2024年08月27日

【焦点】都議選 立民2つの誤算業界ボタン≠押さなかった自民 総裁選 進次郎氏が急浮上 現時点で確トラ=@日米政局 激動の秋へ 鮫島浩氏オンライン講演=橋詰雅博

                     
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 7月17日のJCJオンライン講演には元朝日新聞記者の政治ジャーナリスト・鮫島浩氏=写真=が登場。鮫島氏は小池百合子氏が3選を果たした7月の都知事選で立憲民主党の蓮舫氏がなぜ惨敗したかを語り、国内政局の最大ヤマ場、9月自民党総裁選の行方、そして世界が大注目する11月の米大統領選はトランプ氏とハリス氏どちらが勝つのかなどを大胆に予測した。
 都知事選で東京に選挙基盤がなく「政策の中身もカラッポ」という石丸伸二氏(前広島県安芸高田市長)にも抜かれ3位に転落した立民の蓮舫氏の敗因は、選挙戦略のミスと指摘した鮫島氏はこう解説する。

6月解散阻止
最優先の自公

「衆院補選で3連勝し5月の静岡県知事選でも勝った立憲民主党は、党の顔§@舫氏が都知事選に出馬すれば、アンチ小池の無党派層の票を大量に獲得でき勝てると分析した。しかし立憲民主党が4連勝できたのは、自公両党が手を抜いた選挙活動したのが大きかった。公明の支持母体の創価学会の動きは鈍く、自民党も支援しろという各種業界団体への締め付けが弱かった。業界ボタン≠押さなかった。岸田文雄首相の6月解散総選挙阻止を狙いあえて敗けた。自民党支持者の棄権により投票率は下がり、立憲・共産のコアな支持票が上回ったというのが4つの選挙パターン。それなのに立憲民主党は人気を回復し無党派層を呼び込めると誤解した。戦略ミスの第一です」
 候補者の選択も間違った。これが第二のミスだ。
 「攻撃力がある蓮舫という政治家に対する都民の反応は好きと嫌いがはっきりと分かれる。60代以上のリベラル派に人気は高いが、50代以下の無党派層に感情的に蓮舫嫌いが多い。案の定、石丸氏に無党派層の票をごっそり持っていかれた。小池を倒すことが目的だから好き嫌いの反応が弱い候補者をたてた方がよかった。立憲民主党の国会議員なら長妻昭とか1回生で朝日新聞後輩、山岸一生。首長経験者や学者もいい。こういうタイプならアンチ小池票をかなり集められたのではないと思う」
 蓮舫氏と石丸氏の2位、3位争いが話題の中心になり、裏金自民党のステルス支援を受けた小池氏が楽勝した都知事選だった。

異例の大混戦
小林(鷹)も有力

 岸田文雄首相(67)が総裁再選をあきらめた理由は@支持率低迷選挙の顔≠ノならず、来る総選挙では自民党は敗北の恐れがある、A政権生みの親・麻生太郎副総裁(麻生派83)は支持を確約せず見捨てた、Bバイデン米大統領が選挙から撤退し、頼みの綱が消えた―。
事実上首相を決めることになる9月自民党総裁選は大混戦だ。菅義偉元首相(無派閥71)が後ろ盾の石破茂元幹事長(無派閥67)、茂木敏充幹事長(旧茂木派68)、麻生氏が支持する自派閥の河野太郎デジタル相(61)、若手の旧安倍派議員が推す小林鷹之前経済安保相(旧二階派49)、林芳正官房長官(旧岸田派63)が出馬。加藤勝信(旧茂木派68)元官房長官、上川陽子外相(旧岸田派71)、高市早苗経済安保相(無派閥63)、斎藤健経産相(無派閥65)らも出馬に意欲示す。そしてここにきて小泉進次郎元環境相(無派閥43)電撃出馬≠ェ急浮上。
 この話が飛び出してきたのは父親・純一郎元首相が心変わりしたという見方がもっぱら。
「純一郎元首相は『50歳までは首相を支えろ』『今は動くな』と自民党の捨て石にしないため進次郎氏の出馬にストップをかけていた。ところが出身派閥旧安倍派の森喜朗元首相から『進次郎しかいない』と言われた純一郎氏は『そこまで言うなら息子が出るというなら反対はしない』と答えた。土壇場で進次郎氏を担ぎ出し、一気に世論の期待を引き寄せる小泉劇場の再来を予想する声が広がり始めた」(鮫島氏)
 石破氏に次いで国民人気第二位のうえに党内に敵がいない進次郎氏が総裁総理に駆け上がるかもしれない。

揺れる7州
ハリス嫌い

 11月米大統領選は、民主・共和両党の激戦7州(アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバタ、ノースカロライナ、ペンシルべニア、ウィスコンシン)が勝敗を分ける。この「スイングステート(揺れる州)」は選挙のたびに勝利政党が変わる。16年の大統領選では激戦7州のうち6州を制した共和党のトランプ氏が、20年は6州取ったバイデン氏がそれぞれ当選した。
 「ラストベルト(錆びた工業地帯)と言われるペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州の含む7州は、白人の労働者が多い。人種差別が根強く、リベラルは嫌い。アジア系の黒人女性のハリス氏は、リベラル色が強い。ハリス氏への抵抗感が相当にある激戦州は、トランプ氏が優勢です。現時点では確トラ≠ニ言えます」と鮫島氏は予測した。
 自民党総裁選は9月12日告示、27日投開票だ。この総裁選に米大統領選の情勢が、どう影響を与えるのだろうか。
 9月から11月に日米政局は激動する。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
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2024年08月21日

【焦点】JCJ8月集会 軍拡の動きに、私たちはどう対抗するか―戦後80年を前に 会員メッセージ=東京都南鳥島は陸自ミサイル射撃場整備で一変、核のゴミ最終処分地説は幻に、おぞましい光景目に浮かぶ。橋詰雅博

 中台戦争勃発を見据えて南西諸島に自衛隊の基地が次々と建設される沖縄県。県民は戦争の足音がヒタヒタと近づいていることを肌で感じているだろう。東京に住んでいると、予想はつくけれど、感覚がつかめず、他人事に陥ってしまう。

 しかし、最近ある出来事で自分の心は変化した。南鳥島に陸上自衛隊の地対艦ミサイル訓練用の射撃場が整備される。日本最東端のサンゴ礁でできた南鳥島は小笠原村の一部で本州から1800`b離れているとはいえ、れっきとした東京都の島だ。射程100`を超えるミサイル射撃場の整備は日本で初めて。住所が東京都という場所から再来年以降、ミサイルがバンバン海上に向かって発射される――おぞましい光景が目に浮かぶ。やはり戦争がこちらに向かってやってきているという感じを持ち都民である自分の心はざわついている。

 南豊島には以前から関心を抱いていた。なぜか、この小さな島こそ日本で唯一と言っても過言ではない核のゴミの地層処分(地下深く埋める)の適地と話題になったからだ。

 これを提案したのは静岡県清水市に施設を構える東海大学海洋研究所の平朝彦所長(地質学者)だ。県知事時代の川勝平太氏との対談(今年1月静岡県の総合情報誌「ふじのくに」に掲載)で、平所長はこう述べている。

 「南鳥島は太平洋プレート(太平洋の海底の大部分を占める岩盤)上にある唯一の日本領土で、周囲6`bの国有地。最大の特徴は地質的な安定性です。地震、火山活動はまず起きない。これは確信を持って断言できます。なおかつ、住民がおらず漁業権など、いろいろな権利が設定されていない。地下へ数`bのボーリングをして、使用済み核燃料を処分するキャニスター(核のゴミの廃液をガラス原料で溶かし合わせたものが入ったステンレス容器)を入れて、セメントで封印することもできます。地球上で最高レベルの安定性があるので、壊れる不安はまずありません」「最適な核廃棄物処理方法だと信じて疑いません」

 これに対して川勝知事は「国難を救える島」「モデルケースを日本が提供できれば、世界に誇れる提言にもなりますと」と平所長の研究を称えた。

 現在、島には海上自衛隊と気象庁職員が常駐しているだけで、一般住民はいない。

 実は平所長は、南鳥島は核のゴミの地層処分の最適地とローカル局の北海道放送(HBC)の取材で3年前に提言している。所管の経産省にもこの提言を伝えたが、返事はなかったそうだ。

  地震大国・日本には10万年以上も核のゴミを封じ込める適地はないと言われているが、南鳥島が適地となるとその説は覆る。僕は平所長に取材を申し込んだが、残念ながら「南鳥島での地層処分をさらに研究したい」と断られた。

 また島にはEV(電気自動車)に使われるレアメタルが豊富な鉱物が大量にあることが東京大学の調査で明らかになった。  ミサイル射撃場の整備により、核のゴミの最終処分地候補は幻の説に終わり、レアメタル商業化も風前の灯火になりそうだ。南鳥島は今の姿から一変するのは間違いない。      
                       
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2024年08月03日

【焦点】CCS(炭素回収貯留)事業 脱炭素「切り札」はウソ 未完成な技術、高コスト 50年目標値、達成は困難=橋詰雅博

                         
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 「二酸化炭素回収貯留(CCS)事業法案」が先の通常国会で成立した。火力発電所や石油精製所、セメント工場などから排出される二酸化炭素(CO2)を回収し海底や地中に貯留するCCS技術は、脱炭素の切り札と言われている。法制化によって試掘・貯留の事業化を目指す企業の参入を促進させる。官民合わせて今後10年間で4兆円を投じるというCCS事業、マスコミは「有望」と持ち上げるが、本当にそうなのか―。

CCS実証実験
苫小牧で実施
 CO2が80%近く占める温暖化ガスを2050年に実質ゼロにする方針を打ち出す政府は、「CCSなくして、カーボンニュートラル(脱炭素)なし」とCCS事業を位置付ける。北海道苫小牧市では、国、自治体、企業が一体で19年11月までの3年8カ月間、国内最大規模のCCS実証実験が行われた。仕組みはこうだ。隣の石油精製所が出すガスから分離・回収し液化させたCO2に高い圧力をかける。パイプラインで輸送したそのCO2は専用井戸(圧入井)を通じて海底1000b以深に送り込まれる。これまで注入されたCO2は約30万d。現在、貯留層からCO2の洩れがないかなどモニタリング調査が続けられている。
                   
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 所管の経済産業省は、苫小牧を始め国内5プロジェクトと、液化CO2を専用船でマレーシアやオーストラリアなどに運んで貯留する海外2プロジェクトの合計7プロジェクトを「先進的CCS事業」計画として選定した。ただし、苫小牧以外のプロジェクトはあくまで調査の段階。また苫小牧のモニタリング調査の期間は定まっていない。7プロジェクトの事業化の時期は不明だ。

高額費用の縮小
具体策は示さず

  こうした状況下で30年までに事業をスタートさせて、50年時点で年間1・2億から2・4億d貯留(今の排出量の1から2割)という政府の目標は達成できるのか。
 国際環境NGO「FoE Japan」の気候変動・エネルギー担当の深草亜悠美氏は「目標達成は困難」と前置きしたうえで、3つ大きな理由を挙げた。
@ 「技術がまだ完成していません。ノルウェーのスノヴィット事業では、地層の事前調査で18年分の貯留が可能としていたが、実際は6カ月程度で再調査や新しい圧入井を掘った。CCS技術が進んでいるノルウェーですらこの程度です。オーストラリアのゴーゴンでも企業が莫大な資金を投入しながら予定の半分の貯留に留まった。苫小牧では、CO2を圧入した2本の圧入井のうち1本は十分に圧入できなかった」
A 「貯留までの費用が高い。一連の工程を経た1dのCO2を地中や海底に貯留するまでには1万2800から2万200円もかかる。50年までに6割程度に下げると政府は説明するが具体策は提示していません。たとえ6割に下がっても高額なのは変わらない。世界の大規模CCS事業(年間3万d以上のCO2を回収)の78%は高コストが原因で中止か延期に追い込まれたという研究報告もあります」
B 「事故の可能性がある。実際、2020年にアメリカ・ミシシッピー州でCO2輸送パイプラインが損傷し、300人が退避、二酸化炭素中毒で45人が病院に搬送された。今年4月にもルイジアナ州でパイプライン事故が発生している」

化石燃料の利用
政府は継続狙う

 ほかにもCO2回収率は60から70%に留まる、地中にCO2を注入することで地震の誘発が懸念されている。
 いろいろな問題点がありながらCCS事業を進めることについて深草氏は「石炭、石油、天然ガスの化石燃料の利用を続けていくのが政府の狙い」と指摘。与党自民党をバックアップする企業が経営する火力発電所、石油精製所、セメント工場などを政府は簡単に潰すことはできない。かといって世界に約束した50年温暖化ガスゼロは反故にできない。苦肉の策がCCS事業ではないか。

多額の補助金
負担は国民へ

 深草氏は「このまままではCCS技術の開発という名目で多額の補助金が投じられる。これは国民の税金。国民に負担を強いることになる」と見通しを語った。
 政府が今取り組むべきことは何か。「再生可能エネルギー由来の発電と省エネ政策を拡充すれば、CO2排出の大幅削減や光熱費、化石燃料輸入費の削減が可能です」と深草氏は訴えた。
 CCS事業は信頼できる脱炭素のツールではないようだ。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
 
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2024年07月31日

【焦点】南鳥島に陸自がミサイル射撃場を整備 核のゴミ最終処分地説が幻に=橋詰雅博

 防衛省は 東京から1900qの日本最南端の小さな島、南鳥島(小笠原村の一部)に陸上自衛隊が保有する「12式地対空ミサイル」の射撃場を整備する。このミサイルは地上から海上の艦艇に攻撃するもので、射程100`を超える射撃場の整備は国内で初めて。すでに小笠原村へは計画を説明済みで、2026年以降、年数回訓練を実施する見込み。

 実はこの南鳥島は、核のゴミの地層処分の適地に挙げられたことがある。
3年前、文化庁芸術祭優秀賞を受賞したドキュメンタリー番組「ネアンデルタール人は核の夢をみるか〜核のごみ≠ニ科学と民主主義〜」の制作した北海道放送報道部デスクの山ア裕侍氏は、22年1月号のJCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」の寄稿で、こんな秘話を明かしている。
あるイベント会場で顔を合わせたルポライターの鎌田慧さんが「核のごみの文献調査が進んでいるけど、南鳥島が適地だという説があるのを知っているかい?」と山アさんに尋ねた。山アさんが初めて知ったと答えると、数日後、鎌田さんがファックスで送ってくれたのは南鳥島が適地と紹介した静岡県立大学の尾池和夫学長のエッセイだった。番組では南鳥島案を最初に提案した平朝彦・前海洋研究開発機構理事長を取材し、経済産業省と原子力発電環境整備機構(NUMO)がその提案を蹴ったことを明らかにした。

 もう一つは筆者が23年6月号JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」に掲載した記事だ。
 東京の都道府県会館で5月末に開かれた関東地方知事会議で静岡県の川勝平太知事が核のごみの最終処分場として南鳥島を候補地に検討すべきだと、小池百合子都知事に提案した。静岡県には浜岡原発(5基のうち1、2号基は廃炉、3,4、5基は長期停止中)がある。核のゴミに関心を持つのは当然だけれども、唐突感は否めない。川勝知事がこんな提案をした理由は、同県清水市に施設を構える東海大学海洋研究所の平朝彦所長(地質学者)と、同県発行の雑誌での対談が引き金になっている(今年1月の総合情報誌「ふじのくに」に掲載)。

 対談で平所長はこう述べている。
 「南鳥島は太平洋プレート(太平洋の海底の大部分を占める岩盤)上にある唯一の日本領土で、周囲6`bの国有地。最大の特徴は地質的な安定性です。地震、火山活動はまず起きない。これは確信を持って断言できます。なおかつ、住民がおらず漁業権など、いろいろな権利が設定されていない。地下へ数`bのボーリングをして、使用済み核燃料を処分するキャニスター(核のゴミの廃液をガラス原料で溶かし合わせたものが入ったステンレス容器)を入れて、セメントで封印することもできます。地球上で最高レベルの安定性があるので、壊れる不安はまずありません」「最適な核廃棄物処理方法だと信じて疑いません」
 川勝知事は「国難を救える島」「モデルケースを日本が提供できれば、世界に誇れる提言にもなりますと」と平所長の研究を称えた。
川勝提案に対し小池都知事は「国がしっかりと対応すると考えている」とそっけない答えだった。

 核のゴミの地層処分計画を進める政府は、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で文献調査を進めている。
地震大国・日本には10万年以上も核のゴミを封じ込める適地はないと言われている状況下で、南鳥島にスポットライトが当たった。早速、平所長に取材を申し込んだ。残念ながら「南鳥島での地層処分をさらに研究したい」と断られた。
 陸自の地対空ミサイル射撃場の整備は、南鳥島の核のゴミ最終処分地説を幻に終わらせることになる。
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2024年07月22日

【焦点】8月集会パネラー・久道弁護士が参加する公共訴訟支援「CALL4」とは=橋詰雅博

                    
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 8月17日にJCJが開催する集会「軍拡の動きに、私たちはどう対抗するのか――戦後80年を前に」にパネリストとして登壇する久道瑛未弁護士=写真=に先だって藤森研JCJ代表委員、古川英一同事務局長と一緒にお会いし、当日の打ち合わせをした。その際、久道弁護士は社会課題の解決を目指す公共訴訟の支援に特化した日本初のウェブプラットフォーム「CALL4(コールフォー」
https://www.call4.jp/)のケースサポーターとして5年ほど前から参加していると述べた。

 HPによると「CALL4」という名称は「〜を呼び起こす」「〜を必要とする」という意味のcall for≠ニいう言葉に由来。立法、行政、司法の三権に加えて社会を形作る4つめの力として市民の力があると考える。この4つ目の力を呼び起こすという意味で、for≠フ代わりに4=ifour)という数字を使っている。

 公共訴訟は、たとえ少数者の声だとしても、それが憲法や法律に反していたら、司法の力で国や自治体の施策を変えることを命じられるのが大きな特徴だ。違憲判決を得て社会が良い方向に変わった代表例は、「在外日本人選挙権訴訟」や「らい(ハンセン病)予防違憲国家賠償請求訴訟」。
 しかし国や行政を相手に訴訟を起こすには、とりわけお金が必要だ。「CALL4」では提起された数々の公共訴訟の中身を紹介するとともに各訴訟への寄付(クラウドファンディング)を募っている。例えば目標額100万円を設定した「日本の『黙秘権』を問う訴訟〜56時間にわたる侮辱的な取り調べは違法〜」では114万の支援額が現在集まっている。個別によって支援額は違うが関心の高さが伺える。これまで約60件に対して合計約1億の寄付が寄せられている。
 「CALL4」は弁護士紹介や法律相談は行っていないが、クラファンへの手数料はゼロ。この点はほかのクラファン事業とは大きく異なる。若手弁護士や法学部学生、大学院生などがボランティアで運営に当たる。

 久道弁護士は「あなたが『仕方ない』と飲み込んでいる理不尽は、他の誰かも直面している理不尽かもしれません。社会の理不尽に対して声を上げている人たちの目的は、自分のためというよりも、社会を変えて他の誰かも救うためであることがほとんどです。そんな他の誰かのために、理不尽を我慢せずに声を上げてくれた当事者の方々や、使命感をもって戦いを請け負った代理人の方々に、CALL4での活動を通じて社会全体から、感謝と支援を届けていきたいと思っています」と抱負を語っている。
 ぜひ「CALL4」をのぞいてみてください。
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2024年07月20日

【焦点】子どもの万博動員≠ウらに拍車、大阪で無料専用列車も 夢洲は依然ガス爆発危険性あり=橋詰雅博

 2025年4月に開幕予定の大阪・関西万博では、大阪府・市は万博への学校単位での子どもを無料で招待する事業を進めている。バスの数の不足や地下鉄の混雑問題などで会場までの交通手段確保の課題を解消するため大阪の横山英幸市長は、校外学習での利用を目的とした「子ども専用列車」の運行を大阪メトロと協議していることを今月に明らかにした。これを受けて大阪府の吉村洋文知事も「協力していきたい」と賛同。実現となればこれも無料招待となる。

 これまで国公私立校を対象とした関西6府県の万博子ども無料招待事業の中身と予算額はこんな具合だ。
●大阪府=4歳から高校生(人数約102万)19億3千万円
●兵庫県=小中高校生(約56万)8億(このうち一部は県内企業による寄付)
●京都府=小中高校生(約25万)3億3千4百万
●奈良県=小中高校生(約12万7千)1億7千万
●滋賀県=4歳から高校生(約18万)4億から5億
●和歌山県=小中校生(約6万7千)1億8千万

 この事業に関西6府県は合計約38億円を投じる見込み。これに「子ども専用列車」の費用が上乗せされる。どのくらいのお金がかかるのかはわからないが、かなりの額だろう。
 「いのち輝く」をテーマにした万博のすばらしさを子どもたちが体験できるなら多額の税金をかける価値は十分にあるが、問題は会場だ。
 3月に工事現場で、土壌から発生したメタンガスに溶接の火花が引火し爆発する事故が起きた。事故現場はトイレ設置予定地。コンクリート床約100平方bが損傷した。付近には受付ゲートや飲食ブースなどが予定されており、来場者が多く集まる場所だ。

 会場の夢洲(ゆめしま)は今も使われているごみの最終処分場。しゅんせつ土砂やPCB・ダイオキシンなどの有害物質が埋められている。メタンガスは引火しやすく、爆発の危険性がある。このため当初から問題視されていた。2月から5月の間には基準値を超えるメタンガスが76回も検知していたと日本国際博覧会協会が6月下旬に明らかにしている。

 協会は開催中毎日ホームページで測定値の公表を検討するとしているが、根本的な対策はないようだ。こんなメタンガス爆発の危険性がある会場に子どもたちを入場させるのは、「いのちの危険」の恐れがある。

 それなのに文部科学省は全国の学校へ修学旅行先として万博をすすめる通達を出している。危険性を知ってか知らずか、来年の修学旅行は万博と決めた千葉県や福島県の学校もある。
 関西の無料招待事業も修学旅行先通達も政府が音頭を取る万博動員<vランの一環だ。
 子どもが犠牲になったら誰が責任をとるのだろうか。
 
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2024年07月15日

【焦点】鹿児島県警不祥事事件の全容″数ュ文受け取った札幌市のライターが地元誌で報じる 県警の文書提出強要を拒否=橋詰雅博 

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             相次ぐ不祥事で県民の信頼揺らぐ鹿児島県警
 県内外が注目する鹿児島県警の不祥事隠ぺい事件。新聞報道だけでは全容がわかりづらい。関係者の話を総合すると、この事件は地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで4月に逮捕され起訴された巡査長の藤井光樹被告(49 懲戒免職)と北九州の福岡市のデジタルニュースサイト「HUNTER」との関係が原点のようだ。藤井被告から受け取った県警のさまざまな不祥事情報を「HUNTER」は報じていた。組織維持のため目障りと県警は警務部長をトップとした50人からなるプロジェクトチームが調査にあたり、「HUNTER」のネタ元が藤井被告であることを突き止めた。「HUNTER」と藤井被告との間で金銭的なやり取りがあったかは分からない。

 県警は4月8日に「HUNTER」編集部を家宅捜索。パソコンに残っていたPDFファイルを見て驚愕した。未発表の盗撮事件(後日発表)やストーカー事件などの概要が記録されていた。匿名だったので告発者が誰なのか不明だったが、送信元は北海道札幌市に住む月刊誌「北方ジャーナル」記者の小笠原淳氏(55)。

 小笠原氏は「北方ジャーナル」7月号でその経緯を自ら書いている。概要はこうだ。<闇をあばいてください>という文言で始まる匿名の文書が4月3日に届く。消印は「鹿児島中央」「3・28」。鹿児島市内から6日間を経て札幌市在住の彼の元に。告発文書を「なぜ鹿児島の人がこれを札幌に」と首を傾げた。情報を共有する考えで日ごろから付き合いのあった「HUNTER」の中願寺純則編集長に文面などをデータ化したPDFをメール送信した。3日の午後3時過ぎだった。

 県警はこのPDFを8日の家宅捜査で発見・押収したわけだ。割り出した告発者は県警前生活安全部長の本田尚志氏(60)。本田氏は3月に定年退職し、在職時の階級は警視正。本田氏は5月31日に国家公務員法(守秘義務)違反で逮捕された。ノンキャリアだったが、幹部だったので国家公務員法が適用される。
 小笠原氏は6月4日に鹿児島県警組織犯罪対策課の捜査員と名乗る男性から電話を受け取る。「うちの元生活安全部長が逮捕された件で、証拠品が小笠原さんに送付されていたことがわかりまして‥‥」。「重要な証拠品ということで、返還していただきたいと思いまして」
 ――返還?どういうことですか。
「簡単に言いますと、証拠品として押収させていただきたいと」
 ――押収?令状か何か出てるんですか。
「今のところは、ないです」
 ――ああ、任意ってことですね。
「はい、お願いベースになります」
 ――私の職業とか知っていますよね。
「そうですね、はい」
 ――誰からどういう情報を貰ったとか、普通、外部には言わない仕事なんですけど。
「‥‥ああ」
 ――それやっちゃたら、この仕事できなくなるんで。
「ああ、なるほどですね」
 ――出さないと強制捜査(家宅捜索など)になるんですか。
「なんとも言えないところです。ただまあ、重要な証拠品であると判断しておるところで」
 ――普段どういう報道対応なさってるかわからないんですけど、報道関係者はこういうの出さないですよ。
「そこをですね、どうにかお願いできないかなあと‥‥」

 県警からはこの後複数回の打診があったが、小笠原氏は提出を拒否した。さらに任意聴取の要請に対しては「弁護士同席」「録音」「撮影」などの許可の条件を示したうえで「何を問われても答えない」と表明した。その結果、県警側は要請を断念した。

 藤井容疑者は一審で罪を認め結審、「野川明輝県警本部長(警察庁のキャリア官僚)の指示で事件はもみ消された」と告発した本田容疑者は、拘置所から保釈されこれから裁判が始まる。本田容疑者が県警不祥事の公益通報だとして無罪を訴えるのかどうかが注目される。
 
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2024年07月06日

【焦点】海外出稼ぎ売春が急増中 摘発・暴力・だまし‥‥自分守れぬリスク 松岡かすみ氏オンライン講演=橋詰雅博

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 観光ビザなどで入国し、現地で売春する日本女性が急増―。警視庁が4月と5月に相次いで摘発した2つの海外売春あっせんグループで明るみに出た日本女性の数は合計400から600人にも上る。米国やオーストラリア、カナダで売春をしていた。最近では20代の日本女性3人が韓国・ソウルで売春していたことが発覚し、現地の警察に検挙されている。「お金を稼ぎたい」という女性たちはいずれも求人サイト通じて応募していた。『出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日出版新書)の著者のフリーランス記者・松岡かすみ氏(38)は「実態と今後」について5月11日のJCJオンライン講演会で報告した。
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 松岡氏は同志社大学社会学科卒業後、出版社勤務などを経て2015年から『週刊朝日』編集部記者に。21年からフリーランス記者として活動。週刊朝日時代に2回掲載した特集記事をもとに改めて追加取材・大幅加筆して昨年2月に出版した『出稼ぎ〜』は初の著書だ。

6人から話を聞く

「日本人女性が海外に行き出稼ぎ売春する動きがある」という話をきっかけに22年末から松岡氏は取材を始めた。ここ数年の出稼ぎ経験を話してくれた6人の女性のうちワーキングホリデービザ(日本と協定を結ぶ国などで一定期間働きながら滞在できる制度)でオーストラリアに行った29歳の人は―。英語があまり話せず日本食レストランで仕事したが、最低ランクの賃金に加えて物価高もあり生活は苦しい。シェアハウスのルームメイトの中国人女性から紹介された時給がべらぼうに高いという売春も兼ねるマッサージ店(オーナーは中国人女性)で週2、3回働く。相手は主に中国人で、チップを含め週20万円程度稼いだ。ビザの有効期間である1年で帰国した。

渡航者は4タイプ

 出稼ぎ売春の日本女性は@ワーホリ取得者、A求人サイトでの応募者、BSNSを使った独自開拓の富裕層相手のセックスワーカー、Cほれ込んだホストの借金の返済者。タイプ別にするとこうなる。
Cはホストクラブ独自の「売掛(うりかけ)」システムに原因がある。ホストクラブは、売り上げの半分は店に入り、残る半分がホストの収入になる。例えば会計が50万円だとすると、お金がない女性に代わってホストが半分の25万店に入れる。客は、ホストに支払う分の25万とともにホストに50万借金したことになる。売掛50万の返済については客とホストで決める。こうして膨らんだ借金返済のためホストから紹介されたブローカーを介して女性は売春目的で外国に渡航する。ただ社会問題化したことで売掛システムを見直す店も出てきている。
 「売春がカジュアル化し、ポジティブに海外出稼ぎ売春を選ぶ女性は少なくない」と松岡氏は指摘する。背景には日本経済衰退に伴い海外と比べ広がる賃金格差、急激な円安による物価高騰などがある。海外ならば日本の何倍も稼げるとはいえ、リスクは多い。「警察の摘発、報酬がきちんと支払われる保証がない、ブローカーに騙される、暴力、病気、窃盗などのリスクがある。なによりも違法な出稼ぎ売春の身では、命が危ない場面にあっても自分を守る権利を行使するのは難しい。ここが一番怖い点です」(松岡氏)
 今後について松岡氏「海外では日本よりも圧倒的に稼げますので、この現象は加速するでしょう」と予測した。
 日本社会のひずみが生んだ一つの事象ではないか。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年6月25日号
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2024年06月25日

【焦点】深刻な物価高の主因、超円安の処方箋は?=橋詰雅博

 止まらぬ円安の主因は何か。素人にはなかなか理解しづらいが、専門家によると日本の金利があまりに低すぎるからだと分析する。なぜこうなったと言えば、異次元金融緩和による超低金利政策が元凶だ。欧米はインフレや物価高を抑制するため政策金利を連続的に引き上げたが、日本は超低金利のまま放置してきた。

 政策金利を比べると、0・1%の日本に対して米国5・5%、ユーロ4・5%、英国5・25%。日米の金利差は5・4%もある。
これでは超低金利国の日本には世界のマネーが入ってこないし、ジャパンマネーも利回りが高い国に流れる。100万円を日米で預金すると、年間の利子はわずか1000円の日本だが、米国は5万5000円。米ドルでの預貯金や国債などの運用向けに円が売られドルが買われる。かくして円安ドル高の為替相場になる。

 円安を止めるには欧米との金利差の解消が不可欠だ。しかし、政策金利の引き上げは住宅ローン金利や国債金利の上昇につながる。
円安を放置すれば、物価高、金利を上げると住宅ローンの破綻と財政負担に襲われる。まさにジレンマ状態なのだ。これがアベノミクスの帰結である。

 ではどうすればいいのか。5月25日号新婦人しんぶんに解説記事を載せた群馬大学名誉教授の山田博文氏は「円安とアベノミクスで蓄えられた膨大な利益(輸出などで儲けた大企業の内部留保金600兆円、対外純金融資産418兆円、株高や不動産高騰で潤った富裕層の金融資産364兆円)に課税する。これを国民の住宅ローン破綻や財政負担を阻止する財源にあてる」とアドバイスする。この危機を乗り越えるには、これが最良の政策というのだ。
 このままでは庶民は塗炭の苦しみが続く。
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2024年06月24日

【焦点】小池都政、2期8年の罪 大企業ファーストの再開発、暮しをないがしろ、税金の無駄遣い‥‥=橋詰雅博

  都知事選挙が始まっても学歴詐称問題から逃げ回っている小池百合子。2期8年の小池都政は、大企業による再開発の推進や住民の暮しをないがしろした政策、税金の無駄遣いなどやり放題だ。以下はその主なものだ。

◆イコモス(国際記念物遺跡会議)が「世界の公園の歴史において例のない文化的資源」と評価した明治神宮外苑の貴重な樹木を1000本近くも伐採する三井不動産らが手掛ける再開発計画を承認。この地区に190bの高層ビルを始めとしたビジネス施設とスポーツ施設が建設される。ビル風、伐採による気候温暖化の助長、ビルからの二酸化炭素の排出などを心配する住民の反対運動でこの「神宮利権」は一時ストップしている。しかし、小池が選挙で勝てば、自民党と直結した大企業ファーストを象徴するような大規模再開発は動き出すだろう。

◆コロナ禍で大きな役割を担った都立・公社の病院を強引に独立行政法人化したことで医師や看護師の退職により深刻な人手不足に。多摩メディカルキャンパス(旧都立付中病院)は、休止病床が拡大し、救急車を受け入れることを制限している。また、清瀬・八王子の都立小児病院と梅が丘病院を統合した小児総合病院センターでは、閉鎖の恐れがある病棟もあり、児童・思春期精神科の新規外来患者数が2010年の開設時から半減した。独立行政法人化は失敗、直営に戻してほしいという声が高まっている。

◆都立高校入試で英語スピーキングテストの導入は、公平性・透明性が担保されていないと裁判に持ち込まれたが、都と協定を結ぶベネッセに委託された。43億円もの税金が投じられている。まさに「教育利権」そのものだ。子どもの学習と教員支援、環境整備に教育予算を使うべきだという要望が多い。

◆談合事件で指名停止中の電通のグループ会社に委託した都庁などのプロジェクションマッピングに2年で48億円もつぎ込む。税金の無駄使いではないか。

◆関東大震災直後に起きた朝鮮人虐殺への追悼文の拒否を続けている。

◆横田基地や工場が発生源とみられるPFAS(ピーファス,、有機フッ素化合物)が原因の健康や環境への被害調査は、都はやらず、国任せ。住民の健康調査への補助金はなしだ。
 小池の3選は許してはならない。

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2024年06月11日

【焦点】IT通でなくても生成AIでウイルス作成、サイバー攻防のイタチごっこ始まる=橋詰雅博

 対話型生成AIを悪用してコンピューターウイルスを作成した25歳の男が5月末に警視庁サイバー犯罪対策課に逮捕されて話題になった。生成AIによるウイルス作成容疑での摘発は全国で初めてだった。
 使われたのは検索すれば出てくる無料の3種類のAIで、「ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)を作って楽に金を稼ごうと思った」というのが動機だ。

 全国で初の摘発というのもさることながらAI業界が一番ビックリしたのは、犯人は、AIの専門知識がないのに、自宅のパソコンやスマホを活用して容易にウイルスの設計図を作成したことである。
 IT業界をサポートする大手ソフト会社のサイトは、生成AI技術と普及がもたらしたこの犯罪の影響をこう指摘している。@サイバー攻撃を巧妙化させる、Aサイバー攻撃の頻度と精度がアップする、BITに精通していなくても低コストで簡単にサイバー攻撃用プログラムがつくれるので、犯罪に参入しやすくなった―。

 では企業や組織など防御側はどうすればよいのか。こちらも生成AIを活用すれば防御技術を進化させることができる。脆弱性や弱点の発見が可能で「先手を打つ形で強力な防御体制を構築できる」としている。
 使う人の指示や問いかけに応じ、大量のデータで学習した内容をもとに文章、画像、音声などを編み出す生成AIの出現で、サイバー攻撃とそれに対する防御のイタチごっこが本格的に始まった。
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2024年06月06日

【焦点】知る権利とプライバシー侵害 経済安保新法 秘密保護法と一体運用 身辺調査拒めば不利益も=橋詰雅博

  特定秘密保護法(2014年施行)の経済安保版といわれる「重要経済安保情報保護法案」は、国会の情報監視審査会での報告・公表など多少の修正が加えられただけで成立。この経済安保新法は国民の知る権利を制限し、秘密情報にアクセスできる権限がある人は身辺調査される。秘密保護法の一体運用で監視統制はさらに強まる。

恣意的に件数増大

 特定秘密保護法は、防衛・外交・スパイ防止・テロ防止の4分野のうち安全保障に「著しい支障」がある政府保有情報は特定秘密に指定。その数は昨年末までで751件。経済安保新法はこうなる。電気、ガス、鉄道、航空、放送、通信といったインフラ分野、宇宙開発、サイバー攻撃、AIなど先端技術分野、半導体、鉱物などの重要物資分野などの中で安保に「支障」がある政府保有情報は「重要経済安保情報」として秘密指定される。
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 件数は「初年度は数十件から100件程度」と高市早苗経済安保相は国会で答弁したが、秘密指定の定義があいまいで恣意的なものが入り件数は膨れ上がる可能性がある。同法案に詳しい秘密保護法対策弁護団事務局長の海渡双葉弁護士=写真=は「秘密保護法では安全保障に『著しい支障』がある情報を特定秘密にしたが、経済安保新法は『支障』だけ残し、『著しい』を外した。これは秘密指定の範囲を相当に広げる狙いがある」と指摘した。秘密指定の増大は国民の知る権利が狭められる。
 特定秘密情報を取り扱う人物は「適性評価」調査の対象だ。その適性評価対象者約13万人のうち9割超は防衛省、自衛隊、防衛施設庁の公務員が占めた。  適性評価(新法ではセキュリティー・クリアランスと名付けた)調査は新法の秘密情報に接する人物も対象。経済分野ゆえに民間人が多くなる。国が秘密情報の取り扱いを認定した企業、大学、研究機関などで働く人たち。

数千の民間人調査

 内閣府が主導する適性評価調査の手順はこうだ。企業など事業者は対象者の同意を得た候補者名簿を所管する省庁に提出。内閣府は30ページの質問書を対象者に配布する。その項目は@家族やテロとの関係、A犯罪や懲戒の経歴、B情報の取り扱いに関する違反行為、C薬物乱用、D精神疾患、E飲酒の節度、F経済状況―。配偶者や子ども、父母や兄弟姉妹、配偶者の父母や子ども含む家族関係、同居人、国籍、借金の理由と総額、精神疾患のカウンセリング歴・症状など7項目は詳細に書くことが求められる。面接もあり質問書をもとに内閣府担当者は根掘り葉掘り尋ねる。対象者に内緒で上司も聞かれる。身辺調査された個人情報は役所に握られる。目的以外に利用しないというが、外部からは分からない。情報が洩れればプライバシー権が侵害される。
 身辺調査の結果をもとに適性の有無を評価した担当省庁は事業者と対象者に「合否」を伝える。
初年度の身辺調査対象者は「数千人」と高市経済安保相は言っているが、大きく増えるかもしれない。重要情報を漏洩した違反者は5年以下の拘禁刑などで処罰される。

人生設計狂うかも

 これまで身辺調査をめぐり問題は浮上していないが、新法では大勢の民間人が身辺調査の対象になる。問題は起きないのか。
「候補者名簿に載せることに同意しない、調査を拒む、適性がないとされたら働いている今の部署から異動になる。出世コースから外れた、居づらい、合わない仕事を押し付けられるなどの理由で退職もあり得ます。不利益な扱いを受け人生設計がくるう。人権侵害です」(海渡弁護士)
 新法の恣意的な利用で「第二、第三の大川原化工機事件(警視庁公安部がでっち上げたと東京地裁は被告の社長らを無罪とし、東京都に賠償を命じたが、原告、被告とも控訴)は起こり得る」と海渡弁護士は警鐘を鳴らす。
これから何をしたらいいのか。
「反対運動を拡大させることが重要です。(法成立後、閣議決定する)運用基準についてパブリックコメントが実施される。パブコメに問題点を書き込む。世論の強い反対によって使いづらい法律に変えることはできます」(海渡弁護士)
 諦めてはダメだというのだ。
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年5月25日号
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2024年06月01日

【焦点】旧統一教会「損害賠償」訴訟 4件すべて敗北 解散命令請求に追い風=橋詰雅博

                
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      左から有田芳生、鈴木エイト、青木理の3氏 
 テレビ番組での発言で名誉を傷つけられたとして旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)が弁護士やジャーナリスト、放送したテレビ局を相手に起こした22年夏から秋の統一教会めぐる多額の損害賠償請求(スラップ訴訟)で、教団は一部高裁判決を含め4件すべてで敗訴した。

教団の訴訟とは

 教団が4連敗した訴訟はこうだ。
★TBS「ひるおび」(2022年9月)、八代英輝代議士が発言した「外形的な犯罪行為」を教団は問題視。23年6月30日「消費者被害が生じたのは真実。意見、論評の域を逸脱するとは言えない」と違法性を地裁は否定し、教団の訴えを棄却した。12月の控訴審も教団は敗訴。
★読売テレビ「ミヤネ屋」(22年9月)に出演した木村健太郎弁護士が「司法の判断では、違法な活動をしている違法な組織と認定済み」などと発言したことに教団は提訴。今年1月25日「違法性がない」と地裁は棄却した。
★日本テレビ「スッキリ」(22年8月)でジャーナリスト有田芳生氏が教団について「霊感商法をやってきた反社会的集団だと警察庁も認めている」と述べた。3月12日の判決は名誉棄損に当たらないとした。教団は25日控訴した。
★読売テレビ「ミヤネ屋」(22年7月)で紀藤正樹弁護士は「お金がないから、信者に売春させた事件まである」とコメント。3月13日の判決は「前提事実の重要部分は真実。論評の域を出ない」と認定し、被告の紀藤弁護士が勝訴した。教団は25日控訴。

最高裁初審理も

 さらに教団にとって不利な材料が相次ぐ。昨年末成立の財産流出抑制を目的とした特例法に基づき教団は「指定宗教法人」に。
質問権行使に回答を拒んだとして文部科学省が教団に過料を科すように求めた裁判では、東京地裁は教団の田中富広会長に過料10万円の支払いを命じる決定を3月26日に出した。教団は決定を不服として4月8日東京高裁に即時抗告。
また、長野県の元信者やその家族が約1億8000万円の賠償を求めている裁判で、最高裁は6月に弁論を開くことを決めた。教団の勧誘や献金をめぐる最高裁の審理は初めてで、訴えを退けた一審と二審の判断が見直される可能性が高い。
ひるまずに闘う
教団との深い関係を断ち切れない自民党の萩生田光一衆院議員を批判し2200万円を求められた有田裁判では、発言の趣旨は@教団は霊感商法をやってきた、A反社会的集団、B警察庁も認めている―。これが教団の社会的な評価を貶めるかが争点だった。
3月12日の勝訴後の報告集会で弁護団は「問題の部分について地裁は、萩生田議員は教団ときっぱり手を切るべきだという有田発言の一部にすぎず、名誉棄損ではないとした。すばらしい判決でした。片言隻句に名誉棄損で言論を封殺しようとする教団のやり方に対する防波堤の役割を果たせた」と強調した。
有田氏はこう語った。
「わずか8秒の発言をとらえて教団は訴えたが、霊感商法、反社会的集団、警察庁も認定の3つを裁判所があらためて認める判断をしてくれた。私の発言が真実であることを証明するため刑事や民事の判例など1000ページを超える資料を提出したおかげで見事な勝利をおさめることできた。今後もひるむことなく反社会的性格の教団と闘います」

萎縮は影響深刻

 支援するジャーナリストの鈴木エイト氏は「教団信者から2件のスラップ訴訟を起こされている。自分にもこういう判決が出ればいいなと思う」「日本にも(米国のような)反スラップ訴訟の制定が必要です」と述べた。
また、ジャーナリストの青木理氏は「しごく当然な判決」としたうえで問題に真正面から向き合わない今のメディアの姿勢を嘆いた。
「新聞社やテレビ局のほとんどはクレームつけられる、訴訟を起こされるのを嫌います。問題が起きたら組織としてどう対応するか会議などで時間を相当取られ、面倒なことになる。だから文句をつけられそうな、訴訟に発展しそうな問題はさわらないという情けない状態です。萎縮によって言論の自由が失われる深刻な事態を考えなければと思います」
 これからの裁判の進め方について有田氏は「(反撃に向けて)反訴したいと思っている」と、5人からなる弁護団に呼びかけたところ「了解した」と返事がきた。
 弁護団は判決が、文科省が東京地裁に請求し審理が進む教団への解散命令可否判断にも影響し追い風になると見ている。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年4月25日号
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2024年05月30日

【焦点】成立した炭素貯蔵事業法はカーボーンニュートラルの切り札か。23年JCJ機関紙6月号記事で「実現性危うい」と指摘=橋詰雅博

 脱炭素化の有力手段とされる「二酸化炭素貯蔵(CCS)事業法案」が今国会で成立した。マスコミは切り札と持ち上げるこのCCSは、今後10年間で官民合わせて4兆円を投資する。果たして本当に実現性があるのか、掛け声倒れになる危険性はないのだろうか。
 炭素回収貯蔵の略称である「CCS」は、製油所や火力発電所、工場などから排出される二酸化炭素(CO2)を分離・回収し、液化したものに圧力かけて地中や海底に埋め込む。これを実現するには地下1`より深く、貯留できる地層があり、上部にCO2が漏れ出すのを防ぐ地層があるなどを備えていることが条件とされる。

 政府はすでに電力、鉄鋼、石油など大手企業が手掛けるCCS7事業を選定した。国内では北海道・苫小牧地域、東新潟地域、日本海側の東北地方・九州地方、首都圏の5カ所。安価にできると見込むマレー半島とオーストラリアなど大洋州への輸出も2件含む。CCS長期ロードマップ(22年版)では、事業を30年までに本格稼働させて、その後20年間は毎年600〜1200万dずつ貯蔵量を増やす計画だ。50年時点で年1・2億から2・4億dの貯蔵が目標。現在の排出量の1〜2割に相当する。

 「CCSなくして脱炭素(カーボンニュートラル)なしと」経済産業省はうたうが、事業を危惧する声は少なくない。この問題に詳しい工学博士の松田智氏は昨年6月25日号本紙にこうコメントを寄せている。
 「CO2の固定・貯蔵にはコストがかかるし、電力も消費するのでCO2排出がさらに増える。大口発生源の火力発電所で実現できていないのは、CCS方式を使うと発電単価の上昇が避けられないからです。CO2が洩れない石油・天然ガスの廃坑とか堅ろうな場所が必要です。CCSの実現化は極めて困難です。経産省の資料ではコストや埋め立て規模などは明記されていません」
 絵に描いた餅になるかもしれないというのだ。巨額な税金の無駄遣いになり得る可能性がある。
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2024年05月29日

【焦点】経済安保新法は民間を巻き込み「戦争への国づくり」が狙い=橋詰雅博

 今国会で成立した「重要経済安保情報保護法」は特定秘密保護法の経済版だ。
その肝は「セキュリティ・クリアランス(SC)」と名付けた適性評価制度で、政府が指定した秘密情報を取り扱う人にその適性があるかどうか評価する仕組み。実は秘密保護法ですでにこの適性評価が導入されており、その対象は防衛省、自衛隊など公務員が9割超を占めていた。しかし経済安保新法では経済分野ゆえに多くの民間人が身辺調査されて評価を受ける。秘密保護法と一体運用で監視社会が強化される。
 身辺調査は内閣府に置かれた部署が担当する。内閣情報調査室や公安調査庁、公安警察などが調査に当たると見られている。5月11日付新婦人しんぶんに寄稿した東北大名誉教授の井原聡氏は「調査の基準が明らかになっていない」と前置きしたうえでこう指摘する。

10年監視対象
 本人に関しては犯罪及び懲罰の経歴、薬物の濫用及び影響、精神疾患、飲酒の節度、借金など経済状況など詳しい報告が求められる。犯罪歴は法務省から、薬物や精神疾患は病院などのカルテ収集、金融業者から信用状態を調査される。嘘がないか、変更がないかなどSCの有効期間10年にわたり監視の対象になる。
 さらに「政府を批判する運動や団体に加わっていないか、組合活動などでの言動も調査の対象になるでしょう」「承諾なしに家族(配偶者、事実上の婚姻関係と同様の事情にある者)父母、子及び兄弟姉妹、それ以外の配偶者の父母及び子、同居人の氏名、生年月日、国籍、住所を報告せよというのです」

目的外の使用も
 思想・信条・内心の自由の侵害に関わる徹底した個人情報が内閣府に収集管理される。個人情報保護法ではこうした調査内容は「要配慮個人情報」にあたり、その取扱いは特に配慮を要するとされている。しかし、目的外使用を監視する機関はない。
 米国には大統領インテリジェンス問題諮問委員会、連邦プライバシー・市民自由監視委員会、首席監察官、国家情報長官室自由保護管、全米アカデミーなど監視システムがある。経済安保新法にはこうしたシステムは欠落している。これでは労働者の権益は守られないというのだ。
 米国の強い要請で取り入れられたSC制度は「企業も関わる兵器の国際共同開発・製造・整備・売買、米軍と自衛隊の一体的な運用など軍事情報が洩れないため」という。そして「戦争をする国づくりための新法」と結論を述べている。
 経済安保新法の裏面にはこうした政府の最終目的があることを知っておくべきだ。
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2024年05月25日

【焦点】健康被害急増の紅麹事件、安倍政権の規制緩和が元凶=橋詰雅博

 小林製薬が独自に開発した原料「紅麹」を使った機能性表示食品(サプリメント)を服用した人の腎疾患、むくみ、倦怠感などの健康被害は拡大の一途だ。厚労省によると、「紅麹コレステヘルプ」などをのんで被害を訴えて病院で受診した人は延べ1594人、276人が入院し、5人が死亡した(5月19日時点)。ただ死亡と服用の因果関係は不明とされる。

 被害の広がりを受けて消費者庁は機能性表示食品のあり方をめぐり医療や食品衛生などの分野の専門家からなる検討会を4月中旬に立ち上げた。関係団体へのヒアリングを重ね、これまで5回会合を開き、制度見直しの提言案をまとめた。それによると大きな柱は3つ。@健康被害について、製品に起因する疑いが否定できない場合、医者は症状の軽重を問わず消費者庁に報告、A生産・品質管理の厳格化では医薬品に義務付けられている製造時の管理基準(GMP)などを参考に一定の基準を設け、企業は順守状況の監視体制を行う、B国が安全性を審査する「特定保健用食品」(トクホ)との違いや医薬品との飲み合わせなどに関する情報を製品パッケージに記載―。
 消費者庁はこの提言を踏まえて今月末までに内閣府令改正に向けた対応策をまとめる。

 科学的な根拠や安全性の情報を企業が消費者庁に届け出れば販売できる機能性表示食品は2015年に導入された。ここで忘れてはならないのは、安倍晋三政権がこれを解禁に踏み切ったことだ。米国でのサプリメント市場の急拡大を受けて日本の経団連は機能性表示を認める制度の早急な検討を05年に要求。財界からの要請に応えるべく安倍政権は徐々に規制緩和した。農民連食品分析センター所長の八田純人氏は「機能性表示食品のルールブックつくるとき、消費団体の研究者たちが(健康被害)を懸念したが、政府に押し切られた」(新婦人しんぶん5月11日付)という。

 米国では機能性表示食品オキシエリートプロを服用した人が急性肺炎を起こす健康被害が13年に起きた。死者も出てルールを厳しくすべきと欧米で高まり、日本でも問題視した。
 しかし「世界で一番企業が働きやすい国」を掲げる安倍政権は、サプリ市場の拡大に走った。調査会社インテージによると、機能性表示食品のサプリ市場はこれまで急成長を続け23年の年間販売額は491億円と17年の3倍超。今年も3月までは毎月の販売額は前年同月比1割超のペースで増えていた。だが3月下旬の紅麹事件の発覚で、売り上げが急減した。
 これからサプリ離れに拍車がかかりそうだ。安倍政権の罪は重い。
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2024年05月20日

【焦点】日本人女性の海外出稼ぎ売春が急増する3つの理=橋詰雅博

 今年に入って2件目の日本人女性を海外で売春させる犯罪グループが警視庁保安部に摘発された。売春あっせん容疑で5月9日に逮捕された3人は、約3年間で200人〜300人の女性を米国、オーストラリア、カナダなどの売春組織にあっせんし紹介料などとして総額2億円を得ていた。4月に逮捕された4人は2021年6月から3年間で同じく200人から300人の女性を米国、オーストラリア、カナダにあっせんし2億円売り上げていた。どちらも立ち上げた求人サイトを通じて女性を募っていた。

 警視庁が摘発に動いたきっかけは、米税関・国境取締局(CBP)や国土安全保障省などから昨春ごろ情報を提供されたからだ。日本人女性の違法な出稼ぎ売春が目に余るためCBPなどが対応したとみられる。今では「観光目的で来た」という日本人女性が一人で米国に入国しようとした場合、売春目的ではないかと疑われ、警察官から「なぜ一人で来たのか」「職業は何なのか」など質問攻めにあったうえにスマホの中身も徹底的に調べられる。何時間も拘束されて、疑いが晴れないときは入国を認められず、強制帰国させられるケースが少なくない。米当局ほど審査は厳しくないが、オーストラリアやカナダでも同じような対策をとっている。売春目的の渡航だと判断されたら米国では、日本の入管法にあたる移民国籍法に基づき以後10年間入国できなくなる。また入国後に摘発されたら不法就労となり国外退去となる。

 ここにきて日本女性の海外への出稼ぎ売春が増えてきたのはなぜなのか。5月11日に日本ジャーナリスト会議(JCJ)のオンライン講演に出演した『出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日出版新書)の著者・松岡かすみ氏は「海外出稼ぎ売春は10年ほど前から少しずつ見られた」としたうえで、コロナ禍を経て増加した理由を3つ挙げた。
 まず長引く不況と急速な円安による物価高などの影響で、日本の風俗業界では思うように稼げなくなった。海外の風俗店などの料金の方が日本と比べて何倍も高く、女性の取り分も多い。次に性の売買がカジュアル化し、貞操観念が薄くなり積極的に売春の世界に足を踏み入れる人が増えている。3つ目はSNSを始めデジタルテクノロジーの発展により個人が仕事≠直接受けられる環境が整ってきた。
 今後どうなるのかについて松岡氏は「この傾向は強まるだろう」と予測。出稼ぎ売春の加速は日本人のビザ発給の厳格化、現地での深刻な被害が表面化する危険性があると指摘した。

 「失われた30年」における日本経済の停滞のひずみが出稼ぎ売春に拍車をかけている。
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2024年04月26日

【焦点】どうなっている憲法審査会の動向。議員任期延長を突破口に危険な改憲に突入、戦争する国づくりへ=橋詰雅博

  自民党の派閥裏金事件に端を発した「政治とカネ」の問題。連日大きく報じられているが、見過ごされているのは衆議院憲法審査会の動向だ。メディアはほとんど報道しないが、実は自民、公明、維新、国民民主などが一体となり改憲への作業を着々と進めている。
 その突破口となっているのは国会議員の任期延長論だ。任期延長論と改憲、一見無関係に見えるが、大災害など自然災害やパンデミック(感染症の世界的大流行)を口実して、国家有事・武力攻撃(戦争)事態が起こったときも、適正な選挙の実施が困難と予想されるので、内閣の判断で半年又は1年(再延長ではそれ以上)任期延長を認めるよう憲法を変えようというものだ。自民党の中谷元筆頭幹事は、具体的な条文起草作業機関の設置を昨年12月に提案している。

 改憲問題対策法律家6団体連絡会事務局長の大江京子弁護士はその本質をこう述べている。
 「国会議員の任期延長論は、憲法に武力攻撃(戦争)を明記し、内閣の恣意的な判断で、民主主義の根幹であり、国民主権原理に基づく基本権である国民の選挙権を制限(停止)できるとする改憲です。非戦の憲法に堂々と『戦争』が書き込まれることとなり、国民主権と平和主義に大きな例外を認めるものです。(中略)戦争できる国づくりの一環という本質を持ったものです」(2024年4月20日新婦人しんぶん)。

 日本では戦前「選挙を行うと挙国一致体制整備に疑いを生じさせる」という理由で1941年(昭和16年)2月に衆議院選挙が1年延期された。その間に国民の抑圧を可能にした国防保安法や治安維持法が制定改正され、反戦論を封じ込めた。その年の12月に米国との太平洋戦争に突入した。
 22年末に安保3文書改定(防衛費の大幅増額や敵基地をたたく反撃能力保有など盛り込む)を閣議決定し、憲法9条に基づく専守防衛の基本を捨てた岸田文雄内閣は、バイデン米政権の意向に沿い対中国と戦う態勢を進めている。

 自民党は国会議員任期延長を憲法に盛り込み、最終的に9条2項(陸海空軍その他の戦力は保持しない。国の交戦権は認めない)の改憲を狙う。国会議員任期延長改憲はその布石と大江弁護士は見ている。
 国民の知らぬ間に危険な改憲すなわち戦争する国づくりが間近に迫る。いまこそ自由や平和な生活を奪う「軍拡・戦争準備」に断固反対の声を上げなければならない。
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2024年04月22日

【焦点】ガザで実証済みAI兵器 イスラエル新興輸出へ 民間人犠牲者の急増必至=橋詰雅博

 AI技術先進国のイスラエルでは新興企業が自ら開発した各種AI兵器の輸出に乗り出している。これらの兵器はパレスチナ自治区ガザでハマスと戦闘を続けるイスラエル軍に提供したもので、実証済みであることがセールスポイントだ。
 例えばスマートシューター社の代表製品は、標的を自動識別する装置。イスラエル軍は「ハブソラ(福音)」と名付けており、英陸軍は小型のものを小銃に装着してドローン撃墜する訓練を行っていると英BBCは報じている。

 空爆・砲撃の標的を自動的に数多く設定する「ハブソラ」はどれほどの威力なのか。イスラエルが「鉄の剣」作戦と名付けた今回のガザ戦争について1月13日JCJオンラインで講演した元朝日新聞記者の中東情勢ウオッチャー・川上泰徳氏はこう語った。
 イスラエルネットメディア「+792マガジン」の調査報道によると、イスラエルがガザを攻撃した過去の事例では、08年の1日平均標的数は155カ所、14年は122カ所、21年136カ所だったが、23年は429カ所。過去3回の1日平均138カ所に対して今回はその3・11倍にもなる。
 情報部員は「数万人の情報部員では処理できなかった膨大な量のデータを処理するハブソラはリアルタイムで標的を示す」「ハマス幹部への攻撃の巻き添えで許される民間人の死者は数百人にまで増加した」と述べた。
 
 この結果、どうなったか。世界保健機構によると、08年、14年、21年の女性・子どもの死者は38%から41%で、非戦闘員の男性が60%に対して23年は女性・子どもの死者は69%に達し、男性が30%で、過去3回と逆転している。

 ハマスを「人間の顔をした動物」(ガラント国防相)ととらえるイスラエルのガザ攻撃は民間人も対象にした「ジェノサイド(集団殺害)だ」と川上氏は断罪した。
 AI標的システムの拡大は紛争地での民間人の犠牲者を大きく増やすことになるだろう。

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2024年04月01日

【焦点】「セクシー田中さん」事件で注目 著作者人格権奪う世田谷区 見直し求め要望書 保坂区長 対話拒否=橋詰雅博

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          支援者と記者会見する谷口雄太氏(右端) 

 原作者で漫画家の芦原妃名子さんが自死(享年50)に追い込まれたドラマ「セクシー田中さん」事件は、出版元の小学館、映像化した日本テレビを巻き込むなど大きな社会問題に発展している。原作に忠実にという作者の意向が脚本に十分に反映されなかったことが自死の主因とみられる。ここで浮かび上がったのは「著者が待つ絶対的な権利『著作者人格権』について周知徹底し、著者の意向は必ず尊重され、意見を言うことは当然のことであるという認識を拡げることこそが再発防止において核となる部分」と第一コミック局編集者一同の声明(2月8日)が指摘した著作者人格権だ。

譲渡できない権利

 財産的な利益を保護し譲渡が可能な著作権と異なり、著作者人格権は作者の許諾を得ず、無断で作品を改変することを禁止した譲渡ができない権利と著作権法第59条で定める。
 この著作者人格権問題で思い出すのは東京・世田谷の区史刊行を巡る区と大学教員の対立だ(2023年5月25日号本紙で既報)。区史編さん委員を委嘱された中世史部分を担当する青山学院大学文学部史学科準教授・谷口雄太氏=は、区から執筆条件として「著作権譲渡(無償)と著作者人格権の不行使」を規定した契約書締結を23年2月に求められ反対したところ3月末に委嘱を打ち切られた。
 谷口氏の支援とよりよい区史刊行を目指した区民らが今年1月に立ち上げた「世田谷区史のあり方ついて考える区民の会」は、著作権と著作者人格権を奪う契約書の見直しを求める要望書を2月27日に保坂展人区長に提出した。
 発起人のジャーナリスト・稲葉康生氏は「歴史学者に著作者人格権の不行使を求めるのは、研究と執筆にリスペクトを欠くだけでなく、研究内容の改変、改ざんを可能にする。研究成果への信頼が毀損されかねない」と区のやり方を批判した。

学者生命奪われる

 芦原さんの自死について谷口氏は「自分が思いを込めて作ったものが同意なく、改ざんされるのは耐え難い。作品にキズをつけられたような気持ちになり精神的にショック。同じ作り手の立場としてそう思いました」と語った。
 著作者人格権の不行使に反対する理由を谷口氏は2点あげた。「一つ目は区に中世吉良氏の専門家はいません。デタラメなものに書きかえられる恐れがある。学術的な正当性が担保されていない」「二つ目は私の名前でデタラメな内容の区史が出たら名前にキズがつく。学者生命が脅かされる、奪われかもしれません」
 著作権譲渡に対して「私個人は無償でもいいが、(区史執筆では)経済的に余裕がない若い研究者や大学の非常勤講師の方もいます。無償譲渡見直しを求めるのは妥当です」と谷口氏は述べた。

準備号が尾を引く

 今回の騒ぎは谷口氏が執筆した区史刊行の準備号が発端だ。著作権と著作者人格権の両方を侵害したとして区に抗議した。これが尾を引いたのか区は2つの権利を外す契約書を配布した。
「セクシー田中さん」事件は、著作者人格権をないがしろにすれば著作者の命を奪うほど重い問題ということを明らかにした。
 これを踏まえ要望書では保坂区長との対話も求めたが、世田谷区は、話し合いはできないと5日、区民の会に伝えた。
「熟議」を大切にするという保坂区長、これでは看板倒れではないか。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
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