2022年06月03日

【スポーツ】競技者自ら連帯と平和の構築を=大野晃 

 ロシアのウクライナ侵略で、世界スポーツには、大きな分断がもたらされた。
国際オリンピック委員会(IOC)はじめ、ほとんどの競技団体が、ロシアと同調したベラルーシの競技者を、主催する国際競技会から締め出した。 競技者に責任はないと批判する競技者がテニス界では、少なくない。
 米国や日本政府の中国敵視で、アジアでも、分断が広がりそうだ。競技者の動揺も少なくない。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは3年に及び、世界的に、隔離の壁が取り払われてはいない。

 それは、競技者と支援者やファンとの間にも壁を生んだ。 国際的にも、国内でも、政治的、社会的分断が消えない。 競技者の意思や責任で分断が進んだわけではないが、沈黙は競技者の地位を危うくする。
 競技者は自ら、様々な分断状況を修復するために、行動を起こす必要があるだろう。それが、世界平和の構築には不可欠なはずである。
  スポーツ・ジャーナリズムは、競技者に修復努力を促し、支え、その課題や解決方向を明確化する使命があるだろう。IOCや国際競技団体には、競技者の権利と地位を第一に考え、政府と競技者の関係で、それを保障する具体的で国際的な手立てを見出す努力を求めよう。
 国際政治の対立が、五輪や国際競技会の政治的ボイコットを生み、政治的排除を認めさせてきた。
 その都度、競技者の意思は尊重されなかった。沈黙を強いられた。 競技者の意思を認めさせるには、国際的な競技者の団結と連帯した行動で、社会を動かすしかないだろう。それなりの成果もある。

 社会は、競技者の意思に注目し始めた。 新型コロナウイルス感染症の感染拡大対策による隔離の拡張で、競技を楽しむ機会が遠ざかり、競技そのものを拒む意識も広がっているようだ。競技者には、改めて、競技の楽しさを社会に訴える努力が必要だ。できることから、国民と接触する機会を増やさなければなるまい。
 競技団体や支援者任せでは、社会的環境は劣悪化するばかりだろう。スポーツ・マスメディアは、競技者の成果を追うばかりで、その環境条件を適切に、国民に伝えてはいない。
 競技や競技者の社会的な環境条件を掘り下げる努力が求められる。国民のスポーツ権を多面的に追求する姿勢を失ってはならない。
 大野晃
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2022年04月19日

【スポーツ】見るだけファン増大の不安=大野晃

  新型コロナウイルス感染症の感染再拡大が懸念される中で、プロ野球やJリーグの激戦が展開され、大型競技場では、コロナ禍前の熱気が戻ってきた。
 多くがテレビなどの映像に限られたスポーツ観戦が、現場で楽しめるようになった。
 しかし、プレーする機会は、いまだに大きく制限されている。道路や公園でのランニングやウォーキング、限定されたプールでのスイミング程度で、集団球技などは気軽に挑戦できない。
 体育館での競技も規制が多い。屋内での軽い体操が精々の毎日だろう。それだけ、見るだけファンが増大し、スポーツ愛好者に運動不足が広がる皮肉な状態のようだ。
 スポーツライフの正常化は、することも、見ることも自由になって達成できる。春の陽気に、屋外での絶好のスポーツシーズンを迎えても、プロやトップ競技を競技場で見る機会が増えたにすぎず、肝心の競技者の感染による中止試合も消えないのだから、イラつく人々も少なくない。
 新しい感染傾向や拡大対策の経験に基づく、より現実的な、きめ細かい対策が提示されないため、いつ、どこで、どの程度、どうやったら楽しめるかが、わかりづらいのだ。

  テレビゲームによる疑似スポーツ体験の商戦が盛んだが、見るだけファンを加速させる可能性がある。企業活動や外食、観光の復興に熱心な国や自治体だが、国民の健全な生活は後回しのようだ。
  過酷な労働環境の変化で、スポーツに取り組む意識も低下しがちだ。スポーツ庁や自治体のスポーツ振興担当、そして競技団体が、医療機関の指示に従い、地域の実情に合わせて、安全で安心なスポーツ機会を提供すべきだ。
 マスメディアは、その具体例や課題を示す必要がある。商業施設の宣伝に終始していては、国民とかけ離れるばかりだ。対応の遅れは、国民スポーツの極端な先細りを招きかねない。
 大野晃
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2022年04月11日

【スポーツ】苦境に立つラグビー界=大野晃

 華やかな開幕ショーでプロ野球がシーズンインし、各球場に2万人を超える観衆を集めて、熱戦を展開している。鳴り物入りの応援が繰り返され、コロナ禍前に戻ったようだ。
 30周年を迎えたサッカーJリーグの激戦も続く。日本代表が7大会連続のワールドカップ出場を決めて、弾みがついた。
 第94回選抜高校野球大会では、開幕直前に1校が新型コロナウイルス感染症の感染で出場辞退したが、補欠から出場した近江(滋賀)が、準優勝する、たくましさも見せた。
 そんな中で、集団による濃厚接触が特徴のラグビーは苦境に立った。プロ化を目指して新出発したリーグワン1部は、競技者の感染で、すでに15試合が中止され、3部まで含めると中止は23試合に及んだ。
  第23回全国高校選抜大会は、開幕直前に2校が部員の感染で出場辞退し、観客制限が緩和された、準々決勝目前に、流経大柏(千葉)、準決勝直前に佐賀工(佐賀)、そして東福岡(福岡)が決勝を辞退して、報徳学園(兵庫)が、不戦勝で初優勝した。佐賀工と東福岡は、対戦相手の感染で拡大防止の辞退だった。勝ち進んでの無念さは想像できる。練習試合を強行しても、少年たちの心を折るコロナ禍だ。
 しかも、親会社のコロナ禍での経営不振もあって、トップリーグに参画していたコカ・コーラが昨年で休部したのに続き、リーグワン3部の宗像サニックスもリーグ後に休部するという。地域を代表した2チームが姿を消し、九州のラグビー熱低下が懸念される。
  全国で、まん延防止処置が解除されたが、経済重視の国や自治体に、競技関係者の不安は消えない。正常化へプロ競技などは勢いづくが、プロ野球・楽天の2試合が中止になるなど、感染再拡大の恐れもある。
 競技できそうで、やったら中止に追い込まれるでは、正常にはできそうもないと覚悟していた時より、競技者の動揺は大きいだろう。国民がスポーツを楽しめる条件整備に、行政や競技団体の、きめ細かな対応が必要だ。
大野晃

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2022年03月21日

【スポーツ】ショー化で危険増大の曲芸競技=大野晃

 東京五輪と北京冬季五輪は、テレビなど映像ショーに一面化された。その結果、見て面白い競技が追求された。
  特徴的だったのは、スケートボード、スノーボードの拡大で競技者の低年齢化と、ケガと隣り合わせの危険が増大したことだった。まるで曲芸を争うような大技の連発で、スリル満点だが、競技者の危険負担は大きく、不安の声も起こった。
 かつて、体操やフィギュアスケートで回転技が増加し、競技者の低年齢化と危険の拡大に、競技団体が規制に動いたことがあった。しかし、テレビ放映権料の魅力は事態をうやむやにさせ、緩和につながったようだ。
 安全確保が財政の安定で薄れた歴史があ ショー化の進展で、多くの競技で刺激的な要素が増えるようになった。競技や競技会のあくなき商業主義化が、人間的な競技を危険な競い合いに追いやることを示している。ドーピング(禁止薬物使用)とともに、現代スポーツを大きく歪めた要因である。

 ドーピングも、国ぐるみの疑惑が消えないロシアで、北京冬季五輪のヒロインになるはずだった15歳のワリエワ選手の悲劇に及び、低年齢化が深刻になった。商業主義化と、国家による政治利用が拡大し、大人の利益のために子どもが使われる危険が高まった。
 国際スケート連盟は、あわてて、出場年齢引き上げの方針を示し、国際オリンピック委員会も動き出した。 他の競技団体は沈黙したままのようだが、ジュニア競技者を健全に育成する責任を放置できないだろう。
 競技関係者の安全第一を目指す動きは強まっている。競技に影響を与えてきたマスメディア、とりわけテレビなどの映像メディアは、安全より刺激を求める姿勢を改めなくてはなるまい。最年少女王などと煽り上げてきた責任があるはずだ。
 スポーツは、安全に安心して楽しむ人間的行為であることを忘れてはならない。
 大野晃(スポーツジャーナリスト)


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2022年03月17日

【スポーツ】3年目の不安な春=大野晃

 ロシアのウクライナ侵略は五輪休戦違反として、ロシアと、同調したベラルーシの競技者が、北京冬季パラリンピックから締め出された。
 メダル獲得候補が多く、一度は個人参加が認められたが、抗議され一転し、競技レベルは低下した。国際オリンピック委員会(IOC)が、両国競技者の国際舞台からの排除を全競技団体に勧告し、多くの競技で、有力な競技者たちが、国際的に孤立した。
  残虐で非人間的な侵略が、徹底否定されるのは当然だ。 しかし、侵略した政府に抗議できない状態に置かれた競技者は救われないのか。
  ロシアは国ぐるみのドーピング(禁止薬物使用)違反の疑惑に包まれ、北京冬季五輪では15歳のヒロイン候補が糾弾された。 しかし、救いの手は差しのべられなかった。
 IOCはじめ競技団体が、競技者の権利と国際的な団結や連帯を第一義的に追求してこなかったことが、悲劇を招いたとも言える。排除だけでは、歪んだ競技環境の改革は望めない。 世界スポーツの将来に暗い影を落とす春である。

 国際競技会の中止などで日本スポーツにも少なからず影響が及ぶ。新型コロナウイルス感染症の感染爆発が治まらない国内では、3年目の不安な春を迎えた。
 サッカーJリーグがスタートし、3月18日にはセンバツ高校野球大会が始まり、プロ野球は3月25日開幕である。 観客制限は緩和されたが、競技者の感染が止まらず、試合ができないのが今年の特徴だ。ラグビーなどで中止が相次いでいる。
 政府や自治体のワクチン接種対策の遅れが影響して、競技者たちが感染防止策を徹底しても、ゼロコロナとはいかないようだ。一般国民のスポーツ活動は制限されたままにあり、学校部活動では、大会出場以外は、対外試合ができない。
  プロ競技の経営は、コロナ禍3年目でより深刻になった。米大リーグでは球団側の強固な姿勢で、労使交渉がまとまらず、27年ぶりの開幕延期となった。
 日本も他人事ではない。
 大野晃(スポーツジャーナリスト)

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2022年02月19日

【スポーツ】競技者の感染が止まらない=大野晃

 新型コロナウイルス感染症の世界的な感染爆発の中で、強行開催された北京冬季五輪は、昨年の東京五輪同様に、世界や開催国民から隔絶された異常な国際競技会となった。
 日本代表のライバルである金メダル候補が感染で欠場したり、隔離されたりが相次いだ。 女子アイスホッケーでは、感染を恐れてマスク姿での対戦もあった。 海外からの陽性者は、開幕直後に、東京五輪を上回るほどだった。
 さらに、人工雪で整備されたスノーボード会場は、極寒で堅い雪に、日本代表が練習中に転倒で大ケガし出場断念に追い込まれるなど、競技者はケガの危険にさらされた。 コロナ禍だけでなく、自然環境でも危うい異常開催の懸念が表出した。
 日本国内では、感染防止対策を徹底しているはずの競技者らに感染が拡大した。 春季キャンプ中のプロ野球では、中日の立浪和義監督やコーチ陣が隔離されたのをはじめ、多くのチームで感染による競技者の出遅れが伝えられた。 大相撲では、横綱の照ノ富士や新大関の御嶽海ら関取70人の約3分の2が出場できずに、トーナメント大会が中止された。
 深刻なのはラグビーで、発足したばかりのリーグワン1部で、開幕から5チームに感染が広がり、AB各組の1回戦30試合のうち3分の1に近い9試合が中止になり、観客が1万人を超えたのは2試合に過ぎなかった。 観客制限は緩和されたが、肝心の競技者の感染拡大が、競技会のあり方を危うくしている。
  感染力の強いオミクロン株の感染防止の切り札と言われるワクチン接種だが、岸田政権の遅れた対策で、進んでいないことが影響しているようだ。
 文科省は、学校部活動の大幅な制限を強め、対外試合は制約された。五輪期間中に、国民スポーツ活動の停止という悲劇的な事態となった。
 マスメディアは北京冬季五輪日本代表のメダル獲得に騒ぐばかりだが、国民の状況に無関心でいいはずがない。
  大野晃

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2022年02月15日

【スポーツ】厳戒下の北京冬季五輪=大野晃

 新型コロナウイルス感染症の世界的な感染爆発の中で、厳戒下の北京冬季五輪が開幕した。
 昨年の東京五輪以上に、隔離と検査漬けで、競技者は不安を抱えながらのメダル争いを続けた。
北京では2008年夏季五輪以来の五輪で、史上初めての同一都市の夏冬開催だが、市内は感染防止の閉鎖状態にあり、海外観客は排除され、市民の観戦は、選ばれた人々の特権だった。
 東京五輪同様に、世界や国民から隔絶された開催となった。7競技で史上最多の109種目を競った競技者たちは、互いに協力しながら、競技を盛り上げることに腐心した。
 競技と選手村生活などでの多種多様な競技者の交流が、国境や人種を超えた友情を育むのだが、接触禁止は、その環境を奪ってしまった。東京五輪が前例となって、異常な開催が連続し、世界の友好と連帯を強める五輪の理想は台無しにされ、世界のファンは裏切られた。
  国際オリンピック委員会は、五輪とは名ばかりの開催を強行し、日本オリンピック委員会は沈黙を決め込んだ。しかも、人権問題の懸念を拒絶して、あからさまに国威発揚を狙う中国政府に、不信は募った。

 世界の一体化と平和を訴えた開会式が、空々しく映った。競技者の姿は、東京五輪と同じ、テレビなどの映像に限られた。高度な技術が示されても、人間らしさは、メダル獲得を煽るばかりのマスメディアからは伝わらない。世界の競技者の実像はほとんど知り得なかった。
  メダル獲得が「スポーツの力」として極端に強調されるが、それはスポーツの魅力の一部にすぎない。競技者全体のさまざまな動きが、人間的な感動を生むことを忘れている。
  南北朝鮮の融和を感じさせた2018年平昌冬季五輪から東京夏季五輪を経て北京へ、東アジアで五輪3大会が連続したが、コロナ禍での不幸にも見舞われ、アジアから世界へのスポーツ発信は、政治に歪められた。
  日本代表のメダル獲得が、国民スポーツ発展のばねとなるかは疑問である。
大野晃



 

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2022年01月24日

【スポーツ】揺れるラグビー再出発=大野晃

 新型コロナウイルス感染症の感染再拡大の中で、ラグビーのジャパン・ラグビー・リーグ・ワンが、1月8日にスタートした。7日夜に東京・国立競技場で予定された開幕戦は、競技者の感染で中止され、揺れる船出となった。
  昨年までのトップリーグを衣替えして、サッカーJリーグにならった地域密着のプロ化を目指す新リーグで、トップリーグとトップチャレンジの計24チームが企業名に本拠地域名をつけて、5月まで1部から3部の王座を争う。1部は、昨年の第18回トップリーグ上位12チームで構成。2部以下は、その他の各6チーム。
  日本一を競う1部は、2組に分かれた2回戦総当たりと他組チームとの1回戦総当たり。上位4チームによるトーナメントで、頂点を決める。日本ラグビーの再出発だ。
  南半球や欧州の最高峰リーグに近づけようと、昨年のトップリーグに各国代表経験のある有力外国出身者を集めたが、継続者が多く、昨年の世界トップ国代表を含め、2019年のワールドカップ(W杯)出場者が20人そろい、国際的な質の高い争いを目指す。
  各チームが協賛、協力の企業や地域自治体との協定などにより、経営安定化と地域貢献を図るが、成功のカギは観客動員。W杯でブームを呼び、直後のリーグは、観衆1万人を超える試合が、21を数えたが、コロナ禍の昨年は1試合平均3500人程度。平均8000人が目標で、各地で大宣伝を展開しているが、コロナ禍の収束が見えず、厳しい環境にある。
 今年は、プロ野球やJリーグが正常化を目論むが、2年間の観客制限の影響で、規制が消えても、ファンが戻るかは予測できない。しかも、感染再拡大は見通しを暗くした。
 無観客や観客制限の3年目となっては、多くの競技の経営や競技者の生活に、計り知れない深刻な影響を与える。2月に開幕する北京冬季五輪も、中国の人権問題に加えて、世界的な感染再爆発に揺れている。
 年頭の危険な状況に、政府の本腰を入れた対策が急務である。
大野晃(スポーツジャーナリスト)
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2022年01月17日

【スポーツ】オミ株感染爆発で戦々恐々=大野晃

  年明けからの新型コロナウイルス感染症の感染再拡大に、日本スポーツ界が揺れている。
昨年11月の感染激減で、年末年始の競技会の正常化を目指し、動き出した矢先の感染再拡大だから、感染力の高いオミクロン株のまん延で再び感染爆発が起こるのではないかと戦々恐々である。
  昨年12月19日のサッカー天皇杯決勝は、観客制限を撤廃し、東京・国立競技場に5万8000人近くの観衆を集め、同年のプロ競技最多観客数を記録した。 ラグビーは年が明けた1月2日の全国大学選手権準決勝で、同競技場に2万2000人を超える観衆を集めた。
 ところが3が日を過ぎると感染は急拡大し、7日の新リーグ開幕戦は競技者の感染で中止。目論見が大揺れを始めた。コロナ禍対策が後手に回った菅前政権とポーズを変えて、岸田政権は早めに手を打つが、甘い見通しで朝令暮改が連続。混乱に拍車をかけるばかり。
  欧米のパンデミックは爆発的であり、北京冬季五輪に黄信号が灯る。国際オリンピック委員会が、東京五輪同様の強引な開催に走れば、五輪そのものの存続の危機に見舞われる恐れがある。
 日本オリンピック委員会にも難問続出である。 いつもは、多くの国民に華やかで新鮮な息吹を感じさせる正月競技会だが、今年は、コロナ対策を継続しながら、国民のスポーツ離れに対し、競技団体による人気掘り起こしの積極的な訴えかけが必要になった。
 チーム経営や競技者の取り組みは限界に近い。無観客や観客制限の3年目に入ると影響の深刻さは大幅に増加する。
 マスメディアは、東京五輪の大騒ぎで国民の反発を招いたことを気にしてか、北京冬季五輪の幕開け目前とはいえ、正月は、メダル獲りの扇動を控えめに、中国の人権問題など政治的扱いを先行させていた。
 とはいえ、新春の競技会で五輪ムード高揚を狙っていただけに、国民の支持を獲得できるかの正念場だ。
 大野晃(スポーツジャーナリスト)

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2022年01月01日

【2021年スポーツ回顧2】世界の特徴=大野晃

1年延期の東京五輪パラリンピックを無観客で異常開催
◎2021年7月8日に、東京都などの無観客実施をIOCと合意した。東京都、北海道、神奈川県、埼玉県、千葉県、福島県の1都1道4県の会場は無観客で実施された。
◎競技関係者は、多国間、多競技間の競技者同士や応援ファンらとの交流禁止で、毎日検査し、移動は選手村など宿泊施設と競技会場に限られ、選手村滞在は競技開始5日前から終了後2日までに制限された。「バブル方式」の隔離と検査漬け。それでも、東京五輪パラリンピック関係者の感染は、選手13人を含む878人に上った。
◎28競技で史上最多の321種目に加えて、日本の要望などで、スケートボード、クライミング、サーフィン、野球・ソフトボール、空手の5競技が追加競技とされ、33競技339種目に膨張した。
◎28競技では、男女均等を目指し、男子種目を5つ減らし、女子種目を11種目増やすとともに、混合団体の9種目を新設し、女子の参加可能種目を165種目に大幅拡大した。若者に人気の自転車BMX(モトクロス)フリースタイルやバスケットボールの3人制(3バイ3)を加えた。テレビ映りのいい種目増で、競技や限られたトップ競技者の商品見本市化が拡張し、五輪の興行化は頂点に達した。
◎出場選手数は制限され、28競技で男子5440人、女子5176人の計10616人、男女比は男子51.2%、女子48.8%になった。追加競技を含めると、男子5704人、女子5386人の計11090人、男女比は男子55.7%、女子44.3%。五輪の簡素化を目指した「アジェンダ2020」で種目数の上限を310種目程度、出場選手数の上限を10500人程度としていたが、一気に突破した205カ国が参加し、ロシアはドーピング違反で選手団参加が禁止され、北朝鮮は不参加を表明した.。リオデジャネイロ五輪に続き、難民選手団が結成された。
◎競技運営費用や関係者の増大、輸送などで開催地に大幅な負担増となった。

2022年北京冬季五輪・パラリンピック開催に暗雲
◎2021年9月29日にIOCが大会組織委員会の方針を承認し、観客は中国本土在住者のみ容認することが決まった。東京五輪に続いて海外からの観客受け入れは断念。大会参加者は東京五輪同様に隔離と検査漬けで、ワクチン未接種者は北京到着後に21日間の隔離措置。
◎2021年12月6日に、米国が北京冬季五輪パラリンピックに米政府の代表を派遣しない「外交的ボイコット」を表明した。「中国の新疆ウイグル自治区で進行中のジェノサイドと人道に対する罪、その他の人権侵害」を理由とした。選手団は派遣する。豪州、英国、カナダなどが同調。IOCは12月11日の五輪サミットで外交的ボイコットに「五輪とスポーツの政治化に断固として反対する」と宣言した。
◎五輪テスト大会でも感染者が出た。
◎北米プロアイスホッケーリーグがコロナ禍の公式戦消化のため、2018年平昌冬季五輪に続き、不参加を決定した。

五輪開催地決定方式の大幅改定で招致合戦が消える
◎五輪開催地決定方式を2017年に変更し、2024年パリ夏季大会、28年ロサンゼルス夏季大会を同時決定したIOCは、2019年6月に、さらに開催地選定方式を大幅に変更し、2021年7月21日に、2032年夏季開催地に、豪州・メルボルン市を決定した。
◎2019年の改訂に基づき、21年2月に、IOC将来開催地夏季委員会が、2032年夏季開催地に、豪州・メルボルン市を選定し、同委員会の答申に基づき、IOC理事会が決定し、IOC総会に提案して、承認を受けた。
◎膨張した大会経費で開催地立候補が極限する中で、IOCが方針転換し、IOC総会へ向けた招致合戦は姿を消すことになった。

IOCが五輪での差別撤回のパフォーマンスを認める
◎IOCが、東京五輪で、片膝をついて人種差別に抗議するなどの政治的パフォーマンスを一部認め、サッカー女子などで拡大した。米国女子選手による「抑圧された人々」への連帯行動も認めた。
◎ジェンダー平等を目指すIOCの方針により、東京五輪で性変更選手が重量挙げに登場した。性的興味の映像などを防ぐため、ドイツ女子体操チームが足首までのタイツを使用するなどスタイルに変化も出た。

大谷翔平投手が米大リーグMVPに
◎米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平投手が、最高の栄誉であるア・リーグの最優秀選手(MVP)に選出された。日本選手としては2001年のイチロー外野手(マリナーズ)以来20年ぶり2人目だった。
◎投打の二刀流で、大谷は、投手として9勝2敗、防御率3・18、156奪三振、打者で打率2割5分7厘、46本塁打、100打点、26盗塁の好成績を残した。本塁打はリーグ3位、盗塁は同5位。選手間投票による両リーグの年間最優秀選手にも選ばれた。

欧州のサッカーなども観客制限で再開
◎欧州などのサッカーやラグビーのプロ競技が、無観客や観客制限で実施されたが、サッカー欧州選手権で、英国政府がロンドンの競技場で開催し、6万人以上を収容した決勝、準決勝を含む計8試合分を集計した結果、約6400人が感染したとみられると公表した。
◎英国スコットランドの公衆衛生局は、サッカー欧州選手権の試合を観戦したり、関連イベントなどに参加したりしたスコットランド住民ら約2000人が新型コロナウイルス感染症に感染したことが確認されたと発表した。
大野晃(スポーツジャーナリスト)
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2021年12月31日

【2021年スポーツ回顧1】日本の特徴=大野晃

多くの国民が反対する中で1年延期の東京五輪パラリンピックを強行開催

◎東京都、北海道、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県、静岡県、宮城県、福島県の1都1道7県の42競技会場で大幅な広域開催となった。
◎東京五輪パラリンピックの大会経費が招致時の約2倍の1兆 4530億円の見通しになったと2021年12月22日に組織委員会が発表した。組織委が6343億円、東京都が6248億円、国が1939億円を負担する。
◎会計検査院の試算では、2013年度から17年度に国の関連支出が8011億円に上ったとし、都以外の自治体の開催費用などを含めると、2020年までに全体支出は3兆円規模に膨らむ可能性が高いとした。
◎聖火リレーは、全国で約4割の20都道府が一部の中止を決めたほか、実施しても、公道を使用せず、引き継ぎ式だけがほとんどだった。
◎日本国内での各国選手団の事前合宿も相次いで中止された。
◎新型コロナウイルス感染症の感染者数は、日本全国で大会中に、1日1万5000人を超え、大会終了後は2万5000人を超える感染爆発をもたらした。

日本選手団はメダルラッシュも競技拡大なし

◎日本選手団(1060人で選手583人=男子は306人、女子は277人で全体の約47.5%、役員477人)の選手数は、夏季大会史上最多だった。全競技に出場し、金メダル30個獲得が目標だった。獲得メダル総数は、58(金27、銀14、銅17)で史上最多だった。
女子30も史上最多だった。メダル獲得率は、5・70%で1964年東京大会の5.93%に次ぐ史上2位だった。
◎金メダル獲得は、女子が14、男子が12、混合1だが、7競技と新3競技の10競技に限られ、御四家と言われる柔道9、レスリング5、水泳2、体操2に集中し、従来と変わらず、新競技のスケートボード3、野球・ソフトボール2、空手1が押し上げた。
◎新型コロナウイルス感染症の感染拡大で、世界の競技環境が 劣悪化した中でも、大きな地元の利は見られず、強化の偏向が顕著になった。

意思表明しないJOCに不信が広がる
◎山下泰裕会長が2期目に再任されたJOCは、開催反対の声が高まった東京五輪に対し、五輪代表の意見集約をせず、意思表明をしないまま参加した。さらに十分な総括もせず、その主体性に不信の声が広がった。
◎北京冬季五輪に対しても、沈黙のJOCは変わらず、国民と競技者の溝は、深まるばかりだった。 

プロ野球でヤクルトが20年ぶり日本一
◎延長戦なしで行われたプロ野球は、セ・リーグでヤクルトが、2 年連続最下位から、6年ぶり8回目の優勝を飾った。2015年に2年連続最下位から優勝した時と同様の下克上優勝だった。パ・リーグもオリックスが、2年連続最下位から、25年ぶり13回目の優勝を成しとげた。中嶋聡監督が就任1年目の快挙で、両リーグの前年最下位がともに優勝するのは初めてだった。
◎日本シリーズは、ヤクルトがオリックスを4勝2敗で降し、20年 ぶり6回目の日本一となった。
◎セ、パ両リーグの観客数は、前年より6割増しとなったが、201 9年の3分の1程度にとどまった。

大横綱・白鵬が引退し照ノ富士の一人横綱に
◎大相撲で歴代最多45回の幕内優勝を誇った横綱・白鵬が秋場所後に引退した。モンゴル出身で2007年夏場所後に横綱に昇進し、15年間にわたり、野球賭博問題や八百長問題、東日本大震災など大揺れの大相撲を、一人横綱などで引っ張ったが、横綱審議会などから苦言を呈されることもあった。
◎日本相撲協会は9月30日に元横綱・白鵬の引退と年寄「間垣」の襲名を、新人親方の誓約をさせた上で認める異例の手続きを踏んだ。
◎白鵬に先立って、横綱・鶴竜が引退し、白鵬の休場で横綱不在の場所が多かったが、モンゴル出身の後輩の新横綱・照ノ富士が秋場所で優勝し、一人横綱でリードすることになった。
◎大相撲春場所で、三段目力士・響龍が投げを受けた際に頭部から俵付近に落ち負傷し、1カ月の入院の末、急性呼吸不全で亡くなった。
◎力士の新型コロナウイルス感染症の感染で、宮城野部屋の全力士が休場するなど、休場が多かった。

Jリーグは川崎が2連覇
◎サッカーJリーグJ1は、観客制限で、川崎が、2年連続4度目のリーグ優勝を決めた。
◎Jリーグの多くのクラブで赤字や債務超過が進み、経営難が深 刻になった。

大学の競技会や甲子園の高校野球再開
◎大学の競技会は、無観客や観客制限で再開され、夏の甲子園全国高校野球も観客制限で再開された。
◎高校野球大会では、延長戦のタイブレーク方式が採用され、投手の1週間500球以内の投球数制限が実施された。
◎再開された全国高校総合体育大会に、8競技15校が出場を 辞退した。 

国体の中止が続き、ねんりんピックも中止に
◎三重県で開催予定だった国民体育大会と全国障害者スポーツ大会が中止された。国体中止は2年連続、障害者スポーツ大会の中止は3年連続。
◎新型コロナウイルス感染症の感染拡大のため、「ねんりんピック(全国健康福祉祭)」が初めて中止された。

子どもの体力低下が顕著に
◎スポーツ庁が、小中学生を対象とする2021年度の全国体力テスト結果で、男子小中学生の体力合計点が2008年度の調査開始以来最低を更新したと発表した。小学校の男女と中学校の男子は肥満の割合が過去最高となった。
◎新型コロナウイルス感染症の感染拡大による一斉休校や学校での活動制限などが深刻な影響を与えているとみられた。
◎スポーツ庁はじめ、日本スポーツ協会、そしてJOCも、対策を 示さず、一般国民の運動不足解消の対応も鈍かった。

10eスポーツ人気が高まる
◎対戦型ゲームで勝敗を競う「eスポーツ」に企業、学校、自治体が群がり、人気利用に動き出した。

スポーツ・マスメディアの問題点
1、東京五輪パラリンピックの異常開催を、無観客を条件に容認し、政治利用の批判を回避した。
2、東京五輪パラリンピックのメダルラッシュには無批判に大騒ぎした。
3、東京五輪パラリンピックの異常開催に動揺する競技者が少なくなかったが、五輪代表の社会的使命を問わなかった。
4、五輪の抱える問題に対し、IOCへの揶揄はあっても、掘り下げることがなかった。
5、東京五輪パラリンピックの異常開催に沈黙したJOCへの批判が姿を消し、スポーツ庁批判は皆無だった。
6、プロ野球や大相撲の時代変化に敏感に対応できなかった。
7、感染拡大防止策による取材制限もあって、競技の内容分析を欠いた。
8、外出自粛などで制限された草の根スポーツへの関心を失った。
9、スポーツ離れの国民意識の変化に鈍感だった。
10、スポーツの力を強調しながら、人間的価値の探究を怠った。
  大野晃
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2021年12月18日

【スポーツ】揺らぐ競技者の主体性=大野晃

 新型コロナウイルス感染症の拡大で、2年間に及ぶ異常事態が続いた日本スポーツで、競技者の社会性が揺らいでいる。
 国民の多くが感染爆発を恐れて開催に反対したのに、無観客で隔離された東京五輪の異常開催に意思表明せずに無批判に参加し、総括しないまま、来年の北京冬季五輪出場を目指す日本オリンピック委員会(JOC)と五輪代表は、国民とかけ離れてしまった。
 しかも政府は、北京冬季五輪に関する国連休戦決議に参加せず、米国主導の外交的ボイコットに同調の構えのようだ。五輪を通じて平和を希求するはずのJOCだが、北京冬季五輪で、主体的に、中国を含めた世界の競技者と連帯できるのか。
 競技者が、人種や性の差別に反対する行動で意識変化を起こしながら、競技専念の生活では、国民の支持に不安を感じて不思議はない。しかし、社会活動が制限されて、主体的に動けない。
  政府の規制が長引き、競技者の主体性すら薄れたのではないかと危惧する。主体性の喪失は、社会性の放棄に通じ、国民とともに生きる競技者の存立基盤を失わせる。

  一方で、プロ野球ではヤクルトが20年ぶりに日本一となり、大相撲は記録ずくめの横綱・白鵬が引退し、照ノ富士の一人横綱となった。 日本を代表するプロ競技で、大きな時代変化が起こっている。
 米大リーグで大谷翔平投手が大活躍し、東京五輪ではメダルラッシュだった。その都度、マスメディアは大騒ぎした。しかし、大きな社会的反響は、見出せなかった。
 それだけ、スポーツが「見て面白い」娯楽に閉じ込められて、生活には身近に感じられなくなったからではないか。
 国民の運動不足以上に、豊かな生活に不可欠とされるスポーツに親しむ意識の減退にこそ、コロナ禍の深刻な問題がある。 競技者と国民の溝、スポーツ離れの克服が、スポーツ庁やJOCなどスポーツ関係者とマスメディアに突きつけられた重い課題だ。
 大野晃
   
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2021年11月29日

【スポーツ】個性尊重の指導が求められている=大野晃

 エンゼルスの大谷翔平投手が、米大リーグで最高のア・リーグ最優秀選手(MVP)に選ばれた。投げて9勝、156奪三振。打って46本塁打、100打点。走って26盗塁。チームは優勝に遠かったが、投打の二刀流で申し分ない見事な成績だった。
  日本人としてイチロー外野手以来の20年ぶり2人目の栄誉だが、伝説的なベーブ・ルースに挑んだ27歳の若きヒーロー誕生で、コロナ禍の米国ファンの夢を育んだ。
 テレビ観戦がほとんどの日本人ファンも歓喜した。パワフルな豪速球を投げ込み、三振を恐れずに豪快に振り抜く。ライナーでスタンドに突き刺さる本塁打は本場ファンの度肝を抜いた。
 笑顔を絶やさず、生真面目で、しかも、楽しそうにプレーする姿は、さわやかで大らかな青年の魅力を振りまいた。その裏で、体を鍛え抜いてケガを克服し、研究熱心な努力家でもある。
 高校野球ならエースで4番はあっても、プロ野球では、投打二刀流は理想であり、憧れであっても、現実的ではないと思われてきた。しかし、193aの恵まれた体格と高い潜在能力を見込まれて、日本ハム時代から大きく育てることに、指導者が十分に留意し、渡米後も継続されて開花したが「米国の方が、二刀流を受け入れてもらえた」と言う。うれしい挑戦の場があったということだろう。

 ともすれば、日本野球は、勝利至上で競技者を型にはめて、個人プレーの評価を狭くする傾向があり、大きな飛躍の障害となるケースが少なくなかった。だから、奇跡の幸運児でもある。
  多くの競技で、大型の外国人に匹敵する日本人離れした体形の少年が育っている。鍛え方しだいでは、大きく能力を伸ばす可能性を秘めている。
 大谷の躍進は、保守的な日本的指導法に新たな問題を投げかけた。イチローの活躍以来、個性を尊重する指導の必要性が訴えられた。
  しかし、多くの指導者が改革には尻込みしがちである。第二、第三の大谷登場を見逃してはいないだろうか。
 大野晃(スポーツジャーナリスト)
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2021年11月19日

【スポーツ】感染激減で正常化に焦り=大野晃

 新型コロナウイルス感染症の感染者激減で、プロ野球やJリーグは、来シーズンからの正常化を実現する意気込みだ。
 観客制限が続いたプロ野球の今シーズンの観客数は、より規制の厳しかった昨シーズンからの緩和を政府に要望したこともあって、6割増しになったとはいえ、感染拡大前の2年前のシーズンの3分の1にすぎなかった。 正常化は切実だが、日本シリーズでは延長戦を復活させるなど焦りも感じられる。
 高校部活動の大会や対外試合は2年連続して規制下に置かれ、在学中に正常な活動を経験できないまま卒業する悲劇的な競技生活の恐れもある。まして市民スポーツレベルでは、正常化の見通しが立たず、グループの解散、縮小の危機に直面している。
 スポーツ庁は競技団体経営の効率化を訴えるばかりで、国民の競技環境改善の方途を示さない。強調されてきた東京五輪の国民スポーツへの遺産は、巨額を投じた競技会場の維持難という負の遺産だけなのか。
 メダル獲りを煽った民放テレビは、相変わらず五輪メダリストの番組タレント化を狙い、卓球の銀メダリストが大ケガをする事故まで起こした。

 11月に入って晴天が多かったため、公園で運動不足解消のマスクをしたランニング姿を多く見かけたが、国民の欲求不満は高まるばかりらしい。 しかし、日本スポーツ協会は知らんふりである。政府の無策ぶりが伝染して、公的なスポーツ振興機関の怠慢が、スポーツ関係者の焦りを生んでいるようだ。
 WITHコロナのスポーツライフは、屋内で個人的に、ということか。オンラインでゲームに取り組めばいいとでも言わんばかりだ。コロナ禍で、国民のスポーツ権無視が目に余る。
 政府が経済活動活性化に集中して、会食や旅行の規制緩和に動いても、国民の生活再建は見通せない。
  マスメディアは、多方面からの安全、安心な再建策を提示する努力が必要だろう。
   大野晃(スポーツジャーナリスト)

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2021年11月09日

【スポーツ】下剋上のプロ野球=大野晃

 激戦のプロ野球セ・リーグでヤクルト、パ・リーグでオリックスが、ともに、2年連続最下位から一気に頂点に上りつめた。
ヤクルトは、2位の阪神と大接戦で、6年ぶりの優勝。 オリックスは、2位のロッテと最終盤までもつれる競り合いで、試合日程終了後に、実に25年ぶりの栄冠が待っていた。
 ヤクルトの高津臣吾監督は、就任2年目、オリックスの中嶋聡監督は、1年目の快挙だった。新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策で、観客が制限され、延長戦のない異例のシーズンで、ヤクルトは、開幕時に主力を感染などで欠き、苦しいスタートだったが、若手とベテランが補って乗り切り、入国制限で遅れた新戦力の外国人競技者が合流して、勢いをつけた。 東京五輪で本拠地の神宮球場が使えないハンデも、しのぎ切った。
 オリックスは、2017年に練習拠点を神戸市から大阪市の舞洲に移して、じっくり育った競技者たちが力をつけ、セ・パ交流戦で11年ぶりに優勝して、波に乗った。 イチロー外野手の大活躍以来、四半世紀を経ての優勝だ。

 厳しいシーズンは総合力がものを言うが、ヤクルトは、救援投手で米大リーガーでもあった高津監督の指導で、投手陣のチーム防御率が飛躍的に高まり、強力打線を支えた。
 オリックスは、エース山本由伸と高卒2年目の宮城大弥の両投手が安定した力を発揮し、強力な上位打線が爆発した。2軍監督から昇格した中嶋監督の、競技者の能力を見抜いた適材適所の起用が効を奏した。
 両チームの共通点は多いが、何よりも、競技者たちが互いに補い合うチーム一体の闘いぶりを貫いたことと、優勝への意欲を高めたことが大きい。
 競技者たちは、低迷の悔しさをバネに、諦めずに挑んで、自信を深めていったことを強調した。
 両監督は「負け犬」からの脱却を訴え続け、競技者の自主性を引き出すことに腐心したらしい。目標を高く持ち、力を合わせ、着実に、諦めずに努力を続けた成果が、下克上を可能にしたようだ。
 大野晃(スポーツジャーナリスト)



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2021年10月19日

【スポーツ】3大懸念の北京冬季五輪=大野晃

 来年2月4日の北京冬季五輪開幕まで3カ月余りに近づいた。2008年夏季五輪に続く、史上初の夏冬五輪同一都市開催であり、2018年韓国の平昌冬季五輪から東アジアでの3五輪連続開催の締めくくりとなる。
  東京五輪の教訓が生かされるか注目される。新型コロナウイルス感染症の感染収束が見えない中で、国際オリンピック委員会と同五輪組織委員会は海外からの観客受け入れを断念した。
  熱烈な応援の中国観客が圧倒的に取り巻く中でのメダル争いとなる。
 海外の競技者が参加してテスト大会が始まっているが、東京五輪と同じ隔離と検査漬けを特徴とする感染防止対策が徹底されるようだ。東京五輪が都民の感染爆発を招いたように、地元民の感染拡大に不安はないのか。
 競技は混合種目が増えて7競技109種目と史上最多に膨らんだ。会場は3地域に分かれ、スケートなど屋内競技は北京市内に集中し、アルペンスキーとそり競技は北部の延慶区で、ノルディックスキーなどは北 京市から約160`離れた万里の長城に近い張家口市で行われる。

  近年の冬季五輪で最大の課題は、雪不足など温暖化による自然環境対策。人工雪で克服するというが、スムーズに競技できるかは未知数だ。 
 しかも、米中対立の厳しい国際情勢が左右しかねない。バイデン米政権には政府関係者の参加ボイコットの声もあり、中国の人権問題が障害になる恐れがある。
  国際政治に振り回され、政府がボイコットを言い出したら、日本オリンピック委員会は、どう対応するのか。
  夏季五輪で中国批判を繰り返したマスメディアだが、踏襲するだけで、メダル獲りに大騒ぎか。
北京で2度目の五輪開催は、コロナ禍での社会問題、温暖化の自然環境問題、そして複雑な国際問題と、3大懸念を抱えた、むずかしさを示す。
 3五輪連続開催が、アジアのスポーツ発展に何をもたらしたかを見つめ直す場でもある。
大野晃(スポーツジャーナリスト)


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2021年10月12日

【スポーツ】身勝手な国際感覚=大野晃

 大相撲をリードした横綱・白鵬が引退した。 横綱として15年間にわたり、野球賭博問題や八百長問題、東日本大震災やコロナ禍など、大相撲が揺れ動いた苦境の時代を乗り越え、45回の優勝など数々の記録を樹立した。
 少年時代にモンゴルから来日し、厳しい環境の中で、鍛錬を積んで頂点に立ち、米国ハワイ出身の高見山以来続く外国人力士が日本伝統の大相撲を支え発展させた象徴的な存在になった。
 にもかかわらず、立ち合いの強引さなどで、横綱の品格を批判されることもしばしばだった。
モンゴル出身の後輩横綱・照ノ富士など外国人力士抜きに興行は成り立たないのだが、大相撲関係者などに、外国人力士への差別意識が根深いようだ。
 米国大リーグで、大谷翔平投手が2桁勝利、2桁本塁打で本塁打王の、二刀流の偉業に迫った。 神様ベーブ・ルース以来、103年ぶりの快挙をファンは固唾をのんで見守った。日本人競技者の躍進に拍手を惜しまなかった。
 海外で活躍する日本人競技者が多くなったが、海外のファンは喜んで迎え入れている。
 なのに、日本では、海外での成果には大騒ぎはするが、伝統を強調する競技を中心に、外国人競技者を素直に受け入れようとはしない。 スポーツに国境はないはずだが、日本人のスポーツ観には、垣根があるようだ。

 五輪で、日本代表のメダル獲りばかりを追うのは、そのためだろう。ひいきの応援に熱心なあまり、高い能力による競い合いの面白さや競技の醍醐味を、見逃す観戦者が少なくない。
 自ら競技を体験することが、極端に少ないからではないか。学校卒業後は、資金がなければ、挑戦する機会や場がほとんどない。
 「誰もが、いつでも、どこでも」の国のスポーツ振興策が、かけ声倒れになっているからだ。
 国際化を喜ぶファンが多くはなったが、競技は見るだけに限定される状態が続くと、身勝手な国際感覚の温床になりかねない。
大野晃(スポーツジャーナリスト)
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2021年09月20日

【スポーツ】JOC、五輪検証を行うのが責務=大野晃

 危惧された新型コロナウイルス感染症の感染爆発と、強行開催で国民の批判を浴びた菅政権崩壊の中で、東京五輪パラリンピックが幕を閉じた。
  国民の競技参加の機会はさらに遠のき、コロナ禍対策の最重要な時期に政治空白をもたらした。五輪代表の無理やりの挑戦のおかげで、多くの国民がスポーツの場を奪われた事態を、異常開催を推進した日本オリンピック委員会(JOC)はどう考えるのか。
 国民スポーツの再建には、代表の意見を集約することなく開催に突き進んだJOCの総括が不可欠だ。 代表たちが「メダル獲得で感謝」で通用するのはテレビなど称賛したマスメディアに対してだけに過ぎない。
 代表の自覚は国民への責任でもある。スポーツ権を行使できるのは選ばれた者だけなのか。力を育んだ学校部活動などは停止に追い込まれ、地域スポーツの制限は強まった。
 無観客の競技会が当たり前になり、五輪代表を目指す環境条件は厳しさを増した。コロナ禍の影響ばかりでなく、五輪成果に一面化されたスポーツ行政により、一般国民の競技スポーツ参加は困難さに直面している。
 国民体育大会や全国健康福祉祭も中止され、さまざまな競技会が規制された。競技団体が結集するJOCは広く大きな国民スポーツに支えられて存在する。
 しかし国民スポーツの拡大、発展を重視してきたと言えるのか。JOCは広く国民に開かれた組織に変わる必要がある。まずは会議を公開するなど自立を目指した原点に帰って、東京五輪の全面的な検証に取り組まねばなるまい。
 政府に意見が言えないうえ、参画する国際オリンピック委員会(IOC)にすら、ものを言わないJOCでは、五輪代表を送り出す資格はない。バッハ会長を揶揄するなど、盛んにIOC批判を繰り返したマスメディアだが、足元のJOCのあり方に沈黙していたのでは、五輪報道の使命放棄と言うしかない。
 大野晃(スポーツジャーナリスト)
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2021年09月17日

【スポーツ】子供らの競技離れ加速か=大野晃

 新型コロナウイルス感染症の感染急拡大の中で強行開催された東京五輪パラリンピックは、感染爆発を招いて閉幕した。
 命の危険が増大し、秋のスポーツシーズンは、閉鎖の瀬戸際にある。
 無観客の巨大国際競技会は、改めて特殊環境でなければ、トップ競技者の競技継続がむずかしいことを教えた。家族の全面協力や企業スポンサー支援、国の特別補助を受けることが条件であり、気軽に挑戦はできない。
 テレビ映像などで接するしかなかったことで、一層、競技スポーツを特殊で、見るだけのものと強く印象づけた。
 夏休み明けの学校新学期は、再開されても、分散登校やオンライン授業などで、友だちとの交流が大幅に制限され、楽しい部活動は停止されそうだ。
  競技に親しむ契機となる学校部活動の制限は、さらに、子供たちの競技スポーツ離れを加速させる恐れがある。コロナ禍で、夏の全国高校野球は大会中に2校、全国高校総体では24競技に74校の出場辞退が相次いだ。

  トップを目指す競技者の不安も大きい。1964年東京五輪は、競技を楽しむ草の根スポーツ発展の契機となって、70年代に、全国の地域や職場で、誰もが手軽に参加できる競技スポーツグループが拡大した。
 半世紀すぎて、2度目の東京五輪は、国民の広く大きなスポーツ参加のバネにはなりそうもない。三重国体や全国健康福祉祭も中止された。 コロナ禍の影響ばかりではない。
 東京五輪パラリンピック開催は、国民スポーツの拡大を目指してはいなかった。だから、新国立競技場などの新設、整備された大型競技場の大会後の利用策は、明確になっていない。
 国のスポーツ行政は、多くの国民のスポーツを軽視し、地方自治体も、観光客誘致のイベントばかりに熱心だ。 東京五輪パラリンピックは、国民のスポーツライフに何ももたらさず、重い税金負担だけを残した。
 国民のスポーツ権を重視するスポーツ行政に転換することこそ、日本スポーツの再出発には不可欠である。
 大野晃(スポーツジャーナリスト)
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2021年08月19日

【スポーツ】いびつなメダル獲得策あらわ=大野晃

  異常五輪は、全国に新型コロナウイルス感染症の感染爆発をもたらした。
命の危険をメダル獲得が相殺するとでも言うように、テレビはメダルラッシュに大はしゃぎで、新聞は日本勢の競技ばかりに大きく紙面を割いた。
 コロナ禍で、海外代表が練習不足に追い込まれ、酷暑に悩まされる中での有利な条件下でも、日本代表のメダル獲得の内実は、5年前の五輪と大差なかった。
 獲得競技の極端な偏向が継続し、地の利は東京特薦の新競技に集中した。28競技306種目の前回から33競技339種目にも膨れたが、27の金メダル獲得のうち、24は、柔道、レスリング、水泳、体操の御四家計18と特薦3競技6が占めた。
 特薦競技を除けば3競技だけで、全競技の3分の1に満たない。58の総メダル獲得競技も、特薦競技を除くと前回から4競技増にとどまった。
 少ない競技で世界の頂点に挑む傾向は、21世紀に入ってから、ほぼ変わらない。

 人気の集団球技は、特薦競技で東京五輪後は消える野球とソフトボールで金メダルを確保し、女子バスケットが初めて銀メダルを獲得したが、他はほとんどがメダルには遠かった。
 開催国特権で全競技に出場した日本代表だが、政府主導のいびつなメダル獲り策では、広く多くの競技が発展する大きなバネにはならなかった。
 強引な開催は、日本代表を飛躍させることができず、世界新記録はわずかで、国際総合競技会としても、異様なほど低調だったことを示した。
 巨額な税金で整備された競技会施設を有効に利用するには、スポーツ基本法に基づく国民のスポーツ権を重視したスポーツ政策が不可欠である。
 マスメディアは、相変わらず日本勢の動きしか伝えず、世界が見えない鎖国的報道に終始した。映像観戦を強いられたファンが、会場などに詰めかけ、世界を知りたがったのは無理もない。
大野晃(スポーツジャーナリスト)
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