2023年06月13日

【選挙】地方でも女性トップ当選 愛知・安城 野場華世市議=鈴木賀津彦

                      
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  女性の当選は、杉並区などの都心部で注目されがちだが、地方でも大きな動きが起きている。愛知県安城市でトップ当選した女性候補(保守系)の選挙戦を取材した。
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 「どうしてこんなにたくさんの人が私のこと知ってたの!」。4683票を獲得し、2位に1000票以上の大差をつけてトップ当選を果たした安城市議の新人、野場華世さん(41)の喜びの声は驚きに満ちていた。

 そんな驚きの言葉が出たのもうなずける。野場さんが生まれ育った故郷の安城市に引っ越してきたのは、選挙のたった4か月前。さらに定数28人に対して38人が立候補した激戦区の上、野場市議の支持基盤となる北部地域からは新人女性が3人も出馬し三つ巴の戦いとなった。
 SNSを利用したネット選挙を制して票を集める候補も出てくる中で、野場さんはツイッターもインスタグラムも使用しなかった。利用したのはnoteというブログサイトのみだ。なぜSNSを積極的に利用しなかったのかを彼女に問うと、意外な答えが返ってきた。

 「私はプライベートと選挙活動を含めた政治活動の線引きについて、まだ結論が出せていません。だから、結論の出せていないものには手をださい。そして、表面的な発信をすることにも意味を感じていません。発するなら文章でしっかり発信することこそ誠意だと考えたからです」
 彼女には5歳と3歳の息子がおり、私生活をさらしすぎることへの危機感を持っていると教えてくれた。そして彼女の考え方はある意味戦略として正しかったという。選挙後、選挙中の一週間のブログ解析をすると、閲覧回数は1万回を超えており、市民の彼女への関心の高さがうかがえた。彼女のブログがなぜ人々に響いたのか、それは彼女が街頭演説で語った言葉に答えがあると話す。

 「私は1週間で街頭演説と個人演説会を合わせて50か所以上で開催しました。私が話したことは、提言する政策の裏付けとなる実体験です。子どもの能力を伸ばしたいという思いの裏にある、自分が受けたかった教育。子供の居場所を作りたいという裏にある、ヤングケアラーでいじめられっ子だった幼少期。誰かに助けてもらいたかった経験があるからこその、助けてあげられる環境の整備。そして新聞記者として培った行政や政治を見る目。すべて自分の言葉で語りました。泣いてくださる聴衆の方にたくさん出会いました」

 ブログには、彼女の率直な語り口で、本音の思いがつづられている。いま、彼女のもとには同世代の40代から「政策実現の手伝いをしたい」という声も届き始めたそうだ。
 「これまで政治に無関心だった世代は、ただ自分の思いに寄り添い共感してくれる同世代の代弁者を探していたのではないか」、彼女はこう選挙戦を振り返った。

 20年間も故郷を離れて舞い戻ってきた新人女性を圧倒的な支持で受け入れた安城市民。彼女は共感者を集めて政策チームを作るという。この4年間でどんな政策が実現していくのか注目しよう。   
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年5月25日号
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2022年10月22日

【JCJ沖縄知事選報告】分断はねのけ「オール沖縄」勝利 新基地反対民意揺るがず

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全国から注目された沖縄県知事選挙は9月11日に投票が行われ、即日開票の結果、県政与党の「オール沖縄」勢力が支援した現職の玉城デニー氏(62)=共産、立民、社民、社大、にぬふぁぶし、れいわ推薦=が33万9767票を獲得し、いずれも無所属新人で、前宜野湾市長の佐喜眞淳氏(58)=自民、公明推薦=と前衆院議員の下地幹郎氏(61)を破り、再選を果たした。
投票率は、57.92%と4年前の知事選に比べ、5.32ポイント低下し、過去2番目の低さとなった。
今選挙戦での最大の争点となった辺野古新基地建設を巡り、玉城氏は「軟弱地盤の存在もあり、絶対に完成させることはできない」と明確に反対の立場を強調した。前回も出馬して敗れた佐喜眞氏は、4年前は容認を明確にしなかったが、今回は「容認」の立場を明確にした。下地氏は馬毛島(鹿児島県)への訓練移転により「これ以上は埋め立てない」と訴えるなど、争点は明確となった。
玉城氏の当選は、前回知事選や2019年に実施された県民投票などで示された「辺野古新基地建設反対」という民意を改めて示し、新基地建設に反対してきた玉城県政の継続を多くの県民が信任した形となった。

また、同日に行われた、普天間基地を抱える宜野湾市長選挙では、辺野古移設「容認」を掲げた現職の松川正則氏(68)=自民、公明推薦=が2万9664票を獲得して、新人の仲西春雅氏(61)=共産、立民、社民、社大、にぬふぁぶし、れいわ推薦=を1万1206票差で破り、再選を果たした。
県知事選では、多くの市町村で玉城氏の得票数が上回ったが、普天間基地を抱える宜野湾市、辺野古を抱える名護市のそれぞれで、佐喜眞氏の得票数が上回った。宜野湾市長選挙の結果も踏まえ、改めて公約の辺野古新基地建設阻止に対する手腕が玉城氏に問われることになる。
復帰50年の節目に行われた今回の知事選挙で、沖縄県民は玉城県政の継続を選んだ。辺野古新基地建設阻止はもちろんのこと、コロナ禍で落ち込んだ沖縄経済をどう立て直していくのかなど、さまざまな課題が山積する中、公約をどう実現していくのか、玉城県政の4年間の舵取りに注目が集まる。   
 次呂久勲

旧統一教会、自民に逆風

  沖縄県知事選挙は、自民党沖縄県連の候補者選考会議が佐喜真淳氏を候補者に決定した時点で、勝敗は決していた。
 4年前の知事選。保守のエースと目されていた佐喜眞氏が宜野湾市長を辞職して立候補した。だが、名護市辺野古の海を埋め立てる新基地建設には一切触れず、大挙して応援に押し寄せた政府・自公とのパイプを強調したのだが、落選した。
 政府挙げての札束攻勢は、基地はいらないという沖縄の民意の前に、はかなく散ったのだった。
懲りずに県連はまたも佐喜真氏を擁立した。これに自民支持者からは、「なぜ落ちた人がまた出るのか」と不満が噴出した。加えて旧統一教会問題が連日、マスコミで取り上げられたことで、佐喜真氏と旧統一教会との関係が明るみになり、佐喜真氏は謝罪せざるを得ず、県連は万事休すとなった。

 ある県連幹部は「それを払しょくするために大掛かりな総決起大会を開いた。だが旧統一教会問題は、佐喜真氏にボディブローのように効いた」と語る。
 旧統一教会問題と距離を置きたい公明の支持母体・創価学会の一部会員は、佐喜真氏を推さず玉城デニー氏支持に回った。
 また、沖縄の統一地方選と重なり、自民党内も地方議員の応援で精いっぱいと、佐喜真氏の事務所に出入りする姿が減っていった。前回、玉城氏を支援した経済関係者は、今回は佐喜真氏を支持したのだが。
 佐喜真氏の誤算は、前回、辺野古をスルーしたことから一転して容認を打ち出したことにある。県民の7割が辺野古反対なのに、直近の参院選で容認を明確にした元総務官僚の候補が現職に肉薄したことを過大評価したのだろう。
今回の知事選は、自公と経済界と政府の敗北であり、県民の良識の勝利である。 
  金城正洋

「手立てはまだある」示す

 復帰50年の節目の沖縄県知事選で県民が改めて示したのは、米軍普天間飛行場を名護市辺野古へ移設する政府計画への「反対」だった。
 知事選で辺野古移設の反対を公約した候補者が勝利したのは3回連続だ。沖縄の民意は底堅い。
 知事選で移設反対の民意が強固に示されるきっかけとなったのは2013年、当時の仲井真弘多知事が公約に反して防衛省の埋め立て申請を承認したことにさかのぼる。仲井真氏は県民の批判を浴び、3期目を目指した翌年の知事選で故翁長雄志知事に敗れた。
 しかし、仲井真氏の承認によって、民意を受けた翁長氏も、その後の玉城デニー氏も、苦戦を強いられている。
 1期目で玉城氏は、辺野古の軟弱地盤改良で政府が出した設計変更申請を不承認とした。事実上の「最後のカード」と言われるが、政府は次々と対抗措置を取り、国と県は新たな法廷闘争に入っている。先行きは不透明だ。

 一方、工事の進捗もまた見通せない。埋め立て予定海域で見つかった軟弱地盤(深さ90b)の改良は前例がない。防衛省は、最短でも事業完了は14年後とするが、地盤改良の難しさを考えればそこからさらに数年後となることも想像に難くない。返還合意から40年近く経って基地が完成しても国際情勢に対応できるのかとの疑問もすでに出ている。
 そうした最中、今選挙では、膠着状態の辺野古問題について玉城氏から新たな提起がなされた。候補者討論会で玉城氏は、既に埋め立てられた部分の平和利用を明言したのである。それは、たとえ工事が進んでも、移設反対という民意の実現は可能であるということを示唆している。
 玉城氏は今後、国連や米議会など、国際社会へ直接アピールしていく考えも表明した。「われわれが取り得る手だてはまだまだある」(玉城氏)との言葉からは、沖縄があきらめない限り、政府の計画の実現は困難であるとの覚悟が読み取れた。
 黒島美奈子
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年9月25日号


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2022年01月31日

「絶望45%」に届く言葉を 野党共闘 安保政策も重要 市民連合@新潟 佐々木寛氏に聞く=須貝道雄

                          
オンラインでのインタビューに答える佐々木寛さん(21年12月29日).jpg
   
 国政選挙で野党共闘が4連勝した新潟県。そのキーマンとされる市民連合@新潟の共同代表で、新潟国際情報大学教授の佐々木寛さん=写真=に、政治と野党共闘のあり方を聞いた。
 ご祝儀相場の面
◆昨年の総選挙では日本維新の会が増え、憲法改悪を叫んでいる。
「維新の会を過大にも過小にも評価してはいけない。今回の結果は前回衆院選(2017年)で希望の党がとった約1千万票を、維新の会と国民民主党が分け合った形だ。現状のシステムを維持しながら何とかしてくれと望む『改革保守』の人々の素朴な心理をくすぐった。盤石な支持ではなく、一種のご祝儀相場といえる」
「一方で、甘く見てはならない。メディアを取り込み、ワンフレーズで大衆の心理をすくい取る。たとえば『身を切る改革』。自分たちの政治は自己利益のためにしているのではないと訴えた。大阪ではコロナ対策でも経済対策でも客観的には維新の会は結果を出していない。しかし、既存システムに漠然たる違和感を持つ層の支持を吸収している」

ファシズムの危険
◆投票率が約56%と戦後3番目の低さだった。
「だれが政権をとっても世の中は変わらないと政治に絶望している人は投票に行かなかった。その層が45%近くいる。貧富の差が拡大し、不安は募っているのに」
「今の日本は、ファシズムの予兆という点で、第2次世界大戦前のドイツに似ている。賠償金問題で社会不安が増すなか、国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)が選挙で勝った。名前だけ見れば左翼(革新)政権だ。不安にさいなまれた人たちから大喝采を浴びた。火をつけるきっかけさえあれば、日本でも同様のことが起こり得る。維新の会の大衆操作政治は油断できない」
◆絶望の根源には何があるのか。
「大学で思うのだが、今の若い人たちは公的な場で必要とされ、称賛された経験が皆無だ。公的なことは遠い存在で、意味のないものと見ている。公的空間から排除され、最初からゲームに参加できていない。貧困とともに大きな問題だ。総選挙の投票日(21年10月31日)にハロウィンでうかれる若者らがいた一方で、電車内で刃物をふるった男がいた。今の絶望の社会現状を象徴している」

新味いかに出すか
◆野党共闘は効果がないのか。今後の方向は。
「先の総選挙では与党の自民・公明と野党共闘は各選挙区で四つ相撲となり、差しでよい勝負をした。新潟に限れば野党は4勝2敗だ。共闘が無かったら、こんな結果は出ない。それを失敗と見るのは科学的な評価ではない。メディアの論調もしかりで、自分で考える力のある記者が減った気がする」
「今後の野党共闘は従来のやり方を踏襲するだけではだめだ。新味を出さなければ魅力を失う。与野党の枠組みを超えて、永田町(既存の政治体制)そのものを撃つ、高次の新しいアプローチをしないと、絶望する45%の人たちに届かない」
「国家主義、ナショナリズムの台頭に手が付けられない事態になる前に、野党共闘の側が『国をどう守り、立て直すか』を先に提起し、主導権を握ることも重要だ。安全保障についても、地球の気候危機についても、厚みを持った政策を訴え、今後、米国や中国とどう付き合うのかも明らかにする。代案を示して有権者に浸透させることが欠かせない。新潟の体験から大切と思うのは、人間関係の網の目を密に作り上げる地道な努力。それがリアルな力を生む」
聞き手・須貝道雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号
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2021年12月28日

【総選挙報道・新聞】軒並み外れ情勢調査 建設的・批判的な政策論を=徳山義雄

                             
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 大方の予想に反する衆院選結果を受けて、自民党の岸田文雄氏が特別国会で第101代首相に選出された。衆院選で自民が絶対的安定多数を確保し圧勝、立憲民主党が公示前よりも議席を減らして惨敗。枝野幸男代表は引責辞任した。
 菅義偉前政権の新型コロナウイルス対策などをめぐる相次ぐ失態、岸田内閣発足当初からの支持率低迷を考えると、意外な結果だった。だが、投票率が55・93%と戦後3番目の低さも相まって、民意は変化よりも現状維持を選択した。
 岸田首相の次の正念場は、来夏の参院選だ。過半数に達しなければ過酷な「ねじれ国会」となり、勝利すれば安倍晋三元首相に次ぐ「独裁的」な権力を手にできる。

世論調査方法
見直す時期に


 衆院選の報道各社の選挙情勢調査をみると、野党が優勢で自民は過半数割れの可能性さえあった。しかし、蓋を開けると調査結果は軒並みはずれ、自民は15議席減らしたものの国会を安定的に運営できる絶対的安定多数を獲得、立憲は大幅増が見込まれていたが、14議席減らすというどんでん返しがあった。共産党と手を組んだ野党共闘が裏目にでたのか。
 小選挙区では自民の甘利明幹事長(比例復活)が落選し、常勝の石原伸晃元幹事長も落ちた。立憲は政界大物の小沢一郎氏(比例復活)や辻元清美氏が敗れた。一方、日本維新の会が大阪15選挙区のすべてを制し、約4倍の41議席を得て、自民、立憲に次ぐ第3党に躍りでた。
 報道各社は自前の情勢調査を1面トップや準トップでセンセーショナルに扱うことが通例になっている。だが、的外れの世論調査を大々的に報じることは、いくら予想であっても「誤報」ではないか。投票前の有権者をミスリードしかねない。私は不確かな情勢調査を大きく報じることに懐疑的で、選挙報道の欠陥と考えてきた。今回の選挙では、まさに不正確な情報を有権者に提供するという失態を演じた。
 調査はコンピューターで不作為に抽出した番号に調査員が電話(固定と携帯)をかけ、得たデータをもとにされる。だが、知らない番号からかかってきた電話に応答しない人が近年増えており、妥当なデータに行き着くのか疑問だ。
 併せてインターネット調査もされるが、委託された調査会社の不正問題も発覚している。報道各社はなぜ、はずれたのか、検証し報じるとともに、調査方法を見直す必要があろう。

選挙の勝敗を
伝える報道に


 岸田首相は自民党総裁選で打ち上げた金融所得課税の強化や健康危機管理庁の創設を公約に盛り込まず、ぶれた印象を与えることになった。先にあった総裁選に比べ、衆院選報道は新聞、放送ともに「低調」で、劇場型といわれる報道もみられなかった。一方、たとえば毎日新聞の「政策を問う」や「経済政策を問う」、読売新聞の「政策分析」など、有権者に判断材料を示す各社の政策報道は充実していた。
 これは皮肉な見方をすれば、岸田首相が、政策が生煮えのまま奇襲ともいえる選挙を仕掛けたことで、突っ込みどころが多くあったということでもあろう。ふだんから、耳目を引きやすい政局報道だけでなく、成熟した地道な政策報道に力をいれる契機としたい。
 選挙結果を伝える11月1日朝刊をみると、朝日新聞は「自民伸びず 過半数維持」、毎日新聞は「自公堅調 絶対多数」という主見出しを1面に取った。毎日の見出しに違和感はないが、朝日の「自民党伸びず……」という現状認識に疑問をもたずにはいられない。
 岸田氏は情勢調査などから一時、惨敗を覚悟し、枝野氏は勝利を確信したと思われる。「現有議席を割るとは夢にも思っていなかった」という立憲の福山哲朗幹事長の言葉からも察しはつく。しかし、結果は自民が絶対的安定多数を手中にするという、くっきりとした明暗があった。自民は予想以上に伸び、「圧勝」したのである。
 読売新聞は1面の脇見出しで「立民惨敗」と取っていたが、在京紙をみるかぎり「自民勝利」という見出しも記事もみられなかった。衆院選は政権選択選挙であり、正確な現状把握のために勝ち負けをきちんと告げる必要性があろう。

首相はぶれず
野党は再編を


 かくして岸田氏は選挙に勝った。しかし、安倍氏ら党重鎮の顔色をみて政策や態度を朝令暮改しており、ひ弱さが目立つ。
 池田勇人元首相が創始者である出身母体の宏池会の、憲法を尊重する考え方や弱者救済を優先する経済政策とは相容れない発言をしている。派閥先輩の「所得倍増」計画を単にスローガンにし、旗色が悪くなると引っ込めるという態度はとらずに、岸田氏は右に大きく振れた政治を中道に戻していくべきだ。
 立憲は再建、野党は再編を進めることになろう。政治報道はこういう時だからこそ、建設的で批判的な政策論を国民に届けたい。
  徳山喜雄
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号

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2021年12月25日

【総選挙報道・放送】総裁選より軽く扱う 政権総括も政策検討も不十分=今井潤

 今回の総選挙についてテレビは、公職選挙法の縛りを必要以上に意識した報道に終始した。
朝日は10月29日「衆院選控えめなテレビ、総裁選より放送短く」と伝えた。その中で、自民党総裁選と衆院選の放送時間を比較した。NHKと在京5社の総裁選告示と衆院選公示の日とその前後二日ずつを比べると、総裁選は29時間55分だったのに対し、衆院選は25時間52分だった。衆院選の方が4時間短かった。テーマを自由に取り上げ易い情報番組などでは総裁選が14時間31分に対し衆院選が8時間25分と差が広がった。「放送を語る会」が行った衆院選のテレビ報道モニターにも選挙報道が不十分だったという報告が届いている。放送時間が足りない

 放送時間足りず
 10月14日衆議院解散当日のNHK「ニュースウオッチ9」は、解散を21分間放送したが、安倍・菅政権の総括をする選挙だという位置づけをせず、野党の政策も説明不足だった。街頭インタビューでは「政治家のための日本でなく、国民全体の日本にしてほしい」と政権に批判的な声を放送したのが目立つ位だった。
 TBS「NEWS23」は10月26日、「同性婚」の問題を取り上げ、星コメンテーターが「選挙で争点になるのは初めて」と指摘。「自分らしく生きていける社会を望む」と街の声を伝えた。同番組は27日も、野党共闘の象徴区である東京5区を取り上げたが、候補者の政策や有権者の
声をもっと時間をかけて報道すべきだ、野党共闘の意義を分析すべきだとの批判が寄せられた。核心衝く学生の感覚

 核心を衝く感覚
 テレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」は10月26日、スタジオに憲法学者の木村草太氏と慶応大学の女子学生を招き、「衆院選争点第5弾」と銘打って、憲法をテーマに掘り下げた。北朝鮮のミサイル発射に対し、敵基地攻撃能力保有は9条との関連で自衛のために許されるのか
を巡って、パネルを使い議論した。羽鳥キャスターが9条の条文を読み上げて、主権国家としては自衛権は認められていると指摘。木村氏は「日本への攻撃の意図がない国を攻撃することは違憲だ」と述べた。慶応大学の学生が「そもそも相手の国と仲良くしよういうゴールをめざして論じることが基本だ」と発言。これを受けてコメンテーターの玉川徹氏は「どうしたら仲良くなれるかというのがゴール。それが平和を願う9条だ」とコメントした。若い人の感覚は極めてシンプルな物言いだが、核心を衝く発言だった。衆院選の争点報道に努力するスタッフの意気込みが伝わってくる番組内容になっている。

 ネット積極報道
  テレビ基幹ニュースの選挙報道が低調な中で、放送法の縛りを受けないネット番組の情報発信が目を惹いた。望月衣塑子・東京新聞記者らが出演する「デモクラシータイムス」、作家の本間龍氏らが出演する「一月万冊」など、多数のユーチューブ番組が情報を連日提供した。
 「毛ば部とる子」という番組はドイツに住む日本の女性ライターが日本政治についてリポートする番組で、維新の躍進について2日、以下のように伝えた。
  議席を4倍化した維新の集票力はどこにあるのか。「維新は大阪市議会、府議会に多数の議員がおり、その議員に一日600本の支持拡大の電話をかけるノルマを課している」とリポート。「維新という政党は風頼みと言うのは間違いで、実態は公明や共産より組織的な活動をする政党だ」と警戒するよう呼びかけた。
 ネット報道への注目度は、来夏の参院選に向けさらに高まりそうだ。
今井潤(放送を語る会)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号
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2021年12月17日

総選挙SNS発信が力「ヤシノミ作戦」など大きな反響=鈴木賀津彦

                           
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ネット上では今回、ユーチューブの番組などで各党の公約の比較や政策を問う市民団体などの動きが活発になり、当事者からの訴えが急速に広がった。候補の選挙戦にも映像がSNSなどで飛び交い変化が見られたが、市民発の発信が各党を動かすほどの力を持ち始めた選挙になったと言えそうだ。有権者側が動画を使って共感を呼び、コミュニケーションを広げたことで、一部とはいえ成果を上げていることに注目したい。
 コロナ禍でのリモートワークなどでオンライン会議が当たり前になり、ネットの動画が日常になる中での選挙戦。芸能人がSNSで投票を呼び掛ける活動なども話題になったが、選択的夫婦別姓問題では当事者たちからの「落選運動」が起こるなど盛り上がりを見せた。
 共感を呼んだのが「ヤシノミ作戦」と名付けた落選運動で、呼び掛けたのはサイボウズ社長の青野慶久さんら。当事者として訴訟を起こしている青野さんは「選択的夫婦別姓や同性婚など社会の多様性を進めようとしない政治家をヤシの実のように落とそう」とネットで呼び掛けた。与野党の248人をリストアップ、「当選させてはいけない候補者以外に投票しよう」と訴えた。
選挙戦の終盤では、「ヤシノミTV」という討論番組もネット配信し話題に。この取り組みはマスメディアでも取り上げられ、政策を問う他の市民団体のネット番組などからも青野さんへの出演要請が相次ぐなど連携も広がり、選挙結果に一定の影響を与えたようだ。
結果は、同作戦のサイトで「落としたヤシノミ(落選)は84個。落ちたのに復活した(比例復活)のは42個、まったく落ちなかった(当選)のは122個です」と報告している。

 この作戦が、選挙の当落にどれほど影響を与えたのかは見えにくいが、分かりやすいのが最高裁判所裁判官の「国民審査」だ。11人全員が新任されたものの、不信任率が高かったのは、6月の判決で夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定を「合憲」と判断した4人。他の7人が6%台なのに、最も高かった深山卓也は7・9%、次いで林道晴7・7%、岡村和美と長嶺安政が7・3%だった。ヤシノミ作戦のほかネット上では、この4人に「×」を付けるよう呼びかける運動が広がっていた。ツイッターなどでも、4人の名前から「長岡村の林は深い」と覚えて×をつけようと運動化した結果が、7%超となったわけだ。(一方で、選択的夫婦別姓に反対する人たちからは「『違憲』の裁判官に×を」というネットのキャンペーンもあった)
 これを不信任率が1ポイントほど高くなっただけだと過小評価はできないだろう。形骸化が言われてきた国民審査で大きな変化を起こしたのだ。7月の東京都議選でも、選択的夫婦別姓や同性婚に反対する候補が何人も落選したが、今回の衆院選では「多様性」の流れに対応しない議員に対するインパクトのある働きかけとなった。ヤシノミ作戦のウェブサイトには、これまでの番組などが残され、落ちなかった議員たちも無視することができない存在になっており、今後の国会論戦を変えていく起爆剤となったと受け止めている。
 この問題だけでなく、障害者団体などが当事者視点で公開質問状を各党に出して見解を聞き、生活保護や人権問題など個別の政策を問うウェブサイトをつくって、発信していく取り組みなども増えた。
 テレビなどの既存マスメディアが選挙期間中になると、各候補を「公平」に扱うために踏み込んだ政策議論をさけている現状の中で、小さな市民団体や個人であっても、自らの関心ごとを各党・各候補者に問い、ネットで発信していく動きはさらに加速していきそうだ。
 鈴木賀津彦
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号
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2020年07月01日

沖縄県知事選 議会運営 綱渡り 新基地NO過半数確保 いつまで続く政権の民意無視=米倉外昭

開票結果を選挙事務所で待つ翁長雄治.JPG
6月7日に投開票が行われた沖縄県議会議員選挙(48議席)は、玉城デニー知事の与党が、改選前から1議席減らしたものの過半数の25議席を確保した。辺野古新基地に反対する県政を支持する民意が改めて示された。
薄氷の過半数
ある全国紙は10人を超える記者を送り込んだという。なぜ全国的に注目されるのか。
県議会で与党が多数を維持するかどうかは、政府と対立を続ける県政の動向を左右し、2年後の県知事選に直結する。そして、日米同盟の在り方に影響するからである。結果は、「薄氷の過半数」だった。
自民党は今回、初めて新基地容認を明確にした。さらにコロナ対策などへの政府批判が逆風になると見られていた。また、中立・非与党の公明党がコロナ禍を理由に現有4議席から公認を2議席に減らした。
しかし結果は、自民が議席を14から17に増やした一方で、与党は社会大衆党委員長など重鎮が議席を失った。議席を増やせなかったことに、与党陣営から「事実上の敗北」との声も漏れた。
ただ、辺野古新基地反対を表明している議員は非与党も加えて29人おり、全体の6割を占める。新基地反対の沖縄の民意は変わっていない(人数はメディアによって若干異なる。琉球新報報道にもとづいた)。
翌日の会見で菅儀偉官房長官は、自民が議席を増やしたことを問われ「(辺野古について)かなり理解が進んでいるのではないか」と発言。既定方針通りとして、選挙から5日後の12日、約2カ月ぶりに埋め立て工事を再開した。玉城知事は「民意は明確だ。大変遺憾」と反発した。
コロナ禍で運動が制約されたことから、投票率低下が心配されていた。投開票日が大雨だったこともあり、初めて5割を切る46・96%だった。痛恨の数字である。
揺れるオール沖縄
これからどうなるか。玉城県政と政府の、司法の場も含めた闘いはさらにし烈さを増すだろう。県政にとって綱渡りの議会運営となり、基地問題での対政府訴訟や訪米活動などに支障が出かねない。
翁長雄志前知事が「イデオロギーよりアイデンティティー」を合言葉に作り上げた「オール沖縄」は、各勢力の足並みの乱れが目立っている。知事選に向けて体制構築が急務だ。
投票率の低下は、政治に対する無力感、あきらめの反映でもある。これは、政治家だけでなく市民運動やマスコミの課題でもあろう。
しかし、沖縄に無力感やあきらめが広がっているとしたら、それはなぜだろうか。長年にわたり何度も意思を示してきたのに、無視され続けるからではないか。そして、なおも選択を迫られ続ける。そんな地域がこの国にほかにあるだろうか。
 沖縄は保革対立の構図の下では「基地か経済かが争点」とされてきた。それが翁長前知事以後は、ヤマトとの「対立か協調か」=「自立か従属か」に変わった。「ヤマト」とは日本政府にとどまらない、日本人一人ひとりの意味でもある。沖縄の選挙は、自分や身近な政治、政府の在り方を問う映し鏡であると、日本の全ての人々が考えるべきだろう。
米倉外昭(JCJ沖縄世話人)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号

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