2023年12月29日

【焦点】晴海選手村マンション建設で中央区に入るべき開発協力金51億円のうち37億減額 不可解な行政の優遇ぶり 問題化=橋詰雅博

 東京都が9割値引きという超格安で開発業者に売却したのは許せないと都民が提訴している問題の用地、晴海五輪選手村跡地に建設中だったマンション群(HARUMI FLAG)が完成した。分譲・賃貸含め5632戸の住宅が生まれるこの新タウンには約1万2000人が住む。大きな小中学校や特別出張所、認定こども園・図書館・保健センター・お年寄りセンターが入る大型複合施設などが建設される。
 来年1月から住民の入居が始まるが、中央区による開発業者への優遇ぶりが改めて問題化している。
 中央区には新しい住戸が完成すると開発業者から開発協力金として1戸当たり100万円を要求する要綱(ただし40u以下のワンルームを除く)がある。この開発協力金は、大規模マンション建設の人口急増に対応するため区の行政サービスの負担が増えることから業者に一部負担を協力してもらうというのが趣旨。実際、HARUMI FLAGでは学校、出張所、施設複合が建設され、職員も大幅に増やさなければならない。

 見込まれる開発協力金は51億円。ところが中央区は板状棟マンション(外観が横に長い建物の一面に住宅が並んでいて、玄関は外廊下と向い合せに設計)3700戸分の37億円を免除した。オリンピック要因だとした免除理由はこうだ。
@ 選手村住宅はパラリンピック対応のため共有部分の廊下を拡張。
A 選手が集い憩える空間確保のため駐車場を地下に集約し、工事費を開発業者が負担。
B オリパラ組織委が選手村として借り上げ使用する期間に生じた金利は開発業者が負担。
C 開発業者が住宅と併せて整備した商業施設は地域に貢献。
 これらを総合的に勘案した中央区は、選手村住宅建設は要綱提要対象外とした。
 しかし、これらの4つの理由のどれを見ても行政サービスを減らす要因は見当たらない。減額する真っ当な理由はないのだ。

 結局、オリンピックとは無関係の建設中タワーマンション分の開発協力金14億円だけが中央区に開発業者から納金される。
 オリンピック要因を理由に東京都と中央区から2重サービスを開発業者が受けた。片や土地の投げ売り、一方で37億円放棄、行政側による不可解極まりないやり方と言える。
 なお一審、控訴審で敗訴した五輪選手村訴訟の原告は、12月11日最高裁に上告した。

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2023年12月16日

【焦点】カナダに亡命した香港民主化の活動家、アグネス・チョウ氏(周庭氏)はこんな人物=橋詰雅博

 カナダ・トロントの大学院に留学していた香港民主化の活動家、アグネス・チョウ氏(周庭氏=27歳)は「恐らく一生香港には戻らない」と12月3日発言し、カナダに事実上、亡命した。香港で彼女は2020年末に違法集会を扇動した罪に問われ禁錮10カ月の実刑判決を受けた。この時、最初、普通の刑務所に収監されたが、重犯罪者が入る女性刑務所に移送された。この刑務所は殺人や薬物の密売などを犯した受刑者が多く、監視が特に厳しい。移送された理由は、周氏は収監後もツイッターやフェースブックで近況を発信していたため外部への影響力を保持していると当局が判断したからだ。

 その際<収監中の周庭さん 改めてどんな人?―オンとオフの切り替え早く、英語も日本語も上手な努力家>と2021年1月9日【焦点】で紹介している。以下は本稿の記事。
<一時は香港の民主の女神≠ネどと日本のメディアが持ち上げた周さんは、改めてどんな人なのだろうか。朝日新聞GLOBE編集部が昨年9月に主催したオンラインイベントのコメンテーターとして登場した朝日の益満雄一郎・香港支局長と、フリーライターの伯川星矢(はくかわせいや)さんは、数回の取材から周さんの人物像をこう述べていた。ちなみに伯川さんは、父親が日本人、母親が香港人で、香港で生まれて育ち18歳で来日。獨協大学外国学部交流文化学を卒業している。
 香港国家安全法違反で逮捕され昨年8月に釈放された際、周さんは「今回(4回目の逮捕)が一番怖かった、きつかった」と記者のインタビューに答えていたが、このコメントについて伯川さんは「彼女から『怖い』という言葉を初めて聞いた」そうだ。伯川さんは続けて言う。
 「これまで違法な集会で逮捕されてもどのくらいの刑か想定できて、ある程度リスクが予測できた。ところが国家安全法が導入されてことで、何をしたら罰せられるのか、どのくらい罰せられるのかなど不確かなままです。周庭から『怖い』と言われ、改めて事の大きさ、国安法の不条理さを感じた」
 伯川さんによると、彼女はオンとオフの切り替えが早いという。
 「オフのときは、楽天的で、アイドルが大好き。どこか遊ぶに行こうという普通の子です。初めて香港で会ったとき、僕を見た彼女は『伯川クンおなかすいた』といきなり言った。『えー』と戸惑いましたが、『シュウマイ食べる?』と答えたら『うん、食べると』と返事した。するとなぜか僕の財布から20香港ドルをもっていった。結局、僕がシュウマイをくわせてもらったというオチです。その後、すぐに取材したらビシッと人が変わり真面目な態度で臨み、チャンネルも日本語に切り替わった。オンとオフの切り替えがはっきりしていると思った」
 益満さんも「普段は、彼女、ふわっとした感じ。しかし、デモの現場で会い、取材で声をかけてもあまり答えてくれません。彼女の頭の中はデモに集中しており、メディアからの取材を考えていないようだ。きっとスイッチが入っていたのでしょうね」と語った。
 そして努力家だと指摘する。
 「彼女の日本語は初めて会った4年前と比べて、明らかに上手になっていた。本人は『そんなことないです』と謙遜していたが、日本のアニメを見て勉強したそうです。英語も上手。語学の才能があるだけではあそこまでうまくならない。忙しいので1日の睡眠3、4時間と言っていたが、そんな中でも努力したからだと思う」(益満さん)
 移った女子刑務所で周庭さん、今は何を思っているのだろうか。橋詰雅博>
 21年6月に釈放された周庭氏は、香港警察に決められた期日に出頭することを条件にカナダに留学した。12月下旬に出頭しなければ「逃亡犯となり、指名手配する」と香港警察は周庭氏に呼びかけた。
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2023年12月09日

【焦点】常勤フリー200人に労基法を適用 50年超闘争の末 社員労組との合併も力に 東映アニメ労組 河内元委員長が語る=橋詰雅博

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          東京練馬区の東映アニメーションミュージアム(HPから)

 常勤型で働くフリーランスが急増している。人手不足を補うため会社が積極的に活用しているこの常勤フリーは、人材会社などから派遣されたあるいは個人で業務委託契約を結んだ会社に自分のデスクがあり、週に何回か出向き、その日に数時間仕事をする。契約期間については定めがないなどさまざま。メリットは比較的自由に働けてスキルが高いと、高報酬を得られる。一方で労働基準法が適用される正社員と違い、労災保険や雇用保険に入れず、有給休暇もほとんどなく、会社都合でクビを切られる可能性があるなどデメリットもある。

朝ドラモデル会社

 労働環境が不安定な常勤フリーに労基法が適用されるよう息の長い活動をし、次々に権利を獲得した労働組合がある。NHK朝ドラ「なつぞら」(2019年4月から9月に放送)主演の広瀬すずがアニメーターを目指す会社のモデル、東映アニメーションの東映動画労組だ。ライター、編集者、デザイナー、イラストレーターらフリーランスが加入する「ユニオン出版ネットワーク」(略称出版ネッツ)が主催した11月2日のオンライン勉強会で労組活動を通じ約200人の労基法適用に尽力した元委員長の河内正行氏は、実現できた理由などを語った。

 河内氏は、まず『白蛇伝』『狼少年ケン』『魔法使いサリー』などヒットアニメを次々に生んだ東映アニメーションの労組の歴史を振り返った。前身の東映動画が設立されたのは1956年。低賃金ゆえに社員が59年に労組を結成したが、会社につぶされ61年に再結成する。会社は69年から27年間社員の採用を見送った。テレビの普及により映画産業の斜陽化が進んでコスト削減を強いられた親会社・東映がグループ会社を縮小したからだ。この間、主に常駐フリーが人手不足を補った。

会社は解雇を断行

 待遇改善を求めて常勤フリーは「東映動画スタジオ労組」を72年に結成。会社は労組として認めず、組合員らの解雇を断行した。解雇撤回闘争、会社側のロックアウトを経て東映動画の社員労組とスタジオ労組が対等合併。合併できたのは、@常勤フリーの待遇を底上げすることで社員の待遇もよくなる、A社員と常勤フリーとが一緒にやらなければ将来展望が開けない、B社員組合がスタジオ労組の組織化を指導した―などを河内氏は挙げた。

 東映動画でぼかしなどアニメの特殊効果担当として78年から働き始めた河内氏は「スタートは1本いくらの契約でした。数年後に(数本の)月極報酬契約になった。本数で計算できない事務職は、日給・月給。みんな健康保険、年金などの福利厚生はなかった」という。
 労組は80年以降、常勤フリーの契約解除慰労金、国民健康保険と国民年金の会社による半額負担など各制度を会社側に実施させた。その後、紆余曲折を経てついに2016年に労基法適用の契約社員(常勤フリー)制度を17年からスタートさせることに会社側が合意した。

労働者性認めさす

 長い道のりの末に常駐フリーを「労基法上の労働者」として認めさせた要因は何だったのか。河内氏はこう語った。
「社員による待遇底上げの闘いが支えになった。その年に要求が通らなくても、無駄にならず次につながり、外堀を埋めるように要求を実現させた。他社の仕事もする完全なフリーの人と、常勤フリーの人との違いをはっきりさせた。完全フリーは意識も生き方も違う。会社はそこを意図的にあいまいにし、常勤フリーの労働者性を胡麻化してきた。フリーランスの権利と常勤フリーの労働者性は分ける必要があった」「東映アニメには『労組は勝つまで闘うから、絶対に負けない』と先輩からの言い伝えがある。とにかくあきらめない。あきらめたらそこで闘いは終わりです」

 社員と同じように退職金や厚生年金を受け取り、再雇用で65歳まで働いた河内氏は「今まで会社と闘ってきたおかげだと思う」と述懐した。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年11月25日号
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2023年12月05日

【焦点】子どもの本離れはウソ 小学生の読書は月平均12冊と増加=橋詰雅博

 子どもの本離れが進んでいると言われているが、どうもそうではないようだ。
 全国学校図書館協議会の学校読書調査によると、小学生(4〜6年生)が今年5月の1カ月間に読んだ本の平均冊数は12・6冊と、6・1冊の2000年と比べて大幅に増えている。中学生は5・6冊と微増で、1・9冊の高校生はほぼ横ばいで推移している。小学生の読書量アップは朝の読書活動の成果と指摘されている。

 1988年に2人の教師が提唱し、全国に広がった「朝読書」は、小学校では約8割が実施している。「朝読書」の時間は10〜15分程度。「みんなでやる」、「毎日やる」、学校や教師が読む本を指定せず「好きな本でよい」、読後に感想などを求めない「ただ読むだけ」が4原則になっている。生徒にある程度自由に任せているのが、長続きしている理由のようだ。
 メリットは何か。@気持ちを落ち着かせることができる、A脳がすっきりした状態で読める、B朝読書のため十分な睡眠を確保するようになる―など。

 調べ物学習が取り入れられ、資料として本を読む機会が増えた、活発になるマンガの小説化で選べる本の範囲が広がったなどで特に小学生の読書はこの先さらに増えると予測されている。

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2023年11月26日

【焦点】インボイス導入が生んだ「悲痛な声」ピックアップ=橋詰雅博

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「STOP!インボイス事務局」が11月13日に発表したインボイス緊急意識調査に寄せられた「悲痛な声」をピックアップしてみた。
●免税事業者守られず
「企画・制作の仕事です。仲の良い社長から『未登録の相手とは今後、取引しない』と言われた。交渉の余地はなかった」(40代、東京都北
区)
「フリーランスのSEです。『(課税事業者に)登録しないなら契約は継続しない』と元請けから言われ、事実上の強制だと困惑した。年末までの契約なので年明けからはどうなるのか不安です」(50代、東京都)
●誹謗中傷や差別
「取引先から着服、ネコババし続けるつもりか』と言われ、精神的ダメージになっている。あまりにひどい税制だ」(50代、北海道札幌市)
「『インボイスに登録するつもりはない』と言ったら、会社の社長は『脱税の手伝いはできないからちゃんとしろ』と言われ、『脱税ではない』と反論。そうしたらケンカになった」(40代、神奈川県藤沢市)
●相談窓口の問題
「経理部のメンバーも完ぺきに制度を理解している人はいない。インボイスコールセンターもほぼ繋がらないうえに税務署にたらい回しされる」(30台、東京都八王子市)

●会社員も仕事激増
「障害者雇用で経理業務を担当。複雑な対応を覚えるのにも疲れ、精神的にもダメージを受けている状態。挫けそうになっている」(40代、神奈川県)
「制度を理解しない学ばない経営陣、取引先、同僚によって実務的にも負担が増え、発狂しそう。それもあって退職を決めた。税制全て見直すべきだ」(40代、愛知県清須市)
●進むサイレント排除
「下請け会社がほぼ個人事業主なので、廃業しないか心配。彼らが廃業したら弊社も施工部門を閉じなくてはならない。伝統や文化を支えてくれている職人さんが消えた世界に継続も発展もない」(40代、山口県岩国市)
「取引先の担当者は経理や税理士から『インボイスに登録していないところとの取引はなるべくしないように』と言われたそうです。未登録者には経理や税理士の事務手数料を上乗せもするそうです」(40代、東京都稲城市)
 インボイス制度導入で、社会全体が混乱をきたしていることを十分につかめる調査報告だ。
 
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2023年11月21日

【焦点】発展のブックホテル、拡充の選書サービス=橋詰雅博

 11月18日付日本経済新聞で本をめぐるちょっと面白い記事を見つけた。ブックホテルと選書サービスのトレンド情報だ。書籍取次大手の日本出版販売(日販)の子会社「ひらく」が2018年に開業したブックホテル「箱根本箱」はなかなかの人気だ。
 その第二弾として山口県下関市に書店などの複合施設「ねをはす」を24年に開業する。宿泊者は夜間開放された閉店後の書店で本などを読めるというユニークなサービスがウリ。場所は新下関駅に近い国道沿いで観光地ではない。地元住民が利用している書店を活用し、ホテルを併設することで旅行者を呼び込んで地域を活性化させる狙いもある。

 お客への選書サービスも拡大中だ。宿泊事業の「ドット」が東京・神保町で運営する「BOOK HOTEL」では、宿泊予約者から好みを聞いたスタッフがその希望に沿った本数冊を貸し出し、宿泊者は滞在中に読める。
 大手書店チェーン「有隣堂」が運営する店舗「STORY STORY YOKOHAMA」は、「ホテルエディット横濱」と組んで選書サービス付き宿泊プランを21年から提供。予約時のアンケート調査を基に書店員が5冊選びホテルに届ける。本は購入しないで返却もOK。書店員のスキルアップというプラス面もある。
 ブックホテルの発展と選書サービスの拡充は止まりそうにない。
 
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2023年11月16日

【焦点】インボイス緊急意識調査で明らかになった6つの問題点=橋詰雅博

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公取委などに要請書を手渡す「STOP!インボイス」の会(11月13日、衆院議員会館内)

「インボイス制度を考えるフリーランスの会(略称STOP!インボイス)」は、10月1日からスタートしたインボイス(税率や税額が記載された適格請求書)制度について10月20日から31日に行ったオンラインによる緊急意識調査の結果を11月13日に発表した。年間売り上げ1000万円以下の免税事業者、課税事業者、会社員、経営者などから11日間に寄せられた件数は約3000件。このうち「廃業・退職・異動も検討」「事業の見通しは悪い」の回答を合わせると約7割にも達し、同制度が仕事や暮らしに悪影響を与えていることが明らかになった。

 フリーランスの会は集まった不安や実害の答えを6つの問題点として整理した。これらの問題点が是正されない限り、インボイス制度の当面の運用停止、中止・廃止を改めて岸田政権に要請するとしている。6つの問題点などは次の通り。

物価高騰下での消費増税
事業継続への危機感を募らせる答えが多数あった。20代から40代の現役世代の回答が約8割占め、ライフプランや子育てへの影響を懸念する答えも多かった。インボイス制度の導入は消費税増税であり、この増税分を民間同士で押し付け合う不毛な仕組みを抜本的に改めることを求める。
値下げや取引排除が横行
インボイス未登録事業者に対し、交渉の余地がない報酬カットや取引排除が相次ぐ。また「免税事業者を使うな」という企業もあり、暗黙の免税事業者切り≠ェ横行。免税事業者への速やかなセーフティーネットの整備を公正取引委員会に求める。
未登録者へのバッシング
消費税を「預かり税」思い込んでいる人が多い。「脱税」といった誹謗中傷を受けた、「インボイスが発行できないなら値引きしろ」というカスタマーハラスメントのような仕打ちにあった。差別されない発信と周知を強く求める。

複雑な制度過重事務負担
回答者の2人に一人は「経理事務負担」を感じ、3割超が「説明や交渉の負担」を訴えた。「経過措置」「緩和措置」「特例」といった複雑な建付けになっているインボイス制度を簡素な制度設計への見直しを要請する。
スキルの前に取引線引き
提供する商品・サービス・スキルの前に「インボイスの有無」で取引の線引きが行われている。直ちに法整備を要請する。
誤った指導、相談窓口不足
財務省が「消費税は預かり税ではない」と国会で表明しているにもかかわらず、「預かり税」とアドバイスする税務署職員、税理士が相当数いる。国税庁のコールセンターはつながらない状態が続いている。相談窓口不足と税の専門機関の理解不足の是正を求める。
 財務省、国税庁、公取委、中小企業庁にこれらの要請に対し22日までの回答をフリーランスの会は求めている。

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2023年10月30日

【焦点】ジャニーズ事件を暴けなかったマスコミ「会社員化した記者」「タテ割り組織の弊害」鮫島浩氏オンライン講演=橋詰雅博

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 ジャニーズ事件を浮上させる引き金になった英BBCの事件報道(3月)の取材に協力した元朝日新聞記者の政治ジャーナリスト・鮫島浩氏=写真=は、マスコミはなぜジャニー喜多川による少年への性加害を暴けなかったかを9月30日のJCJオンライン講演で語った。

 BBCディレクターのメグミ・インマン氏の取材の狙いは2つだったと鮫島氏は解説した。@マスコミの芸能・文化部のジャニーズ担当記者らを取材しジャニー喜多川の性加害実態を浮き彫りにする、A事件を報じなかった日本のマスコミの閉鎖性と、上層部はどう向き合ったかを追求する―。

 鮫島氏は「@については性被害者への取材もできてジャニー喜多川の性加害事件をあぶり出せて(満点の100を超える)120点くらいの成果をあげたと思う。ただしAは片っ端から取材拒否にあい難航したようで、マスコミの闇を解き明かす、照らし出すというところまで行かず、100点とれたとは思えない」と採点した。

 鮫島氏は自らも立ち上げにかかわった特別報道部(2021年春に廃止)のデスクを12年から2年間ほど務めた。特別報道部の記者はどのクラブにも属さず埋もれた事実を掘り起こす調査報道が仕事だ。政治部、経済部、社会部など各部の領域を超えて取材。「強固なタテ割り組織に阻まれ突破するのは容易ではなかった」(鮫島氏)。タテ割り組織が事件を報じられなかった原因の一つと指摘した鮫島氏は「ジャニ担記者は事務所に嫌われたら仕事にならいからちょうちん記事ばかり書く。政治家の番記者と同じ構図が芸能界でも起きていた。特別報道部のような部署がタテ割り組織の壁を崩し取材できる可能性がある」と説明した。デスク時代に「この事件を追及すればよかった」と述懐した。

 原因のもう一つは記者の「会社員化」だ。「相手から抗議を受けそうな事案はさわらず、やりやすい問題をやって上司の評価を得た方がプラスになるというリスクを取らない会社員化した記者が社内にまん延している。これでは風穴を開ける調査報道は無理です」(鮫島氏)
 共犯性があると批判されたマスコミが信頼を回復するには自己検証し上層部を処分するというウミを出すべきだと鮫島氏は強調した。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年10月25日号
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2023年10月28日

【焦点】出版界の常勤型フリーランスはどんな働き方をしているのか=橋詰雅博

  常勤型で働くフリーランスが急増している。労働力不足を補うため会社が積極的に活用しているこの常勤フリーは、人材会社などから派遣されたあるいは個人で業務委託契約を結んだ会社に自分のデスクがあり、週に何回か出向き、その日に数時間仕事をする。契約期間については定めがないなどさまざま。メリットは比較的自由に働けてスキルが高いと、高報酬を得られる。一方で労働基準法が適用される社員と違い、労災保険や雇用保険に入れず、有給休暇もほとんどなく、会社都合でクビを切られる可能性があるなどデメリットもある。

 出版界でも常勤フリーは少なくない。フリーライター、フリー編集者らが加入する「ユニオン出版ネットワーク」(略称出版ネッツ)が出版労連の協力得て昨年12月から今年2月まで実施した常勤フリーアンケート調査報告書は、回答者42人と少ないものの実態が垣間見える。主な質問項目と回答は以下の通り。

■仕事=校正・校閲が25人と最も多く、その次が編集・編集補助。営業にも3人いた。
■就業時間=1カ月に「161時間以上」働く人が12人とトップ。
■報酬はどこから=出版社から直接が26人と最も多く、プロダクションの13人がその次。
■契約期間=「1年」が25人と6割近く占め、「期間の定めがない」も12人いた。
■報酬形態=「月額固定給・年俸」が20人と50%近かった。
■1日に8時間以上、週に40時間以上働くことは=「ある」は過半数を占め、残業は当たり前になっている。
■残業した場合、割増額は支払われるか=支払われるのは5人。ほとんどは無報酬だ。
■有給休暇はあるか=「ある」は4人。「ない」は30人と最も多かった。
■交通費は支払われるか=「支払われる」は18人で「支払われない」が22人。ほぼ二つに分かれる。
■今の仕事は年収の何割くらい占めるのか=「9割以上」が30人でトップ。ちなみに7割以上が約88%を占める。その会社への経済的依存度が大きいことがわかった。
 「常勤フリーの働き方は非常に労働者性が高いことを再確認できた」と出版ネッツは指摘した。
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2023年10月25日

【焦点】国民だます消費税の使途 法人税穴埋めに7割も インボイス、消費増税の地ならし=橋詰雅博

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 インボイス(税率や税額などが記載された請求書)制度に対して反対するネット署名が50数万筆(ネット署名数では東京五輪開催反対を超えてトップに躍進)も集まったにもかかわらず、政府は10月1日から同制度を実施した。これまで免税の中小・零細事業者(年間売り上げ1000万円以下)から消費税をむし取る「稀代の悪法」(反対運動の発起人・小泉なつみ氏=写真=)が今まで世論の猛反発が起きなかったのは政府の巧妙な仕掛けがあった。

 政府や財務省は、消費税(1989年4月に導入)は社会福祉などの財源として使われていると喧伝してきたからだ。与党国会議員は「その収入は年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てる」と消費税法第1条を根拠に消費税イコール社会保障財源と国民への刷り込みに躍起だった。この政府の印象操作に国民はすっかり騙された。
 一般財源の消費税は確かに社会福祉に使われているが、国や自治体の公共サービスなどにも使われている。警察、防衛、外交、道路・公園などの建設や維持管理、学校教育、ごみ収集など多岐にわたる。特別会計で使い道が決められている目的税ではない。繰り返しになるが、消費税は一般財源だから、何かの税収が減れば、その穴埋めにも使われる。

 10月下旬の市民団体で講演した「不公平な税制をただす会」事務局長の税理士・荒川俊之氏は「消費税は度重なる法人税の税率の引き下げによる減収の穴埋めに使われた」と指摘した。その割合はれいわ新選組共同代表の山本太郎代議士によると、消費税の約7割が法人税減収の穴埋めに消えたという。社会保障の充実感がないのはそのためだ。消費税導入から2022年までの33年間の税収増減はどうなったのか。

 荒川氏によると、消費税増収累計額は476兆円、法人税、事業税、法人住民税の減収累計額は324兆円、所得税、住民税の減収累計額は289兆円。差し引き137兆円のマイナスだ。「この差額分を消費税の増税でカバーしようと財務省は考えている。インボイス制度の導入は消費税率のさらなる引き上げの地ならしのためだ」(荒川氏)

 軍拡財源も増税した消費税が充てられる可能性が高い。消費税の税率はこの先、15、20%に引き上げられる見込み。国民の塗炭の苦しみがずっと続きそうだ。

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2023年10月01日

【焦点】善良な人間がなぜ虐殺に走る 「福田村」森達也監督オンライン講演 異質排除の同調圧力 メディア ゆがみ正す役割=橋詰雅博

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  劇映画デビュー作「福田村事件」(9月1日公開)を手掛けた森達也監督=写真=は8月27日のJCJオンライン講演で自作の映画のキーワードや人間の本性、メディアがマスゴミと言われるゆえんなど情熱を傾けて語った。映画の前宣伝と思ったが内容はすごく濃かったという視聴者の感想もあった。
 映画のモデル、福田村事件は、関東大震災発生の5日後の1923年(大正12年)9月6日、千葉県福田村(現野田市)にやってきた香川県の被差別部落出身者の薬行商団15人を朝鮮人と誤認した地元自警団が9人を殺害したのだ。  

  2001年ごろ新聞記事でこの事件を知り興味を惹かれた森氏は、現場に何回か足を運び図書館などで探した資料を基に報道番組の特集枠での放送を目指す企画書を作成し、仕事を請け負っていた民放各社のプロデューサーに持ち込んだがすべて断られた。朝鮮人虐殺に絡むことと、被差別部落の問題も加わっていることが断られた理由だったようだ。その後、森氏は自著のエッセイ『世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい』(ちくま文庫)で事件を取り上げた。この惨殺事件の映画化を考えていた今回のプロデューサーや脚本家から誘われた森氏は3年前に監督を引き受けた。

 代表作のオウム真理教信者の実相に肉薄したドキュメンタリー映画「A」(1998年公開)と「福田村事件」の共通キーワードは「集団」だと指摘する森氏は説明した。
 「人は群れる生き物です。なぜなら弱いからです。しかし群れにはデメリットがある。全体の動きに個が合わせようとするので集団内での同調圧力が強まる。とくに不安や恐怖を感じさせる異質な者に出会うと、集団は警戒を強める。肌や髪の色、言葉、信仰、民族、政治など違いは何でもいい。自分たちと異なる少数派を排除することで自分や家族が属する集団を守ろうと動く。かくして善良で穏やかな普通の人たちが虐殺に走る」
 森氏は日本のメディアに苦言を呈する。
 「メディアは不安と恐怖をあおる報道が目立つ。テレビは視聴率を、新聞は部数を伸ばすため。オウム事件が最たるものでした。世界の報道の自由度ランキング(「国境なき記者団」毎年発表)では安倍晋三政権以降、日本は低迷しており、22年は71位。メディアがひどいと、社会は成熟せず、政治家もひどくなる」
 三位一体だからこそメディアの役割は重要というわけだ。

 「日本のゆがみともいうべき朝鮮人と被差別部落への差別が重なり合った典型がこの事件」という森氏は「目をそむけたくなる事件と思っている方もいるだろうが、映画は観客のエモーションつまり感情を揺り動かすエンターテインメントが基本です。とくに後半は手に汗握る展開になっている」と語った。
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         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年9月25日号


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2023年09月28日

【焦点】インボイス反対署名36万提出 経済悪化を招く消費増税 稀代の悪法中止・延期を=橋詰雅博

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 10月1日からスタートするインボイス(税率や税額が記載された適格請求書)制度に反対する市民団体「インボイス制度を考えるフリーランスの会(通称STOP!インボス)」は9月4日東京都内で集会を開き、2021年12月からネットで集めた反対署名36万筆超(ネット署名数では東京五輪開催中止46万筆超に次ぐ)を財務省、国税庁、公正取引委員会=写真=や各党国会議員に提出した。
 運動の呼びかけ人の小泉なつみ氏(ライター兼編集者)は「ネット署名はこの1カ月余で15万筆も増えて驚異的なスピードでした。法制化以降7年間もマスコミは黙殺≠ナしたから、これほどまでに反対の声が集まったことをマスコミは重く受け止めてもらいたい」と話し、「インボイス制度はこの国の文化と産業を壊し、分断と増税、混乱をまねく稀代の悪法です」と制度を批判した。

 今回のインボイス制度を簡単に言えば、これまで免税だった売り上げ1000万円以下の事業者も消費税の納税対象になる。政府が広報に消極的で制度の理解に乏しい人からは、「納税」は当然、それに反対する免税事業者は「脱税」「ピンハネ」を継続したいからという声が後を絶たなかった。

 集会に講演者として参加した京都大学大学院の藤井聡教授は「テレビのコメンテーターは言うに及ばず、学者までもピンハネという間違ったコメントをしていた」と明言したうえでこう説明した。
 「財務省自ら消費税に『預かり金』はないという見解を国会で示している。つまりネコババ≠ヘないということです。それでは誰が増税分を支払うかだが、財務省は免税事業者、課税事業者、消費者(価格に上乗せされるケース)の中で誰でもいいから支払えという考えです。すなわちインボイス制度は純然たる消費税の増税です。日本経済が極めて厳しい状況下でのインボイス制度の導入は、経済成長に悪い影響を及ぼすのは明白だ。今は実施すべきではない」と断固反対した。

 賛同人120名の一人である元朝日新聞記者の政治ジャーナリスト・鮫島浩氏は財務省が導入にこだわる理由を「まず財務省の力を見せつけること。フリーランスには国家権力を批判するジャーナリストも多い。消費税を強化し、税務調査で圧力をかけるカードを握ることができる。もう一つは税理士利権の拡大で業界を潤わせることよって財務省から税理士業界への天下りを増やすこと」とコメントを寄せている。

 こうしたことを踏まえて市民団体は、経済的「成長」も事業を継続していける「安心感」も個人情報が守られる「安全性」(国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトのセキュリティが脆弱)も免税事業者への「尊厳」もかけているインボイス制度の実施中止、最低でも延期を訴えた提言書も発表した。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年9月25日号
 
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2023年09月03日

【焦点】LGBT法でリベラル系に反論 「最高裁判決は拙速」ネット報道に警鐘=橋詰雅博

                      
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  国民から見放されつつマスメディアを𠮟咤激励した「『マスゴミ』って言うな! やや辛口メディア日記」(新日本出版社)を4月下旬に出版したジャーナリストの斎藤貴男氏=写真=は7月22日のJCJオンラン講演会で興味を抱いたトピックへの自身の考えやマスメディアの現状と先行きを語った。
 斎藤氏が一番関心を持った最近の話題は、自公と維新の会、国民民主の4党合意により6月23日に施行されたLGBT(性的少数者)への理解増進法だという。新法は理念が後退したと左派陣営の各政党やリベラル系マスコミの評判は悪いが、斎藤氏は「バランスが取れた法律」と評価する。

トラブルの可能性

 LGBTはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル(両性愛者)、トランスジェンダー(出生時の性別と自認する性別が異なる)の総称。斎藤氏は、戸籍上は男性だが、女性として生きる「トランス女性」による女性用トイレの利用ケースを挙げて説明した
 「トランス女性か騙っている男性か見た目ではわかりません。体が女性より男性の方が大きいのが普通なので恐怖を覚える女性が騒ぎ出し、警察沙汰になるかもしれない。そうなると訴えられた側は差別だ≠ニして訴訟を起こす可能性はあります。現に海外ではそうしたことが起きている。こうしたことを考慮に入れて理解増進法に『性的志向又はジェンダーアイデンティティ(性自認)にかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする』という第12条が追加された。設置責任者は配慮するように義務付けた。女性が勝手に不安になっているとするリベラル系の主張にはどうしても共感できません」

 反権力を貫くリベラルな言論人として知られる斎藤氏は月刊『文藝春秋』8月号に「リベラルによるリベラル批判」と題し、講演で話した内容の記事を載せている。「(保守に)転向したのかと言われるかもしれないと思ったが、おおむね好意的なのでホッとしている」と斎藤氏は語った。彼の考えを詳しく知りたい方は文春の記事を読んでいただきたい。
 トランス女性の経済産業省職員の女性用トイレ使用制限を違法とした7月11日の最高裁判決についても、この人限りの判断としているが、ほかの職場でも似たようなことが起きる可能性があり「拙速で無責任な判決」と指摘した。

権力監視を怠る

 大新聞は@飲食品と並んで日本新聞協会が求めていた消費税8%の軽減税率適用を受け入れてもらった政府に恩を売られた、Aスポンサーになった東京五輪では相次いだトラブル追及に消極的で開催推進の政府の片棒を担いだ、B公表部数と広告料金の維持のため新聞販売店への「押し紙」(実売よりも多く新聞を配り、水増しされた新聞は破棄される)が横行、独禁法が禁じる優越的地位の濫用にもかかわらず黙認の公正取引委員会に頭が上がらない。こうしたことで新聞は権力監視の役割を果たせずにいると斎藤氏は断言した。

クリック数優先

 デジタル時代に対応するため各社ともネットでの報道に力を入れている。斎藤氏は「ネット記事は、クリック数に応じて広告収入が異なる。クリック数が多い記事は広告収入が多く、逆に少ない記事は、広告収入は少ない。となるとクリック数を稼げるニュースを優先するというクリック数優先主義≠ノ陥りかねない」と警鐘を鳴らした。ジャーナリズムの未来は「暗い」と述べた。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年8月25日号
 

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2023年08月18日

【焦点】インボス中止・延期の緊急提言書を財務省に市民団体が9月4日提出=橋詰雅博

 政府が10月1日から導入しようとしている消費税のインボイス(税率や税額が記載された適格請求書)制度に2021年10月から反対運動をスタートした市民団体「インボイス制度を考えるフリーランスの会(通称:STOP!インボイス)」は9月4日(月)に同制度の中止・延期を求める緊急提言書を財務省や与野党各党らに提出する。

 提言の中身は検討中だが、@安心して事業を継続できる仕組みの構築、A事業者の安全を脅かさないようなシステムの実施、B個人の成長と経済的な成長を妨げ、さらなる増税を招く制度の実施時期の再考、C免税事業者の尊厳を守る発信の実行―が主な柱になっているようだ。
 今回のインボイス制度はこれまで消費税免税の対象だった年間売り上げ1000万円以下の事業者も課税しようとしている。フリーランスとして働くライター、編集者、俳優、声優らの多くは年収1000万以下だから新たな税金の負担増となる。例えば年収300万のフリーランスなどの個人事業者が納める消費税は約14万で、経費、健康保険などの社会保険料や所得税、住民税などを差し引くと、自由になるお金は90万という試算もある。事務作業も煩雑になる。このため「STOP!インボイス」がネットで始めた反対署名は21万筆を超えた。

 国会議員も超党派でインボイス制度の問題を考える議員連盟を22年11月に発足させた。反発が高まる世論の動きにブレーキをかけようと岸田政権は免税事業者から課税事業者に登録したら3年間だけ消費税の納税を最大2割とするなどの緩和措置に踏み切った。しかし、わかりにくい制度をさらに複雑にしただけで、評判は悪く根本的な解決策になっていない。
 そこで「安心」「安全」「成長」「尊厳」という4つの観点から「STOP!インボイス」は提言をまとめようとしている。
 
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2023年08月05日

【焦点】五輪選手村控訴審 住民側敗訴「不当判決」2つの理由 上告へ=橋詰雅博

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         裁判後の原告団の報告集会=8月3日、弁護士会館会議室
 東京五輪選手村用地として晴海の都有地13・39fを公示価格の10分の1以下の1290億6千万円で売却したことに対し、都民29人がその違法性及び土地の適正価格との差額相当の損害賠償を小池百合子都知事らに求めた住民訴訟の控訴審判決が8月3日にあり、東京地裁に引き続き東京高裁も原告の請求を棄却した。住民側は上告する。

 原告弁護団は「不当判決」の主な理由を2つ挙げている。一つは東京都が個人施行(地権者、施行者、認可権者の三役兼ねた)による再開発事業の裏付けとした都市再開発法108条2項の適用を高裁も認めたことだ。そもそも同法2項は竣工後の保留床の処分に関する規定であり、自治体の土地処分に適用されるものではない。これがまかり通ると地方自治法による規制が免れ、脱法的な自治体の財産処分が横行しかねないのである。

 もう一つは土地の評価。「選手村」要因という一般には理解しがたい理由で正式な不動産鑑定が行われずに用地が投げ売りされたことを高裁が平然と認めた。これは都民の財産を著しく毀損したことになる。
 「このような都の行為は再開発制度の濫用、不動産鑑定評価への不信につながるものである。これを司法が追認したことは、その役割を放棄したと言わざるを得ません」と原告弁護団は指摘した。
 
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2023年07月29日

【焦点】リニア開業 2035年か 総事業費9兆円に迫る 工事大幅遅れ 大阪延伸中止も=橋詰雅博

      工事の遅れベスト7
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 JR東海が強引に進める東京・品川―愛知・名古屋間を走らせるリニア中央新幹線。総事業費約7兆円のうち3兆円は政府の財政投融資が活用された。2017年から3年間貸し付けられたこの財投は前年の16年、当時の安倍晋三首相が盟友の葛西敬之JR東海代表取締役名誉会長(22年5月に死去)を支援するために実現させた。担保なし、30年間での元本返済、平均0・86%の低金利という厚遇した案件だ。国策民営事業に転じたリニア新幹線が目指す27年開業は、「困難」と丹羽俊介社長は明言。工事の遅れが理由だが、では開業はいつごろになるのか。また45年に大阪までの延伸は可能なのか。
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 「今の状況から推察すると品川―名古屋間の開業は早くても12年後の2035年ですね」というのは「悪夢の超特急<潟jア中央新幹線」(旬報社、2015年度JCJ賞受賞)の著者でジャーナリストの樫田秀樹氏=写真=だ。

約30カ所で遅れ

「私はJR東海などの公開資料を基づき各工区がどのくらい予定より工事が遅れているかを調べました。表にリストアップしたのは遅れ年数のベスト7で、トップは8年遅れの神奈川のリニア神奈川駅非開削工区。7年遅れの2位は神奈川と岐阜の2区、6年遅れの3位は岐阜と長野の工区が並び、5年遅れの4位はリニア山梨県駅、3年9カ月以上の5位は愛知名城非常口、3年半以上の6位は長野坂島工区、3年5カ月の7位が長野釜沢非常口です。3年、2年、1年の遅れを含めると合計30近くにもなります」
その主な原因は@用地取得ができていない、A停車駅がなかなか決まらなかった、B入札までの作業がスムーズに運ばず工事が未契約、C住民による反対運動、DJR東日本との話し合いが長引いている。

交渉行き詰る静岡

  リニア新幹線と言えば、JR東海と静岡県の川勝平太知事とのケンカ≠ェ有名だ。同県の工事の遅れは3年になる。川勝知事が難題をJR東海に押し付け強硬に工事を阻んでいるのでリニア新幹線は進まないと川勝バッシング≠ヘネットなどで今でも激しい。
樫田氏は「決してリニアに反対派ではない川勝知事は、リニアを進めるにあたり47項目からなる質問書をJR東海に提出している。これには南アルプスのトンネル掘削工事などで水脈が断ち切られ大井川流量が毎秒最大2d減り7市2町が影響を受けるので解決策として水の戻し策要請も含まれている。JR東海の回答をのむことができれば知事は工事を認可します」という。しかし静岡はJR東海から回答をもらっていない。両者の交渉は完全に行き詰っている。このままでは工事は遅れる一方だ。
リニア裁判では国の工事認可取り消しを沿線住民から提起された東京地裁の市原義孝裁判長らは昨年9月に山梨リニア実験場周辺に暮らす原告を含む住民に騒音の状況や日陰・水枯れの有無な、農業への影響などを聞き取り調査した。18日の東京地裁の判決は国の認可取り消しを認めず、住民側の請求を棄却した。
裁判を傍聴してきた樫田氏は「山梨リニア実験線の沿線住民から聞き取り調査までした裁判官への原告の期待は高かった。2月結審から判決まで5カ月間もあったので、意味のある判決が下されると原告弁護団も考えていた。ところが判決文は、国やJR東海の主張をコピペした内容で、現地調査も触れていなかった」と悔しがる。
「不当判決」と訴える原告らは控訴する。
南アルプス市民からJR東海の工事差し止めを求められた甲府地裁の新田和憲裁判長らも9月に同じく山梨リニア実験場の周辺住民に聞き取り調査を2日間行う。判決は来年。

延伸アセス見送る

昨年4月山梨リニア実験場で試乗した岸田文雄首相は名古屋―大阪間の環境影響評価(アセスメント)作成の前倒しを表明したが、JR東海は「今年度は、アセスは見送る」と今年4月に拒否した。品川―名古屋間の工事が大幅に遅れているので、予定通りの延伸は絶望的になったからだ。
  工事の遅れによる経費の増大、人件費・建築資材の高騰などで事業費は膨れ上がる一方。本当にリニア新幹線はできるのか。
「品川―名古屋間の総事業費は7兆円を超えるのは間違いありません。9兆円に迫る可能性もある。となるとリニアがJR東海の経営の足を引っ張ることになる。再び財投がつぎ込まれるかもしれない。名古屋から大阪までの延伸は中止もあり得ます」(樫田氏)
 金食い虫でトラブル多発のリニアにJR東海は振り回され右往左往している。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年7月25日号
 

 
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2023年07月18日

【焦点】神宮外苑事業取り消し訴訟 自治会長が示した損害発生3つのケースとは=橋詰雅博

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      6月29日の裁判後の報告集会
 東京・明治神宮外苑再開発工事の取り消しを求めた住民訴訟の第1回口頭弁論は6月29日に東京地裁で行われた。103号大法廷の傍聴券は抽選となった。原告59人を代表して米国人コンサルタントのカップ・ロッシエルさん=写真中央=に加えて北青山一丁目住宅自治会の会長である近藤良夫さんの2人が意見陳述した。
各メディアはこの反対運動に火をつけたカップさんの陳述を大きく報じていたので、本稿では近藤さんの陳述を取り上げた。

都が指針突然変更

 近藤さんが神宮外苑再開発計画を知ったのは2018年11月下旬だ。青山の自治会・町内の各会長や商店街会長らが集まった港区赤坂総合集会所において「東京2020大会後の神宮外苑地区まちづくり指針」に基づき東京都は、老朽化した神宮球場と秩父宮ラグビー場を入れ替えて、その間を広場にすると説明した。この再開発内容を聞いた人たちは都が策定した指針を、再開発事業者が順守するよう指導してくれると信じた。
 ところが都は、この指針を突然変更したとして2021年12月中旬に「神宮外苑地区に関する都市計画変更(案)」を都立青山高校体育館で説明した。参加住民は変更した理由を都に求めたが、「賑わいと活力のあるまちづくり」を実現するためという答えに終始した。高さ制限の撤廃、眺望景観の大幅変更、市民が楽しめるスポーツの場所の消失などについて納得できる説明は一切なかった。要するに再開発事業者が描いた事業計画が容易にできるように都が指針を変更したのだ。

過ち正してほしい

 近藤さんは、この再開発事業によって重大な損害が発生する恐れがあるケースを3つ挙げた。
 第一は新球場の騒音被害だ。新球場の騒音について銀行内(59dB)や郵便局内(60dB)より低い55dBと「影響評価」を作成した事業者が書いているが、その根拠は全く示されていない。新球場から半径300b以内に約900世帯の住宅と中学校があり、最も近い住宅まで約80b。プロやアマを問わず年間500を超える試合やイベントを新球場で開催される予定だ。新たな騒音被害者が生まれるのは明白である。
 第二は風害問題。現在、風の強い日には高さ90bの伊藤忠本社ビルによって大人も歩くことが困難なビル風が起きている。190bに高層化されたら、建物の風が受ける面積が今の倍以上になる。風の影響はほとんど変わらないというのでしょうか。風量をコントロールできるのでしょうか。はなはだ疑問だ。
 最後は人流変化に伴う被害だ。新球場の最寄り駅は外苑前駅と青山一丁目駅の2つ。これら駅に乗降客が集中する。事業者は混乱を避けるため警備員を配置して人流を抑制すると説明したが、地下鉄駅の2駅は入口もホーム狭く、拡張するのも難しい。地元住民は、将来にわたって、駅利用を制限されかねません。
 この3つの重大な損害を避けるために自治会メンバーの全員は東京都の過ちを裁判所に正してもらいたいと提起したのだ。

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2023年07月09日

【焦点】15兆円の「水素利権」むらがる政官民学 脱炭素は絵に描いた餅%d気分解での製造は電力のムダ使い=橋詰雅博

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 地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)の排出削減をめざす脱炭素社会の電力源・燃料として水素エネルギーは有力という。燃やしてもCO2を出さないが最大のウリ。さらにいろいろなものから作ることが可能、貯蔵も効くため切り札≠ニ持ち上がられる水素エネに関する新聞報道がここにきて目立つ。ざっとこんな具合だ。

日本が主導して

・岸田政権は官民合わせてこの先15年間で15兆円の投資を計画。
・米国が主導する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEFアイペフ)」の閣僚会合では水素の導入拡大に向け各国間での技術協力や供給網(サプライチェーン)構築の推進を合意。立ち上げる水素技術で協力する「域内水素イニシアチブ」を日本が主導する。
・水素と空気中から取り込んだ酸素を化学反応させて電気エネルギーに変える燃料電池搭載タクシー(燃料電池車は、走行中は水のみ出る、EVより長い距離を走れる)用の水素ステーションを産業ガス世界最大手の仏エア・リキード社が国内で展開。
・山梨県は甲府市の米倉山に世界的な水素・燃料電池開発のイノベーション拠点づくりを産学官からなる「水素社会実現戦略会議」で具体的に検討する。
・全国最多の15の原発が立地する福井県南部に水素の製造・供給施設の建設を県が計画。
・液体水素が燃料のトヨタ自動車のエンジン車が富士スピードウェイ24時間耐久レースを完走。トヨタは水素エンジン車(燃料電池車)の市販化へ。

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        疑問を指摘する記事は見当たらない

 水素エネルギー社会到来近しというイメージが植え付けられそうだが、そもそも水素は石油・石炭・天然ガスの化石燃料や風力・太陽光などの再生可能エネルギーなどの一次エネルギー(原子力も含む)を加工して得られる。この二次エネルギーの現実的な製造法として2種類あげられる。

CO2貯蔵は困難

 天然ガスなどから抽出したメタンを加工(水蒸気改質と言う)して水素を得る方法が一つだ。安価な水素を製造できるが、メタンを燃やした時と同じ量のCO2が発生するのがネック。これでは脱炭素社会の構築にはまったく役に立たない。そこで発生したCO2を回収・圧縮し地中深く埋めてしまうCCS(Carbon Capture and Storage)方式が検討されている。エネルギー問題に詳しい工学博士の松田智氏(元静岡大学工学部准教授、化学環境工学専攻)はこう解説する。
 「CCSを脱炭素の切り札的手段とマスコミはもてはやしているが、CO2固定・貯留には、コストがかかるし、電力も消費するので、さらにCO2排出が増える。実際、大口発生源の火力発電所で実現できていないのは、CCS方式を使うと発電単価の上昇が避けられないからです。しかもCO2をどこでもいいから埋めればいいかというとそうはいかない。CO2がもれない石油・天然ガスの廃坑とか堅ろうな場所が必要です。CCS方式の実用化は極めて困難です。現に、経産省の資料でも、実用化開始は2030年度からとなっていますが、コストや埋立規模などは明記されていません。「絵に描いた餅」に近いと言えます」

 もう一つは再生エネ電力を使い、水を電気分解して水素を作る方式。製造過程でCO2が発生しないので「グリーン水素」と呼ばれ、日米欧を中心にこの水素製造技術や活用する燃料電池の開発に躍起なのだ。

64%も電力ロス

 「ここでの大きな問題は水の電気分解(水素を発生)と燃料電池による発電(水素の消費)を経るとエネルギー効率は概算で36%まで落ちること(各段階の効率が約60%なので)。いくら貯えることできても製造プロセス段階ですでに64%もの電力をロスしている。実際には水素の輸送・貯蔵でさらにエネルギーを使う。こんな電力の無駄使いをやるより再生エネ電力をストレートに使う方が最も効率的だ」(松田氏)
 問題はさらにある。日本でつくる再生エネ利用のグリーン水素は高くつくので、海外の安価な再生エネ由来の水素を専用船で大量輸入することを政府は考えているが、輸送方法に手間がかかる。

補助金ねらい

 松田氏は「可燃性の水素の爆発リスクを避けるため有機物を反応させて安全な液体状態して運び、日本で水素に戻す方式と、現地でアンモニアに変えて、そのまま燃やす方式を検討している。いずれの方式でも電力ロスは約80%。コストも相当かかる。結局、単価は5倍以上にハネ上がる。現地の発電単価が安くてもこれでは間尺に合わない商売になる」「商売ベースでは多分成立しない。補助金ありきの政策です」と指摘した。

税金食い物に

 問題山積みで水素エネ社会の実現が疑わしいのに水素政策に走る背景について松田氏は「水素利権≠ノ群がる政官民学が税金を食い物にしようというよこしまな思惑がある」と断罪した。
 新たな利権への巨額な税金の投入が始まった。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年6月25日号
 
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2023年07月01日

【焦点】オランダ「エルミタージュ美術館」改名、実は福島にも同美術館分館計画が。幻に終わる=橋詰雅博

  ロシアのプーチン大統領の故郷サンクトペテルブルクにある世界有数のコレクションを誇るエルミタージュ美術館の別館として2009年に開館したオランダの「アムステルダム・エルミタージュ美術館」が6月26日に「H・ART美術館」に改名した。ロシアのウクライナ侵攻によりロシアの美術館との関係を断ち1年以上半休状態だった。しかし、ロンドンの大英博物館やパリのポンピドーセンター、ワシントンのスミソニアン博物館と提携し9月から新名称で再開する。

 実はこのエルミタージュ美術館の分館が福島に建設される計画が1990年代後半にあった。朝日新聞特別報道部(同部は現在ない)が取材し新聞連載記事をまとめた単行本『原発利権を追う 電力をめぐるカネと権力の構造』(朝日新聞出版2014年9月刊行)で詳しく報じている。それによると東京電力は福島第一原発に7号機と8号機増設の見返りとしてサッカー施設「Jヴィレッジ」と並んでエルミタージュ美術館の分館建設計画を密かに進めた。美術館側と2回交渉し分館用地として福島県猪苗代湖畔を取得することが決まった。その際、美術館側は保証金として5億円求め、東電が5億を寄付したという。この寄付金は利用者の電気料金が原資である。結局、分館誘致は日の目を見ず、福島のエルミタージュ美術館分館は幻に終わった。

 東電が寄付したとされる5億円の行方は不明だ。東電にとって寄付金は原発立地対策の有力な切り札。原発立地自治体への寄付金を差配した元東電担当者はこう証言している。
 「東電は90年前後から2010年まで年度初めに10億から20億円の寄付金の予算枠をとった。必要に応じて増額することも多く、年平均で20億円以上となり、約20年間で総額4百数十億円に達する。金額は県ごとの原発発電量などを目安に配分した」
 カネは「一般寄付」として出されるので東電の名前は出ない。自治体との癒着と批判されるのを避けるためのカモフラージュだ。
 岸田政権は原発再稼働、新設に前のめり。電力会社による原発立地への見返りである寄付金は継続され膨れ上がるだろう。電気料金が原資であることを利用者は忘れてはダメだ。
 
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2023年06月25日

【焦点】核のゴミ処分「南鳥島」最適地  静岡知事が小池都知事に提案 地質学者との対談が引き金=橋詰雅博

 東京の都道府県会館で5月末に開かれた関東地方知事会議で静岡県の川勝平太知事が注目される発言をした。高レベル放射性廃棄物いわゆる「核のごみ」の最終処分場を都の南東約2千`にある日本最南端の南鳥島(小笠原村の一部)を候補地として検討すべきだと、小池百合子都知事に提案したのだ。静岡県には浜岡原発(5基のうち1、2号基は廃炉、3,4、5基は長期停止中)がある。核のゴミに関心を持つのは当然だけれども、唐突感は否めない。川勝知事がこんな提案をした理由は、同県清水市に施設を構える東海大学海洋研究所の平朝彦所長(地質学者)と、同県発行の雑誌での対談が引き金になっている(今年1月の総合情報誌「ふじのくに」に掲載)。対談で平所長はこう述べている。

 「南鳥島は太平洋プレート(太平洋の海底の大部分を占める岩盤)上にある唯一の日本領土で、周囲6`bの国有地。最大の特徴は地質的な安定性です。地震、火山活動はまず起きない。これは確信を持って断言できます。なおかつ、住民がおらず漁業権など、いろいろな権利が設定されていない。地下へ数`bのボーリングをして、使用済み核燃料を処分するキャニスター(核のゴミの廃液をガラス原料で溶かし合わせたものが入ったステンレス容器)を入れて、セメントで封印することもできます。地球上で最高レベルの安定性があるので、壊れる不安はまずありません」「最適な核廃棄物処理方法だと信じて疑いません」

 川勝知事は「国難を救える島」「モデルケースを日本が提供できれば、世界に誇れる提言にもなりますと」と平所長の研究を称えた。
川勝提案に対し小池都知事は「国がしっかりと対応すると考えている」とそっけない答えだった。
 実は平所長は、南鳥島は核のゴミの地層処分(地下深く埋める)の最適地とローカル局の北海道放送(HBC)からの取材で3年前に提言している。経産省にもこの提言を伝えたが、返事はないそうだ。

 核のゴミの地層処分計画を進める政府は、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で文献調査を進めている。また長崎県の離島・対馬市は核のゴミの最終処分受け入れ誘致に向けて動きだしている。

 地震大国・日本には10万年以上も核のゴミを封じ込める適地はないと言われている状況下で、南鳥島にスポットライトが当たった。筆者は早速、平所長に取材を申し込んだ。残念ながら「南鳥島での地層処分をさらに研究したい」と断られた。

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