2020年12月08日

【20年度JCJ賞受賞者スピーチ】 公文書改ざん 取材相手とのせめぎ合い 相澤冬樹さん

 赤木雅子さんとわたしが、取材される側の人と取材する側の人間が受賞したことは感慨深い。
取材する側と取材される側の考えは決して一致しません。取材する側はなにかに知りたい、出したいと思っている。取材される側は知られたくない、出されたくない。出したい側と出したくない側は、実は永遠に交わらなかったりする。 
 その時に取材する側が、説得しようとするとたいがい失敗します。そんなことで人の心は動かない。
待つのも大切なのは行動の一つ。相手の人の気持ちがいつか変わるのではないか。自分が変えるのではなく、相手の人が自分で変える。それを待つことができるかどうか。
  わたしと赤木さんの間には1年4か月、せめぎあいがあって、今年の3月の「週刊文春」での手記全文公表という記事につながった。わたしは赤木さんを何も説得せず待っただけです。
 待った結果、手記が全部表に出て、後は全て利害が一致して協力関係になるかというと、そんなことはない。せめぎあいはいまだに続いている。
 つい昨日もある原稿を赤木さんに見せた。それは3月2日に朝日新聞が改ざんの記事を出した後、当時NHKにいた私やNHKの記者がどのように取材したかという部分を描いている原稿です。その原稿をみせたところ、「ここには夫の姿がありませんね。わたしや夫にとっては遠い世界の話に聞こえます」といわれる。
 赤木さんが亡くなったという事実は書いていますが、赤木俊夫さんの人となりの部分がほとんど欠落していた。取材している自分たちの目線になって、取材されている人に目線がいっていない。この期に及んでとまだそれに気が付かない自分がいる。
 でもせめぎあうのは悪いことではない。
悪いのは、関係が断ち切れることです。一切のやりとり、関係性が無くなると話がならなくなる。せめぎあっているうちはお互いに相手が何を考えているのかがわかるし、また話が進行する。
 多分、せめぎあったまま裁判にすすみ、裁判が終わっても関係性は変わらない。わたしは初任地が山口でしたが、そこでできた人間関係はいまだに生きている。
ちゃんとつながった人は永遠につながっていきます。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年10月25日号

 赤木雅子さんからのメッセージ
 手記を公表したいと思った時、信頼できる記者に出会えるかが重要です。
 わたしは運がついていました。相澤さんに出会うことができました。
 その上、相澤さんには「週刊文春」がついてきました。
 私は運がついています。長い裁判もうまくいく気がします。 
赤木雅子

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2020年12月05日

【20年度JCJ賞受賞者スピーチ】 孤塁 双葉郡消防士たちの3・11 「守る人」が守られない 吉田千亜さん=古川英一 

吉田さんは、壇上に上がると「話すのが苦手だから書く側に、書くことなら思いが伝えられます」と、はにかんだような表情で話を始めた。「双葉郡の消防士のことを書こうと思ったのは、原発避難の問題の取材で、初期被ばくのデータを双葉消防本部に聞きに行った時、対応してもらった職員の方が、自分の体験を話されたことでした。それがとても壮絶な話で、さらに『みんなの話を聞いてもいいよ』と言って下さったのがきっかけになりました。
2週間に一度、郡山市を起点に双葉消防本部のある浜通りまで山を越えて片道2時間の道を、約1年間通いました。原発事故当時、消防書に勤務していた半数は退職していましたが、66人の方々から話を聞きくことができました」「66人、一人一人の状況は違います。今は北海道に避難して暮らす家族の元にフェリーで通う署員もいます。震災と原発事故の後、問題を克服したり、さらに抱える問題が大きくなったり、いろいろな考え方の人がいます。ですから自分の意見ではなく事実を淡々と書くように努めました。
当時の話を聞くたびに今でも鳥肌が立ちます。福島からの電気を使ってきた関東の人間として加害意識を持ちながら、それでも本を書くこと自体おこがましいという気持ちを持ち続けてきました」「この本で一番伝えたかったことは、消防士が『もっと守られてほしかった』ということです。あの時、消防士たちは自分の命もわからない中で決断をしなければならなかったのです。
そして原発の立地する地域の消防士の方々に、この本を読んで欲しいと思います。地域を守る人が、どれだけ守られていないのか、を」続いて、吉田さんは少し表情を和らげて「一番嬉しかったのは、『父はこれまで事故後の活動を話すことがなかった。その父がこの本を渡してくれた、今度父に会いに行こうと思います』と消防士の息子さんから感想をいただいたことです」と話した。
 吉田さんは最後に「人の言葉、人のことを伝えたい。今ある問題をきっかけにして、次の世代につなげていきたいです。消防士の子どもさん、そしてお孫さんに伝えるように」と決意を述べた。静かだけれども、会場の人たちに力強く響く言葉だった。
古川英一
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年10月25日号
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2020年11月28日

【20年度JCJ賞受賞者スピーチ】 JCJ大賞「桜」スクープ 独自の視点 最大の武器 しんぶん赤旗日曜版編集長・山本豊彦さん 

 赤旗日曜版の報道の核心は、桜を見る会を安倍晋三前首相による国政の私物化であり、これを重大疑惑として告発したことです。これまで政治家をめぐる疑惑の多くは密室の中で起きていた。
 ところが桜を見る会は、首相主催の公的行事として新宿御苑で開かれ、大手メディアが取材している。(現場に行っていないのに)なぜスクープできたのかについて、JCJ大賞の受賞が決まった時、ご飯論法≠ナ有名な法政大の上西充子教授からコメントをいただきました。
「この問題を安倍政権による私物化だととらえ、報じるべきだと考えたことです。この着眼点が評価された」。問題をどう見るかという視点とか着眼点を大事にしている。これが最大の武器です。
 取材で重視したのはインターネット上のブログやフェイスブックといった公開情報の活用です。
桜を見る会関連で情報公開請求しても、ほとんど情報が得られず、「どうしようか」と悩んだ記者は、ネット上で桜を見る会に参加したという書き込みに注目した。安倍後援会の年中行事だと思っているようなので、皆さん悪気がなく、「今年も行きました」と書き残している。ある山口県議は「安倍首相には長く政権を続けてもらい、桜を見る会に下関の皆さんを招いていただきたいと思い新宿御苑をあとにしました」とブログに書いていた。
 これは安倍後援会旅行≠セと確信したが、安倍事務所がどう関与しているか裏付けが必要です。安倍氏の地元・山口県下関市で自民党支持者や保守の人が赤旗の取材に応じてくれたのは理由がある。地方議員や共産党支部の人たちは、時には保守の方たちと一緒に活動をしている。そういう方に紹介を受け、相手から信頼を得て真実を明らかにする勇気ある証言をもらえた。
 しかし、日曜版がスクープしてもどこのメディアも追いかけてきませんでした。桜を見る会を国政の大問題に押し上げたのは、ネット上の市民の世論と、国会で野党が一緒になって追及したからです。
 菅義偉首相は桜を見る会は来年から中止と幕引きを図ろうとしている。だが、桜を見る会の私物化は国政を歪めた重大問題です。私たちはこれからも権力を監視する立場で、しつこく追及を続けていく。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年10月25日号
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