2022年01月03日

【リレー時評】沖縄返還50年と「やまとんちゅ」の責務=守屋龍一(JCJ代表委員)


 軍部が暴走し、無謀な日米開戦「12・8」に突入して80年。反省どころか、いま日本の軍事費は6兆円を超え、GDP比1.09%に達した。
 日本列島を、米軍オスプレイが我が物顔に飛び回り、米軍F16戦闘機は飛行中に重さ210s・全長4.5mの燃料タンク2個を、住宅地近くに投げ捨てる。
 いまも過去最大の日米共同軍事演習「ヤマサクラ81」が自衛隊の伊丹駐屯地で行われている。6月には対中国を想定し日米共同の「オリエント・ シールド21」が矢臼別演習場、伊丹駐屯地、奄美駐屯地など、7カ所で実施された。

 政府は「沖縄の負担軽減」を、とってつけたように持ち出して、北海道から奄美・沖縄まで、各地の自衛隊駐屯地との連携を図り、年間49回の日米共同訓練を通して「日米軍事基地化」、すなわち「本土の沖縄化」へと、 地均ししているのだ。
 今年5月15日には、沖縄の本土復帰から50年を迎える。沖縄の人々はどんな思いに駆られるだろうか。復帰に込めた願いは、日本国憲法の下での基本的人権の保障と「基地のない平和な島」の実現だった。
 だが「米軍基地の全面撤退」は拒否され、「核持ち込み密約」さえ明らかとなった。「本土」にある米軍の基地施設面積の7割を沖縄へ押しつけ、さらに辺野古の米軍新基地建設を強行する。「 美(ちゅ)ら海」の埋め立てに、沖縄戦犠牲者の遺骨が混じる土砂まで投入する。
 歴代政府は、沖縄に犠牲を強いるだけでなく、人道上から見ても許されない「加害」を重ね、責任を取らないできた。

 辺野古や高江で会った「うちなんちゅ」の顔が思い出される。琉球処分や沖縄戦での悲劇、「アメリカ世(ゆ)」での「島ぐるみ闘争」、これらの経験を通して共有する「うちなんちゅ」の怒りと矜持、 私は分かっていたのか、恥ずかしい限りだ。
 「本土」からの目線で沖縄をとらえ、そこに生活している人々の苦悩や誇り、さらには歴史を踏まえた理解が浅かったのではないか。
 あらためて沖縄の基地をめぐる様々な論争を耳にするとき、その論の是非よりも、今こそ「うちなんちゅ」の気持ちは、「沖縄へ返せ」なのだ。 あの「基地のない平和な御嶽(うたき)に霊がすむ琉球の島へ返せ」なのだ。そう思わざるを得ない。

 私は月桃やデイゴの花が咲く沖縄の町を歩き、ガマを訪れ祈るとき、また「平和の礎(いしじ)」に触れるとき、「うちなんちゅ」の「命(ぬち)どぅ宝」への思いと合わせ、本土の政権が重ねてきた「加害」の重大さに気づく。そしてその責任を取らない政権を代える闘いを、「本土」でねばり強く広げることこそ、求められているのだ。
 「本土」に生きる私はもう一度、日米両政府が担うべき「加害責任」を厳しく問い糺し、泡盛とイカ墨汁で意気投合した人々と一緒に、日本から基地を撤去する闘いに、力を注ぎたい。
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2021年12月07日

【リレー時評】連合は本当に政権交代を望まないのか=白垣詔男(JCJ代表委員)

 連合(日本労働組合総連合会)は初めての女性会長、芳野友子さん(55)の下で初の国政選挙を終えた。しかし、報道によれば、芳野さんは、日本共産党が入った選挙協力に釘を刺したという。
連合はこれまでも「共産党排除」の姿勢が強かった。今回の衆議院選挙でも事前に「4野党共闘」が確認した目標の1つ「連合政府」を認めないことを、野党共闘の要だった立憲民主党の枝野幸男前代表に意向を表明したと伝えられている。
 連合が真の労働組合と自認しているならば、同じ働く者の側に立つ他の立憲野党とともに、今回の総選挙で少なくとも「自公過半数割れ」「政権交代」を目指すのは当然ではなかったか。
 しかし、芳野会長や連合幹部の大半は、「まず自公の過半数割れ」を目標に掲げながら実態は「共産党との共闘」は全面的に否定したようだ。防衛装備品製造会社の労組が力を持つ連合の力が選挙の結果を左右する国民民主党は4党共闘には入らなかったうえに、選挙後、国会で野党の国対委員長会議にも参加しないという。維新の会と改憲論議を始めるともいう。
 それにしても総選挙ではまず、自公の議席を過半数割れにして、その後の野党連立、野党連合協議に向けて、連合の意見を述べるのが本道で、選挙前から「共産党排除」を打ち出したのは、連合が「自公過半数割れ」を本当は望んでいないのではないかと疑ってしまう。つまり、表面的には「自公過半数割れ」を掲げながら、実は「戦争ができる国」志向の自民党の補強組織ではないかとも勘ぐってしまいたくなる。
 私が住んでいる福岡県では、選挙前、「市民連合ふくおか」が主導して「自公連立政権を打倒して野党連合の政権を」「棄権しないで投票に行こう」などの旗印を掲げ、街頭行動を盛んに展開した。その中で、驚くことに、立憲民主党の候補者に対して、連合が「できれば共闘をしないように」「一緒に街頭演説をする際、共産党の旗が立ててある場所に立憲民主党の旗を立てるな」と強く指示していたという。
 「市民連合ふくおか」の活動報告をユーチューブで見ると、なるほど政党の旗は「日本共産党」「社民党」「れいわ新選組」「緑の党」のものは見えるが「立憲民主党」の旗は見当たらなかった。地方組織に対しても連合の「反共産党」の姿勢は徹底している。
  連合に初めて女性会長が誕生したことは歓迎したい。これまでの男性主導の労組活動に新風を吹き込むことが期待されている。女性労働者に非正規が多いことや「コロナ禍」で職を失う女性が増えたことなどで、これからも女性会長に寄せられる声は高まるだろう。
 しかし、連合が労働組合というのならば、せめて「要求で一致する運動には共闘を」と強く言いたいが、芳野会長は、その点をどう考えているのか、「連合は不可解な労働組合」と言ってもいい。
  白垣詔男
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号
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2021年11月04日

【リレー時評】俵義文さんのJCJ賞特別賞受賞に思う=清水正文(JCJ代表委員)

2021年のJCJ賞特別賞に俵義文さんの「日本の教科書と教育を守り続けた活動」が選ばれた。俵さんとごいっしょに出版労連や「子どもと教科書ネット21」の運動にかかわってきた一人としてたいへん感慨深い。
 残念ながら今年6月7日に亡くなられたが、活動の集大成ともいえる『戦後教科書運動史』が昨年末に出版され、病の床でできた本をじっと眺めておられたと聞き、ほんとうによかったと思った。

 俵さんへの惜別の記事が、しんぶん赤旗の「潮流」や朝日新聞にも掲載されたが、活動の評価が、国内だけでなく韓国や中国との交流にも力を注ぎ、近現代史の三国共通教材「未来をひらく歴史」をつくるまでに発展した教科書問題への取り組みなどが際立っていたからだと思う。
 思えば1980年代から40年近くのお付き合いになる。出版労連の中央執行委員・書記次長に就任された俵さんは一貫して教科書問題を担当し、家永教科書裁判支援にも役員としてかかわってこられた。私も副委員長として何年かごいっしょに出版労連の運動に携わり、彼の教科書問題へのライフワークともいえる取り組みに敬服させられた。

 俵さんは2000年3月に勤めていた教科書会社を早期退職し、「子どもと教科書全国ネット21」の専従の事務局長となり教科書問題の専門家として歩むことになった。それ以来彼とは「教科書ネット」の運動を通じて活動してきたが、私は「子どもと教科書大阪ネット21」の代表委員として事務局長の平井美津子さんらとともに、今も教科書問題にかかわっている。
 平井さんは長年中学校教員として歴史の授業を通じて「慰安婦」問題を子どもたちに教えてきた。その授業に対して、大阪府議会では自民党や大阪維新の会の議員が平井さんへの個人攻撃を行ったが、「教育への政治介入に屈するべきではない」と毅然として対応した人である。

 その「慰安婦」問題について、政府は今年4月に日本維新の会の質問主意書に対して、「従軍慰安婦」や「強制連行」という用語を不適切だとする答弁書を閣議決定し、教科書会社に記述の削除や訂正を求めた。
 この政府の求めに応じて教科書会社5社が訂正申請をし、文科省が9月8日に承認したが、その理由に2014年に改訂された教科書の検定基準を挙げ、閣議決定に沿った記述を教科書会社に求めたのである。
 この問題について、俵さんのあとを継いだ「子どもと教科書全国ネット21」の鈴木敏夫事務局長は、「歴史用語を権力が定め、それ以外を禁じるのは学問の自由に反する」「教育基本法も禁じる教育への政治介入で違法だ」と指摘し、「ネット21」の常任運営委員会として9月10日に政府に抗議した。
 今後も右派からの教科書攻撃が続くと思われるが、憲法の保障する学問の自由、言論・表現・出版の自由を守るために、私も微力を尽くそうと決意を新たにしている
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年10月25日号
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2021年10月04日

【リレー時評】「国民的」が呪文と化す危険 自覚は=藤森 研(JCJ代表委員)

 国民的歌手、国民的美少女――。私たちはよく口にする。だが「国民的」は、危ない言葉だ。
 今夏の東京五輪・パラリンピックはコロナ禍で低調だったが、五輪は元々、国威発揚や国民的高揚と表裏一体だ。べルリン五輪はよく知られているが、幻となった1940年東京五輪も「紀元2600年」を盛り上げる大会だった。今も金メダルごとに国旗掲揚・国歌演奏が行われる。
 菅義偉首相が東京五輪を強行したのは、「国民的な盛り上がり」を背に解散、総裁選に臨みたかったからだろうと9月4日の朝日社説は書いた。その通りだと思う。
 今回かなり減じたとはいえ、五輪には、どこか正面から反対しにくい「祝祭」のオーラがある。東京五輪の中止を主張した新聞もあったが、多くの社は条件を付けて言い切りを避けた。「国民的祝祭」に水をかけることを躊躇う意識も潜んでいたのではないかと、読み比べて思う。
今年は、15年戦争の始まりの満州事変から90年にあたる。

 発端は関東軍の満鉄爆破だったが、当時の新聞は軍部の発表通りに中国側の仕業だと書いた。大阪朝日の編集局長は「軍部の数ヶ年来の計画遂行に入ったものと直覚」と日誌に記したが、結局、軍部発表に追随した。
 軍事行動に反対していた朝日がなぜ満州事変で社論を転換したのか。以前、朝日の連載「新聞と戦争」の取材班で社内資料を渉猟した。仲間とも議論し、私なりに、長期、中期、短期の要因の複合だったと整理した。
 明治から続く長期的な要因は、絶対天皇制の重し、明治憲法下で限定された言論の自由、新聞社の私企業制である。

 中期的要因は、朝日も主唱した大正デモクラシーが「内に立憲主義、外へ帝国主義」という自己矛盾のもろさを内包していたこと。また、大正末に大阪朝日が百万部を超え、世論を慮る「国民的新聞」になっていたことだ。
 短期的要因は右翼の圧力、不買運動、朝日記者攻撃、反戦主義の無産政党の転向や沈黙などだ。その背景に、中国の反日運動に憤懣を募らせていた圧倒的多数の日本人が、軍事行動を熱狂的に支持した事実があった。
 要するに、新聞は自らが火をつけた国民的熱狂に煽られ、孤立を恐れて大勢に追随した。

 戦後、天皇は象徴に変わり、言論の自由は基本権となった。しかし、メディアが国民的孤立を恐れる体質は、どれほど変わっただろうか。
 例えば竹島、尖閣などの領土問題だ。ほぼ全てのメディアが日本国政府の主張をおうむ返しにしている。背後に、圧倒的な民意がある。「非国民」という言葉は今も生き残っている。先の戦争で、国民は単なる被害者ではなかった。
 「国民的」という呪文に、ジャーナリズムはよほど心しなければならないと思う。
藤森研
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年9月25日号
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2021年09月06日

【リレー時評】 沖縄との対話を拒否し暴走する公権力=與那原良彦(JCJ沖縄)

與那原良彦・写真.jpg 沖縄県内の基地問題では、常識を逸脱した公権力の暴走が後を絶たない。県北部の「やんばるの森」での米軍と日本政府の自然破壊を告発してきたチョウ類研究者、宮城秋乃さんのやむにやまれない抗議行動に対する強制捜査はその実態をあらためて明らかにした。
 北部訓練場返還地で見つけた米軍のものとされる廃棄物を訓練場メインゲートに置いて全面回収を訴えた抗議が、通行を妨害する威力業務妨害にあたるというのだ。県警は6月4日、宮城さんの自宅を家宅捜索し、タブレット端末やパソコン、ビデオカメラなどを押収。8月3日に那覇地検に書類送致した。
 宮城さんは2016年に返還された訓練場跡地から空砲やドラム缶、ゴムシートなどを発見。沖縄防衛局がごみの回収を終えたと発表した後も次々と見つけ出し、米軍や国に回収するよう求めゲート前に置き、抗議していた。
 通常であれば、使用した者が廃棄物を撤去し、現状を回復して、返還するのが筋である。日米地位協定には米軍が原状回復する義務はなく、日本側がその役割を担う。その費用は日本国民の税金で賄われる。
 作家の目取真俊さんは「宮城さん弾圧を問う」と題した寄稿(6月16日付沖縄タイムス朝刊)で「戦時や敗戦後の混乱の中で、沖縄県民から強制的に接収した土地を米軍は好き勝手に使った揚げ句、汚し放題のまま返して終わりなのだ」と指摘。「宮城さんが暴き出しているのは、米軍の廃棄物放置問題を通して、米国に当たり前の義務を求めることができない日本という国の卑屈な姿なのである」と批判した。
 宮城さんが発見した金属製の部品類から放射性物質のコバルトが検出されたこともあった。元々自然にない物質による動植物への影響に強い懸念を示し、廃棄物の回収を米軍、政府に求めてきただけである。
 書類送検された宮城さんは「これまで訓練場返還地での米軍廃棄物の残留と片付けを訴えてきたが国も米軍も警察も全く取り合わなかった。このような方法を取らざるを得なかった」とコメントした。「法に触れない手段で訴えても相手にされず、実力行使で抵抗すれば法律違反とされる。対話を拒否する権力に対して実力行使は市民の権利。今回の強制捜査は不当だと考えている」と抗議した。
 宮城さんへの強制捜査は、米軍基地や自衛隊基地など安全保障上の「重要地域」周辺の土地取引や利用を規制する土地利用規制法を先取りしたものだという批判が出ている。「重要施設」への「機能を阻害する行為」を疑われ、中止命令を拒めば同法違反容疑で捜査される可能性がある。
 市民運動への威嚇を狙ったといえる動きは宮城さんだけ、沖縄だけの問題ではない。「ナチスは最初共産主義者を攻撃した時」で始まるドイツのマルティン・ニーメラー牧師の警句が脳裏に浮かんだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年8月25日号
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2021年08月13日

【リレー時評】メディアの記事利用めぐりIT企業に対価=隅井孝雄

 新聞の購読をめぐって、アメリカやEU諸国ではIT大手(グーグル、フェイスブックなど)と政治の間に火花が散っている。
 ITに記事使用対価求める最初に狼煙が上がったのはオーストラリアだ。21年2月、ITの記事使用の対価支払いを強制する法案を成立させた。IT側の支払いの原資は,広告サイトや検索あるいはSNSなどでニュースを表示した際、手にする広告収入である。
 オーストラリア政府は法案提出の根拠として次の2点を強調した。「我が国のメディア産業が生き残るためITとメディアの間に公平なビジネス環境を守る必要がある」、「ジャーナリズムは民主主義社会に欠かせないがコストがかかる」。当初IT側は反発を見せたが、現在は新たな法律に基づく料金交渉が行われている。
 世界の検索の9割超を占めるグーグルの場合、2019年の広告収入は980億ドル(10兆1000億円)、この4年で4倍になり、全収入の6割を超える。報道機関の広告収入は減少する一方である。同じようなIT規制、メディア保護の動きドイツ、フランスなどEU諸国にも広がっている。
 アメリカ議会では上院、下院でともに「ジャーナリズムの競争と保護に関する法律」が提案されている。この法案は新聞もとより、ラジオ、テレビのパブリッシャーに大手ATとの交渉権を与えようというものだ。
 上院議員のエイミー・クロブシャー氏(民主党)に加え、ジョン・ケネディー氏(共和党)、デビッド・シシリン氏(民主党)、ケン・バック氏(共和党)など超党派の議員が支えている。多くの有力議員たちが新聞、ラジオ、テレビを民主主義の基盤ととらえ、フェイクが多く登場するインターネットと互角に競う存在に既存メディアが力をつけることを願っているといえるだろう。
 一方グーグルは2021年2月、報道機関に対価を払って記事の提供をする新サービス「ニュース・ショーケース」を開始した。英国ではフィナンシャル・タイムスやロイター通信など20の報道機関が参加するほか、アルゼンチン、ドイツ、ブラジルなど、現在までに参加する報道機関は450社以上となる。日本でも複数の報道機関と合意しているとグーグルは言っている。
 日本の新聞は近年減紙が目立つ。ピーク時の1997年に5376万部毎日発刊されていた新聞だが2021年1月新聞協会の発表では、3509万部に減少した。昨年1年では、272万部の減、年々幅が増加している。
 読者の支えなしにはやっていけないと朝日が7月から月ぎめ4,400円にした。京都新聞など多くの地方紙も追従する。しかし値上げでは読者離れが加速する一方ではないか。民主主義の担い手であることを鮮明に打ち出す紙面を提供するとともに、オンラインを急速に進める必要があるのではないか。
 隅井孝雄
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年7月25日号

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2021年07月01日

【リレー時評】「金大中氏拉致事件」に遭遇して=山口昭男(JCJ代表委員)

昨年来のコロナ禍で大学の授業もリモートが主流になり、新入生も大学構内に入れない事態が続いていた。振り返ってみれば、私の大学時代も構内に立ち入れない時期があった。
 いわゆる「大学紛争」期の大学封鎖によってである。団塊の世代の最後に当たる私が大学に入ったのは1969年。そして70年安保闘争が起き、大学立法は国会に上程され、大学は自治能力をなくしていた。
 構内には立ち入れず、もとよりリモートなどない時代であるから、授業はなく、試験はすべてレポートになった。ゼミは近くの喫茶店などで行うのが日常であった。こうした環境だったから、当時の学生はほとんどが社会に対して、政治に対して少なからぬ関心を持っていた。

 私はといえば、4年になっても就職についてあまり執着していなかった。就活などという言葉もなかった。会社人間になって一生歯車のように働くのは嫌だと思ったし、団塊の世代で人数は多かったが、時代は売り手市場でもあったから、何とかなるだろうと楽観もしていた。
 そんな時、家族ぐるみの付き合いがあった当時一橋大学学長だった都留重人先生から、岩波書店が社員を募集しているから受けてみないかと言われた。出版社なら少しは自由かもしれない、落ちてもともとと思い受験した。そして幸運にも合格できた。

 1973年入社してすぐ『世界』編集部に配属された。当時決められたことをする以外は、何をするにも指示はなく、好きな人に会い、好きな取材をし、自由に動き回ることができた。自由な環境の下で「社会に生じている矛盾を掘り起こし、人間の運命にかかわる仕事をする。それが自分の役割だ」などと意気がっていた。しかし、入社して3か月目、自らのそうした甘い考えを吹き飛ばすような事件に遭遇した。
 それが「金大中氏拉致事件」である。後に大統領となる金大中氏は、当時韓国の野党の大統領候補で、人気のある政治家だった。その金大中氏に『世界』編集部がインタビューをした。

 当時の私の手帳には「7月18日(水)午後2時30分 金大中氏インタビュー 於ホテルグランドパレス2212号室」と書かれている。ところがその記事が載った『世界』9月号が発売された当日の8月8日に、そのホテルから金大中氏は白昼堂々何者かによって拉致誘拐されたのである。
 幸い殺害はまぬかれ、一週間後にソウル市内で傷だらけの状態のまま発見された。次第に事件はKCIAによるものということが明らかになっていった。
 この入社3か月目の出来事は、私に大きなショックを与えた。ジャーナリストとしての緊張感を強く感じた事件だった。そして自分の考えの甘さとやっていることの大きさを感じた事件でもあった。
 あれから半世紀近くが経ち、今の政治の退廃、社会の弱体化を見るにつけ、私が20代前半に感じた緊張感をいま一度取り戻さねばと思っている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年6月25日号
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2021年06月23日

【リレー時評】飲んでみる?汚染水=中村梧郎

 4月13日、「飲んでもなんてことない」と麻生副総理が記者団に言った。福島原発の汚染水を、である。
その日午前の閣議で海に流すと政府は決めた。その後の発言である。
 1959年12月、「濾過した排水は飲める」と言ったチッソ水俣・工場長の姿を思い出す。水俣病患者たちの前で彼は一気に飲んだ。後で発覚したのだが、工場排水のコップは職員が巧みに水道水のコップと取り替えていたのであった。
 福島原発で溶け落ちたウランなどの金属デブリは今も炉内にある。そこに流れ込む地下水がデブリに触れて放射性物質まみれの汚染水となる。1日に140d。それをALPSで濾過するのだがトリチウムは除去できない。それを真水で薄めてしまえば「飲めるぐらい」安全だというのである。でも汚染の総量は変わらない。
 これは飲めるはずがない。トリチウム以外にも除去しきれないセシウムやストロンチウム、炭素、ヨウ素などの核種が残る。そのことは2018年に共同通信が報じている。
 政府は「通常の原発でも排水にトリチウムはあり、それを海に出しているから問題はない」との解説をつけた。だがこれも騙しの手口だ。原発排水には事故水のように12種もの危険な核種の混入はない。この二つを同列に置いたところに嘘がある。
 海でつながる近隣諸国、韓国も中国もこの点を衝く。中国政府のスポークスマンは皮肉たっぷりに反論した。「では飲んでみていただきたい」…。
 事故と汚染に関して平然と嘘をつく先例がある。安倍晋三氏によるオリ・パラ招致のための「アンダーコントロール」発言である。汚染水は原発面前の、堤防のある海に出しているのだから安全だと。

 復興庁は4月、トリチウムの「ゆるキャラ」をHPに登場させた。「健康への影響はない」という説明も付いた。だが批判の嵐で削除となった。
 水だけではない。地上の汚染も未解決なのに人体の汚染限度を20倍に変えて安全とし、避難民は戻れという。老朽原発の再稼働を含め、国民がいかに危険に曝されようが意に介さない姿勢が貫かれる。
  汚染は魚介に濃縮される。菅政権は苦しむ漁業者の叫びを蹴飛ばした。被害者は漁民だけではない。魚好きの人間全体の問題なのだ。日本の農・水産物の輸入規制は今も米国以下15の国で続いている。
  もと米GEの原発技術者佐藤暁氏は「周りを掘って地下水を止め、デブリ取り出しは先送り、事故炉を『乾いた島』にする」構想を発表(5月2日東京)した。汚染水を出さない策である。国連の専門家も「汚染の海洋放出は人権侵害」との声明を出した。
 政府は風評被害を防ぐと言う。だが風評は嘘への不信が生みだすものだ。では風評を回避する特効薬はあるのか。
 今こそ出番である。閣僚のどなたかが汚染水をコップで「飲んで見せる」のがいちばん効く。ただし、決して水道水と取り替えるようなことをしてはいけない。
 中村梧郎
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年5月25日号


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2021年04月02日

【リレー時評】 桜咲く頃 なぜか怖い事件が起きる!=守屋龍一(JCJ代表委員)

 コロナ禍にあって出版界は、昨年1年間の販売額1兆6168億円(前年比4.8%増)、2年連続のプラス成長となった。
 これも「巣ごもり」により、本への関心と需要が高まったからである。典型がコミック『鬼滅の刃』(集英社)。全23巻で累計1億5千万部、この1年間だけで1億1千万部・売り上げは5百億円だ。
 私も、この1年間、多くの本を読んだ。そして最近、柳広司『アンブレイカブル』(KADOKAWA)を一気読み。スゴイ小説だ。
 日本が戦争へと突っ走る戦前・戦中にかけ、人々を恐怖に陥れた治安維持法と特高の暴虐ぶりを描く。
 プロレタリア文学の旗手・小林多喜二、反戦川柳作者・鶴彬、「横浜事件」で弾圧された編集者、そして哲学者・三木清の4人を取り上げ、犯罪のデッチあげから苛烈な拷問、ついには獄死へと追い込む叙述とミステリアスな展開は手に汗握る。
 だが、アンブレイカブル=敗れざる者たちは、人間として生きる矜持と信念を、死を賭しても貫く。彼らの重い問いかけが、ひたひたと私たちに迫ってくる。
 日本学術会議・会員6人の任命拒否を始め、為政者が目論んでいる「言論・学問・表現の自由」への介入・規制が、何をもたらすか、よくよく考えねばならぬ。

 なぜか桜咲く3月、怖い事件が歴史的に見ても頻発している。戦前では、
1925年3月19日:治安維持法が成立。以降、全ての社会運動の弾圧に利用。
1928年3月15日:日本共産党員1568人の一斉検挙。いわゆる「3・15事件」。
1929年3月5日:労農党衆院議員・山本宣治が右翼テロにより暗殺される。
1933年3月27日:日本軍部は満州侵略を正当化し国際連盟を脱退。
1945年3月10日:米軍による東京大空襲(23万戸消失・死傷者12万人)。

 戦後も怖い事件は3月に頻発する。
1954年3月1日:第5福竜丸がビキニ環礁で米国の水爆実験により被曝。
1979年3月28日:米国スリーマイル島原発で放射能漏れ事故。
2011年3月11日:東日本大震災・福島原発の爆発(死者1万5899人・行方不明2526人)。

 直近の怖い事件も忘れてはなるまい。
2017年3月13日:安倍首相の加計学園に対する優遇が発覚。
2018年3月12日:財務省は森友学園に関する公文書改ざんを、ついに認める。
2021年3月1日:東北新社と菅首相の長男による総務省接待で、内閣広報官が辞職。

 ふりかえれば「桜を見る会」とその前夜祭を巡る参加者や会費への疑惑に始まり、安倍・菅の両首相が用意した「モリ・かけ・親子丼」と揶揄される特別メニューで官僚の忖度を煽り、国会ではウソの答弁を百回以上も繰り返してきた。
 坂口安吾の小説ではないが、永田町の「桜の森の満開の下」には、国民を脅かす醜い鬼がいる。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年3月25日号
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2020年12月18日

【リレー時評】頑張れ、注目の機関紙ジャーナリズム=藤森 研(JCJ代表委員)

 2020年のJCJ賞は、小さいが重要な一つの歴史を刻んだ。最も優れたジャーナリズム活動としての大賞に、「安倍晋三首相の『桜を見る会』私物化スクープと一連の報道」(しんぶん赤旗日曜版)を選んだのだ。安倍政権の体質を暴いた調査報道だった。
 しんぶん赤旗日曜版は日本共産党の機関紙だ。機関紙がJCJ賞の最優秀賞となるのは過去に一例だけ。1969年、日雇い労働者らがつくる全日本自由労働組合情宣部の「じかたび」がJCJ賞を受賞している(当時はJCJ賞と奨励賞があり前者が本賞とされた)。政党機関紙の大賞は、今回が初めてだ。

 日曜版編集部による『「桜を見る会」疑惑 赤旗スクープは、こうして生まれた!』に、取材の内側が明かされている。
 SNS上で「桜を見る会」に関連して「後援会」の言葉が頻出する。これは、公的行事の私物化ではないのか?日曜版の記者たちはその疑いを胸に、安倍首相(当時)の地元・山口県に入った。共産党市議の紹介で自民党関係者に匿名で話を聞き、集合写真から参加者を割り出しては訪ねた。足で稼ぐ取材だ。
 長門市では、ある母親が「桜を見る会に息子はよく行きます。いとこや孫も連れて行った」と率直に話してくれた。母親は息子に携帯電話をかけてくれる。だが電話口に出た息子は記者に、「お前らに話すことなんて何もない。帰れ」。母親は、申し訳なさそうに玄関を閉めたという。

 ――ああ、同じだ、と思う。朝日新聞の記者だった私も同じような経験をしてきた。正直に話してくれた長門市の母親が、その後、息子と気まずくなったであろうことを思うと、私まで胸が痛む。できるだけ人を傷つけないよう注意しつつ、それでも必要な証言であれば、書かざるをえない。痛みも伴う取材という行為には、機関紙も一般メディアも違いはないことがよくわかる。    
 もちろん一般メディアと機関紙は、前者が「独立し、あらゆる権力の監視」を標榜する点で異なる。だが、一般メディアと、時の野党の機関紙とは、権力監視の点で同じ立ち位置にある。

 今年10月1日、しんぶん赤旗は「日本学術会議の推薦候補を菅首相が任命せず」とスクープした。その初報では、任命されなかったのは「数人」と人数は特定できていなかった。
 すぐに追いかけた朝日新聞が1日夕刊で「学術会議会員 推薦6候補外れる」と人数を特定。赤旗や朝日、毎日など各紙が連日取り上げ、大きな問題になった。結果的にだが、野党の機関紙と、権力と距離を保つメディアが、共闘する形になった。 
 一般メディアの権力監視機能が弱っていると言われる今、機関紙のジャーナリズムとしての活躍は、よい刺激だ。両者の切磋琢磨に期待しつつ、「さらに頑張れ機関紙」とエールを送りたい。
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2020年11月14日

【リレー時評】 NHK 視聴者無視の番組打ち切り=隅井孝雄

 NHKは最近発表した3ヵ年計画(2021~23年度)で衛星放送BS1とラジオ第二2チャンネルの廃止を打ち出した。視聴者に相談もなしに、経営上の数字のつじつまを合わせるために、既存の放送を打ち切るNHKの身勝手さを許していいのか。
 NHKの衛星放送はBS1とBSプレミアムの2チャンネル、2280万世帯の契約がある。NHKの受信料契約世帯は4500万世帯、その50%を上回る。
 ラジオの保有世帯は減少傾向にあるとはいえ、最近の統計で2200万世帯だという(世帯数の44.9%)。ほぼ5700~5800万人近くのラジオリスナーに影響を与える可能性がある。
 NHKはラジオからは受信料を取ってはいないが、衛星受信料は6カ月で12,430円。かなりの高額だ(地上波受信料は6カ月7,500円)。
 NHKは2011年のデジタル化以降、常に拡大化路線を歩んできた。最近では2018年12月からスーパーハイビジョンBS4K,8Kを開設。さらに2020年4月から、「NHKプラス」を始めた。NHKの総合とEテレをネットで視聴できる。また見逃し番組、追いかけ視聴もできる(年間予算170億円)。
 「受信料徴収は合憲だ」という最高裁の決定(1917年12月)が拡大に拍車をかけた。それまで不払いに悩んでいたのに、この決定以降、支払率が81%と増加、7000億円を突破するまでになった。
 一方、「通信と放送の一体化」を推進する安倍前政権の「規制推進会議」は、NHKの放送メディアとしての拡大を抑える一方、ネット進出を容認した。
 NHKは2021年〜23年の中期経営計画(8/4)で、受信料収入を、7000億円台から6000億円台に抑えることを打ち出した。そのためにAM第二ラジオと、衛星テレビ放送BS1の廃止を打ち出したのだった。830億円程度の経費削減となる。
 ラジオ第二放送は今では教育、教養、語学講座が主体だが、1931年以来の歴史を持つ。東京、大阪、名古屋に聴取者が留まったことから局名を1939年に「都市放送」と改称した。そして都市知識層向けの、教養、講座、文芸、音楽番組に力を入れた。
 太平洋戦争中「都市放送」は休止されたが、終戦直後ラジオ第二として再開、学校放送、プロ野球中継、大相撲、音楽放送など、柔軟編成で親しまれた。また「農村」向け、「漁村」向け番組なども開発した。
 BS1も貴重な歴史を持つ。開始は1984年5月12日。日本初となる人工衛星を利用して受信可能なテレビ放送を開始したのがBS1、衛星放送のパイオニアだった。
 その後、デジタル化の曲折を経て、現在はスポーツ、ドキュメンタリー・情報番組・海外報道に特化して放送している。世界に触れようとする場合、BS1が最も豊富な海外ニュース報道を提供しているので、欠かせない貴重な存在だ。
 隅井孝雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年10月25日号

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2020年09月05日

【リレー時評】 被曝75年 心に滲みるコトバの数々=吉原功

 被爆75年、コロナ禍のなか今年も広島、長崎で祈年式典が執り行われた。感染を避けるため予定された人数が制限され、多くの企画が取り止めになったのは残念だが、心に滲みるコトバの数々が胸に響いた。
 とりわけ田上富久長崎市長による「平和宣言」が秀逸だった。冒頭で「どうして私たち人間は、核兵器を未だになくすことが出来ないでいるのでしょうか」と問いかける。「人の命を無残に奪い、人間らしく死ぬことも許さず、放射能による苦しみを一生涯背負わせ続ける、このむごい兵器を」と。つづいて原爆雲の下で「繰り展げられた惨劇」を被爆者の日記を読み上げることによって再現。
 1300人の幼い命が犠牲になった爆心地直近、山里小学校の「第2校歌」、「あの子」の作曲者の日記だ。この歌は式典で同校児童による合唱で披露された。
  日記を挿入したことについて信濃毎日新聞が当日のコラムで紹介している。素案にはなかったが「被爆者の肉声を」という声が「起草委員会」で相次ぎ「原爆が落とされたらどうなるのか若い人が想像できる」ようにという意見が取り入れられた結果だという。集団討議で作成された「宣言」なのだ。
 「宣言」は、被爆者が「この地獄のような体験を、二度とほかの誰にもさせてはならないと、必死で」被害の実相を伝えてきたにもかかわらず「核兵器の本当の恐ろしさはまだ十分に世界に伝わって」いないと指摘。「核保有国の間に核軍縮のための約束をほごにする動きが強ま」り、「新しい高性能の核兵器や、使いやすい小型核兵器の開発と配備も進められ、核兵器使用の脅威が現実のものになっている」と警鐘をならす。3年前に国連で採択された核兵器禁止条約は人類の意思であり、賛同しない核保有国、核の傘の下にある国々は間違っていると、「平和の文化」を市民社会に根づかせようと呼びかける。
 若い世代には「あなたが住む未来の地球に核兵器は必要ですか。核兵器のない世界へと続く道を共に歩んでいきましょう」と。世界の指導者には「相互不信」の流れを壊し、「信頼」と「連帯」にむけた行動を選択することを、そして日本政府と国会議員には一日も早く核兵器禁止条約の署名・批准をし、北東アジア非核地帯の構築の検討するよう求めている。
 「宣言」は核兵器、新型コロナウイルス、地球温暖化の問題はともに「地球に住む私たちみんなが“当事者”だとしている。重要な指摘であろう。また核兵器禁止条約の国連採択に貢献し、効力発効の努力をしているICANの試算も紹介しておきたい。
 核保有9カ国の2019年度の核関連予算は合計730億ドル。このうち半分以上が米国の354億ドル。これを新型コロナウイルス対策にまわせば集中治療用ベット30万床、人工呼吸器3.5万台、看護師15万人・医師7.5万人の給与がまかなえる。核兵器を廃絶していればパンデミックを早期に終息させることが可能だったことを示していよう。韓国政府は防衛費を削減し新型コロナ対策に回しているという。日本の今年度防衛予算5.3兆円はそのままだ。
  広島、長崎の式典のさなか、核禁条約の批准国が3つ増え発効まであと6カ国・地域となった。上記信濃毎日新聞は原爆忌について極めて充実した紙面を作成していたことも付記しておこう。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年8月25日号
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2020年07月29日

【リレー時評】 「麻生全面支持」の福岡・高島市政=白垣詔男

 福岡市長・高島宗一郎(46)は、「麻生太郎氏を全面支持する市長」として知られている。市が運営する福岡市民病院には、福岡県飯塚市にある麻生一族が経営する「麻生飯塚病院」から関係者を多数受け入れているなど福岡市制と麻生の結びつきは非常に強い。福岡市長選では麻生の全面支援を受けて、2回の改選を大勝している。高島の市長選では、福岡市での「麻生の力」をまざまざと見せつけたとも言える。
 高島と麻生の具体的な結びつきの1例は―。福岡市では、7月入りやっと支給が終わったとみられる国の「特別定額給付金」(1人10万円)の事務作業をパソナに5月1日に6億8千万円で委託した。4月20日に安倍政権が支給を決めてから11日目。しかもパソナは同日、凸版印刷など8団体に2億3千万円で「再委託」する手回しの良さだった。パソナは残り4億5千万円で区役所などの相談受付補助などを受け持ち、自社管理職に7万円の日当が払われた。
 6月福岡市議会でこの件を追及した共産党市議は「福岡市はパソナに業務委託をする準備をしていたのではないか。いつまでに給付が終わるようにパソナ指示したのか」などと質問したが福岡市当局は満足な答弁ができなかった。高島は「支給は政令指定都市では一番早かった」などと事実に基づかない答弁をしてひんしゅくを買った。
 パソナは高島と親しい竹中平蔵が代表取締役会長。政府は「給付金」を電通に支給業務を丸投げ、電通はパソナなどに再委託したが、福岡市はパソナに直接委託している。
 さらに福岡市は、年度内に18歳、22歳になる市民の名簿を自衛隊に通告する暴挙を強行した。18歳は高校卒業予定者、22歳は大学卒業予定者だ。この問題は今年初めに福岡市が、コンピューターの改良を口実に、これまで自衛隊関係者が市役所で名簿から書き写していた作業を、市自らが自衛隊に便宜を図ろうとするものだ。
 市民団体などが「反対運動」を繰り広げた結果、福岡市は「自衛隊に名簿を知らせたくない適齢者は除く」と譲歩をしたようだが、「自衛隊に知らせたくない市民は名乗り上げてください」という告知は「市政だより」に1回、市のブログで短期間掲載したが、市民はほとんど知ることがなかった。市民団体が市役所で市当局に「抗議」している最中の6月5日、市は急遽、自衛隊に名簿渡しを強行している。
 この市の姿勢は、憲法に自衛隊を盛り込もうとする安倍の意をくむものであることは自明の理だ。高島市政は「ミニ安倍政権」と言われても仕方がない。
 なお、高島は市長を踏み台に国政志向が強く、自分が立候補できる選挙区を麻生に指定してくれるよう懇願しているという情報もある。高島は「安倍政権の顔色をうかがって市政を運営しており本音は自分が国会に進出することだ」と言う識者もいるほどだ。(敬称略)
白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年7月25日号
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2020年06月29日

【リレー時評】 「大阪都」・カジノ問題いよいよ正念場=清水正文

  新型コロナウイルスが拡大して以来、やたらとカタカナ表記の単語が多くなった。今まで聞いたこともないものばかりである。
 PCR(ポリメラーゼ・チェーン・リアクション)検査、クラスター、オーバーシュート、ロックダウン、ソーシャルディスタンス、パンデミック、そして東京アラートなど、テレビや新聞に頻繁に登場する。漢字・ひらがな表記のほうが分りやすいのではと思ってしまう。
 さて、一応「第1波」の感染流行が収まった地域もあるが、「第2波」がすでに始まっているといわれる地域もある。東京ではアラートが解除されて以降、40人を超える感染者が出ている日もある。
 このような中で東京都知事選が行われようとしている。小池百合子知事は再選を目指して立候補している。コロナへの対応では、かなりの評価を受けており、世論調査でも「大阪モデル」を打ち出した吉村洋文大阪府知事に次いで、2位の支持率である。立候補している宇都宮健児氏、れいわ新鮮組の山本太郎氏などとの選挙戦になる。
 大阪府の吉村知事も、コロナ対策では「はっきりものを言う」「頼りになる」と、府民からの評価は高い。しかしPCR 検査で重要な役割を果たすべき保健所を減らし続けてきたのは維新府・市政である。大阪市は24区あるが、保健所は今では1カ所しかない。
  大阪では知事選・市長選はないが、大阪維新の会が大阪市を廃止・分割するいわゆる「大阪都」構想の住民投票を11月に強行しようとしている。
 この住民投票は5年前に、すでに否決されたものであり、再び出してくること自体が、大問題である。新型コロナウイルス感染症の拡大で苦しむ市民への支援に全力をあげるべき時であり、「こんな時に大阪市をなくすのか」「不要不急の大阪市廃止の作業は中止すべきだ」という市民の声が挙がるのも当然である。
 6月11日には「都構想」の制度設計を話し合う「法定協議会」が開かれ、松井一郎市長は「一般のみなさんの不安・懸念はよくわかります」と言いながら、「長年議会にいるみなさんが『今ではない』と言うのは、非常に残念だ」と言って、あくまで11月に「住民投票」を行うことに固執している。
  また、大阪維新の会は2025年の大阪・関西万博の開会前に、カジノを中心とする統合型リゾート(IR)を開業しようと動いてきた。今回のコロナの影響で開業の時期を万博後にせざるをえなくなったが、吉村知事も「全面開業は1〜2年後ろ倒しになる状況だ」と述べ27〜28年度の開業に執念を燃やしている。
 コロナ対策で評価が高い吉村知事の影響で「住民投票」でも賛成票を投じる市民が多いのではないかとの見方もあるが、「都構想・カジノ」とは別という調査もある。「住民投票」そのものを断念させる取り組みはこれからである。
清水正文(JCJ代表委員)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号

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2020年06月05日

【リレー時評】 近づく沖縄県議選 二つの大きな変化=米倉外昭

            米倉外昭201504.JPG
 新聞編集の現場では全国各地の注目選挙をどう扱うかで悩む。結果にもよるが、それなりの扱いをと考えている。しかし、ゲラを見てため息をつくことが多い。投票率があまりにも低いからだ。
昨年8月の埼玉県知事選は4野党が支援した大野元裕氏が当選した。投票率はやや上向いたというが、32・31%だった。
 与野党相乗りの現職が当選した2月の京都市長選は、共産とれいわ新選組推薦の新人が善戦したことで注目されたが、投票率は40・71%。前回を5ポイント上回ったという。そして、コロナ禍のさなかの4月26日投開票の衆院静岡4区補選は34・10%だ。
  地方の選挙でも、国政の行方や全国世論に新しい潮流が生まれるかどうかを占えそうな場合は注目される。しかし、はっきりしているのは、都市部の選挙では有権者の過半数、ひどい場合は3分の2強が投票に行かないという事実だ。
 沖縄県議選(定数48)が5月29日告示、6月7日投開票で実施される。県知事選に次いで、沖縄の進路を決定づける重要選挙である。
 沖縄県議会は現在、辺野古新基地に反対する玉城デニー知事の与党が25議席で過半数を維持し、野党14、中立6、欠員2という状態である。
 今回、二つの大きな変化がある。自民党が辺野古新基地容認を明確に掲げる。これまでの知事選や国政選挙、昨年2月の県民投票で示された辺野古新基地反対の民意が、どう県議選に表れるのか注目だ。
 もう一つは、県議会で4議席を有する公明党が立候補予定の4人のうち2人の出馬を見送ったことである。コロナ禍の中で選挙運動はできないという理由だ。自民党が狙っていた与野党逆転が難しくなったことは間違いない。
 沖縄の公明党の選択は、県政奪還より命が大事というもの。安倍長期政権の下で改憲などを巡り自公のずれが目立ってきている。自公連立体制の行方に影響を与える動きかもしれない。
 沖縄県議選の投票率は近年、かろうじて50%台を維持している。これ以上下がってほしくない。投票率を上向かせることも、沖縄の民意を全国、世界に示すために重要だ。
 新聞はじめメディアは、民主主義の根幹をなす選挙の投票率向上を使命としてきた。今回も、若い世代にも関心を持ってもらえる紙面にしようと努力している。
 しかし、若者の新聞離れと選挙離れは連動しているようだ。沖縄県選管の抽出調査でも、若い世代ほど投票率が低く、20代は40%を切っている。
 そんな中、今回、深刻なコロナ禍の中で新聞が熱心に読まれている。また検察官定年延長に反対する世論が大きく盛り上がっていることにも希望を感じる。正確な情報を、批判精神を持って伝える健全なジャーナリズムが復権するチャンスにし、選挙の投票率向上にもつなげたいものである。
米倉外昭(JCJ沖縄世話人)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年5月25日号

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2020年05月08日

【リレー時評】 「放送と通信の融合」で地域情報保護が課題=隅井孝雄

 NHKの番組がネット上で見られるネット同時配信(NHKプラス)が4月1日から本格配信を始めた。先立って、3月1日から試験的配信を行っていたが、一ヵ月の試行期間内に33万件の利用申し込みがあり、NHKはほくほく顔だ。
 主要民放キー局はこれまで、NHKの巨大化に警戒感を抱き、予算に一定の限度を設けるなど上限を主張してきた。ところがいよいよ迫った段階で、日本テレビなどキー5局が秋以降ネット同時送信を開始しようとしていることが明らかになった(2/12共同)。若者層のスマテレビ離れを食い止めるためスマホなどネットで見られるようにしようというのだ。
 ネット同時配信とは、テレビ番組を電波で送りだすと同時にインターネットにも配信するもので、テレビと同じ画像を同時に視聴できる。今までは放送とは別に個別の番組をユーチューブなどで送り出してきたが、今後はネットでテレビチャンネルそのものが視聴できることになる。NHKと民放が同時配信で足並みをそろえる。
 この結果「放送と通信の融合」が本格化することになるが、しかしローカルニュース、ローカル番組が置き去りにされるという問題が残る。
 今のところNHKプラスは受信料を支払っている家庭のみに限り午前6から午前0時までおよそ18時間の総合、ETVの番組をなにもかも丸ごとネット上で同時間視聴できるほか、追いかけ再生、一週間見逃し視聴もある。
 といっても東京を中心とした関東広域圏での放送がネット上に流れ全国で視聴されることになる。
 民放キー局で最も積極的な日本テレビの場合、午後7時から午後11のプライムタイムの番組をネットに流す計画だ。TBS、フジテレビ、テレビ朝日などでもプライムタイムに限らず、若者が多い深夜帯のドラマ、バラエティーなども配信対象と見ている。TVerという見逃し番組を見る仕組みと連動することになるだろう。
 テレビ放送とは別の視聴者の属性に合わせたターゲットCMをネット上に挿入、新しい収入源にしたいと考えているようだ。視聴者に当面、課金はない。
 民放の本格的送信は一番早い日テレは秋以降とされていたが、試験配信する予定だった東京五輪が消えたので、実施は繰り延べになるかもしれない。
 民放テレビが地方局とキー4局の組み合わせで全国ネットワークとなったのは1960年前後だった。それから60年にわたり地域の情報文化と全国的な情報文化を組み合わせたメディアに成長した。それが「放送と通信の融合」の完成によって、東京情報、東京文化一色になる。地方局は視聴率が低下するおそれにさらされる。
 NHKと民放キー5局に地域情報、地域番組をどう守るのか真剣に検討することを求めたい。
隅井孝雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年4月25日号

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2020年03月26日

【リレー時評】コロナ猛威で出版界思いがけない事態に=守屋龍一

 新型コロナウイルスの感染拡大が、出版界にも思わぬ事態を引き起こしている。文学賞の贈呈式やイベントの中止だけでなく、「小中高の一律休校」以降、「小学生向けの学習参考書やドリル」「読みもの系児童書」への特需が勃発。「うんこドリル」シリーズは、通常の4倍を超える注文が殺到しているという。
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』(第19巻)が、集英社から初版150万部で刊行され、シリーズ累計4千万部を超えた。しかもコロナ肺炎の拡大が自宅での読書を喚起し、この2カ月で1500万部の売れ行き、今もなお品切れ店が続出。本屋の特設コーナーには1冊もなく、増刷に追われ、いつ入荷するかも不明だ。
 さらに出版社は、ここぞとばかり自宅待機の子供向けに電子書籍や旧刊漫画誌の無料配信を始めている。ゆくゆくは有料の定期配信へつなげたいのは目に見えている。
 2019年出版界の売り上げは1兆5432億円(前年比0・2%増)。だが紙版は4%減、電子版は24%増、出版社は電子書籍やネット配信などへシフトしている。
 紙媒体では週刊誌の落ち込みが激しく、「週刊現代」「週刊ポスト」は、月に3回刊の健康「旬刊」誌へ変更。高齢者向けだから、サラリーマン対象の地下鉄・JR車内広告は止めた。「週刊文春」「週刊新潮」はネット配信に傾注し、ページビューは2億、広告収入も急増。
 コミックや電子書籍が伸びて、集英社は前年の4倍98億7700万円、講談社は72億3100万円(前年比152・9%増)という 驚異的な利益を揚げている。
 この〈2強多弱〉の出版界に、コロナ脅威のおかげでネット販売が急伸しているアマゾンが、さらなる殴り込みをかける。2019年度アマゾンの日本売り上げは1兆7442億円(前年比15・7%増)。そのうち出版物の売り上げは3000億円と推計され、日本の出版物総販売額の約20%を占める。
 膨張するアマゾンが、出版物を出版社から直接仕入れ、取次・書店抜きで読者にネット販売する事業に乗り出す。今でも出版社との直接取引は、3631社(前年比689社増)に及ぶが、さらに拡大。かつ9カ所の物流拠点を増やし、「買切り」による廉価販売も含め、出版界の「アマゾン支配」へ拍車をかける。
 その余波で、日本の書店は、次々につぶれている。昨年650店が閉店し、今や1万800店、この10年間で最大の減少となった。大型書店の閉鎖も目立つ。昨年9月のフタバ図書MEGA岡山青江店1100坪の閉店、今年2月末にジュンク堂京都店とロフト名古屋店が閉店。状況は深刻さを増している。
  新型コロナの脅威で、にわか特需があるとはいえ、根本的な出版界の危機が、解消されたわけではない。
守屋龍一
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年3月25日号
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2020年02月21日

【リレー時評】気候変動に鈍感きわまりない小泉環境相=中村梧郎

 パリの地球温暖化防止会議。「化石賞」は再び日本に来た。小泉進次郎の演説は「具体性のかけらもない」と嘲笑された。
 小泉大臣は1月末、ベトナムでの石炭火力発電に反対だと突然ブチあげた。CO2問題で世界が日本を批判するからと。
 だがその真相に驚く。三菱商事によるブンアン石炭火力発電所計画は日本が融資するが、建設は中国や米国の企業が担うから(ウマ味がない)というだけのことなのだ。
 ベトナムは、福島を教訓に日本の原発を拒んだ。ならば石炭火力発電がお得だと、三菱、丸紅、住友が5か所の建設計画を進めた。温暖化批判に応えるというのなら日本はその全てを撤回すべきなのだ。インドネシアへの輸出もやめるしかない。
 より容易なのは進次郎氏の地元、横須賀での石炭火力計画をまずは止めること。そのうえで国内13基の停止、25か所で進む計画の破棄だ。
 ベトナムは日本の原発予定地だったニントゥアンを、太陽光と風力発電のメッカに変えている。

 おりしも1月17日、広島高裁は伊方原発3号機の運転禁止を命じた。原子力規制委員会の判断は誤りと。判決は、瀬戸内の中央構造線や阿蘇噴火の危険想定が過小だとした。伊方3号機は1月末、電源ミスで冷却が43分間止まる重大事故を起こした。12日には制御棒1体が7時間も炉から抜かれていたりもした。
 伊方原発は愛媛県・佐多岬にある。事故は真夜中でも起こり得る。電気のない暗闇で5千余の岬の住民は逃げ場がない。高齢者や病人はどうなるのか。福島では強い放射能で自衛隊が出動を躊躇、双葉病院の患者50人が死亡した。伊方は廃炉にするしかないのだ。
 アメリカの規制委は住民の避難路が不十分、となれば稼働を禁止する。一方、日本の規制委は「それは自治体の責任。住民避難には関知しない」という。再稼働を認めるだけの規制委。‶寄生∴マだとの揶揄も囁かれる。
 今後30年以内に80%の確率で発生する南海トラフ地震。首都直下地震もある。まさに地震大国日本なのに、3・11の苦痛を教訓としない。
 昨年、大飯や玄海、川内原発の稼働が先送りされた。対テロ施設である送水ポンプが未完成だから、との理由だった。だがこれも子供だましだ。テロリストの兵器は今や無人攻撃機。米軍はアフガンなどでの殺戮をこれで続けた。イランのソレイマニ司令官殺害も無人機のロケット弾だ。
 無人機を量産輸出するのは中国である。SIPRIによれば中国は世界第二の武器輸出国。中国航空工業集団がその主役だ。テロリストが無人機を入手して原発を狙えば核爆発を誘発しうる。「送水ポンプで安全」というのはほぼ幻想である。
 核兵器と原発、CO2は地球環境を危機に曝している。だが小泉環境相は事態を無視したままパフォーマンスばかり。それ結婚だ、妊娠だ、育休だ、にはもうウンザリなのだ。
中村梧郎

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2020年02月11日

【リレー時評】 「サンデーモーニング」新春特集は出色=吉原功

 1月5日、TBSサンデーモーニングは時間を延長して特集「幸せになれない時代―分断と格差 深まる世界」を放映。お笑いやオリンピック企画の多い新春番組の中で、現代社会を深く見つめた硬派番組として出色だった。
 特集は、チリ、フランス、メキシコ、香港などの大規模な街頭デモの様子を流したあと、「国民所得が上がっているのに幸福度は低下」している米国を、街頭インタビューを交えながら紹介。
そのなかで保守系ラジオのDJ A・ジョーンズの場面は衝撃的だ。「私は25年間、情報戦争で闘い、叫んできた」という彼の叫びはSNSやケーブルTVでも流れ、数百万人の視聴者がいるという。「トランプ大統領には民主党を脅かす独裁者になってほしい」「彼の番組は人生を変えてくれます。真実を教えてくれるからです」との声を拾う。
「情報戦争」という用語は日本右翼の「歴史戦」を彷彿とさせる。いずれも事実や真実は問題ではなく「勝つ」ことが目的。
 ドイツで急激に支持を広げている、経済格差に苦しむ旧東独に基礎をおく右翼政党AfDも同じく衝撃的だ。「ヒトラーは絶対悪ではない」と、かつて発言した党首は「我々が国境を守らなければ歴史的に価値の高い文化が破壊される」という。
 哲学者内山節氏は「どう展開するか解らない混沌の時代へ歴史は向かっている」という。番組はその主な要因に次の5点をあげる。
 「経済格差」「移民と難民」「人種差別」「民主化要求」「温暖化問題への対応」。これを受けコメンテーターの寺島実郎が<冷静終了後30年、民族・宗教・格差問題が吹き荒れている。とりわけトランプ政権下で株価が4割上がったが、金融経済の肥大化で、実質GDPの4倍を超すマネーゲームが展開され、その恩恵を受ける人と全く関係のない人のギャップが格差を生んでいる>
と核心をつく。
 資産上位26人の資産総計150兆円が世界の下位38億人の総資産に相当(オックスファム、2019年)するという、目の眩むような格差を生んだのはアメリカ起源の新自由主義と番組は指摘、トリクルダウンという喧伝はウソだったと指摘、このようなシステムを変えなければいけないと結論する。
 さらに、S・フロイトやE・フロムの「成長欲求」と「退行欲求」の葛藤理論を紹介しつつ、「いままでの成長の流れから退行の流れに歴史の逆行が始まった」「今は成熟拒否の世界」という加藤諦三氏の言を紹介し、さらに次のようなコメントを結論的に示す。「アメリカ・ファースト」も「EU離脱」も「軍事力拡大」も、「フェイク・暴言」も無意識の退行であり幼児化である。
 この特集は世界各地に取材し、街頭の人々にもインタビューしてその声を拾っている。番組制作費が削減されている民放局作としても評価できよう。NHKにのみ放送予算が集中している現在の構造を再編すべきときではなかろうか。
吉原功
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年1月25日号

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2019年11月28日

【リレー時評】「カジノ阻止、真っ当な大坂を」高まる反対運動=清水正文(JCJ代表委員)

 いま、全国でカジノを核とした統合型リゾート(IR)を誘致する動きがおこっている。政府は9月にIRの立地区域選定に向けた基本方針を公表、国内では最大3カ所で認めるとしているが、今まで「白紙」としてきた横浜市でも市長がカジノ誘致を表明。
 先行する大阪維新の会の府・市政が万博とセットで、大阪湾の埋め立て地・夢(ゆめ)洲(しま)にIRをもってくることにやっきになっている。観光庁の調査では、ほかにも北海道、千葉市、東京都、名古屋市、和歌山県、長崎県が誘致を「予定・検討している」と回答している。
 10月に行われた時事通信の世論調査では、国内誘致について「反対」が57.9%で、「賛成」の26.6%を大きく上回った。IRをめぐっては周辺の治安悪化などを懸念する声があり、慎重な意見が根強いことが浮き彫りになった。

 大阪ではこの万博を隠れ蓑にしたIRの誘致に反対する運動が、さまざまな形で取り組まれてきたが、10月22日には大阪市中央区で、「カジノあかん!夢洲危ない!ここで万博大丈夫?」と銘打った集会が開かれ、会場は800人を超える参加者で超満員となった。
 カジノ問題を考える大阪ネットワーク代表の桜田照雄・阪南大教授がビデオメッセージで、大阪府市は、近く実施方針を策定して事業者の公募を開始することを狙っているとし、「カジノ推進派の最大の弱点は、問題だらけの夢洲でつくろうとしていること。危険性を府民・市民に広げ、夢洲にも日本のどこにもカジノはいらないと訴えよう」と呼びかけた。
 夢洲の危険性については、田結庄良昭・神戸大名誉教授が、南海トラフ地震で想定される被害について講演、「津波は自動車並みの高速で押し寄せ、地震動の液状化で沈下した護岸を越えて、大きな浸水被害が出る」と警告。液状化によるインフラの破壊、コンビナートタンクの損傷・火災などを挙げて、「こんな危険なところで、解決方法もないのにカジノや万博をやるのはいかがなものか」と訴えた。

 各分野からのリレートークも行われ、石田法子・元大阪弁護士会会長は、「カジノは賭博場であり、暴力団も関与。ギャンブル依存症や多重債務者も増える。そういう環境が子どもの成育に悪影響を与える」と強調した。
 小川陽太・前大阪市議は、夢洲で想定されるカジノ客1500万人のうち、外国人は2割だけで、「標的は日本人、大阪周辺の一般市民だ」と指摘、誘致のためのインフラ整備は、地下鉄中央線延伸だけで540億円に上り、「復調の兆しが見える大阪市財政を、暮らしや防災、地域経済に充てるべき。カジノを阻止してまっとうな大阪を」と発言した。
 全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会の新里宏二弁護士が連帯あいさつ。和歌山市・長崎市・横浜市・苫小牧市や台湾で反対運動に取り組む市民団体からもメッセージが寄せられ、大阪でのカジノ反対の大きな契機となった。
posted by JCJ at 10:24 | <リレー時評> | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする