2025年05月10日

【焦点】対米従属見直す好機 瓦解パクスアメリカーナ トランプ関税で豊田祐基子氏講演=橋詰雅博

            
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 米国の同盟国や友好国に関係なく高関税を発動し各国をパニックに陥らせるトランプ米大統領。米国第一主義による自由貿易を放棄し、貿易戦争を拡大させている。ロイター通信日本支局長の豊田祐基子氏は3月8日のJCJオンライン講演でトランプの思考、願望、米国の行く末や日本の課題などを語った。

高関税狙いは3つ

 豊田氏は根拠不明の税率で不当なトランプ関税の狙いを3つ挙げた。@米国に赤字をもたらす国に投資及びモノを買わせて貿易収支を改善、Aトランプ1・0のときビジネス界が非常に喜んだ所得税恒久減税の財源にする、B米国に有利でない取り決めを関税で圧力をかけて是正させるすなわちディール(取引)の道具に使う―。
 高関税はトランプの考えが色濃く出ている。「オレが勝つか、オマエが勝つか、オレは負けない、勝つことだけを重視しています。関税政策で世界は混乱しているが、相手が悲鳴をあげれば勝ちというゼロサム(物事の白黒をはっきりさせる)思考が根底にある」「米国は例外が通用する特別な国と思っている」。豊田氏はこう指摘した。
 「目標は経済をよくすること。自分の支持層の労働者が安くモノを買えるようにする」(豊田氏)のが最優先事項とトランプ大統領は連邦議会で演説した。
だがゼロサム思考などに基づく強気な関税政策実行は裏目に出た。物価上昇、株価の乱高下、景気後退、ドル安、報復関税やGDP(国内総生産)の大幅押し下げ。
 そんなことはおり込み済み、根を上げた相手が譲歩案を提示してきたら軌道修正すれば事態は好転し、やがて国民はハッピーになれる。トランプはそんな風に考えているのかもしれない。

ノーベル賞を願望

 ウクライナ戦争は停戦・和平向けて進んでいるように見えるが、トランプは実現できるのか。豊田氏はいう。
 「和平にはそんなに関心がないが、オレが出張ってきたのだから言うことをきけという姿勢です。ロシアとウクライナのトップをテーブルにつかせ協議させたい。ただし、そのあと和平に導くことができるのか、それを誰が保つかはあまり関心がない。和平への道を開いたという功績によりノーベル平和賞をもらいたいと本気で思っています。民主党のオバマ元大統領が受け取った同じものを欲しがっている」
 トランプ2・0では、連邦職員の大量解雇、不法移民の大量送還と拘束、DEI(多様性、公平性、包摂性)制度の撤廃、石油・ガス生産の拡大規制撤廃など内政はガラリと変わった。外交も高関税発動を始めパリ協定とWTO(世界貿易機構)から離脱、対外援助の凍結などを実施した。
 豊田氏は米国の行方をこう予測した。
・広がるゼロサム・ゲームの世界
・同盟国や友好国に圧力、ロシアなど専制主義国家に親近感
・保護貿易主義と不確実性の高まりで経済減速
・軍事産業を潤す軍拡の加速
 この結果「自ら主導してきたパクスアメリカーナ(米国の覇権による平和の形成)は破壊に向かう」(豊田氏)という。それを見越してかEU(欧州連合)は米国に頼らないNATO(北大西洋条約機構)再編に積極的に取り組み、敵国ロシアと対峙しようとしている。
 豊田氏は日本の課題を挙げた。
 ・見返りを期待し機嫌をとる朝貢外交はどこまで有効か
 ・台湾統一に踏み込んでも中国とは戦争しないトランプ政権にどう向き合う
 ・北朝鮮を「核保有国」と認定した場合の対応は
 ・米国の「核の傘」が破れ依存できなくなったら
日本は対米従属体制を見直す転換点に立っている。
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
 
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2025年04月28日

【焦点・反ユダヤ規制2】1・0トランプ政権ではパレスチナを切り捨てた=橋詰雅博

 それでは2017年〜21年の第1次トランプ政権の時はどうだったのか。やはり福音派の意向に沿い政策を実行した。つまりパレスチナ切り捨てだった。
安保理決議を覆す

 そもそもイスラエルのパレスチナ国家占領に対し、米政府は基本的に1967年の安保理決議242号(占領地からの撤退勧告)支持する姿勢を維持していてきたが、トランプ政権はこれを覆した。占領承認と難民保護政策からの撤退へと舵を切り替えた。さらに国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を脱退し、難民支援から手を引いてしまった。

矢継早の政策転換

 中東研究者の平井文子氏は4年間に行われたトランプによる矢継ぎ早の政策転換を以下のようにまとめた。
・2017/12/6 イスラエルによるエルサレム首都宣言支持
・2018/1/16 UNRWAへの拠出金凍結。それまで米はUNRWAの予算の3割支援。2017年総額12億4000万ドルのうち、3億6000万を。他の支援国は、EU、サウジ、独、英、日(4000万ドル第7位)。UNRWA支援下に、パレスチナには700の学校、140の診療所がある。UNRWAは難民にとって命綱だった
・2018/5/14 米大使館テルアビブからエルサレムに移転
  7/19 イスラエル国会、「ユダヤ人国家法」採択
  8/31 米、UNRWA脱退
9/10 ワシントンのパレスチナ自治政府代表部閉鎖
・2019/3シリア領であるゴラン高原に対するイスラエルの主権を承認
・2019/11/18 マイク・ポンペオ国務長官が、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地は国際法に違反していないとの見解を示した
・2020/1/28 中東和平案(「世紀のディール」)発表:イスラエルがヨルダン川西岸の占領地に建設した入植地の大部分をイスラエルの正当な領土であると認める。
・2020/8/13アブラハム合意発表(アメリカを仲介としたイスラエルとアラブ首長国連邦との和平合意、続いてバーレーンを皮切りとして,その後スーダンやモロッコがこれに倣って陸続としてイスラエルとの関係正常化に踏み出した)

聖書の予言実現か

 平井氏は「米キリスト教福音派は現代イスラエル国家の創設と数百万のユダヤ人のイスラエル集住を、イエスの復活が間近であるという聖書の預言の実現とみている。アメリカにおけるキリスト教シオニズム(ユダヤ人が祖先の地とみなすパレスチナをユダヤ国家として建設しようという運動)は今や白人福音派の間では『多数派神学』となっている。キリスト教シオニストの票は数千万にものぼり、大統領選挙にとって大きな票田となっている」と分析する。
 2期目のトランプは、1期目以上に福音派の考えを受け入れ政策に取り入れている。

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2025年04月27日

【焦点・反ユダヤ規制1】トランプ政権の政策に強い影響力キリスト教福音派はどんな組織なのか、なぜ意向を反映できるのか=橋詰雅博

 トランプ米政権は、リベラル系の大学への締め付けを強化し、それに抗うなら助成金の取り消しなどの措置で圧力をかけている。
 著名なエリートを輩出している名門ハーバード大への介入はその代表例だ。反ユダヤ主義的な活動やDEI(多様性、公平性、包摂性)の見直しを拒否した同大への助成金22億ドル(約3100億円)と6000万ドル(約56億円)相当の契約金の支払いを凍結した。さらにトランプはハーバード大が今後も「テロリストを支援するような『病的』な行動を押し進めるなら、免税資格措置を剥奪し政治団体として課税すべきかもしれない」と4月15日自身のSNSに書き込んだ。

圧力屈する大学も

 教育機関や宗教団体などが対象になっている連邦所得税の不払いを停止させるとブラフ≠かけた。これに対してハーバード大はトランプ政権による助成金凍結の見直しを求める訴えをマサチューセッツ州連邦地方裁判所に21日起こした。
 トランプ大統領の方針を受けた米教育省は、反ユダヤ的活動に対するユダヤ系学生の保護義務違反として約60の大学をリストアップした。ハーバード始めコロンビア、エール、プリンストンなど名門校が並ぶ。コロンビア大は助成金4億ドルを差し止められた。。プリンストンも数十件の研究助成金の凍結・打ち切りをされた。

 反DEIについても「違反調査」対象校としてマサチューセッツ工科大(MIT)など有名校など約50校を米教育省は公表。全米大学・カレッジ協会(AAC&U)は「真実の追求や表現の自由など、大学の存在意義の根幹を脅しかねない」と表明した。
 しかし助成金を打ち切られたら研究プロジェクトの中止や停止に追い込まれるので、トランプ圧力に屈する大学もある。パレスチナ自治区ガザへのイスラエルの無差別攻撃に対する抗議デモを起こし全米に広がる起点となったコロンビア大は政権の要求を受け入れ新ガイドラインを作成した。

SNS投稿を審査

 外国人の教員や留学生などを対象にSNS上での反ユダヤ主義的な言動取り締まり強化に乗り出した。発見したら永住権申請の外国人教員や学生ビザ(査証)の申請を却下すると移民局は発表。ノーム国土安全保障長官は「(表現の自由を定めた)憲法修正第1条に守られていると思う外国人は考え直せ」と表明した。
 カリフォルニア州立大学助教授の大矢英代(はなよ)氏は4月14日付東京新聞コラムで「近い将来、(イスラエルによる)ガザへの大規模攻撃と接収が始まるのではないか、一連の政策はそれに向けたSNS上の自己規制、萎縮効果を狙った事前対策なのではないかと不安でならない」と述べている。

信者1億人に急増

 この背景には、トランプら共和党の岩盤支持層でイスラエルを強く支持するキリスト教保守の福音派の意向が反映しているという見方が多い。
 米国の政治・外交に詳しい上智大学教授の前嶋和弘氏も「日本で見落とされがちなのが、キリスト教福音派の強い影響だ。気候変動対策の否定や性的マイノリティーの否定、イスラエルの徹底支援など一連の『常識の革命』政策はみな、この教派の主張に沿っている。ここに注目すれば、(トランプ)大統領の行動意味がよくわかる」(日本経済新聞3月19日)とインタビューに答えている。

 大注目のキリスト教福音派はどんな組織なのか。簡単に言えば、聖書の一字一句をそのまま信じキリストの教えに基づく信仰生活をしている人たちだ。一般的に宗教保守≠ニ呼ばれ、妊娠中絶や同性婚、教育現場への進化論導入などに強く反対してきた。パレスチナ人を追い出したユダヤ人が創設したイスラエル国家の支援者でもある。米国で約1億人が福音派とみられる。米人口の約3分の1を占める福音派は大統領選挙で共和党支持の積極的な活動をする。レーガンを当選させたのが原点になっている。
 
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2025年04月23日

【焦点】24年死刑執行15カ国で過去最低―アムネスティ発表 国連の廃止に応じない日本は死刑存続の数少ない国=橋詰雅博 

 国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルは、2024年の世界の死刑状況を発表した。24年は15カ国で1,500人以上が処刑され、15年以降、最多の死刑執行数となった。増加は、イラン、イラク、サウジアラビアで急増したことによるもので、この3カ国だけで1,380件に上る。
 中東では、死刑判決が人権擁護者、反体制派、抗議者、政敵、少数民族の声を封じる方法として用いられており、特にイランとサウジアラビアではその傾向が顕著。また死刑執行の40%以上は、薬物関連犯罪だ。死刑が麻薬取引の減少につながるかどうか立証されていないにも関わらず、薬物関連の処刑は中国、イラン、サウジアラビア、シンガポールで広く行われている。

 死刑執行数が増加した一方で、死刑を執行した国はわずか15カ国。これは2年連続で過去最低だった。現在、113カ国が死刑を全廃しており、法律上または事実上死刑を廃止している国は合わせて145カ国に上る。
 24年にはジンバブエで通常の犯罪に対する死刑を廃止する法案が成立。マレーシアでは死刑制度改革により、死刑を宣告されていた1,000人以上が減刑されるなど「世界は死刑廃止に向けて確実に歩みを進めています」とアムネスティは話す。
 国連は「死刑の廃止が人間の尊厳の高揚と人権の漸進的な発展に貢献することを信じ」「すべての死刑廃止措置は生命権の享有の上で発展とみなされるべきことを確信」するとして死刑廃止を宣言している。
 
 国連の求めに応じず世界の流れに逆行する死刑存続の日本は、この25年間で100人弱が死刑になった。世論はどう受け止めているのか。
 24年の世論調査では8割が死刑制度を支持していると政府は説明する。ただし、調査結果の分析では将来的な死刑廃止を容認している人の割合は全体の45.1%と「将来も死刑を廃止しない」の53.4%に迫る。「国民の8割が死刑制度を支持」が一人歩きし、死刑制度存続の根拠として用いられている。政府は希薄な根拠を盾に制度を継続させている。いつものパターンだ。
 日本弁護士連合会は死刑執行の停止を求めたうえで廃止への社会的な論議を呼びかけている。


 
 
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2025年04月21日

【焦点】サイバー法案 米軍と一体化で戦争準備を加速=橋詰雅博

 攻撃を未然に防止するという触れ込みの「能動的サイバー防御」法案は今国会で成立する見込み。水道・電気・ガスなどのインフラ施設を始め銀行、病院など国民生活に密接なものへのサイバー攻撃防止のためと政府は説明する。しかし、通信の秘密を保障する憲法21条と武力による威嚇又は武力行使を禁止した憲法9条に違反する恐れがある法律だと指摘されている。

 どういう風に危険なのかわかりづらかったが、4月19日付新婦人しんぶんで宇部雄介弁護士が平易に解説していたので紹介する。
 このサイバー法案は<政府が誰と誰がメールをやりとりしているのかといったことを監視することができるようになりますし、中身まで見られてしまうかもしれません>
 したがって通信の秘密やプライバシーを侵害するものだというのだ。監視対象を外国経由の通信情報に限るとしているが、先行き国内も含めることもあり得る。

 さらに警察や自衛隊が国外のコンピューターシステムに侵入し「無害化=プログラムの停止・削除」が可能になる。<これは日本が外国にサイバー攻撃をするということで、相手国との関係では、主権侵害となりかねないものです。のみならず先制的な武力行使と受け止められる可能性があります。憲法9条に反する「サイバー先制攻撃」というべき危険な法案です>

 法案の真の狙いは<米軍と一体化した戦争準備>と宇部弁護士はいう。その理由はこうだ。
 2022年1月の日米安全保障協議委員会(2+2)でサイバー脅威への共同対処が日米同盟では必須とされた。同年12月に閣議決定された軍拡、敵基地攻撃能力の保有などからなる安保3文書のうち国家安全保障戦略では「能動的サイバー防御を導入する」としている。24年7月の2+2では脅威に対処する防御的サーバー作戦における緊密な協力を促進するとした。こうした積み重ねの結果、日米が一体となった軍事強化を図り戦争に備える
 成立するサイバー法案の裏にはこうした重大な「事実」が表に出てきていない。
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2025年04月16日

【焦点】インボイス実態調査に1万500人超が協力、目標1万を突破 5月下旬に結果公表=橋詰雅博

 インボイス制度を考えるフルーランスの会が3月下旬から約2週間行っていたインボイス大規模実態調査は、1万500人超が協力し、目標の1万を突破した。

 同会によると「やっと見付けた生きがいを奪わないでほしい」という切実な声が寄せられたのが印象的だったという。「暮らしや仕事、将来の夢を潰すようなインボイス税制は、個人の尊厳を踏みにじるものではないでしょうか。7月の参院選の前に、政治家、国にこの実態を知ってもらわなければなりません」と同会はコメントした。
 結果は5月下旬に発表する予定。全国のフリーランスに活用を呼び掛けている。

 インボイス制度に反対している政党は立憲民主、国民民主、共産、れいわ新選組、社民の各野党だ。各党の国会議員は2022年11月16日には「インボイス問題検討・超党派議員連盟」設立。同連盟では、インボイス制度の中止を強く訴えた。各党の活動は以下の通り。

立憲民主
インボイス制度を導入しなくても適切な課税ができる政策はあるとして、22年3月30日インボイス制度廃止法案を衆議院に提出。
国民民主
地域支部では意見交換会を実施し、インボイス制度に関する議論を交わしてきた。意見交換会に招いた各種連合会や組合からは、周知不足への指摘や導入後の混乱に対する懸念が寄せられた。インボイス制度は廃業を促す存在との意見もあり、同意する立場を見せた。
共産
22年11月7日に「STOP! インボイス対策チーム」を立ち上げ、インボイス制度の中止を呼びかけている。インボイス制度は個人で活動する、さまざまな業界や人に影響を与えると声を上げてきた。同制度の問題点を訴え、反対の声を取り上げ、中止に向けた世論を高める働きかけをしている。
れいわ新選組
消費税とインボイスの廃止を政策に掲げて活動。また各地で「STOP!インボイス街宣!」を実施し、街頭に設置されたステージで個人が意見を述べ、世論へ訴えかけている。
社会民主
22年10月26日、インボイス制度の反対を訴える集会に党首みずからが参加し、制度導入への反対意見を述べた。また社民党地方議員は22年9月、インボイス制度の中止を求める請願書を作成し、提出している。
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2025年04月11日

【焦点】トランプ課税で世界はキナ臭さが漂う=橋詰雅博

 「投資の神様」と称される著名投資家、米国のウォーレン・バフェット氏(94)は最近のCBSニュースのインタビューで関税は「ある程度の戦争行為」「すぐに血を流すことはないかもしれないが、間違いなく報復を招く侵略行為だ」と語った。
 その代表例として共和党のフーヴァー大統領の下で1930年に法制化されたスムートホーリー関税法を上げた。高関税によって国内産業を保護して高賃金を維持することで世界恐慌を克服しようとした。
 しかし米国が保護貿易主義に転じたことに対し、英国、フランス、オランダ、スペイン、ベルギーなどヨーロッパ各国も一斉に報復関税を実施。米国への輸出が困難になったヨーロッパ経済の危機は悪化、ドイツの銀行制度は崩壊した。結局、世界恐慌はさらに深刻になるという逆効果に終わった。
 長引く世界恐慌は第二次世界大戦の引き金になった。
 トランプ関税が世界恐慌を引き起こし、ひいては第三次大戦を誘発しなければよいが‥‥。「徹底的に逆らうなら核使っちゃうよ≠ニ言い出しかねないのがトランプだ。予見不能だから相手は脅威に感じている。これはトランプの強み」―。外交に詳しいベテラン記者の言葉だ。世界はキナ臭くなってきた。

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2025年04月05日

【焦点】ダイキンPFOA汚染飛び火$ロ津市から岡山吉備中央町へ 使用済み活性炭 放置容器から漏出 半導体に欠かせぬ材料 残量性高く体内に蓄積 欧米では規制強化 日本は対策甘い=橋詰雅博

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                 中川七海氏撮影
衝撃的な数値結果
 全国で初の公費によるPFAS(ピーファス)の血中濃度を調べる検査を実施した岡山県吉備中央町での住民709人の結果は、衝撃的な数値だった。1月28日の町の発表によれば、PFASの一種でWHO(世界保健機関)が「発がん性は確実」と認定したPFOA(ピーフォア)の血中濃度は最大値の人で1ミリgあたり718・8ナノc。環境省が2020年6月に公表したPFOA曝露の全国平均値2・2ナノc/mLの328倍もの値だ。平均値も62倍の135・6ナノc/mL。今回の検査はPFOAやPFOS(ピーフォス)を含む7種のPFASを調べたもので、米国のガイドラインでは7つの合算値が20ナノc/mLを超えると「腎臓がん、精巣がん、潰瘍性大腸炎、甲状腺疾患などのリスクを考慮した処置が必要」としている。検査を受けた町民のうち87%に上る619人がその合算値を上回った。
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                 中川七海氏撮影
3年間汚染水飲む
 吉備中央町のPFOA汚染騒動は、町の人口約1万のうち1000人に給水していた円城浄水場から1400ナノc/mLのPFOAが23年10月に検出されたのが発端。PFOAとPFOSを合算した国の暫定目標値50ナノc/mLの28倍の値だった。町は20年から高濃度のPFOAが水道水から検出されていたことを知っていながら対策を取らなかった。円城地区住民は何も知らず3年間PFOA汚染の水道水を飲んでいた。
 汚染発覚後、「円城浄水場PFAS問題有志の会」を立ち上げた町民は、町費による全町民の血液検査の実施と過去3年間の水道料金の返還を町に求めたが、町は応じなかった。そこで有志の会は京都大学研究チームに血液検査を依頼し、27人が検査を受けた。PFOAの平均値は171・2ナノc/mLと全国平均2・2ナノc/mLの78倍。
 有志の会から血液検査実施と水道料金返還を求める1038人の署名を23年11月に提出を受けた山本雅則町長は、24年11月から12月に町費による血液検査を実施。山本町長は5年後にも血液検査を行うと28日の記者会見で明言した。

有毒物質を吸収
 吉備中央町にはPFAS汚染源と指摘されている米軍基地や自衛隊駐屯地もPFAS製造工場もない。汚染源はどこか。それは袋型の合成繊維製の大型容器に入れられた使用済み活性炭だった。活性炭は水中の化学物質を吸収するので、浄水場やPFOAを扱う工場などで重宝されている。『終わらないPFOA汚染』(旬報社)の著者の中川七海氏は「PFOAなど有毒物質を吸着した活性炭の多くは、高温処理してリサイクルされる」と1月13日JCJオンライン講演会で語った。
 吉備中央町では、円城浄水場の水源である河平ダムの上流の資材置き場にリサイクルされるはずの活性炭入り容器が長年放置されていた。活性炭から溶け出したPFOAが破れた袋から土中に浸透し、ダムの水を汚染した。大量に容器を放置していた会社は、吉備中央町に本社を構える活性炭リサイクルメーカー満栄工業だ。同社はリサイクルを依頼した企業について10数年以上前のことで不明だという。

組成の内訳が一致
 中川氏は「満栄が放置した活性炭の組成と、ダイキン工業淀川製鋼所が使っていた活性炭の組成を分析した京都大学の原田浩二准教授は『内訳が一致した』と話しています」と報告した。
 大阪府から岡山県にダイキンのPFOA汚染が飛び火≠オたのだろうか。中川氏は早晩、モラルに欠ける満栄工業に取材するそうだ。
 1月28日の吉備中央町の記者会見に出席した中川氏は、自分の質問と山本町長の答えを『週刊金曜日2月7日号
』にこう書いている。
「(町民の)医療費を町が負担するのかと尋ねたが、自己負担とし、それ以上のことは決めていないという」「満栄工業や、活性炭を引き渡した排出企業に費用負担を求めるのか。『満栄工業さんにはきちっと請求させていただこうと思っています』」

半導体工場続々と
 PFOAやPFOSを含むPFASは、半導体の基板に塗る感光材や製造装置内部の配管、バルブといった部品の表面加工など幅広い用途に利用されている。半導体、化学物質などの製造工場には欠かせない材料だ。政府は30年度までに半導体分野に10兆円以上の公的支援を行う。台湾積体電路製造(TSMC)は熊本県菊陽町、キオクシアは三重県四日市市、米マイクロン・テクノロジーは広島県東広島市、ラピダスが北海道千歳市にそれぞれ大規模半導体工場を建設、本格稼働させた工場もある。各企業は補助金を当て込んで進出した。
すでに高濃度PFASを検出した自治体がある。国の暫定目標値より2・6倍の四日市市の河川の汚染源は、キオクシア工場とみられている。PFAS不使用の感光材は開発されているが、代替品の開発が難しいものも少なくない。

EUは廃止案提出
 中川氏は「日本は1万種以上のあるPFASのうちPFOA、PFOS、PFHxSの3種類だけを規制している。半導体製造を経済成長の重要な産業と位置付ける政府は、規制に弱腰です」と批判した。国はPFOSとPFOAの合算暫定目標値50ナノc/mLの暫定を外し、確定値にする方針だ。それに比べ米国はPFOSもPFOAも4ナノc/mLと日本よりはるかに規制が厳しい。米マクドナルドは食品包装でのPFAS使用を25年末までにやめる。
 EU(欧州連合)では、ドイツやデンマークなど5カ国はPFAS製造・使用を一括で廃止を求める規制案を欧州化学品庁(ECHA)に提出。欧州議会で採択されたら27年ころから規制が始まる見込み。
 「フォーエバー・ケミカル(永遠の化学物質)」と呼ばれるPFASは残留性が高く、体内に入り込んだら蓄積する。放っておけば済む問題ではない。しかし日本は抜本的な対策に消極的だ。「昭和の凄惨な化学物質公害の歴史をなぞるような事件が起きるのではないか」と中川氏は恐れる。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年3月25日号
     
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2025年03月11日

【焦点】東電元副社長2人無罪確定 最高裁・東電・巨大法律事務所癒着の極み=橋詰雅博

 本日3月11日は、福島第一原発事故から14年目を迎えた。この原発事故について最高裁判決は「国の免責」を認めた。最近では、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣3人らの上告審でも、3月6日、「10メートルを超える津波を予測できたと認めることはできない」と、検察官役の指定弁護士の上告を退け、武黒一郎と武藤栄の両元副社長の無罪が確定した。勝俣恒久元会長は昨年10月に死亡し、起訴が取下げられている。

 判決を下した最高裁第2小法廷の岡村和美裁判長と草野耕一裁判官は、東電と関係が深い巨大法律事務所出身だ。岡村裁判官の出身は、東電株主代表訴訟の東電側代理人の長嶋・大野・常松法律事務所(弁護士532人所属)。第2の裁判長を退官した菅野博之弁護士は顧問を務める。草野裁判官の出身は弁護士650人を擁する日本最大規模の西村あさひ法律事務所。判事就任前は事務所の共同経営者で、事務所顧問の元最高裁判事は東電の依頼で最高裁に意見書を提出。しかも事務所弁護士は東電の社外取締役だ。
 被害者参加代理人は、審理を担う草野裁判官は、東電と利害関係があり、公正な裁判を妨げるとして3月21日の定年退官後に判断することを求めた意見書を3月3日に最高裁に提出していた。結局、聞き入れられなかったのだ。ちなみに第3小法廷の渡邉惠理子裁判官も長嶋・大野・常松法律事務所の共同経営者だった。

 2024年度JCJ賞受賞『東電の変節』(旬報社)の著者のジャーナリスト・後藤秀典氏は昨年11月30日のオンライン講演でこう話した。
 「(取材した)巨大事務所のベテラン弁護士は『(巨大事務所出身の)最高裁判事は正義とかということにあまり見解を持っていない。人権や正義のことに全然関心がない』と言っていました」「司法修習を終えた弁護士志望者の第一希望は巨大事務所への所属です。高給が約束されていますので決まったら大喜びするそうです」

  後藤氏の取材に対し澤藤統一郎弁護士はこう述べた。
 「特定の巨大法律事務所が最高裁裁判官の供給源となり、同時に最高裁裁判官の天下り先ともなっている。こうして形成された最高裁と巨大法律事務所とのパイプを中心に、巨大法律事務所が、裁判所、国、企業の密接な癒着構造を形作っている。司法の独立の危機は、新たな段階にある」
 深まる癒着構造は、判決をねじ曲げ司法の信頼を失うことになる。


 
 
 
 
 
 
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2025年03月02日

【焦点】発がん性物質 PFOA濃度のトップは摂津市の地下水 汚染源はダイキン工場 国・自治体は動かず 第二の水俣病の恐れも 中川七海氏オンライン講演=橋詰雅博

 
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 人工的につくられ自然界で消滅しない有機フッ素化合物「PFAS(ピーファス)」。1万種以上あるうち「PFOS(ピーフォス)」と「PFOA(ピーフォア)」は発がん性物質。泡消火剤の原料のPFOSは在日米軍基地や自衛隊駐屯地などから、一方、プライパン、食品包装紙などの製造で使用のPFOAは工場からそれぞれ漏出。2つの有害物質は地下水や河川、水道水、農作物などを汚染している。特に毒性が強いPFOAに関し環境省は濃度の全国調査を実施。2020年6月に公表した結果のトップは、1gあたり1812ナノcの大阪府摂津市の地下水だった。ジャーナリストの中川七海氏は、このケタ外れの値の汚染源はどこかと追及。昨年10月刊行の著書『終わらないPFOA汚染』(旬報社)は21年春からの取材の成果だ。息を抜かず取材を続ける中川氏は1月13日、公害PFOA≠ノついてJCJオンライン講演で報告した。
 中川七海氏は、調査報道を手がけるネットメディア『Tansa』の記者。元朝日新聞記者の渡辺周氏が2017年に立ち上げた。企業や行政からの広告費は一切受け取らず、個人のカンパと、編集に不介入の主に海外の基金や財団からの寄付で運営している。専従メンバーは新たに2人が加わり計5人に。中川氏はこれまでPFOA汚染だけで記事約80本を発信した。
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大気も汚染し拡散

本題に入ろう。環境省が20年暫定目標値と定めたPFOSとPFOAの合算値1gあたり50ナノcの36倍もの高濃度の摂津市の地下水汚染源は、すぐに判明した。市内のPFOA製造工場、ダイキン工業淀川製作所だ。中川氏は「1960年代後半から2015年までの少なくても45年間もダイキンはPFOAを製造・使用していた」と語った。工場からのPFOAを含む排水は、河川、農業用水、地下水、井戸水、土壌などを汚染した。煙突から排出された粉塵や揮発性ガスに混じるPFOAは大気も汚染し拡散。

25年前米国調査

 水や油を弾き、熱にも強いPFOAを米大手化学メーカー、デュポンの社員が1938年に発見し50年代から米国は焦げ付かいプライパンを始め防水スプレー、撥水性の衣服、ハンバーガーの包み紙など広い用途に使っていた。だが米環境保護庁(EPA)は、このドル箱を生む化学物質≠フ使用にブレーキをかけた。PFOAの人体への悪影響を懸念し調査が必要と2000年に公表。デュポンと並ぶ大手化学メーカー、3Mは危険性を認め2年後に市場から撤退した。
デュポンは有害物質という事実を隠蔽し製造を続けた。02年、PFOAに汚染された水道水の健康被害を訴えるウェストバージニア州の住民数千人が集団訴訟を起こした。住民側に7000万ドル(約80億円)をデュポンが支払うことで04年に和解した。さらに和解に関しでデュポンはPFOA疫学調査費用500万ドル(約5億8000万円)負担させられた。

6疾患を誘発する

 独立の調査会が行った米国市民7万人の調査結果は12年に発表した。PFOAが誘発する6疾患は@妊娠高血圧ならびに高血圧腎症、A精巣がん、B腎細胞がん、C甲状腺疾患、D潰瘍性大腸炎、E高コレストロール―。
 ダイキンも2000年には、内部文書で社員のPAOA曝露を懸念している。
「入手した平成12年9月18日の業務報告書に『データとして粉を扱う箇所、特に粉の状態で取り出しを行う箇所については測定濃度が高く曝露が問題となるであろう』と書かれていた」と中川氏は指摘する。
 にもかかわらずダイキンはPAOAの危険性を住民に知らせず、何食わぬ顔で製造を続けた。中川氏は21年11月ごろからダイキンに繰り返し取材。PFOA曝露を社内文書に載せた2000年当時、なぜ製造をやめなかったのかの質問に対し広報担当の芝道雄氏は『急にやめられないですよね。これだけの文明生活を維持するには』と答えた。そして『健康被害が出ていて因果関係がわかれば50年前であっても責任をとる』と住民への補償を明言した。PFOA製造で会社を急成長させた井上礼之(のりゆき)元会長の自宅前で本人に直撃インタビューもした。執行役員の平賀義之氏は『弊社が原因の一つになっていることには間違い無い』と汚染源の一つであることを認めた。ダイキンから補償と汚染源発言を引き出せたのは中川氏の後に引きさがらない徹底した取材が功を奏したのだ。
 日本では10年にPFOS、11年後の21年にPAOAも製造・輸入が禁止された。世界保健機構(WHO)は、23年12月、PFOAは「発がん性がある」PFOSも「発がん性の可能性がある」と認定した。
      
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   「大阪PFAS汚染と健康を考える会」は大阪府内の住民1190人の血液検査を実施した
血中濃度を発表

 PFOAによる健康被害を恐れる摂津市民、淀川製作所に隣接の大阪市東淀川区民らが立ち上がる。その代表格の団体が科学者、医師、市民からなる「大阪PFAS汚染と健康を考える会」。長年PFAS汚染問題に取り組む京都大学の原田浩二准教授と小泉昭夫名誉教授の協力を得て実施された大阪府内1190人の血液検査の分析結果を24年8月に同会は発表した。
摂津市民のPFOA平均値(183人)は全国平均の4・5倍の9・8ナノc/ml、摂津市民+東淀川区民(311人)の平均値も3・7倍の8・1ナノc/ml。ダイキン淀川製作所の周辺住民はPFOAの血中濃度が高いことが証明された。
しかし国は規制に動かない。大阪府も摂津市も対策に前向きではない。相手が大企業のためかマスコミも報道に消極的だ。「健康被害を認識していない」とダイキンは主張を曲げない。

公害温存システム

 中川氏は「有害物質を排出する企業があるので公害という問題が起きているのではない。それを傍観する国と自治体、モノ言わぬメディアが絡んでいる。こういう公害温存システム≠ェあるのを知っていただきたい」と語った。
PFOA汚染は全国あちこちで表面化している。小児科医でもある立憲民主党の阿部知子衆院議員は「第二の水俣病になるのではないかと懸念を強くしています」と国会で警鐘を鳴らした。
「市民が勇気をもって立ち上がれば、公害温存システムは崩せる」と中川氏は市民の奮起を期待した。
               ◇
 注目されている岡山県吉備中央町の水道水PFAS汚染問題なども中川氏は取材中です。その報告は3月号で掲載します。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
 
   
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2025年02月19日

【焦点】第7次エネルギー基本計画(エネ基)が18日に閣議決定、原発利権温存が狙い=橋詰雅博

 昨年12月27日から今年1月26日まで実施された第7次エネ基に対するパブリックコメント(意見公募)は約4万件に上った。これまでのエネ基のパブコメのなかで最も多く、原発を推進すべきではないなど反対意見が多く出た。例えば<7次エネルギー基本計画(案)を廃案とするべきである。現状において,原子力依存度の増加や再生可能エネルギーの推進不足,市民意見の反映不十分であることから、より持続可能で安全なエネルギー政策への転換を求める>といった具合だ。にもかかわらず原子力政策の基本は変わらなかった。

 筆者は今年1月号JCJ機関紙で第7エネ基は「原発回帰」と喝破した(http://jcj-daily.seesaa.net/category/27511239-1.html)。半導体工場やデータセンターの新設による電力需要増大を口実にしたもので、省エネによる電力需要抑制を無視した計画案だった。結局は、原発を主事業とする電力会社(電力業界は自民党への大口政治献金の常連)の経営基盤を守る利権温存が狙い。第7次エネ基では2040年の再生可能エネルギーは4〜5割目標で、EU(欧州連合)がすでに実現している水準にとどまっている。これでは世界に向けた50年温室効果ガス実質ゼロの公約の達成は困難ではないか。

 国際環境NGO「FoE Japan」は、<原発や火力などの大規模集中型の電源による電力の大量生産・大量消費の構造をそのまま維持する内容である。気候危機に向き合わず、一般市民や将来世代に大きな負担を強い、現実からも乖離している。これに抗議する>と声明を18日に出した。
https://foejapan.org/issue/20250218/22944/

●関連情報
シンポジウム:原発事故から14年−福島と能登から考えるエネルギーの未来
https://foejapan.org/issue/20250130/22214/

珠洲市在住の北野進さん、浪江町から避難した菅野みずえさんによる講演に加え、全国各地の原発や関連施設などの周辺から7名の方にご報告をいただきます。また、「エネルギーの民主化を実現するために」をテーマに若い世代もまじえてパネルディスカッションを開催します。
日時:2025年3月1日(土)14:00-16:30
会場:法政大学 市ヶ谷キャンパス 富士見ゲート G401教室 またはZoom
▼詳細、お申込みは以下から
https://foejapan.org/issue/20250130/22214/
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2025年02月01日

【焦点】原発新増設に転換 需要増大を口実 第7次エネルギー基本計画 最新の省エネ効果を無視=橋詰雅博

                     
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 経済産業省が12月下旬に発表した2040年度電源構成などを中心とした第7次エネルギー基本計画(エネ基)の素案は、衰退の原発事業のテコ入れを図る中身だ。その要点は@「原発依存度を可能な限り低減」の文言を削除、A原発を最大限活用、B廃炉にした原発の敷地内での建て替え、C同じ電力会社なら別の原発の敷地内でも建て替えを認める、D原発建設コストの上ぶれ分を電力会社が回収できる仕組みを検討――。
電力会社の要望に沿う原発回帰案は、40年度の原発比率目標を2割程度としている。この達成には既存原発36基ほぼすべて再稼働が必要で、目標のクリアは困難というのが専門家の見立てだ。
 原発について「原子力や行政、事業者に対する国民の不信、不安は払拭できていない」と7次エネ基素案で述べている。にもかかわらず、原発新増設に転換したのは、脱炭素電源、電力の安定供給に加えて生成AIの開発・動作を担うデータセンターと半導体工場の新増設に伴う電力需要の増大と説明。特にデータセンターは電力を大量に食い、40年度は最大2割増えると予測している。

電力消費量は減少

 これに対して自然エネルギー財団の石田雅也研究局長=写真=は、データセンターや半導体工場の新増設は一時的としたうえでこう反論する。
 「社内の大型コンピューターで管理していた各種データを企業は、データセンターを持つクラウドサービス事業者にアウトソーシング(外部委託)している。ビル1棟のデータを移管する大企業もある。必要なデータはパソコンでセンターから引き出す。狙いはコスト削減です。企業側の電力消費の減少を考慮せずデータセンターなどの電力需要が増えることだけに注目した予測です」
 実は国内の電力消費量は07年をピークに減少している。インターネットが爆発的に普及し、複雑な動画を処理しているのもかかわらず減り続ける。著しい進歩の省エネ技術などが効果を発揮している。データセンターも最新の省エネ技術を備え電力消費を抑える。企業側の電力消費削減を加味すると、「電力需要はそんなに増えない」と石田局長は見る。

日本は15年遅れ

 素案では原発以上に期待される脱炭素電源、再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱など)の40年目標は4〜5割程度。「すでに実現しているEUの水準。日本は15年遅れになる。米国も太陽光をメインとした再エネ発電に積極的で、『化石燃料を掘りまくれ』というトランプ大統領でもこの流れは食い止められないでしょう」(石田局長)
 実際、再エネ発電の約7割は共和党の地盤、中西部州が中心だ。日照時間が長い、風力にバラツキがないといった再エネ発電に適した場所が多い。ここが選挙地盤の共和党議員は再エネ発言の拡充を訴える。
 石炭、石油、天然ガスの火力発電の40年度目標は3〜4割程度。結局は「火力発電、原発が主事業の電力会社の経営基盤を守るためのエネ基だ」と石田局長は断言した。
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
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2025年01月24日

【焦点】水没「長生炭鉱」、朝鮮人含む183人の遺骨引き上げに取り組む山口県市民団体の活動報告=橋詰雅博

 JCJが主催した12月集会で基調講演した毎日新聞学芸部専門記者の栗原俊雄氏は、「『永遠の戦後』のために―常夏ジャーナリズム」と題した講演のなかで、山口県宇部市にあった海底炭鉱「長生炭鉱」について触れていた。第2次大戦中に「水非常(みずひじょう)」と呼ばれる水没事故で183人が亡くなったが、80年以上たっても犠牲者の遺骨が眠ったままで日本政府は何もしていないと憤っていたのが強く印象に残った。
 
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             長生炭鉱創業時の桟橋の様子 刻む会HP
 この遺骨を引き上げる計画を進める市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(略称刻む会)の山内弘恵氏が婦人民主クラブ発行の24年11月5日号「ふぇみん」で刻む会の活動を報告している。
 1932年(昭和7年)から本格操業した長生炭鉱は、42年(昭和17年)2月3日、海底に延びた坑道の約1`沖合で水非常が発生。日本軍による真珠湾攻撃から2カ月後だった。犠牲者183人のうち7割の183人が朝鮮半島出身者。当時、いく度も出水を繰り返し危険な炭鉱のため働き手は地元の人が少なく、低賃金の朝鮮人労働者を使い事業を拡大させていた。事故後、事業は縮小し、敗戦を機に炭鉱は閉鎖された。
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             ピーヤと呼ばれる排気・排水筒 刻む会HP
 人々の記憶から忘れ去られようとしている91年に刻む会は発足。@現地に全犠牲者の名前を刻んだ追悼碑の建立、A海面から突き出たピーヤと呼ばれる排気・排水筒の保存、B証言・資料の収集と編さん―の3つの目標を掲げた。
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                 追悼碑 刻む会HP
 2013年2月にようやく追悼碑建立を実現した後、刻む会は遺族会が求めていた遺骨収集・発掘を目指し再スタート。これまで日本政府に3回、韓国政府に2回交渉した。所管の厚生労働省は「見える遺骨」だけ扱うと回答。今年7月15日「坑口を開けるぞ!」集会を引き金にクラウドファンディングなどで資金を集め9月から工事に着手。10月1日、横幅220a、縦幅160aの坑道を掘り出した。今後はこの坑道からあるいはピーヤからダイバーの力を借りて潜水調査を実施する。「一日も早く遺骨を見つけ出し、家族の元へ帰したいと切に願っている」と刻む会は述べている。
 日本政府の冷たい態度に改めて腹が立つ。
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2025年01月19日

【焦点】40年温室効果ガス73%削減は困難、火力発電の脱炭素化進まず、50年実質排出ゼロも危うい=橋詰雅博

 経済産業省は第7次エネルギー計画(エネ基)素案とともに「地球温暖化対策(温対)計画」素案を12下旬発表した。温対素案は2040年温室効果ガス(GHG)削減の目標値を提示している。2013年と比べて73%減としているが、本当に達成できるのだろうか。
 エネ基素案で40年の電源比率構成は、原発2割程度、太陽光、風力、水力など再生可能エネルギー4〜5割程度、石炭、製油、天然ガスの火力発電3から4割としている。

 二酸化炭素(CO2)の排出が最も多い火力発電の脱炭素化がGHG削減の最大ポイントだ。早期の段階的に廃止すなわちフェーズアウトが先進国の合意になっている石炭火力については、「非効率な石炭火力のフェーズアウト」を進めると述べるだけで、政府がいう「高効率」な石炭火力の扱いにはほとんど触れていない。

 この高効率な火力発電では、石炭アンモニア混焼発電が有力視されている。ただ50%をアンモニアにしても排出削減は30%にとどまる。完全脱炭素化に必要なアンモニア専焼技術は確立していない。またCCS(CO2回収・貯蔵)システムを有する火力発電は、発電所での回収のみならず、CO2の運搬や貯蔵過程を含め脱炭素化技術はまだ実現できていない。

 こうしたことで新技術に触れたくても触れることができなかったのだ。
 では40年の電源構成にもとづき73%削減は可能かについて自然エネルギー財団は「GHG73%達成のためには、3〜4割供給するとする火力発電はほぼ100%脱炭素にしなければならない」「技術的に確立されていない脱炭素化火力発電に3〜4割もの電力供給を見込むのは、日本の脱炭素化を失敗させる大きなリスク」という。すなわち73%削減達成は難しいというのだ。それどころか最終目標である50年GHG実質排出ゼロも危ういのである。

 原発と火力発電の延命、そのため脱炭素化に最も効果がある再エネ電源の比率が高まらないという日本のエネルギー政策は、経済の成長を阻む元凶になりそうだ。
 
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2025年01月15日

【焦点】火力発電と原発に頼る日本経済は、競争力ダウンへ、再エネへの転換が必須=橋詰雅博

 大量の二酸化炭素(CO2)を排出する火力発電は、地球温暖化阻止のため脱炭素が不可欠な時代に逆走する電力だ。日本は発電の7割をこの火力発電に依存している。化石燃料の石炭、石油、天然ガスは輸入が大半で、その金額はなんと年間26兆円にものぼる。自動車や半導体製造装置などの輸出で稼いだ29兆のほとんどが失われているのだ。

 7次エネルギー基本計画案(エネ基)の策定過程で当初、所管の経済産業省は「脱炭素エネルギーを安定的に供給できるかが国力を大きく左右すると言っても過言ではない」という認識を示していた。
 ところが経産省が12月下旬に提示した2040年電源構成などからなるエネ基は、期待を完全に裏切るものだった。化石燃料を使う火力発電の比率目標は3〜4割程度にとどまっていた。40年度想定の発電コストは例えば天然ガスの火力発電の場合、1kWh当たり19・2円と太陽光(8・5円)など再生可能エネルギーや原発(12・5円〜)のそれよりも上回っている。

 また目標2割程度維持の原発は、既存の36基ほぼすべてが再稼働しなければ、目標クリアは難しい。実現が不確実な脱炭素の原発電源と高コストの火力発電の延命は、日本経済の競争力低下のリスクに直面する。

 脱炭素の最有力、再エネ電源の40年度目標は4〜5割程度だが、なぜもっと大幅に引き上げないのか。国際エネルギー機関(IEA)によれば、40年度太陽光発電コストは1kWh当たり、欧米では3・5セント、中国は3セント、インドでは2・5セント。陸上風力発電も3・5〜5・5セントの範囲だ。再エネコストは著しい低下が続く。

 自然エネルギー財団が公表した最新シナリオは、「日本には電力の90%以上を再エネで供給できる十分なポテンシャルがあり、電力価格も安定的な水準とすることが可能」としている。
 エネルギーコストの低減化は日本経済を大きく成長させる原動力になる。と同時に日本が世界に約束した2050年温暖化ガスの実質排出ゼロも達成できる。再エネこそエネルギー政策のメインにしなければ日本は取り残されるだろう。
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2025年01月12日

【焦点】最高裁と巨大法律事務所 癒着の構図 原発事故であらわに 司法の信頼、地に落ちる 後藤秀典氏オンライン講演=橋詰雅博

                  
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 2024年度JCJ賞受賞『東京電力の変節』(旬報社)は、国、最高裁裁判官、東京電力、巨大法律事務所が深くつながっていることを浮かび上がらせた。持ちつ持たれつの構図から2年前の6月17日、福島原発事故で国を免責する異様≠ネ最高裁判決となって表面化したというのだ。原発事故裁判を始めさまざまな住民訴訟を通じて司法不信の声は増えている。司法の独立の危機と訴える法律家も少なくない。本書の著者のジャーナリスト・後藤秀典氏は11月30日、癒着構造の詳細などをJCJオンライン講演で語った。

国とも太いパイプ

 国、東京電力、巨大法律事務所の癒着の一例を挙げよう。環境省の外局、原子力規制庁職員時代の前田后穂弁護士は、複数の福島原発事故関連訴訟の国側の代理人を務めた。2021年6月に退庁した後、弁護士572人抱えるTMI総合法律事務所に所属。事務所は控訴審から東電側の主たる代理人として加わった。前田弁護士は福島県浪江町の津島原発控訴審で東電代理人に転じていた。「原発の審査や検査などを行う『監視する側』の原子力規制庁を退職したとたん、『監視される側』の東電の代理人になるのは問題でないか」とした後藤氏は、前田弁護士に23年1月に質問書を出した。前田弁護士に聴取したという事務所からの書面回答は「原子力規制庁及び東京電力の双方から承諾を得ているとのことです。貴殿からのご指摘いただいた問題は生じないと考えられます」。これはむしろ原子力規制庁と東電の結びつきの深さを示していると後藤氏は指摘する。

3人が巨大事務所

 最高裁裁判官もTMIと関係が深い。今回罷免率10・5%の第一小法廷の宮川美津子裁判官は同事務所出身。岐阜、愛知の原発自主避難者の人権侵害訴訟を審理する。弁護団は宮川裁判官の回避(裁判官自ら担当を外れる)を求めたが、返事はない。第一、第二、第三小法廷を経た深山卓也裁判官は6月退官後に事務所顧問に就任した。
 ほかの裁判官もTMI以外の東電と関係する法律事務所とつながる。第二法廷の草野耕一裁判官の出身は弁護士650人を擁する日本最大規模の西村あさひ法律事務所。判事就任前は事務所の共同経営者で、事務所顧問の元最高裁判事は東電の依頼で最高裁に意見書を提出。しかも事務所弁護士は東電の社外取締役だ。
 同じく第二の岡村和美裁判官の出身は、東電株主代表訴訟の東電側代理人の長嶋・大野・常松法律事務所(弁護士532人所属)。第二の裁判長を退官した菅野博之弁護士は顧問を務める。第三法廷の渡邉惠理子裁判官も長嶋・大野・常松法律事務所の共同経営者だった。

人権や正義無関心

 最高裁裁判官弁護士枠4人のうち3人も巨大法律事務所出身が占める。
巨大事務所のベテラン弁護士は「3人とも何が正義かということに、あまり見解を持っていない。人権や正義のことに全然関心がない。私も関心持たずにやってきた」と後藤氏に答えた。
 後藤氏の調査に対して澤藤統一郎弁護士はこう評価した。
 「特定の巨大法律事務所が最高裁裁判官の供給源となり、同時に最高裁裁判官の天下り先ともなっている。こうして形成された最高裁と巨大法律事務所とのパイプを中心に、巨大法律事務所が、裁判所、国、企業の密接な癒着構造を形作っている。司法の独立の危機は、新たな段階にある」
 深まる癒着構造は、司法の信頼が地に落ちることになる。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
 



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2024年12月24日

【焦点】世界の原発建設費コストは今や数兆円、日本はわざと過小に評価=橋詰雅博

 経済産業省が12月17日に発表した第7次エネルギー基本計画(エネ基)原案で最大限活用に転じた原子力発電所だが、肝心の原発建設費はどうなっているのか。今の物価高騰に伴い建設費も大幅にアップしている情勢を鑑みると相当に上がっているのは予想がつくが、具体的な数字を見てみたいと思い調べてみた。国際環境NGO「FoE Japan」のブログ(24年10月10日)によると、原発建設費は当初予算の数倍の数倍も膨らみ、今や数兆円は当たり前と報告している。各国の実例はこうだ。

●2023年本格稼働したフィンランドのオルキルオト原発3号機(出力160万キロワット)。建設期間が16年以上に及び、当初計画よりも12年も延長しました。当初見積もられていた建設費用は30億ユーロ(4,800億円)でしたが、実際にはその3倍以上の110億ユーロ(1兆7,000億円)にも達しました。
●23年7月と24年4月に相次いで稼働したアメリカのボーグル原発3、4号機(出力110万キロワット)。スリーマイル島原発事故後、米原子力規制委員会が30年ぶりに建設許可を出した原発として原子力産業界の期待を集めました。2013年に着工しましたが、工事は何度も遅延し、総工費は当初計画の2倍以上の計310億ドル(約4.4兆円、一基あたり約2.2兆円)にまで膨らみました。これはウエスチングハウス(WH)の経営破綻につながり、当時WHの親会社であった東芝は債務超過に陥る事態となりました。
 ボーグル原発の建設費の膨張は、各世帯の電気代に転嫁されました。毎日新聞の連載「原発・出口なき迷走 米国編/1 電気代、年間100万円 怒り(その2)安価な電力“神話”は昔」(24年9月30日)では、驚くことに、同原発では、特例措置により、完成前から建設費の一部を電気料金に上乗せされており、1世帯平均で累計約1000ドル(約14万円)も支払われてきたというのです。そういう意味では、今日本で検討されているRABモデルの制度を先取りしたともいえます。
●07年に着工したフランスのフラマンビル原発は、12年に完成予定でしたが、さまざまなトラブルが発生。工事が大幅に遅れ、17年後の24年9月に稼働しました。建設予算は30億ユーロ程度でしたが、総費用は132億ユーロ(約2.1兆円)に達しました。
●イギリスで建設中のヒンクリーポイントC原発でも、工事がどんどん遅延しています。16年5月当時、EDFエナジー社は2基で180億ポンドと試算していましたが、24年1月段階では、総工費は310〜340億ポンド(約5.8〜6.4兆円)に増加しました。当初25年までの運転開始を予定していましたが、30年前後に延期。物価上昇率を考慮すれば、一基当たり約4.6兆円になると見込まれます。

 翻って日本はどうか。政府の「発電コスト検証ワーキンググループ」では原発の発電コストの前提として原発建設費用+追加安全コストを6,169億円としています。「これは最近の世界の原発の建設費からみると、かなりの過小評価」と分析している。
 建設費の爆上がり≠ヘ結局、利用者の電気料金に上乗せというツケが回されることになる。原発コストは安いはウソだ。


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2024年12月07日

【焦点】核実験 40年で456回 カザフ 被害者放置 若者自殺 小山美砂氏オンライン講演=橋詰雅博

 
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 2023年度JCJ賞受賞『「黒い雨」訴訟』(集英社新書)の著者で広島・長崎の被爆者実相を追求するジャーナリスト・小山美砂氏(JCJ会員)は、9月初旬に中央アジア、カザフスタンのセミパラチンスクで核被害の実態を取材した。カザフスタンは1991年に独立したがその前までは旧ソ連の構成国。旧ソ連はセミパラチンスクで49年から40年間で456回もの核実験を行った。カザフスタンは米ニューヨーク国連本部で来年3月に開催の核兵器禁止条約第3回締約国会議の議長国。小山氏らはこの機会にカザフスタン核被害の支援を日本に広げようと広島で市民団体を立ち上げた。クラウドファンディングなどで資金を集め小山氏自らセミパラチンスクに入った。10月26日JCJオンライン講演会でその成果を報告した。

実験場跡地で取材

 セミパラチンスクでの核実験のエネルギー総量は広島型原爆に換算すると、1100発分にも匹敵する。実験場は91年8月に閉鎖されたが、30年以上経過しても平常時の放射線量基準値(年間1ミリシーベルト以下)より8、9倍も高い跡地もある。小山氏は「実験場跡地のガイド役、原子力センタースタッフに『防護服は着なくていい』と言われ、内部被爆を防ぐためマスクとゴーグルはつけました。帰国後『やはり防護服も着とけばよかったかな』と不安な感情が残りました」と語った。
 核実験場周辺で暮らす村民クサイン・ヌルグルさん(74)は実験が繰り返さる度に地震のような揺れを体験。クサインさんは「私は貧血や頭痛、骨の痛み、高血圧に苦しんでいます」「薬代が高く、政府は支援してほしい」「病気を苦に自殺する若者は多い」と訴えた。核実験のキノコ雲を見たという村最高齢86歳の女性は「若い人がどんどん死んでいく。つらいのでもう葬式に行くのは止めた」「核実験の影響のせいだ」と話した。

弱体化の援助体制

 カザフスタン政府は日本の被爆者健康手帳のような「ポリゴン(ロシア語で演習場の意味)証明書」を認定した被爆者に発行している。証明書があると補償金、追加年金や休暇などがもらえる。これまで証明書は100万を超える人に渡されたが、近年は補償金が減額されたなど被害者援助体制が弱体化している。
 小山氏は「カザフスタン政府は国際的に核廃絶を打ち出しているが、国内の被害者を置き去りにしています」「日本の黒い雨の被爆者と状況が似ている」と指摘した。
2年前設立NGO「ポリゴン21」は、被害者救済に向けた新しい法律制定を求める運動を積極的に取り組んでいる。母親、2人の姉、兄、夫をガンで亡くしたマイラ・アベノヴァ代表(70)は、SNSで運動参加を呼びかけ数万人が賛同し、署名も5万筆集めた。

日本に求める支援

 地元の反核運動団体などが日本に求めているのは@治療ノウハウや病院建設など医療分野での支援、A日本の被爆者との連帯―などだ。小山氏は取材を踏まえて、日本の政府と市民社会は、世界の核被害者援助に対して果たせる役割があると指摘。核禁条約の枠組みにおいては、被害者救済に向けてカザフスタンとキリバスが「国際信託基金」の設立を目指しており、この行方も注目する必要があると話した。
 「3年後ぐらいに再訪し取材をさらに進めたい」と小山氏は述べた。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
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2024年11月30日

【焦点】機密保持資格者の身辺調査「SC制度」運用基準案公表、筆者は本紙6月6日号記事でプライバシー侵害の恐れと警告、パブコメで反対の声を=橋詰雅博 

 政府は11月26日、経済安保に関する重要情報の保全(経済安保新法)を目的に、公務員や民間人を国が身辺調査し、信頼ができると認めた人だけが情報を扱う「セキュリティー・クリアランス(SC、適性評価)」の運用基準案を明らかにした。
 同案によると、同意を得た評価対象への質問票は35ページで、アルバイトを含む職歴や渡航歴、精神疾患の有無、飲酒の節度、外国の金融機関口座の保有、家族・同居人の国籍、配偶者の父母らの国籍などを書き込む。私生活に踏み込み、プライバシー侵害の恐れがある内容だ

 筆者は6月に「知る権利とプライバシー侵害、経済安保新法、秘密保護法と一体運用、身辺調査拒めば不利益も」と題した記事を本紙に掲載している。(https://blog.seesaa.jp/cms/article/edit/input?id=503555257

 取材したSC制度に詳しい海渡双葉弁護士は「候補者名簿に載せることに同意しない、調査を拒む、適性がないとされたら働いている今の部署から異動になる。出世コースから外れた、居づらい、合わない仕事を押し付けられるなどの理由で退職もあり得ます。不利益な扱いを受け人生設計がくるう。人権侵害です」と述べている。
 SC制度は意見募集(パブコメ)を経て来年1月にも閣議決定する。関連法が成立後、5月までに施行される。
 海渡弁護士はこう語っている。
「反対運動を拡大させることが重要です。運用基準案についてパブリックコメントが実施される。パブコメに問題点を書き込む。世論の強い反対によって使いづらい法律≠ノ変えることはできます」
諦めてはダメだというのだ。
 パブコメに反対の声をどんどん寄せよう
 
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2024年11月25日

【焦点】大リーグ球場命名権獲得のダイキン工業、国内で「PFOA(ピーフォア)」汚染問題に直面、健康被害ないと主張=橋詰雅博

 米南部テキサス州にある米大リーグのヒューストンアストロズの本拠地球場「ミニッツメイド・パーク」の名前が来年2025年1月から変わる。新名は「ダイキン・パーク」で、日本のダイキン工業が命名権を取得した。大リーグ球場命名権を日本企業が取得したのは初めてだ。
 ダイキンは約170カ国で事業展開する空調機、化学製品の世界有数メーカー。ヒュースン近郊の工場では、17年から空調機生産し約1万人を雇用している。

 国内外で有名なダイキンは、日本で大阪府摂津工場から漏出の有機フッ素化合物「PFOA(ピーフォア)」に起因する汚染問題に直面していることはあまり知られていない。同じ有機フッ素化合物の仲間「PFOS(ピーフォス)」と並んでPFOAも毒性が強い物質だ。
 泡消火剤などの原料PFOS汚染は、米軍基地の漏出が発覚し、周辺住民の健康被害が懸念されるとマスコミで報じられ社会問題化している。一方、焦げ付かいプライパンや防水スプレーなどに使われたPFOA汚染はなぜかマスコミ報道は少なく、しかもダイキンの社名はほとんど伏せられている。PFOSもPFOAもWHO専門機関は発がん性を認定。

 体内に蓄積されるので厄介だ。胎内曝露で胎児に悪影響があるという調査結果もある。どちらも国際的に製造・使用が禁止されたが、現在、問題になっているのは汚染された地下水、河川、農業用水などをどうするかだ。

 環境省が全国の自治体の協力を得て20年に実施した汚染物質による河川、地下水などの濃度調査で出た摂津市のPFOA濃度は衝撃的な数字だった。1リットル当たり1812ナノグラムで、目標値の36倍にも上る。汚染源はPFOAを製造するダイキン摂津工場と断定されている。実は工場周辺では1950年代から牛の大量突然死や黄色に変じた田んぼ、枯れる稲など異常な出来事が起こっていた。住民たちは汚染された井戸水を飲み、農業用水で育ったコメや野菜などを食べた。

 京都大学研究チームによる血液検査を受けた住民たちからは高濃度のPFOAが検出された。摂津市は「ダイキンの企業城下町」だ。摂津市はもとより大阪府や多くの住民もダイキンに規制を求めることに消極的。相手が大企業ゆえにマスコミも腰が引けている。ダイキンは「健康障害の証拠がない」と2000年以来言い続けている。このままでは、有害化学物質が原因の昭和時代の公害がよみがえるという声も高まっている。
 詳細を知りたい方は10月に刊行した中川七海氏の著書『終わらないPFOA汚染 公害温存システムのある国で』(旬報社)を読んでいただきたい。
    
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