2022年03月15日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】改正少年法 問われる実名報道

 2021年1月に成立した「改正少年法」が今年4月1日から施行される。今回の改正では18歳、19歳を特定少年とし、家庭裁判所から検察官に逆送致する対象を殺人、傷害に加え強盗、強制性交など犯罪の範囲を広げた。また起訴されれば、これまでは氏名、年齢、職業、住所など、本人を特定できる情報や写真の掲載は禁止されてきたが、解禁されることとなった。「少年」の適用範囲は、今回の「特定少年」措置により、事実上17歳以下になったといえる。
 1958年小松川女子高校生殺人事件に際して新聞報道の実名が問題となり、日本新聞協会は「犯罪が20歳以下の少年によるものである場合、紙面に氏名、写真は掲載しない」と決めた。新聞は例外を除いて、おおむね匿名報道を遵守してきた。しかし週刊誌は新聞協会の決定には縛られないとして、しばしば実名や写真の掲載を行ってきた。
 97年の神戸連続殺人事件では、写真週刊誌が逮捕された少年の顔写真を掲載したことが問題となり、書店での販売や図書館での閲覧などか中止された。99年の山口県光市の母子殺人事件では、18歳(当時)の少年が実名と顔写真を掲載した本の出版中止を求める裁判を起こしたものの、裁判所は「実名や顔写真の掲載は、社会的な関心の高まりもあり、少年法を考慮しても違法とは言えない」として本の出版を認め、賠償責任はないとの判決が確定した。

 改正少年法は18歳、19歳を「特定少年」としながらも、すべての事件を捜査機関は家裁送致することになっている。家裁では調査官が成育歴や家庭環境を調べ、更生を図ることが建前となっている。その一方で、犯罪がらみの事件で刑事処分が必要だとの判断が下れば、家裁から検察官送致(逆走)となる。家裁送りでは「少年法」の扱いだが、刑事処分となれば「成人」と同様な扱いとなり、この部分で「実名」報道が可能になるというわけだ。今回の少年法は18歳、19歳を半ば成人としながら、家裁の対象にするなど、整合性を欠いていると私は思う。
 起訴されれば、ネット上に記事などは成人より長期に残り続け、進学、就職など社会復帰はほとんど不可能に近くなる。
 隅井孝雄(ジャーナリスト)

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2022年01月22日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】世界のジャーナリズムの状況は

 米バイデン大統領主催する「民主主義サミット」が開催された(12/9〜20)。バイデン大統領にとっては以前からのことだが、集まった国は110カ国だった。バイデン氏は主催者であり代表格者だった。
 世界の自由な国の住民が「民主主義内の人口は前年の39%から20%に低下している」(ニューズ・ウイーク12/21)ことが明かされた。言論の自由が守られている国など少数派だ。昨年1年間で投獄されているジャーナリストが最大の293と過去最高を記録した。
 拘束ジャーナリストは中国で50人、ミャンマー26人、ヴェトナム23人、ベラッルーシー10人、エジプト。ヴェトナム、ベラルーシ(米国際NPOジャーナリスト保護委員会調べ、)。ロシアではプーチン大統領が12月下中に、スパイ意味する「外国のエージェント」という言葉をわざわざメディアに言わせる手法をとり、独立系の「メドゥーサ」などが標的になった。                         
 12/29日香港国家安全当局ネットメディア「立場新聞」編集幹部を、扇動的情報だとして逮捕、運営会社の資産6100役割0万香港ドル(日本円換算で約9億円)、凍結を余儀なくされた。「立場新聞は」6月に「りんご日報」香港国家安全維持法で廃刊に追い込まれたように、中国本土の政権はリベラル紙を徹底的に追い込みしている。「立場新聞」それぞれの立場によって、投稿を埋めていくスタイルで人気が高かった。
 ポーランドでは12/19、外国企業のメデイア所有規制を強化ことに全面的に反対するデモが全国各地で行われた。反政府的な実はポーランドのテレビ局民放TVN24の出資者である米ディスカバリー排除を狙ったものとみられる。
  国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RBF、本部パリ)は、米軍撤退後に成立したタリバン政権の下でジャーナリスト6割に当たる6200人が職を失ったと発表した。特に女性の失職は8割を超えた。昨年8/15前には新聞、テレビ、では報道機関数543社ジャーナリスト働いていた。新聞、ラジオ、テレビが国内117,900人いたが、しかし今では報道機関数312、ジャーナリスト4,360に減少した。
 隅井孝雄(ジャーナリスト)

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2021年12月06日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】字幕付きCM登場 TVの効用を聴覚障害者に

                           
2112 字幕付きCM.jpg

 10月から全国の民放テレビで字幕付CMが放送されるようになった。
 字幕付きCMとは音声を文字化しが目に表示するCMのことだ。設定はリモコンの「字幕」ボタンを押すことにより音声を字幕で表示できる。
 総務省の調べによれば聴覚障がい者は34万人(2118年厚生省)だが、「難聴」といわれる人は3400万人(2016年総務省)に達する。高齢化に伴い,今後の増えることが予想される。
  
 平成22(2010)年3月にTBSテレビ系列28局で放送されたドラマ「ハンチョウ」で、パナソニック株式会社が字幕付きCMを放送したのが、初めての取り組みだった。その後、取り組みは徐々に広がっており、平成27(2015)年春改編時からは、従来の1社提供番組に加えて複数提供番組でも字幕付きCMが放送できるよう、在京テレビ5社を中心に、拡大に向け取り組んできた。今回放送されるようになったのは、地上民放99局と民放BS5局だ。

 民放連は、平成26(2014)年10月に広告主の団体である日本アドバタイザーズ協会、広告会社の団体である日本広告業協会と共同で字幕付きCM普及推進協議会を設立した。「聴覚障害者の情報アクセシビリティ向上のため、関係3団体の連携により字幕付きCMの普及を図ること」を目的に、情報共有やセミナーの開催などの活動を行っている。
 ユーチューブなどに登場する「それ行け!字じまく君」、「字幕付き5つのお話」などはキャンペーンの一環だ。

 コマーシャルにも字幕をとの声は、聴覚障がい者の間では切実だ。しかしこれまで関東地域に限られていたことから、付与率は、わずか1.05%に限られていた。せっかくリモコンについている字幕ボタンを押すだけ、という簡便な方法なのに、関東地区以外ではこれまで放送局側の設備が整っていなかった。
 10代で両耳を失聴した、松村かりんさん(IAUD理事)は長年にわたって字幕CMの必要性を訴えかけてきた。消音ボタンがあっても、字幕ボタンがないことに疎外感があったような事態が解消されつつある。「このままではせっかくのCMが全く伝わらない」として長年プロジェクトを行っており、広告主にテレビスタッフに音のないCMを聞いてもらうなどの働かけを続けてきた。

 CMは短いものが多いため前のCMが次のCMにかぶった場合でも事故扱いにはしたいなどという合意もある。
 字幕によるCMに触れる人が増えれば企業のイメージアップのつながるのは当然のことだ。加えて、病院やオンライン会議など音が出しにくい場所でもCMをみられる。そのため健常者にも、メッリットがある。
 技術的には多少複雑なので、全面的な展開は2022年10月としている。関係者は「CMも社会インフラ、全面的な展開で、情報がスムースに行き渡るよう尽力したい」といっている。
 隅井孝雄(ジャーナリスト)

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2021年12月03日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】子どもだましの岸田発言にメディア批判せず=隅井孝雄

                          
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 石炭火力の削減か廃止かをめぐってもめ続けたCOP26は、13日夜(日本時間14日早朝)石炭火力発電を「段階的に削減する」文書、「グラスゴー気候合意を」採択、ようやく閉幕に至った。
 グラスゴーで岸田文雄首相(写真)は次のように発言した(11/2)。
「日本だけでなくアジア全体で、化石燃料と同様に水素とアンモニアを燃料としてゼロ・エミッション化を推し進める」。
石炭燃焼を燃焼する際、CO2の濃度を低めるアンモニアを混ぜて排出を抑え、火力発電から出るCO2を回収し地中に埋めて再利用する技術をしてゼロ・エミッションと称する。本格的な解決策にはならないことは明らかだ。この発言に対し「化石賞」が与えられた。
 「石炭火力全廃」を盛り込んだ当初案に対しインド、中国などが強硬に反対して合意文書は「段階的削減」となったことに日本も責任がある。日本政府は石炭火力全廃の46カ国の声明に加わらなかったどころか火力発電を維持、アジア諸国の石炭の継続使用を後押ししている。
 議長国イギリスのアロク・シャーマCOP26議長は「この展開について謝ります」と全体会議で謝罪、声を詰まらせ涙ぐんだ。この報道をBBCなど多くメディアが映像も含め取り上げ、「涙」が欧米ニュースで大きな話題となった。
 日本の報道は、政府が石炭火力の依存を進めていることをほとんど批判しなかった。
NHKニュースでは中国の石炭火力維持発言を「途上国を考慮すべき点で評価できる」(11/15)と解説。気候変動問題を扱ったNHKスペシャル「グレートリセット〜脱炭素社会 最前線を追う」(11/7日)では石油への依存、電気自動車、風力発電などは扱われているが、石炭を使用する火力の問題にはほとんど触れかった。
 日本のメディアは“子供だまし”のような岸田発言を批判しなかった。アンモニアを混ぜてもCO2が減るわけでもなく、またCO2を地中に埋める技術は確立されていない。
 日本政府はCOP26の石炭火力問題で中国、インドなどの片棒を担いだと言えよう。日本のメディアもまた岸田首相の「グラスゴー」演説に対する批判を避けている。
 隅井孝雄(ジャーナリスト)
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2021年11月08日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】トランプ、TW、FBが米SNSを混乱に陥れる

 アメリカでSNSが混乱している。 ツイッターが右寄り論調に偏り、フェイスブックがベトナム政府の言論統制を受け入れ、その隙を縫って前大統領トランプが新たなソーシャルメディアを立ち上げようとしている。
 
  TWは右寄り?
 「ツイッター」社は自社の研究で、アルゴリズム(問題解決手法)が「右寄りの政党や報道機関のツイートをより増幅しがちだと分かった」ことをあきらかにした(10/21)。
ツイッターが調査したのはカナダ、フランス、ドイツ、日本、スペイン、イギリス、アメリカの7カ国。政党のツイートやユーザーが共有するニュース・メディアコンテンツについて、2020年4月1日〜8月15日の間のツイートを、アルゴリズムに則って表示されるフィードと、時系列順に表示されるフィードを比較してどちらのフィードが増幅されるか調べた。
 その結果調査チームの責任者ルマン・チャウダリー氏は次のような現象がツイッター上で起きていることが明らかになったと述べた。
「7カ国のうちで、政治的に右寄りのツイートが、左寄りの政治家のものより増幅されていたと分かった。原因については改めて調査するが、右寄りの政治家やニュースメディアのほうが増幅の度合いが高かった。ユーザーにアプローチする際の『戦略の度合い』の違いが 増幅作用を強めていることが見られる」と説明している。
 
 新SNS発足へ
トランプ前大統領が、新しいソーシャルメディアを立ち上げると発表したことがアメリカで話題になっている(10/20)。
新しいSNSは「ツゥルース(真実)・ソーシャル」と名付けられ11月に招待者を対象にした試験運用をしたのち、22年第一四半期に全国展開を予定している。今年1月、トランプ支持者らによる連邦議会襲撃の後、トランプ氏のツイッターやフェイスブックなど凍結されたままとなっている。
 トランプ氏の新会社Trump Media and Technology Group(TMTG)を通じて「タリバンがツイッターで存在感を見せているのに、あなたの大好きな大統領が口を封じられているのに我慢ならない」との声明を出した。中間選挙に備えての行動とみられる。
  
  FB検閲受け入れ
 米有力紙ワシントン・ポスト紙は、フェイスブックがベトナム政府の要請で、政府に批判的な投稿の検閲の強化を受け入れた、と報道した。これは25日、ワシントン・ポスト紙が匿名を条件に取材した3人の関係者の取材で得た情報による。
 フェイスブックは36億人の利用者を持っているが、これまでにも、差別、暴力、検閲に十分には対応してこなかった、と指摘されている。ワシントン・ポストはフェイスブックが日本円でおよそ1100億円を超えるとみられるベトナムのSNS市場を重視し、検閲を受け入れたとみられる。
                       
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 児童悪影響放置
 「フェイスブック」の元社員フランシス・ホーゲン(写真)が米上院商業委員会で証言を求められた(10/5)。彼女はフェイスブックの内部調査で「フェイスブックやインスタグラム上での児童保護などに関しての若いユーザー、児童などSNS上で、ネガティブな情報を受けっとっている」という事態を、放置しており、安全を犠牲にし、対応したヘイトスピーチは3%〜5%に過ぎない。自社の利益を優先していたと批判した
 米CBSテレビ「60ミニッツ」の報道では「フェイスブックが投資家に虚偽の説明をし、さらに重要情報の開示を回避した」と批判する番組を報道した。
 
 規制新段階に入る
 一連のハイテク企業に対しバイデン政権は監視を強化している。15日、米独占禁止当局である連邦取引委員会(FCT)委員長に指名したコロンビア大学准教授リナ・カーン氏
は、反トラスト法の強化を唱える学者。米グーグルなど「GAFA」といわれる巨大IT企業の監視を強めるものとみられる。上院では民主、共和両党が賛同し賛成多数で承認を得た。
 今後バイデン政権は「プライバシーの保護」などを中心にして、IT大企業への規制を一層強化するものとみられる。
 これまでも巨大IT企業はコロナ禍のもとでデジタル化の恩恵を受け、成長を遂げてきたが、成長を持続させることが難しい局面にはいった。特に批判的報道の波を直接受けているフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、「仮想空間事業(メタバース)の充実」で乗り越えようとしている。
 しかし新たな投資で21年度の営業利益が約100億ドル(1.1兆円)減るとみられている。
 これまで、快進撃を続け、世界中の政府を困惑させてきた一連の巨大IT 企業に転機が訪れたようだ。
 補遺:フェイスブックは10/28日付けで社名を「メタバース」と変更することを発表した。傘下にインスタグラム、ウオッツアップなどを持っている。
 隅井孝雄(ジャーナリスト)
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2021年10月07日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】ラジオ視聴者増える ラジコ人気が貢献

                           
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 ラジオを聞く人がコロナ禍で増えていることが伝えられたのは、2020年2月ごろからだ。
ビデオリサーチによると首都圏のラジオ局5局の週別平均聴取人数(1分当たりのラジオ聴取人数、推計)では20年2月から3月では80万人だったのが、4月に入ると週90万人に増加したことがわかっている。その後も90万人前後が続いるとみられる。
 同社が12歳〜69歳の男女5000を調査したところ、コロナ禍での行動の変化について「ラジオを聞く時間が増えた」人は2.6%だった。
 
900万人
 ラジオは従来AMやFMのラジオチューナーでしか聴けなかったが,2010年ラジオがインターネット機器で聴ける「ラジコ」が始まった。ラジコは当初居住している地域のローカルラジオに限定されていたが、2014年から月350円で全国のラジオが聴ける「ラジコ・プレミアム」が始まった。さらに2016年には1週間以内であれば放送時間外の番組も聞ける「タイム・フリー」機能が追加された。
 ラジコによると、月間ユーザー数はコロナ禍以前の昨年2月から約1ヵ月の間で約150万人増加し、900万人を超えた。 さらに、10代リスナーの30%が昨年3月以降にラジコの利用を開始しているという。
 ラジコはiPhoneなどのケータイはもとより、家庭でパソコンでもアプリを入れれば聞くことができる簡便さで大きく伸びた。加えて、多数のラジオ番組がSNSやYouTubeと連携した番組作りをしているのも、ラジコの存在があってのことだ。ラジコの大幅増加の背景には外出自粛や休校、加えてテレワークの広がりなどがある。
 日経ビジネスのアンケートでは、コロナ禍でラジオを聴く機会が大幅に増えた14.3%、やや増えた 34.1%と、ラジオを聞き始めた人の半数はコロナ以降だ。
 どのような機器でラジオを受信しているか調べてみた。据え置き型ラジオ、CDカセット付ラジオ、カーラジオ、カーナビ。ケータイ端末、パソコンなどだ。ラジコはカーナビ、ケータイ、パソコンなどで横断的に聴取できる。

聴取者像は
 ラジオを聴く時間帯はこれまでのカーラジオ時代であれば出退勤時や受験生向けの深夜そして日中も主婦、高齢者の一定の高さが続いていた。しかし今回の日経調査では21時以降、24時以降が他の時間帯を大きく超えるという特徴を見せた。
  関西で人気のラジオ局FMCOCOROでは、大阪府に初めて緊急事態宣言が出された2020年4月上旬頃から、「新たに聴き始めた」、「今までも聞いていたが、リクエストするのは初めて」などといったメールなどによる反応が急激に増えたという(読売新聞大阪版、20年7/11夕刊)。またTokyo FMでは、ある番組が番組放送後、不定期に「オンライン飲み会」を開催しているのだが、時に参加者が1万人をこえることがある(朝日新聞東京版21年5/24夕刊)。これらの情報はラジコが威力を発揮し始めていることを示している。
 また15〜19歳の若者のうち3割が「コロナ禍以降ラジコで番組を聞き始めた」という調査もある。20代から30代も「日常的にラジオを聴いている」という。好きな芸能人やアーティストの生の声を聴きたいという若者を呼び込んだとみられる。在宅勤務でテレワーク中の中年世代でもラジオを聴く習慣が身に付き始めているようだ。

特集が相次ぐ
 ラジオの魅力に着目、大型の特集を組む雑誌が相次いで刊行されているとの報道が伝えられた。「RUTUS」3月号で「なにしろラジオ好きなもので」、「TV Bros.」2月号、ラジオ特集、「日経トレンディ」2月号、ヒットをなぜ生み出せるか、「週刊金曜日」8月20日号、ラジオが面白い、などである。ラジオと雑誌は規模や受け手との距離が似ている。コロナ禍で改めてラジオの双方向性やリスナーとの距離感に着目した企画が多く、報道系の番組では話し手がのびのびと語れる、などの記述があった(民間放送9/22)
 21年6月、関西圏のラジオ聴取率調査が行われた。明らかになった事実は、FM Cocolo765とFM802が地上波局(ABC, MBS, NHK大阪)を抑えて聴取者の支持を得ていることであった。50代男女の場合の関西ラジオ支持率を例示してみよう。
1,FMCOCOLO765 20.3%、2.FM802 15.7%、3,MBS 15,6%、4,ABC 14.6%、5,FM大阪 6.7%、6,NHK第1 6.6%。ちなみに、FMCOCOLOの20.3%という数字は、一週間に135万人の視聴者がいることを示している。
 以上のデータで見る限りAM局を上回るFM局の活躍が目立つ。現在のAM局は数年後には新たなFM周波数に転換するが、その備えが出来ているかを問う必要があるだろう。
 ともあれ、ラジオは新たなメディアに再生しつつある。しかも聴取者の身近に存在するという特性を持つメディアでもある。今後のラジオの新たな発展に注目する必要がある。
 
番組ベストテン
  最後にどんな番組に人気が集中しているのか、見ていただきたい(日経ビジネス2/19)。
 ワイド系
1. ニッポン放送、オードリーのオールナイトニッポン。2.ニッポン放送、Creepy Nutsのオールナイトニッポン。3.Tokyo FM、福山雅治 福のラジオ、4.ニッポン放送 菅田正暉のオールナイトニッポン、5.Tokyo FM、山下達郎の楽天カード サンデー ソングブック。6.TBSラジオ、赤江珠緒たまむすび。
 アイドル系
1. ニッポン放送、Six Tonesのオールナイトニッポン。2.ニッポン放送、藤ヶ谷太輔 Peaceful Days。3.NHKラジオ第一、らじらー!。 
隅井孝雄(ジャーナリスト)
 
 
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2021年09月22日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】踏ん張るアフガン女性記者

              
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       取材する女性記者=2019年10月カブール       

 9月2日から4日にかけアフガニスタンの首都カブールで活動家やジャーナリストが女性の働く権利を求めるデモ行進を行った。タリバンの戦闘員が催涙ガスを使い、参加者の一部が小銃の弾倉で殴られ、血を流したことなどが民放「トロ・ニュース」で報じられた。
 タリバンが首都カブールに進攻した8月15日以前、報道機関に働く女性は1700人以上に達していた(アフガン女性ジャーナリスト協会EPAW、2020年調査)。民間ラジオ、テレビ局で9月2日までに勤務を継続する女性は76人に減少したが、一部の女性記者らは、現場に止まっているとみられる。民放トロ・ニュースには女性記者の出演が続いている。しかしタリバンン広報官とのインタビュー(8/17)や反タリバン派の動きを伝えた女性アンカー、ベヘシュタ・アルガンドさんは危険性が増したとして数日後出国した。(8/30CNN)。
首都陥落以降も活動する女性記者(新聞も含む)は100人以下に減少したと「国境なき記者団」(9/1)は伝えている。
 国営放送(RTA)の女性キャスターが出社を拒否されたと動画をツイッターで投稿した。「出勤しようとしたら、男性は中に入れたが、私は止められた。“タリバンに体制が変わったのであなたは仕事が続けられない。放送局には近寄るな”」といわれたと証言する。国営放送では政権崩壊までは140人の女性記者がいたが、今は一人も働いていない。中部カズニ州のラジオ局ではタリバンが訪れ「女性の声を流してはいけない」と警告した(朝日Think Gender9/2)
 そして国営テレビからはコーランの朗読や宗教番組が流れるようになった。民放テレビは、タリバンを挑発することになる、として一部の音楽番組やポップなバラエティー番組を減らしつつある。
 9月8日に発足した新政権が「勧善懲悪省」を復活したとの報道もあった(TBSサンデーモーニング9/12)。この省は前回のタリバン政権で女性迫害や、言論抑圧を進めたことで知られている。
 こうした状況下でも敢然と職場に踏みとどまる女性ジャーナリストに国際的支援の手を差しのべる必要がある。
 隅井孝雄(ジャーナリスト)

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2021年09月04日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】視聴者激減のNBC、先行き五輪放送続けられるか=隅井孝雄

2109 .jpg アメリカの3大テレビネットワークの一つNBCネットワークが五輪放送権の独占を続け、五輪に支配的な影響力を発揮していることは今では知らない人はいない。
IOCは「無観客でも、NBCの放送がありさえすればいい」として、緊急事態宣言下でも開催に固執した。その判断を菅首相は歓迎し、開催一筋に邁進したのだった。

強気一筋だった

 NBCのジェフ・シェルCEOは開会前次のように強気の姿勢を語っていた。「前回2016年のリオ五輪でジカ熱感染症の問題があり人々は不安を抱えていた。だが開会式が始まるとすべての人々がそのことを忘れて17日間の五輪を楽しんだ。今回の東京五輪も開幕すれば同じようになる」(6/14ロサンゼルス・タイムズ)
 同じ日、NBCの東京五輪の広告収入が12億5000万ドル(約1370億円)に達し、記録を更新すると見込んでの発言だった。NBCによるとプライムタイムの30秒CM料はリオ五輪の15%増、12万ドル(約132万円)に達した。
 ところが世界の中で最も視聴人口が高いはずのアメリカ国内でNBCの視聴率が激減し最大スポンサーとして威力をふるっていたテレビ会社NBCに衝撃を与える結果となった。

視聴者42%減
 
 NBCは放送権として、IOC収入の75%を負担しているスポンサーだ(22~32年冬夏6大会の放送権料、120億ドル日本円換算約1兆3200億円)。IOCの五輪収入にも影響を与えかねない。東京五輪でNBCが負担し、IOCに支払っている放送権料は12億ドル(約1,300億円)と推定される。
 ところが、東京五輪の米プライムタイムの視聴者数は1550万人にとどまった。2016年のリオデジャネイロ五輪との比較では、42%の減少だった。開会式の視聴者数も1700万人弱、過去33年間で最低だった。
  NBCは広告主との間で、補償策について、五輪中の8月上旬から交渉を始めていると米メディアが報じ始めた(米ブルームバーグ通信)。 プライムタイムの体操女子のシモーン・バイル選手の棄権や、人気種目である陸上400メートルリレーの予選敗退など盛り上がりを欠いた、とNBCは説明している。またその他諸のテニスのココ・ガウラ(米)、ジョン・ラーム(米)、クレー射撃のアンバー・ヒルなどなど人気アスリートが数多く欠席したしたことも挙げられるだろう。
 また直前に感染増加で無観客になったことや、日本とアメリカの時差(東部時間で13時間,西部時間で16時間、いずれも夏時間)の影響もあり、プライムタイムに録画の放送が多かったことも、少なからぬ影響をもたらしたようだ。

無料動画に流れる
 
 視聴者がテレビ画面を離れ、「ピーコック」というストリーミングサービスで視聴する人々が増大したことも原因の一つに挙げられている。この会社は2020年4月、NBCの親会社「NBCユニバーサル」が発足させた無料動画配信だ。NBCは地上波テレビ、ケーブルテレビ、に加えて、ピーコックストリーミングも合わせて過去最長の7000時間放送をおこなった。地上波テレビの番組視聴者がじりじりと減少しつつあることに備えてのことだとみられる。若い世代がTikTokなどのソーシャル・メディアを通じて東京五輪を追ったことも伝えられている。また他のスポーツなどでも視聴率は落ち込み始めているとも報じられている。
 オリンピックも北京(2022冬)、パリ(2024夏)、ミラノ/コルティナ・ダンペッツオ(2026冬)、ロサンゼルス(2028夏)、インド、ムンバイ(2030冬)、オーストラリア、ブリスベン(2032夏)までは決まっている。しかしそれから先、果たして順調に開かれるのかどうか、放送権を巨額負担しているNBCがテレビ放送を続けることができるのかどうか、コロナの余波を考えると、オリンピックをめぐる混迷がどうなるのか、予想がつかない事態だ。   
 隅井孝雄(ジャーナリスト)
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2021年08月16日

【隅井孝雄メディアウオッチ】キューバでSNS活用の大規模デモ 政権崩壊も=隅井孝雄

                       
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 キューバ全土で、SNSと連動して反政府デモの波が7月11日、国中で一斉に起きた。この国では、反政府をスローガンに市民が立ち上がったことは珍しいが、市民の武器がSNSだったことも初めてだ。11日は日曜だった。そしてキューバのネット上にはこの日一日街頭デモの動画であふれた。しかしキューバ系の市民が多数いるアメリカ以外あまり伝えられていないので、私の知ることを、この場を借りてお伝えしたい。
 
数十年ぶり
 SNSと連動した抗議デモはキューバ全土で100か所に及んだとみられる。勇気をもって街頭に出た市民は3,000~6,000人に達するものとみられる
キューバでケータイを使ったデーター通信が使えるようになったのは2018年12月だった。政府は「近代化」の証として導入したとみられる。しかしその結果市民の側は政府の思惑を超えて「横のつながりを強める道具」としてネットを活用するようになり、情報統制と市民分断に風穴があくに至った。
  ワシントンポスト紙の報道によれば、人口の4割に当たる420万人の市民が携帯電話でネットを利用しているという(キューバの総人口、1132万人)。2019年にはLGBTの権利確立を求めるデモ,ゲーム好き集団SNETをつぶすな、デモなどがあった。また20年11月と21年1月には若手アーチストや知識人による文化省庁舎前での、表現の自由を求める大規模集会などが、ひんぱんに開かれていた。
活動家や独立系ジャーナリストはフェイスブックよりも、ワッツアップ、シグナル、テレグラムのアプリを好んで使っている。通信内容の暗号化しやすく警察や政府に傍受・妨害されにくいという特徴があるからだ。

日曜日早朝
 今回の7月11日のデモは3GのSNSにつながったキューバ市民が国中で一斉に街頭に繰り出し、政府への抗議の声をあげた。政治的自由と抑圧への抗議はもとよりだが、食料不足、コロナの感染拡大など、政府への批判の矢が放たれた。キューバでは停電が珍しいことではない。国の財政不足から、停電がひんぱんに起きている。医療品不足も深刻だ。病院に運ばれても薬がない。特にペニシリンやアスピリンなど、基本的な医薬品が全く不足している、

政府強権的
 こうした市民の行動に対し、キューバ政府は抑圧に乗り出した。キューバ内務省は13日、ハバナ郊外で暴徒となった複数の市民を拘束、うち一人が死亡したと発表した。しかし反政府グループは行方不明者が100人以上に達していると反論している。
 11日の街頭デモは当初は平穏な行動だった。しかしミゲル・ディアスカネル国家評議会議長が国営テレビに現れ、抗議の市民を「反革命分子、アメリカに操られて虫けら」と呼んだことで事態は一変した。治安部隊が出動、市民を次々に拘束する一方、デモ参加者はパトカーを転覆させ、政府の運営する店舗を略奪、放火の対象にした。
 SNS上には警察官や私服警察官らが、デモ参加の市民を殴る動画や、デモ後に行方が分からなくなった子供を捜している母親たち」と名乗る、警察署前の女性たちの動画などがみられたが、この日の夕方までにはインターネットがつながらなくなった。

 米強硬姿勢
 米国、バイデン大統領は12日、声明を発表,「われわれは、キューバの人々の自由への明確な呼びかけに賛同する。キューバ政府は、人々の声を封じ込める行動や暴力を控えるように求める」とのべた。また国務省プライス報道官は、13日の会見で「キューバ政府はインターネットの遮断、ジャーナリストや活動家への恣意的な拘束など、抑圧的な方法で人々の声を封じ込めている」と強い懸念を表明した。
 オバマ元大統領の時期に、一時的に両国関係の緊張が緩和の方向に向かったものの、今回のキューバ政権の抑圧的姿勢は許しがたいものと市民は受け止めている。

 国民の信えず
 キューバ当局は「国民は彼らの苦しみを食い物にする外国のプロパガンダに操られてきた」と主張する。ロドリゲス外相は11日の会見で「必ずしも意図的にネットを遮断しているわけではない。状況は複雑だ。停電が通信サービスに影響した可能性もある」とのやり取りがあった。
 表面で強権姿勢に見えるキューバ政府も、国民の痛みを意識していることが想像される。フィデル・カストロが亡くなった後、弟ラウル・カストロが一時継いだ。しかし、現政権を率いるディアスカネル政権は国民の信を得ているとはいいがたい。
アラブの春の再現もありうるように思われる。
隅井孝雄(ジャーナリスト)

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2021年07月29日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】AMラジオ切り捨てでいいか

 全国の民放ラジオ局44局がAM放送からFM放送に全面転換すると発表した(6/15)。FMへの移行は2028年までにはほぼ完了するという。
 ラジオといえばAMでの放送が定番だった。AM電波は広範な地域に電波を飛ばせるという特徴があるが、ビル障害に弱い。そこで設備を手軽に設置できるFM電波を併用する「ワイドFM」が採用され、2014年以降、ラジオ局がAMとFM電波の二つを使うことになった。
 ところがラジオ経営の悪化から、今度は2重負担が重荷としてのしかかるようになった。その上送信アンテナの設備更新などが迫られる時期が重なっている。いっそのこと設備が手軽なFM一本にしては、ということになった。推進したのは、高層ビルの林立で、ラジオ電波の難聴に悩んできたTBSラジオ、文化放送、ニッポン放送の基幹三局だ。
 今回の発表には北海道と秋田の民放3局が参加していない。広大な北海道全域をFM電波ではカバーしようとすれば、かえって膨大は経費がかかる。ABS秋田放送の場合も山間地が多く、FM放送でラジオ世帯の90%をカバーする経営体力がないという。北海道、秋田以外にも、県域局で電波が届かない山間部を取り残したままでFM転換する局も多い。
 さらに大きな問題は「ワイドFM」受信機そのものの普及率が53%にとどまることだ(三菱総研調査、19年)。「ワイドFM」を受信するためには90~94.9メガヘルツの周波数帯域を受信できることが必要だ。しかし多くの家庭で長年使われているラジオは90メガヘルツ未満の目盛りしかないので「ワイドFM」は受信できない。長年ラジオに親しんできた人の半数近くが切り捨てられる。
 ラジオの開始は1925年(大正14年)、96年の歴史を刻む。民放の開始(1951年)で一時期メディアの最先端に立った時もある。貴重なメディアだ。
 最近ラジオ聴取者が緩やかに増え、首都圏で週86万人を超えているという調査がある(20年6月ビデオリサーチ)。コロナ時代、在宅勤務など生活環境の変化から人々がラジオの有用性を見直し始めているのに、AMラジオ切り捨ては合点がいかない。
隅井孝雄(ジャーナリスト)。
               
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          大正、昭和初期のラジオ    
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2021年06月05日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】五輪異論を排除するNHK 役割を放棄

                      
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 抗議の音声消す
 今年4月1日聖火ランナーが長野市内を走っていた時のことだ、一瞬30秒ほど音声が中断した。NHKは「聖火リレーライブストリーミング特設サイト」を設置し、動画配信をしている。ところが長野市内で「オリンピックに反対」「オリンピックはいらない」などの声が入った。そしてその瞬間音声が消えて、映像だけになった。
 東京オリパラ反対運動をしている人々がデモ行進し、その声が入ってきたのだ。
 NHKは「五輪反対の声を意図的に消したのだ」とみられている。この事実に抗議した市民団体は「NHKは東京オリパラ当事者のように、開催準備を進め、異論を排除している、メディアとしての報道を放棄している」と批判している
 NHKには前歴がある2019年6月沖縄戦没者追悼式に出席した際、来賓挨拶に立った安倍首相(当時)に対し会場から「もりかけ」(森友、加計)、「嘘つき」、「帰れ」などのヤジが飛んだ。それを中継していたNHKは消したのだった(民放は流した)。

 Nスペ中止命令
 1月24日NHKスペシャルで「令和未来会議、どうする?東京オリンピック・パラリンピック」という番組があるとTVガイドに載っていた。見ようと思って待ち構えていたところ、内容が全面差し替えになり、「わたしたちの目が危ない」というどうでもいいような番組(再放送)に差し替えられた。前例のない出来事だ。
 『週刊現代』(2/13)が「Nスぺ五輪特集がお蔵入り、局内騒然、官邸の影」、「前田晃伸会長が総理に言われて差し替えたか、忖度したかのどちらかだ」、と報じた。五輪問題のNHKスペシャルは、諸外国からの観客を受け入れないことが決まった後、3月22日にようやく放送された
 ところがこの放送中止のいきさつが「NHKと政治と世論誘導」というタイトルで『世界6月号』が詳しく記載したことから改めて問題となった。
 それによれば、収録中止命令が出たのは1月17日に収録する予定が進んでいた僅か2日前の1月15日のことだったという。1月24日の放送されることは、すでに正式の告知もされていた。スタジオのセットの建て込みも行われていた。
 2日後の収録、1月24日の放送の延期を指示したのは正籬聡(まさがきさとる)放送総局長だったことが明らかになった。ちょうどこの時期は感染が加速度的に増加し、世論調査で東京オリパラ中止が勢いを増す時期と重なっている。番組の中でオリパラ中止の論調が広がる可能性を危惧したのではないか、と私は思った。
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 NHKの2021年度国内は放送番組には「東京オリンピック・パラリンピック開催の機運を高める編成」という項目がある。そのため世論調査の方法も変えた、1月までは開催、中止、延期の3択で、延期と中止が8割近くとなった。2月からは開催、観客制限、無観客、中止の4択となり、開催系が6割、中止が3割なったが、5月には開催系44%、中止系49%に戻った。
 NHKは五輪開催に固執する菅政権の後押しをしているのだ。受信料に支えられているのに、メディアの役割を自ら放棄したといえよう。
隅井孝雄(ジャーナリスト)
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2021年05月05日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】衰退著しい日本の新聞 生き延びる方策は?

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 先日私の家に読売新聞がやってきて、「今日から一週間新聞を無料配達させていただきます、よろしければ購読をお願いします」と言ってきた。しばらくして再度やってきた読売の人が購読を勧めた。私は出身が日本テレビだし、心が動いたが、すでに3紙購読しているので丁重にお断りした。“販売の読売”と言われるが、購読すると答えたらどんな景品がつくのかを聞きたかった。
 
部数減止まらず
 2020年10月の調査(新聞協会)によると、新聞の全国総発行部数は3509万1944万部だった。日本の新聞の最盛期は1990年、その時は5367万5000部を記録した。30年間に、1858万3056部(34.6%)が消えうせたことになる。
 主要全国紙の21年1月度の発行部数は次の通り。読売7,310,734, 朝日4,818,332. 毎日2,025,962, 日経1,946,825, 産経1,223,328(日本新聞協会ABC部数)(注:ABCとは新聞雑誌の実売部数を調査する第三者機関)。昨年同期比でみても読売58万部、朝日43万部、毎日28万部を減らしている。 .
 日本で情報メディアの雄として君臨してきた新聞も、今や経営危機にあえぐまでに至った。朝日新聞の場合2020年9月期の中間決算で419億円の赤字を計上した(前年同期は14億円の黒字)。社員の希望退職者100人以上の募集を始めた。朝日以外も産経新聞や毎日新聞が19年に希望退職を実施しているほか、共同通信でも20年に自然減や採用抑制で社員を300人規模で減らす方針を明らかにしている(ダイアモンド誌3/27)。
 テレビ、新聞、雑誌、ラジオの4媒体広告費もインターネットの流れが強まった。2020年度ではマスコミ4媒体広告費2兆2536億円に対して、インターネット広告費は2兆2290億円と迫り、逆転目前とみられる。
 しかし私は新聞が今の苦境から脱出するカギは必ずあると思う。
 
NYTの電子版
 アメリカを代表する新聞、ニューヨーク・タイムズは2020年12月、電子版の有料購読者が前年比48%増、509万人に達したと発表した。1年間で166万人増えたという。アプリや紙媒体を含めると総有料購読者は750万人をこえる。
 「新型コロナウイルスの感染拡大や米大統領選を通じて、米国民の間で信頼できる情報や質の高い報道への関心が高まったことが有料読者の拡大につながった」といわれる(2/5日経新聞)。またトランプ元大統領に対する批判の姿勢に揺るぎがみられなかったことも、信頼感の要因となったとみられる。
 私は1986年から1999年までニューヨークに滞在していたが、そのころのニューヨーク・タイムズは100万部にも届かない“ニューヨーク地方紙”にすぎなかったことを考えると、隔世の感がある。今は全国紙というより、全世界紙といえるかもしれない。
 ニューヨーク・タイムズは2008年のリーマンショックの際、広告収入がガタ減りし、経営危機に陥った。その際本社ビルの一部を売却して凌いだ。そして2011年有料電子版の発刊をスタート、編集局の体制を、紙媒体の編集、印刷、発送、配達の体制から、電子版中心のデジタル体制に全面切り替えをしたことが今日の成功につながった。記者の数も、1,550人(2019年4月)から1,700人(2020年4月)に増強、また、2020年第2四半期には、電子版の売り上げ(購読料と広告収入)が紙媒体を初めて上回った。(2020.12.22文春オンライン)。編集面でも読者の知りたいこと、読者に知らせたいニュースを満載している。
 日本では日経新聞が電子版で最も成功しているといわれている。電子版読者数は76万244件と発表した(1/15 日経オンライン)。紙媒体との合計は275万3376件。朝日新聞も電子版拡大に力を入れているが有料読者は32万件にとどまっている。(→続きを読む)

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2021年04月01日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】反国軍のミャンマー市民 フェイスブックで映像投稿を続行

ミャンマーでフェイスブックが国軍を相手に果敢に戦っている。
フェイスブックは2月21日、国軍の運営するページを「暴力行為を扇動している」という理由で閉鎖した(2/21AFP)。
続いて27日には国軍が支配するメディアなどによる利用、国軍系企業による広告出稿も禁じた。削除対象には「軍高官や軍に関連するネット TVミヤワディなど20の個人、組織なども削除した」ことを明らかにした(/27ロイター)。
ミャンマーでは、クーデターの直後インターネットが不通になったが、今は深夜と早朝を除き利用できる。フェイスブックなどSNSは国軍が使用できないような措置をとった。しかし市民の多くはVPN(仮想プライベートネットワーク)を経由してフェイスブックその他のSNSに復帰している。

普及率は94%
ミャンマーでは、2011年の民政移管以来、スマートフォンを多くの市民が手にするようになった。スマホの普及は人口5700万の半数以上、およそ2900万台に達しているとみられている。ツイッター、インスタグラムなどを含むSNS全体の中でフェイスブックのシェアは94%と断トツだ。
抗議活動もZ世代の若者たちが、フェイスブックで連携している。2月22日のゼネストも若者のネット経由の呼びかけで、ミャンマー全土で展開された。参加した市民は100万人に上る。ニューズウイーク(日本版3/16)が伝えるところによると「治安部隊の発砲で頻発する死亡事故に際しても、現場で、担架で運ばれる負傷者の姿や、銃撃を受けて倒れる市民を捉えた映像が次々にフェイスブックなどネット映像で拡散している」と伝えている。

国軍の発信元は
ミャンマー国軍は2月22日、2万3000人の服役者を釈放した。抵抗をやめない市民に恐怖感を植え付ける手法だ。1988年のクーデターの際にも同じ手法を軍はとったのだと伝えられる。そのあと放火、略奪、誘拐など事件が次々に起きたことの繰り返えしが予想される。
それに加えて今回はスマホの自撮りで「今夜俺はパトロールに出る、アウンサンスー・チーを支援する奴ら(マザーファッカー)は撃ちぬいて殺してやる」( ニューズウイーク日本版3/16)などという脅迫まがいの映像も流れた。
これら軍協力者や軍関係者の発信源はTikTokだというのも意味深だ。軍関係者が中国の支援を受けている証拠になるというわけではないが、フェイスブックの使えない軍や軍支持者らが中国発のアプリに親和感を持っていることはありうる。
 
名誉挽回図る
2018年、イスラム系少数民族ロヒンギャ虐殺事件が起きた際、フェイスブックは「憎悪拡散に十分な対応をとっていない、むしろ都合の良いプラットフォームになっている」との批判を、国連ロヒンギャ問題調査団から受けた。今回はその批判からの名誉挽回をフェイスブックは試みているものとみられる。
ニューズウイークはミャンマーのある市民の声を伝えている。「私たちはこの瞬間にも、隠れながらスマホで撮影し、フェイスブックに投稿を続けている。軍が私たちの分断を画策しているが、市民は結束してフェイスブック武器に連帯を示す」。

記者らを迫害
ミャンマーの独立系インターネット有力メディア「イラワジ」はクーデター以来、一貫して国軍批判の報道を続けてきた。ところが3月12日「社会の不安をあおっている」として軍事政権から告発をうけた。記者個人への迫害は多くみられたが、メディアが組織として告発されるのは初めてのことだった。
これに前後して国軍は15日までに39人のジャーナリストを逮捕、解放の条件としてデモを報道ないという誓約書への署名を強制しているという。
また17日までに「スタンダードタイムス」、「ビルマの民主の声」など5紙の新聞発行が停止された。「ミャンマーナウ」の編集長(新聞とネットの両方を出している)は「報道を継続すれば投獄や殺害の危険があるが、国軍の非道な犯罪を取材し続ける」と表明した。「ミャンマーナウ」は今後インターネットを通じて報道する。
3/29の時点で、ミャンマー市民デモの死者は423人に達した。世界の批判を浴びながら、ミャンマー国軍は弾圧拡大し続けている。一方市民の側は犠牲者を出しながら、抗議デモは止まらずに続いている。
ミャンマーの平和の回復を祈るほかはない。
隅井孝雄(ジャーナリスト)
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2021年03月23日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】今こそ通信放送認可の第三者委員会の設立を

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  米バイデン政権が就任早々の1月20日、真っ先に取り組んだのは「言論の自由」だった。
1月20日、新大統領の仕事ぶりに接しようと集まった記者団の前に現れたのは新任のジェン・サキ報道官。「私は独立した報道に深い敬意を持っている。米国民に正確な情報を提供する目標は共有している」、「(大統領も私も)透明性と真実に重きを置く」と語った。前のトランプ政権とは大きな違いだ。

 切って捨てる返答
 菅義偉首相は8年の長きにわたり官房長官として政治をとりしきってきたが、その間に様々なネガティブルールを作り上げてきた。例えばコロナが再拡大後初めての1月4日の総理記者会見は6人の記者が質問しただけで打ち切られた。「幹事社以外は一人1問、再質問は認めない」、「会見出席は一社一人に限る」というのが、彼が設定したルールだ。
官邸会見室は120席あったのがコロナを理由に29席に減らされた。そのうち内閣記者会外加盟社が19席を占める。残りの10席を専門記者会、雑誌協会、ネット協会、外国メディア、フリー記者が抽選で分け合う。(ちなみに、内閣記者会の正会員社は103社、365人)。
2月28日に、大阪など6府県の緊急事態を解除した際には、首相会見も開かず、26日にぶらさがり(立ち話)で記者たちの質問に答えるにとどまった。菅首相が首相広報担当にした、汚職問題が発生した山田真貴子広報官を擁護するためであったとみられる。3月1日山田広報官は辞職した。
  官邸記者クラブの一問一答を聞いていても民主主義からは程遠い、切って捨てるような返答か政府から帰ってくるだけだ。「透明性」と「真実」を回復したアメリカのメディアと政治の関係はうらやましい限りだ。(ホワイトハウスの記者会証を持つ記者は750人前後、会見室は狭い部屋で49席を分け合っている)。

 問題抱えるNHK
 放送に目を転じると、NHKと政府の癒着が著しい。かんぽの不正を伝える番組を中止(2018年4月)させた張本人である森下俊三氏(当時経営委員長代行)がその後経営委員長に昇格、今回再任された(3/9)。経営委員会が番組には介入してはならないという放送法があるのを無視して菅首相が決定したものである。森下氏は今回問題になっているNTT出身だ。経営委員会の委員長職務代行に選任された村田晃嗣(同志社大教授)は右翼的言辞で知られる。
 一方、市民の間に人気のNHK、有馬嘉男アナ、武田真一アナの降板が発表された。昨年10月首相に選出された初出演(10/26)で、有馬アナは日本学術会議問題について質問を重ねたことが原因で、官邸の怒りを買い、降板につながったといえる。原聖樹政治部長のもとに官邸から𠮟責の電話がかかってきたと伝えられる(週刊文春2/25)
武田アナの場合は二階博幹事長の出演に際し、「政府のコロナ対策は十分なのか、さらに打つ手があるとすれば、何が必要か」を問いただした。それが二階氏の逆鱗を買ったのだといわれる(週刊文春2/25)。
 NHKスペシャルで「令和未来会議、どうする?東京オリンピック・パラリンピック」という番組があるとTVガイドに載っていた。見ようと思って待ち構えていたところ、内容が全面差し替えになり、「わたしたちの目が危ない」というどうでもいいような番組に差し替えられた。前例のない出来事だ。週刊現代(2/13)が「Nスぺ五輪特集がお蔵入り、局内騒然、官邸の影」、「前田晃伸会長が総理に言われて差し替えたか、忖度したかのどちらかだ」、と報じた。五輪問題のNHKスペシャルは、諸外国からの観客を受け入れないことが決まった後、3月22日にようやく放送されたが、内容は薄いものだった。NHKがかくも政府、自民党に屈している姿は、民主主義とは程遠い。(→続きを読む)
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2021年02月26日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】永久凍結のトランプTWと言論の自由 メルケルの真意は?

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 トランプが表舞台から去った。議会占拠事件でツイッターが凍結されたことは、さもありなんと思う。その一方弾劾裁判に問われていたトランプ氏に対し、米上院は2月13日無罪を表決した。
直後トランプ氏は次のような声明を発表した。
 米国を再び偉大にする素晴らしく歴史的、愛国的運動が始まった。今後数ヵ月内に私は多くのことをあなた方にお伝えする。そして米国の偉大さを達成する旅を皆さんの共に続けることを楽しみにしている」。
 トランプの今後の動きは、アメリカ社会にとって無視できないことも現実だ。
 共和党で弾劾賛成の票を投じたのはわずか7人の共和党議員に留まり、出席議員の2/3にはるかに及ばなかった(有罪支持57票、無罪支持43票)。

完全禁止の意見が
 トランプツイッターの凍結は、トランプ支持派による1月6日の議事堂(キャピトルヒル)占拠事件がきっかけだった。しかしトランプツイッター凍結の動きは早くからあった。
 ツイッター社は昨2020年5月26日、「カリフォルニアの郵便投票は不正の対象になる」とのトランプ投稿に対し、「事実確認が必要だ」との画面をかぶせ、一回クリックしない限り直接文面を見ることができなくなった。その2日後、5月25日のジョージ・フロイド事件でもツイッターはトランプの投稿に対しも、「暴力をたたえる内容は、ツイッターの倫理綱領に違反だ」、かぶせ画面で直接見られない措置をとった。
 その後選挙戦激化とともに、トランプツウィ―トのほとんどが「真偽が疑われる」、「誤解を招く」、「事実確認が必要だ」など、かぶせ画面の対象となった。しかし「大統領としての公職にあり、トランプ発言を社会が知ることも必要だ」としてクリックすれば発言を視聴できる措置をとっていた。トランプツイッターを完全に禁止せよとの意見はツイッター社に繰り返し寄せられていた
 1月6日、トランプの呼びかけに応じた支持者らが米議会に乱入、3時間にわたって占拠する、という事件がおきた。折から議会ではバイデン氏を大統領当選者とする議事が進行中だったが中断、当選確定は7日早朝となった。事実上のクーデターだと意見も根強い。
 米ツイッター社は、1月8日「暴力行為を扇動する恐れがある」としてトランプツイッターのアカウントを永久凍結したと発表した。一方、トランプ支持者の多くがツイッターの代替えとして使うSNSアプリ「パーラー」については、グーグル社が8日、アップル社が9日、凍結、削除した。ツイッター社は永久凍結の理由として、「1月17日も連邦議会や各州議会を襲撃する計画もツイッターなどで拡散されている」ことを明らかにしている。
 CNNが入手したFBI文書によると、大統領就任式以前にトランプ派、急進派(Qアノンなど)が全米50州の州議会を乗っ取り、首都ワシントンでは就任式の20に「武装デモ」の計画があったという。

報道官による発言
 ところでトランプツイッターの凍結に対し、一部に言論の自由の自由に反するのではないかとの意見が出ている。私はSNSの無制限、無規律な現状を改めためる一環としての「トランプツイッター凍結」が正当であることを主張したい。
 巷間誤って伝えられるのは、ドイツのメルケル首相(写真)が凍結に異を唱えたという点だ。しかしメケル本人の発言ではなく、報道官によって発言したものであったという。しかもメルケルはトランプの憎悪に満ちた発言、暴力をそそのかす発言を強く批判している。
 ドイツではSNS上でのヘイト発言を規制する場合、連邦刑事庁に該当する犯罪的コンテンツを報告することを義務付ける法改正を昨2020年6月に行った。
 アメリカでは私企業であるSNS各社が、各社ごとの倫理規定に従って「かぶせ」、「削除」、「アカウント禁止」の削除を行っている。
メルケル首相の発言はドイツSNSヘイト対策に公的機関の関与を取り入れている事実を説明したものであった。制度上、違いがあることを指摘したのがメルケル発言であり、国際的には何らかの公的関与が必要であることを訴えたものであった。(→続きを読む)
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2021年02月11日

【隅井孝雄メディアウオッチ】ホワイトハウス メディアへの対応が変わった

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  1月20日、アメリカ大統領にジョー・バイデン氏が就任した。トランプ氏が去ったその日、ホワイトハウスではジェン・サキ大統領報道官(写真)が政権発足後初の記者会見を行った。サキ氏は「独立した報道に深い敬意を持っている、皆さんと一致できないことがあるかもしれないが、アメリカ国民に正確な情報を提供するという目標を共有している」と述べた。「透明性」と「真実」に重きを置く広報官の姿勢は、トランプ前政権からの転換を強く印象付けるものだった。
 このニュースを聞きながら私は2017年1月11日、トランプ氏が当選後初めて開催したトランプタワーでの記者会見の光景を思い起こした。世界中から記者が詰めかける中、CNNのジム・アコスタ記者が再三手を上げ発言を求めたことに対し、CNNをフェイクメディアだとして、質問を最後まで認めなかった。
 トランプ氏は後に大統領会見でアコスタ記者のホワイトハウス記者証を取り上げる暴挙を行った(2018年11月)。米メディアは団結して抗議、ワシントン地裁の記者証返還命令もあり、11日後に記者証は戻された。コロナウイルスに関しては昨年3月に連日開催を始めたが、誤った発言を繰り返したことを指摘され、昨年4月29日以降定例会見を中止、もっぱらツイッターに頼った。
 米大手メディアはトランプの4年間、トランプ発言の検証を心掛けてきた。トランプ支持のFoxテレビがバイデン氏の当選を認めたあと、右翼勢力は彼らの見解に同調するインターネットテレビ「ニュースマックス」に流れているという。
 「報道特集」金平茂紀キャスターはアメリカの変化を伝える中、サキ報道官の初会見にも言及「会見は発言を求める記者たちが納得いくまで続けられた。日本の記者会見とはなんという違いだ」とのべた(1/23)。

1月4日の総理年頭会見はコロナの感染者数が急上昇している中多数の記者たちが手を挙げているのに6人の記者が質問しただけで打ち切られた。官邸広報官は、「幹事社以外は一人一問、再質問は認めない」と釘をさした。出席するのも一社一人に限られている。
日本のメディアにとって「透明性」と「真実」という言葉は重く響く。
隅井孝雄(ジャーナリスト)

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2021年02月04日

【隅井孝雄メディアウオッチ】 ディズニー+(プラス)名作の差別表現に注意を促す

オンライン上で昨年6月定額有料配信(月額700円)を日本でも開始したディズニー+は、昨年10月差別用語を含む映画の冒頭に視聴者の注意を喚起する表現を入れ始めた。
 「この作品には、人々や文化の否定的な描写や不当な扱いが含まれています。これらの偏見は当時も今も待つがっています」。
 例えば「ピーターパン」では先住民を、蔑称である「レッドスキン」と差別的な呼び方が何回も使われている、としている。「おしゃれキッド」では、つり目で前歯を強調したネコのキャラクターについては「東アジアの人たちを差別するような発言で、固定観念を雇用している」と解説します。この猫は流ちょうではない英語で歌を歌い、箸を使って上手にピアノを弾くシーンもある。「ダンボ」では黒いカラスの集団が、奴隷だったアフリカ系アメリカ人の物まねをして見せる、などの差別的シーンが登場する。
 「わんわん物語」や「ジャングルブック」の作品解説には、最後の部分に次のような一文が加えられた。「この作品は制作された当時のままの状態で公開されています。時代遅れの文化的表現を含む可能性があります」。しかし作品のカットや編集などは一切していない。
 また、ディズニーはアニメ内での喫煙に関する描写に対しても、「煙草に関する描写を含んでいます」との注意書きを入れた。
 
 ワーナーブラザーズも問題表現を含む古いアニメ作品について、開始前の画面で、次のような字幕を入れた。
 「この作品は一時代前の産物です。劇中には、当時のアメリカにおいて蔓延していた特定の民族や人種に対する描写が含まれている可能性があります。これらの描写は当時においても現代においても誤ったものです」。
 このような措置が講じられた原因は、昨年5月の警官による黒人ジョージ・フロイド殺害事件を契機におきた「ブラック・ライブズ・マター」運動の大きなうねりだ。米エンタメ業界は一斉に人種差別的表現を自省し、多様性の反映の模索を目指す動きを広げたのだった。
 ディズニーは「有害な影響を認めてそこから学び、より包括的な未来を共に作るための対話を巻き起こしていきたい」と説明している(京都新聞2020年12月29日)。

 なお、劇場映画の部門でも20世紀Foxの作品をネット配信している「HBOマックス」が、昨年6月以降「風と共に去りぬ」の配信を停止している。HBOマックスの広報担当は「不幸にも米社会で一般的だった民族や人種への偏見の一部を描いている」とその理由を述べている。
 隅井孝雄(ジャーナリスト)
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2021年01月16日

【隅井孝雄メディアウオッチ】 プライムタイムに大量マイポイントCM 菅政権のデジタル推進政策がバックに

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  「マイナポイント」という名のスポンサーによる番組提供、あるいはスポットCMが高視聴率の時間帯(プライムタイム)に連打されている。一連のCMの実際のスポンサーは総務省だ。今登録すると5000円相当のポイントが付くと宣伝されている。

普及促進へ巨費
  菅政権の目玉政策の一つデジタル庁創設に368億円という巨費が計上された(2021年度の政府予算)。さらなる目玉はマイナンバーカードの普及。普及促進には1001億円が割り当てられた。
  国民のマイナンバーカードに対する拒否反応は根強い物がある。20年12月現在約3002万枚(人口の23.6%)の交付に止まっている。22年末までに全国民に行き渡らせたいと菅政権は考えているのだが、現実には不可能だ。
  マイナンバーカードは裏面に個人を認証できるICチップを搭載し、オンラインで本人確認ができる。「マイナンバーカードは安全安心で、利便性も高い、『デジタル社会のパスポート』だと認識いただきたい」と平井卓也デジタル改革担当相は国民に呼びかけている(東京新聞11/22)。

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    政府はカード普及策として、カードを取得した人を対象に食事や買い物に使える5000円の「マイナポイント」を還元する申し込みの受付を昨年7月から開始した。100種類以上の決済サービスと連動、21年3月31日まで使える。
  そこで登場したのはTVCMだ。舘ひろし、深川麻衣、飯尾和樹(お笑いコンビずん)などが白いぬいぐるみで登場して、「子供も対象、4人家族で2万円」などと宣伝しえいる。未成年でもキャッシュレスレスサービスに登録さえすればマイナポイントをもらえることなどを売り物にしているのだ。
  マイナポイントのTVCMには、広報費53.8億円のうち2020年7月から10月までの3ヵ月間に18億円が投入された。この間に「マイナポイント」として流されたCMは朝から深夜まで115回に達したという(11/19赤旗)。

電子決済安全性は?
  政府の説明では、マイナンバーカードは利用者にとって、個人としての身分証明になるほか、健康保険証として利用され(2021年3月から)、スマホにも搭載できるようになる(22年度中)。そして全国民がマイナーバーカードを取得すれば(22年度末目標)、将来的には運転免許証と一体化する(26年度、前倒しもある)、という計画だ(11/22東京新聞)。
TVCMの説明だと写真付きだから安全だとか、紛失しても24時間連絡できるというが、その程度ではマイナンバーカードの漏洩や、悪用が止められる保証にはならない。
昨年9月、郵貯がデビッド・プリペイド・カード、mijikaが悪用され、この電子決済サービスの登録者、550万人にとっては、郵貯口座を他人に引き出される恐怖にされたことを思い起こす。マイナポイントの大々的な利用はマイナンバーカード本体の安全性をも脅かす危険性が懸念される。
隅井孝雄 (ジャーナリスト)
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2020年12月30日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】 東西二つの報道番組40年

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二つの報道番組、「映像20」(毎日放送=写真上)と「報道特集」(TBS=写真下)がともに40周年を迎えた。
 「映像20」は1980年4月に「映像80」として放送を開始、毎月最終日曜日の深夜0:50~1:50、関西地区のローカル放送だが、芸術祭賞、民間放送連盟賞、ジャーナリスト会議賞、国際エミー賞などおよそ140回も受賞、内外からの評価が高い。
11/29日の放送では「映像シリーズ40年〜関西発・真夜中のドキュメンタリズム」と題して、40年の歳月を振り返った。
 番組を作っているのは報道局ドキュメンタリー報道部、プロデューサー一人にディレクター4人。制作費はプライムタイムの番組の10分の1、20分の1ほどだが、制作者たちの創造性、先見性で補っていることが、優れた番組を生み出す基礎だ。
「報道特集」は当初「JNN報道特集」として1980年10月に放送が始まった。毎週土曜日17:30~18:50、TBS系列28局の全国放送。掘り下げた調査報道との評価が高い。
 TBSは1960年代、“報道のTBS”といわれた。看板番組「ニュースコープ」田英夫キャスターがベトナム取材報道を政府から咎められて退社(1970)、同じ頃、他の民放の報道系番組にも政府の干渉が続き“沈黙”の時代に入った。
 1980年代報道番組の復権を担ったのが「報道特集」だ。折からフィルムカメラに代わりENGカメラが現場に定着、どこへでも取材に入りたいという現場の記者たちの意欲に応えた。当時アメリカで評判だった報道番組「60ミニッツ」(米CBS,日曜18時)に触発されて週間のまとめ報道枠が誕生した、と初期のキャスターの一人田畑光永氏は語る。
 スタートに当たって「四つのコンセプト」が作られたと証言がある(現プロデューサー辻真氏)。1. 調査報道に取り組む、2. 評論家ではなく当事者の証言を、3. 賞をとることを目指さない(実際には新聞協会賞など多く受賞している)、4. 番組の飾りはできるだけ排する(11/25. 民間放送)。
 最近でも「桜を見る会」、「日本学術会議」などでの調査報道は活発に続けられている。民放報道の健闘を望みたい。
隅井孝雄( ジャーナリスト)。
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2020年11月30日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】 トランプのTW閉鎖か 問われる安倍前首相のSNS虚偽発言 

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 ツイッターを駆使して世界に君臨してきたトランプ氏は米大統領の地位だけではなく、ツイッターも使えなくなるかもしれない。
 11月17日、米議会の公聴会に出席したツイッターのジャック・ドーシーCEOは「指導者の地位にあるため独別な例外措置を認めているが、大統領の地位を失えば特権を失う」と述べた。
虚偽発言18000回
 トランプ氏は、これまでSNS上での「虚偽発言」が大統領就任以降18000回にも上っている。そのうち3600回がツイッター経由だった、と米紙が報じた。大統領選挙後はさらに「落選」を認めない発言が、連続しているのだが、ツイッター社はこれも「虚偽発言」みているようだ。
 ツイッター社は通常なら削除されるかアカウント自体を取り消される「トランプ氏の虚偽の投稿」を「事実確認が必要」、「投稿の一部に真偽が疑われる記述を含む」などのラベルを付けて掲載してきた。しかし大統領としての「公益性のある地位」を失えば、「虚偽投稿を繰り返す」人物はアカウント凍結措置が取られるのがルールだとドーシーCEOは米議会で述べている。
 2020年5月26日のトランプ大統領の2本のツイートは、カリフォルニア州の郵便投票は不正の対象になるとの投稿だった。これに対し、ツイート社は「事実確認」ラベルをつけた。また5月28日のジョージ・フロイド事件の抗議デモに対するツイッターは自動表示されないようにしたうえで、「暴力をたたえる内容はルール違反だ」と注釈をつけた。
 11月3日の投票日以降もツイッターは数多くのトランプツイッターに対し、「事実確認必要」、「真偽が疑われる」、「誤解をまねくおそれあり」というカードをつけ、クリックしないと閲覧できない、などの措置をとってきた。
 一方、「法の下で市民権を求める弁護士委員会」や、政治監視団体の「コモン・コーズ」などはこれらの措置に納得せず、トランプアカウント凍結を求める公開書簡を送っている(11月12日)。
 FB、アカウント削除
 フェイスブックもトランプ投稿など、内容が虚偽である、または暴力を推奨するような投稿に対し削除するなどの対応をとっている。例えば「コロナはインフルエンザほど致命的ではない」とするトランプ投稿(10/6)を誤った情報だとして削除した(同じ文面のツイッター投稿は自動閲覧できないうえで、注意喚起の表示がついた)。
 またAFP通信によると、多数の偽アカウントを使ってトランプ大統領を称賛する運動が展開されたとして、フェイスブックのアカウント200件と記事55ページ、インスタグラムアカウント76件を削除したことをフェイスブック社が発表したと伝えている(10/8)。
 更にトランプ支持グループ「Stop the Steal(選挙を盗むな)」のフェイスブックページを閉鎖した。このグループは全米で35万人のメンバーがいて、トランプ支持のデモを計画していた。議会公聴会で証言したマーク・ザッカーバーグCEOによると、「暴力を誘発する恐れがあった」という(11月17日)。
 オバマにかなわない
 トランプ氏がツイッターを始めたのは2009年3月。著書を出版こととなり、どう売り出すか話し合いが行われた。その席上出版会社の編集者からツイッターについて説明があり、興味を抱いたのがきっかけだった。しかしすでに有名だったトランプの偽ツイッターがあり、アカウント名を「@real DonaldTrump」にしたという。
 大統領選挙直前の11月1日に時点のフォロワーは8736万。一日平均のツイート数11件。よく使う言葉は1.「Make Amerika Great again」,2.「Fake News」、3.「Witch Hunt」,4.「Deal」。(毎日新聞11/1)だと報道されている。
 フォロワー数ではバラク・オバマ氏の1億2590万人にはるかに及ばず、世界7位に低迷している。ちなみに2位はジャスティン・ビーバー(1億1,100万フォロワー)、3位はケイティ・ペリー(1億1,000万人)。
 日本は野放し状態
 ところで日本ではツイッターもフェイスブックも厳格な規定がなく、まして大物政治家の虚偽発言に対抗して、削除することなどは考えられない。
 例えば、安部晋三前首相だが、2018年の桜の会、前夜祭の参加費を補填した事実が明らかになった(11/23)。安倍前首相は在任中「経費補填はしていない」と言い続けてきた。
 安部氏が2019年秋の臨時国会と20年年の通常国会で事実と異なる答弁を少なくとも33回行ったことを衆院調査局が明らかにしている。
 安部氏が代表を務める資金管理団体晋和会は懇親会代金の不足分として、5年間で800万円をこえる。この支出は公選法違反の買収にあたるとして野党側が追及してきた。さらに東京地検特捜部も秘書らに事情聴取している。
 後援会員らに経費補填したことが発覚した以上、アメリカであれば、「虚偽発言を続けた人物」のツイッターもフェイスブックも徹底的に調べる。もしその発言の中に虚偽があれば、閉鎖することになる。首相としての特権的地位を失い、公益性のかけらもないのだから。
 安部氏や官邸のツイッター、フェイスブック、インスタグラム、ラインなど一連のSNSでフェイクが流されていれば、閉鎖を含む対抗措置が取られなければならないだろう。
 隅井孝雄(ジャーナリスト) 

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