森友学園問題を巡る公文書改ざん事件で自殺に追い込まれた近畿財務局職員、赤木俊夫さんの手記が3月23日公表され、新たな展開を見せている。
テレビはこの問題をどう伝えているか。
TBSは基幹ニュースや報道番組で積極的に取り上げ、掘り下げた報道を展開した。
狼狽する首相
手記公表当日の「ニュース23」では、自殺した赤木さんの妻が「安倍首相と麻生大臣は調査される側で、再調査しないと発言する立場ではない」と抗議していることを伝え、国会での安倍首相答弁を放映した。
共産党の小池晃議員が「総理と総理夫人の国有地売却に関する質問に答えるために改ざんされたと認めている」と追及。安倍首相は「いや、そういう特定のことではなく、膨大な、削除されたことが沢山あるわけで、そういうことを含めて答えている」と狼狽する姿を映し出した。
二度殺すようなもの
赤木さんの妻を取材した大阪日日新聞の相沢冬樹記者がインタビューに応じ、「新事実が出ているのに『新事実は無い』と言うのは、手記に書いてあるのが嘘と言うのか。首相や麻生氏の発言は、(赤木さんを)二度殺すようなものだ」と厳しくコメントした。
28日放送の「報道特集」では、金平キャスターが赤木さんのパソコンと向き合った。このパソコンに手記が遺されていたのを、赤木さんの死後、妻が見つけたのだ。金平氏は「僕らの仕事にとって、パソコンは分身みたいなものです」と赤木さんを思い遣った。
もうひとつの文書
相沢記者によると、赤木さんは近畿財務局のパソコンに、改ざん指示の詳細を記したもう一つの文書を残している。
相沢記者は「どこからの指示で、どの文章のどの部分を書き換えたのか。パッと見たら全部わかる資料。『全部見てもらおう』と検察庁に出した。財務省にも原本はある」と語る。
赤木さんの妻が26日、「報道特集」にメッセージを寄せた。「悪しき風土を作っているのは、麻生大臣です。しわ寄せは夫のような立場の人たちのところに来ると思います。このような悪い風土を無くすためにも、再調査を進めてください」と訴えている。
人間の尊厳に係わる
金平キャスターが「死者が残したものは、人間の尊厳にかかわる問題だ。公務員としての良心があるのなら、財務省、検察庁、法務省は再調査すべきだ」と締めくくった。
TBS以外では、各局は揃って「IOCが東京五輪延期検討」に多くの時間を割き、赤木さんの手記については、質量ともに見るべき報道は少なかった。
テレビ朝日の「報道ステーション」は、国会での審議については「再調査はしない」とする麻生財務相らの答弁を中心に構成され、後藤コメンテーターが「再調査すべきだ」と解説したものの、精彩を欠いた。
NHKの「ニュースウオッチ9」は、赤木さんの手記公表を独立項目では扱わず、何と国会論戦≠フ1項目で伝えるという仰天構成で、視聴者を唖然とさせた。
赤木さんが遺した手記がメディアに問うているのは、安倍政権の「知る権利」侵害の意図を見極め、森友事件の真実に迫る取材を強化してほしいということだ。
テレビは、赤木さんの死と森友事件の真相解明を、新型コロナ報道に埋没させてはならない。
河野慎二
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年4月25日号
2020年05月14日
2020年04月30日
【森友事件】 再調査拒否に厳しい視線 赤木さん「手記」が問いかけたもの=木村真
森友問題の公文書改ざん事件で改ざん作業をさせられ、自死に追い詰められた近畿財務局職員・赤木俊夫さんの「遺書」とも言うべき手記が公開され、大きな波紋を呼んでいる。
手記は、財務省からの改ざん指示を実名入りで書いた生々しい内容。「修正作業の指示が複数回あり現場として私はこれに相当抵抗しました。楠管財部長に報告し、当初は応じるなとの指示でしたが、本省理財局中村総務課長をはじめ田村国有財産審理室長などから楠部長に直接電話があり、応じることはやむを得ないとし、美並近畿財務局長に報告した」などの記述を読むと、2018年6月の財務省による調査報告書では見えなかった細部が浮かび上がってくる。
あまりに酷すぎる
さらには、「刑事罰、懲戒処分を受けるべき者」として、「当時の佐川理財局長、理財局次長、中村総務課長、企画課長、田村国有財産審理室長ほか幹部、担当窓口の杉田補佐(悪い事をぬけぬけとやることができる役人失格の職員)」を告発している。
会計検査院の検査や野党国会議員からの資料請求に対する隠ぺいについても、「資料はできるだけ開示しない」「文書として保存していない」など本省の指示を具体的に書いている。そして麻生財務相や太田理財局長(当時)の国会答弁は「詭弁を通り越した虚偽答弁」と断じている。
「抵抗したとはいえ関わった者としての責任をどう取るか、ずっと考えてきました」。結び近くでこう書いた赤木さんは、直後に自らの命を絶つ。
しかし、改ざんを指示した連中は、昇進や栄転に(佐川元理財局長はその後国税庁長官に。佐川氏の後任理財局長・太田氏は主計局長となり事務次官の最有力候補。近畿財務局に直接電話し改ざんを強要した中村課長はイギリス公使に等々)。あまりにひどすぎる。
赤木さんの手記のおかげで、森友問題は何も解決などしていないことを、多くの人が思い出すことになった。そもそも公文書改ざんは、森友学園に国有地をタダ同然で差し出した「背任事件」に、安倍昭恵が関与していたことを隠すために行われたのであり、異常な国有地売却こそが核心だ。昭恵も安倍首相本人も何の責任も取っていないのだから、解決などするはずがない。
安倍首相と麻生財務相は、赤木さん手記が公となったその日のうちに「再調査の考えはない」と述べた。この傲岸不遜な態度が多くの人々の憤りを呼び起こし、赤木さんの妻が第三者委による再調査を求めインターネットサイトchange.org上で始めた署名はごく短期間で30万を突破(同サイト史上最速最多の賛同数とのこと)。
再喚問求める署名
たまたま私たち「森友学園問題を考える会」も昨年10月から佐川元理財局長の再度の国会証人喚問を求める署名を集めていたのだが、半年かけてやっと9,500筆だったのに、手記公開後は爆発的に伸び、3月末までに10万を超えた。
ところがその頃から新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化し、私たちの署名も4月8日の提出予定を延期せざるを得なくなった。
とはいえ国民の厳しい視線には、森友問題を放置している安倍政権に私たちの生命と生活に直結するコロナ対策をさせて大丈夫なのかという疑問が込められている。
赤木さんが文字通り命をかけて書き残した手記が忘れられることなどあってはならないし、現に忘れられてなどいないのだ。
木村真(大阪府豊中市議)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年4月25日号
2020年04月29日
【森友事件】 今、問い直す意味 政治の思惑抜きに再調査を 問題の本質は「国有地値引き」=相澤冬樹
森友事件の発覚から、はや3年。これほどあからさまにおかしなことがうやむやになりかけた要因はどこにあるだろう?この事件が政治の思惑に巻き込まれてしまったからではなかろうか?
森友事件とは何か?森友学園に小学校の用地として国有地が売却された。鑑定価格から8億円以上も値引きされて。これは正当か?国民の財産を不当に安く売ったのではないか?それが問題の根本だ。政治とは本来関係ない。
大見得を切った
ところが、この土地に建つ小学校の名誉校長は安倍首相の妻、昭恵さんだった。昭恵さんは森友学園の教育方針を繰り返し賛美。昭恵さん付きの政府職員はこの土地のことを財務省に問い合わせていた。
安倍首相は「照会しただけで便宜は求めていない」と言うが、役人はそれだけで“忖度”する。首相の妻が名誉校長だから 安くしたのでは?安倍首相は関与していないのか?追及が強まる中、安倍首相は国会で大見得を切った。
「私や妻が(学校の認可や国有地取引に)関係していたら総理大臣も国会議員も辞める」。まるで無関係と強調したかったのだろうが、この答弁で野党は勢いづいた。関与の証拠を見つけ出そうと資料や説明を要求。
これに財務省の佐川宣寿理財局長(当時)は国会で「資料は廃棄しました。ございません」と突っぱねる。2日後、関連公文書の「改ざん」が密かに始まった。現場で改ざんを押しつけられた近畿財務局の赤木俊夫さんは、その責任の重さに耐えかね命を絶った。
安倍答弁引き金
改ざんに関する調査報告書を取りまとめた財務省の伊藤豊秘書課長(当時)は「安倍さんの答弁と改ざんは関係あった」と赤木さんの妻に説明した。首相の答弁が野党の追及を招き改ざんを引き起こしたというのだから「安倍首相は改ざんに責任がある」と言ったに等しい。では改ざんを招く元になった国有地の値引きについてはどうか?
財務省は「地下のごみの撤去に8億円かかる。撤去しないと小学校が開校できず損害賠償を求められる恐れがあった」と説明してきた。だが「ごみ」は本当にあるのか?明確な証拠はない。しかもこの土地からごみはほとんど撤去されていないのに立派な校舎が立っている。
ごみのあるなしに関わらず校舎はできた。つまり小学校は開校できたはず。財務省の説明は説得力を失っている。
しかし、森友事件はすっかり「色」が付いてしまった。安倍政権是か非かという「色」。政権を非難する人々は「値引きは不当。安倍首相の責任だ」と訴える。政権を支持する人々は「値引きは正当。森友はもう決着した」と突っぱね、野党とマスコミが騒ぐだけだと言う。双方の主張は平行線をたどった。
そこに現れたのが「赤木俊夫さんの手記」だ。改ざんを現場で押しつけられた俊夫さんの苦悩。寄り添ってきた妻の深い悲しみと苦しみ。週刊文春でこうした事実が初めて明らかになり、30万人もの方が妻が望む再調査をすべきと賛同した。
妨げにならない
赤木さんの妻はもともと反政権ではない。むしろ長らく自民党を支持し読売新聞を購読してきた。妻が望むのは夫が亡くなった真相を知りたい、その一点だ。夫の死を招いた改ざんはなぜどのように行われたのか?改ざんを引き起こした国有地の値引きに問題はなかったのか?それを知りたいだけなのだ。こうした疑問に政権への賛否が関係するはずがない。与野党一致して遺族の願いをかなえてはどうか?
「コロナ対応が最優先の今この問題を蒸し返すべきではない」という意見がある。再調査はコロナ対応の妨げになるか考えてみよう。妻が望むのは「有識者による調査」だから役所は手を取られない。任意の調査だから断ることもできる。コロナ対応の妨げになるとしたら、政権に不都合な事実が浮かび上がり窮地に立つ場合しかない。逆に調査によって関係ないことがはっきりしたほうがいいだろう。
それでも拒否すると「再調査されると困ることがあるのか?」と勘繰られる。だから安倍政権を支持する方々こそ再調査を支持した方が良いのではなかろうか?
相澤冬樹(大阪日日新聞記者)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年4月25日号