
以前によくサラ金の過払い金訴訟についてのビジネスをして利益をあげていた法律事務所のことが伝えられていたが、サラ金訴訟が期限を迎えたり対象が少なくなったこともあってその後はB型肝炎や基地騒音なども扱っていたが、最近建設アスベストについても扱うというある法律事務所のテレビCMを見て驚いた。アスベストも損害賠償稼ぎの対象となっていることを示している。
こうした背景には建設アスベスト訴訟が勝ち進んでいて2012年の東京地裁以来、昨年の福岡高裁まで国に11連勝していることによる。国から賠償金が支払われることを見込んでいるのだろう。しかし建設アスベストは金銭保証だけではなく、命と健康に対する問題である。過去、建設現場では大量の石綿粉塵が飛び散って被害にあった。
アスベスト関連疾患の業種別割合は建設業が52.4%を占める(2017年度)。アスベストの発がんリスクは1日8時間・年250日・50年間この環境にいると1000人に1人の過剰発がんを起こすと言われ、肺がんや肺を覆う胸膜にできるがんの一種である中皮腫などのアスベスト関連疾患により多くの被害者が命を落としていて、生存している原告はわずか28%であり、速やかな解決が求められている。
また、その後や現在でも老朽化や自然災害に伴う建物の取り壊しの際に、きちんとした装備をしないなど防護せずに作業に当たり、労働者や周辺住民が飛散した石綿を吸引する事例が起こっている。石綿含有建材の解体作業では許容濃度の15倍以上の石綿繊維が浮遊しているという。ある資料によると2000年から2040年までに10万人が死亡するという研究もある。
今年2月に放送された日テレ系「NNNドキュメント」(大阪・読売テレビ制作)でも、静かな時限爆弾といわれるアスベストを取り上げた。
1995年の阪神大震災の時に崩れた建物から飛散したアスベストを吸った人が約25年間の潜伏期間を経て突然発病して、あっという間に死亡するケースや、いまだ280万棟にアスベストが含まれている可能性を指摘して、建材の老朽化によって多発する被害と迫る脅威に警鐘を鳴らした。
訴訟原告の連勝で国の責任は確定的になってきたし、並行して行われている建材メーカーに対する裁判でも昨年の福岡高裁や2018年の大阪高裁など6つで全面勝利となり賠償が命じられた。
今年はいよいよ最高裁の判決が予想されていて裁判は最終局面に入るが、裁判だけではすべての建設アスベスト被害の救済ははかれないと、原告団や支援する人たちでつくる「建設アスベスト訴訟全国連絡会」では被害の救済が出来ない人たちに向けて「補償基金制度」の創設を求めて活動を始めた。
責任を負うべき国とメーカー、さらに安全配慮義務違反の責任を問われているゼネコン等が応分の負担をして基金を創設して被害者の救済することが求められている。提訴から12年を経てだんだんとそして確実に勝訴の範囲は広がり、次の勝負は最高裁である。
最高裁は他の判例を見ながら、世論の動きも見ているので、署名活動は有効な手段だといわれている。可能な限り支援をしたい。
伊東良平(神奈川支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年3月25日号