牟礼さんの「魂」は、新たな地平に向けて歩みだす。

◆さて『苦海浄土』が講談社文庫に収載・刊行されたのは、1972年12月15日。「水俣病闘争」の激しい時期だ。この文庫化作業にあたった女性編集者から、「石牟礼さんは、原本に赤字をいっぱい入れてきた。それを整理して送り返すと、またも赤字を入れてくる」苦労を聞いた。それだけ文字に「魂」を、入れ込もうとしていたことが分かる。
◆その後、彼女から引き継いで担当することになり、重版の連絡や読者からの問い合わせなど、電話や手紙でコンタクトしていたが、1990年代中頃だったか、石牟礼さんが講演で上京した折、お会いすることになった。短い時間、何を話したかなど問題でなく、石牟礼さんの体から、何かオーラのような光が発しているのを感じてしまい、身がすくんだことが、今でも忘れられない。(2020/2/9)
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