2021年09月22日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】踏ん張るアフガン女性記者

              
2109 アフガニスタンで取材する女性記者2019年10月カブール.jpg
       取材する女性記者=2019年10月カブール       

 9月2日から4日にかけアフガニスタンの首都カブールで活動家やジャーナリストが女性の働く権利を求めるデモ行進を行った。タリバンの戦闘員が催涙ガスを使い、参加者の一部が小銃の弾倉で殴られ、血を流したことなどが民放「トロ・ニュース」で報じられた。
 タリバンが首都カブールに進攻した8月15日以前、報道機関に働く女性は1700人以上に達していた(アフガン女性ジャーナリスト協会EPAW、2020年調査)。民間ラジオ、テレビ局で9月2日までに勤務を継続する女性は76人に減少したが、一部の女性記者らは、現場に止まっているとみられる。民放トロ・ニュースには女性記者の出演が続いている。しかしタリバンン広報官とのインタビュー(8/17)や反タリバン派の動きを伝えた女性アンカー、ベヘシュタ・アルガンドさんは危険性が増したとして数日後出国した。(8/30CNN)。
首都陥落以降も活動する女性記者(新聞も含む)は100人以下に減少したと「国境なき記者団」(9/1)は伝えている。
 国営放送(RTA)の女性キャスターが出社を拒否されたと動画をツイッターで投稿した。「出勤しようとしたら、男性は中に入れたが、私は止められた。“タリバンに体制が変わったのであなたは仕事が続けられない。放送局には近寄るな”」といわれたと証言する。国営放送では政権崩壊までは140人の女性記者がいたが、今は一人も働いていない。中部カズニ州のラジオ局ではタリバンが訪れ「女性の声を流してはいけない」と警告した(朝日Think Gender9/2)
 そして国営テレビからはコーランの朗読や宗教番組が流れるようになった。民放テレビは、タリバンを挑発することになる、として一部の音楽番組やポップなバラエティー番組を減らしつつある。
 9月8日に発足した新政権が「勧善懲悪省」を復活したとの報道もあった(TBSサンデーモーニング9/12)。この省は前回のタリバン政権で女性迫害や、言論抑圧を進めたことで知られている。
 こうした状況下でも敢然と職場に踏みとどまる女性ジャーナリストに国際的支援の手を差しのべる必要がある。
 隅井孝雄(ジャーナリスト)

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2021年09月04日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】視聴者激減のNBC、先行き五輪放送続けられるか=隅井孝雄

2109 .jpg アメリカの3大テレビネットワークの一つNBCネットワークが五輪放送権の独占を続け、五輪に支配的な影響力を発揮していることは今では知らない人はいない。
IOCは「無観客でも、NBCの放送がありさえすればいい」として、緊急事態宣言下でも開催に固執した。その判断を菅首相は歓迎し、開催一筋に邁進したのだった。

強気一筋だった

 NBCのジェフ・シェルCEOは開会前次のように強気の姿勢を語っていた。「前回2016年のリオ五輪でジカ熱感染症の問題があり人々は不安を抱えていた。だが開会式が始まるとすべての人々がそのことを忘れて17日間の五輪を楽しんだ。今回の東京五輪も開幕すれば同じようになる」(6/14ロサンゼルス・タイムズ)
 同じ日、NBCの東京五輪の広告収入が12億5000万ドル(約1370億円)に達し、記録を更新すると見込んでの発言だった。NBCによるとプライムタイムの30秒CM料はリオ五輪の15%増、12万ドル(約132万円)に達した。
 ところが世界の中で最も視聴人口が高いはずのアメリカ国内でNBCの視聴率が激減し最大スポンサーとして威力をふるっていたテレビ会社NBCに衝撃を与える結果となった。

視聴者42%減
 
 NBCは放送権として、IOC収入の75%を負担しているスポンサーだ(22~32年冬夏6大会の放送権料、120億ドル日本円換算約1兆3200億円)。IOCの五輪収入にも影響を与えかねない。東京五輪でNBCが負担し、IOCに支払っている放送権料は12億ドル(約1,300億円)と推定される。
 ところが、東京五輪の米プライムタイムの視聴者数は1550万人にとどまった。2016年のリオデジャネイロ五輪との比較では、42%の減少だった。開会式の視聴者数も1700万人弱、過去33年間で最低だった。
  NBCは広告主との間で、補償策について、五輪中の8月上旬から交渉を始めていると米メディアが報じ始めた(米ブルームバーグ通信)。 プライムタイムの体操女子のシモーン・バイル選手の棄権や、人気種目である陸上400メートルリレーの予選敗退など盛り上がりを欠いた、とNBCは説明している。またその他諸のテニスのココ・ガウラ(米)、ジョン・ラーム(米)、クレー射撃のアンバー・ヒルなどなど人気アスリートが数多く欠席したしたことも挙げられるだろう。
 また直前に感染増加で無観客になったことや、日本とアメリカの時差(東部時間で13時間,西部時間で16時間、いずれも夏時間)の影響もあり、プライムタイムに録画の放送が多かったことも、少なからぬ影響をもたらしたようだ。

無料動画に流れる
 
 視聴者がテレビ画面を離れ、「ピーコック」というストリーミングサービスで視聴する人々が増大したことも原因の一つに挙げられている。この会社は2020年4月、NBCの親会社「NBCユニバーサル」が発足させた無料動画配信だ。NBCは地上波テレビ、ケーブルテレビ、に加えて、ピーコックストリーミングも合わせて過去最長の7000時間放送をおこなった。地上波テレビの番組視聴者がじりじりと減少しつつあることに備えてのことだとみられる。若い世代がTikTokなどのソーシャル・メディアを通じて東京五輪を追ったことも伝えられている。また他のスポーツなどでも視聴率は落ち込み始めているとも報じられている。
 オリンピックも北京(2022冬)、パリ(2024夏)、ミラノ/コルティナ・ダンペッツオ(2026冬)、ロサンゼルス(2028夏)、インド、ムンバイ(2030冬)、オーストラリア、ブリスベン(2032夏)までは決まっている。しかしそれから先、果たして順調に開かれるのかどうか、放送権を巨額負担しているNBCがテレビ放送を続けることができるのかどうか、コロナの余波を考えると、オリンピックをめぐる混迷がどうなるのか、予想がつかない事態だ。   
 隅井孝雄(ジャーナリスト)
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2021年08月16日

【隅井孝雄メディアウオッチ】キューバでSNS活用の大規模デモ 政権崩壊も=隅井孝雄

                       
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 キューバ全土で、SNSと連動して反政府デモの波が7月11日、国中で一斉に起きた。この国では、反政府をスローガンに市民が立ち上がったことは珍しいが、市民の武器がSNSだったことも初めてだ。11日は日曜だった。そしてキューバのネット上にはこの日一日街頭デモの動画であふれた。しかしキューバ系の市民が多数いるアメリカ以外あまり伝えられていないので、私の知ることを、この場を借りてお伝えしたい。
 
数十年ぶり
 SNSと連動した抗議デモはキューバ全土で100か所に及んだとみられる。勇気をもって街頭に出た市民は3,000~6,000人に達するものとみられる
キューバでケータイを使ったデーター通信が使えるようになったのは2018年12月だった。政府は「近代化」の証として導入したとみられる。しかしその結果市民の側は政府の思惑を超えて「横のつながりを強める道具」としてネットを活用するようになり、情報統制と市民分断に風穴があくに至った。
  ワシントンポスト紙の報道によれば、人口の4割に当たる420万人の市民が携帯電話でネットを利用しているという(キューバの総人口、1132万人)。2019年にはLGBTの権利確立を求めるデモ,ゲーム好き集団SNETをつぶすな、デモなどがあった。また20年11月と21年1月には若手アーチストや知識人による文化省庁舎前での、表現の自由を求める大規模集会などが、ひんぱんに開かれていた。
活動家や独立系ジャーナリストはフェイスブックよりも、ワッツアップ、シグナル、テレグラムのアプリを好んで使っている。通信内容の暗号化しやすく警察や政府に傍受・妨害されにくいという特徴があるからだ。

日曜日早朝
 今回の7月11日のデモは3GのSNSにつながったキューバ市民が国中で一斉に街頭に繰り出し、政府への抗議の声をあげた。政治的自由と抑圧への抗議はもとよりだが、食料不足、コロナの感染拡大など、政府への批判の矢が放たれた。キューバでは停電が珍しいことではない。国の財政不足から、停電がひんぱんに起きている。医療品不足も深刻だ。病院に運ばれても薬がない。特にペニシリンやアスピリンなど、基本的な医薬品が全く不足している、

政府強権的
 こうした市民の行動に対し、キューバ政府は抑圧に乗り出した。キューバ内務省は13日、ハバナ郊外で暴徒となった複数の市民を拘束、うち一人が死亡したと発表した。しかし反政府グループは行方不明者が100人以上に達していると反論している。
 11日の街頭デモは当初は平穏な行動だった。しかしミゲル・ディアスカネル国家評議会議長が国営テレビに現れ、抗議の市民を「反革命分子、アメリカに操られて虫けら」と呼んだことで事態は一変した。治安部隊が出動、市民を次々に拘束する一方、デモ参加者はパトカーを転覆させ、政府の運営する店舗を略奪、放火の対象にした。
 SNS上には警察官や私服警察官らが、デモ参加の市民を殴る動画や、デモ後に行方が分からなくなった子供を捜している母親たち」と名乗る、警察署前の女性たちの動画などがみられたが、この日の夕方までにはインターネットがつながらなくなった。

 米強硬姿勢
 米国、バイデン大統領は12日、声明を発表,「われわれは、キューバの人々の自由への明確な呼びかけに賛同する。キューバ政府は、人々の声を封じ込める行動や暴力を控えるように求める」とのべた。また国務省プライス報道官は、13日の会見で「キューバ政府はインターネットの遮断、ジャーナリストや活動家への恣意的な拘束など、抑圧的な方法で人々の声を封じ込めている」と強い懸念を表明した。
 オバマ元大統領の時期に、一時的に両国関係の緊張が緩和の方向に向かったものの、今回のキューバ政権の抑圧的姿勢は許しがたいものと市民は受け止めている。

 国民の信えず
 キューバ当局は「国民は彼らの苦しみを食い物にする外国のプロパガンダに操られてきた」と主張する。ロドリゲス外相は11日の会見で「必ずしも意図的にネットを遮断しているわけではない。状況は複雑だ。停電が通信サービスに影響した可能性もある」とのやり取りがあった。
 表面で強権姿勢に見えるキューバ政府も、国民の痛みを意識していることが想像される。フィデル・カストロが亡くなった後、弟ラウル・カストロが一時継いだ。しかし、現政権を率いるディアスカネル政権は国民の信を得ているとはいいがたい。
アラブの春の再現もありうるように思われる。
隅井孝雄(ジャーナリスト)

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2021年07月29日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】AMラジオ切り捨てでいいか

 全国の民放ラジオ局44局がAM放送からFM放送に全面転換すると発表した(6/15)。FMへの移行は2028年までにはほぼ完了するという。
 ラジオといえばAMでの放送が定番だった。AM電波は広範な地域に電波を飛ばせるという特徴があるが、ビル障害に弱い。そこで設備を手軽に設置できるFM電波を併用する「ワイドFM」が採用され、2014年以降、ラジオ局がAMとFM電波の二つを使うことになった。
 ところがラジオ経営の悪化から、今度は2重負担が重荷としてのしかかるようになった。その上送信アンテナの設備更新などが迫られる時期が重なっている。いっそのこと設備が手軽なFM一本にしては、ということになった。推進したのは、高層ビルの林立で、ラジオ電波の難聴に悩んできたTBSラジオ、文化放送、ニッポン放送の基幹三局だ。
 今回の発表には北海道と秋田の民放3局が参加していない。広大な北海道全域をFM電波ではカバーしようとすれば、かえって膨大は経費がかかる。ABS秋田放送の場合も山間地が多く、FM放送でラジオ世帯の90%をカバーする経営体力がないという。北海道、秋田以外にも、県域局で電波が届かない山間部を取り残したままでFM転換する局も多い。
 さらに大きな問題は「ワイドFM」受信機そのものの普及率が53%にとどまることだ(三菱総研調査、19年)。「ワイドFM」を受信するためには90~94.9メガヘルツの周波数帯域を受信できることが必要だ。しかし多くの家庭で長年使われているラジオは90メガヘルツ未満の目盛りしかないので「ワイドFM」は受信できない。長年ラジオに親しんできた人の半数近くが切り捨てられる。
 ラジオの開始は1925年(大正14年)、96年の歴史を刻む。民放の開始(1951年)で一時期メディアの最先端に立った時もある。貴重なメディアだ。
 最近ラジオ聴取者が緩やかに増え、首都圏で週86万人を超えているという調査がある(20年6月ビデオリサーチ)。コロナ時代、在宅勤務など生活環境の変化から人々がラジオの有用性を見直し始めているのに、AMラジオ切り捨ては合点がいかない。
隅井孝雄(ジャーナリスト)。
               
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          大正、昭和初期のラジオ    
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2021年06月05日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】五輪異論を排除するNHK 役割を放棄

                      
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 抗議の音声消す
 今年4月1日聖火ランナーが長野市内を走っていた時のことだ、一瞬30秒ほど音声が中断した。NHKは「聖火リレーライブストリーミング特設サイト」を設置し、動画配信をしている。ところが長野市内で「オリンピックに反対」「オリンピックはいらない」などの声が入った。そしてその瞬間音声が消えて、映像だけになった。
 東京オリパラ反対運動をしている人々がデモ行進し、その声が入ってきたのだ。
 NHKは「五輪反対の声を意図的に消したのだ」とみられている。この事実に抗議した市民団体は「NHKは東京オリパラ当事者のように、開催準備を進め、異論を排除している、メディアとしての報道を放棄している」と批判している
 NHKには前歴がある2019年6月沖縄戦没者追悼式に出席した際、来賓挨拶に立った安倍首相(当時)に対し会場から「もりかけ」(森友、加計)、「嘘つき」、「帰れ」などのヤジが飛んだ。それを中継していたNHKは消したのだった(民放は流した)。

 Nスペ中止命令
 1月24日NHKスペシャルで「令和未来会議、どうする?東京オリンピック・パラリンピック」という番組があるとTVガイドに載っていた。見ようと思って待ち構えていたところ、内容が全面差し替えになり、「わたしたちの目が危ない」というどうでもいいような番組(再放送)に差し替えられた。前例のない出来事だ。
 『週刊現代』(2/13)が「Nスぺ五輪特集がお蔵入り、局内騒然、官邸の影」、「前田晃伸会長が総理に言われて差し替えたか、忖度したかのどちらかだ」、と報じた。五輪問題のNHKスペシャルは、諸外国からの観客を受け入れないことが決まった後、3月22日にようやく放送された
 ところがこの放送中止のいきさつが「NHKと政治と世論誘導」というタイトルで『世界6月号』が詳しく記載したことから改めて問題となった。
 それによれば、収録中止命令が出たのは1月17日に収録する予定が進んでいた僅か2日前の1月15日のことだったという。1月24日の放送されることは、すでに正式の告知もされていた。スタジオのセットの建て込みも行われていた。
 2日後の収録、1月24日の放送の延期を指示したのは正籬聡(まさがきさとる)放送総局長だったことが明らかになった。ちょうどこの時期は感染が加速度的に増加し、世論調査で東京オリパラ中止が勢いを増す時期と重なっている。番組の中でオリパラ中止の論調が広がる可能性を危惧したのではないか、と私は思った。
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 NHKの2021年度国内は放送番組には「東京オリンピック・パラリンピック開催の機運を高める編成」という項目がある。そのため世論調査の方法も変えた、1月までは開催、中止、延期の3択で、延期と中止が8割近くとなった。2月からは開催、観客制限、無観客、中止の4択となり、開催系が6割、中止が3割なったが、5月には開催系44%、中止系49%に戻った。
 NHKは五輪開催に固執する菅政権の後押しをしているのだ。受信料に支えられているのに、メディアの役割を自ら放棄したといえよう。
隅井孝雄(ジャーナリスト)
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2021年05月05日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】衰退著しい日本の新聞 生き延びる方策は?

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 先日私の家に読売新聞がやってきて、「今日から一週間新聞を無料配達させていただきます、よろしければ購読をお願いします」と言ってきた。しばらくして再度やってきた読売の人が購読を勧めた。私は出身が日本テレビだし、心が動いたが、すでに3紙購読しているので丁重にお断りした。“販売の読売”と言われるが、購読すると答えたらどんな景品がつくのかを聞きたかった。
 
部数減止まらず
 2020年10月の調査(新聞協会)によると、新聞の全国総発行部数は3509万1944万部だった。日本の新聞の最盛期は1990年、その時は5367万5000部を記録した。30年間に、1858万3056部(34.6%)が消えうせたことになる。
 主要全国紙の21年1月度の発行部数は次の通り。読売7,310,734, 朝日4,818,332. 毎日2,025,962, 日経1,946,825, 産経1,223,328(日本新聞協会ABC部数)(注:ABCとは新聞雑誌の実売部数を調査する第三者機関)。昨年同期比でみても読売58万部、朝日43万部、毎日28万部を減らしている。 .
 日本で情報メディアの雄として君臨してきた新聞も、今や経営危機にあえぐまでに至った。朝日新聞の場合2020年9月期の中間決算で419億円の赤字を計上した(前年同期は14億円の黒字)。社員の希望退職者100人以上の募集を始めた。朝日以外も産経新聞や毎日新聞が19年に希望退職を実施しているほか、共同通信でも20年に自然減や採用抑制で社員を300人規模で減らす方針を明らかにしている(ダイアモンド誌3/27)。
 テレビ、新聞、雑誌、ラジオの4媒体広告費もインターネットの流れが強まった。2020年度ではマスコミ4媒体広告費2兆2536億円に対して、インターネット広告費は2兆2290億円と迫り、逆転目前とみられる。
 しかし私は新聞が今の苦境から脱出するカギは必ずあると思う。
 
NYTの電子版
 アメリカを代表する新聞、ニューヨーク・タイムズは2020年12月、電子版の有料購読者が前年比48%増、509万人に達したと発表した。1年間で166万人増えたという。アプリや紙媒体を含めると総有料購読者は750万人をこえる。
 「新型コロナウイルスの感染拡大や米大統領選を通じて、米国民の間で信頼できる情報や質の高い報道への関心が高まったことが有料読者の拡大につながった」といわれる(2/5日経新聞)。またトランプ元大統領に対する批判の姿勢に揺るぎがみられなかったことも、信頼感の要因となったとみられる。
 私は1986年から1999年までニューヨークに滞在していたが、そのころのニューヨーク・タイムズは100万部にも届かない“ニューヨーク地方紙”にすぎなかったことを考えると、隔世の感がある。今は全国紙というより、全世界紙といえるかもしれない。
 ニューヨーク・タイムズは2008年のリーマンショックの際、広告収入がガタ減りし、経営危機に陥った。その際本社ビルの一部を売却して凌いだ。そして2011年有料電子版の発刊をスタート、編集局の体制を、紙媒体の編集、印刷、発送、配達の体制から、電子版中心のデジタル体制に全面切り替えをしたことが今日の成功につながった。記者の数も、1,550人(2019年4月)から1,700人(2020年4月)に増強、また、2020年第2四半期には、電子版の売り上げ(購読料と広告収入)が紙媒体を初めて上回った。(2020.12.22文春オンライン)。編集面でも読者の知りたいこと、読者に知らせたいニュースを満載している。
 日本では日経新聞が電子版で最も成功しているといわれている。電子版読者数は76万244件と発表した(1/15 日経オンライン)。紙媒体との合計は275万3376件。朝日新聞も電子版拡大に力を入れているが有料読者は32万件にとどまっている。(→続きを読む)

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2021年04月01日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】反国軍のミャンマー市民 フェイスブックで映像投稿を続行

ミャンマーでフェイスブックが国軍を相手に果敢に戦っている。
フェイスブックは2月21日、国軍の運営するページを「暴力行為を扇動している」という理由で閉鎖した(2/21AFP)。
続いて27日には国軍が支配するメディアなどによる利用、国軍系企業による広告出稿も禁じた。削除対象には「軍高官や軍に関連するネット TVミヤワディなど20の個人、組織なども削除した」ことを明らかにした(/27ロイター)。
ミャンマーでは、クーデターの直後インターネットが不通になったが、今は深夜と早朝を除き利用できる。フェイスブックなどSNSは国軍が使用できないような措置をとった。しかし市民の多くはVPN(仮想プライベートネットワーク)を経由してフェイスブックその他のSNSに復帰している。

普及率は94%
ミャンマーでは、2011年の民政移管以来、スマートフォンを多くの市民が手にするようになった。スマホの普及は人口5700万の半数以上、およそ2900万台に達しているとみられている。ツイッター、インスタグラムなどを含むSNS全体の中でフェイスブックのシェアは94%と断トツだ。
抗議活動もZ世代の若者たちが、フェイスブックで連携している。2月22日のゼネストも若者のネット経由の呼びかけで、ミャンマー全土で展開された。参加した市民は100万人に上る。ニューズウイーク(日本版3/16)が伝えるところによると「治安部隊の発砲で頻発する死亡事故に際しても、現場で、担架で運ばれる負傷者の姿や、銃撃を受けて倒れる市民を捉えた映像が次々にフェイスブックなどネット映像で拡散している」と伝えている。

国軍の発信元は
ミャンマー国軍は2月22日、2万3000人の服役者を釈放した。抵抗をやめない市民に恐怖感を植え付ける手法だ。1988年のクーデターの際にも同じ手法を軍はとったのだと伝えられる。そのあと放火、略奪、誘拐など事件が次々に起きたことの繰り返えしが予想される。
それに加えて今回はスマホの自撮りで「今夜俺はパトロールに出る、アウンサンスー・チーを支援する奴ら(マザーファッカー)は撃ちぬいて殺してやる」( ニューズウイーク日本版3/16)などという脅迫まがいの映像も流れた。
これら軍協力者や軍関係者の発信源はTikTokだというのも意味深だ。軍関係者が中国の支援を受けている証拠になるというわけではないが、フェイスブックの使えない軍や軍支持者らが中国発のアプリに親和感を持っていることはありうる。
 
名誉挽回図る
2018年、イスラム系少数民族ロヒンギャ虐殺事件が起きた際、フェイスブックは「憎悪拡散に十分な対応をとっていない、むしろ都合の良いプラットフォームになっている」との批判を、国連ロヒンギャ問題調査団から受けた。今回はその批判からの名誉挽回をフェイスブックは試みているものとみられる。
ニューズウイークはミャンマーのある市民の声を伝えている。「私たちはこの瞬間にも、隠れながらスマホで撮影し、フェイスブックに投稿を続けている。軍が私たちの分断を画策しているが、市民は結束してフェイスブック武器に連帯を示す」。

記者らを迫害
ミャンマーの独立系インターネット有力メディア「イラワジ」はクーデター以来、一貫して国軍批判の報道を続けてきた。ところが3月12日「社会の不安をあおっている」として軍事政権から告発をうけた。記者個人への迫害は多くみられたが、メディアが組織として告発されるのは初めてのことだった。
これに前後して国軍は15日までに39人のジャーナリストを逮捕、解放の条件としてデモを報道ないという誓約書への署名を強制しているという。
また17日までに「スタンダードタイムス」、「ビルマの民主の声」など5紙の新聞発行が停止された。「ミャンマーナウ」の編集長(新聞とネットの両方を出している)は「報道を継続すれば投獄や殺害の危険があるが、国軍の非道な犯罪を取材し続ける」と表明した。「ミャンマーナウ」は今後インターネットを通じて報道する。
3/29の時点で、ミャンマー市民デモの死者は423人に達した。世界の批判を浴びながら、ミャンマー国軍は弾圧拡大し続けている。一方市民の側は犠牲者を出しながら、抗議デモは止まらずに続いている。
ミャンマーの平和の回復を祈るほかはない。
隅井孝雄(ジャーナリスト)
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2021年03月23日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】今こそ通信放送認可の第三者委員会の設立を

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  米バイデン政権が就任早々の1月20日、真っ先に取り組んだのは「言論の自由」だった。
1月20日、新大統領の仕事ぶりに接しようと集まった記者団の前に現れたのは新任のジェン・サキ報道官。「私は独立した報道に深い敬意を持っている。米国民に正確な情報を提供する目標は共有している」、「(大統領も私も)透明性と真実に重きを置く」と語った。前のトランプ政権とは大きな違いだ。

 切って捨てる返答
 菅義偉首相は8年の長きにわたり官房長官として政治をとりしきってきたが、その間に様々なネガティブルールを作り上げてきた。例えばコロナが再拡大後初めての1月4日の総理記者会見は6人の記者が質問しただけで打ち切られた。「幹事社以外は一人1問、再質問は認めない」、「会見出席は一社一人に限る」というのが、彼が設定したルールだ。
官邸会見室は120席あったのがコロナを理由に29席に減らされた。そのうち内閣記者会外加盟社が19席を占める。残りの10席を専門記者会、雑誌協会、ネット協会、外国メディア、フリー記者が抽選で分け合う。(ちなみに、内閣記者会の正会員社は103社、365人)。
2月28日に、大阪など6府県の緊急事態を解除した際には、首相会見も開かず、26日にぶらさがり(立ち話)で記者たちの質問に答えるにとどまった。菅首相が首相広報担当にした、汚職問題が発生した山田真貴子広報官を擁護するためであったとみられる。3月1日山田広報官は辞職した。
  官邸記者クラブの一問一答を聞いていても民主主義からは程遠い、切って捨てるような返答か政府から帰ってくるだけだ。「透明性」と「真実」を回復したアメリカのメディアと政治の関係はうらやましい限りだ。(ホワイトハウスの記者会証を持つ記者は750人前後、会見室は狭い部屋で49席を分け合っている)。

 問題抱えるNHK
 放送に目を転じると、NHKと政府の癒着が著しい。かんぽの不正を伝える番組を中止(2018年4月)させた張本人である森下俊三氏(当時経営委員長代行)がその後経営委員長に昇格、今回再任された(3/9)。経営委員会が番組には介入してはならないという放送法があるのを無視して菅首相が決定したものである。森下氏は今回問題になっているNTT出身だ。経営委員会の委員長職務代行に選任された村田晃嗣(同志社大教授)は右翼的言辞で知られる。
 一方、市民の間に人気のNHK、有馬嘉男アナ、武田真一アナの降板が発表された。昨年10月首相に選出された初出演(10/26)で、有馬アナは日本学術会議問題について質問を重ねたことが原因で、官邸の怒りを買い、降板につながったといえる。原聖樹政治部長のもとに官邸から𠮟責の電話がかかってきたと伝えられる(週刊文春2/25)
武田アナの場合は二階博幹事長の出演に際し、「政府のコロナ対策は十分なのか、さらに打つ手があるとすれば、何が必要か」を問いただした。それが二階氏の逆鱗を買ったのだといわれる(週刊文春2/25)。
 NHKスペシャルで「令和未来会議、どうする?東京オリンピック・パラリンピック」という番組があるとTVガイドに載っていた。見ようと思って待ち構えていたところ、内容が全面差し替えになり、「わたしたちの目が危ない」というどうでもいいような番組に差し替えられた。前例のない出来事だ。週刊現代(2/13)が「Nスぺ五輪特集がお蔵入り、局内騒然、官邸の影」、「前田晃伸会長が総理に言われて差し替えたか、忖度したかのどちらかだ」、と報じた。五輪問題のNHKスペシャルは、諸外国からの観客を受け入れないことが決まった後、3月22日にようやく放送されたが、内容は薄いものだった。NHKがかくも政府、自民党に屈している姿は、民主主義とは程遠い。(→続きを読む)
(→続きを読む)
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2021年02月26日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】永久凍結のトランプTWと言論の自由 メルケルの真意は?

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 トランプが表舞台から去った。議会占拠事件でツイッターが凍結されたことは、さもありなんと思う。その一方弾劾裁判に問われていたトランプ氏に対し、米上院は2月13日無罪を表決した。
直後トランプ氏は次のような声明を発表した。
 米国を再び偉大にする素晴らしく歴史的、愛国的運動が始まった。今後数ヵ月内に私は多くのことをあなた方にお伝えする。そして米国の偉大さを達成する旅を皆さんの共に続けることを楽しみにしている」。
 トランプの今後の動きは、アメリカ社会にとって無視できないことも現実だ。
 共和党で弾劾賛成の票を投じたのはわずか7人の共和党議員に留まり、出席議員の2/3にはるかに及ばなかった(有罪支持57票、無罪支持43票)。

完全禁止の意見が
 トランプツイッターの凍結は、トランプ支持派による1月6日の議事堂(キャピトルヒル)占拠事件がきっかけだった。しかしトランプツイッター凍結の動きは早くからあった。
 ツイッター社は昨2020年5月26日、「カリフォルニアの郵便投票は不正の対象になる」とのトランプ投稿に対し、「事実確認が必要だ」との画面をかぶせ、一回クリックしない限り直接文面を見ることができなくなった。その2日後、5月25日のジョージ・フロイド事件でもツイッターはトランプの投稿に対しも、「暴力をたたえる内容は、ツイッターの倫理綱領に違反だ」、かぶせ画面で直接見られない措置をとった。
 その後選挙戦激化とともに、トランプツウィ―トのほとんどが「真偽が疑われる」、「誤解を招く」、「事実確認が必要だ」など、かぶせ画面の対象となった。しかし「大統領としての公職にあり、トランプ発言を社会が知ることも必要だ」としてクリックすれば発言を視聴できる措置をとっていた。トランプツイッターを完全に禁止せよとの意見はツイッター社に繰り返し寄せられていた
 1月6日、トランプの呼びかけに応じた支持者らが米議会に乱入、3時間にわたって占拠する、という事件がおきた。折から議会ではバイデン氏を大統領当選者とする議事が進行中だったが中断、当選確定は7日早朝となった。事実上のクーデターだと意見も根強い。
 米ツイッター社は、1月8日「暴力行為を扇動する恐れがある」としてトランプツイッターのアカウントを永久凍結したと発表した。一方、トランプ支持者の多くがツイッターの代替えとして使うSNSアプリ「パーラー」については、グーグル社が8日、アップル社が9日、凍結、削除した。ツイッター社は永久凍結の理由として、「1月17日も連邦議会や各州議会を襲撃する計画もツイッターなどで拡散されている」ことを明らかにしている。
 CNNが入手したFBI文書によると、大統領就任式以前にトランプ派、急進派(Qアノンなど)が全米50州の州議会を乗っ取り、首都ワシントンでは就任式の20に「武装デモ」の計画があったという。

報道官による発言
 ところでトランプツイッターの凍結に対し、一部に言論の自由の自由に反するのではないかとの意見が出ている。私はSNSの無制限、無規律な現状を改めためる一環としての「トランプツイッター凍結」が正当であることを主張したい。
 巷間誤って伝えられるのは、ドイツのメルケル首相(写真)が凍結に異を唱えたという点だ。しかしメケル本人の発言ではなく、報道官によって発言したものであったという。しかもメルケルはトランプの憎悪に満ちた発言、暴力をそそのかす発言を強く批判している。
 ドイツではSNS上でのヘイト発言を規制する場合、連邦刑事庁に該当する犯罪的コンテンツを報告することを義務付ける法改正を昨2020年6月に行った。
 アメリカでは私企業であるSNS各社が、各社ごとの倫理規定に従って「かぶせ」、「削除」、「アカウント禁止」の削除を行っている。
メルケル首相の発言はドイツSNSヘイト対策に公的機関の関与を取り入れている事実を説明したものであった。制度上、違いがあることを指摘したのがメルケル発言であり、国際的には何らかの公的関与が必要であることを訴えたものであった。(→続きを読む)
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2021年02月11日

【隅井孝雄メディアウオッチ】ホワイトハウス メディアへの対応が変わった

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  1月20日、アメリカ大統領にジョー・バイデン氏が就任した。トランプ氏が去ったその日、ホワイトハウスではジェン・サキ大統領報道官(写真)が政権発足後初の記者会見を行った。サキ氏は「独立した報道に深い敬意を持っている、皆さんと一致できないことがあるかもしれないが、アメリカ国民に正確な情報を提供するという目標を共有している」と述べた。「透明性」と「真実」に重きを置く広報官の姿勢は、トランプ前政権からの転換を強く印象付けるものだった。
 このニュースを聞きながら私は2017年1月11日、トランプ氏が当選後初めて開催したトランプタワーでの記者会見の光景を思い起こした。世界中から記者が詰めかける中、CNNのジム・アコスタ記者が再三手を上げ発言を求めたことに対し、CNNをフェイクメディアだとして、質問を最後まで認めなかった。
 トランプ氏は後に大統領会見でアコスタ記者のホワイトハウス記者証を取り上げる暴挙を行った(2018年11月)。米メディアは団結して抗議、ワシントン地裁の記者証返還命令もあり、11日後に記者証は戻された。コロナウイルスに関しては昨年3月に連日開催を始めたが、誤った発言を繰り返したことを指摘され、昨年4月29日以降定例会見を中止、もっぱらツイッターに頼った。
 米大手メディアはトランプの4年間、トランプ発言の検証を心掛けてきた。トランプ支持のFoxテレビがバイデン氏の当選を認めたあと、右翼勢力は彼らの見解に同調するインターネットテレビ「ニュースマックス」に流れているという。
 「報道特集」金平茂紀キャスターはアメリカの変化を伝える中、サキ報道官の初会見にも言及「会見は発言を求める記者たちが納得いくまで続けられた。日本の記者会見とはなんという違いだ」とのべた(1/23)。

1月4日の総理年頭会見はコロナの感染者数が急上昇している中多数の記者たちが手を挙げているのに6人の記者が質問しただけで打ち切られた。官邸広報官は、「幹事社以外は一人一問、再質問は認めない」と釘をさした。出席するのも一社一人に限られている。
日本のメディアにとって「透明性」と「真実」という言葉は重く響く。
隅井孝雄(ジャーナリスト)

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2021年02月04日

【隅井孝雄メディアウオッチ】 ディズニー+(プラス)名作の差別表現に注意を促す

オンライン上で昨年6月定額有料配信(月額700円)を日本でも開始したディズニー+は、昨年10月差別用語を含む映画の冒頭に視聴者の注意を喚起する表現を入れ始めた。
 「この作品には、人々や文化の否定的な描写や不当な扱いが含まれています。これらの偏見は当時も今も待つがっています」。
 例えば「ピーターパン」では先住民を、蔑称である「レッドスキン」と差別的な呼び方が何回も使われている、としている。「おしゃれキッド」では、つり目で前歯を強調したネコのキャラクターについては「東アジアの人たちを差別するような発言で、固定観念を雇用している」と解説します。この猫は流ちょうではない英語で歌を歌い、箸を使って上手にピアノを弾くシーンもある。「ダンボ」では黒いカラスの集団が、奴隷だったアフリカ系アメリカ人の物まねをして見せる、などの差別的シーンが登場する。
 「わんわん物語」や「ジャングルブック」の作品解説には、最後の部分に次のような一文が加えられた。「この作品は制作された当時のままの状態で公開されています。時代遅れの文化的表現を含む可能性があります」。しかし作品のカットや編集などは一切していない。
 また、ディズニーはアニメ内での喫煙に関する描写に対しても、「煙草に関する描写を含んでいます」との注意書きを入れた。
 
 ワーナーブラザーズも問題表現を含む古いアニメ作品について、開始前の画面で、次のような字幕を入れた。
 「この作品は一時代前の産物です。劇中には、当時のアメリカにおいて蔓延していた特定の民族や人種に対する描写が含まれている可能性があります。これらの描写は当時においても現代においても誤ったものです」。
 このような措置が講じられた原因は、昨年5月の警官による黒人ジョージ・フロイド殺害事件を契機におきた「ブラック・ライブズ・マター」運動の大きなうねりだ。米エンタメ業界は一斉に人種差別的表現を自省し、多様性の反映の模索を目指す動きを広げたのだった。
 ディズニーは「有害な影響を認めてそこから学び、より包括的な未来を共に作るための対話を巻き起こしていきたい」と説明している(京都新聞2020年12月29日)。

 なお、劇場映画の部門でも20世紀Foxの作品をネット配信している「HBOマックス」が、昨年6月以降「風と共に去りぬ」の配信を停止している。HBOマックスの広報担当は「不幸にも米社会で一般的だった民族や人種への偏見の一部を描いている」とその理由を述べている。
 隅井孝雄(ジャーナリスト)
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2021年01月16日

【隅井孝雄メディアウオッチ】 プライムタイムに大量マイポイントCM 菅政権のデジタル推進政策がバックに

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  「マイナポイント」という名のスポンサーによる番組提供、あるいはスポットCMが高視聴率の時間帯(プライムタイム)に連打されている。一連のCMの実際のスポンサーは総務省だ。今登録すると5000円相当のポイントが付くと宣伝されている。

普及促進へ巨費
  菅政権の目玉政策の一つデジタル庁創設に368億円という巨費が計上された(2021年度の政府予算)。さらなる目玉はマイナンバーカードの普及。普及促進には1001億円が割り当てられた。
  国民のマイナンバーカードに対する拒否反応は根強い物がある。20年12月現在約3002万枚(人口の23.6%)の交付に止まっている。22年末までに全国民に行き渡らせたいと菅政権は考えているのだが、現実には不可能だ。
  マイナンバーカードは裏面に個人を認証できるICチップを搭載し、オンラインで本人確認ができる。「マイナンバーカードは安全安心で、利便性も高い、『デジタル社会のパスポート』だと認識いただきたい」と平井卓也デジタル改革担当相は国民に呼びかけている(東京新聞11/22)。

PRジャンジャン流す
    政府はカード普及策として、カードを取得した人を対象に食事や買い物に使える5000円の「マイナポイント」を還元する申し込みの受付を昨年7月から開始した。100種類以上の決済サービスと連動、21年3月31日まで使える。
  そこで登場したのはTVCMだ。舘ひろし、深川麻衣、飯尾和樹(お笑いコンビずん)などが白いぬいぐるみで登場して、「子供も対象、4人家族で2万円」などと宣伝しえいる。未成年でもキャッシュレスレスサービスに登録さえすればマイナポイントをもらえることなどを売り物にしているのだ。
  マイナポイントのTVCMには、広報費53.8億円のうち2020年7月から10月までの3ヵ月間に18億円が投入された。この間に「マイナポイント」として流されたCMは朝から深夜まで115回に達したという(11/19赤旗)。

電子決済安全性は?
  政府の説明では、マイナンバーカードは利用者にとって、個人としての身分証明になるほか、健康保険証として利用され(2021年3月から)、スマホにも搭載できるようになる(22年度中)。そして全国民がマイナーバーカードを取得すれば(22年度末目標)、将来的には運転免許証と一体化する(26年度、前倒しもある)、という計画だ(11/22東京新聞)。
TVCMの説明だと写真付きだから安全だとか、紛失しても24時間連絡できるというが、その程度ではマイナンバーカードの漏洩や、悪用が止められる保証にはならない。
昨年9月、郵貯がデビッド・プリペイド・カード、mijikaが悪用され、この電子決済サービスの登録者、550万人にとっては、郵貯口座を他人に引き出される恐怖にされたことを思い起こす。マイナポイントの大々的な利用はマイナンバーカード本体の安全性をも脅かす危険性が懸念される。
隅井孝雄 (ジャーナリスト)
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2020年12月30日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】 東西二つの報道番組40年

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二つの報道番組、「映像20」(毎日放送=写真上)と「報道特集」(TBS=写真下)がともに40周年を迎えた。
 「映像20」は1980年4月に「映像80」として放送を開始、毎月最終日曜日の深夜0:50~1:50、関西地区のローカル放送だが、芸術祭賞、民間放送連盟賞、ジャーナリスト会議賞、国際エミー賞などおよそ140回も受賞、内外からの評価が高い。
11/29日の放送では「映像シリーズ40年〜関西発・真夜中のドキュメンタリズム」と題して、40年の歳月を振り返った。
 番組を作っているのは報道局ドキュメンタリー報道部、プロデューサー一人にディレクター4人。制作費はプライムタイムの番組の10分の1、20分の1ほどだが、制作者たちの創造性、先見性で補っていることが、優れた番組を生み出す基礎だ。
「報道特集」は当初「JNN報道特集」として1980年10月に放送が始まった。毎週土曜日17:30~18:50、TBS系列28局の全国放送。掘り下げた調査報道との評価が高い。
 TBSは1960年代、“報道のTBS”といわれた。看板番組「ニュースコープ」田英夫キャスターがベトナム取材報道を政府から咎められて退社(1970)、同じ頃、他の民放の報道系番組にも政府の干渉が続き“沈黙”の時代に入った。
 1980年代報道番組の復権を担ったのが「報道特集」だ。折からフィルムカメラに代わりENGカメラが現場に定着、どこへでも取材に入りたいという現場の記者たちの意欲に応えた。当時アメリカで評判だった報道番組「60ミニッツ」(米CBS,日曜18時)に触発されて週間のまとめ報道枠が誕生した、と初期のキャスターの一人田畑光永氏は語る。
 スタートに当たって「四つのコンセプト」が作られたと証言がある(現プロデューサー辻真氏)。1. 調査報道に取り組む、2. 評論家ではなく当事者の証言を、3. 賞をとることを目指さない(実際には新聞協会賞など多く受賞している)、4. 番組の飾りはできるだけ排する(11/25. 民間放送)。
 最近でも「桜を見る会」、「日本学術会議」などでの調査報道は活発に続けられている。民放報道の健闘を望みたい。
隅井孝雄( ジャーナリスト)。
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2020年11月30日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】 トランプのTW閉鎖か 問われる安倍前首相のSNS虚偽発言 

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 ツイッターを駆使して世界に君臨してきたトランプ氏は米大統領の地位だけではなく、ツイッターも使えなくなるかもしれない。
 11月17日、米議会の公聴会に出席したツイッターのジャック・ドーシーCEOは「指導者の地位にあるため独別な例外措置を認めているが、大統領の地位を失えば特権を失う」と述べた。
虚偽発言18000回
 トランプ氏は、これまでSNS上での「虚偽発言」が大統領就任以降18000回にも上っている。そのうち3600回がツイッター経由だった、と米紙が報じた。大統領選挙後はさらに「落選」を認めない発言が、連続しているのだが、ツイッター社はこれも「虚偽発言」みているようだ。
 ツイッター社は通常なら削除されるかアカウント自体を取り消される「トランプ氏の虚偽の投稿」を「事実確認が必要」、「投稿の一部に真偽が疑われる記述を含む」などのラベルを付けて掲載してきた。しかし大統領としての「公益性のある地位」を失えば、「虚偽投稿を繰り返す」人物はアカウント凍結措置が取られるのがルールだとドーシーCEOは米議会で述べている。
 2020年5月26日のトランプ大統領の2本のツイートは、カリフォルニア州の郵便投票は不正の対象になるとの投稿だった。これに対し、ツイート社は「事実確認」ラベルをつけた。また5月28日のジョージ・フロイド事件の抗議デモに対するツイッターは自動表示されないようにしたうえで、「暴力をたたえる内容はルール違反だ」と注釈をつけた。
 11月3日の投票日以降もツイッターは数多くのトランプツイッターに対し、「事実確認必要」、「真偽が疑われる」、「誤解をまねくおそれあり」というカードをつけ、クリックしないと閲覧できない、などの措置をとってきた。
 一方、「法の下で市民権を求める弁護士委員会」や、政治監視団体の「コモン・コーズ」などはこれらの措置に納得せず、トランプアカウント凍結を求める公開書簡を送っている(11月12日)。
 FB、アカウント削除
 フェイスブックもトランプ投稿など、内容が虚偽である、または暴力を推奨するような投稿に対し削除するなどの対応をとっている。例えば「コロナはインフルエンザほど致命的ではない」とするトランプ投稿(10/6)を誤った情報だとして削除した(同じ文面のツイッター投稿は自動閲覧できないうえで、注意喚起の表示がついた)。
 またAFP通信によると、多数の偽アカウントを使ってトランプ大統領を称賛する運動が展開されたとして、フェイスブックのアカウント200件と記事55ページ、インスタグラムアカウント76件を削除したことをフェイスブック社が発表したと伝えている(10/8)。
 更にトランプ支持グループ「Stop the Steal(選挙を盗むな)」のフェイスブックページを閉鎖した。このグループは全米で35万人のメンバーがいて、トランプ支持のデモを計画していた。議会公聴会で証言したマーク・ザッカーバーグCEOによると、「暴力を誘発する恐れがあった」という(11月17日)。
 オバマにかなわない
 トランプ氏がツイッターを始めたのは2009年3月。著書を出版こととなり、どう売り出すか話し合いが行われた。その席上出版会社の編集者からツイッターについて説明があり、興味を抱いたのがきっかけだった。しかしすでに有名だったトランプの偽ツイッターがあり、アカウント名を「@real DonaldTrump」にしたという。
 大統領選挙直前の11月1日に時点のフォロワーは8736万。一日平均のツイート数11件。よく使う言葉は1.「Make Amerika Great again」,2.「Fake News」、3.「Witch Hunt」,4.「Deal」。(毎日新聞11/1)だと報道されている。
 フォロワー数ではバラク・オバマ氏の1億2590万人にはるかに及ばず、世界7位に低迷している。ちなみに2位はジャスティン・ビーバー(1億1,100万フォロワー)、3位はケイティ・ペリー(1億1,000万人)。
 日本は野放し状態
 ところで日本ではツイッターもフェイスブックも厳格な規定がなく、まして大物政治家の虚偽発言に対抗して、削除することなどは考えられない。
 例えば、安部晋三前首相だが、2018年の桜の会、前夜祭の参加費を補填した事実が明らかになった(11/23)。安倍前首相は在任中「経費補填はしていない」と言い続けてきた。
 安部氏が2019年秋の臨時国会と20年年の通常国会で事実と異なる答弁を少なくとも33回行ったことを衆院調査局が明らかにしている。
 安部氏が代表を務める資金管理団体晋和会は懇親会代金の不足分として、5年間で800万円をこえる。この支出は公選法違反の買収にあたるとして野党側が追及してきた。さらに東京地検特捜部も秘書らに事情聴取している。
 後援会員らに経費補填したことが発覚した以上、アメリカであれば、「虚偽発言を続けた人物」のツイッターもフェイスブックも徹底的に調べる。もしその発言の中に虚偽があれば、閉鎖することになる。首相としての特権的地位を失い、公益性のかけらもないのだから。
 安部氏や官邸のツイッター、フェイスブック、インスタグラム、ラインなど一連のSNSでフェイクが流されていれば、閉鎖を含む対抗措置が取られなければならないだろう。
 隅井孝雄(ジャーナリスト) 

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2020年11月02日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】 菅首相 NHK受信料義務化を画策か 総務省「有識者会議」諮問 当惑広がる

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 総務省は10月16日に開かれた「有識者会議」で、NHKの受信料の支払い義務を放送法で明確することの是非について検討を求めた。「有識者会議」とは総務省が設置する懇談会で、これまでもNHKのありかたについての検討を重ねてきた。しかし受信料は「届け出制」として続いてきており、今回突然提起された「義務化」の検討については、メディア関係者の間で困惑が広がっている。
 当事者すら戸惑い
 受信料の義務化の是非についてはこれまで長年にわたって議論されてきたが、2017年の最高裁大法廷の判断により、議論はすでに解決したと見られていた。そこにその趣旨とは全く異なる、義務化の検討を総務省が有識者会議に付託したことは、当事者であるNHKすら戸惑わせている。
 NHKの正籬(まさがき)聡・放送総局長(兼副会長)は、「NHKから要望したものではない。受信料は、視聴者の納得や理解のもとで支払われるべきだと考える」(10/21)と述べ、義務化に慎重姿勢を示した。正籬放送総局長は同じ記者会見で「視聴者との契約というやり取りの中で、NHKが自らの役割や受信制度の意味を丁寧に説明し、関係を構築するプロセスが重要だ」と語っている(毎日新聞10/21夕刊)。まともな主張だ。
 NHKすら初耳の諮問義務化推進は、菅政権独自の判断によってなされたものと言えよう。
 菅首相は総務相だった2006年、受信料義務化を受信料2割り引き下げとセットで提案したことがあるが、実現しなかった。今回その持論の実現を図ったものとみられる。「ケータイの次はNHKをやれ」と菅首相が側近に極秘命令したというニュースも流れている(週刊文春10/29)。
未契約者把握を
 NHKは不払い家庭訪問のための営業経費が昨年度759億円にも達した。経費削減を総務省や「有識者会議」から再三迫られている。そこで未契約家庭がテレビ設置しているか、事実未設置なのかを知る必要があると、「有識者会議」に求めている。
 その方法としてNHKが提案しているの、ガス会社や電力会社などの公益事業者に紹介できることを求めている。NHKが恐れているのは、将来的なテレビ世帯の減少、イコール受信料収入減だ。そのために、未設置者にも届け出を義務づける必要があるとNHKが考えていることがうかがえる。しかし設置者、未設置者の両面を把握する届け出は、受信料の支払い義務に等しい。
届け出制維持
 最高裁が3年前にどのような判断を示したのが、改めて見直してみよう。
 「(受信料を定めた)放送法64条は憲法の保障する国民の知る権利を、実質的に充足するべく採用され、その目的にかない合憲である」。
 「NHKが特定の個人、団体または国家機関から財政面での支配や影響が及ばないようにするため、広く公平に負担を求めたものだ」。
 「NHKからの一方的な申し込みなみによって受信料支払いの義務が生じるものではなく、双方の意志表示が必要である」。
 「(双方に争いが生じたときは)NHKが未契約者を相手に訴訟を起こし、勝訴が確定した時点で契約が成立する」(2016年12月6日、最高裁大法 廷、寺田逸郎長官)。
 この判決により、テレビ受像機を設置した場合の届け出が必要となりNHKの受診料未払者の減少がみられた。支払い率は76.6%(2015年度)から81.8%(2020年度)に向上した。しかし受信料の支払い義務は放送法に盛り込まれることはなかった。
 イギリス、フランス、ドイツなど世界各国の多くで公共放送の受信料支払いは国税と同様に義務化されているが、日本のように届け出制で支払い率が8割を超えているのは驚異だと諸外国から見られている。制度として定着していることから、最高裁も現行制度の維持を求めたといえよう。
 NHKの受信料収入は2018年に7122億円、7115億円となっているが、2020年度以降は6000億円台にとどめるとしている。
受信料制度の発端
 NHKの受信料はNHKの前身東京放送局の発足当初1925年(大正14年)に生まれた。当時の技術革新の最先端であったラジオの開設に、時の政府(逓信省)が民間企業に渡すことを嫌い、事実上の国営とした。そして財源として聴取者からラジオ一台当たり月1円の許可証を課したのが始まりである。最初の聴取者は東京放送局管内で3,500人と記録されている。報道と娯楽を一元化したラジオは、市民に歓迎され、東京、名古屋、大阪3局をつないで「日本放送協会」となった後、ラジオ聴取者の数は年々30万台、40万台、50万台うなぎのぼり、遂に1931年(昭和6年)には100万台を突破するに至った。しかしこの頃から、日本軍の満州進出が始まり、ラジオ報道は内閣情報局の統制下に組み込まれた。
 「受信料の徴収」が現在の形で制度化されたのは、戦後1950に制定された「放送法」によってであった。
受信料拒否1
 受信料が大きな社会問題として意識されたきっかけは、1973年に発刊された本多勝一氏(朝日新聞記者)による著書「受信料拒否の論理」(未来社刊)であった。当時NHKは新鋭機器をそろえた放送センターを渋谷に新築し日比谷の放送会館より移転し、田中角栄政権下の高度成長の波にのって破竹の勢いであった。しかし本多氏は「NHKが真実を伝える努力を怠り、権力に迎合している」と批判し、受信料拒否を訴えた。
 NHKの報道姿勢を痛烈に批判したが、それとともに当時のNHKテレビが毎日の放送終了時に日の丸の映像と君が代を流していたことも、不当な歴史感に基づくものだと批判した。本多氏は2007年にも「受信料拒否して40年」という著書を出している。
受信料拒否2
 2004年、NHKの番組制作に関連して巨額の不正流用があり、視聴者の間に不信感が広まった。批判は1か月で11万3000件を越える受信料拒否となった。当時のNHK会長であった海老沢勝二会長は従前からの強引な経営姿勢と相まって、集中的な批判の的となり、2005年1月辞職した。会長の任期中辞職はこの時まで類を見ない事態であった。
受信料拒否3
 会長辞職後も受信料不払いの勢いはしばらく止まらず、NHKの経営姿勢、番組批判が続く中、2005年1月、新たに朝日新聞が、NHK幹部が政府の圧力の下、番組を改ざんした事実を明らかにした。現役プロデューサーの実名告発で、中川経済産業相と安倍官房副長官が介入、「問われる戦時性暴力」(2001年1月放送)が再編集で切り刻まれ、続編が放送されなかったという事件だ。
 NHKの幹部らは介入を認めず、従軍慰安婦の問題も絡み、長期にわたってNHKと朝日新聞は対立を深めた。視聴者の間ではNHKの体質に問題があるとして、受信料不払いが長く続く一因となった。
市民の集団訴訟
 最高裁の受信料合憲判断以降、NHKは受信料不払い者を提訴することが続いている。
ところが、奈良地裁では「NHKは放送法を守る義務がある」と県民126人が訴え出た集団訴訟の裁判が行われている。裁判は2016年以来4年にわたって続いてきたが、今年6月に最終弁論が行われ、11月12日に判決がでる。
 申し立てた市民の代理人である、白井啓太郎弁護士は「放送法第4条1項の政治的公平などの最低基準を満たさないNHKのニュース報道は、受信契約者の知る権利を侵害するものだ」と意見陳述した。奈良地裁の判断が注目される。
隅井孝雄(ジャーナリスト)


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2020年09月30日

【隅井孝雄メディアウオッチ】 NHK、ネット事業制限撤廃 一方ではラジオ第二とBS1廃止の矛盾

 NHKはこれまでインターネット業務の予算枠を全体の2.5%に抑えてきたが、9月15日、その制限枠を来年度から撤廃する考えを明らかにした。
好調の波にのる
 4月に開始したネットサービス、「NHKプラス」がたまたまコロナによる「外出自粛」と合致し、好調の波にのった。”この際一気にネット拡大に向かいたい”という思惑が見て取れる。ネット業務の拡大について、NHKは建前として「抑制的な管理に努める」としている。
 かねてからNHKのネット進出を警戒する民放連は「NHKは放送とネットを横並びに位置付けている」との懸念を表明、逆に現行受信料の引き下げ(地上波月額2230円)を求めた。
 NHKのネット業務費は2020年度予算で170億円(受信料の2.4%)。別枠の東京五輪関連のネット費19億円を含めると189億円(受信料の2.7%)となる。
 「NHKプラス」主体のネット業務は2021年には197億円に、22年は194億円になる見通しも発表された。それぞれ受信料の2.94%、2.90%を占める。
事業規模縮小か
 合点がいかないのは、NHKが今年8月4日に発表した3ヵ年計画で事業規模を現状の7200億円から、6000億円台に縮小する方針との整合性だ。番組やチャンネルを縮小する一方ネットビジネスを拡大するということとの間の矛盾は大きい。
 NHKネット業務の主力はなんといっても「NHKプラス」だ。同時配信ももちろんだが、見逃し視聴、追いかけ視聴、地方番組サービスもあり、視聴者にとっては便利な存在に違いない。しかし受信料を支払っている視聴者であれば無料で利用できる。NHKがインターネットをビジネスとして活用することは放送法上できない相談だ。
 にもかかわらずネット利用に執心するのには何か別の魂胆があるのではないかとの疑いをすら持つ事態だ。
 高市早苗総務大臣(当時)がネット事業の上限撤廃に見直しを求めた(9/16)。NHKは上限撤廃されれば、地方局制作番組のネット配信期間を7日間から14日間に延長する、在外邦人向けの「NHKワールドジャパン」のネット同時配信を始めるといっている。
都市放送の歴史持つ
 一方3ヵ年計画でNHKが打ち出した、ラジオ第二とBS1の視聴者に断りもなく一方的廃止には私は断固として反対する。
 ラジオ第二放送は今では教育教養、それも語学講座が主体だが、1931年以来半世紀の歴史を持つ。東京、大阪、名古屋に聴取者が留まったことから局名を1939年に「都市放送」と改称した。そして都市知識層向けの、教養、講座、文芸、音楽番組に力を入れた。
 太平洋戦争中「都市放送」は休止されたが、終戦直後再開、学校放送、プロ野球中継、大相撲、音楽放送など、柔軟編成で親しまれた。また「農村」向け、「漁村」向け番組なども開発した。
世界を身近に感じる
 BS1も貴重な歴史を持つ。開始は1984年5月12日。日本初となる人工衛星を利用して受信可能なテレビ放送を開始したのがBS1、衛星放送のパイオニアだった。
 その後、デジタル化の曲折を経て、現在はスポーツ、ドキュメンタリー・情報番組・海外報道に特化して放送している。世界に触れようとする場合、BS1が最も豊富な海外ニュース報道を提供しているので、欠かせない貴重な存在だ。
隅井孝雄(ジャーナリスト)
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2020年09月01日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】 NHK中期計画を発表 拡大路線からの転換は本当か

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 NHKはこの8月4日、2021年〜23年度の中期経営計画を発表した。NHKのこの計画は安倍政権の規制改革推進会議に迫られたもので、その意向に応じて、2023年度までに2波あるAMラジオの一本化、NHKBS1の放送の廃止を行うとともに受信料収入を6000億円台に抑制する。
 受信料合憲で拍車
 NHKは2018年12月から衛星放送による、4K,8Kの2チャンネルの放送を開始した。新型衛星によるスーパーハイビジョン放送であり、受信するには新型受像機が必要だ。
 さらに2020年4月から、NHKの総合とEテレの番組をインターネットで視聴できる「NHKプラス」が開始された。このシステムでは番組検索の機能があり、「見逃し番組」を見られるほか、追いかけ再生もできる。「NHKプラス」は放送の補完サービスであるため、受信契約者の家庭では、申し込めば誰でも視聴できる。
 このようにNHKは巨大化を進めてきた。それに拍車をかけたのは2017年12月に最高裁が「受信料徴収は合憲だ」との判断を示したのがきっかけだ。
 巨大単一メディア
 NHKの受信料不払いが減少し、経済不況が進行したにもかかわらず、受信料収入は700億円を突破、増収傾向がつづいた、
 しかし政府の規制推進会議はインターネット時代の於ける「通信と放送の一体化」を目標にして、NHKにネットの同時放送を認める一方、放送分野での拡大路線に若干の歯止めを加えたいという意向をもつ。これまでのNHKの拡大路線に対しては、新聞協会や民放連も一定の抑制を求め
てきた。
 NHKは2年前12月に鳴り物入りで4K,8Kテレビ放送を開始した。現在受信機出荷台数は477万台(7/21A-PAB調査)といわれるが、NHK受信契約合計は45,227,630万件(2020年4月末)の10.5%にすぎない。
 一方、インターネット上で視聴できる「NHKプラス」は、NHK総合とETVが視聴でき、見逃し、追いかけ視聴もできる「NHKプラス」は開始早々に契約申し込者が30万世帯を突破するなど、好調な滑り出しだ。
 NHKの持つチャンネルは、AMラジオ2チャンネル、FMラジオ1チャンネル、地上波テレビ放送2チャンネル、衛星テレビ2チャンネル、高精細度衛星テレビ(4K,8K)2チャンネル、ネット配信NHKプラス(総合、ETV、見逃し、追いかけ)の10種類。
 このほかにもNHKは海外向けに、NHKワールドテレビ(英語)、NHKワールド・プレミア(日本語、海外居住日本人向け)、NHKワールド・ラジオ日本(1言語)、NHKワールド・オンラインなどを持つ。
 受信契約世帯数4522.7万世帯(2020年)、総収入7204億円(2020年度)、従業員数10,343人(2020年度)、関連会社14社、世界にも類をみないほど巨大な単一メディアだ。
8K放送打ち切り?
 NHKの基礎は、7000億円を越える受信料収入だ。一時期受信料不払いに悩まされた時期もあるが、2017年末に最高裁判所が「受信料合憲」の判断を出して以降、受信料収入は右肩上がりだ。
 2019年10月、政府の要請を受けたこともあり、受信料支払いに伴う消費税の引き上げを行わず(実質2%の引き下げに相当)、更に2020年10月にさらに地上契約、衛星契約の受信料をさらに2.5%引き下げることも予定した。受信料収入は6000億円台に抑制するのだという。
 前述のようにラジオ(第二)とBS1を削減するほか、実際にはほとんど見る人がいない8Kテレビもいずれ放送を打ち切るだろうといわれている。
 8Kはもともと2020年に開催するはずだ「東京五輪を8Kで全世界に放送したい、デジタル技術力を世界に誇りたい」という安倍首相とNHKの思惑が一致して出現した。しかし、来年夏に東京五輪が開かれるかどうか、疑問視されている。今やほとんど無用の長物と化した8Kテレビ衛星は五輪に備えて、建前上2021年秋までは上空に止まるであろう。
 拡大路線からの転換というが、NHKが巨大メディアであるということに変わりない。
隅井孝雄(ジャーナリスト)

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2020年08月05日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】 トランプ 郵政投票に反発 仰天の「居座り論」も登場

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 トランプ大統領はブラッド・バスケール選対本部長を降格させ、副本部長のビル・スピール氏を新たな本部長とする人事を発表した(7/15)。6月20日にオクラホマ州タルサで開かれたトランプ支持集会が、前評判で数10 万人から100万人近く支持者が集まるかと予想されたが、フタを開けるとわずか6,800人。その責任者がバスケール氏だった。支持率低下に何とか歯止めかけたい、という思いからの人事ではないかとみられる。
 ちなみにタルサ市では6月下旬以降、コロナ感染者が急増している。市衛生当局は、「トランプ関連政治集会が要因となった可能性が高い」と指摘した。集会参加者のほとんどがマスクをしていなかった。
 汚染拡大と人種差別で孤立
 最近の調世論調査によると、トランプ氏の支持率は44%、それに対して民主党大統領候補の支持率は54%と10%のリードを許している(6/16~22、ピュー・リサーチ・センター)。同じ調査によるとトランプ大統領の仕事ぶり評価も支持が下がり、39%が支持、59%が不支持を表明した。また米国が目指している方向に満足していると答えたのはわずか12%、87%が不満だと回答した(ブルームバーグ7/1)。
 アメリカ経済はコロナの影響をこうむりながらも、ダウ平均は26,500ドル~26,600ドル台を維持している。しかしコロナ感染が拡大したことから、4月に失業者2000万人を超えて、失業率が14%台に跳ね上がった。市民の間でトランプのコロナ対策が著しい批判も出ている。最近までマスク不要論を唱え、注射すれば菌を封じ込められなどのとんでもない発言もあった。
 支持率急落の直接の原因は今年5月25日、警官隊による黒人男性、ジョージ・フロイドさんの暴行、殺害事件だ。この経緯を物語る2分53秒の映像は、「息ができない、助けてくれ」という音声とともに全米に広がり、かつてない規模の人種差別デモが、各地に広がり、繰り返されている。
 抗議デモに対し、トランプ大統領は強硬姿勢でのぞみ、軍隊派遣もありうると発言した(6/1)。抗議デモを暴動であるかのように鎮圧するという姿勢に、共和党重鎮のパウエル元国務長官(共和党)までもが不支持を表明するなど、コロナウイルス感染拡大が重なりこれまで、岩盤といわれてきたトランプ支持者からも造反者が相次ぐ事態となった。ブッシュ元大統領、ロムニー上院議員らも再選を支持しないと見られるに至った。 軍動員示唆、デモを暴徒だと敵視する発言を「有害」だとする人は65%にのぼっている(CNN6/8)。
各州で郵便投票導入へ
 一方11月の米大統領選に向けて、郵便投票制度を導入する動きが、各州に広がっていることが特徴的だ。コロナ感染予防のため、投票所に足を運ばないで済むようにする思いから始まった。大量の軍隊を海外に派遣している米国ではかねてから、郵便による不在者投票を認めている州が多かったが、今回は不在投票ではなく、本投票として本人の意志によって、投票所に行くか、郵送による投票にするか、選択できる。郵便投票を実施しなかった自治体に対して「投票の権利を侵害する」という裁判がおこされこともあり、6月2日に実施された大統領選予備選ではメリーランド州など7州や首都ワシントンで、郵便投票が実施され、郵便投票の利便性、投票率の上昇などが実証された。
 トランプ大統領はカリフォルニア州などでの郵便投票導入に対して反発を強めている。「大規模な不正行為につながる」と繰り返してツイッターを発信している。また、ウイリアム・バー司法長官は、「外国勢力が大量に偽造票を送り込んでくる可能性もある」と発言した(6/22)。バー長官の発言は中国を念頭に置いているとみられる。
 郵便投票は低所得者、黒人、中南米系などマイノリティーの有権者の多い民主党に有利に働くといわれ、トランプはそれを警戒しているものとみられる。しかし投票所から離れたところに住んでいる人、高齢者などへの利便性は党派を問わない。
バイデン資金力で上回る
 民主党ジョー・バイデン前大統領が世論調査で10%上回っているが、それでも、トランプが勝つという予想をする人が多くいる。
 理由の一つはトランプの資金力だ。一時期バイデンを選挙資金で2億ドル上回っていたトランプ陣営は、1,000万ドルをテレビなどにつぎ込んで「バイデンは中国に甘いがトランプは厳しい」というイメージを全国に植え付けようとしている。そして、トランプは、自らをウイルスと戦う「戦時下の大統領」だと呼号している。
 コロナ汚染が拡大を続けていても、トランプは「悪いのは中国だ」という責任逃れに期待をかけている。
バイデン陣営は6月に入り、選挙への献金を1億4,100万ドル集め、トランプ陣営の1億3,100万ドルをわずかにではあるが上回ることに成功した(7/3日経)。経済施策ではこれまで、右寄り、財界寄りと見られたが、急進派バーニーサンダー・サンダースの主張も受け入れ、学生ローンのサム帳消し、授業無償化、メディケア(医療保険制度)の改善、銀行や大企業の規制強化など、経済の革新を打ち出した。
マイノリティー中心で選考
 さらに、民主党は大統領候補の年齢が高い(77歳)とあって、副大統領候補選びにも慎重だ。女性、黒人、中南米、アジア系などマイノリティーを中心に選考が進んでいる。誰が選ばれても話題に事欠かない顔ぶれである。
 スーザン・ライス氏、(外交専門家、黒人、55歳)、カマラ・ハリス氏(ジャマイカとインドからの移民の子、元検事、55歳)、タミー・ダックワース氏(イラク戦争で両足を失った元軍人、上院議員、52歳)、ミシェル・ルパングリシャム氏(ニューメキシコ州知事、中南米系60歳)、エリザベス・ウォーレン氏(上院議員、進歩派71歳)、ランス・ボトムス(アトランタ市長、黒人、50歳)。
辞めないシナリオとは
 7月に入って敗色を濃くしたトランプ氏だが、11月で負けても任期は2021年1月まである。7月19日のフォックスニュースで、選挙に敗れたらどうするか、と問われ、「不正が行われればやめない」と発言した。反トランプを掲げる非営利団体「スタンド・アップ」は、「負けても辞めない可能性に備えて、今から準備しよう」と訴えている。トランプは「負けても居座る」戦術を持っているのではないかとの憶測が急に広がっている。 
 7月28日号の日本版ニューズウィークは次のようなシナリオを描いた。「激戦州の一部で中国が郵便投票に介入し不正があった、これは国家安全保障上の非常事態だ、として司法省が不正を調査する間、あるいは裁判に持ち込まれる間、選挙結果を確定することができない。長期にわたり現職が居座る、あわよくば選挙結果を、現職有利に書き換える可能性もある」というのだ。
まさか、そのようなことが起きるはずもない。が、トランプならやりかねない。
 民主主義にもとることがないよう、トランプの言動を見守る必要がある。
 隅井孝雄 (ジャーナリスト)
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2020年07月06日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】 コロナとテレビ ニュース視聴率20%超え リモートドラマも登場

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 コロナロックダウンで、多くの国で人々は自宅にこもり情報を求めた。そのためテレビ報道は視聴率が上がったが、テレビスタッフ自体がコロナに感染する事例が出たため、番組編成、演出手法にも大きく変化した。
ソーシャルディスタンス
 3月25日、東京都内の新規感染者がハネ上がり「感染爆発の危険」が指摘されたあと、真っ先にスタジオでソーシャルディスタンスを実践して見せたのは「真相バンキシャ」だった(3/29,日本テレビ)。そして報道番組はもとより視聴者参加番組、芸人大量参加バラエティなど多くの番組に多大な影響をもたらした。
 例えばTBS「サンデーモーニング」では、広いスタジオ、長いテーブルに司会の関口宏以外のほとんどは自宅からのリモート出演となり立看板が並んだような画面となった。ほとんどのニュース番組で司会のアナと出演者の間隔が2メートル以上となり、中には透明なアクリル板の衝立で仕切られた番組もあった。
TBS「News23」はメインキャスターの小川彩佳自体が自宅からのリモート出演となった。妊娠中初期であることが理由だった
 バラエティでもタレントが大勢ひな壇に並ぶことはなくなった。多くのドラマはスタジオ収録もロケが出来なくなり、NHKの大河ドラマ「麒麟がくる」は6月7日放送のあと「戦国大河ドラマ名場面集」など再編集番組でしのぐことになった。NHKは6月30日スタジオ収録を再開する、と発表し「22回以降の放送を楽しみにしてほしい」とのべている。
コロナの直撃受ける
 コロナ感染はテレビ局自体も直撃した。毎日放送で、感染が確認されて入院中の制作担当取締役の60歳男性の死亡が4月7日確認されたのに続き、4月12日にはテレビ朝日が「報道ステーション」富川悠太キャスターの感染と番組のチーフプロデユーサーら複数スタッフの感染を明らかにした。テレビ朝日では、その後打ち合わせはすべてテレビ会議に切り替え、出演者とスタッフは接触することなく放送にのぞんでいる。
 富川キャスターの相方である徳永有美キャスターは、2週間の自宅待機の後、リモート出演で復帰、また富川キャスターは6月4日の放送から「報道ステーション」に復帰した。
新趣向番組生まれる
 リモート出演は時に映像の乱れ、音声の途切れなどトラブルが多発したが、放送を重ねることで画質、音声など質が向上した。そしてドラマをリモート画面で制作する「リモートドラマ」、あるいは「ソーシャルディスタンスドラマ」を名乗る新しい手法が生まれた。
 「今だから新作ドラマを作ってみました」(NHK5/4,5/5,5/8)「Living」(NHK5/30,6/6)、「世界は3で出来ている」(フジテレビ6/11)などだ。「宇宙同窓会」(日テレ系ネット6/6,7)。いずれの作品もリモートで作ることを前提にしたシナリオもとにしている。例えばNHKの「今だから・・・・」の第一話は海外で挙式の思いがなわなかった遠距離夫婦とその友人らが、互いにパソコンの会議システムにつながりストーリーが展開、出演者は全員自宅にいて自撮り出演する。
 また、第二話は熟年夫婦の妻が死後の世界から地上の夫とリモートで会話する。第三話では出演俳優のキャラクターが入れ替わるという設定だった。「世界は・・・」は一卵性三つ子の役を林遣都が一人3役で熱演、脚本は「スカーレット」の水橋美江。「宇宙同窓会」は中止になったため急遽オンラインで開かれることになった元天文部の男女5人のリモート同窓会を描く。日テレ系のライブスマホアプリ(LIVEPARK)で無料配信された。
報道番組視聴率上がる
 緊急事態宣言は7都府県では4月7日から発令され、4月16日は全国に拡大された。多くの人々は外出せず、自宅にこもった。
 そうなるとテレビの出番だ。ニュース、報道番組で人々はコロナをめぐる状況を熱心に探る。2月下旬以降NHKニュース7は21.3%、報道ステーションは20.0%と20%を超えるようになったが、これは序の口。各地で外出自粛要請が出されとことと志村けんさんの死亡(3/29)のニュースが重なった3月下旬~4月下旬には多くの報道番組が20%台を経験した。 
 7都道府県に緊急事態宣言が出た4/7日のNHKニュース7は26.8%を記録した。エンタメ番組、バラエティ、ドラマなども、画質が悪かろうが、演出に不具合があろうが、再放送物が多かろうが、視聴率は普段より高く出たことは言うまでもない。中でも人気を集めたのは「テレビ小説エール」(NHK)、「わらってこらえてSP」(よみうりTV)、「ぽつんと一軒家」(ABC)などであった
米3大ネット視聴者倍増
 こうした傾向は海外のテレビ報道でも同じだった。「ニューズウイーク」誌(6,23)の報道によれば昨年同期と比べて、ABCニュース48%増、NBCにユース37%増、CBSニュース24%であった。興味深いことには一連のコロナ報道に対し、民主党支持者の75%、共和党支持者の61%が、客観的でわかりやすいと評価していることだ。共和党支持者はABC, NBC,CBSなどのネットワークニュースを毛嫌いして、トランプ支持のFoxニュースだけを信頼する傾向があったが、三大ネットワークの、客観的、多面的なコロナ報道を認めざるをえなかったといえるだろう。
  日本では視聴率が高いNHKニュース7、NHKニュースウオッチ9には、安部内閣の初動のもたつき、突然発表された休校措置、PCR検査の足りなさにたいし判的報道を一切しない、という報道姿勢に不満が集中した。その一方政府のコロナ対策に鋭い批判を浴びせた、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレ朝)、「ニュース23」(TBS)、「報道1930」(BSTBS)などに「よく報道してくれた」との称賛の声が集中した。
新制作手法を開発
  緊急事態の解除後、6月に入ってテレビも徐々に従来の姿を取り戻しつつある。番組によって差はあるが、スタジオに出演者が少しずつ戻ってきたし、ドラマのロケも、スタジオ収録も感染を避けながら再開され始めた。しか依然としてリモートでゲスト出演に頼っている番組も多い。
  2月以降5月にかけて、テレビ局では、リモート出演の簡便さに慣れ親しんで、すっかり定着したというべきだろう。リモートドラマという新しいジャンルが開発され、視聴者から好感を持って迎え入れられた。
 報道番組ではコロナ取材に困難は伴うのを乗り越え、取材、制作スタッフの感染を避けるノウハウも確立した感がある。新型コロナの政府の政策の批判しながら、刻々変化する状況をあらゆる角度からとらえ、視聴者に伝える番組も多かった。ニュース報道に対する信頼感も広がったといえる。
公共CMが激増
 テレビ広告では自動車、電化商品など耐久消費財関連のCMが減り、またイベント、映画、演劇、コンサートなどが消えた。その穴埋めにACジャパンの公共CMが3月から5月にかけて大幅に増えた。「手を洗ってくれてありがとう、家にいてくれてありがとう。あなたのコロナ対策がみんなを救う」など直接コロナ対策を訴える15秒CMなどだ。一日当たり100回放送されるという記録を作った。
 一般商品のCMで目立ったのは、健康飲料「ポカリ」だった。汐谷夕希ら多数の中高生が自撮り画面でCMソングを歌いつなぐ。まさにコロナ禍の真っただ中でのCM表現だった。
 2次感染の予測が絶えない中で7月を迎える。テレビは市民視聴者の新しい信頼を獲得しつつある。重要なメディアとしての新たな再生の歩みをどのように切り開くのか、見守りたい。
隅井孝雄(ジャーナリスト)
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2020年06月19日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】 700万ツイッターが政治を変えた 「検察庁法案」廃案

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 1本のツイッターが拡散、政治を動かすに至った。ハッシュタグをつけた「検察庁法改正案に抗議します」への賛同が最初に投稿されたのは、5月8日、連鎖の輪が急速に広がり短期間で700万人を超え、内閣委での採決が見送られ(5/15)、安部晋三首相は国会での成立断念を表明した(5/18)。民意が政治の動向を決めた稀有な例だといえる。
 「検察庁法改正案」は一般の国家公務員の定年年齢を60歳から65歳に段階的に引き上げる改正案とセットで第201国会に提出された。検察官の定年も63歳から65歳に引き上げる(検事総長は現行65歳)。次長検事、検事長、検事正ら幹部は63歳でポストを退く。幹部が63歳(検事総長は65歳)を迎えても、内閣や法相の判断で、特例として最長3年間は、そのポストにとどめることができる、というものであった。
 三権分立揺らぐ
 法案は3月11日に国会に上程され、野党がこぞって反対する中、5月8かから衆院内閣委員会で審議が始まった。同じ日ツイッター上で「笛美」と名乗る30代の女性名でハッシュタグ付きの投稿が出現した。そして9日以降このツイートへの賛同者が急速に増えた。
 日本弁護士連合会の見解は明快だ(5/11会長声明)。内閣または法相が、裁量のみで63歳の役職定年の延長、65歳以上の勤務延長を行うなど、検察官人事に介入できることになる。不偏不党を貫く職務遂行が必要な検察の独立性、中立性が侵されれば、憲法の三権分立を揺らぐことになる。ロッキード事件のような政治犯罪が裁かれることはない。
 賭けマージャンで幕
 この問題の発端は元東京高等検察庁検事長だった黒川弘務氏の定年問題にある。本来であれば2020年2月7日に退官するはずだった。ところが1月31日の閣議で定年を延長し引き続き半年間勤務させる、との決定が行われた。現在の検事総長である稲田伸夫氏の定年が7月末であることから、黒川氏を後任にしたいとの安倍首相の人事構想の一環ではないかと、野党は一斉に反発した。黒川氏と検察当局は森友、加計問題で安倍政権を優遇する態度を取り続けてきた。
 そのさなかの「検察庁法改正案」による検事の定年延長は、まさに安倍首相による黒川氏の定年延長を事後追認するものであり、三権分立を侵す。一連の安倍政権の行為に対し元検事総長松尾邦弘氏、ロッキード事件を手掛けた堀田力氏ら14名の検察OBが連名で批判の声明を提出した(5/16)。
 その直後、週刊文春がウエブサイトで黒川氏の「賭けマージャン問題」を告発(5/20)、黒川氏は安倍首相あてに辞職願を提出(5/21)、異常な国会答弁を続けていた森雅子法相は受理し、閣議はこれを承認した(5/22)。誰の目にも安倍首相事態の失態は明らかだった。
 政権批判相次ぐ
 アメリカなど海外で有名人が政治に発言することは日常化している。その同じ現象が今回日本でも起きた。フライデーやYahooによると、小泉今日子(俳優)、浅野忠信(俳優)、井浦新(俳優)、秋元才加(元AKB)、ラサール石井(タレント)、大久保佳代子(オアシズ)、城田優(歌手)、Chara(ミュージシャン)、西郷輝彦(歌手)、大谷ノブ彦(ダイノジ)、緒方恵美(声優)、高田延彦(タレント)、水野良樹(いきものがたり)、日高光啓(AAA)、末吉秀太(AAA)、岩佐真悠子(ITタレント)、本田圭佑(サッカー)、宮本亜門(演出家)などだ(順不同)。
 俳優であり、デザイナーでもある井浦新(あらた)は「もうこれ以上、保身のために、都合よく法律も政治もねじ曲げないでください。この国を壊さないでください。」と投稿した。
 ミュージカルなど舞台演出家、宮本亜門は次のように語った。「コロナ禍の混乱の中、集中すべきは人の命。どう見ても民主主義とはかけ離れた法案を、強引に決めることは、日本にとって悲劇です」(6/3毎日新聞より)。
 コロナ施策に反感
 有名人が政治の批判に発言することは日本にとって初めてのことではない。
 2015年の安全保障法制の反対運動の際、石田純一、笑福亭鶴瓶、坂本龍一、渡辺健らが国会周辺デモなどに参加し、あるいは注目される発言を繰り返したことが記録されている。
 しかし今回は、市民がSNSという新たな武器を手に、短期間に大きな力を結集することに成功した。運動形態の新鮮味が感じられる。
欧米ではSNSによる意見表明に加えて、SNSの呼びかけで数十万人から数百万人の街頭デモも並行しておこなわれる。ところが今回はコロナ禍による外出制限が行われていたさなかであったことから、街頭デモは行われなかった。
  新型コロナ対策への安倍政権批判が、SNSのあっという間の巨大抗議の原因になっているとみられる。政権の目立った対策はマスク二枚のみ、PCR検査の実施は遅々として進まない、感染数の発表は実態より低いのではないか、中小企業への持続給付金は200万円が上限、国民に支給するという10万円もいつまで待たされるかわからないなど、問題が多くの国民に意識されていた。「桜を見る会」問題も「森加計」問題も一向に政権の責任が明らかにならない。
  外出禁止は芸能人、芸術文化関係者にも多大な影響を与えた。彼らは舞台の仕事、演奏の仕事、映画の仕事、そしてテレビの仕事さえ失いつつある。
 小泉今日子は、テレビ番組「報道特集」(TBS5/16)のインタビューで「政治に無関心でいた私たちに、現実を突きつけた。改めてこの国で生きていくということを考えるきっかけになった」と語った(TBS報道特集5/16)。
 この国で生きていくため政治を絶えず見つめ、政治を変えていく必要があるだろう。
隅井孝雄(ジャーナリスト)
 
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