2023年01月14日

【シンポジウム】NHKはどうあるべきか 報道姿勢に不信高まる 鈴木氏 対立点伝えず印象操作 上西氏 経営委は政権の隠れ蓑 前川氏 「コモン」であるべきだ 金平氏=諸川 麻衣

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  12月1日、都内でシンポジウム「公共放送NHKはどうあるべきか〜市民による次期NHK会長候補・前川喜平さんと考えるメディアの今と未来〜」(=写真=)が開かれた。元文部科学事務次官の前川喜平氏を次期NHK会長候補に推す「市民とともに歩み自立したNHK会長を求める会」が主催したもので、パネリストは前川氏、ジャーナリスト・早稲田大学客員教授の金平茂紀氏、法政大学教授・国会パブリックビューイング代表の上西充子氏。元NHK放送文化研究所主任研究員で次世代メディア研究所代表の鈴木祐司氏が報告者として加わり、武蔵大学教授・元NHKプロデューサーの永田浩三氏の司会で約3時間にわたってNHKの現状と将来を論じあった。

 第一部「NHKのニュースがおかしい」では、鈴木氏がゴールデンタイム(G帯)の総個人視聴率などのデータから、2021年下半期以降G帯でNHK離れが進んでいることを示した。その要因として同氏は、官邸が「ニュースジャック」を狙って首相の記者会見をG帯に設定したこと、学術会議問題報道や聖火リレーの音声カットなどでNHKの報道姿勢への不信が高まったことなどを挙げた。上西氏はそれを受けて、NHKの国会報道は主語がすべて政府側で、野党の質問・追及や対立点を伝えず、キーワードを隠し、「報じないことで印象操作をしている」と具体例を挙げて批判した。金平氏は、ウクライナで戦地から実態を伝えたBBCとすぐに退避したNHKとを比較。前者には現場を見てきた者を信じる姿勢があり、それがデモクラシーにつながると述べ、NHKは「国営放送」ではなく社会的共通資本=コモンズであるべきだと主張した。

 第二部「NHKの組織と制度のどこに問題があるのか」では、鈴木氏が「@国会による予算承認 A経営委員会が会長を任命 B首相が経営委員を任命」という放送法の規定が政権党に弱い構造を生んでいるとし、10年単位の受信許可料を設定し、さらに政府から独立した委員会が運営を審議するBBCとの違いを指摘した。前川氏は、経営委は合議制によって政権の直接関与を退ける仕組みのはずだが、現実には官邸の「任命権」乱用によって政権の隠れ蓑化している、経営委員の選出に何らかの新しいルールが必要だと提起した。上西氏は、NHKの報道内容への批判から進んで、その背景にある組織・人事の問題に市民の関心を向けてゆくことが大切だと述べた。

 第三部は「公共放送・公共メディアはいかにあるべきか」。鈴木氏は、今後は「放送」ではなくネット・メディアの時代になるが、NHKは(この点でもBBCと対照的に)自らビジョンを示さず、現行制度への代案がないと指摘、今後NHKに求められるものとして、重要な情報がやりとりされる「コミュニティ・メディア」、オンデマンド、ピンポイント、「自分ごと」を挙げた。前川氏は、NHKは生涯学習の場として博物館・図書館・公民館と同じ役割を持つ、特に「さまざまな意見の人が集う場」として公民館的機能が大切だと述べた。金平氏は、金儲けを度外視してでも出さなければならない番組がある、資本の論理で効率化を進めると取材する人材がいなくなると、地方紙がなくなって地域が衰退してきたアメリカの例を引いて強調した。

 その後の質疑も通して、この機会に会長選考過程を可視化させ、NHK問題への関心を広める必要がある、市民サイドの「影のNHK会長」の下で改革ビジョンを提起し続けてゆくことも意義がある、との意見が出された。放送からネットへの移行は世界どこでも海図のない手探りの探求だが、政府への隷属、資本の論理への屈服には未来がないことは、このシンポジウムで明瞭になったと言える。
 推薦運動は続く
 前川氏の推薦運動は、ネット署名と紙署名合わせて11月30日までに44019筆が集まり、NHK経営委に提出されたが、ネット署名は次期会長が決定するまでさらに続けられることになった。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
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2022年11月05日

次期NHK会長に推された元文科省事務次官・前川喜平さんの14日の記者会見を聞いて=諸川麻衣

11月4日、国会議員会館で、「市民とともに歩み自立したNHK会長を求める会」が次期NHK会長として経営委に推薦しようと擁立した前川喜平・元文部科学省事務次官の記者会見が開かれた。恥ずかしながら初めて前川さんの肉声に接した者として、順不同であるが、以下の点が強く心に残った。

・「憲法と放送法に基づいてNHKを運営する」との冒頭の一言。これ自体はまったく当然のことなのだが、過去の歴代NHK会長から「憲法と放送法」という言葉を聞いたことがあったろうか?

・戦後の新生NHKの会長に就任した高野岩三郎氏の著書を紹介しながら、「市民に寄り添い、かつ市民に一歩先んじる」という公共放送の使命や、「教育と娯楽の両立」を語られたことに、見識を感じた。

・前川さんご本人は放送の分野は専門外のはずであるのに、NHKに関わる諸問題について的確に要点を把握しておられることに驚いた。

内部的自由、政権への忖度、経営委員の任命のあり方、放送を総務省直轄から独立行政委員会の管轄に移すという制度問題、コスト削減優先の人事制度「改革」、ネット時代に放送の果たす役割(多様な意見を交流するフォーラム的機能)など、NHK職員も問題点として挙げてきたことばかりで、「響き合い」としか言いようがなかった。

・所信表明の口調が決して弾劾調・告発調ではなく、穏やかでユーモアにも満ちていることに、前川氏の人柄が窺われた。

・記者から「NHKは沖縄の抱える問題への報道姿勢が弱いと言われている」という趣旨の質問があり、前川氏は、「取材・制作現場が自由闊達に仕事できる環境を作りたい。自分が『この問題を取り上げよ』など指示することはあってはならない。自由に仕事ができるようになればおのずから、取り上げるべき問題は取り上げられるだろう。」「現場に行き、真実を見極め、当事者に寄り添うのがNHKの使命」という趣旨の答えをされた。それに代表されるように、「人は自由としかるべき環境を与えられれば自ら伸びてゆく」という、長年教育行政に誠実に関わってこられた前川氏の「人間への信頼」が強く感じられ、心を打たれた。

・放送やテレビ番組について個人的な感想を問われ、「自分はテレビ草創期に子供時代を送り、テレビっ子として育った」「今は昼間にテレビを見ている高齢者世代」「NHKのドキュメンタリーはよく見て、知識を得ている」「ドラマは、楽しませつつ、今の社会の問題をうまく提示している」「バリバラは大変面白い、桜を見る会の回は、よくぞ出せたと思う」など、NHKの番組への暖かい評価が聞けた。半面、「大事なニュースを知ろうと思ったらNHKより民放。NHKのニュースはほとんど見ていない」と、今のニュースの現状を批判された。

・「この四半世紀ぐらいの間のNHKのあり方を検証する番組を作ってほしい。これは、命令ではなくて、お願い、提案をしてみたい。」と語られた。正に正鵠を射た提案である。
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NHK会長に前川氏を推薦 市民団体が署名運動展開 11/4(金) 19:11配信 共同通信

NHKのOBらでつくる市民団体は4日記者会見を開き、来年1月に任期満了を迎えるNHK会長の後任に、元文部科学事務次官の前川喜平氏を推薦すると発表した。

 前川氏は会見で「憲法と放送法にのっとり、真実のみを重視するNHKの在り方を追求したい」と表明。「政府のいいなりには絶対にならず、本当の意味での公共を求めていきたい」と述べた。
NHK会長を巡っては、前田晃伸会長が既に続投の意欲はないと発言している。
同団体は署名サイトなどで賛同を募っており、12月1日にNHK経営委員会に署名を提出する予定。
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次期NHK会長に「前川喜平元文科事務次官」を推す動きが広がる 市民団体が呼びかけ11/3(木) 9:06配信日刊ゲンダイDIGITAL 元文部科学事務次官の前川喜平氏

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「次期NHK会長はこの人しかいない」──。2023年1月に任期満了を迎えるNHKの前田晃伸会長(77)の後任として、元文部科学事務次官の前川喜平氏(67)を推す動きが広がっている。

前川喜平氏が明かす「統一教会」名称変更の裏側「文化庁では教団の解散が議論されていた」

 みずほフィナンシャルグループ会長などを歴任し、20年1月にNHK会長に就任した前田会長はこれまでの定例会見で、2期目について「まったくありません」と続投を否定。放送法で、NHK会長は最高意思決定機関の「NHK経営委員会」が選ぶことになっているため、現在は同委員会の「指名部会」が後任人事について協議を進めているとみられる。

 そんな中、前川氏の次期NHK会長就任を呼びかけているのは、市民団体「市民とともに歩み自立したNHK会長を求める会」。

 同会によると、今のNHKは「公共放送の理念を理解しているとは思えない財界出身の会長が続き、時の政権に忖度したニュースや世論調査、社会の関心事に応えようとしない日曜討論やNHKスペシャルが日常化している」とし、「次期会長がこれまでの悪弊を引き継ぎ、市民の宝である公共放送をこれ以上毀損することは許されない」などと主張。

 その上で、森友・加計問題などで会見した前川氏について、「政権からの不当な圧力に屈せず公僕としての職責を果たす。これは放送法にうたわれた公平公正や、真実を追求し健全な民主主義のために資するジャーナリストの精神と深く重なる」として推薦することを決めたという。

 同会は11月4日、前川氏同席のもとに衆院第2議員会館で会見を開き、活動の趣旨について説明する。1日から署名サイト「Change.org」で賛同署名を募る活動も始めており、12月1日にNHK経営委員会に前川氏を会長に推す申し入れ書と賛同署名を提出する予定だ。

 同会の小滝一志事務局長は「市民の受信料で支えられる公共放送NHKを、公共の精神が希薄な人物にかじ取りを任せるのではなく、公共の大切さを心の底から理解する人に託したい」としている。
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2022年11月03日

【NHK】元文科省事務次官・前川喜平さんを次期 NHK 会⻑に推薦する市⺠運動を展開中

市⺠とともに歩み⾃⽴した NHK 会⻑を求める会 共同代表 ⼩林 緑(元 NHK 経営委員、国⽴⾳楽⼤学名誉教授)河野慎⼆(⽇本ジャーナリスト会議運営委員) 丹原美穂(NHK とメディアの今を考える会共同代表)

わたしたちは前川喜平さんを次期 NHK 会⻑に推薦する市⺠運動を展開し、NHK 経営委員会への申し⼊れを市⺠の賛同署名とともに⾏います。

11 ⽉ 4 ⽇ 記者会⾒・前川喜平さん出席
(14 時〜 衆議院第 2 議員会館地下第 7 会議室)
※通⾏証は 13 時 30 分より配布いたします。

11 ⽉ 22 ⽇ NHK ⻄⼝集会(12 時〜 NHK ⻄⼝前 前川喜平さん参加)
※この⽇は経営委員会の開催⽇です。

12 ⽉ 1 ⽇ 午前 経営委員会に、申し⼊れ書と賛同署名を提出
14 時〜 シンポジウム「公共放送 NHK をどうするか(仮)」 出席予定 前川喜平さん、⾦平茂紀さん、上⻄充⼦さん、永⽥浩三さん他
※場所など詳細については、決まり次第お伝えいたします。

第 1 次安倍政権以降、政権の意向を⾊濃く反映した NHK 会⻑が選出され続けてきました。中でも、籾井勝⼈⽒は、会⻑就任の⽇の記者会⾒で、「政府が右というものを左というわけにいかない」と発⾔し、世間の厳しい批判を浴びました。公共放送の理念を理解しているとは思えない財界出⾝の会⻑が続き、そのもとで、時の政権に忖度したニュースや世論調査、社会の関⼼事に応えようとしない⽇曜討論や NHK スペシャルが⽇常化しています。2023 年 1 ⽉には新しい会⻑が、現在の経営委員会によって選出されます。次期会⻑がこれまでの悪弊を引き継ぎ、市⺠の宝である公共放送をこれ以上毀損することは許されません。

そこで、わたしたち「市⺠とともに歩み⾃⽴した NHK 会⻑を求める会」は、メディアのありようを問う市⺠団体、NHKOBと OG、NHKの現役職員有志、メディア研究者、メディア関係者の思いを結集し、ここに次期会⻑候補として前川喜平さんを推薦します。放送法によれば、NHK 会⻑は経営委員会によってのみ選ばれ、わたしたち市⺠が直接選ぶ仕組みにはなっていません。ですが、わたしたちは、このようなひとにリーダーになってもらい、そのリーダーのもとで現在の NHK の病弊からの訣別を訴えることに意味があると考えています。そして、公共放送が再び息を吹き返すために多くの⼈びとと理念を共有し、働きかけることはできます。

2017 年に森友学園問題と加計学園問題が発覚しました。その際、前川喜平さんは告発のための記者会⾒をたった⼀⼈で⾏い、安倍⾸相ら政権の嘘を暴きました。⽂部科学事務次官まで上り詰めた官僚として、⽇本の⾏政史上かつてない⼤事件でした。前川喜平さんは⼀市⺠となった後、⽇本のジャーナリズムのありようを問い、教育の機会に恵まれなかった夜間中学の⽣徒に、学ぶことの素晴らしさを教えるボランティアを続けておられます。

NHK の本来の使命は、政権の顔⾊をうかがうのではなく、真実を伝え、社会の課題を議論するプラットフォームとなり、豊かな⽂化を放送を通じて⽇常的に市⺠に届けることです。それは前川喜平さんが⻑く⾝を置いた、⽂部科学省の柱である社会教育や⽣涯学習、学校を離れて教育や教養をあまねく普及させることとも重なります。政権からの不当な圧⼒に屈せず、公僕としての職責を果たす。これは放送法にうたわれた公平公正や、真実を追求し健全な⺠主主義のために資するジャーナリストの精神と同じものです。籾井勝⼈会⻑時代の 2015 年、NHK の予算承認を⾏う際、国会では経営委員会に対して「会⻑の選考については、⼿続きの透明性を⼀層図りつつ、公共放送の会⻑としてふさわしい資格・能⼒を兼ね備えた⼈物が適切に選考されるよう、選考の⼿続きのあり⽅について検討すること」という付帯決議が、前年に引き続いてなされました。それより前の 2013 年 11 ⽉に経営委員会は、「次期会⻑資格要件」として「NHK の公共放送としての使命を⼗分に理解している⼈」などの6 項⽬を求めましたが、まったく機能しないまま今⽇を迎えています。こうした異常な事態をこれ以上放置することは許されません。

今回、前川喜平さんは、わたしたちの願いを受け⽌め、市⺠が推薦する NHK会⻑候補になることを承諾してくださいました。市⺠の受信料で⽀えられる公共放送 NHK を、公共の精神が希薄な⼈物に任せるのではなく、公共の⼤切さを⼼の底から理解するひとによってよみがえらせましょう。わたしたちは、ここに、前川喜平さんとともに新⽣ NHK の未来をいっしょにつくっていくことを強く訴えます。

市⺠とともに歩み⾃⽴した NHK 会⻑を求める会
事務局⻑ ⼩滝⼀志(090-8056-4161)
事務局(広報担当) ⻑井 暁(090-4050-5019)
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2022年10月17日

【NHK】五輪番組虚偽字幕 公共放送たり得るか 「重大な倫理違反」= 小滝一志 

 放送倫理・番組向上機構(BPO)放送倫理検証委員会は9日、NHK「BSスペシャル 河P直美が見つめた東京五輪」(2021年12月26日放送)の字幕に「重大な放送倫理違反があった」との意見書を公表した。
 番組は、東京五輪公式映画の監督河P直美氏に密着取材したドキュメンタリー。公式映画ディレクターの一人である男性にインタビューするシーンで、「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」と問題の字幕を付けた。
 放送直後から、「インタビューの内容は真実なのか」「市民の意思表示であるデモの評価を貶めるものではないか」など視聴者の批判が殺到。NHKは今年1月9日、番組で「お詫び」、2月には「誤った内容の字幕を付けた」「放送ガイドラインを逸脱していた」との専務理事が責任者の調査チーム報告書に追い込まれた。

事実歪め3回変更
 BPO意見書は、@男性の五輪反対デモ参加Aお金をもらったなどの事実を担当ディレクターが確認したのかを詳細検証―。その上で「事実に反した内容を放送した」その「最大要因は、取材の基本を欠くおろそかな事実確認」と断定した。
 意見書は「デモの価値を貶めようとの悪意の介在は『不明』だが、試写段階で3回変更が加えられた問題の字幕は、試写を重ねるごとに取材した内容から離れ、事実を歪める方向に変わった」と指摘している。

番組全体に責任
 意見書はさらに、問題のシーンで男性が語る「デモは全部上の人がやるから(主催者が)書いたやつを言ったあとに言うだけ」「予定表をもらっているから それを見て行くだけ」は、別のデモに関する発言を五輪反対デモの発言に“すり替え”たものと指摘。「発言者を正確に確認せず、独自の解釈で編集した結果、視聴者を誤信させる番組を作った」とディレクターの姿勢を厳しく批判した。その上で、「五輪反対デモや、デモ全般までも貶めるような内容を伝えたことは、取材過程の問題点とは別に重大な問題」として、番組全体の責任にも言及した。

リスペクトを大切に 
 意見書は「放送前、6回もの部内試写を行いながら結局、取材・編集過程で問題シーンへの本質的疑問にチェック機能が働かなかった」ことを重視。要因としてスタッフの「デモに関心はないし、取材経験もない」「参加者にお金が支払われること違和感はもたなかった」などの発言にみられる社会運動への「関心の薄さ」を挙げ、「放送局のスタッフとして、民意の重要な発露である市民の活動に真摯な目線を向けるべきだ」とも指摘した。
 最後に「背景に無意識の偏見や思い込みがなかったか」と問題提起、今回の問題は正確な事実の報道と共に「取材相手と社会に対するリスペクトの精神を失わないこと」の大切さを放送界全体に教えていると結んでいる。
  小滝一志
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年9月25日号
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2022年07月16日

【NHK問題】権力からの自立を求めて『放送を語る会 30年』刊行 政府介入許す 予算編成に関与道開く=小滝一志

  私たちは3月、『NHKの自立を求めて―「放送を語る会」の30年―』を刊行した。1988年秋、「天皇下血報道」の電波ジャックに強い危機感を抱いた放送労働者が活動を始め、2001の「ETV2001」番組改変事件、2014年に就任した「籾井NHK会長罷免運動」など、NHKをめぐる大きな事件に多くの市民団体と連携して取り組んできた。その運動を通じて私たちが一貫して求めてきたもの、それが「NHKの権力からの自立」だった。

願い逆なでする
理事者の返本

 ところが、この書籍の献本をめぐり、私たちの願いを逆なでする事態が起こった。出版直後、NHK経営委員全員、会長ほか理事全員、日放労中央及び全国10支部・系列に献本した数日後、NHKから「高価なお品でございますので一冊のみ頂戴し、他はお返しさせていただきます」との手紙を付けて理事者宛の10冊余りが返送されてきた。経営委員からの返本はなかった。放送現場から、「Kアラート」などと揶揄されながら政権の意向の忖度には汲々とする一方、視聴者・市民の声には一顧だにしない経営姿勢が露わで、私たちの怒りを誘った。

ネトウヨ用語を
解説委員使う

 NHKの権力からの自立を疑わせる事例は、最近も私たちはいくつか目にしている。1月27日放送「ニュース シブ時」。岩田明子解説委員が、佐渡金山の世界遺産登録をめぐり、「岸田総理は『歴史戦』チームを結成し、登録に向けた準備を本格化させたい考え。韓国側が展開する主張に対して『歴史戦』チームがいかに機能するか、推薦決定に向けた岸田総理の決断が注目される」とコメントしてネットで炎上した。「歴史戦」は雑誌「正論」、「Hanada」、「Will」などでよく使われるネトウヨ用語で、それが公共放送NHKでいとも無造作に安易に使われた。政権の思考に身も心も染まったNHK解説者の姿に仰天したのは私たちだけではなかった。

政権圧力に屈し 
受信料引き下げ

 就任時は受信料値下げに消極的だったNHK前田会長だが、度重なる菅政権の圧力に屈して昨年1月12日、「700億円節減して受信料を引き下げる」と発表した。
  今年6月3日には、受信料値下げ策が盛り込まれた改定放送法が国会を通過した。受信料の繰越剰余金の一部を積み立てて値下げ原資にす「還元目的積立金制度」を新設、その計算額は「総務省令で定める」とされ、政府がNHK予算に口出しできる手がかりが作られた。前田会長「(今まで)値下げのルールがなかったので明確になる」とあっさり容認してしまった。制度的にもNHK予算編成に政府が関与する道が開かれた。

受信料制度廃止
課金制度移行も

 受信料制度そのものも安泰ではない。昨年11月にスタートした総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」では、主要検討項目の一つに「放送制度の在り方」を挙げている。3月末には「放送法令等の制度において必要な措置を講ずるべき」と論点整理した。
 NHKのモデルともいわれるBBCもイギリス政府が受信料値上げを凍結、2028年度以降、受信料制度の廃止・課金制度への移行を検討している。放送だけでなくネット配信も視野に入れた受信料制度の検討を迫られている今、NHKは、政権の意向を忖度し政府広報のような放送を続け実質国営放送の道を歩むのか、受信料で支える視聴者の側にしっかり立つ公共放送としてとどまるのか、その岐路に立たされているのではないか。                 
 小滝一志(放送を語る会)
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号
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2020年07月16日

こじ開けた隠蔽の扉 NHK「かんぽ不正」報道 市民・メディア・野党協力=小滝一志

 5月22日、 NHK情報公開・個人情報保護審議委員会は、NHKがそれまで一部非開していた経営委議事録について、「開示すべき」と答申した。「開示すべき」文書とは、「2018年度以降、NHK経営委員会が上田良一会長(当時)に『厳重注意』した議論の一切が判る資料」。審議委員会とは、NHKが情報公開規程・審議委員会規程に従って外部委員に委嘱した第三者機関。
毎日がスクープ
 問題が明るみに出たのは昨年9月26日の毎日新聞スクープ。NHK経営委員会が「かんぽ不正」問題をとりあげた「クローズアップ現代+」をめぐり、上田会長に「厳重注意」していた事実を隠蔽し、議事録にも記載しなかった。
 毎日の報道を受けて、各地の市民団体が経営委員会に抗議、石原委員長(当時)の辞任を要求した。国会でも野党合同ヒアリングなどで、議事録や配布された資料の提出を要求した。
 追い詰められた経営委は「議事録は作らなかった」との態度を一転して昨年10月13日「議事経過」を公表、会長に「厳重注意」した事実は認めたが議事録全面開示は拒んだ。
 今年3月2日、毎日新聞が再びスクープ。経営委員会で複数の委員が放送法32条に反し、番組内容に踏み込んだ議論をしていた詳細が明らかになった。しかも12月に経営委員長に選任された森下俊三氏が議論を主導していた。市民団体は議事録公開を要求、24市民団体が共同して森下辞任要求署名を展開、短期間で7,289筆に達した。NHK予算を審議する衆参総務委員会でも、野党議員から議事録公開を求められた。
「議事概要」公表
 メディア・市民・野党の追及に抗しきれず、NHK経営委員会は3月24日、郵政との対応の経緯を「議事概要」として公表、5月12日には、非公開だった「経営委員会議事運営規則」の公開にも踏み切った。
 しかし、6月10日の経営委員会は審議委の「公開すべき」との答申にもかかわらず「議論を継続中」と相変わらず煮え切らない態度だ。11日には、前田現NHK会長まで、「(審議委答申を)尊重してほしい」と言い出した。メディアと市民・野党が一歩一歩NHK経営委員会を追い込んできたが、議事録全面公開まであと一押しである。
小滝一志
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2020年06月15日

番組改変事件の再現か 自主自律に新たな疑念 NHK『バリバラ』の再放送 突然中止=河野慎二

 社会的少数者(マイノリティー)のバリアをなくすためのNHK・Eテレ番組で異変が起きた。
 4月23日に放送された「バリバラ桜を見る会〜バリアフリーと多様性の宴〜第一部」は、スタジオに桜を見る会≠セットして、性暴力被害と闘うジャーナリストの伊藤詩織さんや在日韓国人への差別撤廃に取り組む崔江似子(チェ・カインジャ)さんらが出演、性暴力や差別、ヘイトをなくす運動について、自らの体験を踏まえて語り合った。
 再放送突然中止
 番組では、安倍首相を模した「アブナイゾウ総理」が「公文書 散り行く桜と ともに消え」と一句詠み、麻生副総理をモデルにした「無愛想太郎」が登場。笑いを織り交ぜながら核心を衝く番組構成が視聴者の心を捉えた。
 ところが、26日午前零時からの再放送が中止され、4月2日に放送した「新型コロナ自粛′沒「会議」に差し替えられた。
筆者もその一人だったが、Eテレにチャンネルを合わせた視聴者は「何があったのか」と仰天し、「2001年NHK番組改変事件の再現か」と懸念の声が上がった。
ネトウヨが攻撃
 差し替えの理由についてNHKは「コロナ感染の現状を鑑みて、判断した。圧力などはない」と説明しているが、信じる人は少ない。
  放送された「バリバラ」に対し、ネトウヨはツイッターなどで「NHKなめとんのか?反政府番組じゃないか」「左巻きの表現の自由」などと攻撃を集中。自民党の小野田紀美参院議員も「この非常時にこんなものを作る時間があったら、今困っている国民が利用できる制度や申請の方法を1秒でも長く放送すべきでは?」とツイートした。
東京からドンときた
 東京新聞(4月29日)は「再放送中止は前日まで兆候らしいものはなく、大阪は寝耳に水。東京からドンときたようだ」と伝えている 。
 直接圧力があったのか、NHK上層部が忖度したのかは不明だが、本番30分前の差し替えは異常と言う他はない。
 NHKの姿勢に疑惑が深まる中「バリバラ」第二部の放送がどうなるかが注目されたが、4月30日、無事放送された。再放送も5月4日未明に行われた。
 その中で伊藤詩織さんは自身が法律に守られなかったことに一番ショックを受けたことを明らかにし「助けてと言えるスペースが社会になかった。そこを変えて行きたい」
と語った。性暴力根絶を訴える伊藤さんの強い決意が伝わってきた。
 第二部放送を守る
 今回、第一部の再放送は中止されたものの、第二部は完璧な形で放送を実現できた背景には、NHK放送現場の大変な努力があったと聞く。
 あるNHKOBは「上層部の圧力が加わる中で、第二部の放送を守るために、第一部の再放送差し替えを苦渋の決断で呑んだのではないか」と推測する。
 別のOBは「この程度の番組さえ放送できないとは、NHKに真面目な判断を期待するのは当分無理」として「安倍の影響を排除することが先決」と強調する。
 唐突で不可解な「バリバラ第一部」の差し替え問題は、NHKの自主自律に新たな疑念を抱かせている。「NHKとメディアの今を考える会」は6日、差し替えた理由の明示を求める公開質問状を送った。NHKは一日も早く、視聴者への説明責任を果たすべきだ。
 河野慎二
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年5月25日号


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2020年05月20日

NHK経営委員長 「森下氏辞任を」声高まる 放送法に違反と追及 自主自律に無理解 番組介入=小滝一志

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 NHK経営委員会は、2018年10月23日上田良一会長(当時)に「厳重注意」した。当初、「ガバナンス体制の徹底を求めた」と説明したが、実は、経営委員の個別番組への干渉を禁じる放送法32条に反する議論の末に下した処分だったことが明らかになった。 
放送法32条に違反
 3月2日、毎日新聞のスクープでこの事実が明らかになると、国会でも、野党が放送法違反と追及、森下経営委員長の辞任を求める声が上がった。
 NHK問題に取り組む各地の市民団体からも、「事実上の番組内容への介入」「NHKの自主自律の破壊者」など批判が集中、日放労(NHK労組)委員長も「放送法違反の疑いがある」と見解を表明した。
 批判の高まりを受けて、NHK経営委員会は3月24日一連の「対応の経緯」を公表、非公開会議の内容説明に追い込まれた。「公表すべきだったと反省」と謝罪はしたものの、「状況によっては番組について意見を述べ合うこともありえる」と今も居直っている。
「厳重注意」後も改変
 公表資料では「(上田)前会長に対する注意が、番組の取材や制作に影響したとは考えられません」と弁明しているが、経過を見ればこれは事実に反する。
 18年10月の会長への「厳重注意」後、10月30日放送予定の「かんぽ不正」問題にも触れる続編を編集中のディレクターに、番組統括が「一切理のないお願いだが、郵便局を出すことで放送後に厄介な問題が起きる」と郵便局の話題に触れぬよう指示されたという。事実、放送された番組「あなたの資産をどう守る?超低金利時代の処方箋」では、郵便局の話題には一切触れなかった。
見識欠く森下氏
 「厳重注意」を下した会議を主導した森下氏は、「今回の番組の取材は稚拙、取材行為がない。インターネットを使う情報は偏っており、作り方の問題だ。郵政側の抗議への対応も視聴者目線に立っていない」「郵政の不満の本質は取材内容だ」などと発言したとされる。
 この発言は、第一に経営委員でありながら制作現場への理解に欠けている。制作の労苦への共感が感じられず、オープンジャーナリズムという新しい取材方法への理解もない。第二に、外圧から現場を守る防波堤を期待される経営委員の立場を忘れ、抗議してきた郵政の考えに寄り添うもので、「放送の自主自律」を全く理解していない。第三に、郵政の抗議がガバナンスを口実にした番組への抗議であることを知りながら、会長への「厳重注意」を主導、経営委員の個別番組への干渉を禁じた放送法32条違反である。
放送の自律に無理解
 会議で上田会長が「(経緯が)公になればNHKは存亡の危機に立たされる」と強く抵抗したことを、森下氏は「特に重大だとは思っていなかった」と国会で答弁している。これも「放送の自主自律」への無理解の極みだ。会議に先立つ9月25日、森下氏は鈴木郵政副社長と面談したが、この時点で、「経営員会は番組に関与できない」と断るべきだった。
  3月16日から24市民団体が呼びかけて森下氏の経営委員辞任を求める署名運動が開始された。この取り組みを新型コロナパンデミックスの陰に埋もれさせてはならない。                          小滝一志
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年4月25日号

posted by JCJ at 13:25 | NHK | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする