命を守る1週間
■風薫る5月、青葉が芽吹き、鳥は鳴き、生きとし生けるもの全ての命が輝く。この1週間、命を大切にする取り組みや行事が目白押しだ。
8日は「世界赤十字デー」─今から164年前、イタリアが統一を目指しオーストリアと交戦していた激戦地で、スイス人の実業家アンリー・デュナンが両国の負傷者を救護する活動に従事していた。
その経験を活かし4年後に赤十字国際委員会の前身「五人委員会」を立ち上げ、国際赤十字組織の原点を作った。彼の誕生日を記念して制定された。
■同日は「第2次世界大戦で命を失った人たちのための追悼と和解のためのとき」と名づけ、9日まで取り組む国際デーでもある。ナチス・ドイツが連合国軍に無条件降伏した文書の調印・批准にちなみ、2004年に制定されている。
だがロシアのプーチン大統領は、9日のロシア「対独戦勝記念日」を、本来の「追悼と和解のためのとき」という精神を踏みにじり、「ウクライナをネオナチとみなし軍事進攻を正当化」する日にすり替え、いっそう国民を煽ろうとしている。
アルガンノキデーとは
■10日は国際アルガンノキデー。あまり聞いたことのない国際デーだが、アフリカの北西端に位置するモロッコ王国に固有の樹木・アルガンノキを大切にする日。人類の無形文化遺産および持続可能な開発の源として、2021年2月に制定された。
アルガンノキは、樹高10メートルほどの常緑樹で樹齢は150年を超える。その木にヤギが登っている写真を見た方もあるだろう。乾燥に強く種子から取れる油が貴重なアルガンオイルとして古くから利用されている。近年は化粧品にも使われ注目されている。
■12日は国際看護師の日─近代看護の基礎を築いたイギリスの看護師フローレンス・ナイチンゲール(1820〜1910)の功績を称え、彼女の誕生日に由来して1965年から始まった国際デー。日本でも1990年に「看護の日」として制定されている。
■14日は母の日。5月の第2日曜日に充てられている。由来は115年ほど前の米国でアンナ・ジャービスという女性が亡き母を追悼するため、教会で白いカーネーションを配ったのが始まりといわれる。
その後、米国全土に広がり、1914年に正式に制定された。日本でも翌年の1915(大正4)年には教会で母の日のイベントが行われ定着した。
国会では軍拡法案のゴリ押し
■すでに10日からは愛鳥週間が始まり、13日は愛犬の日と続く。こうした生きとし生けるもの全ての命を大切にする重要な5月。ところが岸田政権は命を危うくする法案のゴリ押しに懸命だ。
4月末の国会では原発推進法案、保険証廃止のマイナンバー法案、入国管理法案など人の命にかかわる悪法を次ぎ次ぎと採決し、参院に回して成立を図る。
■連休が明けるや、またまた岸田政権は維新や国民民主の協力・応援を頼みに、5年間で43兆円の軍拡財源法案、防衛力強化資金を創設する軍需産業支援法案など、矢継ぎ早の成立に向け、公聴会も開かず突っ走る。こんな法案に命を懸けるとは愚の骨頂。政治の堕落は極まれり。 (2023/5/7)
※本コラムは2005年4月15日以来、毎週日曜日に掲載してきましたが、今回をもって終了します。
2023年05月07日
2023年04月23日
【今週の風考計】4.23─9連休が迫る4月末に起きた世界的トピックを顧みる
26日〜28日の世界的な出来事
◆今週末から9連休という大型のゴールデンウイークに入る。予定を立てるに忙しいことだろう。筆者もカレンダーを見ながら、連休前の3日間に目が行き、この欄を執筆するうえで何が起きていたかクロニクルを繰ってみた。
40年、50年、70年のスパンで歴史を遡るのも一興か。いくつかのトピックに惹かれ考えを巡らしてみた。
チェルノブイリ原発事故とドイツの脱原発
◆まず4月26日、今から37年前、ウクライナにあるチェルノブイリ原発で爆発事故が起きた。爆発から14日後の5月10日、やっと収束したが、広島に投下された原子爆弾の数百倍もの放射性物質が大気中へ放出され、近隣諸国の人々にまで甚大な被害をもたらした。今も甲状腺ガンなどの後遺症が続く。
◆そして再び12年前の<3・11フクシマ>。東日本大震災の津波で運転中の福島原発が水素爆発を起こし、放射性物質を大量に放出する重大事故を招いた。いまだに炉心は溶融し燃料デブリはそのままだ。原発の恐ろしさが身に染みているはずなのに、なんと岸田首相は原発の60年稼働・新設に躍起だ。
◆ドイツは15日、最後の原子炉3基を止め、<3・11フクシマ>を教訓として踏み切った脱原発が完了した。60年にわたる原子力事業に終止符が打たれ、2035年までに再生可能エネルギーのみによる電力供給を目指す。
この両国の違いは何なのか。地球や国の未来に対する政治の責任を自覚するドイツと、放棄する日本の政権政党の無残な姿ではないか。
50年前、日本で初のゼネスト
◆さて働くものへの「賃上げ」は、どこまで実現したのか。大手企業の正社員は潤っても、非正規雇用や中小企業の社員へのアップは微々たるものだ。昔は「国民春闘」と位置づけ、こぞって労働組合はストライキを打ち、会社や経団連と交渉したものだ。
◆今から50年前の4月27日には、国民生活擁護の「世直し」春闘として、310万人の労働者が参加する初の統一ストライキが決行されている。「春闘にストを打つ」のは常識だったが、今や見る影もない。
◆目を世界に転ずれば、米国ではアマゾンやアップル、スターバックスなどに働く労働者が、「賃上げ」を要求して堂々とストライキを打っている。フランスでは年金支給の改悪に労働組合のストに連帯し国民こぞってデモを繰り広げている。スリランカでは1年前の4月28日、政権の無策に抗議して初のゼネストが実施されている。
なのに日本は、労働組合の「連合」が岸田政権にスリ寄り、ストライキすら打てない腰抜けの姿をさらしている。
「安保条約」発効から71年目の現実
◆もう一つ、4月28日がある。いまから71年前、「日米安保条約」が発効した。米国との単独講和により日本各地に米軍基地が設けられ、米国の重要な軍事拠点とされた。とりわけ沖縄には米軍基地が集中し、米軍の飛行機事故や米兵の犯罪など社会問題が頻発している。
◆1960年に「日米安保条約」が改訂され、新たに締結された「日米地位協定」では、「米兵に対する日本の第一次裁判権」や「日本の警察による米兵の身柄確保」まで放棄し、63年間にわたって一度も改訂されず、国内法および日本の主権が侵害され続けている。
加えて在日米軍の駐留経費を負担する「思いやり予算」は増え続け、いまや2千億円を超える。独立どころか「対米従属」ズッポリの日本の姿は、悲しいとしか言いようがない。
◆しかも2014年、安倍政権は米国の要請に応じ米国と一体になって、集団的自衛権が行使できるよう憲法解釈を変更し、海外でも自衛隊の武器使用を認める安保法制へと変えた。
米国の戦争に巻き込まれるだけでなく、日本国憲法9条にある「戦争放棄」まで捨て、敵基地への「先制攻撃」すら準備する。また相手国からの反撃に備えるべく自衛隊の基地を地下壕に移築するという。まさに暴挙の限りを尽くす事態だ。旅行に出る気など失せてしまう。(2023/4/23)
◆今週末から9連休という大型のゴールデンウイークに入る。予定を立てるに忙しいことだろう。筆者もカレンダーを見ながら、連休前の3日間に目が行き、この欄を執筆するうえで何が起きていたかクロニクルを繰ってみた。
40年、50年、70年のスパンで歴史を遡るのも一興か。いくつかのトピックに惹かれ考えを巡らしてみた。
チェルノブイリ原発事故とドイツの脱原発
◆まず4月26日、今から37年前、ウクライナにあるチェルノブイリ原発で爆発事故が起きた。爆発から14日後の5月10日、やっと収束したが、広島に投下された原子爆弾の数百倍もの放射性物質が大気中へ放出され、近隣諸国の人々にまで甚大な被害をもたらした。今も甲状腺ガンなどの後遺症が続く。
◆そして再び12年前の<3・11フクシマ>。東日本大震災の津波で運転中の福島原発が水素爆発を起こし、放射性物質を大量に放出する重大事故を招いた。いまだに炉心は溶融し燃料デブリはそのままだ。原発の恐ろしさが身に染みているはずなのに、なんと岸田首相は原発の60年稼働・新設に躍起だ。
◆ドイツは15日、最後の原子炉3基を止め、<3・11フクシマ>を教訓として踏み切った脱原発が完了した。60年にわたる原子力事業に終止符が打たれ、2035年までに再生可能エネルギーのみによる電力供給を目指す。
この両国の違いは何なのか。地球や国の未来に対する政治の責任を自覚するドイツと、放棄する日本の政権政党の無残な姿ではないか。
50年前、日本で初のゼネスト
◆さて働くものへの「賃上げ」は、どこまで実現したのか。大手企業の正社員は潤っても、非正規雇用や中小企業の社員へのアップは微々たるものだ。昔は「国民春闘」と位置づけ、こぞって労働組合はストライキを打ち、会社や経団連と交渉したものだ。
◆今から50年前の4月27日には、国民生活擁護の「世直し」春闘として、310万人の労働者が参加する初の統一ストライキが決行されている。「春闘にストを打つ」のは常識だったが、今や見る影もない。
◆目を世界に転ずれば、米国ではアマゾンやアップル、スターバックスなどに働く労働者が、「賃上げ」を要求して堂々とストライキを打っている。フランスでは年金支給の改悪に労働組合のストに連帯し国民こぞってデモを繰り広げている。スリランカでは1年前の4月28日、政権の無策に抗議して初のゼネストが実施されている。
なのに日本は、労働組合の「連合」が岸田政権にスリ寄り、ストライキすら打てない腰抜けの姿をさらしている。
「安保条約」発効から71年目の現実
◆もう一つ、4月28日がある。いまから71年前、「日米安保条約」が発効した。米国との単独講和により日本各地に米軍基地が設けられ、米国の重要な軍事拠点とされた。とりわけ沖縄には米軍基地が集中し、米軍の飛行機事故や米兵の犯罪など社会問題が頻発している。
◆1960年に「日米安保条約」が改訂され、新たに締結された「日米地位協定」では、「米兵に対する日本の第一次裁判権」や「日本の警察による米兵の身柄確保」まで放棄し、63年間にわたって一度も改訂されず、国内法および日本の主権が侵害され続けている。
加えて在日米軍の駐留経費を負担する「思いやり予算」は増え続け、いまや2千億円を超える。独立どころか「対米従属」ズッポリの日本の姿は、悲しいとしか言いようがない。
◆しかも2014年、安倍政権は米国の要請に応じ米国と一体になって、集団的自衛権が行使できるよう憲法解釈を変更し、海外でも自衛隊の武器使用を認める安保法制へと変えた。
米国の戦争に巻き込まれるだけでなく、日本国憲法9条にある「戦争放棄」まで捨て、敵基地への「先制攻撃」すら準備する。また相手国からの反撃に備えるべく自衛隊の基地を地下壕に移築するという。まさに暴挙の限りを尽くす事態だ。旅行に出る気など失せてしまう。(2023/4/23)
2023年04月16日
【今週の風考計】4.16─「チャットGPT」がもたらす人間・世界支配の怖れ
1億人を超える利用者
■先日のJCJ 出版部会で、「チャットGPT」が話題となった。「チャットGPT」は米国のマイクロソフト社が出資する<オープンAI>社が開発した、対話型「生成AI」を駆使する無料のチャットサービスである。
■私たちの質問や要求に対し、Web上にある大量のデータを集積して、的確な文章にまとめクオリティの高い回答をしてくれる。メール作成、詩や小説の執筆、各種計算ソフトの作成、料理の献立、作曲など、あらゆる分野のニーズに応えてくれる。昨年11月に公開されるや、わずか2カ月で利用者が1億人に到達した。
この状況を他のIT企業が見過ごす訳がない。3月にはグーグルが「バード」を米英2カ国に限定公開した。
世界に広がる規制の動き
■だが「チャットGPT」には、個人情報の漏えい、情報の信ぴょう性について、多くの懸念や疑問が提起され、「チャットGPT」の規制が世界で広がっている。
イタリアではプライバシー侵害などへの懸念から、「チャットGPT」を3月末、一時的に使用禁止にした。そのうえで<オープンAI>に対し、4月末までに個人情報の収集や利用者の年齢確認など、厳密化への具体策を求めている。
■ドイツやフランスでも規制論が浮上している。「チャットGPT」が回答の精度を上げるために、本人の同意なく大量のデータを収集することは、EUの「一般データ保護規則」違反だと指摘している。
国会答弁も「チャットGPT」
■さて日本はどうか。岸田首相は10日、来日した<オープンAI>社のアルトマンCEOと会談し、「チャットGPT」の積極的な活用へと前のめりになっている。西村経産相は「チャットGPT」で、国会答弁の作成も視野に入れるという。
国会答弁まで「チャットGPT」にまかせたら、情報管理の安全性や不正確な文章の挿入だけでなく、いまでさえ血の通わぬ国会答弁なのに、ますます事務的で空疎なものになるのは目に見えている。
■学習・教育分野でも悪影響を懸念する声が相次いでいる。「チャットGPT」は論文やリポート、読書感想文などを短時間で作るため、著作権を侵害する可能性や差別・偏見を助長する答えを返す恐れもある。
東大や上智大などでは、リポート作成に「チャットGPT」を利用すれば、ひょう窃の懸念も含め、他人に依頼して作ったものとして認めない旨を学生に通知している。
「生成AI」が悪用される恐れ
■もっと深刻なのは、元グーグル社員で元ニューヨーク大研究教授のメレディス・ウィテカー氏が指摘する「監視ビジネスによる人間・世界支配」だという。インタビューに答えて、次のように述べている(朝日新聞・電子版4/6付)。
「独占的な巨大IT企業は、世界を舞台にGメールやフェイスブックを通じて膨大なデータを集めて分析し、クラウド顧客に効果のあるサービスを提供し収益化する。その収益によってインフラ費用をまかない、またデータを集約して生成AIを高度化する。
この生成AI自体が個人の内面にまで踏み込み、プライバシーを明らかにし、独自の監視機能の役目を果たす。AIと監視モデルの関係が、さらに強まる恐れがある」(要約)
■まぎれもなく巨大IT企業の「生成AI」によって、私たち一人ひとりの性格や嗜好、財産、思想・信条まで監視・データ化される事態が生まれるのだ。13日には米国のアマゾンが、企業向けに新たな「生成AI」の提供を始めると発表した。
こうして「生成AI」を多種多様な企業や組織が使いだしたら、個人のプライバシーや人権が損なわれるだけでなく、意図的に国家や企業・政党などの存立や民主主義を危うくするために、悪用される危険性も視野に入れなければならない。まさに恐ろしい時代に入っているのだ。(2023/4/16)
■先日のJCJ 出版部会で、「チャットGPT」が話題となった。「チャットGPT」は米国のマイクロソフト社が出資する<オープンAI>社が開発した、対話型「生成AI」を駆使する無料のチャットサービスである。
■私たちの質問や要求に対し、Web上にある大量のデータを集積して、的確な文章にまとめクオリティの高い回答をしてくれる。メール作成、詩や小説の執筆、各種計算ソフトの作成、料理の献立、作曲など、あらゆる分野のニーズに応えてくれる。昨年11月に公開されるや、わずか2カ月で利用者が1億人に到達した。
この状況を他のIT企業が見過ごす訳がない。3月にはグーグルが「バード」を米英2カ国に限定公開した。
世界に広がる規制の動き
■だが「チャットGPT」には、個人情報の漏えい、情報の信ぴょう性について、多くの懸念や疑問が提起され、「チャットGPT」の規制が世界で広がっている。
イタリアではプライバシー侵害などへの懸念から、「チャットGPT」を3月末、一時的に使用禁止にした。そのうえで<オープンAI>に対し、4月末までに個人情報の収集や利用者の年齢確認など、厳密化への具体策を求めている。
■ドイツやフランスでも規制論が浮上している。「チャットGPT」が回答の精度を上げるために、本人の同意なく大量のデータを収集することは、EUの「一般データ保護規則」違反だと指摘している。
国会答弁も「チャットGPT」
■さて日本はどうか。岸田首相は10日、来日した<オープンAI>社のアルトマンCEOと会談し、「チャットGPT」の積極的な活用へと前のめりになっている。西村経産相は「チャットGPT」で、国会答弁の作成も視野に入れるという。
国会答弁まで「チャットGPT」にまかせたら、情報管理の安全性や不正確な文章の挿入だけでなく、いまでさえ血の通わぬ国会答弁なのに、ますます事務的で空疎なものになるのは目に見えている。
■学習・教育分野でも悪影響を懸念する声が相次いでいる。「チャットGPT」は論文やリポート、読書感想文などを短時間で作るため、著作権を侵害する可能性や差別・偏見を助長する答えを返す恐れもある。
東大や上智大などでは、リポート作成に「チャットGPT」を利用すれば、ひょう窃の懸念も含め、他人に依頼して作ったものとして認めない旨を学生に通知している。
「生成AI」が悪用される恐れ
■もっと深刻なのは、元グーグル社員で元ニューヨーク大研究教授のメレディス・ウィテカー氏が指摘する「監視ビジネスによる人間・世界支配」だという。インタビューに答えて、次のように述べている(朝日新聞・電子版4/6付)。
「独占的な巨大IT企業は、世界を舞台にGメールやフェイスブックを通じて膨大なデータを集めて分析し、クラウド顧客に効果のあるサービスを提供し収益化する。その収益によってインフラ費用をまかない、またデータを集約して生成AIを高度化する。
この生成AI自体が個人の内面にまで踏み込み、プライバシーを明らかにし、独自の監視機能の役目を果たす。AIと監視モデルの関係が、さらに強まる恐れがある」(要約)
■まぎれもなく巨大IT企業の「生成AI」によって、私たち一人ひとりの性格や嗜好、財産、思想・信条まで監視・データ化される事態が生まれるのだ。13日には米国のアマゾンが、企業向けに新たな「生成AI」の提供を始めると発表した。
こうして「生成AI」を多種多様な企業や組織が使いだしたら、個人のプライバシーや人権が損なわれるだけでなく、意図的に国家や企業・政党などの存立や民主主義を危うくするために、悪用される危険性も視野に入れなければならない。まさに恐ろしい時代に入っているのだ。(2023/4/16)
2023年04月09日
【今週の風考計】4.9─またまた電気料金が値上げされるシステムの不可解さ
電力3社に1千億の課徴金
◆電力会社の眼を覆うような不祥事が続く。大手電力7社が新電力の顧客情報を7年間で75万件も不正に閲覧していた。再生エネルギー電力を使う顧客のニーズを探り、対策を講するために閲覧していた疑念はぬぐえない。経産省は業務改善命令を出すに至った。
◆さらに大手電力会社が一般企業に電力を売る際、「お互いの獲得エリアの顧客には手を出さない」とのカルテルを結び、新電力も含め他社の参入を防ぐ画策すら弄して、不正な取引制限(独禁法違反)を続けていた。
この違反が明るみに出て、公正取引委員会はカルテルを結んだ中部電力、中国電力、九州電力3社に対し総額1010億円の課徴金の納入を命じた。そのうち中国電力は過去最大の707億円を占める。
◆「顧客情報の不正閲覧」や「カルテル」など、次々と明るみに出る大手電力の不正は、2016年から始まった電力販売の完全自由化を、物の見事に骨抜きにし、電気料金の低減化を妨害するものだ。国民からの信頼を裏切る、トンデモナイ悪行である。
にもかかわらず大手電力7社は、電気代28%〜45%の値上げを申請している。利用者に負担増を求める前に、抜本的な経営改革に着手するのが先ではないか。
複雑な電気代・明細項目
◆電気料金の値上げは、2021年9月から続いている。この2年半で月額5,000円ほど高くなったのを実感する。
改めて我が家の電気料金明細書を見て驚いた。その項目の多さと内容の複雑さである。基本料金、電力量料金、燃料費調整額、再生可能エネルギー発電促進賦課金の各項目からなり、そこに計上された金額の合計が電気料金となる。
◆基本料金は毎月定額、電力量料金は1カ月の使用量に応じての変動は理解できる。だが金額の高い「燃料費調整額」となると、内容が分からないだけに首をかしげてしまう。
これは電気を作るに必要な燃料の調達コストに応じて決まるという。燃料の調達コストが高騰すれば、その価格を消費者に自動的に転嫁し使用量に応じて燃料費調整金を負担してもらうというシステムなのだ。
◆その調達コスト、電力会社は軽減する努力を十分しているのだろうか。その姿が私たちには見えない。あまりにも責任転嫁が過ぎるとの批判を受け、燃料費調整単価の上限を超えた分は電力会社の負担とする「規制料金」制度を導入、電気利用者の負担を軽減しているという。だが軽減を実感したことはない。
「再エネ促進賦課金」とは?
◆もっと分からないのは、「再生可能エネルギー発電促進賦課金」である。この「再エネ促進賦課金」と略されているシステムは、CO2排出量削減の解決策として再生可能エネルギーを使って作られた電気を、電力会社が一定価格・一定期間で買い取るため、国が電力会社に資金を補てんし、財政保証する制度である。その国の資金を得るために、私たちの電気料金に被せ1カ月の使用電力量に応じて徴収している。
◆だが待てよ、この「再エネ促進賦課金」、いかにも地球温暖化や気候変動を防ぐための賦課金だから、負担は当然とでもいうが、この賦課金はどこにどう使われ、本当に再生可能エネルギーの活用に充当されているのか、私たちに開示され説明された記憶はない。
また託送料金の値上げも見過ごせない。託送料金とは「送配電網の利用料」をいい、電気料金の30〜40%を占め、この4月1日より託送料金が平均月額36円の値上げとなる。電柱や電線の費用まで私たちが負担すべきなのか。
◆これほどまでに電力という公共財への費用を、すべて消費者負担に転嫁する日本の政治システム、変えなければダメだ。(2023/4/9)
◆電力会社の眼を覆うような不祥事が続く。大手電力7社が新電力の顧客情報を7年間で75万件も不正に閲覧していた。再生エネルギー電力を使う顧客のニーズを探り、対策を講するために閲覧していた疑念はぬぐえない。経産省は業務改善命令を出すに至った。
◆さらに大手電力会社が一般企業に電力を売る際、「お互いの獲得エリアの顧客には手を出さない」とのカルテルを結び、新電力も含め他社の参入を防ぐ画策すら弄して、不正な取引制限(独禁法違反)を続けていた。
この違反が明るみに出て、公正取引委員会はカルテルを結んだ中部電力、中国電力、九州電力3社に対し総額1010億円の課徴金の納入を命じた。そのうち中国電力は過去最大の707億円を占める。
◆「顧客情報の不正閲覧」や「カルテル」など、次々と明るみに出る大手電力の不正は、2016年から始まった電力販売の完全自由化を、物の見事に骨抜きにし、電気料金の低減化を妨害するものだ。国民からの信頼を裏切る、トンデモナイ悪行である。
にもかかわらず大手電力7社は、電気代28%〜45%の値上げを申請している。利用者に負担増を求める前に、抜本的な経営改革に着手するのが先ではないか。
複雑な電気代・明細項目
◆電気料金の値上げは、2021年9月から続いている。この2年半で月額5,000円ほど高くなったのを実感する。
改めて我が家の電気料金明細書を見て驚いた。その項目の多さと内容の複雑さである。基本料金、電力量料金、燃料費調整額、再生可能エネルギー発電促進賦課金の各項目からなり、そこに計上された金額の合計が電気料金となる。
◆基本料金は毎月定額、電力量料金は1カ月の使用量に応じての変動は理解できる。だが金額の高い「燃料費調整額」となると、内容が分からないだけに首をかしげてしまう。
これは電気を作るに必要な燃料の調達コストに応じて決まるという。燃料の調達コストが高騰すれば、その価格を消費者に自動的に転嫁し使用量に応じて燃料費調整金を負担してもらうというシステムなのだ。
◆その調達コスト、電力会社は軽減する努力を十分しているのだろうか。その姿が私たちには見えない。あまりにも責任転嫁が過ぎるとの批判を受け、燃料費調整単価の上限を超えた分は電力会社の負担とする「規制料金」制度を導入、電気利用者の負担を軽減しているという。だが軽減を実感したことはない。
「再エネ促進賦課金」とは?
◆もっと分からないのは、「再生可能エネルギー発電促進賦課金」である。この「再エネ促進賦課金」と略されているシステムは、CO2排出量削減の解決策として再生可能エネルギーを使って作られた電気を、電力会社が一定価格・一定期間で買い取るため、国が電力会社に資金を補てんし、財政保証する制度である。その国の資金を得るために、私たちの電気料金に被せ1カ月の使用電力量に応じて徴収している。
◆だが待てよ、この「再エネ促進賦課金」、いかにも地球温暖化や気候変動を防ぐための賦課金だから、負担は当然とでもいうが、この賦課金はどこにどう使われ、本当に再生可能エネルギーの活用に充当されているのか、私たちに開示され説明された記憶はない。
また託送料金の値上げも見過ごせない。託送料金とは「送配電網の利用料」をいい、電気料金の30〜40%を占め、この4月1日より託送料金が平均月額36円の値上げとなる。電柱や電線の費用まで私たちが負担すべきなのか。
◆これほどまでに電力という公共財への費用を、すべて消費者負担に転嫁する日本の政治システム、変えなければダメだ。(2023/4/9)
2023年04月02日
【今週の風考計】4.2─教科書に載る「愛国心」のウサン臭さに気を付けよ
ますます強化される教科書検定
●<ピカピカの1年生>が、胸ドキドキ夢いっぱいにして学校へ通ってくる。誰もが健やかに伸び伸びと学んでほしいと願う。その大切な基礎となる教科書が大きく変わる。来年4月から小学校で使われる教科書の検定結果が公表された。
●文科省は、5年前から特別教科となった「道徳の教科書」について厳しく精査し、「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」の項目をめぐり、「扱いが不適切」との意見を教科書会社に注文づけた。その数は13件にもおよび、過去2回の検定と比べ大幅に増えている。
ただし、どこが不適切かについての具体的な指示は出さず、教科書会社の自主的な判断と修正にまかせ、文科省は手を汚さず、アウンのうちに「愛国心」教育をより強化する道を整えた。
「和菓子屋」から「地元のあんこ屋」へ
●本来、道徳は強制的に押しつけるものではない。本人の内心から自主的に身に着けていくものだ。「伝統と文化の尊重」だからと言って、小学2年生の教科書では、急に「地元のあんこ屋」を持ち出し、昔からある食べ物や味を大切にしようなどとは苦笑してしまう。実際、身近に「地元のあんこ屋」など、あるだろうか。いや「あんこ」そのものが嫌いな子は多い。ピザのほうがいいのだ。
●前の検定では「郷土愛」を扱う部分で、文科省の指摘により「パン屋」を「和菓子屋」に換えた教科書があったが、今や小学校の全教科書にQRコードがつきデジタル対応するのに、教科書の題材がガラパゴス的な懐旧の復活とも思えるものでは、子どもからソッポを向かれ、いかに苦労して教えても身につかないのは必定だ。
沖縄戦から消える日本軍による虐殺
●沖縄戦についてはどうか。小学6年生用の社会科教科書を扱う全3社とも、「集団自決(強制集団死)」に触れたものの、日本軍による「強制・関与」や「軍命」の記述はなく、「アメリカ軍の攻撃で追いつめられ」といった説明しかない。
これでは沖縄戦の実態が伝わらない。日本軍が沖縄住民にスパイの嫌疑をかけ虐殺に及んだ行為だけでなく、捕虜となることを禁じた「戦陣訓」にまで触れて、その実相を伝えるべきだ。あわせて戦前・戦中の軍国主義教育についても記述すべきではないか。
●先月28日には、沖縄・渡嘉敷村が主催する「集団自決」などの犠牲者を弔う慰霊祭が4年ぶりに開かれた。生存している古老から、自決をめぐる生々しい話を聞いている子どもたちは、この教科書のゴマカシを見抜くに違いない。
●その時々の権力に都合の良い記述に変える教科書では、歴史的経過や真実からもカケ離れ、他国からも信用されなくなるのは必定だ。さっそく韓国は韓国の立場で、島根県の竹島を「日本固有の領土」と明記した検定を非難している。また朝鮮人労働者の強制徴用についても、朝鮮人が自主的に応じた「日常的な労務動員」とする記述に、怒りの声を挙げている。
「はだしのゲン」などが削除される真の理由
●78年前の太平洋戦争で、米軍の原爆により未曾有の被爆死傷者を出した広島。その広島市教育委員会が、あろうことか市立の小中高校を対象にした「平和教育プログラム」の教材から漫画「はだしのゲン」を削除する方針を決めた。
さらに米国のビキニ水爆実験で被爆した静岡県焼津市のマグロ漁船「第五福竜丸」の記述もなくすというのだから呆れる。
●「はだしのゲン」は<漫画だから実相が伝えられない>とか<第五福竜丸は被爆の記述にとどまり、被爆の実相を確実に継承する学習内容にならない>などの理由を挙げている。
漫画「はだしのゲン」や第五福竜丸の被爆は、まさに米国が人類にもたらした「核」の実相を世界の人々に明らかにし、「核」を行使した責任を問う歴史的教材ではないか。これまでの日米関係は、米国の加害責任を免罪するため、いかにして矛先をそらすか、その工作に腐心してきた歴史だとも言える。
●岸田首相は「憲法9条」を骨抜きにする「安保3文書の改訂」から「敵基地攻撃能力の保持」「軍事費GDP比2%」への仕上げとして、5月に地元の広島で開催する「G7サミット」に備え、米国の「核」への批判を封じるべく、広島の「平和教育の教材」から削除したのではないか。
教科書の検定にしろ、平和教材の選別・排除にしろ、時の政府の見解および意向に沿った内容に仕向ける手段と化している。昨年JCJ大賞を受賞した斉加尚代さん監督のドキュメンタリー映画「教育と愛国」は、その鮮やかな検証である。(2023/4/2)
●<ピカピカの1年生>が、胸ドキドキ夢いっぱいにして学校へ通ってくる。誰もが健やかに伸び伸びと学んでほしいと願う。その大切な基礎となる教科書が大きく変わる。来年4月から小学校で使われる教科書の検定結果が公表された。
●文科省は、5年前から特別教科となった「道徳の教科書」について厳しく精査し、「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」の項目をめぐり、「扱いが不適切」との意見を教科書会社に注文づけた。その数は13件にもおよび、過去2回の検定と比べ大幅に増えている。
ただし、どこが不適切かについての具体的な指示は出さず、教科書会社の自主的な判断と修正にまかせ、文科省は手を汚さず、アウンのうちに「愛国心」教育をより強化する道を整えた。
「和菓子屋」から「地元のあんこ屋」へ
●本来、道徳は強制的に押しつけるものではない。本人の内心から自主的に身に着けていくものだ。「伝統と文化の尊重」だからと言って、小学2年生の教科書では、急に「地元のあんこ屋」を持ち出し、昔からある食べ物や味を大切にしようなどとは苦笑してしまう。実際、身近に「地元のあんこ屋」など、あるだろうか。いや「あんこ」そのものが嫌いな子は多い。ピザのほうがいいのだ。
●前の検定では「郷土愛」を扱う部分で、文科省の指摘により「パン屋」を「和菓子屋」に換えた教科書があったが、今や小学校の全教科書にQRコードがつきデジタル対応するのに、教科書の題材がガラパゴス的な懐旧の復活とも思えるものでは、子どもからソッポを向かれ、いかに苦労して教えても身につかないのは必定だ。
沖縄戦から消える日本軍による虐殺
●沖縄戦についてはどうか。小学6年生用の社会科教科書を扱う全3社とも、「集団自決(強制集団死)」に触れたものの、日本軍による「強制・関与」や「軍命」の記述はなく、「アメリカ軍の攻撃で追いつめられ」といった説明しかない。
これでは沖縄戦の実態が伝わらない。日本軍が沖縄住民にスパイの嫌疑をかけ虐殺に及んだ行為だけでなく、捕虜となることを禁じた「戦陣訓」にまで触れて、その実相を伝えるべきだ。あわせて戦前・戦中の軍国主義教育についても記述すべきではないか。
●先月28日には、沖縄・渡嘉敷村が主催する「集団自決」などの犠牲者を弔う慰霊祭が4年ぶりに開かれた。生存している古老から、自決をめぐる生々しい話を聞いている子どもたちは、この教科書のゴマカシを見抜くに違いない。
●その時々の権力に都合の良い記述に変える教科書では、歴史的経過や真実からもカケ離れ、他国からも信用されなくなるのは必定だ。さっそく韓国は韓国の立場で、島根県の竹島を「日本固有の領土」と明記した検定を非難している。また朝鮮人労働者の強制徴用についても、朝鮮人が自主的に応じた「日常的な労務動員」とする記述に、怒りの声を挙げている。
「はだしのゲン」などが削除される真の理由
●78年前の太平洋戦争で、米軍の原爆により未曾有の被爆死傷者を出した広島。その広島市教育委員会が、あろうことか市立の小中高校を対象にした「平和教育プログラム」の教材から漫画「はだしのゲン」を削除する方針を決めた。
さらに米国のビキニ水爆実験で被爆した静岡県焼津市のマグロ漁船「第五福竜丸」の記述もなくすというのだから呆れる。
●「はだしのゲン」は<漫画だから実相が伝えられない>とか<第五福竜丸は被爆の記述にとどまり、被爆の実相を確実に継承する学習内容にならない>などの理由を挙げている。
漫画「はだしのゲン」や第五福竜丸の被爆は、まさに米国が人類にもたらした「核」の実相を世界の人々に明らかにし、「核」を行使した責任を問う歴史的教材ではないか。これまでの日米関係は、米国の加害責任を免罪するため、いかにして矛先をそらすか、その工作に腐心してきた歴史だとも言える。
●岸田首相は「憲法9条」を骨抜きにする「安保3文書の改訂」から「敵基地攻撃能力の保持」「軍事費GDP比2%」への仕上げとして、5月に地元の広島で開催する「G7サミット」に備え、米国の「核」への批判を封じるべく、広島の「平和教育の教材」から削除したのではないか。
教科書の検定にしろ、平和教材の選別・排除にしろ、時の政府の見解および意向に沿った内容に仕向ける手段と化している。昨年JCJ大賞を受賞した斉加尚代さん監督のドキュメンタリー映画「教育と愛国」は、その鮮やかな検証である。(2023/4/2)
2023年03月26日
【今週の風考計】3.26─WBC侍ジャパンが優勝した先の課題に目を据えて
侍ジャパンの14年ぶりの優勝
■WBC参加20カ国の頂点に立った侍ジャパン、おめでとう! この2週間、野球中継に釘付けとなった。とりわけ米国との決勝戦、侍ジャパンが1点リードした9回裏、リリーフで登板した大谷翔平投手の劇的な投球は、今でも目に残る。
■大谷投手は、米国の最強スラッガーでエンゼルスの同僚でもあるマイク・トラウト外野手に、フルカウントから投げたスイーパーが大きく横に曲がり、思わずトラウトはバットを出し三振、ゲームセットとなった。歓喜にあふれる選手たちの映像に、我ながら感極まった。
WBCが抱える課題
■新聞各紙も号外「侍J 世界一奪還」を発行、27日には『WBC2023 メモリアルフォトブック』(初版3万部 世界文化社)が発売される。優勝セールも予定される。その経済効果は600億円に及ぶという。
■WBCによると4プールに分けた1次予選の観客数は前回大会から倍増、大会史上最多の101万人、準々決勝からのトーナメント7試合だけでも観客数は30万人を超える。
だが<WBCは世界的人気イベントになれるのか?>と、いち早く問題提起する東京新聞3面総合欄「核心」(3/23付)の米フロリダ州マイアミ・浅井俊典さんの記事は注目していい。
■その要旨をまとめてみると、「WBCを主催する米国大リーグ機構(MLB)の米国優先の運営には課題も残った。…米国が全試合を自国で戦った半面、準決勝で米国に敗れたキューバは台湾、日本、米国と3会場の移動を強いられた。…
また米国大リーガー選手はケガに備えた保険加入が必要とされ、メジャー通算197勝を誇る米国のカーショー投手らは保険加入が認められず不参加。いかにWBCを米国リーグの利益に結び付けるかに重きが置かれているとの声を紹介」している。
韓国メディアも「WBCで使う公式球は米国ローリングス社製とし、試合の開始時間の不公平や決勝戦の日程変更など、金儲けを優先し米国の意向に沿った運営の問題点を指摘」している。
なぜ野球の人気が落ちるか
■米国大リーグ機構(MLB)が、WBCの運営に躍起となるのは、そもそも野球に対する人気がガタ落ちで、野球好きは米国内でも11%、30歳以下ではわずか7%だ。自国ファンをつなぎ留めるには、WBCの開催が欠かせなかった。
■なぜ人気がないのか。まず野球をやりたくとも、グローブ、バット、プロテクターなど、道具を用意するのに思いもよらぬ金がかかる。戦後のひもじい生活を送った筆者には、子供時代にはグローブすら高くて買えなかった。野球はお大尽の子がやるもの、貧しい子は道具が要らず、ボール1つあればプレーできるサッカーだった。
■今でも野球の道具は高いし、ホームベースの裏側にネットを張った専用グランドが必要だし、ボールだってバカにならないほど使う。聞くところによると、1試合平均10ダース(120球)、多い時は180球も使われるという。
プロ野球では一度土に触れて交換した球は二度と試合では使わず、練習球になるという。1球2,648円(税込み)もする。さらに試合時間も4時間を超える場合がある。これほどの経費と時間を要するスポーツはない。
FIFAのサッカーW杯運営
■これでは野球の人気が衰えるのも無理はない。日本における野球の競技人口は730万人、サッカーの競技人口は750万人と並ぶが、世界で見ればサッカーは2億6千万人、野球は3500万人。サッカーの競技人口・人気は圧倒的だ。
■サッカーの最高峰ワールドカップ(W杯)は、FIFA(国際サッカー連盟)が主宰する。そこには国際連合の加盟国193よりも多い世界各国211のサッカー競技連盟が加わる。世界各地のサッカー選手が、各レベルの予選を勝ち抜き、母国の誇りを胸にW杯の頂点を目指して、しのぎを削る。その魅力は計り知れない。
■昨年のサッカーW杯では、スペインとの予選で三笘薫選手がゴールラインギリギリのボールを拾った「三笘の1ミリ」で逆転勝利。今回のWBCでも源田壮亮内野手が、メキシコ戦で盗塁を防ぐ「源田の1ミリ」が話題となった。だがWBC は米国大リーグ機構(MLB)の1組織が主催するイベント。サッカーW杯に適うわけがない。
サッカー並みの人気へ
■世界レベルのWBCにしていくには、アフリカ、中東、東南アジア諸国に野球コーチや講師を派遣し、チームを作って参加できるようにする努力が欠かせない。米国のMLBが、それを担う覚悟があるかどうか。
実際は「試合が長過ぎる」といった声に対応し、スピーディーな展開を目指す、投球間に時間制限を設ける「ピッチクロック」「極端な守備シフトの禁止」「ベースサイズの拡大」などのルール改定で終わるのが関の山かもしれない。
■侍ジャパンの優勝を機に子供たちの野球への関心が高まっている。日本野球機構もリトルリーグへの支援を始め、東南アジアの子どもたちに野球道具をリメイクして送るなど、コーチの派遣も含め具体化すべきではないか。
それにしてもメディアの“はしゃぎ過ぎ”、こうも「侍ジャパン礼賛」の洪水報道が続いては、少し怖くなる。(2023/3/26)
■WBC参加20カ国の頂点に立った侍ジャパン、おめでとう! この2週間、野球中継に釘付けとなった。とりわけ米国との決勝戦、侍ジャパンが1点リードした9回裏、リリーフで登板した大谷翔平投手の劇的な投球は、今でも目に残る。
■大谷投手は、米国の最強スラッガーでエンゼルスの同僚でもあるマイク・トラウト外野手に、フルカウントから投げたスイーパーが大きく横に曲がり、思わずトラウトはバットを出し三振、ゲームセットとなった。歓喜にあふれる選手たちの映像に、我ながら感極まった。
WBCが抱える課題
■新聞各紙も号外「侍J 世界一奪還」を発行、27日には『WBC2023 メモリアルフォトブック』(初版3万部 世界文化社)が発売される。優勝セールも予定される。その経済効果は600億円に及ぶという。
■WBCによると4プールに分けた1次予選の観客数は前回大会から倍増、大会史上最多の101万人、準々決勝からのトーナメント7試合だけでも観客数は30万人を超える。
だが<WBCは世界的人気イベントになれるのか?>と、いち早く問題提起する東京新聞3面総合欄「核心」(3/23付)の米フロリダ州マイアミ・浅井俊典さんの記事は注目していい。
■その要旨をまとめてみると、「WBCを主催する米国大リーグ機構(MLB)の米国優先の運営には課題も残った。…米国が全試合を自国で戦った半面、準決勝で米国に敗れたキューバは台湾、日本、米国と3会場の移動を強いられた。…
また米国大リーガー選手はケガに備えた保険加入が必要とされ、メジャー通算197勝を誇る米国のカーショー投手らは保険加入が認められず不参加。いかにWBCを米国リーグの利益に結び付けるかに重きが置かれているとの声を紹介」している。
韓国メディアも「WBCで使う公式球は米国ローリングス社製とし、試合の開始時間の不公平や決勝戦の日程変更など、金儲けを優先し米国の意向に沿った運営の問題点を指摘」している。
なぜ野球の人気が落ちるか
■米国大リーグ機構(MLB)が、WBCの運営に躍起となるのは、そもそも野球に対する人気がガタ落ちで、野球好きは米国内でも11%、30歳以下ではわずか7%だ。自国ファンをつなぎ留めるには、WBCの開催が欠かせなかった。
■なぜ人気がないのか。まず野球をやりたくとも、グローブ、バット、プロテクターなど、道具を用意するのに思いもよらぬ金がかかる。戦後のひもじい生活を送った筆者には、子供時代にはグローブすら高くて買えなかった。野球はお大尽の子がやるもの、貧しい子は道具が要らず、ボール1つあればプレーできるサッカーだった。
■今でも野球の道具は高いし、ホームベースの裏側にネットを張った専用グランドが必要だし、ボールだってバカにならないほど使う。聞くところによると、1試合平均10ダース(120球)、多い時は180球も使われるという。
プロ野球では一度土に触れて交換した球は二度と試合では使わず、練習球になるという。1球2,648円(税込み)もする。さらに試合時間も4時間を超える場合がある。これほどの経費と時間を要するスポーツはない。
FIFAのサッカーW杯運営
■これでは野球の人気が衰えるのも無理はない。日本における野球の競技人口は730万人、サッカーの競技人口は750万人と並ぶが、世界で見ればサッカーは2億6千万人、野球は3500万人。サッカーの競技人口・人気は圧倒的だ。
■サッカーの最高峰ワールドカップ(W杯)は、FIFA(国際サッカー連盟)が主宰する。そこには国際連合の加盟国193よりも多い世界各国211のサッカー競技連盟が加わる。世界各地のサッカー選手が、各レベルの予選を勝ち抜き、母国の誇りを胸にW杯の頂点を目指して、しのぎを削る。その魅力は計り知れない。
■昨年のサッカーW杯では、スペインとの予選で三笘薫選手がゴールラインギリギリのボールを拾った「三笘の1ミリ」で逆転勝利。今回のWBCでも源田壮亮内野手が、メキシコ戦で盗塁を防ぐ「源田の1ミリ」が話題となった。だがWBC は米国大リーグ機構(MLB)の1組織が主催するイベント。サッカーW杯に適うわけがない。
サッカー並みの人気へ
■世界レベルのWBCにしていくには、アフリカ、中東、東南アジア諸国に野球コーチや講師を派遣し、チームを作って参加できるようにする努力が欠かせない。米国のMLBが、それを担う覚悟があるかどうか。
実際は「試合が長過ぎる」といった声に対応し、スピーディーな展開を目指す、投球間に時間制限を設ける「ピッチクロック」「極端な守備シフトの禁止」「ベースサイズの拡大」などのルール改定で終わるのが関の山かもしれない。
■侍ジャパンの優勝を機に子供たちの野球への関心が高まっている。日本野球機構もリトルリーグへの支援を始め、東南アジアの子どもたちに野球道具をリメイクして送るなど、コーチの派遣も含め具体化すべきではないか。
それにしてもメディアの“はしゃぎ過ぎ”、こうも「侍ジャパン礼賛」の洪水報道が続いては、少し怖くなる。(2023/3/26)
2023年03月19日
【今週の風考計】3.19─奄美の田中一村と加計呂麻の島尾敏雄を訪ねて
田中一村の絵画に憧れ…
◆奄美が育てた芸術家、田中一村と島尾敏雄。二人に抱いている筆者の想いは、年を経ても熾き火のように燃えていた。コロナも沈静化しつつある先週、思い切って奄美大島と加計呂麻島へ行ってきた。画家・田中一村は作家・島尾敏雄より9歳年長だが、共に69歳の生涯を終えるとは不思議な縁だ。
◆奄美空港に降り立ち、奄美パーク内にある「田中一村記念美術館」へ直行する。高倉づくりの3つの展示室を回る。栃木〜東京時代の<神童・米邨>から、千葉時代の<新しい日本画を求める>模索を経て、奄美時代の<南の琳派≠ヨ>と観ていくと、その画風の変化に驚かされる。
◆だが、なんといっても奄美時代の田中一村がいい。50歳を過ぎて独り奄美大島へ移住。大島紬の工場で染色工として働きつつ、奄美に生息する亜熱帯の鳥や植生を描き、日本画の新境地を開いた。
その絵にはソテツやアダンなどが大胆に配され、野鳥アカショウビンが木にとまり、まさに奄美の自然がデフォルメした形で、南国の明るさの内にある翳りを微妙に伝えてくれる。「日本のゴーギャン」といわれるのも頷ける。
1977年9月11日、和光町の畑にある借家で夕飯の準備をしている最中に倒れ、孤独のうちに69歳の生涯を終えた。
「なつかしゃ家」の旨いもの
◆鑑賞を終えて田中一村の画集を求めたが売り切れ。落胆を抑えながら名瀬港近くにある宿泊ホテルに向かう。夕食で気分一新しようと、名瀬の繁華街・屋仁川通りの奥にある奄美料理の店「なつかしゃ家」に入る。
◆平たい竹ざるにピーナッツ豆腐、豚みそ、天然モズクの寒天寄せ、島らっきょうの胡麻和え、伊勢えびのみそソース焼き、塩豚と冬瓜の煮物などが、それぞれ器に盛られ所せましと並んでいる。
酒は黒糖焼酎の「JOUGOじょうご」をロックで飲む。さらにジャガイモの天ぷら、魚のから揚げ、車エビのほやほや(お吸い物)、ハンダマご飯が出てくる。もう腹いっぱいだ。
楠田書店との不思議な出会い
◆翌日は金作原原生林をガイドの案内で歩く。高さ10mにもなるヒカゲヘゴは大きな裏白の葉を広げ、その中心部からはゼンマイのような新芽が伸びている。
そのほかパパイヤ、クワズイモが立ち並ぶ。足もとにはピンクの花を連ねるランの一種アマミエビネが可愛い。亜熱帯植物の宝庫だ。田中一村が絵に描いた理由もよくわかる。
◆午後は海水と淡水が入り交じる沿岸に自生するマングローブの森でカヌーを漕ぎ、不思議なマングローブの呼吸根のメカニズムに驚く。
早めにホテルに帰り、名瀬の町を歩く。道沿いに書店があるのを見つける。入って書棚を見ていくと、奄美関係の本がずらりと並んでいる。奄美の歴史ばかりでなく、なんと田中一村や島尾敏雄の本があるではないか。
◆買えなかった画集の別冊太陽『田中一村』(平凡社)、さらに大矢鞆音『評伝 田中一村』(生活の友社)もある。大枚をはたいて買う。ついでに店主から勧められた、麓 純雄『奄美の歴史入門』(南方新社)も購入。
この書店の名は、楠田書店(名瀬市入舟町6-1)という。店主の哲久さんと話をしていると、なんと島尾敏雄の息子・伸三さんとは懇意で、11月12日の命日に行われる「島尾忌」には会っておられるという。これも奇遇、何か縁があるのに、我ながら驚くばかり。
島尾敏雄に頭を垂れるとき
◆さて島尾敏雄の加計呂麻島へは、国道58号線を南下して、古仁屋港から海上タクシーで15分、生間桟橋に着く。そこから運転手&ガイドの車で案脚場の戦跡跡へ行き、また諸鈍のデイゴ並木を歩いた後、エメラルドグリーンの海が広がるスリ浜を経て、島尾敏雄の原点となる呑之浦の海軍特攻廷「震洋」格納壕跡へとたどり着く。
◆代表作『魚雷艇学生』や『出発は遂に訪れず』に描かれているように、島尾敏雄は九州大学を卒業後、海軍予備学生に志願し第18震洋特攻隊隊長として、180名ほどの部隊を率いて奄美群島加計呂麻島の呑之浦基地に赴任。1945年8月13日に特攻出撃命令を受けたが、待機中に敗戦を迎えた。
◆呑之浦の壕にある「震洋」はレプリカだが、実物は長さ5mのベニヤ板を貼り合わせた船体に250キロの爆薬を積んで、ガソリンエンジンで敵艦に体当たり攻撃をする「自殺ボート」であった。
少し道を戻ると、島尾敏雄の文学碑が建つ公園があり、その奥には「島尾敏雄・ミホ・マヤ この地に眠る」の墓碑が鎮まる。敏雄は1986年11月12日死去。享年69。手を合わせ頭を垂れ祈りをささげる。
奄美に忍び寄る軍拡の音
◆敵艦への「特攻」という、理不尽な試練に立たされた状況と心情を、どうやって汲み取ろうか思案しつつ、瀬相桟橋からまた海上タクシーに乗って、大島海峡を渡り古仁屋港に戻る。
その途中の海上で、これまた奇遇、ドでかい海上自衛隊の練習艦「しまかぜ3521」(4650トン)と出会う。甲板には練習生が立ち並ぶ。急ぎカメラのシャッターを押す。
◆「奄美新聞」の記事によると、護衛艦「あさぎり」(3500トン)と共に奄美駐屯地での研修を目的に古仁屋港に入港したという。その後2隻とも同港沖に停泊するあいだ、練習艦「しまかぜ」の一部が市民に一般公開されたという。
奄美では、中国をにらみ自衛隊駐屯地の増強が進む。奄美駐屯地では警備部隊やミサイル部隊、電子戦に対応する部隊に610人が配置されている。さらに弾薬庫5棟の工事も続き、古仁屋港は補給・輸送の拠点化に向け約6億円をかける調査が始まる。
◆いま防衛省は中国を念頭に、「敵基地攻撃能力の保有」を進めるうえで、南西諸島が「防衛の空白地域」だとし、奄美大島から与那国島をつなぐミサイル防衛網の整備に躍起となっている。この16日には、石垣島に陸上自衛隊の駐屯地を設け、570人の隊員・車両200台を配置、さらに長射程ミサイル部隊も置く。
◆島尾敏雄が提起した平和・文化を育てる「ヤポネシア」構想は、無残にも踏みにじられている。また田中一村が描いた南西諸島の自然や植生は戦争基地の拡張で消失していくばかりだ。(2023/3/19)
◆奄美が育てた芸術家、田中一村と島尾敏雄。二人に抱いている筆者の想いは、年を経ても熾き火のように燃えていた。コロナも沈静化しつつある先週、思い切って奄美大島と加計呂麻島へ行ってきた。画家・田中一村は作家・島尾敏雄より9歳年長だが、共に69歳の生涯を終えるとは不思議な縁だ。
◆奄美空港に降り立ち、奄美パーク内にある「田中一村記念美術館」へ直行する。高倉づくりの3つの展示室を回る。栃木〜東京時代の<神童・米邨>から、千葉時代の<新しい日本画を求める>模索を経て、奄美時代の<南の琳派≠ヨ>と観ていくと、その画風の変化に驚かされる。
◆だが、なんといっても奄美時代の田中一村がいい。50歳を過ぎて独り奄美大島へ移住。大島紬の工場で染色工として働きつつ、奄美に生息する亜熱帯の鳥や植生を描き、日本画の新境地を開いた。
その絵にはソテツやアダンなどが大胆に配され、野鳥アカショウビンが木にとまり、まさに奄美の自然がデフォルメした形で、南国の明るさの内にある翳りを微妙に伝えてくれる。「日本のゴーギャン」といわれるのも頷ける。
1977年9月11日、和光町の畑にある借家で夕飯の準備をしている最中に倒れ、孤独のうちに69歳の生涯を終えた。
「なつかしゃ家」の旨いもの
◆鑑賞を終えて田中一村の画集を求めたが売り切れ。落胆を抑えながら名瀬港近くにある宿泊ホテルに向かう。夕食で気分一新しようと、名瀬の繁華街・屋仁川通りの奥にある奄美料理の店「なつかしゃ家」に入る。
◆平たい竹ざるにピーナッツ豆腐、豚みそ、天然モズクの寒天寄せ、島らっきょうの胡麻和え、伊勢えびのみそソース焼き、塩豚と冬瓜の煮物などが、それぞれ器に盛られ所せましと並んでいる。
酒は黒糖焼酎の「JOUGOじょうご」をロックで飲む。さらにジャガイモの天ぷら、魚のから揚げ、車エビのほやほや(お吸い物)、ハンダマご飯が出てくる。もう腹いっぱいだ。
楠田書店との不思議な出会い
◆翌日は金作原原生林をガイドの案内で歩く。高さ10mにもなるヒカゲヘゴは大きな裏白の葉を広げ、その中心部からはゼンマイのような新芽が伸びている。
そのほかパパイヤ、クワズイモが立ち並ぶ。足もとにはピンクの花を連ねるランの一種アマミエビネが可愛い。亜熱帯植物の宝庫だ。田中一村が絵に描いた理由もよくわかる。
◆午後は海水と淡水が入り交じる沿岸に自生するマングローブの森でカヌーを漕ぎ、不思議なマングローブの呼吸根のメカニズムに驚く。
早めにホテルに帰り、名瀬の町を歩く。道沿いに書店があるのを見つける。入って書棚を見ていくと、奄美関係の本がずらりと並んでいる。奄美の歴史ばかりでなく、なんと田中一村や島尾敏雄の本があるではないか。
◆買えなかった画集の別冊太陽『田中一村』(平凡社)、さらに大矢鞆音『評伝 田中一村』(生活の友社)もある。大枚をはたいて買う。ついでに店主から勧められた、麓 純雄『奄美の歴史入門』(南方新社)も購入。
この書店の名は、楠田書店(名瀬市入舟町6-1)という。店主の哲久さんと話をしていると、なんと島尾敏雄の息子・伸三さんとは懇意で、11月12日の命日に行われる「島尾忌」には会っておられるという。これも奇遇、何か縁があるのに、我ながら驚くばかり。
島尾敏雄に頭を垂れるとき
◆さて島尾敏雄の加計呂麻島へは、国道58号線を南下して、古仁屋港から海上タクシーで15分、生間桟橋に着く。そこから運転手&ガイドの車で案脚場の戦跡跡へ行き、また諸鈍のデイゴ並木を歩いた後、エメラルドグリーンの海が広がるスリ浜を経て、島尾敏雄の原点となる呑之浦の海軍特攻廷「震洋」格納壕跡へとたどり着く。
◆代表作『魚雷艇学生』や『出発は遂に訪れず』に描かれているように、島尾敏雄は九州大学を卒業後、海軍予備学生に志願し第18震洋特攻隊隊長として、180名ほどの部隊を率いて奄美群島加計呂麻島の呑之浦基地に赴任。1945年8月13日に特攻出撃命令を受けたが、待機中に敗戦を迎えた。
◆呑之浦の壕にある「震洋」はレプリカだが、実物は長さ5mのベニヤ板を貼り合わせた船体に250キロの爆薬を積んで、ガソリンエンジンで敵艦に体当たり攻撃をする「自殺ボート」であった。
少し道を戻ると、島尾敏雄の文学碑が建つ公園があり、その奥には「島尾敏雄・ミホ・マヤ この地に眠る」の墓碑が鎮まる。敏雄は1986年11月12日死去。享年69。手を合わせ頭を垂れ祈りをささげる。
奄美に忍び寄る軍拡の音
◆敵艦への「特攻」という、理不尽な試練に立たされた状況と心情を、どうやって汲み取ろうか思案しつつ、瀬相桟橋からまた海上タクシーに乗って、大島海峡を渡り古仁屋港に戻る。
その途中の海上で、これまた奇遇、ドでかい海上自衛隊の練習艦「しまかぜ3521」(4650トン)と出会う。甲板には練習生が立ち並ぶ。急ぎカメラのシャッターを押す。
◆「奄美新聞」の記事によると、護衛艦「あさぎり」(3500トン)と共に奄美駐屯地での研修を目的に古仁屋港に入港したという。その後2隻とも同港沖に停泊するあいだ、練習艦「しまかぜ」の一部が市民に一般公開されたという。
奄美では、中国をにらみ自衛隊駐屯地の増強が進む。奄美駐屯地では警備部隊やミサイル部隊、電子戦に対応する部隊に610人が配置されている。さらに弾薬庫5棟の工事も続き、古仁屋港は補給・輸送の拠点化に向け約6億円をかける調査が始まる。
◆いま防衛省は中国を念頭に、「敵基地攻撃能力の保有」を進めるうえで、南西諸島が「防衛の空白地域」だとし、奄美大島から与那国島をつなぐミサイル防衛網の整備に躍起となっている。この16日には、石垣島に陸上自衛隊の駐屯地を設け、570人の隊員・車両200台を配置、さらに長射程ミサイル部隊も置く。
◆島尾敏雄が提起した平和・文化を育てる「ヤポネシア」構想は、無残にも踏みにじられている。また田中一村が描いた南西諸島の自然や植生は戦争基地の拡張で消失していくばかりだ。(2023/3/19)
2023年03月12日
【今週の風考計】3.12─「袴田事件」の再審判決に注目! 完全無罪を勝ち取ろう
袴田厳さんに真の自由を
■この10日、87歳の誕生日を迎えた袴田巌さん、その胸中は如何ばかりだろうか。明日13日、「再審決定」か否か、東京高裁の判決が下る。おそらく今晩は、不安と期待がないまぜになって、眠れないのではないか。
浜松生まれの巌さんは6人きょうだいの末っ子。甘えん坊だったが中学卒業後、23歳でプロボクサーに。フェザー級6位までランクされ海外遠征もした。引退後、静岡県清水市の味噌会社に住み込みで働くようになった。
■1966年6月30日、その務め先で、一家4人が殺害される事件が起きた。袴田さんは肩や手の傷とパジャマにある血痕を理由に、事件から49日目、30歳で逮捕。過酷な取り調べもあり「自白」へと追い込まれた。
一審・二審と裁判は続いたが、1980年、最高裁の判決で死刑が確定。48年にわたる獄中生活を強いられてきた。その間、3歳上の姉の秀子さんを始め、弁護士や支援する会は、無罪を証拠づける実験や新資料を広範に集め裁判所に提出し、袴田さんの無実と再審開始を訴え続けてきた。
「再審」開始を求めて
■2014年3月、再審請求33年目にして、静岡地裁は再審開始の決定を下した。あわせて死刑と拘置も執行停止とされ、袴田さんは47年7カ月ぶりに浜松の自宅に帰ってきた。
だが4年後、東京高裁は静岡地裁の再審を取り消す判決を下す。その後も最高裁で審理が続けられ、東京高裁の再審取り消しを却下、東京高裁に審理差し戻しを命ず。そして事件から57年目、遂に明日13日、東京高裁が再審を巡る判決を下す。
■「再審決定」の判決を確信しているが、それを不服として、さらに東京高検が「特別抗告」するとしたら、その暴挙は許されない。いまだに袴田さんは死刑囚のまま。選挙権もなければ生活保護も受けられない。もうこれ以上、引き延ばしは止めるべきだ。
「日野町事件」─特別抗告する検察
■というのも、この6日、大阪高検は「日野町事件」の再審決定を不服とし「特別抗告」をしたばかりである。それだけに要注意だ。
「日野町事件」とは、今から39年前の1984年、滋賀県日野町で酒屋の女性が殺害され金庫が盗まれた強盗殺人事件である。容疑者として逮捕された阪原弘さんは、大津地裁、大阪高裁の両判決で無期懲役が言い渡され、2000年の最高裁で刑が確定した。
■その後、阪原さんは「警察官に暴行され自白を強要された事実」を告白し、再審請求裁判を起こすが、2011年75歳で獄内病死。翌年、遺族が第2次再審請求を申し立てた。
その裁判の審理過程で、大阪高裁は新たに開示された証拠を吟味。遺体発見現場の写真などは、自白の根幹部分の信用性を揺るがす内容だと判断。「無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たる」と指摘し、2月27日、再審を認める決定を出した。
■ところが大阪高検が「特別抗告」をしたため、最高裁は、受刑者本人が死亡している重大事件を、審理しなければならなくなった。最高裁が大阪高検の「特別抗告」を却下し「再審支持」となっても、大津地裁に差し戻し、またまた裁判がやり直されることには変わりはない。こうも長期化させていいのか。
検察側に不服があるのなら、再審公判で主張すればよい。なのに「抗告」の手法を使って審理の引き延ばしを図ることは許されない。禁止すべきだ。
再審無罪を勝ち取った免田事件
■忘れてならない冤罪事件は数多い。その一つに「免田事件」がある。敗戦後の1948年12月29日深夜、熊本県人吉市の祈祷師宅で4人が殺傷された事件。
強盗殺人などの罪に問われた免田栄さんは、1952年1月に死刑が確定したが、その後、再審裁判が開かれ、1983年7月28日、死刑囚では初めての再審無罪を勝ち取った。
■詳細な記録が刊行されている。高峰武『生き直す─免田栄という軌跡』(弦書房)である。本書は獄中34年を生き抜き、無罪釈放後37年という稀有な時間を生き直した、免田栄の95年の生涯をたどった評伝である。ぜひ読んでほしい。
なぜ冤罪事件が起きるか
■被疑者が、いくら事件に関係していないと言っても、警察は脅迫じみた尋問を重ね、かつ逃亡や証拠隠滅の恐れがあるとして、長期にわたる勾留へと追い込む。
この身体的拘束という心理的不安をあおり、被疑者に「自白」を強要する「人質司法」が、冤罪を生む一つの原因だ。被疑者が不本意でも「自白」に追い込まれれば、捜査機関は「自白」に添った証拠集めに奔走し、客観的な証拠集めが疎かになる。
■裁判官は「疑わしきは被告人の利益に」という立場で、証拠を吟味し審議すべきなのに、被告人の「自白」があると、犯人ではとの判断が生まれやすく、かつ検察の言い分を過信しやすくなる。「自白偏重」の弊害は明らかだ。
それを防ぐためにも「取り調べの可視化」および「証拠の全面開示」を加速し、裁判での審理を迅速・改善していくことが不可欠だ。(2023/3/12)
■この10日、87歳の誕生日を迎えた袴田巌さん、その胸中は如何ばかりだろうか。明日13日、「再審決定」か否か、東京高裁の判決が下る。おそらく今晩は、不安と期待がないまぜになって、眠れないのではないか。
浜松生まれの巌さんは6人きょうだいの末っ子。甘えん坊だったが中学卒業後、23歳でプロボクサーに。フェザー級6位までランクされ海外遠征もした。引退後、静岡県清水市の味噌会社に住み込みで働くようになった。
■1966年6月30日、その務め先で、一家4人が殺害される事件が起きた。袴田さんは肩や手の傷とパジャマにある血痕を理由に、事件から49日目、30歳で逮捕。過酷な取り調べもあり「自白」へと追い込まれた。
一審・二審と裁判は続いたが、1980年、最高裁の判決で死刑が確定。48年にわたる獄中生活を強いられてきた。その間、3歳上の姉の秀子さんを始め、弁護士や支援する会は、無罪を証拠づける実験や新資料を広範に集め裁判所に提出し、袴田さんの無実と再審開始を訴え続けてきた。
「再審」開始を求めて
■2014年3月、再審請求33年目にして、静岡地裁は再審開始の決定を下した。あわせて死刑と拘置も執行停止とされ、袴田さんは47年7カ月ぶりに浜松の自宅に帰ってきた。
だが4年後、東京高裁は静岡地裁の再審を取り消す判決を下す。その後も最高裁で審理が続けられ、東京高裁の再審取り消しを却下、東京高裁に審理差し戻しを命ず。そして事件から57年目、遂に明日13日、東京高裁が再審を巡る判決を下す。
■「再審決定」の判決を確信しているが、それを不服として、さらに東京高検が「特別抗告」するとしたら、その暴挙は許されない。いまだに袴田さんは死刑囚のまま。選挙権もなければ生活保護も受けられない。もうこれ以上、引き延ばしは止めるべきだ。
「日野町事件」─特別抗告する検察
■というのも、この6日、大阪高検は「日野町事件」の再審決定を不服とし「特別抗告」をしたばかりである。それだけに要注意だ。
「日野町事件」とは、今から39年前の1984年、滋賀県日野町で酒屋の女性が殺害され金庫が盗まれた強盗殺人事件である。容疑者として逮捕された阪原弘さんは、大津地裁、大阪高裁の両判決で無期懲役が言い渡され、2000年の最高裁で刑が確定した。
■その後、阪原さんは「警察官に暴行され自白を強要された事実」を告白し、再審請求裁判を起こすが、2011年75歳で獄内病死。翌年、遺族が第2次再審請求を申し立てた。
その裁判の審理過程で、大阪高裁は新たに開示された証拠を吟味。遺体発見現場の写真などは、自白の根幹部分の信用性を揺るがす内容だと判断。「無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たる」と指摘し、2月27日、再審を認める決定を出した。
■ところが大阪高検が「特別抗告」をしたため、最高裁は、受刑者本人が死亡している重大事件を、審理しなければならなくなった。最高裁が大阪高検の「特別抗告」を却下し「再審支持」となっても、大津地裁に差し戻し、またまた裁判がやり直されることには変わりはない。こうも長期化させていいのか。
検察側に不服があるのなら、再審公判で主張すればよい。なのに「抗告」の手法を使って審理の引き延ばしを図ることは許されない。禁止すべきだ。
再審無罪を勝ち取った免田事件
■忘れてならない冤罪事件は数多い。その一つに「免田事件」がある。敗戦後の1948年12月29日深夜、熊本県人吉市の祈祷師宅で4人が殺傷された事件。
強盗殺人などの罪に問われた免田栄さんは、1952年1月に死刑が確定したが、その後、再審裁判が開かれ、1983年7月28日、死刑囚では初めての再審無罪を勝ち取った。
■詳細な記録が刊行されている。高峰武『生き直す─免田栄という軌跡』(弦書房)である。本書は獄中34年を生き抜き、無罪釈放後37年という稀有な時間を生き直した、免田栄の95年の生涯をたどった評伝である。ぜひ読んでほしい。
なぜ冤罪事件が起きるか
■被疑者が、いくら事件に関係していないと言っても、警察は脅迫じみた尋問を重ね、かつ逃亡や証拠隠滅の恐れがあるとして、長期にわたる勾留へと追い込む。
この身体的拘束という心理的不安をあおり、被疑者に「自白」を強要する「人質司法」が、冤罪を生む一つの原因だ。被疑者が不本意でも「自白」に追い込まれれば、捜査機関は「自白」に添った証拠集めに奔走し、客観的な証拠集めが疎かになる。
■裁判官は「疑わしきは被告人の利益に」という立場で、証拠を吟味し審議すべきなのに、被告人の「自白」があると、犯人ではとの判断が生まれやすく、かつ検察の言い分を過信しやすくなる。「自白偏重」の弊害は明らかだ。
それを防ぐためにも「取り調べの可視化」および「証拠の全面開示」を加速し、裁判での審理を迅速・改善していくことが不可欠だ。(2023/3/12)
2023年03月05日
【今週の風考計】3.5─「マスク」を巡って、日ごろの想いをつぶやくとき
マスクへの同調圧力
■「マスクを付けるか取るか、それが問題だ」─シェイクスピアも頭を抱えるほどの混乱が広がっている。学校での卒業・入学式のみならず、各種イベントや集会で、どう対応すべきか侃々諤々の議論が続く。
<一億総マスク時代>のなか、マスクを外して歩いていると、街で目線の合った人から受ける叱責の雰囲気に、慌てて口に手を当て、ポケットからマスクを取り出す。そんな<マスクへの恨み>を抱くのは筆者だけだろうか。
■これまでにマスクを巡り、何度、注意されたことか。「鼻マスクはだめ」「飲食時以外はマスク着用!」「図書館でもマスクを」などなど、直接・間接を問わずプレッシャーを感じた経験は数多い。「マスク! マスク!」と迫る、この同調圧力の怖さ、身に染みる。、
<アベノマスク>裁判の判決
■今から4年前、あの3億枚も用意した<アベノマスク>、どうなったか。まず安全・有効性に疑問がつき、ほぼ3分の1を廃棄することとなった。
さらに先月28日、大阪地裁はマスク単価の開示を求めるアベノマスク訴訟に対し、黒塗りにして開示を拒否してきた国へ「税金の使途に関する行政の説明責任を認定し、単価の開示命令」を下す判決を出した。
■この判決が確定すれば、随意契約による<アベノマスク>の単価を、国は公表せざるを得なくなる。それだけではない。配布も含めた総経費543億円を始め、安倍政権が続けてきた税金無駄遣いの<桜・森友・加計>などに、疑惑追及のメスを再び入れる絶好の機会が与えられることになる。まさに「マスク恐るべし」。
花粉と黄砂とマスクと
■そのマスクを再び「役に立つマスク」にする時季がやってきた。スギやヒノキから飛散する花粉である。マスクをすれば花粉の吸引量は30%減らせる。
すでに関東から九州を中心に広がり、花粉量が「非常に多い」日が4月中旬まで続く。しかも今年の花粉の飛散量は関東・甲信地方で例年の2倍と予想され、ピークの時期も長くなるという。
■また黄砂も襲ってくる。東アジアのゴビ砂漠・タクラマカン砂漠や中国の黄土地帯から、強風で吹き上げられた多量の砂塵が、ジェット気流に運ばれ、浮遊しつつ降下する。
今年も本格的な黄砂飛来シーズンを迎え、気象庁は「黄砂情報」を発信し警戒を呼びかける。防ぐには「マスク」が一番だ。
マスク不要か コロナ5類へ
■いま官邸や永田町ではコロナ規制・マスク着用の緩和に急ピッチだ。4月23日の統一地方選が終われば、5月8日からコロナ感染症の分類を季節性インフルエンザ扱いの5類に格下げし、患者に新たな負担を強いることになった。
これまで初診料を除けば無料だったのが、自己負担額:最大4170円に引き上げる。10月以降では治療薬ラゲブリオが併用されれば最大3万円を超える。
■これでは花粉症や黄砂被害の上に、さらにコロナの傷口に塩を塗る対応としか言いようがない。岸田首相は「さまざまな」との言葉を使いまわし、子育て、同性婚、敵基地攻撃などへの質問にはまともに答えず、肝心の中身はあいまいにし、かつ前言をトーンダウンさせ、「マスク」でフタをする。
その一方で、軍備拡張・敵基地攻撃・原発再稼働・コロナ5類への格下げなどは、「マスク」を外して即実行の決断だ。どこに顔を向けているのか。国会答弁で踏襲する「マスク」を外したり内ポケットに入れたり、まるで都合よく出し入れするみたいな対応は止めにせよ。(2023/3/5)
■「マスクを付けるか取るか、それが問題だ」─シェイクスピアも頭を抱えるほどの混乱が広がっている。学校での卒業・入学式のみならず、各種イベントや集会で、どう対応すべきか侃々諤々の議論が続く。
<一億総マスク時代>のなか、マスクを外して歩いていると、街で目線の合った人から受ける叱責の雰囲気に、慌てて口に手を当て、ポケットからマスクを取り出す。そんな<マスクへの恨み>を抱くのは筆者だけだろうか。
■これまでにマスクを巡り、何度、注意されたことか。「鼻マスクはだめ」「飲食時以外はマスク着用!」「図書館でもマスクを」などなど、直接・間接を問わずプレッシャーを感じた経験は数多い。「マスク! マスク!」と迫る、この同調圧力の怖さ、身に染みる。、
<アベノマスク>裁判の判決
■今から4年前、あの3億枚も用意した<アベノマスク>、どうなったか。まず安全・有効性に疑問がつき、ほぼ3分の1を廃棄することとなった。
さらに先月28日、大阪地裁はマスク単価の開示を求めるアベノマスク訴訟に対し、黒塗りにして開示を拒否してきた国へ「税金の使途に関する行政の説明責任を認定し、単価の開示命令」を下す判決を出した。
■この判決が確定すれば、随意契約による<アベノマスク>の単価を、国は公表せざるを得なくなる。それだけではない。配布も含めた総経費543億円を始め、安倍政権が続けてきた税金無駄遣いの<桜・森友・加計>などに、疑惑追及のメスを再び入れる絶好の機会が与えられることになる。まさに「マスク恐るべし」。
花粉と黄砂とマスクと
■そのマスクを再び「役に立つマスク」にする時季がやってきた。スギやヒノキから飛散する花粉である。マスクをすれば花粉の吸引量は30%減らせる。
すでに関東から九州を中心に広がり、花粉量が「非常に多い」日が4月中旬まで続く。しかも今年の花粉の飛散量は関東・甲信地方で例年の2倍と予想され、ピークの時期も長くなるという。
■また黄砂も襲ってくる。東アジアのゴビ砂漠・タクラマカン砂漠や中国の黄土地帯から、強風で吹き上げられた多量の砂塵が、ジェット気流に運ばれ、浮遊しつつ降下する。
今年も本格的な黄砂飛来シーズンを迎え、気象庁は「黄砂情報」を発信し警戒を呼びかける。防ぐには「マスク」が一番だ。
マスク不要か コロナ5類へ
■いま官邸や永田町ではコロナ規制・マスク着用の緩和に急ピッチだ。4月23日の統一地方選が終われば、5月8日からコロナ感染症の分類を季節性インフルエンザ扱いの5類に格下げし、患者に新たな負担を強いることになった。
これまで初診料を除けば無料だったのが、自己負担額:最大4170円に引き上げる。10月以降では治療薬ラゲブリオが併用されれば最大3万円を超える。
■これでは花粉症や黄砂被害の上に、さらにコロナの傷口に塩を塗る対応としか言いようがない。岸田首相は「さまざまな」との言葉を使いまわし、子育て、同性婚、敵基地攻撃などへの質問にはまともに答えず、肝心の中身はあいまいにし、かつ前言をトーンダウンさせ、「マスク」でフタをする。
その一方で、軍備拡張・敵基地攻撃・原発再稼働・コロナ5類への格下げなどは、「マスク」を外して即実行の決断だ。どこに顔を向けているのか。国会答弁で踏襲する「マスク」を外したり内ポケットに入れたり、まるで都合よく出し入れするみたいな対応は止めにせよ。(2023/3/5)
2023年02月26日
【今週の風考計】2.26─「Colabo」への異常なバッシングを許すな!
歌舞伎町の「バスカフェ」
★「Colabo」に対するバッシングや妨害が激しくなっている。「Colabo」は、東京都からの委託を受けて、性搾取や虐待の被害に遭う若年女性や少女に寄り添い、支援事業をする一般社団法人である。
★2013年に立ち上げ、これまで続けてきた地道な活動に対し、ハンドルネーム<暇空茜>(ひまそらあかね)なる人物が、ネット上で「Colabo」に関するデマや中傷攻撃を始め、その後フォローワーの一部には過激な書き込みだけでなく、直接の妨害行動に及ぶなどエスカレートしている。
★居酒屋や風俗店が並ぶ東京・新宿区歌舞伎町。その中の新宿区役所前に「Colabo」が運営するピンクの改装バスを駐車し、無料で利用できる10代向けの夜カフェ「Tsubomi Café」をオープン。周囲にテントやイスなどを置き空腹の女性たちへの食料提供や家に帰りたくない少女らを受け入れる居場所&シェルターとなっている。
★現場を取材した安田浩一さんは、「家出してスーツケースを引っ張る10代女性や薬物の影響らしくもうろうとして倒れ込んでいる若年女性を目の前で見ました。…そいう女性を救済するColaboの役割は、絶対に重要です」と述べている。
「Colabo」に対するヘイトクライム
★ところが大事な役割を果たしている「バスカフェ」近くに、複数の男性が無言で立ち、利用者や関係者を撮影、その映像をネットに投稿し中傷するなど、深刻な事態が生まれている。女性を食い物にする性産業従事者の影も見え隠れする。
★こうした行動を誘引するきっかけとなったのが、ハンドルネーム<暇空茜>なる人物のネット上の書き込みである。この人物は東京在住・40代の男性と分かっているが、彼は「Colabo」の委託料の精算内容に不正があるとして、東京都に住民監査請求を起こした。だが監査結果は、「不法・違法・不正は認められない」となった。
★なのに、いまだに「Colabo」への攻撃をやめず、またフォローワーも「Colabo」を面白おかしく揶揄し中傷する動画や投稿を大量に流している。1月22日、弁護団は「若年女性の居場所事業への深刻な憎悪犯罪(ヘイトクライム)」だとして、抗議声明を発表している。
異常な国会での「Colabo」攻撃
★にもかかわらず、あろうことか「日本維新の会」浅田均・参議院会長が、1月27日の参院本会議で東京都の「Colabo」支援に関連し、「無駄な行政支出」であり、「利益誘導」があるなどと攻撃する異常な事態が起きている。
★再度、歌舞伎町の「バスカフェ」現場の映像を見て驚いた。1月18日夜8時ごろ、NHK 党の新宿区議候補が黄色いコートに名前入りのタスキをかけ、「NHK撃退」と書かれたノボリの傍でカセットから音声を流し、「バスカフェ」に出入りする女性の数をカウントするなど、信じがたい迷惑行動を繰り広げていた。なぜなのか。
★2月22日の参院本会議である。NHK党の浜田聡・政調会長の発言を聞いて頷いた。なんとガーシー議員への懲罰に対する、同党の弁明発言の中で「Colabo」問題を持ち出したのだ。
ガーシー議員が最近立て続けに「Colabo」の不正や利権につき、数多くの質問主意書を提出している。その現状を踏まえれば、「ガーシー議員を除名に追い込み、質問主意書を提出できなくすることで、このColabo問題 に注目が集まることを防ごうとしている可能性をここで指摘させていただきます」と、懲罰の不当性を主張したのだ。
かつ日本維新の会や都議会・自民党が「Colabo問題」の追究に奮闘していることに敬意を表し感謝するとまで持ち上げた。呆れて開いた口がふさがらない。
★ジェンダー平等・女性差別の禁止など、大きな流れに挑戦するかのような日本維新の会やNHK党の動きは、ますます「Colabo」に対するネット上のデマや中傷をあおり、バッシングに手を貸すのは目に見えている。その責任は重大で見逃すわけにはいかない。(2023/2/26)
★「Colabo」に対するバッシングや妨害が激しくなっている。「Colabo」は、東京都からの委託を受けて、性搾取や虐待の被害に遭う若年女性や少女に寄り添い、支援事業をする一般社団法人である。
★2013年に立ち上げ、これまで続けてきた地道な活動に対し、ハンドルネーム<暇空茜>(ひまそらあかね)なる人物が、ネット上で「Colabo」に関するデマや中傷攻撃を始め、その後フォローワーの一部には過激な書き込みだけでなく、直接の妨害行動に及ぶなどエスカレートしている。
★居酒屋や風俗店が並ぶ東京・新宿区歌舞伎町。その中の新宿区役所前に「Colabo」が運営するピンクの改装バスを駐車し、無料で利用できる10代向けの夜カフェ「Tsubomi Café」をオープン。周囲にテントやイスなどを置き空腹の女性たちへの食料提供や家に帰りたくない少女らを受け入れる居場所&シェルターとなっている。
★現場を取材した安田浩一さんは、「家出してスーツケースを引っ張る10代女性や薬物の影響らしくもうろうとして倒れ込んでいる若年女性を目の前で見ました。…そいう女性を救済するColaboの役割は、絶対に重要です」と述べている。
「Colabo」に対するヘイトクライム
★ところが大事な役割を果たしている「バスカフェ」近くに、複数の男性が無言で立ち、利用者や関係者を撮影、その映像をネットに投稿し中傷するなど、深刻な事態が生まれている。女性を食い物にする性産業従事者の影も見え隠れする。
★こうした行動を誘引するきっかけとなったのが、ハンドルネーム<暇空茜>なる人物のネット上の書き込みである。この人物は東京在住・40代の男性と分かっているが、彼は「Colabo」の委託料の精算内容に不正があるとして、東京都に住民監査請求を起こした。だが監査結果は、「不法・違法・不正は認められない」となった。
★なのに、いまだに「Colabo」への攻撃をやめず、またフォローワーも「Colabo」を面白おかしく揶揄し中傷する動画や投稿を大量に流している。1月22日、弁護団は「若年女性の居場所事業への深刻な憎悪犯罪(ヘイトクライム)」だとして、抗議声明を発表している。
異常な国会での「Colabo」攻撃
★にもかかわらず、あろうことか「日本維新の会」浅田均・参議院会長が、1月27日の参院本会議で東京都の「Colabo」支援に関連し、「無駄な行政支出」であり、「利益誘導」があるなどと攻撃する異常な事態が起きている。
★再度、歌舞伎町の「バスカフェ」現場の映像を見て驚いた。1月18日夜8時ごろ、NHK 党の新宿区議候補が黄色いコートに名前入りのタスキをかけ、「NHK撃退」と書かれたノボリの傍でカセットから音声を流し、「バスカフェ」に出入りする女性の数をカウントするなど、信じがたい迷惑行動を繰り広げていた。なぜなのか。
★2月22日の参院本会議である。NHK党の浜田聡・政調会長の発言を聞いて頷いた。なんとガーシー議員への懲罰に対する、同党の弁明発言の中で「Colabo」問題を持ち出したのだ。
ガーシー議員が最近立て続けに「Colabo」の不正や利権につき、数多くの質問主意書を提出している。その現状を踏まえれば、「ガーシー議員を除名に追い込み、質問主意書を提出できなくすることで、このColabo問題 に注目が集まることを防ごうとしている可能性をここで指摘させていただきます」と、懲罰の不当性を主張したのだ。
かつ日本維新の会や都議会・自民党が「Colabo問題」の追究に奮闘していることに敬意を表し感謝するとまで持ち上げた。呆れて開いた口がふさがらない。
★ジェンダー平等・女性差別の禁止など、大きな流れに挑戦するかのような日本維新の会やNHK党の動きは、ますます「Colabo」に対するネット上のデマや中傷をあおり、バッシングに手を貸すのは目に見えている。その責任は重大で見逃すわけにはいかない。(2023/2/26)
2023年02月19日
【今週の風考計】2.19─ウクライナ戦争を、どうやって終わらせるか
熾烈なバフムト攻防
◆ロシアのウクライナ侵攻から1年となる2月24日が近づく。いまや双方で20万近い兵士が死傷し、5万人の民間人が亡くなり、数百万の難民が生まれている。
これまでロシア軍は1800両の戦車と3950台の装甲車両、810台の多連装ロケット弾発射システム、戦闘機400機に加え、30万人の兵士を送り込んできたが、ここにきてウクライナ東部のドネツク州バフムトの攻略作戦を強化している。
◆この作戦にはロシアの民間軍事会社「ワグネル」に雇われた戦闘員5千人が送り込まれ、戦闘の激しさは日を追うごとに増している。バフムトはロシア軍の東側からの攻撃だけでなく、南北からも包囲され苦戦を強いられている。水も電気もない凍てつく町に残る住民の多くは高齢で、退避も容易ならない。
◆だがロシア軍にも、ウクライナ軍の反撃で死傷者数が急増し、直近の一日当たり死傷者数は平均824人、去年6〜7月と比べ4倍以上といわれる。訓練を受けた兵士の不足や士気の低下、軍備品の補給不足が指摘されている。
これまでもロシア正規軍と「ワグネル」間の軋轢が言われてきたが、「ワグネル」内にも戦線離脱のケースが増えている。いかに高給が支給されようとも軍事訓練もなく、いきなり戦場に投入されるのだから無理もない。
民間の傭兵組織「ワグネル」
◆この「ワグネル」の正体とは何か。改めておさらいをしておこう。ロシアがウクライナのクリミア半島を強制的に併合した2014年、「ワグネルグループ」が創設された。その創設者がプリゴジン氏で、<プーチンの料理人>というニックネームを持ち、ロシア政府の行事に料理を供給する飲食事業を経営していた。
◆その後、「ワグネルグループ」は軍事会社を立ち上げ、民間から傭兵を募集し「ワグネル」の戦闘員として世界各地の紛争地に、ロシア側の便益に資するよう送り込んでいた。今回のウクライナ戦争には「ワグネル」の傭兵5万人が投入されたが、このうち刑務所で募集された囚人が4万人に達する。
◆傭兵の月給は少なくとも24万ルーブル(約56万円)、ウクライナなど戦地への「出張」期間が4カ月に及ぶとボーナスまで支給する。囚人傭兵には月給5千ドル(約73万円)、死亡した場合には遺族に数万ドルが支払われるという。
武器供与が何をもたらすか
◆さて、ここにきてゼレンスキー大統領は、欧米に「戦車を300両よこせ、F16を送れ、長距離ミサイルも」と、武器供与の要求はエスカレートの一途を辿っている。ドイツは世界最強の主力戦車<レオパルト2>の供与も含め23.4億ユーロ(3323億円)、英国は23億ポンド(3800億円)、米国は229億ユーロ(4兆6千億円)を、ウクライナに供出している。
◆ウクライナ戦争の終結、和平に向けた全体的な政治的・戦略的な青写真がないなかで、武器供与だけがエスカレートすれば、もうロシアとNATO との戦争へ行き着く危険性は避けられない。それでいいのか。
ウクライナ戦争は、ウクライナとロシアの国家間戦争である。そしてウクライナにおける分離独立を巡る内戦でもある。ロシアの侵攻1カ月後には停戦の条件を巡って両国は交渉に入ったものの、停戦の話は沙汰止みとなり、ウクライナは米英NATOの全面支援を頼りに、ロシアとの本格的な戦争に突入してしまった。今や米国とロシアの代理戦争ともなっている。
大事なOSCEでの討議
◆それではウクライナ戦争をどう終わらせるか。まずはウクライナに侵攻したロシアが戦闘を停止し、正式に停戦会談を開始することだ。ウクライナとロシアの停戦がなれば、両国は双方の平和と独立を守る公約や順守義務などを討議し、合意した内容を国連や世界各国に発表し、干渉を排して確実なものとしていけばよい。
◆そのためには「ミンスク合意」に、もう一度立ち戻ることではないか。2014年にロシアがクリミア半島を併合し、かつウクライナ東部のドネツク、ルガンスクの2州をウクライナから独立させ分断してしまった。
この問題に対し、2015年2月、ウクライナとロシアおよび独・仏の4首脳がベラルーシの首都ミンスクで討議のうえ、和平への道筋を示したのが「ミンスク合意」である。
◆しかし、この8年間で「ミンスク合意」は棚あげにされ、さらに複雑さが増したウクライナ情勢を打開するには、もう一回り大きいロシアも参加する欧州安全保障協力機構(OSCE)を活用すべきではないか。
OSCEは欧州の安全保障に関わる全ての国が同じテーブルにつく唯一の組織である。欧米にとってのNATO と同じように、ロシアにとってのレッドラインである黒海地域に対する安全保障の枠組みも含め、ロシアの立場も視野に入れて討議すべきだ。(2023/2/19)
◆ロシアのウクライナ侵攻から1年となる2月24日が近づく。いまや双方で20万近い兵士が死傷し、5万人の民間人が亡くなり、数百万の難民が生まれている。
これまでロシア軍は1800両の戦車と3950台の装甲車両、810台の多連装ロケット弾発射システム、戦闘機400機に加え、30万人の兵士を送り込んできたが、ここにきてウクライナ東部のドネツク州バフムトの攻略作戦を強化している。
◆この作戦にはロシアの民間軍事会社「ワグネル」に雇われた戦闘員5千人が送り込まれ、戦闘の激しさは日を追うごとに増している。バフムトはロシア軍の東側からの攻撃だけでなく、南北からも包囲され苦戦を強いられている。水も電気もない凍てつく町に残る住民の多くは高齢で、退避も容易ならない。
◆だがロシア軍にも、ウクライナ軍の反撃で死傷者数が急増し、直近の一日当たり死傷者数は平均824人、去年6〜7月と比べ4倍以上といわれる。訓練を受けた兵士の不足や士気の低下、軍備品の補給不足が指摘されている。
これまでもロシア正規軍と「ワグネル」間の軋轢が言われてきたが、「ワグネル」内にも戦線離脱のケースが増えている。いかに高給が支給されようとも軍事訓練もなく、いきなり戦場に投入されるのだから無理もない。
民間の傭兵組織「ワグネル」
◆この「ワグネル」の正体とは何か。改めておさらいをしておこう。ロシアがウクライナのクリミア半島を強制的に併合した2014年、「ワグネルグループ」が創設された。その創設者がプリゴジン氏で、<プーチンの料理人>というニックネームを持ち、ロシア政府の行事に料理を供給する飲食事業を経営していた。
◆その後、「ワグネルグループ」は軍事会社を立ち上げ、民間から傭兵を募集し「ワグネル」の戦闘員として世界各地の紛争地に、ロシア側の便益に資するよう送り込んでいた。今回のウクライナ戦争には「ワグネル」の傭兵5万人が投入されたが、このうち刑務所で募集された囚人が4万人に達する。
◆傭兵の月給は少なくとも24万ルーブル(約56万円)、ウクライナなど戦地への「出張」期間が4カ月に及ぶとボーナスまで支給する。囚人傭兵には月給5千ドル(約73万円)、死亡した場合には遺族に数万ドルが支払われるという。
武器供与が何をもたらすか
◆さて、ここにきてゼレンスキー大統領は、欧米に「戦車を300両よこせ、F16を送れ、長距離ミサイルも」と、武器供与の要求はエスカレートの一途を辿っている。ドイツは世界最強の主力戦車<レオパルト2>の供与も含め23.4億ユーロ(3323億円)、英国は23億ポンド(3800億円)、米国は229億ユーロ(4兆6千億円)を、ウクライナに供出している。
◆ウクライナ戦争の終結、和平に向けた全体的な政治的・戦略的な青写真がないなかで、武器供与だけがエスカレートすれば、もうロシアとNATO との戦争へ行き着く危険性は避けられない。それでいいのか。
ウクライナ戦争は、ウクライナとロシアの国家間戦争である。そしてウクライナにおける分離独立を巡る内戦でもある。ロシアの侵攻1カ月後には停戦の条件を巡って両国は交渉に入ったものの、停戦の話は沙汰止みとなり、ウクライナは米英NATOの全面支援を頼りに、ロシアとの本格的な戦争に突入してしまった。今や米国とロシアの代理戦争ともなっている。
大事なOSCEでの討議
◆それではウクライナ戦争をどう終わらせるか。まずはウクライナに侵攻したロシアが戦闘を停止し、正式に停戦会談を開始することだ。ウクライナとロシアの停戦がなれば、両国は双方の平和と独立を守る公約や順守義務などを討議し、合意した内容を国連や世界各国に発表し、干渉を排して確実なものとしていけばよい。
◆そのためには「ミンスク合意」に、もう一度立ち戻ることではないか。2014年にロシアがクリミア半島を併合し、かつウクライナ東部のドネツク、ルガンスクの2州をウクライナから独立させ分断してしまった。
この問題に対し、2015年2月、ウクライナとロシアおよび独・仏の4首脳がベラルーシの首都ミンスクで討議のうえ、和平への道筋を示したのが「ミンスク合意」である。
◆しかし、この8年間で「ミンスク合意」は棚あげにされ、さらに複雑さが増したウクライナ情勢を打開するには、もう一回り大きいロシアも参加する欧州安全保障協力機構(OSCE)を活用すべきではないか。
OSCEは欧州の安全保障に関わる全ての国が同じテーブルにつく唯一の組織である。欧米にとってのNATO と同じように、ロシアにとってのレッドラインである黒海地域に対する安全保障の枠組みも含め、ロシアの立場も視野に入れて討議すべきだ。(2023/2/19)
2023年02月12日
【今週の風考計】2.12─日本を襲う2つの大地震、そして原発事故の恐しさ
トルコ・シリア大地震の恐怖
■トルコ・シリア大地震による死者は2万3千人、建物の倒壊はトルコ国内だけでも6500棟を超え、さらに被害は拡大している。 震源の深さは本震(マグニチュード7.8)が地下18q、余震(M7.5)が地下10q、浅い所で発生したため地表の揺れは極めて激しく、建物の倒壊に拍車が掛かったとみられる。
■今回の地震の震源地ガジアンテプの地底では、複数のプレートが衝突し、その境界には「東アナトリア断層」など、複雑な断層がひしめいている。そのため歪みがたまりやすく、蓄積されたエネルギーが放出されて起きる地震の多発地帯だった。
だが、この地域では200年以上、大きな地震がなく、警戒すべき兆候もなかったため、耐震対策や救援体制が不十分だったので、被害を大きくしている。
首都直下地震と南海トラフ地震
■さて日本はどうか。世界で起きるM6.0以上の地震のうち、その2割が日本で発生している。まさに地震多発国、心配がつのる。内閣府の発表によると、今後30年以内に発生する確率が70%の大規模地震には、首都(東京)直下地震と南海トラフ地震の2つがある。
■まず首都(東京)直下地震は、どこで起きるか。東京のど真ん中でとは限らない。予測では東京駅を中心に直径100kmの円内のどこかで、M7.0ほどの地震が起きる。すなわち東は千葉県・銚子、西は静岡県・熱海、南は房総半島南端、北は群馬県・高崎までが含まれる。
■こうした範囲の地下深くには複数のプレートが集まり歪みが生じやすく、国内でも地震の多い地域である。もし起きれば都内の死者は最大6200人、火災や倒壊による建物被害は約19万4400棟と予測している。くわえて国の中枢機能が集中しているだけに、日本全体が沈没するほど、甚大な影響を受ける。
■南海トラフ地震はどうか。静岡県・駿河湾から熊野灘、土佐湾を経て宮崎県・日向灘沖にかけて、海溝「南海トラフ」が伸びている。その下に「フィリピン海プレート」が太平洋側から年間数センチほど潜り込むために歪みが生じ、その限界が来ると「陸のプレート」が跳ね上がって地震が発生する。
太平洋沿岸の東海地方から九州地方にかけ、10mを超える大津波の襲来も予測され、西日本側の広い地域に甚大な被害をもたらす。
<3・11フクシマ>から12年
■この2つの地震以外にも、日本全国には約2,000もの活断層があり、近い将来、大地震を起こす可能性の高い活断層も明らかにされている。いつどこで大きな地震が起きてもおかしくない。
日本で最大のM9.0を記録した東日本大地震から12年。その余波が、いまもなお続いているのを忘れてはならない。
■ 昨年3月16日には、牡鹿半島沖の深さ60kmを震源とするM7.4、震度6強の揺れを観測する地震が、宮城県と福島県で起きている。この地震により3人が死亡、247人が負傷し5万棟近くの住家が被害を受けた。東北新幹線の車両が脱線事故を起こすなど、甚大な被害が発生している。
■加えて原発事故を伴った<3・11フクシマ>の被害は、子々孫々に及ぶ世界にも例を見ない規模となった。いまだに原発廃棄物デブリや汚染土の処理、被害者救済のロードマップも遅々として進まない。
南海トラフ地震が起きたら、もろに被害がおよぶ浜岡原発。太平洋に面する静岡県・御前崎の突端にある。すでに稼働40年を超え老朽化し、稼働を停止しているとはいえ、耐震性や防波壁も不十分、住民の不安は尽きない。
原発稼働を無期限化する妄動
■ところが岸田政権は、<3・11フクシマ>の教訓を反故にし、突如として原発再稼働・稼働期間の延長・新規建設をぶち上げ、国会審議にもかけず突っ走り、10日には閣議決定までしてしまう。
■また司法も事故を起こした電力会社の社会的責任は問わず、政府の意向に追随する。原子力規制委員会に至っては、原発稼働は「原則40年・最長60年」の規制を骨抜きにし、60年を超えても老朽原発が稼働できる道を整えてやるのだから呆れる。こんな乱暴な原発推進が、いかなる結果をもたらすか、国を亡ぼすのは目に見えている。(2023/2/12)
■トルコ・シリア大地震による死者は2万3千人、建物の倒壊はトルコ国内だけでも6500棟を超え、さらに被害は拡大している。 震源の深さは本震(マグニチュード7.8)が地下18q、余震(M7.5)が地下10q、浅い所で発生したため地表の揺れは極めて激しく、建物の倒壊に拍車が掛かったとみられる。
■今回の地震の震源地ガジアンテプの地底では、複数のプレートが衝突し、その境界には「東アナトリア断層」など、複雑な断層がひしめいている。そのため歪みがたまりやすく、蓄積されたエネルギーが放出されて起きる地震の多発地帯だった。
だが、この地域では200年以上、大きな地震がなく、警戒すべき兆候もなかったため、耐震対策や救援体制が不十分だったので、被害を大きくしている。
首都直下地震と南海トラフ地震
■さて日本はどうか。世界で起きるM6.0以上の地震のうち、その2割が日本で発生している。まさに地震多発国、心配がつのる。内閣府の発表によると、今後30年以内に発生する確率が70%の大規模地震には、首都(東京)直下地震と南海トラフ地震の2つがある。
■まず首都(東京)直下地震は、どこで起きるか。東京のど真ん中でとは限らない。予測では東京駅を中心に直径100kmの円内のどこかで、M7.0ほどの地震が起きる。すなわち東は千葉県・銚子、西は静岡県・熱海、南は房総半島南端、北は群馬県・高崎までが含まれる。
■こうした範囲の地下深くには複数のプレートが集まり歪みが生じやすく、国内でも地震の多い地域である。もし起きれば都内の死者は最大6200人、火災や倒壊による建物被害は約19万4400棟と予測している。くわえて国の中枢機能が集中しているだけに、日本全体が沈没するほど、甚大な影響を受ける。
■南海トラフ地震はどうか。静岡県・駿河湾から熊野灘、土佐湾を経て宮崎県・日向灘沖にかけて、海溝「南海トラフ」が伸びている。その下に「フィリピン海プレート」が太平洋側から年間数センチほど潜り込むために歪みが生じ、その限界が来ると「陸のプレート」が跳ね上がって地震が発生する。
太平洋沿岸の東海地方から九州地方にかけ、10mを超える大津波の襲来も予測され、西日本側の広い地域に甚大な被害をもたらす。
<3・11フクシマ>から12年
■この2つの地震以外にも、日本全国には約2,000もの活断層があり、近い将来、大地震を起こす可能性の高い活断層も明らかにされている。いつどこで大きな地震が起きてもおかしくない。
日本で最大のM9.0を記録した東日本大地震から12年。その余波が、いまもなお続いているのを忘れてはならない。
■ 昨年3月16日には、牡鹿半島沖の深さ60kmを震源とするM7.4、震度6強の揺れを観測する地震が、宮城県と福島県で起きている。この地震により3人が死亡、247人が負傷し5万棟近くの住家が被害を受けた。東北新幹線の車両が脱線事故を起こすなど、甚大な被害が発生している。
■加えて原発事故を伴った<3・11フクシマ>の被害は、子々孫々に及ぶ世界にも例を見ない規模となった。いまだに原発廃棄物デブリや汚染土の処理、被害者救済のロードマップも遅々として進まない。
南海トラフ地震が起きたら、もろに被害がおよぶ浜岡原発。太平洋に面する静岡県・御前崎の突端にある。すでに稼働40年を超え老朽化し、稼働を停止しているとはいえ、耐震性や防波壁も不十分、住民の不安は尽きない。
原発稼働を無期限化する妄動
■ところが岸田政権は、<3・11フクシマ>の教訓を反故にし、突如として原発再稼働・稼働期間の延長・新規建設をぶち上げ、国会審議にもかけず突っ走り、10日には閣議決定までしてしまう。
■また司法も事故を起こした電力会社の社会的責任は問わず、政府の意向に追随する。原子力規制委員会に至っては、原発稼働は「原則40年・最長60年」の規制を骨抜きにし、60年を超えても老朽原発が稼働できる道を整えてやるのだから呆れる。こんな乱暴な原発推進が、いかなる結果をもたらすか、国を亡ぼすのは目に見えている。(2023/2/12)
2023年02月05日
【今週の風考計】2.5─子育てに「N分N乗方式」は効果あるのかという疑問
自民党の反省って本当か?
●岸田首相は「異次元の少子化対策」というが、国会答弁を聞いても、具体策は「未定」、中身が全く分からない。これまで13年間、自民党や政府は、あの統一協会と軌を一にして「子育ては親・家庭が担うもの」とし、所得制限のない「子ども手当」の創設すら反対してきた。
民主党政権の提案を採決する際には、丸川珠代議員は「愚か者めが」と大声で罵倒し、その文字ロゴ入りTシャツまで作って販売したというから呆れる。他の自民党議員も「子育てを家庭から奪い取る国家化・社会化」の社会主義思想、ポルポトと同じとまで誹謗した。
●ところが突如、今国会で自民党の茂木幹事長が「児童手当の所得制限を撤廃する」と言い出した。丸川議員も首相も「これまでの対応を反省する」というが、どこまで反省しているのか、<日光猿軍団>の反省で終わらなければと願う。
今や常識、子育ては社会全体で
●子供を産み育てる経済的保障も含め、社会環境の充実こそ求められているのに、いまだに「少子化の原因は晩婚化だ」と女性に責任を押しつける元首相を始め、明治以来の家父長制や男尊女卑の考え方が、根強く自民党のセンセイ方にあるからだ。
ジェンダー平等の社会への改革・転換は停滞したまま、男女の賃金格差は生涯賃金で1億円、女性に安い賃金で働かせ、かつ子どもを産み育てる責任まで負わせる仕組みを変えなきゃダメ。
●とりわけ子育てに大きな負担のかかる2歳までの保育費と18歳までの医療費は無料にすべきだ。義務教育での給食費は完全無償化も、戦争に使う5年間で43兆円の軍事費を充てれば100年間は継続できる。
また教育費にかかわる学費や入学金の軽減、奨学金制度の見直しも、絶対に必要だ。入学してもいないのに取られる入学金徴収はヤラズブッタクリ、すぐやめるべきだ。
「N分N乗方式」への疑問
●さて、これらの子育て・少子化対策にすぐ役立つ提案の議論は脇に置いて、自民・維新・国民各党そろい踏みで所得税の徴収を「N分N乗方式」にする提案が飛び出した。
所得税の課税対象を「個人」ではなく「世帯」とし、1世帯分の所得を合算したうえで、子どもなど扶養家族も含めた人数で総所得を割り、その数字を元に所得税の徴収額を決め納める仕組みだ。世帯当たりの収入が同額ならば、子供が多ければ多いほど納税額は低く抑えられる。
●この「N分N乗方式」は、今から77年前の1946年フランスで採用され、徐々に出生率の増加に寄与したといわれる。ただしフランスの子育て支援に投ずる公的支出はGDP比3.6%、日本はGDP比1.7%、フランスの半分にも及ばず、平均2.24%のOECD諸国では下位。その状況を忘れてはならない。
●こうした貧弱な日本の子育て環境下で、「N分N乗方式」を導入したらどうなるか。まず高額所得者は、所得額を世帯人数で割るために低い徴収税率に移行し、納税額が大幅に減りメリットは大きい。社会全体にとっても所得税の再分配機能が低下する。
肝心なのは翌年に反映する減税分が子育てに回るだろうか。実際は賃上げ不十分・物価高が続く以上、日々の家計に使われてしまうのが落ちではないか。
●子育てに直結する費目への現金支援、すなわち子ども手当の増額、各種の保育・教育費目の無償化や減額こそ、いま急がれる対策だ。
子育てへの公的支援に占める現金・現物支給の額はGDP比で、日本は0.65%、英国は2.12%、フランスは1.42%、あまりにも低水準すぎる。「異次元の小子化対策」は待ったなし。6月まで「未定」で済ますわけにはいかない。(2023/2/5)
●岸田首相は「異次元の少子化対策」というが、国会答弁を聞いても、具体策は「未定」、中身が全く分からない。これまで13年間、自民党や政府は、あの統一協会と軌を一にして「子育ては親・家庭が担うもの」とし、所得制限のない「子ども手当」の創設すら反対してきた。
民主党政権の提案を採決する際には、丸川珠代議員は「愚か者めが」と大声で罵倒し、その文字ロゴ入りTシャツまで作って販売したというから呆れる。他の自民党議員も「子育てを家庭から奪い取る国家化・社会化」の社会主義思想、ポルポトと同じとまで誹謗した。
●ところが突如、今国会で自民党の茂木幹事長が「児童手当の所得制限を撤廃する」と言い出した。丸川議員も首相も「これまでの対応を反省する」というが、どこまで反省しているのか、<日光猿軍団>の反省で終わらなければと願う。
今や常識、子育ては社会全体で
●子供を産み育てる経済的保障も含め、社会環境の充実こそ求められているのに、いまだに「少子化の原因は晩婚化だ」と女性に責任を押しつける元首相を始め、明治以来の家父長制や男尊女卑の考え方が、根強く自民党のセンセイ方にあるからだ。
ジェンダー平等の社会への改革・転換は停滞したまま、男女の賃金格差は生涯賃金で1億円、女性に安い賃金で働かせ、かつ子どもを産み育てる責任まで負わせる仕組みを変えなきゃダメ。
●とりわけ子育てに大きな負担のかかる2歳までの保育費と18歳までの医療費は無料にすべきだ。義務教育での給食費は完全無償化も、戦争に使う5年間で43兆円の軍事費を充てれば100年間は継続できる。
また教育費にかかわる学費や入学金の軽減、奨学金制度の見直しも、絶対に必要だ。入学してもいないのに取られる入学金徴収はヤラズブッタクリ、すぐやめるべきだ。
「N分N乗方式」への疑問
●さて、これらの子育て・少子化対策にすぐ役立つ提案の議論は脇に置いて、自民・維新・国民各党そろい踏みで所得税の徴収を「N分N乗方式」にする提案が飛び出した。
所得税の課税対象を「個人」ではなく「世帯」とし、1世帯分の所得を合算したうえで、子どもなど扶養家族も含めた人数で総所得を割り、その数字を元に所得税の徴収額を決め納める仕組みだ。世帯当たりの収入が同額ならば、子供が多ければ多いほど納税額は低く抑えられる。
●この「N分N乗方式」は、今から77年前の1946年フランスで採用され、徐々に出生率の増加に寄与したといわれる。ただしフランスの子育て支援に投ずる公的支出はGDP比3.6%、日本はGDP比1.7%、フランスの半分にも及ばず、平均2.24%のOECD諸国では下位。その状況を忘れてはならない。
●こうした貧弱な日本の子育て環境下で、「N分N乗方式」を導入したらどうなるか。まず高額所得者は、所得額を世帯人数で割るために低い徴収税率に移行し、納税額が大幅に減りメリットは大きい。社会全体にとっても所得税の再分配機能が低下する。
肝心なのは翌年に反映する減税分が子育てに回るだろうか。実際は賃上げ不十分・物価高が続く以上、日々の家計に使われてしまうのが落ちではないか。
●子育てに直結する費目への現金支援、すなわち子ども手当の増額、各種の保育・教育費目の無償化や減額こそ、いま急がれる対策だ。
子育てへの公的支援に占める現金・現物支給の額はGDP比で、日本は0.65%、英国は2.12%、フランスは1.42%、あまりにも低水準すぎる。「異次元の小子化対策」は待ったなし。6月まで「未定」で済ますわけにはいかない。(2023/2/5)
2023年01月29日
【今週の風考計】1.29─世界に広がるジャーナリストへの弾圧を止めよう!
ジャーナリストの死者67人
★米国のNGO「ジャーナリスト保護委員会」(CPJ)が、2022年の1年間で職務中に死亡したジャーナリストは世界で67人に上り、前年の2倍を超えたと発表した。地域別での死者は中南米がトップで30人を超える。国別にみるとウクライナが最多の15人、メキシコで13人、ハイチで7人が死亡。
★またパリに本部があるNGO「国境なき記者団」の調査によると、昨年12月1日時点で、投獄されているジャーナリストは533人、過去30年間で最大となった。国別でみると中国が110人でワースト1位、次いでイランが47人、3位にミャンマー26人が続く。
ウクライナ侵攻などの紛争地の取材で命を落とすケースに加え、犯罪や汚職、さらには政権に対する取材が起因して拘束される事例が、ここにきてとみに高まっている。
日本人ジャーナリストとミャンマー
★とりわけ日本とも交流の深いミャンマーを考えてみよう。2年前の2021年2月1日、国軍のクーデターにより、民主的な選挙で樹立のアウンサンスーチー政権が転覆された。それ以降、ミャンマーでは市民や少数民族の人びとが殺され、また内外のジャーナリストが相次いで拘束され、収監・投獄が続いている。
★フリー・ジャーナリストの北角裕樹さんは、クーデター以前から現地で取材を続け人々の声を日本に伝えてきた。ところが国軍のクーデター後、民主化を求める人々の様子を報道するや否や、ミャンマー警察に一時拘束、すぐに解放されたが、2021年4月18日にはミャンマー国軍情報部に再び拘束され、ヤンゴン市内のインセイン刑務所に収監されてしまった。
日本政府の働きかけにより5月14日に解放されたものの、日本への帰国が強いられた。
★続いて日本人ジャーナリストの久保田徹さんが昨年7月30日、ヤンゴンで抗議デモを撮影中に拘束された。その後、扇動罪と電子通信に関する違反などの罪で起訴され、刑務所内で行われた非公開裁判で、禁錮10年の有罪判決を受け、ヤンゴン刑務所に収監されるに至った。だが国際的な非難や日本政府の要請もあり、11月17日に釈放され日本へ帰国した。
糾弾されるミャンマー国軍への資金援助
★この2月1日は、ミャンマー国軍によるクーデターから、ちょうど2年がたつ。ミャンマーの人権団体「ジャスティス・フォー・ミャンマー」(JFM)は報告書を公表し、あらためて64の外国政府・国際機関がミャンマー国軍に支援を続けていると糾弾した。特に国軍への接近・支援が目立つ国として中国とロシアを挙げている。
★日本については、防衛省が日本国内で行っているミャンマー国軍士官らの教育訓練そのものが国軍への支援であり、また日本の政府開発援助(ODA)による最大都市ヤンゴンとティラワ経済特区を結ぶバゴー橋建設事業も、ミャンマー国軍系企業への資金投入を通じて国軍への資金援助だと指摘している。
政府へODA見直しを求める署名
★日本国内にあるNGO 5団体が、「#ミャンマー国軍の資金源を断て」キャンペーンを行ってきたが、さらに運動を強化するため、政府に対して対ミャンマー政策の再構築を求める共同声明を発表し、賛同署名の呼びかけ運動を開始している。
★その中身は、まず国軍の暴力停止、続いて国軍との政府開発援助(ODA)の見直し、さらに国軍や国軍系企業が関与するビジネスの停止、ミャンマー市民や内外のジャーナリストらの「表現の自由」への保障などを挙げている。市民や市民団体から広く賛同署名を集め、2月1日に日本政府に提出するという。(2023/1/29)
★米国のNGO「ジャーナリスト保護委員会」(CPJ)が、2022年の1年間で職務中に死亡したジャーナリストは世界で67人に上り、前年の2倍を超えたと発表した。地域別での死者は中南米がトップで30人を超える。国別にみるとウクライナが最多の15人、メキシコで13人、ハイチで7人が死亡。
★またパリに本部があるNGO「国境なき記者団」の調査によると、昨年12月1日時点で、投獄されているジャーナリストは533人、過去30年間で最大となった。国別でみると中国が110人でワースト1位、次いでイランが47人、3位にミャンマー26人が続く。
ウクライナ侵攻などの紛争地の取材で命を落とすケースに加え、犯罪や汚職、さらには政権に対する取材が起因して拘束される事例が、ここにきてとみに高まっている。
日本人ジャーナリストとミャンマー
★とりわけ日本とも交流の深いミャンマーを考えてみよう。2年前の2021年2月1日、国軍のクーデターにより、民主的な選挙で樹立のアウンサンスーチー政権が転覆された。それ以降、ミャンマーでは市民や少数民族の人びとが殺され、また内外のジャーナリストが相次いで拘束され、収監・投獄が続いている。
★フリー・ジャーナリストの北角裕樹さんは、クーデター以前から現地で取材を続け人々の声を日本に伝えてきた。ところが国軍のクーデター後、民主化を求める人々の様子を報道するや否や、ミャンマー警察に一時拘束、すぐに解放されたが、2021年4月18日にはミャンマー国軍情報部に再び拘束され、ヤンゴン市内のインセイン刑務所に収監されてしまった。
日本政府の働きかけにより5月14日に解放されたものの、日本への帰国が強いられた。
★続いて日本人ジャーナリストの久保田徹さんが昨年7月30日、ヤンゴンで抗議デモを撮影中に拘束された。その後、扇動罪と電子通信に関する違反などの罪で起訴され、刑務所内で行われた非公開裁判で、禁錮10年の有罪判決を受け、ヤンゴン刑務所に収監されるに至った。だが国際的な非難や日本政府の要請もあり、11月17日に釈放され日本へ帰国した。
糾弾されるミャンマー国軍への資金援助
★この2月1日は、ミャンマー国軍によるクーデターから、ちょうど2年がたつ。ミャンマーの人権団体「ジャスティス・フォー・ミャンマー」(JFM)は報告書を公表し、あらためて64の外国政府・国際機関がミャンマー国軍に支援を続けていると糾弾した。特に国軍への接近・支援が目立つ国として中国とロシアを挙げている。
★日本については、防衛省が日本国内で行っているミャンマー国軍士官らの教育訓練そのものが国軍への支援であり、また日本の政府開発援助(ODA)による最大都市ヤンゴンとティラワ経済特区を結ぶバゴー橋建設事業も、ミャンマー国軍系企業への資金投入を通じて国軍への資金援助だと指摘している。
政府へODA見直しを求める署名
★日本国内にあるNGO 5団体が、「#ミャンマー国軍の資金源を断て」キャンペーンを行ってきたが、さらに運動を強化するため、政府に対して対ミャンマー政策の再構築を求める共同声明を発表し、賛同署名の呼びかけ運動を開始している。
★その中身は、まず国軍の暴力停止、続いて国軍との政府開発援助(ODA)の見直し、さらに国軍や国軍系企業が関与するビジネスの停止、ミャンマー市民や内外のジャーナリストらの「表現の自由」への保障などを挙げている。市民や市民団体から広く賛同署名を集め、2月1日に日本政府に提出するという。(2023/1/29)
2023年01月22日
【今週の風考計】1.22─流星群の襲来と「アルテミス計画」への不安
今年は流星群の当たり年
◆旧友からの年賀状に「会いたいね!」の1行があった。これに勇を得て、3年ぶりに旧友と会い酒を酌み交わし歓談した。
その余韻を胸に帰宅の道すがら夜空を仰ぐと、ウサギの跳ねる月が輝き、「冬の大三角」や「オリオン座」が光っている。今年の日本の空は、流星群が襲来する当たり年だそうだ。
◆さっそく三大流星群の一つ「しぶんぎ(四分儀)座」流星群が、新年早々4日の明け方、襲来したという。気づいたのが遅く悔やまれる。
4月には「こと座」流星群(4/23)を始め、「みずがめ座」(5/6)、「ペルセウス座」(8/13)、「りゅう座」(10/9)、「オリオン座」(10/22)、「しし座」(11/18)、「ふたご座」(12/14)、「こぐま座」(12/23)の流星群が次々に襲来する。星座図を繰りながら、それぞれの位置を確かめるのに四苦八苦。
つづく太陽系外惑星の発見
◆先日、41光年先の宇宙空間に、地球とほぼ同じ大きさの惑星があるのを、「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡を使って確認したとの報告が発表された。
この太陽系外惑星は、南天の「はちぶんぎ(八分儀)座」の方向にあり、「LHS 475 b」と名付けられている。その直径は地球の99%、表面温度は地球より250℃も高いそうだ。さらに地球でいえば太陽に当たる赤色矮星「LHS 475」を、約2日の周期で公転していることが確認された。
◆また分光観測を行うと惑星の大気にどんな物質が存在するか分かるが、もしCO₂と雲の成分が検出されれば、金星に似た惑星の可能性もあるという。
◆これまでに多くの太陽系外惑星が見つかっている。昨年6月には、「ふたご座」の方向32.6光年先にある恒星を公転する2つの太陽系外惑星も発見された。この惑星は、1つは地球の1.2倍、もう1つは1.5倍の大きさで、岩石惑星(スーパーアース)とみられる。表面温度は、1つは435℃、もう1つは284℃と推定されている。
「アルテミス計画」に漂う不安
◆宇宙の探査や研究は年ごとに加速し、国際的な共同プロジェクトが進む。人類を再び月に送る国際宇宙探査「アルテミス計画」も、その一つだ。米国をリーダーにして本格的に動きだした。
◆「アルテミス計画」に参加・協力する日本も、民間の宇宙ベンチャー企業「ispace」(アイスペース)が、昨年12月11日に月面探査プログラム「HAKUTO-R」<ミッション1>に基づく月着陸船(ランダー)を打ち上げた。民間では初めての月面着陸を目指し、いま宇宙を順調に航行している。
来年4月末ごろには月面へ着陸するよう準備し、成功すれば民間機としては世界初の月面着陸となる。<ミッション3>段階になれば着陸や輸送の精度を高めて、「アルテミス計画」の火星探査にも協力するという。
◆しかし、この計画も13日に日米両政府が交わした宇宙分野に関する協力協定を見ると、急速に進むロシアや中国の宇宙開発に対抗し、宇宙空間での覇権を握るための軍事利用に転嫁する懸念は大きい。平和利用に専念できるのか、依然として不安は消えていない。(2023/1/22)
◆旧友からの年賀状に「会いたいね!」の1行があった。これに勇を得て、3年ぶりに旧友と会い酒を酌み交わし歓談した。
その余韻を胸に帰宅の道すがら夜空を仰ぐと、ウサギの跳ねる月が輝き、「冬の大三角」や「オリオン座」が光っている。今年の日本の空は、流星群が襲来する当たり年だそうだ。
◆さっそく三大流星群の一つ「しぶんぎ(四分儀)座」流星群が、新年早々4日の明け方、襲来したという。気づいたのが遅く悔やまれる。
4月には「こと座」流星群(4/23)を始め、「みずがめ座」(5/6)、「ペルセウス座」(8/13)、「りゅう座」(10/9)、「オリオン座」(10/22)、「しし座」(11/18)、「ふたご座」(12/14)、「こぐま座」(12/23)の流星群が次々に襲来する。星座図を繰りながら、それぞれの位置を確かめるのに四苦八苦。
つづく太陽系外惑星の発見
◆先日、41光年先の宇宙空間に、地球とほぼ同じ大きさの惑星があるのを、「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡を使って確認したとの報告が発表された。
この太陽系外惑星は、南天の「はちぶんぎ(八分儀)座」の方向にあり、「LHS 475 b」と名付けられている。その直径は地球の99%、表面温度は地球より250℃も高いそうだ。さらに地球でいえば太陽に当たる赤色矮星「LHS 475」を、約2日の周期で公転していることが確認された。
◆また分光観測を行うと惑星の大気にどんな物質が存在するか分かるが、もしCO₂と雲の成分が検出されれば、金星に似た惑星の可能性もあるという。
◆これまでに多くの太陽系外惑星が見つかっている。昨年6月には、「ふたご座」の方向32.6光年先にある恒星を公転する2つの太陽系外惑星も発見された。この惑星は、1つは地球の1.2倍、もう1つは1.5倍の大きさで、岩石惑星(スーパーアース)とみられる。表面温度は、1つは435℃、もう1つは284℃と推定されている。
「アルテミス計画」に漂う不安
◆宇宙の探査や研究は年ごとに加速し、国際的な共同プロジェクトが進む。人類を再び月に送る国際宇宙探査「アルテミス計画」も、その一つだ。米国をリーダーにして本格的に動きだした。
◆「アルテミス計画」に参加・協力する日本も、民間の宇宙ベンチャー企業「ispace」(アイスペース)が、昨年12月11日に月面探査プログラム「HAKUTO-R」<ミッション1>に基づく月着陸船(ランダー)を打ち上げた。民間では初めての月面着陸を目指し、いま宇宙を順調に航行している。
来年4月末ごろには月面へ着陸するよう準備し、成功すれば民間機としては世界初の月面着陸となる。<ミッション3>段階になれば着陸や輸送の精度を高めて、「アルテミス計画」の火星探査にも協力するという。
◆しかし、この計画も13日に日米両政府が交わした宇宙分野に関する協力協定を見ると、急速に進むロシアや中国の宇宙開発に対抗し、宇宙空間での覇権を握るための軍事利用に転嫁する懸念は大きい。平和利用に専念できるのか、依然として不安は消えていない。(2023/1/22)
2023年01月15日
【今週の風考計】1.15─南西諸島ミサイル基地化が呼び込む戦争の危機
泣いている馬毛島
■鹿児島県・馬毛島に米軍と自衛隊の基地を建設する工事が、住民の反対を無視して12日から始まった。
硫黄島(東京・小笠原諸島)で行っていた米軍ジェット戦闘機の離着陸訓練(FCLP)を、わざわざ東シナ海に近い馬毛島に移し、岩国基地との連携をよくするためだったが、ここにきて南西諸島の軍備強化にあわせ、本格的な基地建設へとエスカレートしたのだ。
■馬毛島は鹿児島県種子島の西北12キロに位置し、マゲシカが生息する自然豊かな無人島。そこに滑走路や駐機施設、火薬庫などを整備し、訓練に最低限必要な施設を先行して工期4年で完成させる。あわせて自衛隊の陸・海・空を統合した基地を設置し、米軍とともに共同活用するという。
南西諸島のミサイル基地化
■日米両政府は、日本列島を縦断し沖縄・与那国島まで南西諸島を数珠つなぎにし、各地に長射程のミサイルを配備し、両国が共同協力して対中国を想定した「敵基地攻撃能力」の強化に懸命となっている。
12日に交わされた「2プラス2」の合意文書に端的に表れている。米国は沖縄に駐留する海兵隊約1万人を改編し、南・東シナ海へ進出を強める中国をけん制し、対艦ミサイルなど即応性のある「海兵沿岸連隊(MLR)」へと発展させ、南西諸島の防衛に充てるという。
■日本政府も沖縄の防衛・警備を担当する陸上自衛隊第15旅団を師団に格上げし、ミサイル部隊の配備や弾薬の備蓄を増強する。また離島防衛専門部隊「水陸機動団」を創設し、離島奪還を想定した日米合同訓練も沖縄で強めている。
さらに自衛隊駐屯地を与那国島や宮古島に作り、今年は石垣島にも開設する。徳之島など自衛隊施設のない島でも部隊展開を図り、さらには離島の民間空港を国管理に移し軍事利用を狙う動きすら出ている。
「台湾有事」へ机上演習
■つい最近、米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)は、中国が3年後の2026年に台湾へ侵攻すると想定し、米軍の動きについてシュミレーションした結果を公表した。
その報告書によると、「在日米軍基地を使わなければ、台湾防衛に向けた米軍の戦闘機・攻撃機は出撃できず、日本は最重要な<要>であり、自衛隊の参戦が不可欠」と指摘した。
■米中両軍が台湾に進攻すれば、当然、在日米軍や自衛隊の基地は中国軍によるミサイル攻撃にさらされ、多大な被害と死傷者が生じる。
米軍では2隻の空母が撃沈され、168〜372機の航空機、7〜20隻の艦船を失うという。日本の自衛隊は122機の航空機、26隻の艦船が中国側の攻撃で失われ、米軍・台湾軍合わせて約3200人・1日140人ほどが戦死すると試算している。
いま必要な外交努力
■日本が攻撃されていなくとも、米国が台湾に侵攻し中国と戦争を始めれば、米国は日本に「集団的自衛権の行使」を求めるから、否が応でも「米国の戦争」に巻き込まれてしまう。挙句に中国からの「報復攻撃」を受け、「自分の国は自分で守る」どころか、「米国の戦争」で自国に多大な犠牲者が出るのは目に見えている。
■いま必要なのは、中国や北朝鮮の脅威をいたずらに煽り、軍備増強・敵基地攻撃能力を声高に叫ぶのでなく、外交努力を尽くして意思疎通を図り、緊張緩和を促進し地域の安定を図るのが「憲法9条」を持つ日本の役割ではないか。
■日中国交回復50年を経過した現在、改めて日本は中国に首脳会談を呼び掛け、東アジアの平和と安定を図るべきだ。また北朝鮮に対しても、2002年9月17日、小泉首相と金正日総書記が会談し、国交正常化交渉の再開で一致した「日朝平壌宣言」に立ち戻り、戦争回避に向け金正恩総書記に会談を申し入れるべきではないか。
これを一笑に付す前に、どれだけ外交努力が重ねられたのか、顧みるべきだ。(2023/1/15)
■鹿児島県・馬毛島に米軍と自衛隊の基地を建設する工事が、住民の反対を無視して12日から始まった。
硫黄島(東京・小笠原諸島)で行っていた米軍ジェット戦闘機の離着陸訓練(FCLP)を、わざわざ東シナ海に近い馬毛島に移し、岩国基地との連携をよくするためだったが、ここにきて南西諸島の軍備強化にあわせ、本格的な基地建設へとエスカレートしたのだ。
■馬毛島は鹿児島県種子島の西北12キロに位置し、マゲシカが生息する自然豊かな無人島。そこに滑走路や駐機施設、火薬庫などを整備し、訓練に最低限必要な施設を先行して工期4年で完成させる。あわせて自衛隊の陸・海・空を統合した基地を設置し、米軍とともに共同活用するという。
南西諸島のミサイル基地化
■日米両政府は、日本列島を縦断し沖縄・与那国島まで南西諸島を数珠つなぎにし、各地に長射程のミサイルを配備し、両国が共同協力して対中国を想定した「敵基地攻撃能力」の強化に懸命となっている。
12日に交わされた「2プラス2」の合意文書に端的に表れている。米国は沖縄に駐留する海兵隊約1万人を改編し、南・東シナ海へ進出を強める中国をけん制し、対艦ミサイルなど即応性のある「海兵沿岸連隊(MLR)」へと発展させ、南西諸島の防衛に充てるという。
■日本政府も沖縄の防衛・警備を担当する陸上自衛隊第15旅団を師団に格上げし、ミサイル部隊の配備や弾薬の備蓄を増強する。また離島防衛専門部隊「水陸機動団」を創設し、離島奪還を想定した日米合同訓練も沖縄で強めている。
さらに自衛隊駐屯地を与那国島や宮古島に作り、今年は石垣島にも開設する。徳之島など自衛隊施設のない島でも部隊展開を図り、さらには離島の民間空港を国管理に移し軍事利用を狙う動きすら出ている。
「台湾有事」へ机上演習
■つい最近、米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)は、中国が3年後の2026年に台湾へ侵攻すると想定し、米軍の動きについてシュミレーションした結果を公表した。
その報告書によると、「在日米軍基地を使わなければ、台湾防衛に向けた米軍の戦闘機・攻撃機は出撃できず、日本は最重要な<要>であり、自衛隊の参戦が不可欠」と指摘した。
■米中両軍が台湾に進攻すれば、当然、在日米軍や自衛隊の基地は中国軍によるミサイル攻撃にさらされ、多大な被害と死傷者が生じる。
米軍では2隻の空母が撃沈され、168〜372機の航空機、7〜20隻の艦船を失うという。日本の自衛隊は122機の航空機、26隻の艦船が中国側の攻撃で失われ、米軍・台湾軍合わせて約3200人・1日140人ほどが戦死すると試算している。
いま必要な外交努力
■日本が攻撃されていなくとも、米国が台湾に侵攻し中国と戦争を始めれば、米国は日本に「集団的自衛権の行使」を求めるから、否が応でも「米国の戦争」に巻き込まれてしまう。挙句に中国からの「報復攻撃」を受け、「自分の国は自分で守る」どころか、「米国の戦争」で自国に多大な犠牲者が出るのは目に見えている。
■いま必要なのは、中国や北朝鮮の脅威をいたずらに煽り、軍備増強・敵基地攻撃能力を声高に叫ぶのでなく、外交努力を尽くして意思疎通を図り、緊張緩和を促進し地域の安定を図るのが「憲法9条」を持つ日本の役割ではないか。
■日中国交回復50年を経過した現在、改めて日本は中国に首脳会談を呼び掛け、東アジアの平和と安定を図るべきだ。また北朝鮮に対しても、2002年9月17日、小泉首相と金正日総書記が会談し、国交正常化交渉の再開で一致した「日朝平壌宣言」に立ち戻り、戦争回避に向け金正恩総書記に会談を申し入れるべきではないか。
これを一笑に付す前に、どれだけ外交努力が重ねられたのか、顧みるべきだ。(2023/1/15)
2023年01月08日
【今週の風考計】1.8─軍備費43兆円を削って子ども・子育て支援に3倍の予算を!
子どもは社会の宝
▼年末年始、孫たちが我が家にやってきて、にぎやかにおせち料理やお雑煮を食べ、楽しい日々を過ごした。育ち盛りの子どもの声や興ずる姿から、日頃の生活では得られないエネルギーを、我が身に注入された思いがする。そして子どもの成長は、日本の社会に活力を与える大切な宝だ。
▼この大切な宝をどう育てるか。政治の役目は限りなく大きい。新年4日、岸田首相は「政教分離」の原則も顧みず、伊勢神宮を参拝した後、年頭記者会見に臨み、「異次元の少子化対策に挑戦する」と宣言した。
2022年の出生数が80万人を割り込む事態に衝撃を受け、@児童手当などの経済的支援の強化、A学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充、B働き方改革の推進―を3本柱に掲げ、6月末までに具体策を取りまとめると強調した。言葉だけはすごいが、中身がないだけに空疎に響く。
あまりにも低い公的支援
▼いま日本は、想定以上の少子化が進む。戦後すぐの1946年、1年間の出生数は270万人だった。しかし69年後の2015年は100万人、その7年後の2022年は77万人。その減少率はとどまるところを知らない。
しかも出生減に加え、死亡者が出生者を上回る自然減で、1年間に64万人の人口が減り続けている。このまま行けば国の存続危機にもつながる。
▼これを踏まえた岸田首相の宣言だが、ツイッター上では「<異次元>とか銘打つが、まず今の次元にいる子どもたちを大切にしてほしい」と、厳しい反応が相次いでいる。
さもありなん。いま日本の子ども・子育て支援に投ずる公的支出はGDP比1.7%、OECD諸国では平均2.24%、首位のフランスは3.6%、日本はフランスの半分にも及ばない。軍備費に43兆円を投ずる前に、子ども・子育て支援に、せめて今の3倍の予算を計上するのが先ではないか。
「こども家庭庁」とは
▼4月1日、「こども家庭庁」が総員430人、予算4兆8104億円でスタートする。その名称に「家庭」の2字が挿入されたのも、統一教会の圧力があったと指摘されている。これからの動向には用注意だ。
▼その庁内には「こども大綱」など政策を立案する部署のほか、保育所や放課後児童クラブの整備などを進める「こども成育局」、障害児やヤングケアラーの政策と虐待対策などを担う「こども支援局」が置かれる。
だが、文科省や厚労省のみならず、経産省・財務省までが介入・口出しを始めたら、<船頭多くして船山に登る>の迷走にならないか、もう危惧されている。
東京都・子どもへ月額5千円
▼そこへ東京都の小池百合子知事は、少子化対策として都内に住む0〜18歳の子ども1人に月5000円を給付する方針を明らかにした。東京都の出生率は2021年1.08、全国の1.30を下回る事態を受けての対策だ。
養育者の所得額は問わず、約193万7000人の子どもに支給する。関連経費も含め総額は1200億円、2023年度当初予算案に計上する。「国の来年度予算案では、ただちに少子化から脱却して反転攻勢に出るぞという勢いになっていない」と小池知事は批判し、都が先駆けて着手すると強調した。
▼東京都が打ち出した新たな子育て支援策は、国の児童手当が適用されない16歳以上や高所得世帯をカバーする内容だけに、全国に類を見ない独自策だ。
また都は、都内の保育料・平均月額3万円に関し、「第3子」以降は無料だが、「第2子」の保育料も無料化に向け検討を始めた。実現できれば、うれしい限りだ。
大阪も見習ったらどうか。万博会場の埋め立て費に788億円、カジノ開設に血道を挙げるより、子ども・子育て支援に力を注ぐのが先だ。(2023/1/8)
▼年末年始、孫たちが我が家にやってきて、にぎやかにおせち料理やお雑煮を食べ、楽しい日々を過ごした。育ち盛りの子どもの声や興ずる姿から、日頃の生活では得られないエネルギーを、我が身に注入された思いがする。そして子どもの成長は、日本の社会に活力を与える大切な宝だ。
▼この大切な宝をどう育てるか。政治の役目は限りなく大きい。新年4日、岸田首相は「政教分離」の原則も顧みず、伊勢神宮を参拝した後、年頭記者会見に臨み、「異次元の少子化対策に挑戦する」と宣言した。
2022年の出生数が80万人を割り込む事態に衝撃を受け、@児童手当などの経済的支援の強化、A学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充、B働き方改革の推進―を3本柱に掲げ、6月末までに具体策を取りまとめると強調した。言葉だけはすごいが、中身がないだけに空疎に響く。
あまりにも低い公的支援
▼いま日本は、想定以上の少子化が進む。戦後すぐの1946年、1年間の出生数は270万人だった。しかし69年後の2015年は100万人、その7年後の2022年は77万人。その減少率はとどまるところを知らない。
しかも出生減に加え、死亡者が出生者を上回る自然減で、1年間に64万人の人口が減り続けている。このまま行けば国の存続危機にもつながる。
▼これを踏まえた岸田首相の宣言だが、ツイッター上では「<異次元>とか銘打つが、まず今の次元にいる子どもたちを大切にしてほしい」と、厳しい反応が相次いでいる。
さもありなん。いま日本の子ども・子育て支援に投ずる公的支出はGDP比1.7%、OECD諸国では平均2.24%、首位のフランスは3.6%、日本はフランスの半分にも及ばない。軍備費に43兆円を投ずる前に、子ども・子育て支援に、せめて今の3倍の予算を計上するのが先ではないか。
「こども家庭庁」とは
▼4月1日、「こども家庭庁」が総員430人、予算4兆8104億円でスタートする。その名称に「家庭」の2字が挿入されたのも、統一教会の圧力があったと指摘されている。これからの動向には用注意だ。
▼その庁内には「こども大綱」など政策を立案する部署のほか、保育所や放課後児童クラブの整備などを進める「こども成育局」、障害児やヤングケアラーの政策と虐待対策などを担う「こども支援局」が置かれる。
だが、文科省や厚労省のみならず、経産省・財務省までが介入・口出しを始めたら、<船頭多くして船山に登る>の迷走にならないか、もう危惧されている。
東京都・子どもへ月額5千円
▼そこへ東京都の小池百合子知事は、少子化対策として都内に住む0〜18歳の子ども1人に月5000円を給付する方針を明らかにした。東京都の出生率は2021年1.08、全国の1.30を下回る事態を受けての対策だ。
養育者の所得額は問わず、約193万7000人の子どもに支給する。関連経費も含め総額は1200億円、2023年度当初予算案に計上する。「国の来年度予算案では、ただちに少子化から脱却して反転攻勢に出るぞという勢いになっていない」と小池知事は批判し、都が先駆けて着手すると強調した。
▼東京都が打ち出した新たな子育て支援策は、国の児童手当が適用されない16歳以上や高所得世帯をカバーする内容だけに、全国に類を見ない独自策だ。
また都は、都内の保育料・平均月額3万円に関し、「第3子」以降は無料だが、「第2子」の保育料も無料化に向け検討を始めた。実現できれば、うれしい限りだ。
大阪も見習ったらどうか。万博会場の埋め立て費に788億円、カジノ開設に血道を挙げるより、子ども・子育て支援に力を注ぐのが先だ。(2023/1/8)
2023年01月01日
【今週の風考計】1.1─戦争の前夜に吹き荒れる「学問・研究・表現の自由」への介入
風前の灯・憲法9条
◆あけましておめでとうございます。いま岸田政権は、日本を「戦争ができる国」へ転換させようと躍起になっている。あの戦争への深い反省から誕生した「憲法9条」、<武力による威嚇又は武力の行使は、…永久にこれを放棄する。陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない>が、風前の灯だ。
◆この危機にあたって、改めて過去の歴史から教訓を学びとりたい。
今から丁度90年前、1933年1月10日、検察は東京商科大学教授の大塚金之助、12日には京都帝国大学教授の河上肇を次々と検挙した。共に治安維持法違反の罪で豊多摩刑務所に収監。その後、懲役2年・執行猶予3年の刑が確定し免職の上、公職につくことまで禁じ、敗戦まで無職で過ごした。
◆続いて2月には、国際連盟が日本に対し中国への侵略および満州国傀儡政権の樹立を非難し、満州からの撤退勧告を可決。だが日本は翌月の3月27日、<聞く耳(1933)持たずに国連脱退>へと突っ走った。
「ヘイタイ ススメ…」
◆この年、4月に採用された国定教科書『小學国語讀本』、通称サクラ読本1年生用の4頁には「ススメ ススメ ヘイタイ ススメ」と大きく書かれ、鉄砲をかつぎ背嚢を背負った兵隊4人が行進している絵が添えられていた。
4月22日、文部省は京都帝国大学教授で刑法学者の滝川幸辰に休職を勧奨。自著『刑法読本』や講演の内容が危険思想との理由で問題にされ、5月26日には一方的に休職発令。これに対し京大法学部の全教官が、大学の自治への侵害と抗議し辞表を提出。文部省はそのうち8教授を免職。『刑法読本』を発禁にした。いわゆる「滝川事件」(京大事件)である。
◆11月28日には、『日本資本主義発達史』の著者で日本共産党の幹部・野呂栄太郎がスパイの手引きで検挙、拷問により翌年2月19日に獄死(享年33)。
やがて日本は、アジア・太平洋戦争へと泥沼の道へ突入する。戦争への序曲には、必ず「学問」への統制・弾圧を伴っていたことが、これらの事実からも明らかだ。なぜ日本国憲法に、明治憲法にない「学問の自由」が定められたのか、大事にしたい。
学問への介入、戦争へ
◆さて日本学術会議の会員名簿から6人の学者を、当時の首相が任命拒否した。いまだに理由は明かされていない。まず拒否理由の開示こそ最優先すべきなのに、なんと政府は重ねて会員選考に介入し、政府を批判する学者の排除へと策動を強めている。3月末までに日本学術会議法の改正法案を国会に提出する方針だ。
こうした動きに対し、学者や作家ら文化人127人でつくる「学問と表現の自由を守る会」は、「学術会議の独立性と学問の自由を侵害するもの」だとして反対し、撤回を求める声明を発表した。
◆声明では「会員選考と活動の独立性は世界のアカデミーの常識。学術会議を政府の御用機関に改変することは、国民の幸福と人類社会の福祉、日本の国益に反する」と指摘。法改正について「学術会議の会員選考と活動に政府が直接介入する」ものだと批判し「軍事優先の学術総動員体制への道を開く」と警告している。
産学共同での軍事開発
◆とりわけ政府は科学技術者による軍事研究の促進を目指し、日本学術会議が保持してきた「軍事研究の禁止」「軍民分離」原則を取り除きたい意図が透けて見える。
防衛費倍増に関する政府有識者会議の提言も、政府に追随する格好の内容となった。大学内外に軍事研究のための「日本版DARPA」の創設が提案され、軍民両面で利用可能な「デュアルユース」技術の開発が促されている。
◆「DARPA」とは、米国防総省の「国防高等研究計画局」を指す。1957年に創設され、精密誘導兵器などの軍事技術と共に、インターネットや衛星利用測位システム(GPS)の実用化にも貢献し、米国の軍需産業の発展につながった。
日本もあやかろうと、「産学共同での軍事開発」に拍車がかかるのは間違いない。先の戦争に対する反省から生まれた、専守防衛・軍民分離などの大事な原則が、葬り捨てられようとしている。絶対に許すわけにはいかない。(2023/1/1)
◆あけましておめでとうございます。いま岸田政権は、日本を「戦争ができる国」へ転換させようと躍起になっている。あの戦争への深い反省から誕生した「憲法9条」、<武力による威嚇又は武力の行使は、…永久にこれを放棄する。陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない>が、風前の灯だ。
◆この危機にあたって、改めて過去の歴史から教訓を学びとりたい。
今から丁度90年前、1933年1月10日、検察は東京商科大学教授の大塚金之助、12日には京都帝国大学教授の河上肇を次々と検挙した。共に治安維持法違反の罪で豊多摩刑務所に収監。その後、懲役2年・執行猶予3年の刑が確定し免職の上、公職につくことまで禁じ、敗戦まで無職で過ごした。
◆続いて2月には、国際連盟が日本に対し中国への侵略および満州国傀儡政権の樹立を非難し、満州からの撤退勧告を可決。だが日本は翌月の3月27日、<聞く耳(1933)持たずに国連脱退>へと突っ走った。
「ヘイタイ ススメ…」
◆この年、4月に採用された国定教科書『小學国語讀本』、通称サクラ読本1年生用の4頁には「ススメ ススメ ヘイタイ ススメ」と大きく書かれ、鉄砲をかつぎ背嚢を背負った兵隊4人が行進している絵が添えられていた。
4月22日、文部省は京都帝国大学教授で刑法学者の滝川幸辰に休職を勧奨。自著『刑法読本』や講演の内容が危険思想との理由で問題にされ、5月26日には一方的に休職発令。これに対し京大法学部の全教官が、大学の自治への侵害と抗議し辞表を提出。文部省はそのうち8教授を免職。『刑法読本』を発禁にした。いわゆる「滝川事件」(京大事件)である。
◆11月28日には、『日本資本主義発達史』の著者で日本共産党の幹部・野呂栄太郎がスパイの手引きで検挙、拷問により翌年2月19日に獄死(享年33)。
やがて日本は、アジア・太平洋戦争へと泥沼の道へ突入する。戦争への序曲には、必ず「学問」への統制・弾圧を伴っていたことが、これらの事実からも明らかだ。なぜ日本国憲法に、明治憲法にない「学問の自由」が定められたのか、大事にしたい。
学問への介入、戦争へ
◆さて日本学術会議の会員名簿から6人の学者を、当時の首相が任命拒否した。いまだに理由は明かされていない。まず拒否理由の開示こそ最優先すべきなのに、なんと政府は重ねて会員選考に介入し、政府を批判する学者の排除へと策動を強めている。3月末までに日本学術会議法の改正法案を国会に提出する方針だ。
こうした動きに対し、学者や作家ら文化人127人でつくる「学問と表現の自由を守る会」は、「学術会議の独立性と学問の自由を侵害するもの」だとして反対し、撤回を求める声明を発表した。
◆声明では「会員選考と活動の独立性は世界のアカデミーの常識。学術会議を政府の御用機関に改変することは、国民の幸福と人類社会の福祉、日本の国益に反する」と指摘。法改正について「学術会議の会員選考と活動に政府が直接介入する」ものだと批判し「軍事優先の学術総動員体制への道を開く」と警告している。
産学共同での軍事開発
◆とりわけ政府は科学技術者による軍事研究の促進を目指し、日本学術会議が保持してきた「軍事研究の禁止」「軍民分離」原則を取り除きたい意図が透けて見える。
防衛費倍増に関する政府有識者会議の提言も、政府に追随する格好の内容となった。大学内外に軍事研究のための「日本版DARPA」の創設が提案され、軍民両面で利用可能な「デュアルユース」技術の開発が促されている。
◆「DARPA」とは、米国防総省の「国防高等研究計画局」を指す。1957年に創設され、精密誘導兵器などの軍事技術と共に、インターネットや衛星利用測位システム(GPS)の実用化にも貢献し、米国の軍需産業の発展につながった。
日本もあやかろうと、「産学共同での軍事開発」に拍車がかかるのは間違いない。先の戦争に対する反省から生まれた、専守防衛・軍民分離などの大事な原則が、葬り捨てられようとしている。絶対に許すわけにはいかない。(2023/1/1)
2022年12月25日
【今週の風考計】12.25─年納めに推奨のミステリ1冊と心癒されるCD1枚
キナ臭さが募る世界と日本
■2月24日、突然ロシアはウクライナに侵攻し、「ウクライナ戦争」が勃発した。以降、ウクライナ市民の犠牲は増え続けている。しかもここにきてロシアは、ヨーロッパ北部を襲う寒波「冬将軍」を利用し、ウクライナの電源施設を爆撃し市民を酷寒の生活に陥れる、許しがたい作戦に血道を挙げている。この10カ月、ロシアの非道な侵攻に、世界中の人々が非難の声を挙げ救援に力を注いでいる。
■日本では、この12月16日、「憲法9条」を骨抜きにする「安保3文書」を閣議決定し、5年間で42兆円、2027年以降は「GDP比2%」の防衛費を計上する。容認した「敵基地攻撃能力の保持」は、「先制攻撃」につながりかねない。
さっそく沖縄・石垣島の市議会が、「敵基地攻撃の最前線になりかねず、ミサイル配備に反対する意見書」を採択した。中国や北朝鮮の脅威を必要以上に煽り、アジア周辺諸国の緊張や不安を加速させている。
■今年2022年を象徴する漢字は「戦」とされたが、まさに「戦争」のキナ臭さが一段と強くなった。いま日本は岐路に立つ。
改めて私たちのプロテストや抗う気概が問われていることを自覚しつつ、年納めに推奨のミステリ1冊と心が癒されるCD1枚を紹介したい。
感動する『真珠湾の冬』
■まず1冊はジェイムズ・ケストレル/山中朝晶訳『真珠湾の冬』(ハヤカワ・ミステリ)である。
1941年、ハワイで白人男性と日本人女性の惨殺事件が起きた。地元ホノルル署の刑事マグレディが犯人を追う。その追跡先の香港で、12月8日、日本軍がハワイ・オアフ島の真珠湾を先制攻撃、太平洋戦争に突入したのを知る。
だが彼は香港で日本兵に捕らえられ東京へ移送されてしまう。そこで運命の人物と出会い、ともに東京大空襲の焼け野原と死が渦巻くなかをさまよう。日本の敗戦を機に帰国するが、あらぬ罪で免職となり、独り再追跡の旅を始め、香港や上海で思わぬ真相をつかむ。
そして<5回目の12月>、たどり着いた日本の野沢温泉、そこに待ち受けたロマンスあふれるラストシーンが胸にしみる。
■しかも、このミステリは「人間の運命」を描く大河ドラマであり、また「戦争と平和」を問う歴史小説でもある。反ファシズムに基づく国際的なエスピオナージの色合いもある、稀有なミステリだ。読み始めたらページをめくる手が忙しくなること間違いない。エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)最優秀長篇賞受賞の大作。この年末年始に「おすすめの1冊」。
528ヘルツの「INORI」
■もう1枚はCD、エイコン・ヒビノ「INORI」(TECL-1002)である。この16日にコンサートも開かれた。作曲家でピアニストのエイコン・ヒビノが528ヘルツに調律したピアノと琵琶や三線・二胡などの楽器と共に奏でる11曲が収録されている。同周波数の音楽は癒やしの効果がある。
同アルバムのタイトル曲「INORI」は、音楽の力で幸せな社会になるよう祈る気持ちを込め、奈良・天河大辨財天社に奉納されている。また最終曲「古への架け橋」も二胡の響きを添えオーケストラ編成にアレンジした曲で、奈良・薬師寺に奉納されている。
■この2曲に加え、筆者には奇数に当たる収録曲がいい。琵琶が奏でる調べを取り入れた「あわうみのうた」、丹波の奥にあるミツマタの里を思い浮かべた「みつまたの詩」、ジョン・レノンが感銘を受けたネパールの音による「FIESTA」などだ。
いま部屋に響いているが、どこかで聴いたような淡いメロディのイントロに始まり、琵琶や三線・二胡などの楽器がシンクロして主題を盛りあげる。もうエイコン・ヒビノの作りあげる音空間に、知らぬ間に引き込まれている。ここに文章を綴るキーの運びも滑らかになる。癒しの曲、ありがとう。そして皆さん、良いお年をお迎えください。(2022/12/25)
■2月24日、突然ロシアはウクライナに侵攻し、「ウクライナ戦争」が勃発した。以降、ウクライナ市民の犠牲は増え続けている。しかもここにきてロシアは、ヨーロッパ北部を襲う寒波「冬将軍」を利用し、ウクライナの電源施設を爆撃し市民を酷寒の生活に陥れる、許しがたい作戦に血道を挙げている。この10カ月、ロシアの非道な侵攻に、世界中の人々が非難の声を挙げ救援に力を注いでいる。
■日本では、この12月16日、「憲法9条」を骨抜きにする「安保3文書」を閣議決定し、5年間で42兆円、2027年以降は「GDP比2%」の防衛費を計上する。容認した「敵基地攻撃能力の保持」は、「先制攻撃」につながりかねない。
さっそく沖縄・石垣島の市議会が、「敵基地攻撃の最前線になりかねず、ミサイル配備に反対する意見書」を採択した。中国や北朝鮮の脅威を必要以上に煽り、アジア周辺諸国の緊張や不安を加速させている。
■今年2022年を象徴する漢字は「戦」とされたが、まさに「戦争」のキナ臭さが一段と強くなった。いま日本は岐路に立つ。
改めて私たちのプロテストや抗う気概が問われていることを自覚しつつ、年納めに推奨のミステリ1冊と心が癒されるCD1枚を紹介したい。
感動する『真珠湾の冬』
■まず1冊はジェイムズ・ケストレル/山中朝晶訳『真珠湾の冬』(ハヤカワ・ミステリ)である。
1941年、ハワイで白人男性と日本人女性の惨殺事件が起きた。地元ホノルル署の刑事マグレディが犯人を追う。その追跡先の香港で、12月8日、日本軍がハワイ・オアフ島の真珠湾を先制攻撃、太平洋戦争に突入したのを知る。
だが彼は香港で日本兵に捕らえられ東京へ移送されてしまう。そこで運命の人物と出会い、ともに東京大空襲の焼け野原と死が渦巻くなかをさまよう。日本の敗戦を機に帰国するが、あらぬ罪で免職となり、独り再追跡の旅を始め、香港や上海で思わぬ真相をつかむ。
そして<5回目の12月>、たどり着いた日本の野沢温泉、そこに待ち受けたロマンスあふれるラストシーンが胸にしみる。
■しかも、このミステリは「人間の運命」を描く大河ドラマであり、また「戦争と平和」を問う歴史小説でもある。反ファシズムに基づく国際的なエスピオナージの色合いもある、稀有なミステリだ。読み始めたらページをめくる手が忙しくなること間違いない。エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)最優秀長篇賞受賞の大作。この年末年始に「おすすめの1冊」。
528ヘルツの「INORI」
■もう1枚はCD、エイコン・ヒビノ「INORI」(TECL-1002)である。この16日にコンサートも開かれた。作曲家でピアニストのエイコン・ヒビノが528ヘルツに調律したピアノと琵琶や三線・二胡などの楽器と共に奏でる11曲が収録されている。同周波数の音楽は癒やしの効果がある。
同アルバムのタイトル曲「INORI」は、音楽の力で幸せな社会になるよう祈る気持ちを込め、奈良・天河大辨財天社に奉納されている。また最終曲「古への架け橋」も二胡の響きを添えオーケストラ編成にアレンジした曲で、奈良・薬師寺に奉納されている。
■この2曲に加え、筆者には奇数に当たる収録曲がいい。琵琶が奏でる調べを取り入れた「あわうみのうた」、丹波の奥にあるミツマタの里を思い浮かべた「みつまたの詩」、ジョン・レノンが感銘を受けたネパールの音による「FIESTA」などだ。
いま部屋に響いているが、どこかで聴いたような淡いメロディのイントロに始まり、琵琶や三線・二胡などの楽器がシンクロして主題を盛りあげる。もうエイコン・ヒビノの作りあげる音空間に、知らぬ間に引き込まれている。ここに文章を綴るキーの運びも滑らかになる。癒しの曲、ありがとう。そして皆さん、良いお年をお迎えください。(2022/12/25)
2022年12月18日
【今週の風考計】12.18─「戦争国家づくり」に43兆円 大転換は追求せず財源論に奔る愚
噴飯ものの財源論
■国会が閉会するや否や、この1週間、自民党のセンセイ方は防衛費43兆円の財源を巡って、スッタモンダの激論に明け暮れた。国民そっちのけで「新規国債の発行」とか「防衛費1%税の導入」とか、あげくに「復興特別税の転用」とかのたまう。もう「いい加減にしたらどうか」と言いたい。
■岸田首相は「責任ある財源を考えるべきであり、今を生きる国民が自らの責任として、しっかりその重みを背負って対応すべきだ」といった。だが国民は誰一人として、防衛費5年間で43兆円および2027年以降の防衛費「GDP比2%」を認めるプロセスに参加していない。なのに責任を背負されたら、たまったものではない。
「復興税」の転用─その酷さ
■とりわけ「復興特別税」を転用して防衛費に充てる案は噴飯ものだ。東日本大震災後の2013年に創設され、2037年までの25年間、所得税に2.1%分上乗せして年4千億円を徴収し復興予算に充てる。ところが、その半分の1.1%分・年2千億円を防衛費に回すというのだ。しかも時限措置を10年以上も延長する計画だ。
復興税の目的は国民全体で被災地を支えるためである。枠組みを突然変え、命と生活を守り復興に使う税を、命と生活を奪う戦争に使う防衛費に回すのは筋違いも甚だしい。
■さらに防衛費増額の財源に国債の発行を、旧安倍派の議員が声高に主張している。なかでも建設国債の使途を変え、初めて自衛隊施設の整備費に新規発行するという。このような安易な国債発行が進めば、戦前のように軍備膨張の歯止めは効かなくなる。国債で防衛費を賄うことが「禁じ手」とされるのは、この反省に立つからに他ならない。
抑止力≠ナ戦争は防げない
■戦後の「軽武装・経済重視」の道筋を築き、ハト派色が強く保守リベラルの「宏池会」、そこの会長を務める岸田首相の豹変ぶりは、タカ派の安倍派を凌駕し、もう暴走としか言いようがない。
先頭切って軍拡路線を強行し、ついに「敵基地攻撃能力」の保有を明記する安保3文書を閣議決定した。国会の徹底した審議もないまま専守防衛を放棄し、「憲法9条」が滅びる危機に陥れた。
■この危機に際し、憲法学者らによる「平和構想提言会議」が、「戦争ではなく平和の準備を─抑止力≠ナ戦争は防げない」と題する提言を公表した。その主な内容は、防衛力強化がイタズラに周辺国との軍拡競争を招き、戦争のリスクを高めると警鐘を鳴らし、今こそ「憲法9条」が定める平和主義の原則に立ち返るべきだと強調している。
今後、取り組むべき具体策として、朝鮮半島の非核化に向けた外交の再開や中国を「脅威」と決めつけず、アジア諸国との対話の強化を提唱。専守防衛の堅持に基づき米国製巡航ミサイル「トマホーク」など敵基地攻撃能力の保有につながる兵器の購入や開発の中止を求めた。
メディアの政府広報化
■ところがメディアの報道は、「憲法9条」との関係で「敵基地攻撃能力の保持」そのものの是非を問わず、防衛費の財源論に終始する。軍拡はすでに決定事項だと言わんばかりだ。完全に政府広報と化している。岸田首相の記者会見でも、参加できるのは「1社1人」というルールのうえ、再質問は許されない。対等な質疑応答などできるはずがない。
■共同通信がスクープした「防衛省は国内の世論工作に向け、人工知能(AI)と交流サイト(SNS)を使い、インフルエンサーを経由して情報操作するプランを入札企業に発注していた」という報道を基に、メディアは共同して防衛省を追及すればよいのに、それすらしない。これでは「ペンは剣よりも強し」が泣くのは自明だ。(2022/12/18)
■国会が閉会するや否や、この1週間、自民党のセンセイ方は防衛費43兆円の財源を巡って、スッタモンダの激論に明け暮れた。国民そっちのけで「新規国債の発行」とか「防衛費1%税の導入」とか、あげくに「復興特別税の転用」とかのたまう。もう「いい加減にしたらどうか」と言いたい。
■岸田首相は「責任ある財源を考えるべきであり、今を生きる国民が自らの責任として、しっかりその重みを背負って対応すべきだ」といった。だが国民は誰一人として、防衛費5年間で43兆円および2027年以降の防衛費「GDP比2%」を認めるプロセスに参加していない。なのに責任を背負されたら、たまったものではない。
「復興税」の転用─その酷さ
■とりわけ「復興特別税」を転用して防衛費に充てる案は噴飯ものだ。東日本大震災後の2013年に創設され、2037年までの25年間、所得税に2.1%分上乗せして年4千億円を徴収し復興予算に充てる。ところが、その半分の1.1%分・年2千億円を防衛費に回すというのだ。しかも時限措置を10年以上も延長する計画だ。
復興税の目的は国民全体で被災地を支えるためである。枠組みを突然変え、命と生活を守り復興に使う税を、命と生活を奪う戦争に使う防衛費に回すのは筋違いも甚だしい。
■さらに防衛費増額の財源に国債の発行を、旧安倍派の議員が声高に主張している。なかでも建設国債の使途を変え、初めて自衛隊施設の整備費に新規発行するという。このような安易な国債発行が進めば、戦前のように軍備膨張の歯止めは効かなくなる。国債で防衛費を賄うことが「禁じ手」とされるのは、この反省に立つからに他ならない。
抑止力≠ナ戦争は防げない
■戦後の「軽武装・経済重視」の道筋を築き、ハト派色が強く保守リベラルの「宏池会」、そこの会長を務める岸田首相の豹変ぶりは、タカ派の安倍派を凌駕し、もう暴走としか言いようがない。
先頭切って軍拡路線を強行し、ついに「敵基地攻撃能力」の保有を明記する安保3文書を閣議決定した。国会の徹底した審議もないまま専守防衛を放棄し、「憲法9条」が滅びる危機に陥れた。
■この危機に際し、憲法学者らによる「平和構想提言会議」が、「戦争ではなく平和の準備を─抑止力≠ナ戦争は防げない」と題する提言を公表した。その主な内容は、防衛力強化がイタズラに周辺国との軍拡競争を招き、戦争のリスクを高めると警鐘を鳴らし、今こそ「憲法9条」が定める平和主義の原則に立ち返るべきだと強調している。
今後、取り組むべき具体策として、朝鮮半島の非核化に向けた外交の再開や中国を「脅威」と決めつけず、アジア諸国との対話の強化を提唱。専守防衛の堅持に基づき米国製巡航ミサイル「トマホーク」など敵基地攻撃能力の保有につながる兵器の購入や開発の中止を求めた。
メディアの政府広報化
■ところがメディアの報道は、「憲法9条」との関係で「敵基地攻撃能力の保持」そのものの是非を問わず、防衛費の財源論に終始する。軍拡はすでに決定事項だと言わんばかりだ。完全に政府広報と化している。岸田首相の記者会見でも、参加できるのは「1社1人」というルールのうえ、再質問は許されない。対等な質疑応答などできるはずがない。
■共同通信がスクープした「防衛省は国内の世論工作に向け、人工知能(AI)と交流サイト(SNS)を使い、インフルエンサーを経由して情報操作するプランを入札企業に発注していた」という報道を基に、メディアは共同して防衛省を追及すればよいのに、それすらしない。これでは「ペンは剣よりも強し」が泣くのは自明だ。(2022/12/18)