2023年03月16日

【焦点】「上昇が目的、何するかがない」小池都知事評―『安倍晋三 回顧録』でダメ出し=橋詰雅博

 住民の反対を完全無視して東京・神宮外苑再開発事業を認可した小池百合子都知事。この仕打ちに約60人の住民は東京地裁に認可取り消しを求める行政訴訟を起こし対抗した。小池知事という政治家を知るうえで参考になるのは近刊『安倍晋三 回顧録』だ。安倍元首相は小池知事をこんな風に見ていた。

 <彼女を支えている原動力は、上昇志向だと思う。誰だって上昇志向を持つことは大切だが、上昇して何をするのかが、彼女の場合、見えてこない。上昇すること自体が目的になってしまっている。上昇する過程では、小池さんは関係者を徹底的に追い落としてきましたね>(同書264ページ)
 安倍元首相を政治家として評価しないがと前置きし、ただ小池評は正鵠を射ているというのは、元都庁幹部職員の澤章氏だ。自身のYouTube『都庁WatchTV』でこう語っている。
 「小池さんというのは、中身は何もありません。政治の世界において、着ぐるみをどうやって価値を挙げていくか、もうそれだけが目的、もうそれしかない。政治家であれば、自己中だったり、わがままだったり、上昇志向があって、それは当然ですけど、小池さんの場合、それが度を越しているというか、ちょっと異様な人です」

 外苑再開発事業の樹木伐採問題でも、当初は約1000本と説明していたが、ふたを開けてみると新宿区エリアだけでも3000本もの木が切り落とされることが事業者の計画で判明した。小池知事は当然事前に知っていたはずなのに触れずじまい。説明は一切ない。法令に則り手続きが問題なければ、認可する、あとは事業者任せという極めて不誠実な対応だ。おそらく、外苑再開発事業全体では3000本をはるかに超える木が切れるであろう。

 反対の声は少数と切り捨て冷酷な判断で事業を促進させる小池知事の野望は、政界での頂≠ゥ。しかし単なる「異様な人」で終わるかも。来年夏の都知事選挙に注目だ。
 
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2023年03月04日

【焦点】「対中戦争準備国」への恐怖 台湾有事を煽る米国に追従 大軍拡で経済衰退は急加速 岡田充氏オンライン講演=橋詰雅博

                            
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 米中両国を中心に政治をウオッチする元共同通信論説委員でジャーナリストの岡田充(たかし)氏(=写真=)は日本AALA(アジア・アフリカ・ラテンアメリカ)連帯委員会が1月26日開いたオンライン学習会で「台湾有事はどう作られたか―日本衰退が加速する大軍拡」をテーマに講演した。

一極覇権への回帰

 中国が武力で台湾を統一する―。中国の軍事的脅威論を米国が意図的に演出し、煽っていると岡田氏は指摘する。中国の台頭を阻み、日本を筆頭とした同盟国を巻き込んで米国がアジア太平洋地域に君臨し、ひいては「米国による一極覇権の回帰が狙いだ」という。その先鞭がバイデン政権発足直後の2021年3月の前米インド太平洋軍司令官のデビットソン海軍大将の上院軍事委員会での証言だ。「中国軍が27年までに台湾に進行する可能性がある」と述べたことについて岡田氏は「日米首脳会談に向け台湾問題で日本を主体的に関与させるための地ならし≠ニ、中国の軍事的な脅威を煽る対日世論工作だ」と分析した。
 米国の思惑に沿い日本は対米追従をさらに強めた。4月のワシントンで開かれた菅義偉とバイデンとの首脳会談で@半世紀ぶりに台湾問題を共同声明に明記、A台湾有事に備えた日米共同軍事作戦の策定―などに合意した。続く22年5月の東京での岸田文雄・バイデン会談の共同声明では@日米同盟の抑止力、対処力の早急な強化、A日本の防衛力を抜本的に強化、防衛費増額を確保、B米側は日本防衛への関与と、核を含む拡大抑止の再確認をうたった。

トマホーク5百発

 こうしたことを踏まえて岸田政権は「国家安全保障戦略」の改訂など安保3文書を昨年12月に閣議決定する。敵基地攻撃能力の保有(米国製巡行ミサイル・トマホーク500発を購入予定など)、防衛費を27年にGDP(国内総生産)比2%に倍増などの決定は、日本の防衛戦略の基本姿勢である専守防衛政策を骨抜きにし、戦争する国家に移行させる安保政策の大転換に舵を切った。
 「21年春からメディアを通じて台湾有事と中国脅威論を煽った米国の狙い通りに日本は防衛力を大強化した。わずか2年で対中国戦争準備国≠ノ移行した日本の変質は、驚きを通り越し恐怖すら感じる」(岡田氏)
 それでは中国は台湾の武力統一に動くのだろうか。習近平総書記長は昨年10月の中国共産党第20回党大会の演説で「完全な統一は必ず実現できる」と台湾統一を強調した。この演説についてNHKを始め多くの日本のメディアは、武力行使も辞さずと報じた。中国が台湾に武力行使を強行する条件は「3つ」と岡田氏は語る。その3条件は台湾独立宣言など中国から離れる事実がつくられたとき、外国干渉を含む分離をもたらしかねない重大事変が発生、平和統一の可能性が完全に失われたときだ。
 メディアは台湾有事を煽っているが、これらの条件に当てはまる危ない事態は起きていない。
 そもそも武力統一は「最悪の選択」だという。岡田氏はその理由をいつくか挙げた。
 「米中の軍事衝突が起きる可能性があり、核戦争まで発展しかねない。キシンジャーは21年4月、『(米中衝突は)世界の終末の脅威が倍増』と警告している。
統一支持が少ない台湾の民意に逆らって武力制圧しても、新たな分裂勢力を抱えるだけで統一の果実がない。武力行使への国際的な反発と経済制裁は、一帯一路計画にもブレーキがかかり経済発展の足を引っ張る。結局、武力行使は共産党の一党支配を揺るがす悪手中の悪手です」

軍事「金食い虫」

 大軍拡は日本経済の衰退を加速させる。一口に防衛費といっても、兵器開発・購入費や購入ローンの返済、訓練費、人件費、弾薬や燃料の備蓄費など多岐にわたる。生み出すものが少なく生産性が低いのに莫大な金だけが費やされる金食い虫≠ェ防衛費。すでに日本の一人当たりのGDPはピークの1997年世界4位から21年に27位まで落ちた。米大手金融グループのゴールドマン・サックスは75年の日本のGDPを世界12位に転落と予測したが、防衛費膨張によりさらにダウンするかもしれない。となるともはや先進国とはいえないだろう。
 対米追従の大軍拡が行き着き先は日本の国力の著しい低下だ。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号
 
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2023年02月25日

【焦点】「インボイス中止を」フリーランスら直撃 重い納税、消費増税の布石=橋詰雅博

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 政府が10月から実施するという消費税のインボイス(税率や税額が記載された適格請求書)制度。「廃業」につながる死活問題ゆえにフリーランスなど個人事業者を中心に反対の声が日増しに高まっている。フリーランスとして働く人が多い出版、アニメ、演劇、映画、俳優・声優などの各団体やフリーランスなどからなる市民グループ「インボイス制度を考えるフリーランスの会(通称:STOP!インボイス)」は相次いで反対声明を出し中止を岸田政権に迫っている。地方経済に悪影響が及ぶと延期や中止を求める意見書を採決した地方議会も急増中だ。
 反対運動に火をつけた「STOP!インボイス」の呼びかけ人の小泉なつみさん(ライター兼編集者)はこう言う。
「一昨年10月、インボイス制度導入で私の負担はどのくらいになるかを税理士さんに尋ねたら驚くほどの金額を提示されました。夫も同業者ですからこれでは家計が立ち行かなくなるとショックでした。インボイスの実態を書いた私のツイッターへの反響は大きく何かアクションを求めていると感じ導入反対を求めるネット署名を12月にスタート。アッと言う間に3万筆も集まり、財務省に提出しました。クラウドファンディングを介して寄せられた約100万円で日比谷野音での反対集会を昨年10月に開いたとき、10万筆を超えたことを報告(=写真上=)。現在15万5000筆に増えています」

仕事がなくなる
 消費税は消費者が支払っていると思いがちだが、実は事業者が税務署に納めている。3%の消費税が導入された1989年は年間売り上げ(年収)が3千万以下の事業者は免税だったが、2004年から1千万以下に引き下げられた。今回のインボス制度実施では1千万以下も課税対象となる。例えば年収300万のフリーランスなどの個人事業者が納める消費税は約14万で、経費、健康保険などの社会保険料や所得税、住民税などを差し引くと、自由になるお金は約90万という試算もある。その上に事務作業も煩雑になる。
 納税を避けるため税務署に課税事業者登録をせず、免税事業者として留まる方法もあるが、報酬ダウンや仕事を失う可能性がある。なぜそうなるのかを小泉さんは「出版社と下請けのライターとの関係で言えば、未登録のライターは、インボスを発行できませんから出版社がライターの消費税を被ります。従って出版社はそのライターへの仕事の発注では、従前より安い原稿料で依頼することがあり得ます。あるいはインボイスに登録済みの課税事業者に仕事を回すことも考えられ、インボイスを発行できないライターは仕事がなくなる可能性がある」と説明する。発注元の出版社から課税事業者への登録要請があれば、ライターは飲まざるを得ない。実際、登録依頼の要請とともに、未登録なら取引価格の変更の可能性があると書かれた文書をライターに郵送した出版社もある(=写真下=)。
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仕事の仲間を分断
 ただ世論の反発は根強く、国会議員も超党派でインボイス制度の問題を考える議員連盟を昨年11月下旬に発足させた。このため岸田政権は免税事業者から課税事業者に転換したら3年間だけ消費税の納税を最大2割とするなどの緩和措置を打ち出した。
 「反対世論の勢いが止まないので少し緩めてやろうというのがこの措置ですが、もともと複雑な制度をさらに複雑化させています。抜本的な解決策とは言い難い。仕事仲間との間に分断を生み、重い納税と事務負担で若手の成長も阻むインボイス制度は中止すべきです」(小泉さん)
 課税事業者への登録は9月中までの予定だ。インボイス制度導入の背景には免税事業者をなくし消費税増税をめざす財務省の思惑が潜んでいる。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号

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2023年02月17日

【焦点】来年1月の台湾総統選はゲームチェンジャーになり得る=橋詰雅博

 中国は2027年までに軍事力で台湾に攻め込み統一を実現するのではないかと米国や日本などで喧伝されている中で、台湾の政治情勢に注目が集まっている。というのは2024年1月に総統選挙(1996年直接選挙が行われて以降4年に1回実施)が行われるからだ。この選挙で中国と距離を置き独立志向が根強い与党・民進党から親中国派の最大野党・国民党に政権が交代したら、
声高に言われている今の台湾有事の勢いが止まる可能性がある。

 次の総統選では民進党は頼清徳副総裁が最有力候補だ。昨年11月の統一地方選で敗北した責任を取り主席を辞任した蔡英文総統の則近で、20年5月から副総裁を務める。副総裁就任前は、「一つの中国」を認めない対中強硬派と見られていたが、主席就任の記者会見では「台湾はすでに独立国家だと現実的に位置付けている。改めて台湾独立を宣言する必要はない」と述べ、蔡総統路線を継承する方針だ。

 一方、国民党はまだ正式な候補者は決まっていないが、朱立倫主席や新北市長の候友宣、大手電機メーカー・ホンハイ精密工業の創業者・郭台銘らの名前が挙がっている。
 対中関係が争点となる総統選では、統一地方選の結果がそのまま反映しないという見方があるが、国民党の政権奪還はあり得る。

 1月下旬にオンライン講演した元共同通信論説委員でジャーナリスト・岡田充氏(香港、台北、モスクワ各特派員を務めた)はこう言った。
 「統一地方選で民進党が惨敗したのは、蔡政権の抗中保台$ュ策が国民の離反を招いたからです。従って来年1月の総統選でも対中関係の見直しの世論が高まれば、政権交代の可能性はあります。そうなったら緊張関係を続けてきた中台関係は大きく改善する。『有事』が宙に浮きます。まさに総統選はゲームチェンジャーになる」

 となると米国の戦略に沿い大軍拡に走る岸田政権への風当たりが強まり、軍事力増強路線に疑念が生まれる。岡田氏は「進めるべきは、中国敵視をやめて、停止状態の日中首脳交流を再開して信頼醸成を図ること。外交を正常に戻すことです」と強調した。
 台湾有事を煽り中国の台頭を阻む米戦略への追従は日本の国益を大きく損なうのである。
 

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2023年01月30日

【東京五輪選手村訴訟】第3回控訴審は3月14日に開く、原告側の不動産鑑定意見書が証拠採用=橋詰雅博

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原告側らが発行する最新会報誌


  都民が小池百合子都知事らを相手取った東京五輪選手村訴訟の控訴審第3回口頭弁論は3月14日(火)午前11時20分から101号法廷で開かれる。

 昨年12月15日開かれた第2回口頭弁論では選手村土地を9割引とした日本不動産研究所の価格評価の間違いを明らかにした田原拓治不動産鑑定士の鑑定意見書が証拠として採用された。原告側には大きな収穫だ。原告団からこの報告を聞いた田原氏は「よくぞ裁判官に証拠として採用させたと、その努力に敬服いたします。少し明るい光が見えてきたように感じられますと」と感想を述べた。
 被控訴人(都側)は田原意見書への反論書を裁判所に2月末まで提出するが、被告がよりどころとした選手村要因を考慮した土地価格は開発法でしか算出できない点について、田原意見書はこう指摘している。ちなみに開発法はこの土地にマンションなどを建てて販売したら、いくら儲かるかを基準としたデベロッパー目線による評価方式だ。

 <選手村要因は建物の工事費の問題であり、土地価格への影響を考慮して判断すべきという前提自体が誤り。従って、取引事例比較法による正常価格を出せるし、これと方法が違う開発法のみでの価格決定は複数の手法で価格評価すべしという鑑定基準に違反する。また近隣の公示価格とも比べないのは公示価格法違反である>
 裁判長は、被告の反論書をみてから田原氏の法廷での証人尋問が必要かどうか判断するという。
 被告・東京都の反論書の内容が見ものだ。

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2023年01月07日

【焦点】洗脳から目覚めた二世 旧統一教会信者、過酷な体験 『カルトの花嫁』に綴る 「いのちの電話」で再生へ=橋詰雅博

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                  音声だけで出演
 旧統一教会元信者が自らの過酷な体験を綴った『カルトの花嫁』(合同出版社)が話題を呼んでいる。信者の母親の強要により高校生の頃に入信し、合同結婚式に2度参加した著者の冠木結心さん(かぶらぎ・けいこ=写真上=)は、いずれも韓国人男性とマッチングされた。最初の夫にはDVで、2度目はアルコール依存症で借金漬けの夫に苦しめられ壮絶な結婚生活を送る。2012年9月、教祖・文鮮明の死亡を機に洗脳から目覚め脱会した彼女は翌13年に2人の子ども(異父姉妹)と共に韓国から逃げるように帰国した。40代の今はシングルマザーとして暮らす冠木さんと、元信者で脱会支援活動を37年間も続けている牧師の竹迫之さん(たけさこ・いたる==)が11月19日オンラインで対談(合同出版主催)した。
 1995年8月25日ソウルオリンピックスタジアムでの合同結婚式に参加した冠木さんは21歳の当時を振り返ってこう語った。

子どもを守るため

 「統一教会では男女間の自由恋愛は禁止していますので、1回も恋愛経験はありません。19歳の韓国人とマッチングされた時、愛する人を与えてくださったのでうれしかったです。幸せな毎日が待っていると思いましたが、幻想でした。韓国で住む家も仕事もない彼との結婚生活は私が働き日本でスタートしましたが、夫は自分の気に入らないことがあると、私を殴り、蹴ったりした。信仰の信の字もない夫に驚いた。日本で悪霊(サタン)がついたから夫は暴力をふるうと韓国人教区長などから諭され日本人として罪の意識もありじっと耐えました。でも結婚3年目に生まれた子どもに夫の暴力が向かうと心配になり離婚を母に伝えました。『祝福家庭が壊れるのは、サタンが一番喜ぶこと』と反対されましたが、子どもの身を守るため離婚を決意しました」
 だが彼女は2002年2月の2度目の合同結婚式に参加。なぜ再婚したのかについて「御父母様(文鮮明夫婦、教会内での愛称)から祝福を受けたいという洗脳を解くことをできずにいたから」とその時の心境を述べた。相手は14歳年上で日雇いの仕事をしていた。マッチングの際、年齢、学齢、仕事を偽っていた。
                       
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 「万物復帰」(信仰の訓練として福祉ボランティアを装った信者が一般の人に物を売りつける行為。売り上げは統一教会に入る)と呼ばれる活動として竹迫さんはハンカチを売った。
 「ホーム(献身した男女が宿泊施設で共同生活を送る)で朝5時に起きると、皆、今日の売り上げ目標を自己申告する。昨日2万円売れたから3万とか4万と言うと『そんなはした金で世界が救えるか』と幹部から恫喝される。20万、30万と無理な目標を申告してしまう。訪問販売が恥ずかしいという気持ちが生まれるのは堕落でありサタンにつけこまれるとマインドコントロールされているので、訪問先で歌なんか歌い芸を披露する。精神を集中して売った」

母親と縁を切った

 12年肺炎であっさり死亡した文鮮明がただの人間だと気づいた冠木さんは洗脳から目覚め脱会し、ダメ夫を捨て去り2人の子どもと共に帰国した。20年に及んだ洗脳と、元夫が彼女のクレジットカードを使いつくった多額の借金の返済から抜け出すきっかけは「いのちの電話」の相談員から受けた2つのアドバイスだった。大学の心理療法室と法テラスの利用だ。紹介された心理療法室に通う一方で弁護士の力を借りて自己破産し経済的なピンチを脱した。
 脱会支援をサポートする竹迫さんは「かつては信者の脱会に専念したが、うまくいかなかった。今は、信者とその家族とが再び交流できるように努め、両者の分断が修正されて信者の脱会につながれば」と話した。
 子どもが旧統一教会に引きずり込まれるのを阻むため母親とは縁を切った冠木さんは、心理療法士のカウンセリングを受けながら再生の道を歩んでいる。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
 
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2022年12月19日

【焦点】「拉致問題本 充実を」文科省「図書館の自由」に介入 図書館協会など撤回求める=橋詰雅博

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 文部科学省が都道府県の教育委員会などに出した事務連絡に反発が広がっている。問題の文書は「北朝鮮当局による拉致問題に関する図書等の充実に係る御協力等について」と題し、「若い世代に対する拉致問題への更なる理解促進のため図書館、学校図書館において、拉致問題に関する図書等の充実」(=写真=)を求めた。12月10日から16日の北朝鮮人権侵害問題啓発週間に向けて内閣官房拉致問題対策本部から依頼を受けた文科省が8月末に通知した。これに対して「権力の介入」と批判した図書館業界などは依頼の撤回を要求した。

自由宣言を採択

 図書館業界が反発するのは理由がある。戦前・戦中の図書館は政府が掲げる「思想善導」(国家が反体制思想を排除する政策)に沿い国民の知る自由(知る権利)を妨げる役割を果たし、戦争に協力した。こうした反省の上に立ち公立図書館や小中高の学校図書館などが加盟する日本図書館協会は、1954年(昭和29年)に「図書館の自由に関する宣言」を採択した。この宣言では、図書館は権力の介入または社会的圧力に左右されることなく、自らの責任にもとづき、収集した資料と整備された施設の提供を行うとしている。併せて「利用者の秘密保持」や「検閲の反対」もうたわれた。
 今回の文科省の文書は図書館の自由宣言をないがしろにする危険性がある。このため図書館や教育現場から批判が相次いでいるのだ。いち早く9月8日、全日本教職員組合は「内容やテーマを指定した図書の充実や展示を求めるのは、子ども、国民の思想を縛るきわめて危険なことである」として事務連絡の撤回を文科省に申し入れた。日本図書館協会も「国民の知る自由を保障するうえで、とても危険なこと。文科省の文書は是認することはできません」と10月11日に意見表明した。

不当な支配にも

 日本図書館協会の岡部幸祐常務理事は「図書館として拉致問題の理解促進に協力するのは重要です。そうであっても拉致をテーマした図書の充実をという文科省の通知連絡は、図書館の自由宣言の理念から逸脱する行為だと考えられます。今一度、宣言を守ってほしいというメッセージが必要と考えて意見表明しました」と話す。
 また改めて自由宣言を読み直してほしいと加盟の図書館に同協会が文書を出した理由を岡部常務理事はこう説明する。
 「文科省の事務連絡を指示文書のように受け取ることを懸念したからです。というのは、司書は非常勤が多く、学校を掛け持ちしている司書もいます。少ないですが司書不在の学校図書館もあります。こうした事情から図書館での主体的な取り組みが難しくなる恐れが生じると考えて、関係者に宣言の読み直しをお願いしました」
 図書館員や個人ボランティアなどからなる図書館問題研究会の中沢孝之委員長は「多くの図書館は、拉致問題の早期解決を願っており、収集した拉致関係の図書を展示しています。それなのに国はこんな文書を提示する。図書館の自由宣言の侵害であり、権力介入の危機感を覚えます。教育基本法第16条『不当な支配』に該当する恐れもあります。事務連絡の撤回と今後こうした要請を行わないことを文科省に求めました」と語る。
「強制の意図はない」と国は釈明するが、図書館の自由宣言を軽視しているのでは……。
  橋詰雅博
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
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2022年11月12日

【焦点】新法 今国会で成立見通し フリーランスは本当に保護されるのか 実効性の確保が問題 公取委など官庁連携も必要=橋詰雅博

  出版、IT、メディア、スポーツ、広報、運送、芸能などさまざまな分野で仕事するフリーランスが安定して働けるという新法律「フリーランス保護法案」が臨時国会の会期末12月10日までに成立する見通しだ。

多い泣き寝入り

 日本でも462万人と急増するフリーランスが、報酬の支払い遅延、突然の契約解除、一方的な仕事の内容の変更などで泣き寝入りするケースが増えている。トラブル防止をめざす法案には、これまで資本金1千万円を超える企業に適用されていた下請法(代金の支払い遅延や代金の買いたたきなどの禁止、申告された違反者への指導・勧告など)を、フリーランスと取引が多い資本金1千万円以下の企業にも適用に加えて新たにハラスメント対策などが盛り込まれた。

下請法と保護法案が発注者に義務付けた取引の適正化に関する主な中身は次の通り。
▼業務委託する際、仕事の内容、納期、報酬額、報酬の支払い時期
など8項目を記した書面の交付あるいはメールをする。
▼中途解約または契約期間更新しない場合、30日前に予告。
▼報酬は仕事が完了した日から60日以内に支払う。
▼報酬減額、返品、不当に低い報酬、指定する物の購入強制、報酬内容の変更などの禁止。
 この取引の適正化に関し下請法の対象外の企業も、法制化により違反すれば指導、勧告、公表などが行われる。フリーランスも国に違反申告ができ、それを理由に契約解除はされない。

 新たに加わる発注者が取り組むべき就業環境の整備の内容は@ハラスメント行為について、適切に対応するため体制の整備、その他の必要な措置を講じる、
Aフリーランスの申し出に応じ、出産・育児・介護と仕事の両立との観点から必要な配慮をする。
ようやく着手されたこの新法案で不安定な立場のフリーランスは本当に保護されるだろうか。

守る姿勢と問題点

  厚生労働省などに新法案について要望を提示してきた日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)フリーランス連絡会の北健一氏は「下請法の全企業への適用と、就業環境整備からなる法案は十分な内容ではないが、フリーランスを守る姿勢が示された」と評価した。
 一方では問題もある。
 「保護法が成立しても守らない企業が出てきます。それを防ぐには実効性の確保が重要なポイントです。法案にはどの官庁が違反した発注者の指導、勧告、公表を行うのかは明示されていません。下請法の監督官庁は公正取引委員会ですが、地方に7カ所の拠点しかなく、マンパワーも不足しています。全国に拠点がある労働基準法違反を調べる労働基準監督署と比べると規模が小さい。保護法も公取委が担当となると、労基署のように広範な指導、勧告などができる体制になっていません。これでは違反する企業を防止できませんので、公取委の増員を内閣官房(首相の補佐・支援が役目)にMICは要望しています」(北氏)
  保護法の実効性を高めるため北氏はこんな提案をする。
 「厚労省が所管し、東京第二弁護士会が運営する常設の『フリーランス110番』(20年11月に開設)との連携は有効だと思います。フリーランスから電話やメールで毎月300から500件相談を受け、弁護士が和解あっせんにも取り組んでいます。公取委と厚労省の連携でこのような110番システムを地方に展開すれば、保護法の実効性がアップするのではないでしょうか」
 雇用契約を結んでいないので労働基準法の適用外のフリーランスは労働者に該当しない。しかし個人事業主とはいえ生身の労働者であることに変わらない。北氏は「今回のような取引ルールに加えてけがや病気のときなどカバーしてもらえる労働法的な保護の拡張も検討してほしい」と政府に要望する。
 橋詰雅博
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
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2022年10月31日

【焦点】五輪選手村訴訟の第1回控訴審で2回と3回目の日程決まる、原告が提示した3点の要求の採否に注目=橋詰雅博

 東京・晴海の五輪選手村訴訟の控訴審第1回口頭弁論が10月11日に開かれ、次回第2回弁論は12月15日(木)午後1時40分、第3回は来年2023年3月14日(火)午前11時20分に開かれることが決まった。いずれも101号の大法廷で行われる。
 この日、口頭陳述した原告の中野幸則団長は「都市再開発法を濫用・誤用して合法性を装って、129億6千万円という著しく廉価な譲渡価格を都議会にも財産価格審議会にもかけずに秘密裏に決定したことは地方自治体法違反の財務会計行為」と述べ、控訴審での厳正な審判を求めた。
 原告側代理人の淵脇みどり弁護士は「五輪から1年を経過し、6月に収支報告書が出ましたが、本件住民訴訟で損害賠償を求めている1000億円を超える選手村敷地の土地差額は経費支出として計上されていません。この隠された支出は特定建築業者(土地を取得した三井不動産など11社)の利益となりました」と述べて、「本件は五輪利権をめぐる地方自治体の本質に関わる重要な訴訟」だから司法の場で十分な審議をすべきだと訴えた。
 原告が提示した@小池百合子都知事ら6人の証人申請、A不動産鑑定士の田原拓治氏の意見書の採用、B非開示している都と事業協力者(三井不動産など13社)の協議議事録の命令申立書の採否を裁判長は次回法廷で明らかにする。
 裁判の行方を決まるだけに裁判長がこれら採否をどう判断するのか注目される。
 橋詰雅博
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2022年10月07日

【焦点】神宮外苑の再開発 、見直しも 環境保全案なお懸念 審議会、評価書作成に関与=橋詰雅博 

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      イチョウ並木は枯死するかも
東京都環境影響評価審議会は、明治神宮外苑地区(約28f)の再開発計画を進める事業者が提出した環境保全案を小池百合子都知事に8月18日に答申したが、答申後も引き続き事業者から聴取していく方針だ。異例の対応になったのは多くの問題が残っているからで、事業計画内容が変わる可能性が出てきた。
 答申は「都民から樹木伐採への反対意見を始め、先人から継承された環境を失うことへの懸念や事業計画の十分な周知・公開を求める意見など多くの懸念が表明されている」と前置きしたうえで、「今後の事業者の環境保全措置に継続的に関与し寄与していく」と総括した。

答申は中間報告だ

 樹木伐採などに反対する市民団体のオンランセミナーに出演した(8月27日)千葉商科大学学長の原科幸彦氏(環境アセスメント)もこう指摘した。
 「審議会は事業者の環境保全案を了承し都知事に答申したと報道されたが、答申には了承したとは書いていません。通常は答申した段階で終わるが、まだ多くの問題があるので環境影響評価書の作成前に審議会による事前の審査ができるようになった。答申は中間報告という位置づけです。評価書作成をクリアしないと工事の着工はできません」
 2月に都市計画審議会に承認された三井不動産などが事業者となったこの外苑再開発計画は、高さ190bと185bのオフィス・商業施設が入る高層ビル2棟、80bの宿泊施設・スポーツ関連ビル、60bのホテル併設の新神宮球場、55bの新秩父宮ラグビー場などが2036年まで建設される見込み。約1000本の貴重な樹木が伐採されることが分かったことから米国人経営コンサルタント、ロッシエル・カップさんが伐採反対と計画見直しを求める署名をネットで集め始めたのがきっかけで、「シンボルのイチョウ並木も危ない」と反対運動はみるみる広がった。(署名数10万人突破)。
 市民の声を無視できなくなった事業者は伐採本数をほぼ半減、イチョウ並木の保全、移植した樹林地の再生などからなる環境保全案を審議会に提出した。しかし保全策の実現は不透明だ。このため「事業者と質疑を行いながら環境配慮を着実に進めていきたい」と会長・柳憲一郎明治大学名誉教授は語った。

愛知博は計画変更

 「例えば新神宮球場の壁面とイチョウ並木(青山通りから見て左側)の距離は8bしかない。中央大学研究開発機構の石川幹子教授が調べた近くの新宿御苑地下トンネル(自然保護のため御苑地下を通る、1991年開通)と樹木の枯死の調査によれば、建造物と15b以上離れていれば枯れないという。野球場壁面の後退を求める。計画の骨格を変えることは難しいが、環境重視の世論が盛り上がれば大きな修正はあり得ます」(原科氏)
 先例はある。05年の愛知万博ではメイン会場の候補地、瀬戸市海上町の自然が破壊されると市民団体の声が届きメイン会場が変更され入場数も大幅に縮小された。それがかえって環境万博≠ニ評判を呼んで想定入場数を上回り収支は黒字に。
 セミナーの司会を務めたカップさんは「自治体の議員を始め政治家、マスコミ、ラグビーファン、スワローズファン、外苑の利用者、環境保護関連組織などにコンタクトし、働きかけることが大事」と提案した。
 外苑の樹木を残すという「希望の火」が広がってきた。
橋詰雅博
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       高層ビルが次々と建てられる
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年9月25日号

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2022年09月30日

【焦点】五輪選手村訴訟原告団、総会開く、92%減額を控訴審で訴える=橋詰雅博

                             
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 五輪選手村用地を破格の安値で売却したのは違法だとして、周辺価格との差額約1200億円を小池百合子都知事らに請求するよう都に求める訴訟を起こした晴海選手村投げ売りを正す会は、9月27日に豊洲で第5回総会=写真上=を開いた。
 一審で敗訴した原告団は、「不当判決」と昨年12月に控訴した。総会は10月11日(火)午後1時40分に東京高裁101号法廷で開かれる第1回控訴審に向け意思統一を図るのが目的だった。

 裁判の最大の焦点は都有地の売却価格が適正かどうかだ。都内一等地をデベロッパー11社に129億6000万円で売ったのは選手村要因などを考慮すると「適正」と東京地裁は認めた。しかし、この価格がいかに異常かを検証してみる。ちなみに選手村要因とは@道路などのインフラ整備の完了Aデベロッパーが施設建築物を建設、取得した上で、土地を譲り受けるB施設建築物の一部を五輪大会期間中に選手用宿泊施設などとして使用し、大会終了後に改修の上、分譲または賃貸する―などだ。
 五輪終了後、選手村用地に5632戸の住宅が建てられる。これに伴い新たに学校などの整備が必要になるので、中央区は晴海4丁目と5丁目の都有地を合計3・14f購入することになった。昨年6月財産価格審議会が開かれ、中央区への売却と、土地価格および公共施設に認められる減額を決定した。都は近隣路線価から1u当たり106万(4丁目)、120万(5丁目)とし、売却価格を155億、199億と評価(写真下)。公共減額50%と設定し、減額後の譲渡額を77億5000万、99億5000万と決めた。

原告側の桐蔭横浜大学法学部客員教授、田原拓治不動産鑑定士は、財産価格審議会の土地鑑定は「まとも」と評価した。さらにこう続けた。
「1u当たり120万の5丁目の土地は選手村の真ん中にある。この価格でデベロッパーに譲渡した13・39fの土地価格を算出すると、1607億になる。1607億の土地をいくら選手村要因だと被告の都側が強弁しても正常価格(市場価格)の8%が妥当であるはずがない。選手村の五輪仕様の内装も諸設備の建設、その撤去も都が445億円以上も拠出。選手村とは関係ない超高層分譲マンション2棟の建設も開発事業に含まれている。実態はデベロッパーによる営利を目的にした分譲・賃貸マンションです」
選手村要因を考慮しても、92%減額はひどいというのだ。
田原不動産鑑定士のこの意見書はすでに裁判所に提出している。
 橋詰雅博
                               
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2022年09月01日

【焦点】米IT企業 労組結成 アマゾンなど日本に飛ぶ火 労働者の反乱始まった=橋詰雅博

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ビックテックと呼ばれる米国巨大IT企業で労働組合結成が相次いでいる。グーグルのエンジニアらが親会社のアルファベット社員の協力を得て昨年1月に労組を誕生させた動きは、今年に入り加速した。4月にニューヨーク市スタテン島にあるアマゾンの倉庫で、6月にメリーランド州ボルチモア近郊のアップル直営店で労組が生まれた。「利益につながらない」と労組結成に反対する経営者に抗ったのは、コロナ禍で命の危険にさらされながら働いてきたのに賃金上昇が物価高騰に追いつかず、さらなる賃上げが必要という切実な要求が背景にある。

動きに株主も呼応

 この動きに株主も呼応した。5月末の米国アマゾンのオンライン株主総会で、アクティビスト(物言う株主)の英国企業のCEOが倉庫従業員の賃金と労働条件の改善を求める提案をした。一人の倉庫従業員が「投資家の皆さんは自らのリターンを支えている労働者の安全についてどう考えていますか」と訴え、否決されたものの提案への賛成率は44%にも達した。
 一度解雇されても諦めずにアマゾン労組を結成した黒人リーダーのクリスチャン・スモールズ氏は「これで会社と対等に交渉できる」としたうえで「労働者の権利を認めない雇用者には何かしらの罰が必要だ。そうでないと米国で働く人々は苦しみ続ける」と話した。
 最低賃金を20jから22jに引き上げるという会社側の提案に屈しなかったアップル労組幹部は「全米約270店舗のうち、20数店舗で労組結成への関心を示している」と見通しを語った。「労働者が反乱した」と指摘した米学者もいた。

大統領は労組支援

米改革派労働運動団体「レーバー・ノーツ」と交流がある東京管理職ユニオン委員長の鈴木剛さんは米国の動きをこう見る。
 「NPO法人・労働教育調査プロジェクトが79年創刊した月刊誌の名称であるレーバー・ノーツは、雑誌編集と労働運動リーダー育成が主な事業です。労組再生に向けたオルガナイザー教育を受けた女性やヒスパニック系、黒人らは働く職場や住む地域で精力的に活動している。賃上げ要求に加えて気候変動対策、ジェンダー平等、人種差別撤廃などを掲げ社会的労働運動を盛り上げてきたことと、バイデン大統領の公約である労組支援が組合結成に拍車をかけた」
 東京管理職ユニオンは個人加入の労組。鈴木さんは15年にアマゾンジャパン東京本社や物流センターのマネージャークラスからなる「アマゾンジャパン労組」結成に尽力した。成績不振を口実した退職強要や組合支部長の不当解雇撤回の戦いに取り組んできた=写真=。

配達員組合も誕生

 米国の勢いは日本に飛び火した。アマゾンジャパンの荷物を神奈川県横須賀市で宅配するドライバー10人は「アマゾン配達員組合横須賀支部」を6月につくり東京ユニオンに加入。配達中に事故で荷物が破損した時、ドライバーが負担したお金の返金などをアマゾンに要求している。
 この労組立ち上げをサポートした鈴木さんによると、全国各地のアマゾンドライバーから労組結成の相談がきているという。
 企業において生産性や利益向上にとってマイナスだと労組を敵視する合同会社アマゾンジャパンに対し鈴木さんは「決算報告や株主総会開催の義務もない合同会社は社会的な透明性が低い」と批判した。
 世界最大のコーヒーチェーンのスターバックスでも米国内100店舗で組合が誕生した。従業員をないがしろにした株主至上主義の経営は曲がり角にきているようだ。
橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号
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2022年08月22日

【焦点】会社側の妨害に負けず米国で労組が次々誕生 米国人の7割近くが支持=橋詰雅博

 世界最大コーヒーショップチェーンのスターバックスでは米国内200店舗以上で労働組合が結成された。全米レストラン協会は「米国の大手飲食店チェーンのうち労組が一番強い会社になった」と評した。
 会社側は組合結成に対してあの手この手で阻止した。@中心メンバーの一方的な解雇、A突然の店舗閉鎖、B新たに配置したマネージャーが予告なしにシフトを変更し指示に従わない従業員は解雇すると脅す、C作成した特別ウェブサイトに「労組はコーヒーを作る代わりに組合費を集めてももうけている」「求めたストに不参加なら労組は罰金を科す」などと反撃した――。
 今年4月にニューヨーク市の倉庫で初の組合が生まれたアマゾンでも会社側は妨害行動に出た。アラバマ州では、組合結成の是非を問う投票が認められると(2020年8月)、反対票を投じるようにと書かれたポスターを倉庫内のトイレにまで貼った。「団体交渉は結果的に労働者の損失につながる」「労組幹部は組合費から毎年10万ドル以上を使い車の購入にあてた」と書いたメールを従業員に送信した。
 根拠のない批判を流す一方では懐柔策も。最低でも時給15ドル(同州最低賃金の2倍)の賃金を支払い、医療健康保険にも加入させる。こうした待遇を提供するのだから年間50ドルの組合費を支払う必要はない。
 従業員による投票は結局、コロナ禍の影響で郵便投票になったが、会社側は郵政公社に依頼し倉庫の入り口付近の監視カメラのそばに郵便箱を設置させた。従業員のだれが投票したのかなどを把握できるようにしたのだ。
 アラバマ州でのアマゾンの組合結成は持ち越しになっている。しかし、同じ巨大IT企業のグーグルやアップルにも組合は誕生している。
 賃上げを上回るすごい物価高騰が組合結成の主因だ。自分たちの暮らしをよくしたいため労組が拡大していることについて民主党のサンダース上院議員は「労働者は機械の歯車ではない」とツイッターで主張した。
 昨年の米ギャラップ世論調査でも米国人の7割近くが労組を支持していて、1965年以来最も高い数値を記録した。
 米国の労働運動は大きな転換点に突入しているようだ。
  橋詰雅博
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2022年08月11日

【焦点】財務省は政界工作官庁 省益と栄達のために血道をあげるエリート官僚=橋詰雅博

 岸田文雄政権は財務省の傀儡政権≠ニ言われている。なぜなのか。財務相を9年間務めた麻生太郎副総裁が安倍元首相亡き後のキングメーカーとして君臨し財務省が権力基盤を支えている。6人の首相秘書官のうち2人が財務省出身。政務首席秘書官の嶋田隆氏は元経産省事務次官だが、財政再建論を強く主張した故与謝野馨元財務相の側近で、財務省の考えに近い。岸田最側近の官房副長官の木原誠二衆院議員も財務省OBだ。そもそも岸田派(宏池会)は、旧大蔵省(現財務省)出身の池田勇人が初代会長で、第2代の前尾繁三郎、第3代の大平正芳、第5代の宮沢喜一も大蔵省OBだ。宏池会は、大蔵省・財務省と濃厚な関係を築いている。こうしたシフトを利用して財務省は念願の消費税増税に踏み出そうとしているが、なぜ消費増税にこんなにこだわるのか。

 7月下旬にJCJオンラン講演会に出演した元朝日新聞記者で政治ジャーナリストの鮫島浩氏はこう解説した。
 「予算配分権を握る財務省は財政が緊縮の方が自分の権威を見せつけられる。
財政が大きく膨らめば、予算配分が増えてありがたみが薄れる。緊縮なら消費増税に賛成してくれるところには予算を多く与えて、そうでないところは少なくという差別を広げることが可能です。橋、ダムの建設や道路整備などいわゆる箇所付け(公共事業の予算や補助金をどの地域のどの事業にいくら配分するかを具体的に決める)では、賛成政治家の地元には多くの金を投入し、反対政治家にはその逆で投入する金は絞り込まれる。一方で減税により企業や業界を支援する代わりに消費増税に賛成してもらう。減税の穴埋めが消費増税だ。税収が薄いが広く課税できる消費税を基軸の財源と財務省は見ている。従って消費増税を一歩でも二歩でも進めたい。実施で手柄を得たエリート官僚は天下り先に困らず、OBとして権力もふるうことができる」

 このため財務省のエリート官僚は政界工作にまい進する。利用できそうな政治家に取り入るため例えば本や論文のゴーストライターをやり情報を得ていたという。情報量は下手な政治部記者よりはるかに多く、予算をつくる経済官庁というより政界工作に特化した官庁と見る向きもある。民主党政権時代、政治部記者として民主党に食い込んでいたという鮫島さんはこんな体験を明らかにした。
 「財務省官僚から民主政権のことを教えてほしいと逆取材≠受け、小沢一郎と鳩山由紀夫グループ、菅直人と仙谷由人グループを分断させる作戦を立てていた。財務省は支援する代わりに消費増税を進めてほしい管・仙谷側に要請していたようだ。増税に向かわせるためメチャクチャなことを平気である。予算書作成はノンキャリ役人に任せ、官僚は政界工作に血道をあげている」
 省益と自分の栄達を優先する財務エリート官僚は国民のためというマインドはゼロのようだ。
 橋詰雅博
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2022年07月30日

【焦点】国家機密情報の洩れ阻止にやっと動き出したか=橋詰雅博

 総務省が7月初旬に公表した2022年度の情報通信白書で、成長著しいクラウドサービス市場への言及が注目される。20年の世界市場は35兆315億円と前年比約30%も増えた。米IT巨大企業のマイクロソフト、アマゾン、グーグルの3社が市場を牛耳っており、寡占化が進んでいる。白書は「米国などの海外企業がわが国のクラウドサービス市場を席捲しており、過度な海外依存を懸念する声もある」と警戒感をあらわにしている。
 これに先立ち政府は、国家の機密情報を扱うクラウドサービスの脱外資依存を進める方針を打ち出した。クラウドサービス契約では、外資企業が単独で参入できない仕組みにし、国内IT企業とセットで参画するようにした。国内企業の育成につなげるというのが表向きの理由だが、国内企業をかませることで外資企業から情報がどこかに漏れることを防止するのが狙いだ。フランスやドイルはすでにグーグルと地元企業がタイアップして政府専用クラウドサービスのシステムを構築している。

 白書で警戒感を示し、外資企業の単独参入防止の動きに出たのは、2年前から稼働している政府のクラウドサービスを、アマゾン・ドット・コムの子会社であるアマゾン・ウエブ・サービス(AWS)の日本法人が運用しているのが背景にある。安全性を問われた当時の高市早苗総務相は「『クラウドサービスは国内から提供』『データ送受信の常時監視』『アクセスログ(誰がアクセスしたかの記録)』などのセキュリティ対策を行う」と答えた。しかし、クラウドサーバーから国家機密が米政府や米企業に漏れる可能性は否定できないという声は根強くある。本当に情報が漏れたのかどうか不明だが、遅まきながら行動を起こした。
 国家機密情報の洩れ阻止にやっと動き出したようだ。
 橋詰雅博
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2022年07月29日

【焦点】五輪選手村訴訟の控訴審 10月11日101号法廷で開く=橋詰雅博

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                原告団が発行する最新会報誌
 不当判決だと原告側(都民)が控訴した東京五輪選手村訴訟の控訴審第1回口頭弁論が10月11日午後1時40分、東京高裁101法廷で開かれる。
 この訴訟は都内一等地、晴海の都有地がデベロッパー11社に129億6000万円と公示価格の10分の1以下で売られたことに腹を立てた都民32人が2017年8月に小池百合子都知事らに差額を支払うよう都に求めた。昨年12月23日、利益や処分に制限がある選手村要因によるものという被告側(東京都)主張を丸のみした地裁は「売却価格は適正」と判決を下した。
 原告弁護団は「判決は自治法や不動産鑑定制度、再開発事業制度の根幹を揺るがす不当な判断」と批判した。
 原告団は売却価格についての控訴理由書補充には、田原拓治不動産鑑定士の意見書提出する見込み。桐蔭横浜大学法学部客員教授も務める田原氏は、都が日本不動産研究所に依頼した価格調査報告書(不動産鑑定書ではない!)が開発法1つだけで算出した土地価格は、不動産鑑定基準に違反しているとし、これを適法とした判決に反論している。土地価格を求める方法はデベロッパーの投資採算性に着目した開発法や近隣の類似物件の不動産価格を比較する取引事例比較法などいくつある。取引事例法がオーソドックスなやり方である。複数の方法を参考に決めたと提示するべきだと田原氏は言うのである。もっともな意見だと思う。
 原告団は控訴審に向けて意思統一を図るため第5回総会を9月下旬ごろに開く予定だ。
 橋詰雅博
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2022年07月22日

【焦点】いわくつきの五輪組織委元理事 今度は4500万円疑惑が発覚=橋詰雅博

 東京五輪金銭疑惑をめぐりこの人の名前が再び飛び出した。東京五輪・パラリンピック組織委員会元理事で電通専務だった高橋治之氏(78)だ。大会オフィシャルスポンサーだったAOKIホールディングスから高橋氏が経営するコンサルタント会社に2017年以降総額4500万円が支払われていたことが東京地検特捜部の捜査で明らかになった。理事は法令上「みなし公務員」とされ、賄賂の収受は違法である。高橋氏はスポーツ事業についてさまざまなアドバイスをした見返りとして資金提供を受けたことは認めたが、便宜を図ったことはないと賄賂性を否定している。
 ノーコメントのAOKIだが、大会公式ウェアなどの販売権を獲得し、各種ユニホームの製作も担当した。高橋氏はAOKIHDの創業者・青木拡憲前会長(83)とは10年以上の付き合いだという。
 彼の名前が最初に出たのは20年春。東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会から高橋氏が9億円を受け取り東京五輪実現のため奔走したというロイター通信のスクープ報道だった。ロイターの取材に高橋氏はラミン・ディアク世界陸連前会長などIOC(国際オリンピック委員会)委員にロビー活動したことは認めた。だが、9臆円の使途について「いつか死ぬ前に話してやろう」とうそぶいた。

 東京五輪招致では贈収賄疑惑でフランス検察が捜査を続けている。贈賄側として招致理事長を務めたJOC(日本オリンピック委員会)前理事長の竹田恒和氏が18年に同検察から事情聴取をされている。高橋氏もこの汚職疑惑に深く関わっているようだ。
 高橋氏は同じ慶応大出身の竹田恒治氏を介して弟の恒和氏と知合い交流は長い。ちなみに高橋氏の弟はイ・アイ・イ・インターナショナル社長の治則氏。05年7月死去したが、巨額なリゾート開発を仕掛け資金提供を受けた日本長期信用銀行を破綻に追い込んだ虚業家≠ニ言われた。
 高橋氏は電通時代からの人脈を生かし大きなスポーツイベント開催で力を発揮し、森喜朗元首相ら政界や財界などにも太いパイプがある。特捜部はマスコミに盛んに情報をリークし事件化を目論んでいるが、果たして高橋氏を落とす≠アとができるだろうか。
 橋詰雅博
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2022年07月05日

【焦点】デジタルハンターが新聞スクープを連発する時代に=橋詰雅博

 ロシア・ウクライナ戦争でロシアの偽情報を叩き潰すオシント調査が注目されている。
 ゲームマニアの中年英国人のエリオット・ヒギンズが軍事や語学などその道に長けた人たちをオンラインで呼びかけネットワークによってSNSに投稿された写真や動画、衛星画像などの公開情報を徹底分析する手法は、欧米メディアに広まっているのは昨日の記事(http://jcjdaily.seesaa.net/article/489470782.html)で報じた。創設者のヒギンズの著書『べリングキャット』(筑摩書房)は、オシント調査に興味を持たれている方にはおすすめ本だ。権力者のウソを暴く独自解析を詳しく書いている。この分野で出遅れていた日本のメディアも挽回しようと力を入れ始めた。中でも日本経済新聞社は会社挙げて取り組んでおり、目下、オシント報道の先頭を走る。
 5月下旬に早稲田大学でのシンポジウムに出演した日経調査報道の兼松雄一郎記者は社内態勢をこう語った。
 「専従班は20人弱です。日本では最大規模のこのグループは、データビジュアル、データサイエンス、基礎研究などに取り組んでいる。英語媒体において調査・発信をしている。社内では研修、月1回程度の勉強会、社外専門家との連携、データアクセスの拡充、編集局内エンジニアの増員に努めている」
 その成果を1面トップで報道している。5月20日付は<中国、空自機の標的設置か「空中司令塔」似の物体 衛星で確認 台湾有事 日本に攻撃懸念>と新疆ウイグル自治区の砂漠地帯に置かれた構造物が写る衛星写真を解析した結果、自衛隊の早期警戒管制機と同形状のものとわかったとしている。6月30日付は<北朝鮮石炭、対中密輸疑い 制裁違反、軍事資金に>と入手した石炭を積んだ北朝鮮籍船をとらえた人工衛星画像を分析したところ、中国の港に直航したことを確認したという。
 公開情報の徹底解析を行う新聞のデジタルハンターがスクープを連発する時代に突入してきた。
 橋詰雅博
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2022年06月01日

【焦点】都議会で陳情不採択だが、神宮外苑再開発見直しの気運高まる、2日要望書を東京都に提出=橋詰雅博

                           
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明治神宮外苑の約1000本の樹木伐採の反対と再開発見直しのネット署名に加えて市民団体が都議会に提出する「神宮外苑の歴史的景観と環境の保全に関する陳情」への署名集めにも協力した筆者は、この神宮外苑をめぐる動きに関心を抱いている。
 というのは日本ジャーナリスト会議(JCJ)の機関紙3月25日号掲載の「森首相が暗躍@ホ奪い高層ビル次々 ラグビーW杯・五輪も口実 神宮外苑の再開発」と題した自分の記事をDaily JCJ(http://jcj-daily.seesaa.net/article/486252121.html 4月2日付)にアップしたところ、総計80件を超える「いいね」が集まり、また1日だけで3700超のアクセス数があった。ブログとして利用する無料サイト「Seesaa」(シーサー 約5万200ブログが登録)の全体人気ランク52位まで上がり、登録する「ニュース/時事」分野でもベストテンに入った。
神宮外苑の再開発と伐採に疑問をもち抗議運動を起こした米国女性経営コンサルタントのロッシェル・カップさんがツイッターにも挙げたこの記事を見て「なんと衝撃的な題名ですが、事実は衝撃的なので相応しいです。 こんな背景的な情報を流すのはとても大切だと思います。」と紹介してくださり、拡散していただいたおかげだと思う。
 その後、NHK「首都圏情報ネタドリ」での放送やロッシェルさんに取材した「FLASH」の記事などが反響を呼び、神宮外苑再開発と伐採への批判はさらに高まった。

 5月26日に行われた都環境影響評価審議会の部会では、委員から「データ提供が不足」「外苑の森が守られるか、極めて不透明だ」などの苦言が相次いだ。本来ならば審議を終了する予定だったが、異例の結論持ち越しになった(=写真=5月27日付東京新聞)。
 そしてネット署名の賛同者はついに8万人を超えた。ただ27日に陳情を審査した都議会では、自民、公明、都民ファースト会の反対多数で不採択になった。共産、立民、維新が採択の判断をした。
 ロッシェルさんは「陳情は環境を大切にしましょうというとてもマイルドな内容なのにどうして反対するのか、とてもがっかりしました。しかし、維新と立民が同意の意思を示したのは、進歩だと言えます」とコメントしている。
 だがロッシェルさんは諦めない。計画の白紙撤回を求める要望書と署名簿を2日東京都に提出した後、都庁記者クラブで会見を行う。3日には再開発事業者の明治神宮、伊藤忠商事、三井不動産、日本スポーツ振興センターに要望書などを提出する。
 市民の献金と献木などによって誕生した神宮外苑の憩いの緑地に「ショッピンモールのような施設」(ロッシェルさん)が建設される再開発と1000本もの樹木伐採は、都民の共感を得られないだろう。
 橋詰雅博
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2022年05月03日

【焦点】外苑樹木伐採に反対運動が拡大 厳粛な景観が消える 6月都議会で審議=橋詰雅博

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年内にも工事が着手される明治神宮外苑の再開発をめぐり樹齢100年を含む約1000本の樹木伐採に反対する運動が広がっている。
 宗教法人・明治神宮が地権者であるこの外苑は、国内外からの献金と約54種3190本に及ぶ献木によって造営された。竣工した1926年(大正15年)には日本で初の風致地区「東京都都市計画・明治神宮風致地区」として指定された。その景観は世紀を超えて継承されているいわば「歴史的環境遺産」と言っていいだろう。
 市民団体「神宮外苑を守る有志ネット」が4月29日に実施したオンライン講座に出演した千葉大学名誉教授の藤井英二郎さん(環境植栽学)は「約1000本の樹木を伐採してしまったら文化財といえるような厳粛な景観が消えてしまう。伐採は論外だ」と話した。
 都心での樹木の大きな役割は過去100年で気温が3度上昇したヒートアイランド現象の歯止めになる。藤井さんがこう語った。
 「都市部のヒートアイランドは悪化する一方で、このままでは今世紀末には4・5度も気温が上昇すると計算されている。これを防ぐには樹木をできる限り残すことが必要です。1000本の樹木の周辺は気温が2、3度低い。夜間に冷たい空気を取り込み冷やす効果が極めて高い。枝葉は直射日光を防ぎ、熱がたまらない役目をしている。ヒートアイランドの低減につながる。数十年先を見越しいまある樹木を大切に扱うことが大事です。伐採はとてつもない無謀な行為そのものです」

 再開発事業者は移植すればいいと提案しているが、これについてはどうなのか。
 「ほとんどが大木ですから根が相当に深く広くはっている。移植作業の際には、根鉢する。つまり根などを切る。邪魔な枝葉も切り落とす。木へのダメージは大きく、水分を十分に取れず、木は育たない。移植では従来の樹形を保たせることは不可能です。移植は避けるべきだ」(藤井さん)
 再開発で高層ビルが建てば、強いビル風で残されるというイチョウ並木の枝葉が落ちる心配もあると藤井さんは指摘した。
 3月下旬に市民団体が神宮外苑の歴史景観と環境保全に関する陳情書を都議会に提出した。6月の都議会で審議される。
 100年近く都民に提供してきた緑のオアシス≠奪ってはならない。
  橋詰雅博
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