昨年12月27日から今年1月26日まで実施された第7次エネ基に対するパブリックコメント(意見公募)は約4万件に上った。これまでのエネ基のパブコメのなかで最も多く、原発を推進すべきではないなど反対意見が多く出た。例えば<7次エネルギー基本計画(案)を廃案とするべきである。現状において,原子力依存度の増加や再生可能エネルギーの推進不足,市民意見の反映不十分であることから、より持続可能で安全なエネルギー政策への転換を求める>といった具合だ。にもかかわらず原子力政策の基本は変わらなかった。
筆者は今年1月号JCJ機関紙で第7エネ基は「原発回帰」と喝破した(http://jcj-daily.seesaa.net/category/27511239-1.html)。半導体工場やデータセンターの新設による電力需要増大を口実にしたもので、省エネによる電力需要抑制を無視した計画案だった。結局は、原発を主事業とする電力会社(電力業界は自民党への大口政治献金の常連)の経営基盤を守る利権温存が狙い。第7次エネ基では2040年の再生可能エネルギーは4〜5割目標で、EU(欧州連合)がすでに実現している水準にとどまっている。これでは世界に向けた50年温室効果ガス実質ゼロの公約の達成は困難ではないか。
国際環境NGO「FoE Japan」は、<原発や火力などの大規模集中型の電源による電力の大量生産・大量消費の構造をそのまま維持する内容である。気候危機に向き合わず、一般市民や将来世代に大きな負担を強い、現実からも乖離している。これに抗議する>と声明を18日に出した。
https://foejapan.org/issue/20250218/22944/
●関連情報
シンポジウム:原発事故から14年−福島と能登から考えるエネルギーの未来
https://foejapan.org/issue/20250130/22214/
珠洲市在住の北野進さん、浪江町から避難した菅野みずえさんによる講演に加え、全国各地の原発や関連施設などの周辺から7名の方にご報告をいただきます。また、「エネルギーの民主化を実現するために」をテーマに若い世代もまじえてパネルディスカッションを開催します。
日時:2025年3月1日(土)14:00-16:30
会場:法政大学 市ヶ谷キャンパス 富士見ゲート G401教室 またはZoom
▼詳細、お申込みは以下から
https://foejapan.org/issue/20250130/22214/
2025年02月19日
2025年02月01日
【焦点】原発新増設に転換 需要増大を口実 第7次エネルギー基本計画 最新の省エネ効果を無視=橋詰雅博
経済産業省が12月下旬に発表した2040年度電源構成などを中心とした第7次エネルギー基本計画(エネ基)の素案は、衰退の原発事業のテコ入れを図る中身だ。その要点は@「原発依存度を可能な限り低減」の文言を削除、A原発を最大限活用、B廃炉にした原発の敷地内での建て替え、C同じ電力会社なら別の原発の敷地内でも建て替えを認める、D原発建設コストの上ぶれ分を電力会社が回収できる仕組みを検討――。
電力会社の要望に沿う原発回帰案は、40年度の原発比率目標を2割程度としている。この達成には既存原発36基ほぼすべて再稼働が必要で、目標のクリアは困難というのが専門家の見立てだ。
原発について「原子力や行政、事業者に対する国民の不信、不安は払拭できていない」と7次エネ基素案で述べている。にもかかわらず、原発新増設に転換したのは、脱炭素電源、電力の安定供給に加えて生成AIの開発・動作を担うデータセンターと半導体工場の新増設に伴う電力需要の増大と説明。特にデータセンターは電力を大量に食い、40年度は最大2割増えると予測している。
電力消費量は減少
これに対して自然エネルギー財団の石田雅也研究局長=写真=は、データセンターや半導体工場の新増設は一時的としたうえでこう反論する。
「社内の大型コンピューターで管理していた各種データを企業は、データセンターを持つクラウドサービス事業者にアウトソーシング(外部委託)している。ビル1棟のデータを移管する大企業もある。必要なデータはパソコンでセンターから引き出す。狙いはコスト削減です。企業側の電力消費の減少を考慮せずデータセンターなどの電力需要が増えることだけに注目した予測です」
実は国内の電力消費量は07年をピークに減少している。インターネットが爆発的に普及し、複雑な動画を処理しているのもかかわらず減り続ける。著しい進歩の省エネ技術などが効果を発揮している。データセンターも最新の省エネ技術を備え電力消費を抑える。企業側の電力消費削減を加味すると、「電力需要はそんなに増えない」と石田局長は見る。
日本は15年遅れ
素案では原発以上に期待される脱炭素電源、再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱など)の40年目標は4〜5割程度。「すでに実現しているEUの水準。日本は15年遅れになる。米国も太陽光をメインとした再エネ発電に積極的で、『化石燃料を掘りまくれ』というトランプ大統領でもこの流れは食い止められないでしょう」(石田局長)
実際、再エネ発電の約7割は共和党の地盤、中西部州が中心だ。日照時間が長い、風力にバラツキがないといった再エネ発電に適した場所が多い。ここが選挙地盤の共和党議員は再エネ発言の拡充を訴える。
石炭、石油、天然ガスの火力発電の40年度目標は3〜4割程度。結局は「火力発電、原発が主事業の電力会社の経営基盤を守るためのエネ基だ」と石田局長は断言した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
2025年01月24日
【焦点】水没「長生炭鉱」、朝鮮人含む183人の遺骨引き上げに取り組む山口県市民団体の活動報告=橋詰雅博
JCJが主催した12月集会で基調講演した毎日新聞学芸部専門記者の栗原俊雄氏は、「『永遠の戦後』のために―常夏ジャーナリズム」と題した講演のなかで、山口県宇部市にあった海底炭鉱「長生炭鉱」について触れていた。第2次大戦中に「水非常(みずひじょう)」と呼ばれる水没事故で183人が亡くなったが、80年以上たっても犠牲者の遺骨が眠ったままで日本政府は何もしていないと憤っていたのが強く印象に残った。
長生炭鉱創業時の桟橋の様子 刻む会HP
この遺骨を引き上げる計画を進める市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(略称刻む会)の山内弘恵氏が婦人民主クラブ発行の24年11月5日号「ふぇみん」で刻む会の活動を報告している。
1932年(昭和7年)から本格操業した長生炭鉱は、42年(昭和17年)2月3日、海底に延びた坑道の約1`沖合で水非常が発生。日本軍による真珠湾攻撃から2カ月後だった。犠牲者183人のうち7割の183人が朝鮮半島出身者。当時、いく度も出水を繰り返し危険な炭鉱のため働き手は地元の人が少なく、低賃金の朝鮮人労働者を使い事業を拡大させていた。事故後、事業は縮小し、敗戦を機に炭鉱は閉鎖された。
ピーヤと呼ばれる排気・排水筒 刻む会HP
人々の記憶から忘れ去られようとしている91年に刻む会は発足。@現地に全犠牲者の名前を刻んだ追悼碑の建立、A海面から突き出たピーヤと呼ばれる排気・排水筒の保存、B証言・資料の収集と編さん―の3つの目標を掲げた。
追悼碑 刻む会HP
2013年2月にようやく追悼碑建立を実現した後、刻む会は遺族会が求めていた遺骨収集・発掘を目指し再スタート。これまで日本政府に3回、韓国政府に2回交渉した。所管の厚生労働省は「見える遺骨」だけ扱うと回答。今年7月15日「坑口を開けるぞ!」集会を引き金にクラウドファンディングなどで資金を集め9月から工事に着手。10月1日、横幅220a、縦幅160aの坑道を掘り出した。今後はこの坑道からあるいはピーヤからダイバーの力を借りて潜水調査を実施する。「一日も早く遺骨を見つけ出し、家族の元へ帰したいと切に願っている」と刻む会は述べている。
日本政府の冷たい態度に改めて腹が立つ。
長生炭鉱創業時の桟橋の様子 刻む会HP
この遺骨を引き上げる計画を進める市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(略称刻む会)の山内弘恵氏が婦人民主クラブ発行の24年11月5日号「ふぇみん」で刻む会の活動を報告している。
1932年(昭和7年)から本格操業した長生炭鉱は、42年(昭和17年)2月3日、海底に延びた坑道の約1`沖合で水非常が発生。日本軍による真珠湾攻撃から2カ月後だった。犠牲者183人のうち7割の183人が朝鮮半島出身者。当時、いく度も出水を繰り返し危険な炭鉱のため働き手は地元の人が少なく、低賃金の朝鮮人労働者を使い事業を拡大させていた。事故後、事業は縮小し、敗戦を機に炭鉱は閉鎖された。
ピーヤと呼ばれる排気・排水筒 刻む会HP
人々の記憶から忘れ去られようとしている91年に刻む会は発足。@現地に全犠牲者の名前を刻んだ追悼碑の建立、A海面から突き出たピーヤと呼ばれる排気・排水筒の保存、B証言・資料の収集と編さん―の3つの目標を掲げた。
追悼碑 刻む会HP
2013年2月にようやく追悼碑建立を実現した後、刻む会は遺族会が求めていた遺骨収集・発掘を目指し再スタート。これまで日本政府に3回、韓国政府に2回交渉した。所管の厚生労働省は「見える遺骨」だけ扱うと回答。今年7月15日「坑口を開けるぞ!」集会を引き金にクラウドファンディングなどで資金を集め9月から工事に着手。10月1日、横幅220a、縦幅160aの坑道を掘り出した。今後はこの坑道からあるいはピーヤからダイバーの力を借りて潜水調査を実施する。「一日も早く遺骨を見つけ出し、家族の元へ帰したいと切に願っている」と刻む会は述べている。
日本政府の冷たい態度に改めて腹が立つ。
2025年01月19日
【焦点】40年温室効果ガス73%削減は困難、火力発電の脱炭素化進まず、50年実質排出ゼロも危うい=橋詰雅博
経済産業省は第7次エネルギー計画(エネ基)素案とともに「地球温暖化対策(温対)計画」素案を12下旬発表した。温対素案は2040年温室効果ガス(GHG)削減の目標値を提示している。2013年と比べて73%減としているが、本当に達成できるのだろうか。
エネ基素案で40年の電源比率構成は、原発2割程度、太陽光、風力、水力など再生可能エネルギー4〜5割程度、石炭、製油、天然ガスの火力発電3から4割としている。
二酸化炭素(CO2)の排出が最も多い火力発電の脱炭素化がGHG削減の最大ポイントだ。早期の段階的に廃止すなわちフェーズアウトが先進国の合意になっている石炭火力については、「非効率な石炭火力のフェーズアウト」を進めると述べるだけで、政府がいう「高効率」な石炭火力の扱いにはほとんど触れていない。
この高効率な火力発電では、石炭アンモニア混焼発電が有力視されている。ただ50%をアンモニアにしても排出削減は30%にとどまる。完全脱炭素化に必要なアンモニア専焼技術は確立していない。またCCS(CO2回収・貯蔵)システムを有する火力発電は、発電所での回収のみならず、CO2の運搬や貯蔵過程を含め脱炭素化技術はまだ実現できていない。
こうしたことで新技術に触れたくても触れることができなかったのだ。
では40年の電源構成にもとづき73%削減は可能かについて自然エネルギー財団は「GHG73%達成のためには、3〜4割供給するとする火力発電はほぼ100%脱炭素にしなければならない」「技術的に確立されていない脱炭素化火力発電に3〜4割もの電力供給を見込むのは、日本の脱炭素化を失敗させる大きなリスク」という。すなわち73%削減達成は難しいというのだ。それどころか最終目標である50年GHG実質排出ゼロも危ういのである。
原発と火力発電の延命、そのため脱炭素化に最も効果がある再エネ電源の比率が高まらないという日本のエネルギー政策は、経済の成長を阻む元凶になりそうだ。
エネ基素案で40年の電源比率構成は、原発2割程度、太陽光、風力、水力など再生可能エネルギー4〜5割程度、石炭、製油、天然ガスの火力発電3から4割としている。
二酸化炭素(CO2)の排出が最も多い火力発電の脱炭素化がGHG削減の最大ポイントだ。早期の段階的に廃止すなわちフェーズアウトが先進国の合意になっている石炭火力については、「非効率な石炭火力のフェーズアウト」を進めると述べるだけで、政府がいう「高効率」な石炭火力の扱いにはほとんど触れていない。
この高効率な火力発電では、石炭アンモニア混焼発電が有力視されている。ただ50%をアンモニアにしても排出削減は30%にとどまる。完全脱炭素化に必要なアンモニア専焼技術は確立していない。またCCS(CO2回収・貯蔵)システムを有する火力発電は、発電所での回収のみならず、CO2の運搬や貯蔵過程を含め脱炭素化技術はまだ実現できていない。
こうしたことで新技術に触れたくても触れることができなかったのだ。
では40年の電源構成にもとづき73%削減は可能かについて自然エネルギー財団は「GHG73%達成のためには、3〜4割供給するとする火力発電はほぼ100%脱炭素にしなければならない」「技術的に確立されていない脱炭素化火力発電に3〜4割もの電力供給を見込むのは、日本の脱炭素化を失敗させる大きなリスク」という。すなわち73%削減達成は難しいというのだ。それどころか最終目標である50年GHG実質排出ゼロも危ういのである。
原発と火力発電の延命、そのため脱炭素化に最も効果がある再エネ電源の比率が高まらないという日本のエネルギー政策は、経済の成長を阻む元凶になりそうだ。
2025年01月15日
【焦点】火力発電と原発に頼る日本経済は、競争力ダウンへ、再エネへの転換が必須=橋詰雅博
大量の二酸化炭素(CO2)を排出する火力発電は、地球温暖化阻止のため脱炭素が不可欠な時代に逆走する電力だ。日本は発電の7割をこの火力発電に依存している。化石燃料の石炭、石油、天然ガスは輸入が大半で、その金額はなんと年間26兆円にものぼる。自動車や半導体製造装置などの輸出で稼いだ29兆のほとんどが失われているのだ。
7次エネルギー基本計画案(エネ基)の策定過程で当初、所管の経済産業省は「脱炭素エネルギーを安定的に供給できるかが国力を大きく左右すると言っても過言ではない」という認識を示していた。
ところが経産省が12月下旬に提示した2040年電源構成などからなるエネ基は、期待を完全に裏切るものだった。化石燃料を使う火力発電の比率目標は3〜4割程度にとどまっていた。40年度想定の発電コストは例えば天然ガスの火力発電の場合、1kWh当たり19・2円と太陽光(8・5円)など再生可能エネルギーや原発(12・5円〜)のそれよりも上回っている。
また目標2割程度維持の原発は、既存の36基ほぼすべてが再稼働しなければ、目標クリアは難しい。実現が不確実な脱炭素の原発電源と高コストの火力発電の延命は、日本経済の競争力低下のリスクに直面する。
脱炭素の最有力、再エネ電源の40年度目標は4〜5割程度だが、なぜもっと大幅に引き上げないのか。国際エネルギー機関(IEA)によれば、40年度太陽光発電コストは1kWh当たり、欧米では3・5セント、中国は3セント、インドでは2・5セント。陸上風力発電も3・5〜5・5セントの範囲だ。再エネコストは著しい低下が続く。
自然エネルギー財団が公表した最新シナリオは、「日本には電力の90%以上を再エネで供給できる十分なポテンシャルがあり、電力価格も安定的な水準とすることが可能」としている。
エネルギーコストの低減化は日本経済を大きく成長させる原動力になる。と同時に日本が世界に約束した2050年温暖化ガスの実質排出ゼロも達成できる。再エネこそエネルギー政策のメインにしなければ日本は取り残されるだろう。
7次エネルギー基本計画案(エネ基)の策定過程で当初、所管の経済産業省は「脱炭素エネルギーを安定的に供給できるかが国力を大きく左右すると言っても過言ではない」という認識を示していた。
ところが経産省が12月下旬に提示した2040年電源構成などからなるエネ基は、期待を完全に裏切るものだった。化石燃料を使う火力発電の比率目標は3〜4割程度にとどまっていた。40年度想定の発電コストは例えば天然ガスの火力発電の場合、1kWh当たり19・2円と太陽光(8・5円)など再生可能エネルギーや原発(12・5円〜)のそれよりも上回っている。
また目標2割程度維持の原発は、既存の36基ほぼすべてが再稼働しなければ、目標クリアは難しい。実現が不確実な脱炭素の原発電源と高コストの火力発電の延命は、日本経済の競争力低下のリスクに直面する。
脱炭素の最有力、再エネ電源の40年度目標は4〜5割程度だが、なぜもっと大幅に引き上げないのか。国際エネルギー機関(IEA)によれば、40年度太陽光発電コストは1kWh当たり、欧米では3・5セント、中国は3セント、インドでは2・5セント。陸上風力発電も3・5〜5・5セントの範囲だ。再エネコストは著しい低下が続く。
自然エネルギー財団が公表した最新シナリオは、「日本には電力の90%以上を再エネで供給できる十分なポテンシャルがあり、電力価格も安定的な水準とすることが可能」としている。
エネルギーコストの低減化は日本経済を大きく成長させる原動力になる。と同時に日本が世界に約束した2050年温暖化ガスの実質排出ゼロも達成できる。再エネこそエネルギー政策のメインにしなければ日本は取り残されるだろう。
2025年01月12日
【焦点】最高裁と巨大法律事務所 癒着の構図 原発事故であらわに 司法の信頼、地に落ちる 後藤秀典氏オンライン講演=橋詰雅博
2024年度JCJ賞受賞『東京電力の変節』(旬報社)は、国、最高裁裁判官、東京電力、巨大法律事務所が深くつながっていることを浮かび上がらせた。持ちつ持たれつの構図から2年前の6月17日、福島原発事故で国を免責する異様≠ネ最高裁判決となって表面化したというのだ。原発事故裁判を始めさまざまな住民訴訟を通じて司法不信の声は増えている。司法の独立の危機と訴える法律家も少なくない。本書の著者のジャーナリスト・後藤秀典氏は11月30日、癒着構造の詳細などをJCJオンライン講演で語った。
国とも太いパイプ
国、東京電力、巨大法律事務所の癒着の一例を挙げよう。環境省の外局、原子力規制庁職員時代の前田后穂弁護士は、複数の福島原発事故関連訴訟の国側の代理人を務めた。2021年6月に退庁した後、弁護士572人抱えるTMI総合法律事務所に所属。事務所は控訴審から東電側の主たる代理人として加わった。前田弁護士は福島県浪江町の津島原発控訴審で東電代理人に転じていた。「原発の審査や検査などを行う『監視する側』の原子力規制庁を退職したとたん、『監視される側』の東電の代理人になるのは問題でないか」とした後藤氏は、前田弁護士に23年1月に質問書を出した。前田弁護士に聴取したという事務所からの書面回答は「原子力規制庁及び東京電力の双方から承諾を得ているとのことです。貴殿からのご指摘いただいた問題は生じないと考えられます」。これはむしろ原子力規制庁と東電の結びつきの深さを示していると後藤氏は指摘する。
3人が巨大事務所
最高裁裁判官もTMIと関係が深い。今回罷免率10・5%の第一小法廷の宮川美津子裁判官は同事務所出身。岐阜、愛知の原発自主避難者の人権侵害訴訟を審理する。弁護団は宮川裁判官の回避(裁判官自ら担当を外れる)を求めたが、返事はない。第一、第二、第三小法廷を経た深山卓也裁判官は6月退官後に事務所顧問に就任した。
ほかの裁判官もTMI以外の東電と関係する法律事務所とつながる。第二法廷の草野耕一裁判官の出身は弁護士650人を擁する日本最大規模の西村あさひ法律事務所。判事就任前は事務所の共同経営者で、事務所顧問の元最高裁判事は東電の依頼で最高裁に意見書を提出。しかも事務所弁護士は東電の社外取締役だ。
同じく第二の岡村和美裁判官の出身は、東電株主代表訴訟の東電側代理人の長嶋・大野・常松法律事務所(弁護士532人所属)。第二の裁判長を退官した菅野博之弁護士は顧問を務める。第三法廷の渡邉惠理子裁判官も長嶋・大野・常松法律事務所の共同経営者だった。
人権や正義無関心
最高裁裁判官弁護士枠4人のうち3人も巨大法律事務所出身が占める。
巨大事務所のベテラン弁護士は「3人とも何が正義かということに、あまり見解を持っていない。人権や正義のことに全然関心がない。私も関心持たずにやってきた」と後藤氏に答えた。
後藤氏の調査に対して澤藤統一郎弁護士はこう評価した。
「特定の巨大法律事務所が最高裁裁判官の供給源となり、同時に最高裁裁判官の天下り先ともなっている。こうして形成された最高裁と巨大法律事務所とのパイプを中心に、巨大法律事務所が、裁判所、国、企業の密接な癒着構造を形作っている。司法の独立の危機は、新たな段階にある」
深まる癒着構造は、司法の信頼が地に落ちることになる。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
2024年12月24日
【焦点】世界の原発建設費コストは今や数兆円、日本はわざと過小に評価=橋詰雅博
経済産業省が12月17日に発表した第7次エネルギー基本計画(エネ基)原案で最大限活用に転じた原子力発電所だが、肝心の原発建設費はどうなっているのか。今の物価高騰に伴い建設費も大幅にアップしている情勢を鑑みると相当に上がっているのは予想がつくが、具体的な数字を見てみたいと思い調べてみた。国際環境NGO「FoE Japan」のブログ(24年10月10日)によると、原発建設費は当初予算の数倍の数倍も膨らみ、今や数兆円は当たり前と報告している。各国の実例はこうだ。
●2023年本格稼働したフィンランドのオルキルオト原発3号機(出力160万キロワット)。建設期間が16年以上に及び、当初計画よりも12年も延長しました。当初見積もられていた建設費用は30億ユーロ(4,800億円)でしたが、実際にはその3倍以上の110億ユーロ(1兆7,000億円)にも達しました。
●23年7月と24年4月に相次いで稼働したアメリカのボーグル原発3、4号機(出力110万キロワット)。スリーマイル島原発事故後、米原子力規制委員会が30年ぶりに建設許可を出した原発として原子力産業界の期待を集めました。2013年に着工しましたが、工事は何度も遅延し、総工費は当初計画の2倍以上の計310億ドル(約4.4兆円、一基あたり約2.2兆円)にまで膨らみました。これはウエスチングハウス(WH)の経営破綻につながり、当時WHの親会社であった東芝は債務超過に陥る事態となりました。
ボーグル原発の建設費の膨張は、各世帯の電気代に転嫁されました。毎日新聞の連載「原発・出口なき迷走 米国編/1 電気代、年間100万円 怒り(その2)安価な電力“神話”は昔」(24年9月30日)では、驚くことに、同原発では、特例措置により、完成前から建設費の一部を電気料金に上乗せされており、1世帯平均で累計約1000ドル(約14万円)も支払われてきたというのです。そういう意味では、今日本で検討されているRABモデルの制度を先取りしたともいえます。
●07年に着工したフランスのフラマンビル原発は、12年に完成予定でしたが、さまざまなトラブルが発生。工事が大幅に遅れ、17年後の24年9月に稼働しました。建設予算は30億ユーロ程度でしたが、総費用は132億ユーロ(約2.1兆円)に達しました。
●イギリスで建設中のヒンクリーポイントC原発でも、工事がどんどん遅延しています。16年5月当時、EDFエナジー社は2基で180億ポンドと試算していましたが、24年1月段階では、総工費は310〜340億ポンド(約5.8〜6.4兆円)に増加しました。当初25年までの運転開始を予定していましたが、30年前後に延期。物価上昇率を考慮すれば、一基当たり約4.6兆円になると見込まれます。
翻って日本はどうか。政府の「発電コスト検証ワーキンググループ」では原発の発電コストの前提として原発建設費用+追加安全コストを6,169億円としています。「これは最近の世界の原発の建設費からみると、かなりの過小評価」と分析している。
建設費の爆上がり≠ヘ結局、利用者の電気料金に上乗せというツケが回されることになる。原発コストは安いはウソだ。
●2023年本格稼働したフィンランドのオルキルオト原発3号機(出力160万キロワット)。建設期間が16年以上に及び、当初計画よりも12年も延長しました。当初見積もられていた建設費用は30億ユーロ(4,800億円)でしたが、実際にはその3倍以上の110億ユーロ(1兆7,000億円)にも達しました。
●23年7月と24年4月に相次いで稼働したアメリカのボーグル原発3、4号機(出力110万キロワット)。スリーマイル島原発事故後、米原子力規制委員会が30年ぶりに建設許可を出した原発として原子力産業界の期待を集めました。2013年に着工しましたが、工事は何度も遅延し、総工費は当初計画の2倍以上の計310億ドル(約4.4兆円、一基あたり約2.2兆円)にまで膨らみました。これはウエスチングハウス(WH)の経営破綻につながり、当時WHの親会社であった東芝は債務超過に陥る事態となりました。
ボーグル原発の建設費の膨張は、各世帯の電気代に転嫁されました。毎日新聞の連載「原発・出口なき迷走 米国編/1 電気代、年間100万円 怒り(その2)安価な電力“神話”は昔」(24年9月30日)では、驚くことに、同原発では、特例措置により、完成前から建設費の一部を電気料金に上乗せされており、1世帯平均で累計約1000ドル(約14万円)も支払われてきたというのです。そういう意味では、今日本で検討されているRABモデルの制度を先取りしたともいえます。
●07年に着工したフランスのフラマンビル原発は、12年に完成予定でしたが、さまざまなトラブルが発生。工事が大幅に遅れ、17年後の24年9月に稼働しました。建設予算は30億ユーロ程度でしたが、総費用は132億ユーロ(約2.1兆円)に達しました。
●イギリスで建設中のヒンクリーポイントC原発でも、工事がどんどん遅延しています。16年5月当時、EDFエナジー社は2基で180億ポンドと試算していましたが、24年1月段階では、総工費は310〜340億ポンド(約5.8〜6.4兆円)に増加しました。当初25年までの運転開始を予定していましたが、30年前後に延期。物価上昇率を考慮すれば、一基当たり約4.6兆円になると見込まれます。
翻って日本はどうか。政府の「発電コスト検証ワーキンググループ」では原発の発電コストの前提として原発建設費用+追加安全コストを6,169億円としています。「これは最近の世界の原発の建設費からみると、かなりの過小評価」と分析している。
建設費の爆上がり≠ヘ結局、利用者の電気料金に上乗せというツケが回されることになる。原発コストは安いはウソだ。
2024年12月07日
【焦点】核実験 40年で456回 カザフ 被害者放置 若者自殺 小山美砂氏オンライン講演=橋詰雅博
2023年度JCJ賞受賞『「黒い雨」訴訟』(集英社新書)の著者で広島・長崎の被爆者実相を追求するジャーナリスト・小山美砂氏(JCJ会員)は、9月初旬に中央アジア、カザフスタンのセミパラチンスクで核被害の実態を取材した。カザフスタンは1991年に独立したがその前までは旧ソ連の構成国。旧ソ連はセミパラチンスクで49年から40年間で456回もの核実験を行った。カザフスタンは米ニューヨーク国連本部で来年3月に開催の核兵器禁止条約第3回締約国会議の議長国。小山氏らはこの機会にカザフスタン核被害の支援を日本に広げようと広島で市民団体を立ち上げた。クラウドファンディングなどで資金を集め小山氏自らセミパラチンスクに入った。10月26日JCJオンライン講演会でその成果を報告した。
実験場跡地で取材
セミパラチンスクでの核実験のエネルギー総量は広島型原爆に換算すると、1100発分にも匹敵する。実験場は91年8月に閉鎖されたが、30年以上経過しても平常時の放射線量基準値(年間1ミリシーベルト以下)より8、9倍も高い跡地もある。小山氏は「実験場跡地のガイド役、原子力センタースタッフに『防護服は着なくていい』と言われ、内部被爆を防ぐためマスクとゴーグルはつけました。帰国後『やはり防護服も着とけばよかったかな』と不安な感情が残りました」と語った。
核実験場周辺で暮らす村民クサイン・ヌルグルさん(74)は実験が繰り返さる度に地震のような揺れを体験。クサインさんは「私は貧血や頭痛、骨の痛み、高血圧に苦しんでいます」「薬代が高く、政府は支援してほしい」「病気を苦に自殺する若者は多い」と訴えた。核実験のキノコ雲を見たという村最高齢86歳の女性は「若い人がどんどん死んでいく。つらいのでもう葬式に行くのは止めた」「核実験の影響のせいだ」と話した。
弱体化の援助体制
カザフスタン政府は日本の被爆者健康手帳のような「ポリゴン(ロシア語で演習場の意味)証明書」を認定した被爆者に発行している。証明書があると補償金、追加年金や休暇などがもらえる。これまで証明書は100万を超える人に渡されたが、近年は補償金が減額されたなど被害者援助体制が弱体化している。
小山氏は「カザフスタン政府は国際的に核廃絶を打ち出しているが、国内の被害者を置き去りにしています」「日本の黒い雨の被爆者と状況が似ている」と指摘した。
2年前設立NGO「ポリゴン21」は、被害者救済に向けた新しい法律制定を求める運動を積極的に取り組んでいる。母親、2人の姉、兄、夫をガンで亡くしたマイラ・アベノヴァ代表(70)は、SNSで運動参加を呼びかけ数万人が賛同し、署名も5万筆集めた。
日本に求める支援
地元の反核運動団体などが日本に求めているのは@治療ノウハウや病院建設など医療分野での支援、A日本の被爆者との連帯―などだ。小山氏は取材を踏まえて、日本の政府と市民社会は、世界の核被害者援助に対して果たせる役割があると指摘。核禁条約の枠組みにおいては、被害者救済に向けてカザフスタンとキリバスが「国際信託基金」の設立を目指しており、この行方も注目する必要があると話した。
「3年後ぐらいに再訪し取材をさらに進めたい」と小山氏は述べた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
2024年11月30日
【焦点】機密保持資格者の身辺調査「SC制度」運用基準案公表、筆者は本紙6月6日号記事でプライバシー侵害の恐れと警告、パブコメで反対の声を=橋詰雅博
政府は11月26日、経済安保に関する重要情報の保全(経済安保新法)を目的に、公務員や民間人を国が身辺調査し、信頼ができると認めた人だけが情報を扱う「セキュリティー・クリアランス(SC、適性評価)」の運用基準案を明らかにした。
同案によると、同意を得た評価対象への質問票は35ページで、アルバイトを含む職歴や渡航歴、精神疾患の有無、飲酒の節度、外国の金融機関口座の保有、家族・同居人の国籍、配偶者の父母らの国籍などを書き込む。私生活に踏み込み、プライバシー侵害の恐れがある内容だ
筆者は6月に「知る権利とプライバシー侵害、経済安保新法、秘密保護法と一体運用、身辺調査拒めば不利益も」と題した記事を本紙に掲載している。(https://blog.seesaa.jp/cms/article/edit/input?id=503555257)
取材したSC制度に詳しい海渡双葉弁護士は「候補者名簿に載せることに同意しない、調査を拒む、適性がないとされたら働いている今の部署から異動になる。出世コースから外れた、居づらい、合わない仕事を押し付けられるなどの理由で退職もあり得ます。不利益な扱いを受け人生設計がくるう。人権侵害です」と述べている。
SC制度は意見募集(パブコメ)を経て来年1月にも閣議決定する。関連法が成立後、5月までに施行される。
海渡弁護士はこう語っている。
「反対運動を拡大させることが重要です。運用基準案についてパブリックコメントが実施される。パブコメに問題点を書き込む。世論の強い反対によって使いづらい法律≠ノ変えることはできます」
諦めてはダメだというのだ。
パブコメに反対の声をどんどん寄せよう
同案によると、同意を得た評価対象への質問票は35ページで、アルバイトを含む職歴や渡航歴、精神疾患の有無、飲酒の節度、外国の金融機関口座の保有、家族・同居人の国籍、配偶者の父母らの国籍などを書き込む。私生活に踏み込み、プライバシー侵害の恐れがある内容だ
筆者は6月に「知る権利とプライバシー侵害、経済安保新法、秘密保護法と一体運用、身辺調査拒めば不利益も」と題した記事を本紙に掲載している。(https://blog.seesaa.jp/cms/article/edit/input?id=503555257)
取材したSC制度に詳しい海渡双葉弁護士は「候補者名簿に載せることに同意しない、調査を拒む、適性がないとされたら働いている今の部署から異動になる。出世コースから外れた、居づらい、合わない仕事を押し付けられるなどの理由で退職もあり得ます。不利益な扱いを受け人生設計がくるう。人権侵害です」と述べている。
SC制度は意見募集(パブコメ)を経て来年1月にも閣議決定する。関連法が成立後、5月までに施行される。
海渡弁護士はこう語っている。
「反対運動を拡大させることが重要です。運用基準案についてパブリックコメントが実施される。パブコメに問題点を書き込む。世論の強い反対によって使いづらい法律≠ノ変えることはできます」
諦めてはダメだというのだ。
パブコメに反対の声をどんどん寄せよう
2024年11月25日
【焦点】大リーグ球場命名権獲得のダイキン工業、国内で「PFOA(ピーフォア)」汚染問題に直面、健康被害ないと主張=橋詰雅博
米南部テキサス州にある米大リーグのヒューストンアストロズの本拠地球場「ミニッツメイド・パーク」の名前が来年2025年1月から変わる。新名は「ダイキン・パーク」で、日本のダイキン工業が命名権を取得した。大リーグ球場命名権を日本企業が取得したのは初めてだ。
ダイキンは約170カ国で事業展開する空調機、化学製品の世界有数メーカー。ヒュースン近郊の工場では、17年から空調機生産し約1万人を雇用している。
国内外で有名なダイキンは、日本で大阪府摂津工場から漏出の有機フッ素化合物「PFOA(ピーフォア)」に起因する汚染問題に直面していることはあまり知られていない。同じ有機フッ素化合物の仲間「PFOS(ピーフォス)」と並んでPFOAも毒性が強い物質だ。
泡消火剤などの原料PFOS汚染は、米軍基地の漏出が発覚し、周辺住民の健康被害が懸念されるとマスコミで報じられ社会問題化している。一方、焦げ付かいプライパンや防水スプレーなどに使われたPFOA汚染はなぜかマスコミ報道は少なく、しかもダイキンの社名はほとんど伏せられている。PFOSもPFOAもWHO専門機関は発がん性を認定。
体内に蓄積されるので厄介だ。胎内曝露で胎児に悪影響があるという調査結果もある。どちらも国際的に製造・使用が禁止されたが、現在、問題になっているのは汚染された地下水、河川、農業用水などをどうするかだ。
環境省が全国の自治体の協力を得て20年に実施した汚染物質による河川、地下水などの濃度調査で出た摂津市のPFOA濃度は衝撃的な数字だった。1リットル当たり1812ナノグラムで、目標値の36倍にも上る。汚染源はPFOAを製造するダイキン摂津工場と断定されている。実は工場周辺では1950年代から牛の大量突然死や黄色に変じた田んぼ、枯れる稲など異常な出来事が起こっていた。住民たちは汚染された井戸水を飲み、農業用水で育ったコメや野菜などを食べた。
京都大学研究チームによる血液検査を受けた住民たちからは高濃度のPFOAが検出された。摂津市は「ダイキンの企業城下町」だ。摂津市はもとより大阪府や多くの住民もダイキンに規制を求めることに消極的。相手が大企業ゆえにマスコミも腰が引けている。ダイキンは「健康障害の証拠がない」と2000年以来言い続けている。このままでは、有害化学物質が原因の昭和時代の公害がよみがえるという声も高まっている。
詳細を知りたい方は10月に刊行した中川七海氏の著書『終わらないPFOA汚染 公害温存システムのある国で』(旬報社)を読んでいただきたい。
ダイキンは約170カ国で事業展開する空調機、化学製品の世界有数メーカー。ヒュースン近郊の工場では、17年から空調機生産し約1万人を雇用している。
国内外で有名なダイキンは、日本で大阪府摂津工場から漏出の有機フッ素化合物「PFOA(ピーフォア)」に起因する汚染問題に直面していることはあまり知られていない。同じ有機フッ素化合物の仲間「PFOS(ピーフォス)」と並んでPFOAも毒性が強い物質だ。
泡消火剤などの原料PFOS汚染は、米軍基地の漏出が発覚し、周辺住民の健康被害が懸念されるとマスコミで報じられ社会問題化している。一方、焦げ付かいプライパンや防水スプレーなどに使われたPFOA汚染はなぜかマスコミ報道は少なく、しかもダイキンの社名はほとんど伏せられている。PFOSもPFOAもWHO専門機関は発がん性を認定。
体内に蓄積されるので厄介だ。胎内曝露で胎児に悪影響があるという調査結果もある。どちらも国際的に製造・使用が禁止されたが、現在、問題になっているのは汚染された地下水、河川、農業用水などをどうするかだ。
環境省が全国の自治体の協力を得て20年に実施した汚染物質による河川、地下水などの濃度調査で出た摂津市のPFOA濃度は衝撃的な数字だった。1リットル当たり1812ナノグラムで、目標値の36倍にも上る。汚染源はPFOAを製造するダイキン摂津工場と断定されている。実は工場周辺では1950年代から牛の大量突然死や黄色に変じた田んぼ、枯れる稲など異常な出来事が起こっていた。住民たちは汚染された井戸水を飲み、農業用水で育ったコメや野菜などを食べた。
京都大学研究チームによる血液検査を受けた住民たちからは高濃度のPFOAが検出された。摂津市は「ダイキンの企業城下町」だ。摂津市はもとより大阪府や多くの住民もダイキンに規制を求めることに消極的。相手が大企業ゆえにマスコミも腰が引けている。ダイキンは「健康障害の証拠がない」と2000年以来言い続けている。このままでは、有害化学物質が原因の昭和時代の公害がよみがえるという声も高まっている。
詳細を知りたい方は10月に刊行した中川七海氏の著書『終わらないPFOA汚染 公害温存システムのある国で』(旬報社)を読んでいただきたい。
2024年11月19日
【焦点】奇襲から1年、ハマスの正体 政治・軍事が独自行動 民衆の6割以上が支持 川上泰徳氏オンライン講演=橋詰雅博
パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに越境攻撃して1年がたった。イスラエルは報復に出て無差別攻撃を続けておりガザの子どもや女性の民間犠牲者は増える一方だ。国連総会緊急特別会合は、9月18日に米国やイスラエルなど14カ国は反対したが、非道なイスラエルに対しパレスチナ占領1年以内終結を求める決議を日本含む賛成多数で採択。法的拘束力はないが、国際世論のイスラエル批難は一段と高まっている。中東取材20年の元朝日新聞記者のジャーナリスト・川上泰徳氏(JCJ会員)=写真=は、イスラエルと戦闘を続けるハマスの実態やガザ戦争の見通しなどを9月21日JCJオンライン講演で語った。
8月に著書『ハマスの実像』(集英社新書)を出した動機について川上泰徳氏は「越境攻撃から1年、ハマスはどんな組織なのか、ガザの民衆は支持しているのか、何を目指しているのかなど日本のマスメディアの報道だけではわかりません。よく分かるような本も見当たらない。そこでこれまで取材したハマス幹部らのインタビューなどをもとにハマスの実態をこの本で明らかにした」と話した。
ハマス(アラビア語で「熱情」の意味)はイスラエルへの第一次インティファーダ(民衆蜂起)が起きた1987年12月に創設。デモなど非暴力による反占領の大衆運動を指導する政治部門と、武装闘争を実行する軍事部門に分かれ、それぞれ独立している。もちろん指導者も違うが、反占領という共通の目的に沿って独自に活動。だから政治部門幹部は「越境攻撃決行の日を知らなかったのでは」と川上氏は推測する。
慈善運動も展開
またガザのハマス系イスラム協会、イスラム・センター、サラーハ協会は、病院やコンピュータ教室の運営、食料配布、孤児支援など慈善運動を展開している。こちらも独立している。2006年1月のパレスチナ自治評議会選挙でハマスは過半数の議席を獲得し、PLO(パレスチナ解放機構)主流派のファタハに勝った。 ハマスは武力闘争が主体のアルカイダやイスラム国(IS)のような「テロ組織」とは異なるようだ。
ただ米国やEUは選挙に勝利したハマスを認めず、国連も依然としてPLOをパレスチナの代表機関として認めている。こうした経緯もあってハマスはパレスチナ自治政府領の飛び地ガザを、ファタハは同政府領のヨルダン川西岸を統治した。
二国共存が着地点
越境攻撃が引き金でイスラエルの攻撃によっておびただしい民間人の死傷者が出ていてもガザの民衆の6割以上はハマスを支持しているという。その理由を川上氏は「パレスチナの中でハマスだけがイスラエルに徹底抗戦を続けている」「民衆の多くは、イスラエルに命乞いして生き延びたとしても生きるに値しないと思っている」と語った。
第3次中東戦争後の67年国連安保理は「西岸、ガザ、東エルサレムからイスラエルは撤退し、パレスチナ国家樹立」と「イスラエルの生存権をアラブ諸国も認める」決議を採択した。この「二国家共存」がハマスの着地点だ。一方、イスラエルのネタニヤフ政権はパレスチナ国家樹立を認めていない。このままではガザ戦争は終わらない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号
2024年10月03日
【焦点】究極の原発延命策を狙う 電気料金に建設費 衰退産業のコストを転嫁 龍谷大学教授・大島堅一氏が指摘=橋詰雅博
経済産業省は、2024年度中に策定する第7次エネルギー基本計画(エネ基)に原発新増設の建設費などを電気料金に上乗せする新たな原発支援制度を盛り込む方針だ。これまで利用者が支払っていた電気料金は基本料金+使用量に応じた電気量料金+再生可能エネルギー発電普及のための賦課金の3階建て。これに原発建設費、維持費、廃炉積立金などを含む原発料金が加わると4階建てに。まだ稼働していないのに市民は料金を支払わされる。背後に何が――。
エネルギー安定供給とCO2排出抑制を口実に原発を最大限利用に方針を転換した岸田文雄政権は、30年度の発電量に占める原発比率の目標を20〜22%とした。実現には27基ほどの稼働が必要だ。現在動いているのは12基で、全発電量の5・5%に過ぎない。目標クリアには再稼働だけでは足りず、原発新増設は不可欠である。
米国で13基閉鎖
しかし電力会社は新増設に踏み切れない理由がある。高騰する建設資材や人件費、膨れ上がる事故対策費などで原発コストが爆上がり≠オているのだ。米国投資コンサルタント会社ラザードの23年調査では、原発コストの平均値は、陸上風力や太陽光の再生エネルギー発電の平均の3倍以上。そのうえ建設資材や人手不足で建設期間は大幅に延長が欧米で常態化している。米国では11年以降、13基は「収支が赤字」という理由で閉鎖された。フランスの新型原発は12年遅れで9月4日に稼働。その建設費は当初予定の4倍の132億ユーロ(2兆1000億円)に激増した。日本の原発建設費用も1基あたり1兆から2兆円。このため「原発事業に未来はない」と川崎重工業や住友電気工業など20社は原子力事業から撤退した。
国際環境NGO「FoE Japan」が8月19日に開いた緊急オンラインセミナーに出演した原発問題に詳しい龍谷大学政策学部の大島堅一教授=写真=は「日本の電力会社にも原発は重荷になっている」「原発事業の継続に新増設は欠かせない、そのため支援の資金メカニズムが必要と電力業界は主張した」と指摘した。
費用回収スキーム
電力業界に同意の国は、支援策として英国考案の「RAB(ラブ)」モデルに目を付けた。制度が複雑なRABモデルを簡潔に説明すると、建設工事費用などを消費者から回収するスキーム。これまで水道・ガスの公共工事やヒースロー空港の第5ターミナル建設に適用された。さらに原発をRABモデル対象にするため原発融資法を22年に制定。英国政府とフランス電力公社が折半出資し建設中のサイズウェルC原発がその第1号だ。
日本でもあらかじめ建設費を始め諸費用を電気料金に加え費用の回収に目途をつけてから新設予定の原発工事が着手されるだろう。
都合の良い具体策
英国環境団体などが強く反対するRABモデルの問題点について大島教授は@建設増大・遅延コストのリスクを市民に転嫁、A費用の確実な回収は電力会社のコスト意識をダウンさせる、B電力自由化に逆行、C再エネ・省エネの拡大を妨げる―などを挙げた。
大島教授は日本版RABモデル≠「究極の原発延命策」と名付けた。モデル導入という文言だけをエネ基に入れ、制度設計はその後に行う見込み。経産省と資源エネルギー庁は作り上げた既成事実に基づき国や電力業界にとって都合のいい具体策を取り入れるのではないか。
電気料金の大幅値上げを強いる理不尽な新原発支援制度に対し、市民は断固反対しなければならない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
エネルギー安定供給とCO2排出抑制を口実に原発を最大限利用に方針を転換した岸田文雄政権は、30年度の発電量に占める原発比率の目標を20〜22%とした。実現には27基ほどの稼働が必要だ。現在動いているのは12基で、全発電量の5・5%に過ぎない。目標クリアには再稼働だけでは足りず、原発新増設は不可欠である。
米国で13基閉鎖
しかし電力会社は新増設に踏み切れない理由がある。高騰する建設資材や人件費、膨れ上がる事故対策費などで原発コストが爆上がり≠オているのだ。米国投資コンサルタント会社ラザードの23年調査では、原発コストの平均値は、陸上風力や太陽光の再生エネルギー発電の平均の3倍以上。そのうえ建設資材や人手不足で建設期間は大幅に延長が欧米で常態化している。米国では11年以降、13基は「収支が赤字」という理由で閉鎖された。フランスの新型原発は12年遅れで9月4日に稼働。その建設費は当初予定の4倍の132億ユーロ(2兆1000億円)に激増した。日本の原発建設費用も1基あたり1兆から2兆円。このため「原発事業に未来はない」と川崎重工業や住友電気工業など20社は原子力事業から撤退した。
国際環境NGO「FoE Japan」が8月19日に開いた緊急オンラインセミナーに出演した原発問題に詳しい龍谷大学政策学部の大島堅一教授=写真=は「日本の電力会社にも原発は重荷になっている」「原発事業の継続に新増設は欠かせない、そのため支援の資金メカニズムが必要と電力業界は主張した」と指摘した。
費用回収スキーム
電力業界に同意の国は、支援策として英国考案の「RAB(ラブ)」モデルに目を付けた。制度が複雑なRABモデルを簡潔に説明すると、建設工事費用などを消費者から回収するスキーム。これまで水道・ガスの公共工事やヒースロー空港の第5ターミナル建設に適用された。さらに原発をRABモデル対象にするため原発融資法を22年に制定。英国政府とフランス電力公社が折半出資し建設中のサイズウェルC原発がその第1号だ。
日本でもあらかじめ建設費を始め諸費用を電気料金に加え費用の回収に目途をつけてから新設予定の原発工事が着手されるだろう。
都合の良い具体策
英国環境団体などが強く反対するRABモデルの問題点について大島教授は@建設増大・遅延コストのリスクを市民に転嫁、A費用の確実な回収は電力会社のコスト意識をダウンさせる、B電力自由化に逆行、C再エネ・省エネの拡大を妨げる―などを挙げた。
大島教授は日本版RABモデル≠「究極の原発延命策」と名付けた。モデル導入という文言だけをエネ基に入れ、制度設計はその後に行う見込み。経産省と資源エネルギー庁は作り上げた既成事実に基づき国や電力業界にとって都合のいい具体策を取り入れるのではないか。
電気料金の大幅値上げを強いる理不尽な新原発支援制度に対し、市民は断固反対しなければならない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
2024年08月27日
【焦点】都議選 立民2つの誤算業界ボタン≠押さなかった自民 総裁選 進次郎氏が急浮上 現時点で確トラ=@日米政局 激動の秋へ 鮫島浩氏オンライン講演=橋詰雅博
7月17日のJCJオンライン講演には元朝日新聞記者の政治ジャーナリスト・鮫島浩氏=写真=が登場。鮫島氏は小池百合子氏が3選を果たした7月の都知事選で立憲民主党の蓮舫氏がなぜ惨敗したかを語り、国内政局の最大ヤマ場、9月自民党総裁選の行方、そして世界が大注目する11月の米大統領選はトランプ氏とハリス氏どちらが勝つのかなどを大胆に予測した。
都知事選で東京に選挙基盤がなく「政策の中身もカラッポ」という石丸伸二氏(前広島県安芸高田市長)にも抜かれ3位に転落した立民の蓮舫氏の敗因は、選挙戦略のミスと指摘した鮫島氏はこう解説する。
6月解散阻止
最優先の自公
「衆院補選で3連勝し5月の静岡県知事選でも勝った立憲民主党は、党の顔§@舫氏が都知事選に出馬すれば、アンチ小池の無党派層の票を大量に獲得でき勝てると分析した。しかし立憲民主党が4連勝できたのは、自公両党が手を抜いた選挙活動したのが大きかった。公明の支持母体の創価学会の動きは鈍く、自民党も支援しろという各種業界団体への締め付けが弱かった。業界ボタン≠押さなかった。岸田文雄首相の6月解散総選挙阻止を狙いあえて敗けた。自民党支持者の棄権により投票率は下がり、立憲・共産のコアな支持票が上回ったというのが4つの選挙パターン。それなのに立憲民主党は人気を回復し無党派層を呼び込めると誤解した。戦略ミスの第一です」
候補者の選択も間違った。これが第二のミスだ。
「攻撃力がある蓮舫という政治家に対する都民の反応は好きと嫌いがはっきりと分かれる。60代以上のリベラル派に人気は高いが、50代以下の無党派層に感情的に蓮舫嫌いが多い。案の定、石丸氏に無党派層の票をごっそり持っていかれた。小池を倒すことが目的だから好き嫌いの反応が弱い候補者をたてた方がよかった。立憲民主党の国会議員なら長妻昭とか1回生で朝日新聞後輩、山岸一生。首長経験者や学者もいい。こういうタイプならアンチ小池票をかなり集められたのではないと思う」
蓮舫氏と石丸氏の2位、3位争いが話題の中心になり、裏金自民党のステルス支援を受けた小池氏が楽勝した都知事選だった。
異例の大混戦
小林(鷹)も有力
岸田文雄首相(67)が総裁再選をあきらめた理由は@支持率低迷選挙の顔≠ノならず、来る総選挙では自民党は敗北の恐れがある、A政権生みの親・麻生太郎副総裁(麻生派83)は支持を確約せず見捨てた、Bバイデン米大統領が選挙から撤退し、頼みの綱が消えた―。
事実上首相を決めることになる9月自民党総裁選は大混戦だ。菅義偉元首相(無派閥71)が後ろ盾の石破茂元幹事長(無派閥67)、茂木敏充幹事長(旧茂木派68)、麻生氏が支持する自派閥の河野太郎デジタル相(61)、若手の旧安倍派議員が推す小林鷹之前経済安保相(旧二階派49)、林芳正官房長官(旧岸田派63)が出馬。加藤勝信(旧茂木派68)元官房長官、上川陽子外相(旧岸田派71)、高市早苗経済安保相(無派閥63)、斎藤健経産相(無派閥65)らも出馬に意欲示す。そしてここにきて小泉進次郎元環境相(無派閥43)電撃出馬≠ェ急浮上。
この話が飛び出してきたのは父親・純一郎元首相が心変わりしたという見方がもっぱら。
「純一郎元首相は『50歳までは首相を支えろ』『今は動くな』と自民党の捨て石にしないため進次郎氏の出馬にストップをかけていた。ところが出身派閥旧安倍派の森喜朗元首相から『進次郎しかいない』と言われた純一郎氏は『そこまで言うなら息子が出るというなら反対はしない』と答えた。土壇場で進次郎氏を担ぎ出し、一気に世論の期待を引き寄せる小泉劇場の再来を予想する声が広がり始めた」(鮫島氏)
石破氏に次いで国民人気第二位のうえに党内に敵がいない進次郎氏が総裁総理に駆け上がるかもしれない。
揺れる7州
ハリス嫌い
11月米大統領選は、民主・共和両党の激戦7州(アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバタ、ノースカロライナ、ペンシルべニア、ウィスコンシン)が勝敗を分ける。この「スイングステート(揺れる州)」は選挙のたびに勝利政党が変わる。16年の大統領選では激戦7州のうち6州を制した共和党のトランプ氏が、20年は6州取ったバイデン氏がそれぞれ当選した。
「ラストベルト(錆びた工業地帯)と言われるペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州の含む7州は、白人の労働者が多い。人種差別が根強く、リベラルは嫌い。アジア系の黒人女性のハリス氏は、リベラル色が強い。ハリス氏への抵抗感が相当にある激戦州は、トランプ氏が優勢です。現時点では確トラ≠ニ言えます」と鮫島氏は予測した。
自民党総裁選は9月12日告示、27日投開票だ。この総裁選に米大統領選の情勢が、どう影響を与えるのだろうか。
9月から11月に日米政局は激動する。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
2024年08月21日
【焦点】JCJ8月集会 軍拡の動きに、私たちはどう対抗するか―戦後80年を前に 会員メッセージ=東京都南鳥島は陸自ミサイル射撃場整備で一変、核のゴミ最終処分地説は幻に、おぞましい光景目に浮かぶ。橋詰雅博
中台戦争勃発を見据えて南西諸島に自衛隊の基地が次々と建設される沖縄県。県民は戦争の足音がヒタヒタと近づいていることを肌で感じているだろう。東京に住んでいると、予想はつくけれど、感覚がつかめず、他人事に陥ってしまう。
しかし、最近ある出来事で自分の心は変化した。南鳥島に陸上自衛隊の地対艦ミサイル訓練用の射撃場が整備される。日本最東端のサンゴ礁でできた南鳥島は小笠原村の一部で本州から1800`b離れているとはいえ、れっきとした東京都の島だ。射程100`を超えるミサイル射撃場の整備は日本で初めて。住所が東京都という場所から再来年以降、ミサイルがバンバン海上に向かって発射される――おぞましい光景が目に浮かぶ。やはり戦争がこちらに向かってやってきているという感じを持ち都民である自分の心はざわついている。
南豊島には以前から関心を抱いていた。なぜか、この小さな島こそ日本で唯一と言っても過言ではない核のゴミの地層処分(地下深く埋める)の適地と話題になったからだ。
これを提案したのは静岡県清水市に施設を構える東海大学海洋研究所の平朝彦所長(地質学者)だ。県知事時代の川勝平太氏との対談(今年1月静岡県の総合情報誌「ふじのくに」に掲載)で、平所長はこう述べている。
「南鳥島は太平洋プレート(太平洋の海底の大部分を占める岩盤)上にある唯一の日本領土で、周囲6`bの国有地。最大の特徴は地質的な安定性です。地震、火山活動はまず起きない。これは確信を持って断言できます。なおかつ、住民がおらず漁業権など、いろいろな権利が設定されていない。地下へ数`bのボーリングをして、使用済み核燃料を処分するキャニスター(核のゴミの廃液をガラス原料で溶かし合わせたものが入ったステンレス容器)を入れて、セメントで封印することもできます。地球上で最高レベルの安定性があるので、壊れる不安はまずありません」「最適な核廃棄物処理方法だと信じて疑いません」
これに対して川勝知事は「国難を救える島」「モデルケースを日本が提供できれば、世界に誇れる提言にもなりますと」と平所長の研究を称えた。
現在、島には海上自衛隊と気象庁職員が常駐しているだけで、一般住民はいない。
実は平所長は、南鳥島は核のゴミの地層処分の最適地とローカル局の北海道放送(HBC)の取材で3年前に提言している。所管の経産省にもこの提言を伝えたが、返事はなかったそうだ。
地震大国・日本には10万年以上も核のゴミを封じ込める適地はないと言われているが、南鳥島が適地となるとその説は覆る。僕は平所長に取材を申し込んだが、残念ながら「南鳥島での地層処分をさらに研究したい」と断られた。
また島にはEV(電気自動車)に使われるレアメタルが豊富な鉱物が大量にあることが東京大学の調査で明らかになった。 ミサイル射撃場の整備により、核のゴミの最終処分地候補は幻の説に終わり、レアメタル商業化も風前の灯火になりそうだ。南鳥島は今の姿から一変するのは間違いない。
しかし、最近ある出来事で自分の心は変化した。南鳥島に陸上自衛隊の地対艦ミサイル訓練用の射撃場が整備される。日本最東端のサンゴ礁でできた南鳥島は小笠原村の一部で本州から1800`b離れているとはいえ、れっきとした東京都の島だ。射程100`を超えるミサイル射撃場の整備は日本で初めて。住所が東京都という場所から再来年以降、ミサイルがバンバン海上に向かって発射される――おぞましい光景が目に浮かぶ。やはり戦争がこちらに向かってやってきているという感じを持ち都民である自分の心はざわついている。
南豊島には以前から関心を抱いていた。なぜか、この小さな島こそ日本で唯一と言っても過言ではない核のゴミの地層処分(地下深く埋める)の適地と話題になったからだ。
これを提案したのは静岡県清水市に施設を構える東海大学海洋研究所の平朝彦所長(地質学者)だ。県知事時代の川勝平太氏との対談(今年1月静岡県の総合情報誌「ふじのくに」に掲載)で、平所長はこう述べている。
「南鳥島は太平洋プレート(太平洋の海底の大部分を占める岩盤)上にある唯一の日本領土で、周囲6`bの国有地。最大の特徴は地質的な安定性です。地震、火山活動はまず起きない。これは確信を持って断言できます。なおかつ、住民がおらず漁業権など、いろいろな権利が設定されていない。地下へ数`bのボーリングをして、使用済み核燃料を処分するキャニスター(核のゴミの廃液をガラス原料で溶かし合わせたものが入ったステンレス容器)を入れて、セメントで封印することもできます。地球上で最高レベルの安定性があるので、壊れる不安はまずありません」「最適な核廃棄物処理方法だと信じて疑いません」
これに対して川勝知事は「国難を救える島」「モデルケースを日本が提供できれば、世界に誇れる提言にもなりますと」と平所長の研究を称えた。
現在、島には海上自衛隊と気象庁職員が常駐しているだけで、一般住民はいない。
実は平所長は、南鳥島は核のゴミの地層処分の最適地とローカル局の北海道放送(HBC)の取材で3年前に提言している。所管の経産省にもこの提言を伝えたが、返事はなかったそうだ。
地震大国・日本には10万年以上も核のゴミを封じ込める適地はないと言われているが、南鳥島が適地となるとその説は覆る。僕は平所長に取材を申し込んだが、残念ながら「南鳥島での地層処分をさらに研究したい」と断られた。
また島にはEV(電気自動車)に使われるレアメタルが豊富な鉱物が大量にあることが東京大学の調査で明らかになった。 ミサイル射撃場の整備により、核のゴミの最終処分地候補は幻の説に終わり、レアメタル商業化も風前の灯火になりそうだ。南鳥島は今の姿から一変するのは間違いない。
2024年08月03日
【焦点】CCS(炭素回収貯留)事業 脱炭素「切り札」はウソ 未完成な技術、高コスト 50年目標値、達成は困難=橋詰雅博
「二酸化炭素回収貯留(CCS)事業法案」が先の通常国会で成立した。火力発電所や石油精製所、セメント工場などから排出される二酸化炭素(CO2)を回収し海底や地中に貯留するCCS技術は、脱炭素の切り札と言われている。法制化によって試掘・貯留の事業化を目指す企業の参入を促進させる。官民合わせて今後10年間で4兆円を投じるというCCS事業、マスコミは「有望」と持ち上げるが、本当にそうなのか―。
CCS実証実験
苫小牧で実施
CO2が80%近く占める温暖化ガスを2050年に実質ゼロにする方針を打ち出す政府は、「CCSなくして、カーボンニュートラル(脱炭素)なし」とCCS事業を位置付ける。北海道苫小牧市では、国、自治体、企業が一体で19年11月までの3年8カ月間、国内最大規模のCCS実証実験が行われた。仕組みはこうだ。隣の石油精製所が出すガスから分離・回収し液化させたCO2に高い圧力をかける。パイプラインで輸送したそのCO2は専用井戸(圧入井)を通じて海底1000b以深に送り込まれる。これまで注入されたCO2は約30万d。現在、貯留層からCO2の洩れがないかなどモニタリング調査が続けられている。
所管の経済産業省は、苫小牧を始め国内5プロジェクトと、液化CO2を専用船でマレーシアやオーストラリアなどに運んで貯留する海外2プロジェクトの合計7プロジェクトを「先進的CCS事業」計画として選定した。ただし、苫小牧以外のプロジェクトはあくまで調査の段階。また苫小牧のモニタリング調査の期間は定まっていない。7プロジェクトの事業化の時期は不明だ。
高額費用の縮小
具体策は示さず
こうした状況下で30年までに事業をスタートさせて、50年時点で年間1・2億から2・4億d貯留(今の排出量の1から2割)という政府の目標は達成できるのか。
国際環境NGO「FoE Japan」の気候変動・エネルギー担当の深草亜悠美氏は「目標達成は困難」と前置きしたうえで、3つ大きな理由を挙げた。
@ 「技術がまだ完成していません。ノルウェーのスノヴィット事業では、地層の事前調査で18年分の貯留が可能としていたが、実際は6カ月程度で再調査や新しい圧入井を掘った。CCS技術が進んでいるノルウェーですらこの程度です。オーストラリアのゴーゴンでも企業が莫大な資金を投入しながら予定の半分の貯留に留まった。苫小牧では、CO2を圧入した2本の圧入井のうち1本は十分に圧入できなかった」
A 「貯留までの費用が高い。一連の工程を経た1dのCO2を地中や海底に貯留するまでには1万2800から2万200円もかかる。50年までに6割程度に下げると政府は説明するが具体策は提示していません。たとえ6割に下がっても高額なのは変わらない。世界の大規模CCS事業(年間3万d以上のCO2を回収)の78%は高コストが原因で中止か延期に追い込まれたという研究報告もあります」
B 「事故の可能性がある。実際、2020年にアメリカ・ミシシッピー州でCO2輸送パイプラインが損傷し、300人が退避、二酸化炭素中毒で45人が病院に搬送された。今年4月にもルイジアナ州でパイプライン事故が発生している」
化石燃料の利用
政府は継続狙う
ほかにもCO2回収率は60から70%に留まる、地中にCO2を注入することで地震の誘発が懸念されている。
いろいろな問題点がありながらCCS事業を進めることについて深草氏は「石炭、石油、天然ガスの化石燃料の利用を続けていくのが政府の狙い」と指摘。与党自民党をバックアップする企業が経営する火力発電所、石油精製所、セメント工場などを政府は簡単に潰すことはできない。かといって世界に約束した50年温暖化ガスゼロは反故にできない。苦肉の策がCCS事業ではないか。
多額の補助金
負担は国民へ
深草氏は「このまままではCCS技術の開発という名目で多額の補助金が投じられる。これは国民の税金。国民に負担を強いることになる」と見通しを語った。
政府が今取り組むべきことは何か。「再生可能エネルギー由来の発電と省エネ政策を拡充すれば、CO2排出の大幅削減や光熱費、化石燃料輸入費の削減が可能です」と深草氏は訴えた。
CCS事業は信頼できる脱炭素のツールではないようだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
2024年07月31日
【焦点】南鳥島に陸自がミサイル射撃場を整備 核のゴミ最終処分地説が幻に=橋詰雅博
防衛省は 東京から1900qの日本最南端の小さな島、南鳥島(小笠原村の一部)に陸上自衛隊が保有する「12式地対空ミサイル」の射撃場を整備する。このミサイルは地上から海上の艦艇に攻撃するもので、射程100`を超える射撃場の整備は国内で初めて。すでに小笠原村へは計画を説明済みで、2026年以降、年数回訓練を実施する見込み。
実はこの南鳥島は、核のゴミの地層処分の適地に挙げられたことがある。
3年前、文化庁芸術祭優秀賞を受賞したドキュメンタリー番組「ネアンデルタール人は核の夢をみるか〜核のごみ≠ニ科学と民主主義〜」の制作した北海道放送報道部デスクの山ア裕侍氏は、22年1月号のJCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」の寄稿で、こんな秘話を明かしている。
あるイベント会場で顔を合わせたルポライターの鎌田慧さんが「核のごみの文献調査が進んでいるけど、南鳥島が適地だという説があるのを知っているかい?」と山アさんに尋ねた。山アさんが初めて知ったと答えると、数日後、鎌田さんがファックスで送ってくれたのは南鳥島が適地と紹介した静岡県立大学の尾池和夫学長のエッセイだった。番組では南鳥島案を最初に提案した平朝彦・前海洋研究開発機構理事長を取材し、経済産業省と原子力発電環境整備機構(NUMO)がその提案を蹴ったことを明らかにした。
もう一つは筆者が23年6月号JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」に掲載した記事だ。
東京の都道府県会館で5月末に開かれた関東地方知事会議で静岡県の川勝平太知事が核のごみの最終処分場として南鳥島を候補地に検討すべきだと、小池百合子都知事に提案した。静岡県には浜岡原発(5基のうち1、2号基は廃炉、3,4、5基は長期停止中)がある。核のゴミに関心を持つのは当然だけれども、唐突感は否めない。川勝知事がこんな提案をした理由は、同県清水市に施設を構える東海大学海洋研究所の平朝彦所長(地質学者)と、同県発行の雑誌での対談が引き金になっている(今年1月の総合情報誌「ふじのくに」に掲載)。
対談で平所長はこう述べている。
「南鳥島は太平洋プレート(太平洋の海底の大部分を占める岩盤)上にある唯一の日本領土で、周囲6`bの国有地。最大の特徴は地質的な安定性です。地震、火山活動はまず起きない。これは確信を持って断言できます。なおかつ、住民がおらず漁業権など、いろいろな権利が設定されていない。地下へ数`bのボーリングをして、使用済み核燃料を処分するキャニスター(核のゴミの廃液をガラス原料で溶かし合わせたものが入ったステンレス容器)を入れて、セメントで封印することもできます。地球上で最高レベルの安定性があるので、壊れる不安はまずありません」「最適な核廃棄物処理方法だと信じて疑いません」
川勝知事は「国難を救える島」「モデルケースを日本が提供できれば、世界に誇れる提言にもなりますと」と平所長の研究を称えた。
川勝提案に対し小池都知事は「国がしっかりと対応すると考えている」とそっけない答えだった。
核のゴミの地層処分計画を進める政府は、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で文献調査を進めている。
地震大国・日本には10万年以上も核のゴミを封じ込める適地はないと言われている状況下で、南鳥島にスポットライトが当たった。早速、平所長に取材を申し込んだ。残念ながら「南鳥島での地層処分をさらに研究したい」と断られた。
陸自の地対空ミサイル射撃場の整備は、南鳥島の核のゴミ最終処分地説を幻に終わらせることになる。
実はこの南鳥島は、核のゴミの地層処分の適地に挙げられたことがある。
3年前、文化庁芸術祭優秀賞を受賞したドキュメンタリー番組「ネアンデルタール人は核の夢をみるか〜核のごみ≠ニ科学と民主主義〜」の制作した北海道放送報道部デスクの山ア裕侍氏は、22年1月号のJCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」の寄稿で、こんな秘話を明かしている。
あるイベント会場で顔を合わせたルポライターの鎌田慧さんが「核のごみの文献調査が進んでいるけど、南鳥島が適地だという説があるのを知っているかい?」と山アさんに尋ねた。山アさんが初めて知ったと答えると、数日後、鎌田さんがファックスで送ってくれたのは南鳥島が適地と紹介した静岡県立大学の尾池和夫学長のエッセイだった。番組では南鳥島案を最初に提案した平朝彦・前海洋研究開発機構理事長を取材し、経済産業省と原子力発電環境整備機構(NUMO)がその提案を蹴ったことを明らかにした。
もう一つは筆者が23年6月号JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」に掲載した記事だ。
東京の都道府県会館で5月末に開かれた関東地方知事会議で静岡県の川勝平太知事が核のごみの最終処分場として南鳥島を候補地に検討すべきだと、小池百合子都知事に提案した。静岡県には浜岡原発(5基のうち1、2号基は廃炉、3,4、5基は長期停止中)がある。核のゴミに関心を持つのは当然だけれども、唐突感は否めない。川勝知事がこんな提案をした理由は、同県清水市に施設を構える東海大学海洋研究所の平朝彦所長(地質学者)と、同県発行の雑誌での対談が引き金になっている(今年1月の総合情報誌「ふじのくに」に掲載)。
対談で平所長はこう述べている。
「南鳥島は太平洋プレート(太平洋の海底の大部分を占める岩盤)上にある唯一の日本領土で、周囲6`bの国有地。最大の特徴は地質的な安定性です。地震、火山活動はまず起きない。これは確信を持って断言できます。なおかつ、住民がおらず漁業権など、いろいろな権利が設定されていない。地下へ数`bのボーリングをして、使用済み核燃料を処分するキャニスター(核のゴミの廃液をガラス原料で溶かし合わせたものが入ったステンレス容器)を入れて、セメントで封印することもできます。地球上で最高レベルの安定性があるので、壊れる不安はまずありません」「最適な核廃棄物処理方法だと信じて疑いません」
川勝知事は「国難を救える島」「モデルケースを日本が提供できれば、世界に誇れる提言にもなりますと」と平所長の研究を称えた。
川勝提案に対し小池都知事は「国がしっかりと対応すると考えている」とそっけない答えだった。
核のゴミの地層処分計画を進める政府は、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で文献調査を進めている。
地震大国・日本には10万年以上も核のゴミを封じ込める適地はないと言われている状況下で、南鳥島にスポットライトが当たった。早速、平所長に取材を申し込んだ。残念ながら「南鳥島での地層処分をさらに研究したい」と断られた。
陸自の地対空ミサイル射撃場の整備は、南鳥島の核のゴミ最終処分地説を幻に終わらせることになる。
2024年07月22日
【焦点】8月集会パネラー・久道弁護士が参加する公共訴訟支援「CALL4」とは=橋詰雅博
8月17日にJCJが開催する集会「軍拡の動きに、私たちはどう対抗するのか――戦後80年を前に」にパネリストとして登壇する久道瑛未弁護士=写真=に先だって藤森研JCJ代表委員、古川英一同事務局長と一緒にお会いし、当日の打ち合わせをした。その際、久道弁護士は社会課題の解決を目指す公共訴訟の支援に特化した日本初のウェブプラットフォーム「CALL4(コールフォー」
(https://www.call4.jp/)のケースサポーターとして5年ほど前から参加していると述べた。
HPによると「CALL4」という名称は「〜を呼び起こす」「〜を必要とする」という意味のcall for≠ニいう言葉に由来。立法、行政、司法の三権に加えて社会を形作る4つめの力として市民の力があると考える。この4つ目の力を呼び起こすという意味で、for≠フ代わりに4=ifour)という数字を使っている。
公共訴訟は、たとえ少数者の声だとしても、それが憲法や法律に反していたら、司法の力で国や自治体の施策を変えることを命じられるのが大きな特徴だ。違憲判決を得て社会が良い方向に変わった代表例は、「在外日本人選挙権訴訟」や「らい(ハンセン病)予防違憲国家賠償請求訴訟」。
しかし国や行政を相手に訴訟を起こすには、とりわけお金が必要だ。「CALL4」では提起された数々の公共訴訟の中身を紹介するとともに各訴訟への寄付(クラウドファンディング)を募っている。例えば目標額100万円を設定した「日本の『黙秘権』を問う訴訟〜56時間にわたる侮辱的な取り調べは違法〜」では114万の支援額が現在集まっている。個別によって支援額は違うが関心の高さが伺える。これまで約60件に対して合計約1億の寄付が寄せられている。
「CALL4」は弁護士紹介や法律相談は行っていないが、クラファンへの手数料はゼロ。この点はほかのクラファン事業とは大きく異なる。若手弁護士や法学部学生、大学院生などがボランティアで運営に当たる。
久道弁護士は「あなたが『仕方ない』と飲み込んでいる理不尽は、他の誰かも直面している理不尽かもしれません。社会の理不尽に対して声を上げている人たちの目的は、自分のためというよりも、社会を変えて他の誰かも救うためであることがほとんどです。そんな他の誰かのために、理不尽を我慢せずに声を上げてくれた当事者の方々や、使命感をもって戦いを請け負った代理人の方々に、CALL4での活動を通じて社会全体から、感謝と支援を届けていきたいと思っています」と抱負を語っている。
ぜひ「CALL4」をのぞいてみてください。
2024年07月20日
【焦点】子どもの万博動員≠ウらに拍車、大阪で無料専用列車も 夢洲は依然ガス爆発危険性あり=橋詰雅博
2025年4月に開幕予定の大阪・関西万博では、大阪府・市は万博への学校単位での子どもを無料で招待する事業を進めている。バスの数の不足や地下鉄の混雑問題などで会場までの交通手段確保の課題を解消するため大阪の横山英幸市長は、校外学習での利用を目的とした「子ども専用列車」の運行を大阪メトロと協議していることを今月に明らかにした。これを受けて大阪府の吉村洋文知事も「協力していきたい」と賛同。実現となればこれも無料招待となる。
これまで国公私立校を対象とした関西6府県の万博子ども無料招待事業の中身と予算額はこんな具合だ。
●大阪府=4歳から高校生(人数約102万)19億3千万円
●兵庫県=小中高校生(約56万)8億(このうち一部は県内企業による寄付)
●京都府=小中高校生(約25万)3億3千4百万
●奈良県=小中高校生(約12万7千)1億7千万
●滋賀県=4歳から高校生(約18万)4億から5億
●和歌山県=小中校生(約6万7千)1億8千万
この事業に関西6府県は合計約38億円を投じる見込み。これに「子ども専用列車」の費用が上乗せされる。どのくらいのお金がかかるのかはわからないが、かなりの額だろう。
「いのち輝く」をテーマにした万博のすばらしさを子どもたちが体験できるなら多額の税金をかける価値は十分にあるが、問題は会場だ。
3月に工事現場で、土壌から発生したメタンガスに溶接の火花が引火し爆発する事故が起きた。事故現場はトイレ設置予定地。コンクリート床約100平方bが損傷した。付近には受付ゲートや飲食ブースなどが予定されており、来場者が多く集まる場所だ。
会場の夢洲(ゆめしま)は今も使われているごみの最終処分場。しゅんせつ土砂やPCB・ダイオキシンなどの有害物質が埋められている。メタンガスは引火しやすく、爆発の危険性がある。このため当初から問題視されていた。2月から5月の間には基準値を超えるメタンガスが76回も検知していたと日本国際博覧会協会が6月下旬に明らかにしている。
協会は開催中毎日ホームページで測定値の公表を検討するとしているが、根本的な対策はないようだ。こんなメタンガス爆発の危険性がある会場に子どもたちを入場させるのは、「いのちの危険」の恐れがある。
それなのに文部科学省は全国の学校へ修学旅行先として万博をすすめる通達を出している。危険性を知ってか知らずか、来年の修学旅行は万博と決めた千葉県や福島県の学校もある。
関西の無料招待事業も修学旅行先通達も政府が音頭を取る万博動員<vランの一環だ。
子どもが犠牲になったら誰が責任をとるのだろうか。
これまで国公私立校を対象とした関西6府県の万博子ども無料招待事業の中身と予算額はこんな具合だ。
●大阪府=4歳から高校生(人数約102万)19億3千万円
●兵庫県=小中高校生(約56万)8億(このうち一部は県内企業による寄付)
●京都府=小中高校生(約25万)3億3千4百万
●奈良県=小中高校生(約12万7千)1億7千万
●滋賀県=4歳から高校生(約18万)4億から5億
●和歌山県=小中校生(約6万7千)1億8千万
この事業に関西6府県は合計約38億円を投じる見込み。これに「子ども専用列車」の費用が上乗せされる。どのくらいのお金がかかるのかはわからないが、かなりの額だろう。
「いのち輝く」をテーマにした万博のすばらしさを子どもたちが体験できるなら多額の税金をかける価値は十分にあるが、問題は会場だ。
3月に工事現場で、土壌から発生したメタンガスに溶接の火花が引火し爆発する事故が起きた。事故現場はトイレ設置予定地。コンクリート床約100平方bが損傷した。付近には受付ゲートや飲食ブースなどが予定されており、来場者が多く集まる場所だ。
会場の夢洲(ゆめしま)は今も使われているごみの最終処分場。しゅんせつ土砂やPCB・ダイオキシンなどの有害物質が埋められている。メタンガスは引火しやすく、爆発の危険性がある。このため当初から問題視されていた。2月から5月の間には基準値を超えるメタンガスが76回も検知していたと日本国際博覧会協会が6月下旬に明らかにしている。
協会は開催中毎日ホームページで測定値の公表を検討するとしているが、根本的な対策はないようだ。こんなメタンガス爆発の危険性がある会場に子どもたちを入場させるのは、「いのちの危険」の恐れがある。
それなのに文部科学省は全国の学校へ修学旅行先として万博をすすめる通達を出している。危険性を知ってか知らずか、来年の修学旅行は万博と決めた千葉県や福島県の学校もある。
関西の無料招待事業も修学旅行先通達も政府が音頭を取る万博動員<vランの一環だ。
子どもが犠牲になったら誰が責任をとるのだろうか。
2024年07月15日
【焦点】鹿児島県警不祥事事件の全容″数ュ文受け取った札幌市のライターが地元誌で報じる 県警の文書提出強要を拒否=橋詰雅博
相次ぐ不祥事で県民の信頼揺らぐ鹿児島県警
県内外が注目する鹿児島県警の不祥事隠ぺい事件。新聞報道だけでは全容がわかりづらい。関係者の話を総合すると、この事件は地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで4月に逮捕され起訴された巡査長の藤井光樹被告(49 懲戒免職)と北九州の福岡市のデジタルニュースサイト「HUNTER」との関係が原点のようだ。藤井被告から受け取った県警のさまざまな不祥事情報を「HUNTER」は報じていた。組織維持のため目障りと県警は警務部長をトップとした50人からなるプロジェクトチームが調査にあたり、「HUNTER」のネタ元が藤井被告であることを突き止めた。「HUNTER」と藤井被告との間で金銭的なやり取りがあったかは分からない。
県警は4月8日に「HUNTER」編集部を家宅捜索。パソコンに残っていたPDFファイルを見て驚愕した。未発表の盗撮事件(後日発表)やストーカー事件などの概要が記録されていた。匿名だったので告発者が誰なのか不明だったが、送信元は北海道札幌市に住む月刊誌「北方ジャーナル」記者の小笠原淳氏(55)。
小笠原氏は「北方ジャーナル」7月号でその経緯を自ら書いている。概要はこうだ。<闇をあばいてください>という文言で始まる匿名の文書が4月3日に届く。消印は「鹿児島中央」「3・28」。鹿児島市内から6日間を経て札幌市在住の彼の元に。告発文書を「なぜ鹿児島の人がこれを札幌に」と首を傾げた。情報を共有する考えで日ごろから付き合いのあった「HUNTER」の中願寺純則編集長に文面などをデータ化したPDFをメール送信した。3日の午後3時過ぎだった。
県警はこのPDFを8日の家宅捜査で発見・押収したわけだ。割り出した告発者は県警前生活安全部長の本田尚志氏(60)。本田氏は3月に定年退職し、在職時の階級は警視正。本田氏は5月31日に国家公務員法(守秘義務)違反で逮捕された。ノンキャリアだったが、幹部だったので国家公務員法が適用される。
小笠原氏は6月4日に鹿児島県警組織犯罪対策課の捜査員と名乗る男性から電話を受け取る。「うちの元生活安全部長が逮捕された件で、証拠品が小笠原さんに送付されていたことがわかりまして‥‥」。「重要な証拠品ということで、返還していただきたいと思いまして」
――返還?どういうことですか。
「簡単に言いますと、証拠品として押収させていただきたいと」
――押収?令状か何か出てるんですか。
「今のところは、ないです」
――ああ、任意ってことですね。
「はい、お願いベースになります」
――私の職業とか知っていますよね。
「そうですね、はい」
――誰からどういう情報を貰ったとか、普通、外部には言わない仕事なんですけど。
「‥‥ああ」
――それやっちゃたら、この仕事できなくなるんで。
「ああ、なるほどですね」
――出さないと強制捜査(家宅捜索など)になるんですか。
「なんとも言えないところです。ただまあ、重要な証拠品であると判断しておるところで」
――普段どういう報道対応なさってるかわからないんですけど、報道関係者はこういうの出さないですよ。
「そこをですね、どうにかお願いできないかなあと‥‥」
県警からはこの後複数回の打診があったが、小笠原氏は提出を拒否した。さらに任意聴取の要請に対しては「弁護士同席」「録音」「撮影」などの許可の条件を示したうえで「何を問われても答えない」と表明した。その結果、県警側は要請を断念した。
藤井容疑者は一審で罪を認め結審、「野川明輝県警本部長(警察庁のキャリア官僚)の指示で事件はもみ消された」と告発した本田容疑者は、拘置所から保釈されこれから裁判が始まる。本田容疑者が県警不祥事の公益通報だとして無罪を訴えるのかどうかが注目される。
県内外が注目する鹿児島県警の不祥事隠ぺい事件。新聞報道だけでは全容がわかりづらい。関係者の話を総合すると、この事件は地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで4月に逮捕され起訴された巡査長の藤井光樹被告(49 懲戒免職)と北九州の福岡市のデジタルニュースサイト「HUNTER」との関係が原点のようだ。藤井被告から受け取った県警のさまざまな不祥事情報を「HUNTER」は報じていた。組織維持のため目障りと県警は警務部長をトップとした50人からなるプロジェクトチームが調査にあたり、「HUNTER」のネタ元が藤井被告であることを突き止めた。「HUNTER」と藤井被告との間で金銭的なやり取りがあったかは分からない。
県警は4月8日に「HUNTER」編集部を家宅捜索。パソコンに残っていたPDFファイルを見て驚愕した。未発表の盗撮事件(後日発表)やストーカー事件などの概要が記録されていた。匿名だったので告発者が誰なのか不明だったが、送信元は北海道札幌市に住む月刊誌「北方ジャーナル」記者の小笠原淳氏(55)。
小笠原氏は「北方ジャーナル」7月号でその経緯を自ら書いている。概要はこうだ。<闇をあばいてください>という文言で始まる匿名の文書が4月3日に届く。消印は「鹿児島中央」「3・28」。鹿児島市内から6日間を経て札幌市在住の彼の元に。告発文書を「なぜ鹿児島の人がこれを札幌に」と首を傾げた。情報を共有する考えで日ごろから付き合いのあった「HUNTER」の中願寺純則編集長に文面などをデータ化したPDFをメール送信した。3日の午後3時過ぎだった。
県警はこのPDFを8日の家宅捜査で発見・押収したわけだ。割り出した告発者は県警前生活安全部長の本田尚志氏(60)。本田氏は3月に定年退職し、在職時の階級は警視正。本田氏は5月31日に国家公務員法(守秘義務)違反で逮捕された。ノンキャリアだったが、幹部だったので国家公務員法が適用される。
小笠原氏は6月4日に鹿児島県警組織犯罪対策課の捜査員と名乗る男性から電話を受け取る。「うちの元生活安全部長が逮捕された件で、証拠品が小笠原さんに送付されていたことがわかりまして‥‥」。「重要な証拠品ということで、返還していただきたいと思いまして」
――返還?どういうことですか。
「簡単に言いますと、証拠品として押収させていただきたいと」
――押収?令状か何か出てるんですか。
「今のところは、ないです」
――ああ、任意ってことですね。
「はい、お願いベースになります」
――私の職業とか知っていますよね。
「そうですね、はい」
――誰からどういう情報を貰ったとか、普通、外部には言わない仕事なんですけど。
「‥‥ああ」
――それやっちゃたら、この仕事できなくなるんで。
「ああ、なるほどですね」
――出さないと強制捜査(家宅捜索など)になるんですか。
「なんとも言えないところです。ただまあ、重要な証拠品であると判断しておるところで」
――普段どういう報道対応なさってるかわからないんですけど、報道関係者はこういうの出さないですよ。
「そこをですね、どうにかお願いできないかなあと‥‥」
県警からはこの後複数回の打診があったが、小笠原氏は提出を拒否した。さらに任意聴取の要請に対しては「弁護士同席」「録音」「撮影」などの許可の条件を示したうえで「何を問われても答えない」と表明した。その結果、県警側は要請を断念した。
藤井容疑者は一審で罪を認め結審、「野川明輝県警本部長(警察庁のキャリア官僚)の指示で事件はもみ消された」と告発した本田容疑者は、拘置所から保釈されこれから裁判が始まる。本田容疑者が県警不祥事の公益通報だとして無罪を訴えるのかどうかが注目される。
2024年07月06日
【焦点】海外出稼ぎ売春が急増中 摘発・暴力・だまし‥‥自分守れぬリスク 松岡かすみ氏オンライン講演=橋詰雅博
観光ビザなどで入国し、現地で売春する日本女性が急増―。警視庁が4月と5月に相次いで摘発した2つの海外売春あっせんグループで明るみに出た日本女性の数は合計400から600人にも上る。米国やオーストラリア、カナダで売春をしていた。最近では20代の日本女性3人が韓国・ソウルで売春していたことが発覚し、現地の警察に検挙されている。「お金を稼ぎたい」という女性たちはいずれも求人サイト通じて応募していた。『出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日出版新書)の著者のフリーランス記者・松岡かすみ氏(38)は「実態と今後」について5月11日のJCJオンライン講演会で報告した。
松岡氏は同志社大学社会学科卒業後、出版社勤務などを経て2015年から『週刊朝日』編集部記者に。21年からフリーランス記者として活動。週刊朝日時代に2回掲載した特集記事をもとに改めて追加取材・大幅加筆して昨年2月に出版した『出稼ぎ〜』は初の著書だ。
6人から話を聞く
「日本人女性が海外に行き出稼ぎ売春する動きがある」という話をきっかけに22年末から松岡氏は取材を始めた。ここ数年の出稼ぎ経験を話してくれた6人の女性のうちワーキングホリデービザ(日本と協定を結ぶ国などで一定期間働きながら滞在できる制度)でオーストラリアに行った29歳の人は―。英語があまり話せず日本食レストランで仕事したが、最低ランクの賃金に加えて物価高もあり生活は苦しい。シェアハウスのルームメイトの中国人女性から紹介された時給がべらぼうに高いという売春も兼ねるマッサージ店(オーナーは中国人女性)で週2、3回働く。相手は主に中国人で、チップを含め週20万円程度稼いだ。ビザの有効期間である1年で帰国した。
渡航者は4タイプ
出稼ぎ売春の日本女性は@ワーホリ取得者、A求人サイトでの応募者、BSNSを使った独自開拓の富裕層相手のセックスワーカー、Cほれ込んだホストの借金の返済者。タイプ別にするとこうなる。
Cはホストクラブ独自の「売掛(うりかけ)」システムに原因がある。ホストクラブは、売り上げの半分は店に入り、残る半分がホストの収入になる。例えば会計が50万円だとすると、お金がない女性に代わってホストが半分の25万店に入れる。客は、ホストに支払う分の25万とともにホストに50万借金したことになる。売掛50万の返済については客とホストで決める。こうして膨らんだ借金返済のためホストから紹介されたブローカーを介して女性は売春目的で外国に渡航する。ただ社会問題化したことで売掛システムを見直す店も出てきている。
「売春がカジュアル化し、ポジティブに海外出稼ぎ売春を選ぶ女性は少なくない」と松岡氏は指摘する。背景には日本経済衰退に伴い海外と比べ広がる賃金格差、急激な円安による物価高騰などがある。海外ならば日本の何倍も稼げるとはいえ、リスクは多い。「警察の摘発、報酬がきちんと支払われる保証がない、ブローカーに騙される、暴力、病気、窃盗などのリスクがある。なによりも違法な出稼ぎ売春の身では、命が危ない場面にあっても自分を守る権利を行使するのは難しい。ここが一番怖い点です」(松岡氏)
今後について松岡氏「海外では日本よりも圧倒的に稼げますので、この現象は加速するでしょう」と予測した。
日本社会のひずみが生んだ一つの事象ではないか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年6月25日号